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1950-04-05 第7回国会 衆議院 法務委員会 第20号
公式Web版
会議録情報
0
昭和二十五年四月五日(水曜日) 午後一時五十六分
開議
出席委員
委員長
花村
四郎君
理事
角田 幸吉君
理事
北川 定務君
理事
小玉
治行
君
理事
田嶋 好文君
理事
猪俣 浩三君
理事
田中 堯平君 佐瀬 昌三君
眞鍋
勝君 武藤 嘉一君
石川金次郎
君 田万
廣文
君
世耕
弘一君
出席政府委員
刑 政 長 官 佐藤
藤佐
君 検 事 (
刑政長官総務
室主幹
) 關 之君 検 事 (
民事局長
)
村上
朝一君
委員外
の
出席者
專 門 員 村 教三君 專 門 員 小木 貞一君 ————————————— 本日の
会議
に付した事件
矯正保護作業
の運営及び利用に関する
法律案
(
内閣提出
第八八号)
国籍法案
(
内閣提出
第一三八号)
国籍法
の
施行
に伴う
戸籍法
の一部を
改正
する等 の
法律案
(
内閣提出
第一三九号) —————————————
花村四郎
1
○
花村委員長
これより
会議
を開きます。 本日はまず
国籍法案
を議題といたし、
政府
より
逐條説明
を求めます。
村上朝一
2
○
村上
(朝)
政府委員
国籍法案
につきまして逐條的に御
説明
いたします。
現行国籍法
は
明治
三十二年
法律
第六十六号として、同年四月一日から
施行
され、その後大正五年、大正十三年に
改正
を見、さらに
終戰後
、内務省の
廃止
及び
法務庁
の設置に伴いまして、一部の
形式的改正
を見まして今日に至
つて
おるのであります。
現行国籍法
は、
出生
による
国籍
の
取得
については、
血統主義
を
原則
といたしまして、その補充として
出生地主義
を採用しております。また
近代各国
の
国籍立法
の
傾向
に従いまして、
国籍
自由ないし
国籍
非強制の
原則
に基く
規定
を設けますとともに、
国籍
の
積極的牴触
、いわゆる二重
国籍
及び
消極的牴触
、すなわち無
国籍
の
発生
を防止するために、相当
考慮
を沸
つて
おるのであります。
現行法
の立脚しておりますこれらの諸
原則そのもの
は、今日においてもこれを
変更
する必要はないのでありますが、何分
現行法
は新
憲法制定
前の
法律
でありますために、
憲法
の
規定
の
趣旨
に沿わないものを含み、ことに
改正
前の
民法
における
家族制度
を基礎としております
関係
上、その中には
改正民法
と直接に
牴触
する
規定
も少くないのであります。従いまして
現行法
には
改正
を要する
條文
がかなり多数に上りますので、この
法案
におきましては、
現行法
の一部
改正
という
形式
をとらずに、
現行法
を
廃止
して新たに
国籍法
を制定するという
形式
をと
つたの
でありますが、この
法案
の立案に当りましては、
現行法中新憲法
及び
改正民法
の
趣旨
に一致しない点を、これに合致するよう改めることに主眼を置きまして、その他の点につきましては、長年にわた
つて
実施されて参りました
現行法
の
建前
をできる限り踏襲いたしまして、その
変更
は
必要最少限度
にとどめることといたしたのであります。 以下
現行法
と対照しながら御
説明
を申し上げますが、まず第
一條
でありますが、これは
現行法
にはこれに相当する
規定
はございませんけれども、
憲法
第十條の
規定
を受けて、この
法律
の
目的
を明らかにいたしたのであります。 第
二條
は
出生
による
日本国籍
の
取得
に関する
規定
でありまして、第一号及び第二号は
現行法
第
一條
に相当いたします。第三号は
現行法
第三條に、また第四号は
現行法
第四條に相当いたします。
現行法
の採用しております
出生
による
国籍取得
に関する
血統主義
の
原則
及びその補充としての
父母
が知れない場合及び
父母
が無
国籍
の場合における
出生地主義
の
原則
を、そのまま踏襲しようとするわけであります。
現行法
第
二條
に相当する
規定
は
改正案
にはないのでありますが、この
現行法
第
二條
のうち、第一項は
離婚
または
離縁
が
日本国籍喪失
の
原因
となることを前提としております。また第二項は
家族制度
に立脚する
規定
でありますが、この
法案
においては、後に申し上げます通り、
離婚
及び
離縁
には
国籍喪失
の
効果
を伴わしめず、また
家族制度
に立脚する
規定
はこれを
廃止
する
建前
でありますので、
現行法
第
二條
に相当する
