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1950-04-14 第7回国会 衆議院 法務委員会 第28号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年四月十四日(金曜日)     午前十時五十八分開議  出席委員    委員長 花村 四郎君    理事 押谷 富三君 理事 北川 定務君    理事 田嶋 好文君 理事 山口 好一君       佐瀬 昌三君    松木  弘君       眞鍋  勝君    武藤 嘉一君       田万 廣文君    大西 正男君       加藤  充君    世耕 弘一君  委員外出席者         参  考  人         (経済団体連合         会常務理事)  堀越 禎三君         参  考  人         (東京商工会議         所常務理事)  吉阪 俊藏君         参  考  人         (中央大学教         授)      野津  務君         参  考  人         (日本弁護士連         合会所属弁護         士)      藤林 益三君         参  考  人         (会社顧問、弁         護士)     松尾 實友君         参  考  人         (明治大学教         授)      松岡熊三郎君         参  考  人         (全日本金属労         働組合副委員         長)      林  武雄君         参  考  人         (東京高等裁判         所判事)    柳川 昌勝君         参  考  人         (朝日新聞調査         研究室附)   近藤  貢君         参  考  人         (日本公認会計         士協会会長) 名武 正一君         專  門  員 村  教三君         專  門  員 小木 貞一君     ————————————— 本日の会議に付した事件  商法の一部を改正する法律案内閣提出第六四  号)     —————————————
  2. 花村四郎

    花村委員長 これより会議を開きます。  本日は商法の一部を改正する法律案について、参考人より意見を聴取いたしたいと存じます。本日御出席参考人の御氏名を申し上げますと、日本公認会計士協会会長、名武正一君。会社法律顧問弁護士松尾實友君。日本弁護士連合会弁護士藤林益三君。経済団体連合会常務理事堀越禎三君。東京商工会議所常務理事吉阪俊藏君。中央大学教授野津務君。朝日新聞調査研究室附近藤貢君。日本鋼管労組委員長林武雄君。東京高等裁判所判事柳川昌勝君の九名であります。  参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。本日は御多用中のところわざわざ本委員会のために御出席くださいましたことを厚くお礼申し上げます。申すまでもなく本法案は、わが国法制史上画期的な改正法案であり、その国民経済に及ぼす影響大なるものがあると思います。本日はわずかな時間ではありますが、参考人方々におかれては、おのおのその立場より忌憚のない御意見を承ることができれば幸いと存じます。念のために御意見発表順序を申し上げますと、堀越禎三君、吉阪俊藏君、野津務君、藤林益三君、松尾實友君、林武雄君、柳川昌勝君、近藤貢君、名武正一君の順序でお願いいたします。なお御意見発表は、発言台においてお願いいたすこととし、まず御姓名、御職業をお述べいただきたいと存じます。それではこれより、参考人より商法の一部を改正する法律案について、御意見をお述べ願います。まず堀越禎三君よりお願いいたします。
  3. 堀越禎三

    堀越参考人 堀越禎三でございます。経済団体連合会常務理事で、事務局長を兼任いたしております。  経済団体連合会といたしましては、当初の法律案要綱に対しまして、大体重要なるポイント十六項目につきまして意見書を提出いたしておきましたが、大体いずれも全面的に、または一部分でも、ほとんどわれわれの意図いたしますところは大部分採用願つて今日の法律案になつておりますことを、まずここに感謝いたしておく次第であります。残りましたのは、おもなるものといたしまして、三点でございますので、この三つの点につきまして、今日御参考までにわれわれの意見を申し上げたいと存じます。  第一は、法律案要綱第三十三にございます発起人及び取締役に対する責任追及訴えであります。改正法律案といたしましては二百六十七條、また二百七十二條に関するものでありますが、これは一株主発起人及び取締役責任に対して訴えを起すことができるようになつているのであります。株主権利保護という点におきましてわれわれとしては、その理由に対しては申すべき点はないのでありますが、現在におきまして一株主訴えを認めるということになりますと、ほんとうに会社の育成ということを考えていない人たちも、自由に訴えを提起することができる。しかも改正法におきましては担保提供を要しないことになつております。従つて惡意ある一株主のために、常に会社の重役は応訴にいとまがないということになる危険があるのであります。  これば次に申し上げます点とともに同様の理由でありますので、便宜もう一点……これは法律要綱第十九にございます、営業譲渡または合併反対する株主株式買取請求権、つまり営業譲渡反対した株主は、自分の持つている株式会社に買わせることができる。しかもそれは適当なる価格ということになつております。これらもためにする者を非常に厚く保護したということになる危険があるのであります。つまり買取請求に応ずるためには、ここに適正価格をきめなければならないのでありますが、適正価格はなかなか協定がむずかしいと思うのであります。従いまして会社はやむを得ず買取請求に応じ、自分の株を買取らなければならない立場に立つと思うのでありまして、この点におきましては、やはり株主権保護が少し厚きに過ぎていやしないかという懸念があるのであります。ことに累積投票または株式閲覧権、これにつきましては、今度の商法におきましては閲覧権株式数の十分の一の株主、それから累積投票の方は四分の一の株主、いずれも会社営業に対して特に利害の深い人たちが、そういう特権を持つことに改正案においてはできているのでありますが、それとの関連から申しましても、一株主権限をあまりに強く保護しておりまするこの二つは、特に矛盾を感ずる次第であります。  最後に第三点といたしまして、これは特に皆様の御考慮をお願いいたしたいと存ずる次第でありますが、これはごく経過的な問題ではございますが、株主総会特別決議の件でございます。これは要綱の五十八、法律案では三百四十三條でございますが、この特別決議が、改正案においては議決権の三分の二以上で、発行済株式総数過半数、こういうことになつております。これは現行法においては、総株主過半数にして、資本の半額以上にあたる株主出席して、議決権過半数をもつて議決することになつておりますものから見ると、非常に改善されているのでありまして、まことにけつこうだと存ずるのでありますが、ただいま現行法が、昨年の暮れまでは会社法臨時措置法によりまして、総会招集通知を広告でかえることができ、また株式数の半分が出席して、過半数議決でよろしいということになつておりました。この臨時措置法が昨年末において失効いたしました。従いまして現在最も嚴重な現行法によらなければ会社特別決議ができないという現状になつております。しかも終戦後におきましては、株式民主化によりまして株主数が非常に多数にふえておりまして、総株主過半数、すなわち頭数の過半数出席を要求いたしますような場合には、はなはだしい場合には、某会社のごときは一箇月間ほとんど社員が各株主を訪問して、委任状をとつて歩いているというようなことをしなければ不可能な状態でございます。従いましてわれわれといたしましては、臨時措置の特例の法律を出していただきたいとお願いいたしおつたのでありますが、これが非常にむずかしいようでございましたならば、この法律の附則に何らかの経過的措置をお加え願いまして、これをただちに実施する。あるいは改正商法特別決議に関する條文のみをただちに実施することにしていただきたいのであります。もう一つ慾を申しますならば、改正案のこの特別決議でございますが、これは出席した議決権の三分の二以上で、発行済株式総数過半数、こういうことになつております。発行済株式総数過半数はいいのでありますが、三分の二ということになりますと、三分の一の株数を持つている人が反対をいたしております場合には、株式の約八割に及ぶ出席を求めなければ決議ができない。従つて決議で行かなければならないということになりますので、私はむしろこれをうらはらに、逆にしていただいて、議決権過半数発行済株式総数は三分の二ということになれば、よほど手続が楽になるように存ずるのであります。そういうふうにしていただいて、ただちにこの分のみを実施するということにしていただくことも一つ手段であると存じております。この点は特にただいま多数の会社株主総会を目前に控えて、非常に難渋しております点でありますので、特に御考慮をお願いしたいと思います。
  4. 花村四郎

    花村委員長 次に吉阪俊藏君にお願いをいたします。
  5. 吉阪俊藏

    吉阪参考人 私は東京商工会議所常務理事吉阪俊藏であります。東京商工会議所といたしましては、昨年の八月商法改正案要綱が発表いたされましたときに、これに対しましてすでに意見を具申したのでありますが、幸いにしてその多数のものが修正案要綱の方にいれられましたことにつきましては、感謝をいたしておる次第でございます。しかしながらなおさらに数点について強く改正を希望いたしておりますので、この公述の機会を与えられましたことに対して、厚く御礼を申し上げる次第であります。  大体論といたしましては、今回の商法改正案というものは、その機を得たるものと存じます。改正案授権資本及び無額面株式制度採用することになつたのでありますが、この二つ制度は、わが国経済界の一部では、早くから要望せられておつたわけであります。特に終戦経済民主化が行われ、また企業再建のために多数の株式が発行せられ、特に英米方面から外資導入を円滑にしなければならないという当面の必要からいたしまして、経済界においては双手をあげて賛意を表しておる次第でございます。ただ問題となりますことは、この二つ制度採用によりまして取締役権限が従前よりもはなはだしく拡大されることになります。これに照応いたしまして当然講じられなければならない、いわゆる株主保護ないし地位の強化措置をどの程度にすることがわが国株式会社現状に照して妥当かということでございます。もう一つは新商法規定にあたりましても、これがわが国経済現実相から遊離したものであつてはならない。英米法の長所を採用し、民主化を進めますにつきましても、日本現状なり、また社会事情なり、これに即して適応するものでなければならないと思うのであります。それで問題となり、また改正を希望いたしております点を申し上げたいのであります。  第一は株主会社帳簿及び書類閲覧権を認める條項、すなわち修正要綱の三十でございますが、この條項を削除していただきたいのであります。もし削除せないということでありますならば、少くとも事前に具体的な理由を付して請求することを要する、そうしてまた書類の種類にいたしましても、必要なる会社書類及び帳簿に限る、こういうような制限を付していただきたいということでございます。その理由といたしましては、株式会社制度では、株主業務執行取締役に委任していると考えるべきものであり、取締役の不正につきましては、会計監査制度によつて監査するのが本来の筋道であると考えるのであります。個々株主会計帳簿閲覧権を認めましても、それがはたしてどれだけの実効を納め得るかということは疑わしいのであります。むしろかえつて一部株主に濫用される、こういうことによつて会社企業運営をそこなう危険が多いのではないか。従つて修正要綱がこの閲覧権を認める株主発行済株式総数の十分の一以上を有する株主のみに限つたことは、一大改善を意味するのであります。それにいたしましても、こういう権利を認めまするときに、会社といたしましては数多い帳簿書類のうちから、所要の書類を探し出さなければならないのでありまして、煩雑にたえないのみならず、さらにそれが現在使用中の書類ででもございますると、一時仕事を中止いたしまして閲覧させなければならないのであります。会社の正常な業務がこれによつて著しく妨害されることになるのであります。要綱株主権利行使権利の濫用になる、あるいはその他一定の事由にあたる場合においては拒否することができるように定めてあるのでありますけれども、具体的な権利行使が、はたしてこういうような事由に該当するかどうか、そういう判定はやはりすこぶる困難でありますので、いたずらに会社株主との間に訴訟事件を頻発せしめる、こういうようなごたごたを起させるということにすぎないと思われるのであります。かりに一歩讓りまして、これを認める場合におきましても、閲覧権の不当な行使というものを制限するためには、少くとも発行済株式総数の十分の一以上にあたる株式を有する株主が、事前に具体的な理由をつけまして請求した場合に、そのために必要な会社帳簿及び書類だけについてこれを閲覧し、あるいは謄写することができる。こういうようにする必要があると思うのであります。  次は修正要綱の第四及び第五十八の規定に関することでありますが、創立総会及び株主総会特別決議決議要件につきまして、発行済株式総数過半数にあたる株主出席し、その議決権の三分の二以上で決するというようなことに改めていただきたいのであります。と申しますのは、株主会社業務運営に対する関心を高めるということは、ただ決議定足数あるいは決議要件嚴格にするということによつて効果の上ることではございません。他方において株式の分布が今日非常に広くなつておるのであります。決議要件をまたあまり嚴格にすると、決議をすることが不能になるおそれがございます。そこで決議要件を満たすために必要な株主出席を確保しますには、従来の招集費用の十数倍の経費なり時間なりを要するというようなことになり、浪費が非常にたいへんなことになるのでございます。それで要綱は仮決議制度を認めておられるのでありますが、それは総会を再招集するという二重の手続と、また経費を重ねるというようなことになり、時日の遷延によつて受ける不利益も大きいのであります。これらの不当を救済する手段とはなり得ないでしよう。従つて発行済株式過半数特別決議決議要件とすることは酷に過ぎますから、これをたかだか定足数にとどめたいというのでございます。  第三は修正要綱の第七に関することでございますが、定款による株式讓渡制限禁止する條項を削つていただきたいのであります。これはごく小規模の同族的の株式会社で全面的に株式讓渡禁止しておる場合と、一部少数株主、たとえば十株未満の保有を禁止しておる場合とございます。定款によります株式讓渡制限規定は、小さな同族的の会社では人的関係を強固にするために必要なものであるわけであります。こういう場合には有限会社制度を利用したらよいじやないかという御議論があるかもしれませんが、日本の現在の経済界実情におきましては、有限会社よりも株式会社の方が社会的信用度が高いために、たとえ條件がいろいろきびしくございましても、株式会社制度をあえて利用するというような事態になつておるわけでございます。もしこの会社が大きくなりまして、社会性大衆性を持つようになれば、自然讓渡制限規定はなくなつて来るのでありますし、またその場合に換価を必要とする株主のために株式買取権を認めてもよいのじやないかと思うのでありますが、讓渡制限禁止を全面的にする必要はないのじやないか、こういうわけであります。またこの十株未満のような少数株主のこれも禁止ということになるのでございましようが、これは端株の処理に手数なりあるいは経費がいることであり、さればといつて株式の併合によつて株式の単価を高めるというようなことは、またそのために費用を要することでもあるのであります。そういうようなことで、株式讓渡制限禁止ということはやめていただきたい。  それから第四は、修正要綱の第三十八に関連いたすことでありますが、現物出資に関して裁判所の選任する検査役による現行検査制度を廃止いたしまして、これにかえて裁判所の指定する鑑定人評価をもつてしていただきたいということでございます。今日はこの検査制度鑑定人制度二つが併用されておるのであります。鑑定人の方法によることはまだ制度化されてはおらないのであります。しかしながらそのためにいろいろ時間あるいは費用がかかつておるのでありますが、鑑定人制度をひとつ制度化させて、たとえば裁判所に専門の鑑定人の登録をし、そのリストをつくつてこれを利用するというようなことにしていただければ非常に便利じやないかと思うのであります。  次に修正要綱の十九及び六十三に関することでございますが、この点はただいま堀越さんもお話になりましたいわゆる合併または営業讓渡の場合における株式買取請求権條項を削除していただきたいということであります。これはただいまも御指摘になりましたように、評価が問題でございまして、当事者間に紛糾を起すおそれがございます。またこの買取請求権が行われる場合を想像いたしますと、合併または営業讓渡によつて株価が低落したというような場合が多いと思われるのであります。こういう場合に、会社はすでに株価の下落したその株式を相当な価格で買い取らねばならぬということになりますと、その買取価格でさらにこれを他に処分することは事実不可能になつて来るのであります。その結果どういうことになりますかというと、他の株主及び会社債権者利益を害することになります。要するにこの制度決議反対少数株主利益保護するのに急であつて会社利益ないし残りの多数の株主利益を害するものであつて、悪質の株主がこれを株式処分の口実として濫用するという場合には、その弊害ははなはだしいことになるのでありますから、これを防ぐようにしたいというのであります。  次に第六は取締役に対する責任追及訴えの提起に関することでありますが、これを個々株主権利としないで、少くとも発行済株式総数の十分の一以上を有する株主に限りたいのであります。個々株主責任追及訴えをする権利を認めるということになりますと、漠然たる主観からこれを濫用する危険が非常に多いのではないか。いわゆる会社荒しに好個の武器を提供するというようなことになりはせぬかと思うのであります。その結果取締役に対する訴訟事件が頻発いたしまして会社の正常な運営が阻害され、他の多数の株主利益が著しく害されるというようなおそれがあるのであります。  それから第七は、会社編規定する訴えについての担保提供の問題であります。今度の改正案では、株主保護のために担保はいらないということになつておるのでありますが、これは現行法通り会社法上の訴えについてやはり担保提供するということにして濫訴を防止する方がよろしいと思うのであります。これまた会社荒しの跋扈するわが国実情から見まして申し上げることであります。少くとも発行済株式総数の十分の一以上に当る株主訴える場合に限る、そういう場合には無担保でもあるいはいいかもしれませんが、その以外は現行法通り担保提供を要求し得る、こういうことにするのが妥当だと思うのであります。要するに問題は個人株主利益取締役会ないし多数の株主、また会社債権者との利益をいかに調整するかということが非常に問題であると思うのであります。この点について改正案は少しく個人株主保護に行き過ぎておるのではないか、こういうような感じを持つのであります。  最後に、会社等臨時措置法規定について堀越さんからもお話がございましたが、東京商工会議所といたしましても、この点についてはやはり本年の二月二十八日にそれぞれの向きに要望いたしておいたのでありますが、やはり現在の事情のもとにおきましては、株主総会を招集する場合に、三週間前に総会を開く、あるいは会議目的事項というようなものを公告をすることによつて通知にかえることができるというような制度は、どうしても残していただきたいと思うのであります。それからまた株主の員数が千人を越えるような株式会社につきましては、定款変更その他いわゆる商法三百四十三條の決議を要するような事項は、資本の半額以上にあたる株主出席いたしまして、その議決権の三分二以上でもつて決することができる、こういうように修正していただきたい。こういうことを希望しておる次第であります。簡単でありますが、私どもの希望するところを申し上げまして御参考にいたしました。     —————————————
  6. 花村四郎

    花村委員長 この際お諮りいたします。参考人といたしまして明治大学教授松岡熊三郎君を追加選定いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 花村四郎

    花村委員長 御異議なければさようとりはからいます。     —————————————
  8. 花村四郎

    花村委員長 ただいま公述なされた堀越禎三君及び吉阪俊藏君に対し、何か御質疑はありませんか——御質疑がなければ次に野津務君にお願いいたします。
  9. 野津務

    野津参考人 私は中央大学教授であり、かつ弁護士であります野津務でございます。  私はただいま資料をいただいたばかりでありまして、まだ十分に見ておりませんので、二、三思いつきました点を述べたいと思います。これだけの大きな改正案をつくられて、たいへんな努力をされました法務御当局の方に対しまして敬意を表します。  総論的にまず述べますが、どうも今度の法案は天くだり的につくられまして、民間からの実際の主張があつて、それから改正せられたのでないという点について、はなはだ私は遺憾な点があるのであります。後に述べます無額面株制度につきましても、アメリカにおきましては一八九二年に無額面株という制度を設けたらよかろうということが論ぜられまして、それが一九〇八年に至つてニユーヨーク弁護士会決議となつて、そういう制度を設けた方がいいということになりまして、そこで一九一二年になつて初めてニユーヨーク州の会社法改正規定せられることになつたわけでありまして、それが規定されるまでに約二十年以上の年月を経ておるわけであります。しかるに今回卒然としてこういう法案をつくられた。しかもわれわれはこの法案を論議する時間もない間に卒然これを法律にされる——されるかされないかまだわかりませんけれども、されようとしておるようなわけでありまして、あまりにこれは性急過ぎるように私は考える次第であります。  各論といたしましては、まず第一に授権資本制度でありますが、これは現在それほどの大改革をする必要があるのかという点が疑問であります。取締役に大きな権限を与えて、時宜に適する処置をさせようというのかその趣旨であろうと思いますが、一方株主立場もよく考える必要があるのでありまして、新株を発行するについて、それが株主利益になるかならないかというようなことは、やはり株主をして判断せしめる必要がありやしないか。もつとも取締役に相当の権限を与えた方がいいというような点も考えられまするので、それならばいわゆる認許資本制度をとることにしたらどうだろうか。フランスにおきましてもゾシエテ・ア・キヤピタル・ヴアリアブルというような会社がありまして、定款変更を要しないで取締役資本を増加することができるということになつておる。そういう制度もあるわけでありますが、ある程度取締役権限を与えるということは納得ができますけれども、現在の資本確定の原則からこの授権資本制度に飛躍する、その飛躍ということはあまり行き過ぎではないか。その間にまだ通過すべき段階があると思うのであります。それから会社によつて授権資本制度をとりたくないというようなのもあるだろうと思いますし、すべての会社授権資本制度によらなければならないということにしないで、現行法通りにやつて行くことができるように、並行的な規定を設けたらどうか、こう考える次第であります。強制する必要はないと思います。  それから無額面株でありますが、無額面株制度のよいところは、結局その額面額を株価が割つておるような財政の状態の悪い会社において資本を調達するという上において、多少便宜であるというだけのものでありまして財政の状態のゆたかな会社においては、かえつて額面株取締役をして私腹を肥やす材料とされるおそれがありはしないかということを考えるのであります。それから個々株主の地位を強くするために、発起人取締役責任を追及するという制度が設けられております。これにつきましては、先ほど来、お二人の方から御意見がありましたが、私も全面的に賛成であるのであります。しかし結局会社荒しに利用されるというおそれがあると思うのであります。それから株式買取り請求権、これにつきましてもやはり先ほどもお話のあつた通りであります。のみならずこの株式の買取り請求がたくさんに出て来たような場合におきましては、会社の現金がそれだけ出るわけでありますから、会社の財産状態に変更を生ずるわけでありまして、そのために営業讓渡條件であるとか、合併條件などに変更を生じなければならぬ。そのためにその営業讓渡もできなければ、合併もできないというようなことになりはしないかというおそれがあると思います。それから取締役の違法行為さしとめの請求権があるわけでありますが、会社に回復すべからざる損害を生ずるおそれがあるかないかということの認定は困難でありまして、もし仮処分で違法行為さしとめの請求をいたしますと、そのために取引ができないで、会社は商機を逸するようなことになるおそれがあると思うのであります。これもやはり会社荒しの好餌になると思います。それから百六十六條の第五項に新株引受権を定款に定めさせることになつておるわけでありますが、新株引受権を株主に、与えるか与えないかということを定款の上に書かなければならぬことになつておるわけであります。この新株引受権を与えることにしますと、違つた種類の数種の株式を発行しておるような場合に、その一方の株式だけについて新株を発行しようという場合には、他方の種類の株主利益を害することになりますし、またごく少数の新株しか発行する必要がない、そうたくさんな資本を必要とするのでない、ごくわずかな資本だけが必要であるというような場合、つまり少数の新株を発行するような場合に、この新株引受権を与えたその株主全部にそれが必ずしも行きわたらない、行きわたつてもごく端株みたようなことになるおそれがあると思います。それからまた新株引受権を与えないということに定款で定めれば、これは場合によつては、旧株主はやはりその会社の財産状態がよければ新株を引受けたいと思うのに、定款でそういう定めがあるために引受けられないというのでも困るわけなんでありまして、新株引受権を与えると定めても都合の悪い場合もあるし、それを与えないというふうに定めても都合の悪い場合があるのでありますから、この新株引受権の有無を定款に定めさせる、そして定款変更するまではのつぴきならぬ、それに従わなければならぬということにするのは妥当でないと思います。むしろそれは取締役会という制度を設けられるならば、この取締役会においてその都度新株引受権を、与えるか与えないかを定めさせる、そのときの経済状態なりあるいは会社の財産状態なりを考慮して適当に定めるようにした方がよくはないかと私は考える次第であります。  それから書類閲覧権については、先ほど来お二人のおつしやつた通りであります。そのほか整理開始の申立権であるとか、清算人の解任の申立権であるとか、特別清算の検査命令の申立権であるとか、こういうようなものについて近く申立て要件が緩和されて、現行法の約三分の一になるわけでありまして、これもやはり会社荒しに悪用されるおそれがあると思います。  次に会社の機関のことについて申し上げたいと思いますが、今度の法案によりますと、取締役権限が非常に拡張されたわけでありますが、これは聞くところによれば、金融上の專門的な技能に富んでおる人に対して自由にその手腕を振わしめたいという趣旨によるものだそうであります。そうして株主総会権限が縮小されて、監査役を廃止され、取締役に非常に自由な手腕を振わせるという構想に基くもののようであります。ところがこれは原理的に申しまして、はなはだ矛盾があると思うのであります。そういう少数取締役会社全体の運命を決するような経営方法は、これは寡頭政治的、寡頭主義であるわけでありまして、現在の民主々義の原理とどういうぐあいに調和するものであるか、その点がはなはだ私は疑問に思つております。株式会社民主化するということが必要であらうと思うのでありますが、反対にこれが寡頭政治的になるわけであります。これは原理的に非常な矛盾があると思うものであります。ナチス・ドイツにおきましては、いわゆる指導者原理に基いて取締役が指導者的な役割をやつて株主総会権限を縮小して、取締役が自由に経営上のことを決定して行くという方法をとつたわけであります。もちろんその取締役に自由に手腕を振わせるというその経営形態は、現在アメリカにおいても行われておることでありまして、取締役会というのは、これは昔から英米における制度であつたわけでありますけれども、ドイツがそれをとつたのは、やはりナチズムにその形が合致するからであります。ところがわが国におきましては会社法民主化する必要がある。その点から申しますれば、これは原理的に非常に矛盾を犯すものではないか。取締役が経営上の自由を縛られて手も足も出ないというならば、これを改めることが必要でありますけれども、現行法におきましては、取締役はそういう自由を縛られておるわけではなく、実際上非常にその勢力が強く、監査役を抑えているくらいで、株主総会といえども定時総会をときどき開くという程度であつて取締役の自由が縛られておるわけではないのでありますから、特に改正しなければならぬほどの必要はないと考えます。それから任期が二年ということになつておりますが、もし監査役を廃止することにするならば、株主総会をして取締役を監督せしめるという上から、任期をむしろ一年として、毎年取締役の信任をとるということにした方がよくはないかと考える次第であります。  それから今度は取締役会という制度を設けることになつておりますが、この取締役会の内部において、取締役相互を監督させようと——従来監査役という制度はあつたけれども、実際上監査役が無力であるという実情から監査役制度をやめて、取締役の監督は累積投票等の方法によつて少数株主利益を代表する取締役取締役の中に加えて、それによつてお互いに牽制し監督せしめ合う、こういう構想に基くもののようであります。ところがそういう言葉で説明すればはなはだもつとものように見えますけれども、実は取締役は、これは権限においても大体において同じであるわけでありますし、結局同僚であります。同僚間でお互いに牽制し監督するということは、結局取締役同士の間でけんかさせるということなりであります。別の言葉で言えば、要するに取締役をお互いにけんかさせようとする案であるのであります。現在大会社はそんなことはないかもしれませんが、大会社でもときどきはありますから、多くの中小会社におきましては、会社の乗つ取りというようなことで非常に争奮戦がある。これは実例が非常に多い。取締役取締役内部で自主勢力を得ようと思つてお互いにけんかして乗つ取り合うというようなことは、現在の制度においてすら非常に多い。これが法律になれば、小中会社においてはますますそのけんかがはなはだしくなるだろうと思います。監督だとか牽制し合うとかいうと言葉ははなはだきれいでありますけれども、事実は同僚でありますから、けんかすることなのであります。これはむしろ現在の監査役と別の機関を置いて、別の機関で業務執行機関を監督することにした方がよいではないかと思うのであります。現在監査役が無力であるというのは、監査役に十分な法律上の地位を与えておらぬからであります。これを改正しないでおいて、現在の監査役は無力であるからやめてしまえというのは、これはやはり飛躍しており、通るべき段階を通つておらぬのであります。あまりに飛躍し過ぎておるのであけます。現在の監査役が無力であるならばこれを有力にするような規定を設ければよいのであります。その規定を設けないでおいて、ただ無力である無力であると言つているのは、これははなはだおかしなものであると思います。それでは監査役はどうすれば有力になるかと申しますと、ドイツにおきましては、監査役は取締役を選任する権限を持つているのであります。でありますからドイツにおきましては監査役の地位が高い。取締役は監督されている。ところがドイツにおきましては、監査役は力が強過ぎて弊害があるというのでありますが、日本におきましては、反対に弱過ぎるというのでありますから、監査役にある権限を持たせれば——この際はある権限を持たせるということにおいてやや強い地位にしてみることがむしろ適当ではないかと思うのであります。しからば監査役にいかなる権限を持たせしむべきであるかと申しますと、取締役を選任するのについては、これは株主の意思によつた方が私はよいと思います。これは株式会社の内部を民主化するという上から申しましても、株主の意思によつて取締役を選任するということは、これはむしろ当然の要求であろうと思いますから、監査役は取締役を選任させるというのではなしに、やはり株主総会においてこれを選任するということにした方がよくはないか、そこで取締役が悪いことをした場合において、監査役がこれを解任することができる。あるいは少くとも解任の申立て権を許す解任権を監査役に与えることにしたならばどうであろうか、こう考えるのであります。ところがそうすれば、監査役がむやみに取締役を解任して困るではないか、解任権を濫用するではないかという議論も出て来ると思いますが、その濫用を防ぐためには幾らでも方法があるのであります。それは次の株主総会において解任の理由を報告するとか、あるいはそれができなければ、あらかじめ裁判所の許可を得て解任をするということにしてもいいのであります。監査役の解任権濫用を防ぐ方法はそのほかにもあるだろうと思いますが、そういうことにすれば監査役の地位はぐんと強くなるわけでありますから、取締役が悪いことをしないと考えます。そうなると取締役は、現在の支配人と実際的には同じように、取締役の指揮のもとに支配人が仕事をするというようなぐあいで、取締役はやはり監査役の監督のもとに適正なる処置をすることになりはしないかと思うのであります。  それから累積投票のことでありますけれども、これは少数株主利益を代表する取締役を選任する可能性があるというのでありますけれども、ところが累積投票は、それは大株主の方でうつかりゆだんしておれば、少数株主が勝利を得るということになるかもしれませんけれども、そうなれば大株主の方もゆだんしないのでありますから、結局同じことになる。ただ議決権の数がふえるだけのことでありまして、割合は同じことでありますから、少数株主にとつて有利であるということは、それは観念論にすぎないのでありまして、現実のことではないのであります。現実にはかわらない。ただ観念的に少数株主に有利であろうというだけの話でありまして、現実に少数株主に有利になるということは言えない。こう思うのであります。従つて累積投票はちつとも感心しないのであります。  それから譲渡の禁止制限禁止する。これは先ほどもお話がありましたが、裏書きを禁止する、定款規定を無効にするというのは少し行き過ぎであると思います。裏書きを禁止するということは、裏書きは実際不便な点もあるのであります。株数が非常に多いという場合には、一々裏書きをするのはなかなかめんどうであります。これに反し白紙委任状でありますれば、何千株でも何方株でも一通の、たつた一片の白紙委任状をこしらえればいいわけであります。それから記名株式の讓度につきまして、証書をつくらなければならない。譲度証書を添付しなければ譲渡ができないということにするのは、これはどうも不当な制限であると思います。現行法では譲渡の当事者間における意思表示的なものによつて譲渡ができるわけでありまして、当事者間においては株券を渡さなくても、また委任状をこしらえなくても譲渡ができるわけであります。これほど株式の流通をよくする方法はない。ところがそれに対して、今度は譲渡証書を添付しなければ譲渡が無効であるというのは、これは株式の流通を最も阻害と言うと少し語弊がありますが、株式の讓渡に対して多少の障害になると思うのであります。もつとも取引上ああいうような職業的な株式譲渡については、現在白紙委任状をそのままつければいいというのでありますから、改正になつても大した打撃はないでしようけれども、職業的でなぐ株式を讓渡するというような場合に、一々譲渡証書をつけなければ譲渡ができないというのは、はなはだ不当であると私は考えます。  それからそのほか訴えについて担保供与の義務がないなどということについては、先ほどお話がありましたから省略いたしまして、こまかい点でありますが、資本の減少の場合につきまして株式数を増加することにつきましては、発行済株式総数の四倍を越えることを得ずという規定が三百四十七條に出ておりますけれども、資本減少の場合においては、株式数を減少する方法による減資の場合に、やはり比率を保たれなければならないのであるかいなかということについては、何ら規定が設けられておらないのであります。これは解釈上当然だということは言えないものと思うのでありまして、株式数増加については三百四十七條の規定があるのに、株式数減少による資本の減少については何ら規定を設けないというのは、増加の場合に比べてこれは片手落ちであろと考えます。なお論じたい点もありますけれども、この程度にしておきます。
  10. 花村四郎