規定
は、この
法案
には設ける必要がなく
なつ
たわけであります。 第三條は、
帰化
に関する通則を
規定
したものであります。
外国人
は、
帰化
によ
つて日本国籍
を
取得
することができること及び
帰化
をするときには、
法務総裁
の
許可
を必要とすることを明らかにしております。
現行法
の第
五條
第五号及び第
七條
第一項に相当するものであります。右に述べましたように、
帰化
によ
つて日本国籍取得
の
効果
が生ずることは、
現行法
においても、この
法案
においても同様でありますが、
現行法
は、第十六條及び第十
七條
において、
帰化人
に対し国務大臣その他国家の重要な
官職
につく
資格
を
制限
しておりますが、これは、
日本国民
のすべてが法の前に平等であることを宣言した
憲法
第十四條の
規定
と
牴触
するものと考えますので、この
法案
ではかかる
制限
を撤廃しております。 第四條は、
通常
の場合における
帰化
の
資格條件
を
規定
したものでありまして、
現行法
第
七條
第二項の
規定
を踏襲したものであります。ただ同項第三号の「品行端正」をこの
法案
では「
素行善良
」と改めておりますが、これは單に表現を平易にしただけであ
つて
、実質には
変更
ありません。またこの
法案
の第六号は、
現行法
にはない
規定
であるが、今後新たに
日本国民
になろうとする者については、当然に要求せらるべき
條件
でありまして、かつ第三号の
素行善良
ということだけでは、必ずしもまかないきれぬおそれがありますので、特にこれを追加することといたしたのであります。 第
五條
は、
通常
の
帰化
の場合に要求される第四
條所定
の
條件
のうち、第一号の
規定
による五年の
住所期間
の
條件
が緩和される特別の
帰化
の場合を
規定
したのであります。大体において
現行法
第九條の
趣旨
を踏襲したものでありますが、第一号では、
現行法
第九條第一項第二号の「妻ノ
日本人タリシ者
」とあるのを「
日本国民
の夫」と改めました。これは、
現行法
第十
八條
によりますと、
日本国民
が
外国人
の妻となり夫の
国籍
を
取得
したときは、当然に
日本国籍
を失うこととな
つて
おりますが、この
法案
では後に申し述べますように、右の
原則
を採用しないことといたしましたので、
外国人
の妻と
なつ
た
日本国民
が
日本国籍
を失うのは、
外国
に
帰化
し、または
日本国籍
を離脱する等、直接または間接に
日本国籍
の喪失を希望する行為の結果なのでありますから、かかる者の夫に対して、妻が
日本国民
であつたという理由で、
住所期間
の
條件
を緩和するのは適当ではないという
考慮
に基くものであります。第二号及び第三号は、
現行法
第九條第一項第一号、第三号及び第二項の
規定
に相当するのでありますが、
現行法
においては、
家族制度
との関連上、
養子
も
実子
と同様に取扱
つて
おりますが、
家族制度
の
廃止
せられた今日におきましては、
帰化
の
條件
の
関係
では、
実子
と
養子
はこれを区別するのが適当でありますので、この
法案
では、
養子
については
住所期間
の
條件
を緩和しないことにいたしました。第四号は、
現行法
第九條第一項第四号とまつたく
同一
趣旨
であります。 第六條は、
通常
の
帰化
の場合に要求される第四
條所定
の
條件
のうち、第一号、第二号及び第四号の
條件
の具備を必要としない特別の
簡易
な
帰化
の場合を
規定
したものであります。 まず第一号の
規定
によ
つて
、
日本国民
の妻に対しては、
本條
の
規定
によ
つて帰化
を
許可
することができるといたしております。
現行法
は、
夫婦国籍同一主義
の
原則
によ
つて
、
外国人
の妻は、その夫とともにするのでなければ
帰化
をなし得ないものとして、妻の
單独帰化
を禁止するかわりに、
外国人
が
日本国民
の妻と
なつ
たときは、
婚姻
によ
つて
、当然に
日本国籍
を
取得
し、また
日本国籍
を
取得
する者の妻は、その
本国法
に反対の
規定
がない限り、夫による
日本国籍取得
の
効果
として、当然に
日本国籍
を
取得
するものとし、ただ、
本国法
に反対の
規定
がある結果、その者が
日本国籍
を
取得
できない場合には、
通常
の
帰化
の場合に要求される
條件
を具備しないときでも、
帰化
を
許可
することができることとしているのであります。元来、妻は夫の
国籍
に従うという
夫婦国籍同一主義
は、従来各国の
国籍法
の採用していた
原則
でありまして、
家族制度
に立脚する