    花村委員長 何か御質疑はありませんか——御質疑がなければ次に藤林盆三君にお願いいたします。
  11. 藤林益三

    藤林参考人 私は弁護士藤林でございます。弁護士になりまして二十年になりますが、その浅い経験から申し上げます。  今度の商法改正法律案を拝見いたしますと、アメリカにおきまして相当大きな会社を規律する法律を、わが国の貧弱な全部の会社に持つて来ようとするような感じを受けるのであります。わが国の十六万あまりに止ります——十六万というと去年シヤウプ税制使節団が来られましたときの数字だと思のでありますが、十六万の株式会社の中で、資本金の千万円以上のものは数百単位でなかろうかと思うのであります。そのまたごく一部の会社株式が証券取引所に上場せられておるように思います。それからわが国のほとんど大多数の株式会社は、われわれの知る範囲におきますと、どうも親戚が知人の集まつた小規模な家族会社にすぎないように思うのでございます。これは問題になりませんけれども、その中には登記簿上だけ存在いたしておりまして、実体のないものだとか、最初からインチキな預け合いなどによりまして成立の形式だけを整えたものが多くあるのであります。これは合資会社有限会社の組織によるべきはずのものが、株式会社制度は割合外部的には嚴格にできておりますにかかわらず、たやすく脱法し得るという法律の不備、また罰則があまり嚴重に励行されておらぬという実情に乗じまして、こういうふうになつておるのだと思います。しかもまたこの株式会社の組織というものは、他の組織よりも信用がつきやすくて、銀行からでも金を借りるのには、やはり株式会社でなければならぬというような、わが国の実際の状態を反映しておるのだと思います。この株式会社法の改正を考えますときには、実際の状態をまず頭において見なければならぬとわれわれは思うのでございます。今日この改正案を拝見いたしますと、これに盛られておりますところの、非常に優秀な制度も一般民衆の法律知識とか経済の倫理なんかの普及徹底、また株主各自の自営意識の点から考えましても、実際の必要上、残念ながらわが国会社に適用するのにはいまだしの感を禁じ得ないものが多いのであります。それで実際上必要のないところにかようなものを持ち来りますと、その結果はただ空文に帰してしまうだけならばまだよいのでありますが、かえつて濫用されまして、わが国経済界に多大の障害を来すのではないかと案じられる点も見受けられるのであります。  これまで申し上げたのは、わが国実情との関係でございますが、今申し上げました実際上の必要がないと認められると思いますのは、今度の改正案の根本でありますところの授権資本制度、それから無額面株式制度株式の讓渡の制限並びに株券の裏書き禁止を認めないということ、こういうことであると思います。授権資本制度は、先ほどからも言われておりますように、このような制度を取入れなくても、学者のいわゆる認許資本のような制度を利用した方が、従来の制度とよく合致するのではないかと思われます。しかしながらこの制度は、法案によりますと、定款の上で会社が発行する株式総数というものと、また会社が設立に際して発行する株式総数、これを最初から合致させておきますならば、実際上は採用しないで済みますから、実際には隠して採用しないものも多いのじやないかと思われます。それから無額面株式制度、これは取締役によつて濫用せられるおそれが多いように考えられます。株式が額面を下まわりまして、資本調達に困難を来すような場合には、額面以下で発行してもよいという許可制度を設けるのも一案だと存じます。二百八十條の十とか十一におきまして、株式を非常に低い値段で発行するような場合には、これを株主の方からさしとめる権利を認めましたり、あるいはまた公正な値段との差額を会社に対して支払い義務を課したりいたしておりますけれども、これらは実際上実行しにくいだろう、こう思いますし、またこれを行いましても、後手にまわつてしまいまして、どうにもならなくなるような場合が多いのじやないかと存じます。しかしながらこれまたこの制度も、定款をもつて配慮し得るようになつておりますから、実際は採用する会社も多くないのじやないかと考えられます。とにかくこの二つの大きな今度の根本の両制度は、特に小さな会社には不適当だろうというので、弁護士の連合会においても、授権資本制度についてはよいという人もございましたが、無額面株式制度についてはとかくの非難がございました。そうしてことにこの二つ制度は、小さい会社には不向きじやないか、こういうふうな制度をとる以上は、大小両会社を区別しなければならないような必要があるのじやないか、こういう意見も出ておりました。それから株式の讓渡の制限と株券の裏書禁止の問題でありますが、これは私は外国のことは知りませんけれども、本で見ますと、アメリカの株式においても一般に認められておる以上の禁止だということでございまして、またこういう禁止をいたしませんでも、実際上会社が大きくなつて資本を大衆的に調達する必要ができます場合には、自分制限を解除しなければどうにもならなくなるものでございますから、これは任意にさせておいてよいのじやないかと存じます。実際問題として、未知の人に株式が行つてしまつては困るような場合も多々ございますし、制限しても何も害はないのでありますから、ほうつておいて、現在のままでよいのじやないかと思います。このような規定ができますと、株式会社有限会社などに組織変更しなければならないような家族会社もできて来るのじやないかと思います。  それから先ほど申しました濫用のおそれのあるものについてでありますが、先ほど来多々言われております株主権の拡張の問題であります。要するにこれは会社側に対する心配でございますが、われわれ考えますと、株主としての地位の保護は、主として利益配当請求権と株価の維持に向けられるべきものであると存じます。この限度を越えまして、企業の経営を阻害するようなことがあつてはならないのであります。ことにわが国においては、先ほど申しました通り、小規模の会社が多うございまして、それらにおいては株主は単なる株主として存在するだけでなしに、自分があるいは自分に近い関係者が経営するものでございまして、その経営につながることによつて会社利益は享受しているものでございます。従つて単なる株主として利益配当請求権や、株価の維持に関心を有するような株主のある会社は、相当に大規模な会社に限られておると存じます。  右の事実からいたしまして、株主会社に対して会社法上認められました権利を発揮いたしますのは、りつぱな大きな会社に対しまして会社荒しが使います方法と考えられます場合と、小さい会社に対しまして会社の乗つ取りの方法として、いわゆる経営権の争奪でございますが、その方法としての株主権を使用する場合とにわけられると存じます。すなわち公正に利用せられるような場合は、遺憾ながらたいへん少いのじやないかと存じます。従つて少数株主権が会社資本民主化に伴いまして、発行済株式総数の百分の三とか、たとえば受益証券でございますが、百分の十から百分の三に緩和せられましたり、あるいは会計帳簿及び会計書類閲覧権並びに謄写権が、今度新たに十分の一の少数株主に認められたりすることは、これはやむを得ないといたしましても、各個別々の株主一人一人に、従来は少数株主権でございましたところの取締役発起人に対しまする責任追及権二百六十七條など、それから株式買取請求権、二百四十五條の二であります。それから取締役の行為さしとめ請求権とか、取締役株式発行請求停止権、こういうものを与えますことは、会社荒しに対しましてたいへんなえさをやることになりまして、会社荒しの跋扈はたいへんなことになりはせぬかと思います。従来少数株主意見取締役発起人に対する責任追及や、取締役の方からもこれを使用しまして、なれ合いで自分責任を回避するということも考えられますし、非常に危険だろうと存じます。それから株式買取請求権、これは民法上の組合とか、合名会社や、合資会社の社員の持つ権限を加味しているような理論のように考えられるのでございまして、法人である株式会社でありますときには、ちよつと理論的にも変なものではないかと存じます。ことに責任追及訴訟でございまするが、もつとも一人の株主がやつておりますときに、二百六十八條の二ですか報酬対価を求めることがございますが、こういうような場合に、せつかく報酬対価がおんぶした場合に、本訴を取下げますと、一緒くたに取下げになつてしまいますので、ことに責任追及訴訟とか、こういう責任訴訟を起しますときには、無條件に取下げをしないような規定を置いてもらいたいのでございます。それがやはりでたらめに訴訟を起さない制約になるのではないかと思います。これは何か特別の方法を考えたいと存じます。  それから差止請求権と申しましても、不作為の請求をどういうふうに実際に行うか、これはなかなかむずかしいので、そう簡単にできないのではないかと思います。要するにこれらの重要な権利を各個の株主に与えてもらいますには、よほど御考慮をしていただきたいと存じます。要するにどんなに罰則を強化しましても、会社荒しが現在実際したくさんありまして、大きな会社はそれぞれ迷惑をいたしておりますので、こういうような権利を与えてもらいますには、よほど注意していただきたいとお願いする次第であります。  それからその株主権の濫用に関します問題で、先ほどから言われております会社に対する訴えについて担保の請求を要しないという問題、これは私もどうしても濫訴を防ぐという意味で必要で、これは残しておいてもらいたいと思うのでございます。それからもう一つ裁判所の裁量による請求棄却を認める規定を削除するようになつておりますが、これは昭和十三年の改正のときに入りまして、その後現在二百五十一條の規定がなくなるということはたいへん不便になると考えます。二百五十一條の規定は「決議取消ノ訴ノ提起アリタル場合二於テ決議ノ内容、会社ノ現況其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ其ノ取消ヲ不適当ト認ムルトキハ裁判所ハ請求ヲ棄却スルコトヲ得」たとえば株主総会の招集が一日日を間違えて十三日しか余裕がなかつたというようなことで、取消されるようなことが昔はあつたようでございますが、そういうようなことがないようにするためにこれはこしらえられたのだと思います。松田二郎氏だつたと思いますが、そういうようなものは、何も解釈上からも今後そうなつてもさしつかえないんだというような議論もありますが、われわれはそう思いませんで、やはりこの規定を置いてほしいと存じます。要するに会社荒しのためにわずかなきずに乗せられまして、会社が大損をするような場合がございます。アメリカなどではどういうふうになつておるか知りませんが、日本では裁判所がそれだけの間違いをするとは考えられませんし、間違いましても上訴する方法もございます。われわれ弁護士立場といたしまして、この規定があることを望むのであります。  それから先ほど来盛んに言われております株主総会でありますとか、取締役会の機関の定足数などについても申し上げたいのでございますが、先ほど申しましたように、わが国は小さい会社が多うございまして、中には株券を発行していない会社もございます。今度は株券を発行しなければならないことになりましたけれども、かような会社におきましては、株主総会における定足数というものは問題ではございません。ただ問題になりまするのは、小さい会社ではただ経営権の取合いの問題が起つた場合だけのことでございますが、定足数が問題になりますのは、わが国の産業界に重きをなす大会社、大財閥でございますが、株式民主化に伴いまして、ことに企業再建整備法ができました今日、大きな会社は数万の株主に保有せられております。これらのものが株主総会の招集について支払います経費と手数はたいへんなものであります。また先ほど来申し上げておりますように、戦時中にできました会社等臨時措置法、これは戦時特例でありまして、当然戦後は廃止せられるべき運命にあるのでありますが、この第三條は定款で定めておきました招集通知を広告でもつてかえることが許されておつたのでありますが、これが今度昨年末になくなつてしまいました。実を言うとわれわれはこういう規定が入つてもらうことを望んでおつたくらいであります。これは余談でありますが、その程度の頭でおられる現状でございます。しかるに証券取引法では百九十四條でございまするが、総会委任状を集めることにたいへんな制限ができております。今日では定款変更など、どうしても定定数を要しまする総会の場合においては、大会社委任状を集める努力と費用はたいへんなものでございます。しかもそうして一生懸命につくつて配つたものは株主はほとんど見もしないのでありまして、これは証券取引法がかわつてくれなければどうにもならぬと思うので、われわれいまさら観念しておりますけれども、非常に困つたことでございます。このような折に通常総会まで定款に別段の定めをしておけばよいのでありますが、発行株式過半数に当る株主出席を求めておるということはどうかと思うのでございます。ことに通常総会におきましても取締役選任決議の場合には、定款規定により定款に別段定めをしておりましても、総数の三分の一未満の場合はできないのでございまして、これはたいへんやつかいなことであります。今度の改正案によりまして、取締役の地位がますます重大になるということは存じておりまするけれども、これはよけいな制限ではないかと存じます。  それから先ほど野津先生がおつしやいました取締役選任に関して累積規定を置くことにしました。これは各会社とも定款で配慮するようになるのではないかと思います。定款で配慮しましても、四分の一以上の株主がこれを望むということになれば、これはしなければならぬことになつておりますが、大方そこまで努力する株主は今日本にはいないのではないかと思います。これは空文に帰するのではないかと思います。  それから特別決議議決権の数がたいへん重くなりました。実質は従来の程度に集めなければならなくなりました。これもたいへんめんどうなことは先ほど来たびたび言われておる通りでございます。そこで定款変更というような問題になりましても、特別決議をしなければならぬ。それは原始定款と通常定款と区別して、そうして原始定款をかえる場合には特別決議によるとか、何とかそこに便宜な方法をきめてもらいたいものだとわれわれは希望します。今度も私の関係しておりまする数万の株主を擁しておりまする会社で、定款変更しようとしておりまするが、あるいは仮決議でもしなければならぬのではないかと心配しております。  それから取締役会にも定足数を求めておりますが、これもどうかと思うのであります。実際は脱法的に持ちまわりをやるのではなかろうかと存じます。これはわからぬで済むから大丈夫でしようが、もし争いがあつて、その効力が争われるような場合にはどうなるのかと存じます。これも現在の日本の状態ではたいへんむりな規定ではなかろうかと思います。  大体これまで申し上げましたのは、われわれといたしまして大きな問題で不満な点でございますが、そのほかには非常にいい点もございまして、われわれ賛成するものでございまするが、小さい問題には今日入るわけには行きません。しかしどちらにいたしましても、この改正規定ができまするならば、商法が始まつて以来の大改正でございまして、これはわが国会社法の基本構造に変更を与えるものでございまするから、実施するには十分の時間的余裕がほしいものだと思います。というのは、これがこのままできるようなことになりますると、この知識を相当普及させなければならぬし、また会社によりましては、相当組織変更をしたり、内部的にもいろいろ準備しなければならぬ会社があると思います。来年の七月一日までに施行しなければならぬというように附則の規定はなつておりますけれども、これは二、三年先にしてもらいたいとわれわれは思うのでございます。これはまた弁護士合会としてもそういう意見でございます。
  12. 花村四郎

    花村委員長 何か御質疑はありませんか——なければ午前中はこの程度とし、暫時休憩いたします。     午後零時三十一分休憩      ————◇—————     午後一時四十六分開議
  13. 花村四郎

    花村委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  次に松尾實友君より意見の開陳をお願いいたします。
  14. 松尾實友

    松尾参考人 私は弁護士松尾實友でございます。あらかじめお断り申し上げまするが、実は私きよう申し上げます事柄を、総論的なことと各論的なことにわけまして、各個の事件については、各論で詳論したいと考えて参つたのでございます。ところが私事を申し上げましてはなはだ申訳ございませんが、一時にはどうしても行かなければならぬところがもう一時をとつくに過ぎて、この機会を待つていたようなわけでございましては、はなはだ申訳ございませんが、総論的なことで申し上げようと予定していました事柄のうちの、またそのうちの一部を申し上げさせていただいて責をふさがしていただきたい、かように存じます。あしからずこの点お許しを願いたいと存じます。  それからいま一つあらかじめ御了承を願いたいのは、私は長年裁判官として、民事の裁判事務に従事しておりましたが、二年半ばかり前から弁護士として会社の顧問等に携わり、多少の実情をうかがい知つておるという立場にある者なのでございます。従つて申し上げまする意見は、そういう立場から申し上げるということを御了承をお願いしたいと存ずるのであります。  さて今日の問題の法案を拝見いたしまして感じますることは、事柄が株式会社法の本質に触れた重大な事柄であるとともに、改正の案文それ自体がなかなか堂々たるものにでき上つておるのでありまして、これまで仕上げられました政府当局の方々や、この下ごしらえに従事されました委員諸氏の並々ならぬ努力のほどが十分うかがい知れるところでありまして、心から敬意を表する次第であります。にもかかわりませずどうしても懸念される点、それから立法の態度といたしましてはどうかと思える二点がいなみ得ないのであります。この点を申し上げまして、委員諸公のこれの御審議にあたりまする心構えの一端にでも参考にしていただければという私の老婆心から申し上げるのが、以下述べる意見なのであります。  その一つは先刻来しばしば参考人から申し続けて参つたことでありまするが、今回の改正のために、今までも会社荒しというものによつて非常な苦心をなめていた。それへもつて来て今回の改正によつてそのことがさらに拍車をかけられて、従来の憂慮以上の憂慮を持たざるを得ないという点なのであります。これは最初の発表されました要綱を見まして、だれしも感じたところでありまするが、しかるに法務庁主宰の法制審議会の議によりまして、多少——多少よりも大部分その点が緩和されて来たかの観があるのでございます。しかしながらこのでき上つた法案を見ましても、なおその根跡を絶たない、こういうところから先刻来の公述者も符節を合すようにその点に触れているのでありますが、私も同じくその点を心配する一人なのでございます。私は先ほども申し上げましたように、長年裁判所の窓から社会を眺めていたのでありますが、弁護士として社会の実相にタツチいたしてみますると、実に予想以上のものがこの会社荒しという事柄にあるのでございます。会社荒し会社荒しという言葉で申し上げておるので、委員諸公の方ではもうほとんどこの言葉にはなれつこにおなりになつたのではないかと思われまするから、私の見聞きいたしておりまする一、二の事柄を申し上げて、そんなものかなという御理解をいただきたいと思いますることは、現在この会社荒しというものは相当数おります。そこで会社に訴訟を起すとか、あるいは法律上の手続によるとかいうことよりも、それをするぞとおどかす。あるいはそれ以上の事実行為をもつておどかすというようなところで相当のかせぎをやつている団体ができて来つつあるのでございます。これに対処するために、どこまでも法廷へ行つて争えばそれで足りるじやないかというような行き方は、実際営業をやつておりまする会社としては、そういうゆうちようなことを許さない。従つて予算も会社荒し費用という名目はむろん用いませんけれども、実質はそれに充てるような予算をもつてこれに対処するというような実情なのであります。しかも最近見まする現象から申しますると、りつぱな会社荒しの親分があります。そうして子分の組織を持つております。何か問題がありまするときに、その親分のさしずによつて動いておるという形が、いよいよその形を整えて来つつあるような状態なのであります。そこで何か総会で荒れごとがあるかもしれない、あるいは会社に——どうせ今日の会社ですから、大なり小なり何らかの欠陥を持つております。この欠陥をそれほど針小棒大に問題にすることがいいかどうかにかかつておる程度のわかれ目の問題を持つておる。それを未然に防いで会社の名譽、会社の信用、株価の下落などを防ごうというためには、あらかじめ手配をしなければいけない。この手配というのは、つまり金で手配をするというわけで、会社総会を開いたりする前には、必ずこの目ぼしいものにはわたりをつけて、親分のところに行つて金を打つて未然にこれを封じようというような努力を続ける、こういつたようなわけなのであります。これは終戦後も、御承知のように世相が悪化して来ました事柄から、今後相当期間は増しはするとも減るようなことはない、こういうふうに見られるのであります。これは委員諸公が実業界の方方にその点をさらにお確めになれば、御納得が行くような事実がなお判明すると存じます。そうなつて来ますと、この会社荒しに乗せられるようなことに、根拠を持たして行くというようなことを法文が広くいたしますることは、相当考えなければならない株式会社を健全に育てて行くということが株主利益なのであります。株主保護するがために会社があまりうまく行かないということになれば、結局株主法律上の一つの権能を与えたがために、実質上は株主が損して行くというような結果にならざるを得ないようなことになるのでありまして、そろばんから言いますれば、この株主権を強化するというような面をあまりに広く拡げますと、実質においては株主保護しないという結果に陥つて来るという面のあることをよくよくご了承を願わなければならぬ、こう私は考えるのであります。改正法のねらつておるところは、株主の地位を強化するという理念にお向きになつておると、こう私は了解いたします。けれどもこの株主の地位を強化するということは、株主権を強化することによつてのみ達せられるというものではなくて、これは会社のあらゆる機構運営等の制度によつて地位を確保するという目的を達し得るのでありまして、この株主の地位を強化確保するということと株主権そのものを法律的に強化して行くということとは、むろん目ざすところは一つでありましても、全然一致するものではないのであります。従つて株式の地位の強化そのものについては、私は何らの異存がないのみならず、その方が双手を上げて賛成するところでありまするが、その目的を達するために株主権を強化するということは、ただ一つの方法にすぎないのでありまして、これがその全部なりということに御了解になることは、大小の区別を誤るものであると考えます。この点は十分御考慮を願わなければならぬことと私は信じておる次第であります。  それから第二に感じますことは、先ほど野津氏から、今度の法案は天くだり式な法案であるという表現を用いられたのでありまするが、私もこれはそういう表現を用いなくても、民間からほうはいとして起きた要望そのものが法案にとり入れられて、ここに法文化されるに至つたということにはならないという点において、この表現の言葉と一致する感想を持つておる一人なんであります。一体法というものは、申し上げるまでもなく、すえぜんのように政府から国民にすえるべきものではなくて、生きた社会の生きた生活の中からにじみ出て来るところの声、要望、それらから自然に生れて来るのが法律のほんとうのあり方だと私は信ずるのであります。しかるに今回の改正案の企図されておりまする内容そのものにつきましては、むろん民間からこれはいいと賛成の言葉が出るところもございます。だけれどもこの根本における事柄、それから出て来まする事柄の大部分は、国民がこの法案を、あるいはその前に要綱を見て、ああそういうことになるのか、それじやこうというような考え方をするようになつておるのでありまして、国民の中からわき上つたものが法文化されたということにならないことだけは間違いのない事柄のように考えられます。しかもこの法案の基礎になりました要綱が公に審議を始められましたのは、昨年の八月にこまかい要綱が出まして、それから法務府主催の審議会で審議の議題に上り、国民もややこれを知るようになつたというような実情でありまして、そのことが昨年の十二月にほぼ形を整え、そして本年の初頭には早くもこの法文が上りまして国会に提出される運びに立ち至つたのであります。従いまして国民の声、国民の実生活、国民の要望というものが反映しているという面から言いますと、これは法の本質のあり方、法の制定のあり方の理想とは遠く離れておるものと評せざるを得ないのであります。しかしながらかくも急いでこうしなければならなかつた事情については、私もいろいろなことからほぼうかがい知つております。従つてかく申せばとて、決してこの立案当局の御態度を非難するという気持は毛頭ありません。しかしながら法のあり方、ことに実業界、産業界における中核をなす株式会社の実態に触れました、実態を規制する法律といたしましては、この理想に遠ざかるということが私としては何としても遺憾の感を禁じ得ないところなのであります。従つて私が今ここに皆様にお願いいたしたい結論はこういうわけなのであります。まだ国民の意識の上、国民の生活の上にはこなれていない。先ほど申し上げましたように、いわんや国民の声ではないというような法律改正案なのでありますところへ、冒頭に申し上げました会社荒しの乗ずる余地のある改正の企図であるということになりますと、この議案でもつてピンからキリまでがつちりと組立てたところを国民に押しつけるということは、これは慎まなければならないところではないかと考えまするがゆえに、この意味から、この客観的な情勢上やむを得ざるところは、これはおのみになることはやむを得ないことと思いますが、そうでない部分に至りましては、なるべく改正の範囲を縮小されまして、ピンからキリまでぎりぎりのところをきめられるというようなことは、後に漸次国民の声を聞いて改正するという方向へお進みになるお態度でもつて御審議、御決裁を願いたいというのが私の切望することなのであります。  ただ最後に一言申し添えておきたい一つは、この授権資本制度と無額面株制度採用するという点についての感想からいたしまして、先ほど来申し上げている民の声がそこまで行つているのではなく、むしろこれは民にプレゼントしてすえてやるんだという観をなしている点についてのことでありますが、これは客観情勢の上からどうしても避け得られないことでありましよう。そうしてこのことに対する非難といたしまして、資本確定の原則を採用しておりまする現行法にこれをもつて来ることは、木に竹を継ぐような改正であり、実際もそう必要でないというような非難があるのであります。この点に関連いたしまして無額面株制度採用が、先ほど会社荒しが会社の外部にあるような例をもつて申し上げましたが、会社荒しを広い意味に申しますれば、実は会社の中に会社荒しがあることをしばしば見受けるのであります。現在でも、御承知でもありましようが自分の知つておる相当知名の会社でも、いろいろな作意をもつて自分会社の株を下落させます。下落させたところで多数の株を手に入れます。それからまた別な逆の作意をもつて株を高騰させます。そうして安く手に入れた株を高く売つて、それを会社利益にするのではなくて、そういう操作をした取締役その他の関係者がこれを相当利得するといつたような行き方をしておる例が今日行われております。ところでそのことは改正させぬでも、今日行われているのでありますから、今後といえども行われるでありましよう。そしてまたそれは道義的の非難はあるにしても、別段法律的にどうだという問題は起きないのでありますから、繰返されて行くことでもありましようが、無額面株制度採用されて行きますと、会社内部の会社荒しの不正に働く余地が相当出て来るという面があることも御考慮を願わなければならぬと思うのであります。しかしながらこの点について私は、今さら無額面株制度授権資本制度とともに取入れられることはいけないという理論をここで述べようとは思いません。これは輿論のいかんにかかわらず、私の察するところでは、どうしても避け得られないところだということになれば、ただここらにも問題があることを御考慮になれば、今一拳にしてこの法案をピンからキリまで整備し尽したものであるというようなお考えをお持ちになることではなしに、当分の間、この授権資本制度と無額面株制度とを取入れることによつて現行法との調和をいかにするかということに重点をお置きになつたところに着目されて御審議を願つて、爾余の枝葉にわたる部分で今申し述べましたような弊害を伴うような点にわたろ事柄は、なるべくこれを確定することをお避けになつて、漸次の改正におまかせになるというおおらかな行き方を私は切に要望いたしたいのであります。先刻来皆様から申されておりまする会社荒しのおそれについての個々の箇條については、どうしてもこの際全部が全部確定法文にしなければならない情勢に至つておるものとは思つておりませんので、あとう限りにおいて後々の改正に讓ることにして、つまり漸進することにしてこの審議をお願いすることが必要ではないかと考えるわけなのであります。聞くところによりますれば、各主要都市の産業、実業界の人々の御意見も、十分お聞きになつたそうでございまするから、この会社荒しに備えるための方法については十分御考慮を願つて、せつかちになさるということを極力お避けを願いたい、こういうのが私の希望なのであります。  はなはだしり切れとんぼで申訳ございませんが、先ほども申し上げましたように、各論やその他の点に触れる時間がございませんので、はなはだわがままでございまするけれども、これでごめんをこうむります。
  15. 花村四郎