現行国籍法
も、もとよりこの
原則
によ
つて
いたのでありますが、近来における夫婦平等の思想の発展の結果、
国籍
の
関係
においても、妻に夫からの独立の
地位
を認めようとする
傾向
が次第に強くなりまして、ソビエト・ロシアは一九一八年、
アメリカ合衆国
は一九二二年、フランスは一九二七年、つとに
国籍
の
得喪
について
夫婦平等主義
を実現しておりますし、また最近においては、
イギリス
も一九四八年の新
国籍法
において、同じく
夫婦平等主義
を採用し、カナダを初め、
イギリス
の各
自治領
も、本国の立法にならうこととな
つたの
であります。以上の
傾向
にかんがみますときは、現在なお
夫婦国籍同一主義
を採用する
諸国
も、今後近い将来において、
夫婦平等主義
を採用することになるのは、容易に予測できるところであるばかりでなく、ことにわが国は、
憲法
第二十四條において、両性の本質的平等を宣言し、個人の
尊嚴
を重んずる立場から、
民法
における
家族制度
をも
廃止
いたしました以上、上述した
現行国籍法
の
夫婦国籍同一主義
は、当然に
廃止
せらるべきものと考えるのであります。この
法案
におきましては、
外国人
たる妻の
單独帰化
を禁止しないのはもとより、
日本人
たる夫との
婚姻
及び夫による
日本国籍
の
取得
は、
外国人
たる妻の
日本国籍取得
の当然の
原因
とはならないことといたしますとともに、
日本国民
の妻である
外国人
は、この
法案
第六條第一号の
規定
によ
つて
、きわめて
簡易
な
手続
によ
つて帰化
し得る道を開いたのであります。第二号は、
現行法
第十條に相当するものでありますが、ただ
養子
については、これを
実子
と
同一
に取扱うのは必ずしも適当でありませんので、別に第三号において
規定
することといたしました。
現行法
は、子の
国籍
は親の
国籍
に従うという
家族一体主義
の
原則
及び
家族制度
の要請によ
つて
、
外国人
が
日本国民
たる父または母によ
つて
認知
されたときは、当然に
日本国籍
を
取得
するものとし、また
日本国籍
を
取得
する者の子も、父または母による
日本国籍
の
取得
に随伴して、ともに
日本国籍
を
取得
するものといたしております。しかしながら、子の
地位
を
父母
の
地位
から独立させるという、子の
地位
の独立の思想は、近代における
親子法
の指導原理でありまして、
諸国
の
国籍立法
においても、団籍の
得喪
に関し、できる限り、子の
自由意思
を尊重するという方向に向
つて
おりますばかりでなく、個人の
尊嚴
は、
憲法
第二十四條の宣言するところでありますので、この
法案
におきましては、
認知
及び父または母による
日本国籍
の
取得
は、当然には子の
国籍
に影響を及ぼさないこととし、
日本国民
の子である
外国人
が
日本国籍
を
取得
するには、
帰化
の方法によらなければならないことといたしますとともに、その者が現に
日本
に
住所
を有するときは、この第六條第二号の
規定
によ
つて
、
簡易
に
帰化
をすることができることとしたのであります。第三号は、
日本国民
の
養子
である者が、
本條
の
規定
によ
つて簡易
に
帰化
し得るための
條件
を
規定
したものでありまして、
現行法
では、やはり
家族一体主義
及び
家族制度
の
建前
に基き、
外国人
が
日本国民
の
養子
と
なつ
たときは、当然に
日本国籍
を
取得
するものとされるとともに、
明治
六年第百三
号布告改正法律
において、
日本国民
が
外国人
を
養子
とする場合の要件を
規定
しております。しかしながら、かかる
現行法
の
建前
も、
憲法
第二十四條との
関係
上、もはや維持すべきでないことは、もとよりでありますので、この
法案
では、
養子縁組
には
日本国籍取得
の
効果
を認めず、
日本国民
の
養子
である
外国人
が
日本国籍
を
取得
するには、
実子
の場合と同じく、
帰化
の
手続
によらなければならないものとし、特に第六條の
規定
によ
つて簡易
に
帰化
をするには、引続き一年以上
日本
に
住所
を有し、かつ
縁組
のとき
本国法
により
未成年
であつたことを要するものといたしました。ここで一年の
住所期間
を必要としたのは、
前記明治
六年第百三
号布告改正法律
の
規定
の
趣旨
を踏襲したものでありまして、また
縁組
のとき
本国法
により
未成年
であつたことを必要としたのは、
成年者
を
養子
とする場合には、子の利益のために
親子関係
を創設するという
養子縁組
本来の
目的
のためではなく、他の