    花村委員長 次に松岡熊三郎君が所用のため急がれておりますので、松岡熊三郎君にお願いいたします。
  16. 松岡熊三郎

    ○松岡参考人 今回の会社法改正につきましては、大分各方面から異論がありまして、全体にわたる総論的のことについてはあらためて申さなくてもよろしいかと存じますので、単刀直入に條文順に数箇所の点について、意見を申し述べます。  最初の百六十六條、定款の記載事項でありまするが、その第三号に「会社ガ発行スル株式総数並ニ額面無額面ノ別及数」とあります。この項は、ただ全社が発行する株式総数だけにとどめた方がよろしいと思います。「並ニ」以下を設ける必要はないと思います。もしこれを設けておきますと、会社が順次株式を発行して行く際に、非常に拘束されることになります。授権資本制、無額面株の発行制度というものを認めた趣旨は、資本の調達に大きな便宜を与えようというのでありますのに、こういう拘束をすることは矛盾であろうと思うのであります。すなわちここにそう書かなくとも、六号にありますように「会社ノ設立ニ際シテ発行スル株式総数並ニ額面無額面ノ別及数」というのがあります。これは設立の際発行する際に、額面と無額面の別と、その数をきめればいい。それからあとで設立後発行する際も、やはりその際に諸事情を考慮して、どれだけの額面株を発行するか、どれだけの無額面株を発行するかを考えてきめればいいのであつて、それを最初に総額においてきめておくということは、非常な拘束になるのであります。  次に、第二百二十七條でありまするが、いわゆる少数株主権の限度が、百分の三以上を持つておる株主ということになつておりますが、これはあまりに急激な数の低下であると存じます。これを少くとも百分の五以上にしなければならぬと考えます。従来は十分の一以上に当る株主少数株主と称しておつたのですが、それがもし過多であるならば少くともその半分、すなわち二十分の一、言いかえれば百分の五でありますが、少くともこれくらいな株主が集まり、あるいはそれだけの株数を持つておる者でなければ、ここに与えられておるような総会の招集権などを与うべきものじやないと考えます。これらは前にたびたび参考人から申し出ておられるいわゆる会社荒し、あるいは会社の乗つ取り、そういう事情が日本においては非常に長い間の悪習として行われており、今後といえども急に絶えることはないのでありまするから、それをなるべく防ぐ意味において、やはりこの程度を上げた方がよろしいと思うのであります。  それと同時に、現行法の二百三十七條の第三項に、この総会を招集した場合においての費用は、株主の負担とするという規定があるのでありまするが、これを削られておりますけれども、これは削らぬ方がよろしいと思います。それくらいな費用を負担してまで、会社のためにぜひ総会を招集してもらいたいというのであつて初めて株主個人の利益をはかるのでなくて、会社全体の利益をはかるという誠意が現われておるのであります。そういう場合でなければ、わざわざそういう少数株主に招集権を与えるということは必要でないことであると考えます。  その次は二百三十九條であります。この総会定足数についても、もう前からたびたび言われておりますから簡単に申しますが、過半数に当る株式を有する株主出席せなければならぬということは、現在の株式会社の実際に徴しましてほとんど不可能に近いのであります。この規定が設けられたために、莫大の手数と費用をかけて狩り集めてみたところが、そういう集まつた株主というものは、ほんとうに株式会社全体の利益を考えて意見を述べるかどうか疑問なのであつて、ほとんど机上の空論になると考えるのであります。もつともこれには「定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外」と書いてありますが、どの会社にも定款に十分の一でいいとか百分の一でいいとか、そういうことを書くことはほとんどなかろうと思います。書くことが信用を落すというようなことになるので、そういうことはあえてしない。しないということになれば、どうしても過半数出席がなければ何も決議できないということになりますからして、こういう條件をつけても実際には役に立たぬと考えます。ですから定足数を削ることが必要だと思います。  次は二百四十五條の二であります。これも大分意見が出ておりますが、私もこの株主株式買取請求権というものは必要ないものと考えます。これは民法の組合等にもありますが、組合のごとき人的要素に非常な重点を置くところでは、こういう重大なことについてこんな決定をするようでは、一緒に仕事はして行けないというところから、買取請求権を認めて組合を脱退してよろしいということになるのですが、株式会社のような人的要素に少しも重きを置かぬというようなところについては、全然こういう権利を与える立法上の根拠はなかろうと思います。いわんやこの重大な事項については、特別決議という慎重な方法をとつておるのでありまするから、そういう慎重な方法で全体の利益のために重大な事項が決せられたら、その構成部分であるところの株主は何も言わぬでついて行くのがあたりまえで、それであつて初めて団体が強固になつて行くということが考えられます。いやなら株式を譲渡してもよろしいのである。それをこの規定によつて、相当の価格で買取りを請求させることにするというのでありまするが、この相当または公正な価格ということは決定に非常に困難で、いたずらに事端を繁くするだけであるというむだなことになろうと考えますから、この條文は全部削除してよろしいと思います。従つてあと二簡條も必要なくなるわけであります。三箇條は削除する方がよろしいと思います。  その次は二百六十七條であります。これは株主訴えを起す権利取締役責任を追及するための請求権を与えたのでありますが、これも単に「株主」と裸に書いてあるのはもう詳しく述べる必要もない、いわゆる会社らしい会社の乗つ取りという惡風を助長することになる。しかしこれは責任を問うのでありますから、全然なくてはいけないのであります。相当の株主であれば与えてもよろしいと思います。その株主というのを、三月前より引続き株式総数の百分の五以上を有する株主というふうにすれば妥当ではないかと考えます。  その次の二百六十八條の二でありますが、今の訴えを起した場合の続きでありまして、その二項に「株主ガ敗訴シタル場合ニ於テハ悪意アリタルトキニ非ザレバ会社ニ対シ損害賠償ノ責ニ任ゼズ」とあります。これは「悪意」でなく「過失ナキ場合ニ非ザレバ」というふうにするのがほんとうかと思います。いやしくも自信をもつて訴えを起して、それが間違つてつて敗訴したいというのが、自分の過失によつたのであれば、当然その過失の責に任じなければならぬと思います。こういう重大な事柄を過失あつてもさしつかえない、訴えを起して敗れてもかまわぬというようにしておけば、ますます会社の非を助長するのでありますから「悪意」でなく「過失ナキ場合ニ非ザレバ会社ニ対シ損害賠償ノ責二任ゼズ」とした方がよろしいと思います。  次に二百七十二條は取締役の行為差止権を与えたのでありますが、先ほどの二百六十七條の少数株主と同様の理由で、同様の規定にした方がよろしいと思います。  次は二百九十三條の六であります。これもかなりやかましく言われておりまするが、株主書類閲覧権は削除して、現行法の二百八十二條の二項を生かしておく方がよろしいと思います。つまり現行法でも二百八十二條の二項で、すでに重要な会計書類についての閲覧権あるいは謄本、抄本の請求権があるのであります。二百八十二條によりますと、前條の財産目録、貸借対照表、営業報告、損益計算書、準備金及び利益または利息の配当に関する議案、こういう重要の書類について閲覧権及び謄本、抄本の請求権があるのでありますから、それ以上のこまかい書類まで閲覧させる、あるいは謄本、抄本の交付を請求させる必要はないと思います。いたずらにあら探し、すなわち会社荒しの利用するところとなつておもしろくないと思います。そういうこまかい書類については、改正法では会計監査役を設けて、その方で十分にやることに二百七十四條で規定されておるのでありますから、それにまかしてさしつかえないと思います。  次は三百八十一條に、会社整理の請求権を少数株主に与てあるのでありますが、これも単に「百分ノ三以上ニ当ル株式ヲ有スル株主」と書いてあります。これくらいの株主だとたちまちのうちにできるのであります。会社荒しをやろうとすれば、すぐ百分の三くらい手に入れてやれるのでありますから、そういう者の利用しないように、やはり前に述べたように、三月以前より百分の五以上の株式を有する株主ということにすれば、そういう不正な者だけ除いて、少くともまじめな整理の請求を奨励することができると考えます。  四百六條の二も同様であります。解散請求権でありまするが、これも突然に株主に与える必要はない。これもここに書いてある「十分ノ一以上ニ当ル株式ヲ有スル株主」に「三月前ヨリ引続キ」という言葉を入れた方がよろしいと思います。  最後に四百八條の二であります。これも前に述べた、二百四十五條の二の買取請求権同様の意味において削除する方がよろしいと考えます。私の申し述べる個々の点はそれだけであります。  なお改正会社法はだれでもよく知つておる通り、ほんとうに実生活からの必要に迫られて改正するということでなく、他から押しつけられるような形も見える。いいことはどんどん他の立法例等も採用して改善して行くことはさしつかえないのでありますが、一体本質というものは実生活を生かし、これをますます維持し発展向上させるというのであつて初めて意味があるのでありますから、実生活がまだついて来ないのに、規定だけ設けて、これをひぱつて行く。それもいい方へひつぱつて行くついでに、悪い方へも導くということがあつたらたいへんなことでありますから、総まくりにお願いしたいことは、この際会社資本の調達にどうしても必要だというような規定は早く施行し、その他の規定はなるべく慎重審議を継続するか、さもなくばその施行を延期するというような態度に出て、実生活と法の規定が一致するまで待つというような方策が必要ではないかと考えられます。
  17. 花村四郎

    花村委員長 次に林武雄君にお願いいたします。
  18. 林武雄

    ○林参考人 私日本鋼管鶴見製鉄所の社員の林武雄であります。労働組合関係は、全日本金属労働組合の副委員長をいたしておりますし、また全国で百二十万人の労働者で組織されております全国労働組合法規対策協議会というものがございますその議長をしております。従つて以下申し上げます要点は、今まで公述人の方々が申し上げた観点と異なつておりますけれども、それは多くの労働者——これは会社の経営において重要なる債権のにない手ですが、これらの人々の意見を代表し、かつ中心企業の非常な困難に直面しているところの経営者の意見も代表しているということもあわせておくみとり願いたい。というのは、公述人の選定方法がそのような意見を多く代表するようにできておりませんので、ここでは少数意見になると思いますが、その点十分御吟味願いたいと思います。  まず要点を申し上げてから、個々條文に入つて意見を申し上げたいと思いますが、今回の改正案は第一に株主の経営に対する監視権を増大している。第二番目に取締役取締役会としてのひとつの会議形態にして、自由裁量の権限を増大している点が明らかに認められますけれども、第一の監視権の増大は、むしろ自由裁量の権限の増大によつて、その価値の比率が非常に下げられているということが言えると思います。この法案資本と経営との分離によつて、経営の民主化を企てているようでありますが、以下申し上げる四つの要点からして、このような方法では経営の民主化は果し得ないということをまず第一に申し上げたいわけであります。  第一点は、憲法の改正によつたところの新たにわれわれに課せられた法体系、もう一つは歴史的な事実この二つの点から考えまして、むしろ物権に重点を置かれたところのひとつの権利が債権の方に次第に移行して来ている、しかも債権そのものは、さらに商行為によつて実現する部面が非常に増加して来たのであります。従つてここで単に債権の保護という見方よりも、むしろ商行為の公共の福祉のための保障保護ということが、今回の商法改正において取上げられるべき重要な点だというふうに考えられます。しかもそのうちの債権については、人がこの債権を持つているわけでありますから、従つて憲法に保障されている基本的な人権という立場から十分この点を取上げなければならないというふうに考えるわけであります。以上の点が不十分な場合には、現在でも株式市場は未曽有の暴落を示しておりますけれども、これに対する対策は商法においても当然法の上において考えられなければならない。もちろんこれには商法のみならず、一般の関連法規並びに金融措置というものがきわめて密接に関係しているわけでありますけれども、今までこの法の反対意見として、たとえばこのように法を改正する場合に、総会議決権定足数の問題あるいは訴権を濫用するという点からして不当だというふうな点について、幾つか意見がございましたけれども、むしろ実際問題としてはさらに大きな問題があるので、中小企業といわなくても、関東配電のような大きな企業においても、端数株が非常に今増加しております。この端数株の存在によつて、株券を発行する費用のために、それに対して払い込まれる金額の大部分を消費されてしまう、あるいは利益が多数上つても、配当のためのいろいろな事務手続及びこの手数料のために、実質的に会社運営に資するような資金の調達ができないということが言われているわけです。さらにこれが中小企業なつた場合には非常に大きな部分を占めて来るわけであつて、このような改正によつて資本の調達を十分にする、会社の活動を十分にするということはできない非常に困難な部面があるということを、まず第一に考えたいわけであります。  それから第二点は、この改正法によつて少数株主利益をはかるようになつておりますが、要綱案と改正案とを比較してみますと、要綱に掲げられていた部分改正法案において非常に骨抜きにされているということが言えると思います。この点は総会荒し、会社荒しを懸念されて手心を加えられたようでありますが、これらの措置で総会荒し、会社荒しを防げるのではなしに、むしろ現在においても合法的な会社荒し、総会荒しは幾らでもできるので、この法の改正によりましても、これを防ぐことはできないというふうに考えます。従つて少数株主権利の擁護という点は、今度の法律案による改正によつてはほとんどなし得ないような空文化することになつたということを強調したいと思うわけであります。  第三点は、これらの経営における使用人、言葉をかえれば労働者といつても、あるいは従業員といつてもよろしいのですが、この債権者に対する保護規定がこの中にほとんど盛られていないという点を指摘したいわけであります。終戦後において、経営者があの灰燼の中から立ち上つたときに、労務者の果しておつた役割は非常に大きいのですが、この労務者がやはり経営においては一つ債権者であります。この債権者は、むしろ株主の小数株を持つているものの比でないほど債権の合計額が大きいが、これに対しての考慮が払われていない。しかも一昨年くらいからは賃金の遅配、あるいは不払いの状態が慢性化して起きているために、せつかく労働基準法において、第二十四條以下にこれらの債権を保護するということが書かれておりながら、その恩惠はほとんど得られないというようは状態にあるわけです。これを保護するために、個々債権者としてではなくて、集団的に債権者保護する規定をこの改正の中に取入れなければならぬこいうふうに考えるわけであります。  第四点は、今度の総体を見まして英米法を直輸入したというような点からして、日本の中小企業及び今までの日本の経営の実体には不適当な部分が非常に多いのではないか、むしろこれによつて経営が安全化する、あるいはこれに対する債権者が十分な保護を与えられるというのは、導入されるところの外資に限られるのではないか、中小企業はもちろん、大企業においてもこの法の改正によつて非常な困難な部分生ずるのではないか、そういう点からしてこの改正法に対して賛成いたしかねるわけであります。以上が要点であ、個々條文に関して申し上げたいと思います。  第一番に改正法案の二百三十七條で少数株主総会招集請求権が規定されておりますけれども、この招集費用会社負担にしないならば、事実はこの規定を設けても空文化するというふうに考えますので、その費用会社負担にすべきであると考えます。  それから次に二百四十五條、これは要綱の第十九に当つておりますが、この中で第一項の第一号に一部の譲渡の規定がありますが、これに重要なるという形容詞がついております。その制限をつけたために、事実はこれが空文化されることになりますので、重要なるという形容詞の制限を削除する必要がある。特にこれを第二号の委任の場合に比べますと均衡を失することが考えられるわけです。特に重要なるというふうにつけますと、一部の譲渡は無制限にできる。そのためによく会社は販売会社というような第二会社をつくつて、それによつて不当な一部の者が利益を得るというふうなことが行われますので、これは削除してもらいたい。  それから第二点は、二百四十五條の二に該当する部分ですが、営業の譲渡またはこれに準ずる場合において、これに反対する株主会社に対する株式買取請求権を認める規定がありますけれども、この中で株主総会に先だち会社に書面をもつて通知するという條件が加わわつております。しかし事実はこれを加えますと、実際上そのように事前にすることができないので、やはりこれは総会における意思表示をもつて足りると思いますから、以上のような手続規定を削除する必要があると考えます。  次に二百五十五條、ここで取締役の員数を今までのような三人以上というふうな数字でなくして、新たに資本の割合によつて増加する規定を設けるべきである。しかもその最低限の規定を附加することを必要だと考えます。その理由は、取締役会権限責任が増大しておりますから、少数による独裁の欠陥を避ける必要があるというふうに考えるわけであります。特に銀行関係から来た取締役は、経営の実態を知らないために、非常に経営の活動に対し支障を与えることがある。あるいは中小企業においてですが、同族会社のごときところで社長、専務、あるいは常務というふうに兼ねた場合に、社長の独裁のためにほんとうに会社の進むような生産増加その他適当なる方策が阻害されておる実情が非常に多いわけであります。以上のような点からして二百五十五條をそのように改正したいと考えます。  次に二百五十六條の三、ここで取締役の選任の規定がありますけれども、その中で但書及び第二項を削除して、株主の請求がなくても累積投票の方法によることに改正する必要があると考えます。その理由少数株主利益を反映しないのみならず、先ほど申し上げましたように金融関係その他から識見、手腕がないような重役が天くだりに来るというふうな危険が相当あるわけで、この弊害は非常に多くの企業にありますから、今あらためて説明する必要はないと考えます。  次に二百七十三條以下でありますがここで会計監査役の規定があります。これは会計監査役の員数を三人以上たることを要する旨を明らかにすることと、もう一つ、その監査役は職業的に資格がある会計監査人とすること、しかもこの会計監査人についても要綱の二十二に書いてありますような累積投票の方法を適用するというふうに改正する必要があると思います。その理由は、会計監査の公正を期するためにどうしてもそのような方法をとらなければ、内部干渉のごとき方法では絶対に公正あるいは公共の福祉ははかられないということ、もう一つは労働組合法のごときもの、つまり労働組合に対してすらすでに第五條の二項第七号において職業的に資格がある会計監査人の証明を要するというふうに書いてある。これとの均衡を著しく失するという点からして以上を主張するわけであります。  次に二百九十三條の五及び六、それからこれに関連した二百六十三條、二百九十三條の七、この点に関連して書類閲覧及び謄写権の規定がありますけれども、その中で第一号及び第二号の株主と書いてあるほかに労働組合の代表者を加えることを提案したいわけであります。今度の改正法案の二百六十三條は、株主会社債権者だけが株主名簿とそれから取締役会の議事録の閲覧権、謄写権があるようになつておる。ところが二百九十三條の六に行きますと、株主だけになつて会社債権者というものはなくなつているわけであります。しかも二百九十三條の七へ行きますと、取締役がいろいろな場合にこれらの権利制限する規定がありますが、特にその四号において不適当なるときに請求したときというふうにありますが、こういう文字を入れるために、せつかくのこの規定が空文化する。そのゆえに労働組合の代表者を加えることと、これらの制限規定を削除する必要があると考えます。その理由は、先ほどから申し上げましたように、労働組合の代表者が加わるということは、債権者の非常に大きな部分利益を代表するという点から当然であります。特に不断に経営に接触している労働者の代表である労働組合の代表者が加わることによつて、不正を防止することができるということが言えるわけです。経営の実情に明るいこれらの主張が入れられるために、株主利益、ことに地方に散在しておるところの少数株主利益をも不公正が行われないように、公正な立場において擁護することができるという理由からであります。  次に二百八十條の八、これは要綱の第三十八にあたりますが、ここで現物出資規定があります。現物出資の場合は、先ほど申し上げた理由によつて、労働組合の代表者をその財産の評価に参加させること、これを明らかにする必要があると考えます。その理由は、不適当な現物は単にその評価額が当、不当であるという理由以外に、経営の安全、あるいは少数株主、またはそこの労務者の利益に非常に相反するような結果を生みますので、これを防止するためには直接その運営に詳しいところの労働組合の代表者が参加することが不公正を避ける一つの大きな理由になると考えます。  次に二百八十條の十及び十一、これは要綱の第四十及び第四十一に該当していますが、ここで株式発行の不公正に関しての規定があります。著しくという形容詞が入つておりますが、その字句を削除してもらいたい。その理由は、この著しくということが入るために空文化するおそれがあるためであります。単に不公正というだけで、濫用される弊害はないと考えます。特にこの形容詞があるために、裁判所へ行つた場合に、やはり裁判所の方ではこの字句にとらわれるために、非常にその裁定について十分法が行われないということが起きますから、形容詞はなくて十分だと考えます。  次に二百八十九條、要綱の第五十に該当しますが、ここで利益準備金及び資本準備金の規定があります。この準備金は賃金に流用できることをここで附加してもらいたい。その理由は、一時的な経済事情によつて不当に賃金を抑圧することは、労働基準法の先ほどの第二十四條の違反事件が起きるもとになるわけであります。資本のみ安全に保護することは一般的に不公平になるので、ぜひこの点はつけ加える必要があると考えます。  次に二百九十三條の三、要綱の第五十二ですが、法定準備金の資本組入れ及び無償株式の発行の規定がありますが、これは全文を削除してもらいたい。その理由は、二百八十九條について申し上げた理由のほかに、資本膨脹によつて新たに法定準備金の増額が必要になる、そのために不当に経営の不安定及び報酬を受けるはずの債権者、その中に労働者が加わりますが、それの権利制限することになるからであります。  次に三百四十三條、要綱の第五十八ですが、この定款変更規定で仮決議権の規定がありますが、この仮決議権を削除すべきであると考えます。その理由は、実質上総会民主化を空文化するからであります。  以上が條文に書いてある点でありますが、さらにこれらの改正法案に書いてない点で二、三点ぜひこの中に挿入すべきであるという点を申し上げたいと思います。第一点は、会社成立後発行する株式総数の十分の一以内について、労働組合に対し優先的に引受権を与える規定を加えてもらいたい。しかもそれは合併なんかの場合もありますので、これを会社成立後とするのみならず、会社設立に際しというところまで及ぼす必要がある。特にまた成立後労働組合の結成される場合がありますので、総会においては少くとも労働組合の代表者が、議決権を持たなくとも発言権を持つことを明文化する必要があると思います。その理由は、給与債権者として、経営に関する利害の程度は労働組合としては少数株主の比ではないわけで、多くの場合には、賃金総額はその経営費の総原価の五割以上にも達する場合もあるわけでありますから、しかも株式は非公開または非上場の場合があるので株式民主化と経営の民主化のために、労働組合の参加は絶対に必要である。これを総会荒しと混同するのは誤りであると考えます。第二点は、商法の第二百三十九條第五項を抹消すること。その理由は、この中には「総会決議ニ付特別ノ利害関係ヲ有スル者ハ議決権行使スルコトヲ得ズ」というふうな規定がありますけれども、この「特別」ということが濫用されますので、これを削除すべきであると考えます。もしこの濫用にわたるような場合が実際に起る場合においても、その運用において、たとえば無記名投票によつて決定するというふうにすれば、弊害は避けられるというふうに考えます。第三点は商法の第二百九十五條の規定は、株式会社のみならず、会社のすべて、言葉をかえれば使用人すべてに拡充適用する必要があると考えます。その理由は、この二百九十五條の中で会社と使用人とが、雇用関係に基いて生じたところの債権、これの先取特権を規定してありますけれども、これは単に株式会社に限るべきではなくて、賃金、退職金その他先取特権は他の使用人にも適用することは当然法の上から予想されるわけでありまして、これらを公平に取扱う必要があると考えるからであります。第四点は確定せる給料債権、これは賃金退職金等を含みますが、これを弁済せずに、会社側に資産の讓渡あるいは抵当権、質権の設定等を禁止する規定を明確にすべきであると考えます。理由は前に述べました理由と同様でありますが、不当な債権の侵害を防止するために、しかもなおかつ経営の公正なる発展を期するために、ぜひとも必要であると考えるわけであります。  次に第五点、会社の讓渡合併の場合に、労働協約に定めてある被用者の権利が承継されることをやはりここで規定する必要がある。その理由は前と同様な理由に基いて、善意の讓受人あるいは合併したもの、及び被用者の権利保護するために、ぜひこれは明確化する必要がある。そうしないと、善意の讓受人さえ労働協約の規定があるために、非常な不利益を受けるおそれがあるからであります。  最後に、財務諸表の規定がありますが、この規定の中から財産目録の規定を削除する必要がある。その理由は実際上貸借対照表があれば、財産目録の果す役割というものは現在実益が全然ないわけであつて、いたずらに手数だけかけるわけでありますから、これは手数の重複を避けるために、削除する必要があると考えるわけであります。こまかい点についてはまだ申し上げたい点が幾つかあるわけですが、時間の制限がありますので、以上要点と各條項にわたつての主要点を十分御審議願いたいと思います。
  19. 花村四郎