目的
を達するための手段として
縁組
の
制度
が利用されることが少くなく、ことにこの
法案
第六條の
関係
では、第四條第一号の
規定
によ
つて
要求される五年の
住所期間
の
條件
の
適用
を免れることによ
つて
、
簡易
に
日本国籍
を
取得
するため、その手段として
縁組
がなされるおそれがありますので、これを防止しようとする
趣旨
であります。第四号は、
日本
の
国籍
を
失つた者
が
日本
に
住所
を有するときは、
本條
の
規定
によ
つて
、
簡易
に
帰化
し得ることを
規定
したものであります。
現行法
第二十
五條
によれば、
婚姻
によ
つて日本国籍
を
失つた者
が
婚姻解消
の後
日本
に
住所
を有するときは、
法務総裁
の
許可
を得て
日本国籍
を回復することができ、また同じく第二十六條によれば、第二十條から第二十
一條
までの
規定
によ
つて日本国籍
を
失つた者
が、
日本
に
住所
を有するときは、
法務総裁
の
許可
を得て
日本国籍
を回復することができることとな
つて
いるが、本号の
規定
は、
現行法
における右の
国籍回復
に相当するものであります。
現行法
のもとにおける
帰化
及び
国籍回復
は、ともに
法務総裁
の
許可
を得て
日本国籍
を
取得
する場合なのでありますが、両者の相違は、第一に、
帰化
によ
つて日本国籍
を
取得
したものは、第十六條の
規定
によ
つて一定
の公職につく
資格
を
制限
されるが、
国籍回復
によ
つて日本国籍
を
取得
した者は、かかる
制限
に服せず、第二に、
帰化
が
許可
されるためには、
原則
として第
七條
第二項第五号の
規定
によ
つて
、
国籍
の
牴触
を生じないことが
條件
として要求されるのに反し、
国籍回復
の場合にはかかる
條件
の具備を必要としない点にあります。しかるにこの
法案
におきましては、
現行法
第十六條のような
帰化人
に対する
資格制限
の
規定
はなく、また二重
国籍
の
発生
を防止する必要は、
ひとり帰化
の場合だけでなく
国籍回復
の場合においても存するのでありますから、この
法案
のもとにおいては、
帰化
のほかに別に
国籍回復
の
制度
を設ける実益がありません。
従つて
この
法案
では、
現行法
の
国籍回復
は
帰化
の一場合として、これを第六條第四号に
規定
したのであります。なお
日本
に
帰化
したのち、
日本
の
国籍
を
失つた者
を本号の
適用
から除外しましたのは、
現行法
第二十六
條但書
の
精神
を踏襲したものであります。 次に第
七條
は
現行法
第十
一條
の
規定
を踏襲したものであ
つて
、ただ
憲法
第四條第一項の
規定
によ
つて
、天皇には国政に関する権能がないこととな
つたの
で、勅裁を
国会
の承認に改めました。ここで特に
国会
の承認を得ることとしたのは、
国会
の権威を重んずるとともに、
本條
の
規定
による
帰化
をより意義あらしめるという
考慮
に基くものであります。 以上この
法案
では、第
二條
から第
七條
までの
規定
によ
つて
、
日本国籍取得
の
原因
は、
出生
及び
帰化
の二つに限り、このほかに
現行法
が
日本国籍取得
の
原因
として認めている
婚姻
、
認知
、
養子縁組
、夫または
父母
による
日本国籍
の
取得等
は、前述しました通り、すべて
日本国籍取得
の当然の
原因
とはならないこととしました。 次に第
八條
は、
国籍変更
の自由を認めるとともに、
国籍
の
牴触
を防止することを
目的
とする
規定
であ
つて
、
現行法
第二十條の
規定
をそのまま踏襲したものであります。 第九條は
国籍
の
牴触
を防止する
規定
でありまして、
出生
による
国籍
の
取得
について、
出生地主義
を採用する国、たとえば
アメリカ合衆国
、
南米諸国
、
イギリス
、その
自治領等
において生れた
日本国民
は、
出生
によ
つて日本国籍
のほかに
出生国
の
国籍
をも
取得
し、二重
国籍
となりますので、かかる者については
戸籍法
の定めるところによ
つて
、
日本国籍
を留保する
意思
を表示しなければ、
出生
のときにさかのぼ
つて日本国籍
を失うこととしたのであります。
本條
は
現行国籍法
第二十條の二、第一項に相当する
規定
でありますが、
現行法
では同項の
適用
を
勅令指定国
における
出生
の場合だけに限定していますが、
国籍
の
牴触防止
の必要がありますのは、ひとりこれら特定の国における
出生
の場合だけに限られるものではありませんから、この
法案
では右の
現行法