    花村委員長 次に柳川昌勝君にお願いいたします。
  20. 柳川昌勝

    柳川参考人 私は東京高等裁判所の判事柳川昌勝であります。今日いろいろの参考人方々から大分意見が出まして、私が申し上げようと思つたところはほとんど尽きておるように思われます。そこでごく簡単ではありますが、裁判所の側から見て、将来困りはしないかという点について一、二お話申し上げたいと思います。  改正案は御承知の通り、株主権利強化の建前から、従来の少数株主権について少数株主の資格を緩和いたしまして、あるいはこれを改めまして、各株主権利に振りかえたということであります。また新しく少数株主権を認め、あるいは各個の株主権利を認めた点が少くないと思います。これは株式民主化株主保護という点から見て、まことにけつこうとは思われますが、前々いろいろな方から申されました通りに、濫訴の弊害が非常に多くなりはしないかということを心配しておるものであります。ことに会社のためにする発起人または取締役責任追及権、それから取締役の違法行為の差止請求権、新株の不正発行の停止請求権、これを株主権利として認めるということは、相当の濫訴の弊を招くのではないかと思います。こういう点につきましては、株主の資格に何らかの制限を設ける必要はないか。ことに担保提供ということが今度の法律で撤廃されることになりました。これも株主保護を十分にするという点から申して理論上まことにけつこうなこととは存じますが、裁判の実態から申しますると、訴訟が非常に多くなる、それでは裁判所がすぐ判断してやればいいじやないかというふうにも考えられますけれども、今の訴訟手続のもとにおきましては、そうはいかない。相当長く時がかかるということになる。裁判所としては裁判することをいとうわけではありませんが、濫訴に悩まされるということは非常な苦痛だと思います。この点から申しまして、ぜひともこの担保提供ということを現行法通りつていただきたいと思うのであります。  次に裁判所の方から考えて問題になりますのは、取締役会決議について争いが起るのではないかと考えるのであります。従来会社関係の訴訟と申しますと、大多数は株主総会決議の無効または取消しの訴えでありました。改正案株主総会権限を縮小いたしまして、取締役会にこれを移讓したという方向をとつておりますので、将来は取締役会決議に対して、その瑕疵を主張して無効の判決を求め、あるいは取消しの裁判を求めるということが少くないだろうと思います。ところが改正法におきましては、この点について何ら規定を設けておらない。私どもはこういう事件が起りましたときに、どういうふうにして裁判をやつて行くかということについて今から心配しておるのであります。もつとも株主総会決議無効または取消しの訴え規定の精神にのつとつてつて行けばいいのでないかというふうにも考えられますが、そうでなく、何とかはつきりした明文を設けていただきたいということを希望しておるのであります。株主総会決議無効とか取消しとかいうことが非常に多くなるということは予想されるのです。どうかこの点について、私どもがどうしていいかということに迷わされないように、何とか適切なる規定を設けていただきたい、こう思うのであります。  その次にもう一つ問題になりますのは、改正案では、株主取締役の法令定款等に違反する行為の差止請求権といものを認めております。また新株の不正発行の停止請求権を認めております。これらにつきまして訴訟が起つた、あるいは仮処分がなされる、判決をし、仮処分命令を出してさしとめを命じましても、聞かないでやつた場合に、跡始末はどういうことになるのかということが問題になります。聞かないでやつてしまつたものは無効であるということが一概に言えるかどうか。もし無効であるとするならば、その無効であるおそれがあるということを、あらかじめ一般の世間の人に知らしておく方法を考えておかなければならないと思います。たとえば東京の商業特報の中にこういうさしとめの命令が出ておるのだということを登記しまして、そうしてその命令の内容を一般に公知し、警戒を与えるということが必要ではないかと思います。  次に改正案は、このたびは裁判所の裁量によりまするところの請求棄却ということをやることを認めないことになつております。これは一応理論から申しますると正しいように思いまするけれども、法律の妥当性、裁判の妥当性という点から見まして、現行法通り存置してみたらどうか、こういうふうに考えるのであります。実際事件を扱いますと、法律的にやつてしまつては、あとが非常に困るということがたびたびありますので、こういう場合に自由裁量の余地を与えまして、認めてもらつて、そうして請求棄却の裁判をすることができる余地があれば、非常に妥当な結果を得られるのではないかというふうに考えるのであります。これは商法ばかりでなく、私たちの希望から申しますると、ほかの法律にもみんなこういう規定を設けてもらいたいというふうにさえ考えておる次第であります。裁判所の裁量による棄却の制度を廃止しないでいただきたい、こう考えております。  なおそのほかだんだんにこまかい問題になりますが、今度の改正案では、先ほど以来参考人方々が申されました書類閲覧請求権というのを認めております。これは定款によつてある程度制限することもできますけれども、もし書類閲覧請求をいたしまして、取締役の方でこれを拒絶したという場合にはどういうことになるかと申しますると、訴訟を起して閲覧させろという判決を求めるよりほかに方法はないのではないか。またそれに附帯して仮処分をするということも考えられますけれども、はたして仮処分が許されるかどうか。と申しますのは、仮処分でもつて書類の閲覧を命ぜられますと、見てしまえばそれで結果がわかつてしまうのであります。そういうことを仮処分として許すかどうかということについて、相当の疑問があるので、この点を何か適当な方法で解決するようにしていただきたいと思うのであります。  そのほかは大体大きな制度の問題になると思うのでありますが、たとえば授権資本、無額面株式の制度がいいか悪いかということであります。これはやつてみたらいいだろうと私どもは考えておるのであります。いろいろ調べてみますと、欠点もありますが、やつてみたらどうかと思うのであります。この点については、基本方針については私としてはさして異論がないところであります。そのほか株式譲渡の禁止または制限を認めないということがいいかどうか、これも相当先ほど来問題になつたようでありますが、その問題になりました点でことに多いのは、小さな会社で、個人企業をやつておるような個人企業的の会社、こういう会社株式の譲渡が自由に許されるということになりますると、相当困りやしないかという問題を考えるのであります。しかしこういう点につきましては、もう皆様方すでに十分御研究になつておると思いますので、重ねて詳しく申し上げることは省略いたします。  なお最後に、今度の改正案によりまして裁判所の仕事というものが量的にも、また内容からもふえ、かつ困難になつて来ることは、これは疑いをいれないところだと思います。あるいはやつてみまして、それほどになるかどうかわからぬのじやないかという御意見もありますが、私どもの過去の経験から推しますと、これは事件がふえて来る。これはこの裁判というものが他の裁判と違いまして、経済界の機微をよく調べてやらなければならぬ非常に困難な問題が含まれておると思います。そういう関係から、実施前から万全の準備をしておかなければならぬ、こう考える。これは人的にも物的にも用意をしなければならぬと考えております。そういう点につきまして、どうか国会の方でも深甚の御配慮をいただきたいと思います。  なお施行期日につきましても十分の周知期間を与えることを念願するわけでありますけれども、これはあるいは周囲の情勢から、そう長く周知期間を置くことができないということがあるかもしれないと思いますが、できますれば相当長い周知期間を置いていただきたいということを希望するものであります。はなはだ簡単ではありますが、裁判所の側からこの改正法によつて生ずるいろいろのトラブルについて考慮される点を二、三申し上げたにすぎないのであります。
  21. 花村四郎

    花村委員長 次に近藤貢君にお願いいたします。
  22. 近藤貢

    近藤参考人 私は近藤貢でございます。朝日新聞の調査研究室員でございます。これから申し上げますことは、社の意見を代表するものではもちろんなく、いわんや日本新聞界の意向を伝えるものでもありません。しかしながら私がいささが新聞、ことにその経営方面について研究しておりますので、これから申し上げますことは、新聞事業関係者はもちろん、新聞に十分な理解を持つていられる方々の御賛同を得るのではないかと考えておる次第でございます。  私が申し上げたいことは、この要綱の第七の定款による株式讓渡制限及び株券権の讓渡の禁止または制限は認めないこと、これは先ほどからたびたびお話が出ておりますし、私が少し調査したところによりましても、英法ではもちろん、米法でも明文でもつてこういうふうに制限を認めないというふうな規定を設けている例はないように思います。でありますから、この立法の妥当性ということについては、一般論として行き過ぎであるというふうな批評が先ほどからもありましたし、また一般の学界の専門家の間にもあるように思つておるのでありますが、私としましては、この点を新聞事業の本質という観点から考えまして、これはぜひ御削除願いたい。しかしながら、何らかのやむを得ぬ事情によつてこの規定を設けなければならないとしたならば、これは米法の一部にあるように、これに合理的な理由なり、または何らかの法令もしくは公的政策、パブリツク・ポリシーに違反しない限りは、これを認めるというふうな但書をしていただきたいという点を特にお願いしたいと思うのであります。この資料としていただきました会社数、これは二十一年の数字でありますが、これによりますと、株式会社の数は三万一千六百八十五となつておりますが、一体このうちどれだけの株式会社が譲渡制限規定を設けておるかというふうなことは、私存じませんけれども、日本新聞協全が最近調査いたしましたところによりますと、加入社の中で株式組織のものにつき調査した結果によりますと、六十六社の定款の中で、社内株制度規定しておる社が十一社、それから株式譲渡禁止、または裏書き禁止規定を定めておるのが五十一社、つまり新聞関係の株式会社におきましては、ほとんど大多数、全部といつてもいいくらいの会社がこの株式の譲渡制限を認めておる、これが日本現状であります。日本でこういうふうに新聞社の株式譲渡を禁止しておる例が非常に多いということは、これは一つ理由があるのでございますけれども、それは申し上げなくても、別にさしつかえないと思いますが、とにかくこういうふうにたくさんの新聞社が株式の譲渡制限定款規定しておるということには、やはり何らか必然的な新聞事業に伴う結果があるのではないかというふうに思うのであります。  それからこれを英国について見ますと、最初に株式の譲渡制限規定したのは、これは皆さんどなたも御存じの通りの、世界で第一の新聞といわれておりますところのザ・タイムズ、日本で言うところのロンドン・タイムスこれが一九二四年にこういう規定を設けたのでございます。ザ・タイムズという新聞は、創刊以来ウオルター家が経営していたのでありますが、一九〇八年——これは創刊から百二十年ばかりたつたあとのことでありますが、一九〇八年に、当時新聞王と言われましたノースクリツプ卿がこのタイムズを買収して、今までウオルター家が支配していた支配権を握るようになつたのであります。しかしノースグリツプがなくなられまして、先ほど申しました通り、一九二二年にウオルター家のアーサー・ウオルタこの人はJ・アスターという、今大佐でありますが、その協力を得まして、再びこのタイムズの支配権を得て、その翌々年一九二四年に株式譲渡制限規定を設けたのであります。ところが、この規定といいますと、日本の新聞社はもちろん、ほかの一般会社制限規定を私は十分存じておりませんけれども、若干の新聞社の制限規定に比べまして、ザ・タイムズの制限規定というものは非常に嚴重なものであります。それでその一部分を御紹介したいと思います。  このザ・タイムズという新聞は、ザ・タイムズ・パブリツシング・カンパニーという会社が所有しておるのでありますが、その定款中に「普通株はすでに普通株の株主たる者(普通株主が指定の価額をもつて買い受ける場合)または本会社取締役もしくは取締役会において承認せる会社に対してのみこれを譲渡することができる。取締役会は普通株を所有する社員たる限り何人に対しても普通株の買受けにつき優先権を認めることができる。」こういうふうな規定が設けてあります。これはそう大して厳格な規定とは言えないかもしれません。その次のザ・タイムズのパブリツシング・カンパニーを支配している親会社があります。それはザ・タイムズ・ホールデイング・カンパ二一でありますが、このザ・タイムズ・ホールディング・カンパニーの定款によりますと、第一に「普通株はアスター大佐もしくはウオルター氏以外の何人に対しても譲渡することはできない。但し左記よりなる委員会の承認を得た者はこの限りでない。」この左記といいますのは、英国主席裁判官ロード・チーフ・ジヤステイス、これははたして正しい訳語かどうか存じません。それからオツクスフオードのオール・ソウルズ・カレツジの学長、それから王立協会会長、ロイヤル・ソサイエテイの会長、それからイングランド及びウエルズ特許会計士会長、それにイングランド銀行総裁、つまりこの五人からなる委員会の承認がないと譲渡することはできない。これが第一に規定してある條項であります。その次に第二として「普通株を讓渡しようとする者は、讓受人たるべき者の氏名、住所、国籍、出生国並びに職業を通知しなければならない。讓受人たるべき者が政治上その他の公職の経歴者である場合はその前歴をも通知しなければならない。」それから第三としまして、「委員会はその適当と認める理由に基いて承認の可否を決定するにあたり、絶対の権限を有し、何らその理由を発表する義務を負わない。但しその決定に際しては(A)ザ・タイムズ紙の最も光輝ある伝統と政治的独立を維持することと、及び個人的利益よりも国家の利益を擁護すること、並びに(B)個人の野望や営利のために利用されるおそれある場合には、極力これを排除することに特に留意しなければならない。」それから第四として「法人その他自然人でない団体への譲渡は、一切これを認めることはできない。」こういうような規定が一九二四年以来設けられておるのであります。これはザ・タイムズでありますけれども、このほかにリバプール・デーリー・ポスト・エンド・エコー、これは朝刊新聞リバプール・デーリー・ポストと夕刊新聞のエコーを発行しております。ニューズ・オブ・ザ・ワールド、これは同じ名前の日曜新聞を発行して、八百三十八万二千という世界第一の部数という点でいばつております。それからザ・スコツツマン・パブリケーシヨンズ、これは朝刊スコツツマン、夕刊デイスパツチ等を発行しております。これは部数は大したことはありません。先ほど申しましたリバプール・デーリー・ポスト社と同様です。リバプール・デーリーポストは八万少ししか部数はありません。その次にヨークシヤー・コンザーヴアテイヴ・ニユーズ・ペーパーズ社、朝刊ヨークシヤー・ポスト・エンド・リーズ・マーキユリー、夕刊ヨークシヤー・イヴニング・ポストを発行しております。これも十四万九千ばかりのものでありますが、クオリテイー・ペーパーとして非常に信頼されておる新聞であります。こういう新聞がやはり譲渡制限規定を設けております。ここでちよつと申し上げなければならないことは、このザ・スコツツマン・パブリケーシヨンズ社はいわゆる私会社で、プライベート・カンパ二一でありますから、当然株主制限しなければならないという関係でこういう規定があるのでありますけれども、パブリツク・カンパニー、公会社で何ら法人上の制限を受けないにもかかわらずこういう規定が出ておるのであります。こういうふうにイギリスでは非常に信頼のあるいわゆるクオリテイー・ペーパーというものは、その性格、伝統を維持するために、株式の譲渡制限ということを行つているのであります。このほかこれは私会社でありますから、あるいは申し上げるのは適当でないかもしれませんが、有力な週刊雑誌のゼ・エコノミスト・ザ・スぺクテ一夕ー、ステーツマン・エンド・ネーシヨン・トルーというような週刊誌も、大体これはザ・タイムズに範をとつてやつたようでありますが、非常に厳格な譲渡制限規定を設けているのであります。これはイギリスの株式譲渡制限規定でありますが、アメリカの新聞社はどうかということをちよつと調べたのであります。アメリカの新聞社の定款で、はたしてこれを規定しているかどうかという点では、はつきりしたことは申し上げられないのでありますけれども、しかし実質的にはそういう規定と同じ行き方をしている新聞がございます。それはいわゆるウイスコンシンのミルウオーキー・ジヤーナル、これは夕刊新聞ですが、最近の部数で三十一万八千六百八十一部となつております。この新聞社では一九三七年から従業員が株式を社内に保有する制度を実施して、現在では従業員保有の株式資本総額の五五%そうして支配権を持つているというふうになつております。これはどういうふうにやつておるかというと、ジヤーナル従業員信託規約というものによりまして、従業員が株式一株を買い受ける場合には、手続利益参加持分一単位を買い受けることになるのでありまして、この持分一単位は株式一株を表示するものであります。そうして株式たる従業員はこの持分単位を売却しようとする場合、あるいは退社の場合には、受託者を通じてこれを一定の資格を持つておる他の従業員に売却しなければならない。こういう制度をとつております。つまり定款でははつきりいたしませんけれども、実質的には新聞社の株は社外に持ち出さないという結果になつておるのであります。それからこれと同じような制度をとつておるのは、ミズリー州の・シテイー・スター、これは夕刊新聞でありますが、最近の部数で三十五万九千六百七十三部でありますけれども、アメリカでは三十万以上あれば非常に大きな新聞であります。アメリカで夕、朝刊合せまして大体千七百八十種ばかりでございますが、そのうち一番すぐれた新聞、たとえばニユーヨーク・タイムズとかクリスチヤン・サイエンス・モニターというような新聞を六つあげれば、その中の一つには必ず入ると言われるほどの信用ある新聞であります。この新聞社でも、一九二六年、この新聞が一時経営不能になつて競売に付された。そのときに編集とか業務とか印刷とかの幹部が九十人ばかりで別に会社をこしらえた。現金二百五十万ドルを集めて、それを基金として千百万ドルでスターを競落不足金の八百五十万ドルは社債の発行によつて支払う。これで新会社株主はすべてスター社の従業員で、さらに各自が株式信託証書、トラスト、インデンチユアーに署名しまして、株主の死亡その他の理由によつてスター社との関係を失うようになつた場合には、他の株主、または会社に対してその株式の買受けの選択権を与えるということを承認し、そうしてこのキヤンサス・シテイー・スターの従業員による新聞所有制度を確立して、一時非常に声価を落したこの新聞がまためきめきとりつぱに声価を上げるとともに、経営者にも利益を増して、社債も最初の予定よりも早く、二年も前にこれを完済したということになつております。それから大体これと同じようなやり方をしたものには、ニユーヨーク・サンこの新聞も二十七万ばかりでありますが、これも同じような方法で別の発行会社をこしらえ、そうして社内の株を直接間接に社員が持つて、社外に株を出さない。こういうようなことをやつたのであります。ところがこれは一九四五年七月になりまして、この社員の持つておりましたところの株を社債に転換し、そうして経営会長でありますかが、また支配権を自分の手に攻めた。ところがその後経営があまりうまく行かずに、ついこの一月に遂に例のハワード・スクリツプ系のワールド・テレグラムに買収されてしまいました。そのほかこれは同じくキヤンサス州にあります小さな夕刊新聞で、部数八千ぐらいしか出ておりませんけれども、今はなくなりましたが、その編集長であり、また経営者であつたところのアレン、ホワイトという非常に偉い人がいたために、いなか新聞でありながら非常に全米に知れわたつたという新聞でありますが、この新聞でもやはり同じように従業員株主制でもつて株の社外流出を防いだ、こういうことになつております。大体日本、英米の新聞社の株式譲渡制限の状態は以上のようであると思うのでありますが、しかしながらこういうふうに新聞社が株式の譲渡制限を行うことは、元来どなたも御承知の通り、株式会社経済的な本質というものは、株式の自由なる流通によつて資本を大いに集めるという点にあるにもかかわらず、これを制限するというには、そこにそれだけの理由がなければならない。それでは新聞社はなぜそういう理由があるか。それは新聞がその本質的な任務とするところの公正なる報道、とらわれざる意見の発表によつて一般の社会人に正しい判断の材料を提供する、これが新聞の任務でありますから、この意味において自由にして責任あるところの新聞というものは、デモクラシーの基礎であるというふうに言われるのであります。こういう新聞本来の任務を果すためには、外部の勢力からの影響を排除しなければならない。その一つの大きな外部の勢力の影響を排除しようとするものがつまり株式譲渡制限、これは別の言葉で言いますれば、新聞社の財政的な独立、社内資本の確立ということになるのではないかと思うのであります。最近におきましては、株式会社においては資本と経営とが分離される点が注目されるようになつているのでありますけれども、この新聞というものは、その本質からして単純な商品ではなく、従つて新聞事業というものは単純な営利事業ではない。それでありますからして、新聞に投資する人は、必ずしもその投資による配当の獲得、あるいは利潤の追求ということがその目的ではなく、自分の主義、主張の一つの機関とするというふうな例があるわけなのであります。この場合株式を自由に譲渡させるということになれば、自分に何かの野心を持つているような人が、これを利用するということになつて、新聞の公正なろ報道、片寄らざる意見の発表という本質がそこなわれることになるからであろうと思うのであります。この要綱第七の立法の趣旨というのは、提案の趣旨を見ますと、大体投資の回収を容易ならしめるためとありますが、結局大衆投資を容易にし、経済民主化をはかるという点が、その基調になつておるのではないかと思いますけれども、しかしこういうことは、一般的にはあるいは妥当するかもしれないとも言えますけれども、少くともこれは新聞事業関係においては、あるいは反対の結果を生じ、かえつて新聞の任務の完遂を阻害して、デモクラシーの根本を破壊するような本末顛倒の結果になりはしないかということを私は懸念するのであります。そういうわけでありますから、少くとも新聞事業の場合におきまして、これにその株式譲渡制限を認めるということは、アメリカの統一株式移転法第十五條からいつても、合理的な理由があり、また公共的な政策に反しないものである。  それからカリフオルニア大学のブキヤナン教授が言つておりますところの、かかる規定を、つまり株式譲渡制限規定でありますが、かかる規定を必要とし、しかもそのために何ら社会の福利を害することのないような場合が存在することは確かに認め得られるところであるという点が、この新聞事業について言えるのではないかと思うのであります。  その次にこれはよく言われることでありますが、さきにもちよつと申し上げましたが、新聞は単なる商品ではない。しかしながらこれが私の企業としてやつて行く上には、ある程度の商品的性質がなければならない。しかしながらこの商品性をいかに見るか。この商品性を第一義に置いて、つまり利益追求を第一とするが、あるいはその方は第二義的、あるいは第三義的にして、一つの信念に撤したる新聞をやつて、読者は少くてもいいというふうな行き方で行く新聞もあり得るわけであります。この商品性を第一義に置く新聞、これがいわゆる大衆新聞と言わるべきものであると思うのであります。こういう大衆新聞の場合でありますれば、たとえばイギリスのデーリー、エキスプレス、これは四百十万ばかりの大きな部数を出しておりますが、これを出しておるところのロンドン、エキスプレス、それからデーリー、メール、これも二百二十万ばかりの部数を出しておる大きな新聞であります。こういうふうな新聞の行き方にならいまして、その株式の譲渡を自由にして、これを証券市場に放出して、投資の対象にさせるというやり方も必ずしも否定できないかもしれません。これは戦争中においても、イギリスの大新聞社の——大新聞社といいますのは大衆新聞、ロンドンのザ、タイムとか、マンチエスター、ガーデンとか、そういうものではなくて、部数の非常に多い、だれでも読まれるというふうな新聞でありますが、こういう新聞は今まで非常にもうかつて株式市場に人気を博していたのでありますが、日本の新聞でそういう行き方をしたいというのがあれば、それは認めていいかもしれないと思うのであります。大体新聞社はその株式を一般に放出しますというと、その株主なつたところの読者は、自分会社の新聞なんだからというので、それをいつまでも読もうとし、それから自分の知つておる人には勧誘する。一方広告主もなるべく自分の新聞に広告を出そうというふうな点からしまして、経営者においては、そういう一部の利益がないとは言えないのであります。しかしながら大衆の新聞と言いましても、それはあるいは大衆新聞であればあるほどその部数が大きいために、その与える影響というものが、またある意味においては非常に大きなものがある。そこでこれらの新聞を支配しておるものはだれかというふうなことは、非常に大きな問題となるわけであります。
  23. 花村四郎