の
趣旨
を、
出生
による
国籍
の
取得
について
出生地主義
を採用するすべての国において生れた
日本国民
に拡張することといたしました。なお
現行法
は、
国籍留保
の
手続
に関しては
国籍法施行規則
に讓り、同規則第
二條
にこれを
規定
していますが、
国籍留保
は
出生届
と関連がありますので、この
法案
では
戸籍法
でその
手続
を
規定
することとしました。 第十條は
憲法
第二十
二條
第二項におきまして、
国籍離脱
の自由を保障しているのに対応して、
日本国民
が
法務総裁
に
届出
ることによ
つて
、
日本国籍
を離脱し得ることを
規定
したものでありますが、無
国籍
の
発生防止
は、一九三〇年の「
国籍法
の
牴触
に付ての或種の問題に関する條約」その他最近における
各国国籍立法
の理想とするところでありますから、
本條
においても、
日本国民
は同時に
外国国籍
を有するときに
限つて
、
国籍離脱
をなし得ることとして、無
国籍
の
発生
を防止することとしました。なお
現行法
第二十條第二項、第三項、第二十條の三及び
国籍法施行規則
第三條第一項によれば、
勅令指定国
で生れたことによ
つて
その国の
国籍
を
取得
した
日本国民
が、
当該外国
の
国籍
を有し、かつその国に
住所
を有するときは、
法務総裁
に対する
届出
によ
つて
、また
勅令指定国
以外の
外国
で生れたことによ
つて
、その国の
国籍
を
取得
した
日本国民
が、その国に
住所
を有するときは、
法務総裁
の
許可
を得てそれぞれ
日本国籍
を離脱することができることとな
つて
おりますが、まず
国籍離脱
の方法を
法務総裁
に対する
届出
と
法務総裁
の
許可
との二つに区別する実質的な理由がないのでありまして、
国籍離脱
を
法務総裁
の
許可
にかからせることは、
前記憲法
第二十
二條
第二項の
精神
にも反しますので、この
法案
におきましては、
国籍離脱
はすべて
法務総裁
に対する
届出
によ
つて
することができることといたしますとともに、
国籍離脱
をなし得る場合を
現行法
のように狭く限定することも、また右の
憲法
の
規定
の
精神
に反しますので、この
法案
におきましては、
当該日本国民
がいかなる
原因
によ
つて外国国籍
を
取得
したか、及びその
住所
がどこにあるかを問わず、
外国
の
国籍
を有する
日本国民
は、すべて自由に
日本国籍
を離脱することができることといたしたのであります。 以上この
法案
におきましては、
日本国籍喪失
の
原因
を第
八條
から第十條までに
規定
する場合、すなわち自己の志望による
外国国籍
の
取得
、
日本国籍
の不留保及び
国籍離脱
の三つの場合に
限つたの
でありますが、
現行法
におきましては右以外に、
婚姻
、
離婚
または
離縁
、夫または
父母
の
国籍喪失
、
認知等
、
身分行為
または身分
関係
によ
つて
当然に
日本国籍
が失われる場合を
規定
しておるのでありますが、この
法案
におきましては、前述した
国籍
の
得喪
における夫婦平等の実現及び
家族一体主義廃止
の
建前
を一貫しまして、
現行法
の
規定
する前記諸事由は、すべて
日本国籍喪失
の
原因
とはならないことといたしたのであります。 次に第十
一條
は、
帰化
の
許可
の
申請
及び
国籍離脱
の
届出
の能力に関する
規定
であ
つて
、
本人
が十五歳
未満
であるときは、その
法定代理人
がかわ
つて
申請
または
届出
をすべきことを
規定
いたしたものであります。
現行法
には
本條
に相当する
規定
がなく、ただ
国籍法施行規則
第三條第三項及び第
五條
において、
国籍離脱
の
届出
または
国籍離脱
の
許可
の
申請
は、
本人
が十五歳
未満
であるときは、
法定代理人
がこれをし、十五歳以上の
未成年者
または禁治産者であるときは、
法定代理人
の同意を得てこれをすべきものと
規定
されております。また同じく第
八條
第二項におきまして、
国籍法
第二十條の二または第二十條の三の
規定
によ
つて国籍
を
失つた者
が十五歳
未満
であるときは、父、母、祖父、祖母の順序に
従つて
、
国籍回復
の
許可
を
申請
すべき旨を
規定
されるにととどまり、
帰化
及び右に掲げた以外の者の
国籍回復
の場合には、
許可
の
申請能力
については何ら
規定
されるところがなく、
規定
が不備であ
つたの
でありますが、この
法案
におきましては、
意思能力
に基準を置き、できる限り
本人
の
意思
を尊重するという
建前
から、
帰化
の
許可
の
申請
及び
国籍離脱
の
届出
は、
本人
が十五歳以上であるときは、
本人
みずからこれをし、十五歳
未満
であるときは、
法定代理人
が
本人
にかわ
つて
これをすることとしたのであります。 次に第十
二條
は、
帰化
及び
国籍離脱
に関する
官報
の告示並びに
帰化
及び
国籍離脱
の
効力発生
の時期についての
規定
であります。
現行法
のもとにおきましても、
帰化
及び
国籍離脱
は
官報
に告示することとな
つて
おりますが、その
効力
につきましては、
帰化
については、
法務総裁
の
許可
の日から生ずるが、
官報
の告示があつた後でなければ、これをも
つて
善意の第三者に対抗することができないものとされております。また
国籍離脱
につきましては、
法務総裁
に対する
届出
による場合には、その受理の日から、
法務総裁
の
許可
による場合には、
許可書
の日付の翌日から起算して三十日を経過したときから生ずるものとされておる。しかも満十七歳以上の男子については、すでに
陸海軍
の現役に服したとき、またはこれに服する義務がないときでなければ、
日本国籍
を失いません。もつともこの
規定
は軍備の
廃止
によ
つて効力
を失
つて
いると考えるのであります。また現に
官職
を帯びている者は、その
官職
を
失つた
後でなければ、
日本国籍
を失わないこととな
つて
おるのでありますが、この
法案
におきましては、
現行法
の右のような態度を改めまして、
帰化
及び
国籍離脱
の
効力
の
発生
の時期を明確にするため、この両者はすべての人に対する
関係
におきまして、ともに
官報
に告示された日から
効力
を生ずることといたしたのであります。 第十三條は、
帰化
及び
国籍離脱
に関する細目の
手続規定
を
法務
府令に委任する
趣旨
でありまして、
法務
府令におきましては、主として
帰化
の
許可
の
申請
及び
国籍離脱
の
届出
をする場合の
経由機関
、
申請
及び
届出
の方式、
添付書類等
について裁定する予定であります。 附則の第一項におきまして、この
法律
の
施行期日
を本年七月一日といたしましたのは、この
法律
の
施行
につきましては、
準備期間
を必要といたします。かつ在外の
日本人
にもこの
法律
の内容を周知させるため、時日の余裕を置く必要があるからであります。第二項は、この
法案
が
現行法
の
改正
という
形式
をとらず、新法の制定という
形式
をとつたことに基く
規定
であります。第三項及び第四項は、この
法律
の
施行
前にされた
帰化
の
許可
の
申請
、
国籍回復
の
許可
の
申請
及び
国籍離脱
の
許可
の
申請
でありまして、この
法律施行
の際に
処理未済
であるものの処置に関する
経過規定
であります。第五項は
現行法
第二十六
條但書
の
規定
によりまして、
帰化人
だけでなく、
現行法
第十
五條
第一項の
規定
によ
つて日本国籍
を
取得
した
帰化人
の子及び
日本国民
の
養子
または入夫とな
つた者
も
国籍回復
をなし得ないこととな
つて
おりますので、この
規定
の
趣旨
を踏襲して、これらの者が
日本国籍
を
失つた
場合は、
新法施行
後においても、
現行法
の
国籍回復
に相当する新法第六條第四号の
規定
による
帰化
をなし得ない旨を
規定
したものであります。 以上をも
つて
国籍法案
の逐條の
説明
を終ります。
花村四郎
3
○
花村委員長
次に
国籍法
の
施行
に伴う
戸籍法
の一部を
改正
する
法律案
について、
政府
の
説明
を求めます。
村上政府委員
。
村上朝一
4
○
村上
(朝)
政府委員
国籍法
の
施行
に伴う
戸籍法
の一部を
改正
する等の
法律案
につきまして簡單に御
説明
いたします。 第
一條
は、新
国籍法
の
施行
に
伴つて国籍
の
得喪
に関する
戸籍
の
手続
にも
変更
を生ずることとなりますので、
戸籍法
中
国籍
の
得喪
に関する第百
二條
から第百六條までの
規定
に必要な
改正
を加えようとするものであります。 まず
現行戸籍法
第百
二條
及び第百三條は、
外国人
が
養子縁組
または
婚姻等
によ
つて日本国籍
を
取得
すべき場合及び
外国人
が
認知
によ
つて日本国籍
を
取得
すべき場合における
戸籍
の
届出
に関する
規定
でありますが、新
国籍法
におきましては、
養子縁組
、
婚姻
及び
認知
は、いずれも
日本国籍取得
の
原因
とはならないこととなりますので、右の
規定
はいづれもその必要がなくな
つたの
で、この
法案
では、
帰化
の
届出