    花村委員長 近藤君にちよつと申し上げますが、振り当てられた時間が参りましたので、御意見の開陳はなるべく簡潔にお願いいたします。
  24. 近藤貢

    近藤参考人 それではこれで私の申し上げる点は大体尽きるのでありますが、つまり大衆新聞でも非常に影響が大きいからして、だれがそういうものを所持するかということについては非常に問題がある。そういう点からしまして、最近英米におきまして新聞に関するいろいろの委員会がありまして、それに関する各種の勧告があつたのでありますが、その中に、新聞社をだれが所有するかというような点については非常に問題になつたのであります。その詳しいことは申し上げないのでありますが、つまり新聞社というものは、単なる物的会社じやない。そこに人的要素というものが非常にある。であるからして、そこの株式にしても、その譲渡を認めることやついて制限を与えるということは許さるべきじやないか、こういうふうに思うのであります。  それからこれは昨日もちよつと御意見が出たようでありますけれども、株式の譲渡を禁止しておるのは小さい会社である。だから大きな会社はあまりないというふうなこともありましたが、大体新聞事業というものは、いわゆるマス・コミニユケーシヨンというので、技術の進歩とともに非常に規模が大きくなる、大きな資本を要する。従つて資本主義経済における金融をやつて行く上に最高の形体であるところの株式会社形体をとるという必要も認められなければならない。  結論を申しますと、そういうふうな大きな資本資本もだんだん増して来ておるから、これは必ずしも小さな会社だけに限らないという点においても、制限をしてはいけないという規定は削除されたいという点にあるのであります。  最後に私はあと少し申し上げたいのでありますが、この法案がまだこの国会に提出されない前に、ある当路の方が、この譲渡の例外は認めることはできないというようなことを言つておられますが、このことは日本新聞協会報が報道しておるのでありまして、これがもしほんとうであるとすれば、いかにもこれは認めることはできない。それをちよつと読みますと、株式譲渡制限議決権制限禁止は、例外を認める余地は現在あり得ない正当の理由ある場合を例外とするように、法案が国会で訂正されれば別であるが、これもほとんど可能性がないというふうなことが報道されております。けれどもこれはいかにも押しつけである、国会で御審議の上で認められないということであれば、われわれとしてもそれは国会でおきめになつたことであるから、納得は行きますけれども、いまだ国会へも提出されない以前においてこういうことを言われるということは、もしこれが真であるとすれば、非常に何か押しつけがましいというふうなことで、われわれは納得できないという点を最後に申し述べて私の意見を終りたいと思います。
  25. 花村四郎

    花村委員長 次に名武正一君にお願いいたします。
  26. 名武正一

    ○名武参考人 私は日本公認会計士協会の副会長をいたしております公認会計士の名武正一であります。私はごく簡単に二つの点について申し上げたいのでございます。  その第一は、先ほどお話のありました財産目録を削除してはどうかという点でございましたが、その点私も同様に考えるのでございまして、今度の証券取引法によりましては、上場株式について財務諸表の準則を出すことになつておりますが、その証券取引法百三十九條を受けましたところの取引委員会の規則で大体財務諸表といたしましては、貸借対照表、損益計算表、これに剰余金計算書と、剰余金処分の計算書及び附属明細表を載せることになつております。従いまして商法におきましても、この上場株式会社に適用いたしますところの財務諸表の準則と歩調を合せて、やはり商法の上にも証券取引法と同じ規定をやられてはどうであろうかと存じまして、商法の二百八十一條の規定は証券取引法と歩調を合せて改正していただきたい。これが第一点でございます。  次に第二点といたしましては、先ほど来経営者側の代表せられますところの御意見なり、あるいは従業者側を代表せられますところの御意見等がございましたが、その点お互いの理解が足らないのではないか。今度商法改正せられますについては、大陸法系から英米法系に切りかえるのだ、こういうことになると、やはりまた企業経営者もその点について歩調を合せるべく、考え方について修正していただかなければならぬのではないかと思います。それで一番の眼目といたしましては、会計監査役の問題が中心になると考えられるのでありますが、今度の規定では監査役制度が会計監査役制度にかわりまして、会計監査役は従来の監査役が行いました業務のうち、業務監査だけを除いて、まつたくの経理監査のみに專念することになつておるのでありますが、ただこの規定から参りますと、監査役の権限を縮小したというだけのことに考えられます。監査役の権限を縮小しただけでなしに、この監査役を有効に使用して、経営者あるいは従業者の申されたような点に歩調を合せて行くべき点があるのではないか。その点といたしましては、百八十三條に、創立総会においては、取締役及び会計監査役を選任しなければならぬという旨がございます。この百八十三條にもう一項追加いたしまして、会計監査役は、職業監査人に限るという一項を入れていただきたい。かようにいたしますならば、その目的は達せられるのではないか、かように考えられるのでございます。従来の監査役制度につきましては、もう私がここであまり申し上げることもございませんが、たとえば最近におきましても、私どもの見ました中に、こういうはなはだしいのがございます。これは会社の名前はちよつと秘密にさせていただきたいと存じますが、資本金約一億九千五、六百万円か二億円の会社でありまして、貸借対照表を見ますと、当期欠損金六千六百万円、これが損益計算書を見ますと、当期利益金六千六百万円というふうになつております。かような決算書がどうして監査役の承認を受けておるかということは、まことに奇異に存ずるのでありまして、その損益計算書の利益という上に三角のしるしがしてございます。これが要するに利益と書いてあるけれども、反対を表わす意味だ、税務署で使つておるような符牒を使つて、これで利益と書いてあるが、欠損であるという意味を表わしておるという意味らしいのでございます。  次にまたこれは三億五千万円の会社でございますが、利益金一億五千何百万円出ました中を、税金引当て金に一億円とつておいて、あとは当期繰越しということになつております。これを私ども拜見いたしますると、この税金引当て金から逆算いたしますれば、少くとも利益が二億五千万円出なければならぬ。一億円はどつかに行つておるのであります。かようなことが考えられるのであります。この点私ども大会社の重役さんにお尋ねしたのですが、どうもこれは利益がおかしいように思うが、いかがでしようか。そうしたらその程度の引当金でいいんだろうというような考え方であつて、どうもはつきりいたしません。そういうお話でございました。しかしこれは私もその内容については、他の方面から知つておりますから、それ以上申し上げませんでしたが、これは少くとも二億五千万円の利益があります。ですからかようなことがありまして、ただ少数株主会社荒しをするというようなことばかりを言つて株主権を抑圧するというようなことも、これは相当頭の切りかえをしていただいて、公正な経営者は公正に発表して、公正なる審判を受けるというところに向つていただきたい。かような意味からいたしますと、どうしても会計監査役は従来のような取締役が任命すると申しますか、取締役の命を受けて監査をするような人であつては決して公正な監査はできません。従いまして債権者あるいは従業員等にいたしますれば、非常な疑いを持つことになりますから、この点は公平なる第三者の職業監査人によつて監査を受け、これを発表することが最も信頼を受ける道であろうと考えております。その点につきましては、証券取引法の百九十三條の二におきましては、上場株式会社については公認会計士の監査証明を受けるべきことが要求せられておるのでありますが、この会計監査役を職業監査人にいたしませんと、やはり従来と同様に会計監査役は内部監査をいたし、また外部監査としては公認会計士の監査証明を受けなければならぬということになりまして、これは会社にとつても二重の経費の負担となるのでございますから、この際かような旧来の制度を改めますにあたつては、会計監査役は職業監査人をしてこれを担当させることに改めていただきたいと存じます。昭電事件のごときも、いま少し早く監査制度ができておつたならば起らなかつたろうと言われておりますが、そのようなことは今日ひつきりなしに起つておる問題でございまして、この際にこそ監査役制度を大きくかように改正いたしませんならば、証券の民主化もなかなかほど遠いことではないか。外資の導入等も完全に行われるかどうか懸念いたす次第でございます。従いまして私は会計監査役はもう一項を加えまして、職業監査人に限るというような規定を置いていただいてはいかがであろう、かように存ずるのでございます。私の申し上げますことはこれだけでございます。
  27. 花村四郎

    花村委員長 午後の分として意見を開陳せられました参考人方々に対する御質疑はありませんか——御質疑がなければ以上をもつて本日御出席参考人意見の陳述は全部終了いたしました。  参考人方々に申し上げます。本日は長時間にわたり、おのおのの立場より御熱心に有益な御意見を承ることができましたことは、委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。お述べいただいた御意見参考にいたし、今後法案の審査を行つて参りたいと存じます。  本日はこの程度で散会いたします。     午後四時二分散会