に関する
規定
を第百
二條
とし、
国籍喪失
の
届出
に関する
規定
を第百三條としたのであります。 第百
二條
は、
現行法
の第百四條に相当する
規定
でありますが、新
国籍法
では、
帰化
の
効力
は
告示
の日から生ずることとな
つて
おりますので、
現行法
で
届出
の起算日が
帰化
の
許可
の日とな
つて
おりますのを
告示
の日に改めます。また新
国籍法
では
本人
の
帰化
によ
つて
その者の妻または子が、ともに
日本国籍
を
取得
するという場合がなくなりますので、
現行法
第百四條第二項第四号及び第三項に
規定
する事項にかえまして、配偶者に関する事項を届書に記載させるものとし、かつ
帰化
をした者の
父母
が
日本国籍
を有するときは、
戸籍
上の
関連
を明確にするため、その本籍をも届書に記載させることとしたのであります。 第百三條は、
現行法
の第百
五條
第一項及び第二項と
同一
でありますが、同條第三項は、新
国籍法
には
現行国籍法
第二十四條第二項に相当する
規定
がないので、その必要がなくな
つたの
であります。 第百四條は、新
国籍法
第九條の
規定
を受けて、
日本国籍
を
留保
する場合の
届出
に関する
手続
を
規定
したものであります。 第百
五條
は、従来
国籍喪失
の
届出
がとかく怠られがちであつた実情にかんがみまして、
法務総裁
が
国籍離脱
の
告示
をした場合、その他官庁または公署が、その職務上
国籍
を
失つた者
があることを知つたときは、本籍地の市町村長に
国籍喪失
の報告をさせることによ
つて
、すみやかに
戸籍
の記載を可能ならしめようとする
趣旨
であります。
現行法
第百六條は、
国籍回復
の
届出
に関する
規定
でありますが、新
国籍法
では
国籍回復
の
制度
がなくなるので、これを削除することとしたのであります。 第
二條
は、
法務
府設置法第十三條の二第一項は、
法務総裁
の管理に属する事務のうちに、
法務
局及び地方
法務
局の分掌するものを
規定
しているのでありますが、その中には、同法第
八條
第三項第一号に
規定
する
国籍
に関する事項は、含まれていないのであります。しかしながら、新
国籍法
施行
後においては、
法務
局または地方
法務
局に、
帰化
の
申請
があつた場合における
帰化
の
條件
の下調べその他
国籍
に関する事務を分掌させるのが適当でありますから、第十三條の二第一項の引用
條文
中に第
八條
第三項第一号を追加したのであります。 第三條は、
明治
六年第百三
号布告改正法律
、
明治
三十一年
法律
第二十一号の
廃止
でありますが、この
法律
は、
日本人
が
外国人
を
養子
または入夫とするには、
法務総裁
の
許可
を得べきこと及びその
許可
の
條件
として、
当該外国
人が引続き一年以上
日本
に
住所
または居所を有し、かつ品行端正であることを要する旨を
規定
しているのであります。この
法律
は、
養子縁組
または入夫
婚姻
が当然に
日本国籍取得
の
効果
を伴うことを前提としたものであります。しかるに入夫
婚姻
の
制度
は
民法
の
改正
によりまして現存すでに
廃止
され、また新
国籍法
のもとにおいては、
養子縁組
は
日本国籍取得
の当然の
原因
とはならないわけで、
日本国民
の
養子
とな
つた者
が
日本国籍
を
取得
するには、すべて
帰化
の
手続
によるべきこととな
つて
おりまして、この
法律
は新
国籍法
施行
後においてはその必要がなくなりますので、
本條
においてこれを
廃止
することとな
つたの
であります。 簡單でありますが、これをも
つて
御
説明
を終ります。
角田幸吉
5
○角田
委員長
代理 これにて
政府
の
説明
は終了いたしました。 速記をとめてください。 —————————————
角田幸吉
6
○角田
委員長
代理 速記を始めてください。 次に昨日に引続き
矯正保護作業
の運営及び利用に関する
法律案
を議題とし、質疑に入ります。質疑の通告がありますから、これを許します。
石川金次郎
君。
石川金次郎
7
○石川委員
矯正保護作業
の運営及び利用に関する
法律案
についてお伺いいたしますが、まずこの
法律
を理解いたしますのには、
矯正保護作業
というものの本質とでもいいますか、概念といいますか、これを明らかに認識しておく必要があるかと存じますので、この点をお伺いしておきたいと思います。 受刑者に対する国の政策は、その受刑者の矯正保護にあるということは申し上げるまでもなかろうと思います。そこでこの矯正保護の
目的
を達成する一つの
方法
といたしまして作業が課せられるのでありまして、作業が課せられる以上、必要量の作業が常に存しなければならぬということも、これまた言うまでもございません。しかし
矯正保護作業
そのものが受刑者の矯正と保護にあるのでありますから、
矯正保護作業
の本質というものは收支的計算であるとか、利益損失というものを
考慮
するとか、あるいは企業的な一つの態勢をとらなければならぬとか、あるいは採算がな
つて
行かなければならぬとか、あるいは利潤を追求されなければならぬとかいうようなことは、まつたく度外視してなさるべきものであると思います。またもう一つは、
矯正保護作業
のこのような本質からいたしまして、作業の量を確保して参りますことは、受刑者を矯正する上において必要であ
つて
、これはその行政を担当する行政庁の任務ではありまするけれども、その作業を確保いたしますために、そのときにおけるところの社会の一つの企業、社会の他の正常な一つの生産であるとか配分であるとかいうものを侵してはならないと思われるのでありますが、
矯正保護作業
について、まずこの本質を明らかにしていただきたいのであります。
佐藤藤佐
8
○佐藤(藤)
政府委員
矯正保護作業
の本質につきましては、ただいま石川委員の仰せの
通り
であると私ども考えているのであります。
従つて
法律
の要求しておる労役を受刑者に課するにあたりましても、その労役はやがて受刑者を矯正し、また保護する一つの
方法
となるようにというところに目標を置いて作業を課しておるわけでありますから、その作業が全然なかつた、あるいは適当な作業がないために受刑者を無為に牢獄につないでおくということは、矯正保護の本質にまつたく相反することになりますので、仰せのように
矯正保護作業
を確保しようということで当局は苦心いたしておるのであります。
矯正保護作業
は他の企業と違いまして、決して利潤追求というようなことには考えておらないのであります。ただ同じ作業をやるにいたしましても、まつたく不生産的な作業のみをや
つて
おりますると、国家の財政について非常な不経済な使い方になりますので、作業を課するにあたりましても、ある程度採算のとれるような作業が望ましいものとして選択いたしているのであります。ただ普通の企業のように、利潤追求ということはもちろん第一には考えておらないのであります。それから
矯正保護作業
を確保するために一般社会の労務
関係
、あるいは中小企業との
関係
につきまして、その間に競争あるいは摩擦ということも当然考えなければならぬのでありまして、その点につきましては、常に一般の社会の企業なり、あるいは労務
関係
と調和をとるように心がけているのであります。その点は本
法案
におきましても、第
八條
の第二項に「
矯正保護作業
を実施するに当
つて
は、労務に関する
政府
の政策を尊重しなければならない。」こういう一項目を掲げまして、方針としては労務に関する政策と調和しつつ
矯正保護作業
を確保しようという点を努力いたしているのであります。
石川金次郎
9
○石川委員 具体的には
政府
がこの
矯正保護作業
をいたしますために、どれほどの予算をも
つて
どのような設備をなさるかということは、あとで政策的な問題としてお伺いいたします。そしてその点からまたわれわれの見解を申し上げたいと存じますが、本日私は法文に現われました一つの
法律
的な概念を明らかにしておきたいと思います。この点に
限つて
まず質問を続けます。そこでいま一つお伺いしておきたいのでありますが、
矯正保護作業
そのものは、国家の財政の收入を増加する
目的
のもとにこれを使
つて
はならない。そういう意味においてこの作業というものはなされてはならないものであると思うのでありますが、この点はどうでしようか。国の財政の苦しいことは十分承知しております。しかし拘束しているところの受刑者の労力を、一つの企業体のごとくしてこれを利用して参りますときに、他の産業に及ぼすところの影響がことに多いのみならず、これを企業化することによ
つて
、いろいろな弊害が起
つて
来るだろうと思うのであります。実際にあるかないか私は知りませんけれども、ある県においては何千万円の矯正労働があるとかないとかいうような問題すらも出て来るのでありまして、一たびその刑務所におけるところの仕事を企業体的形態に乘せて、営利の社会において一つの企業として経営して参りまするときには、それ相応の企業体的な一つの本質を現わして来るだろうと思うのであります。そういう危險がありまするから、国家の財政の増加をおもんぱか
つて
、刑務所におけるところの経費が非常にかさむから、その幾分かを受刑者の労務によ
つて
これを行わしめようということはなさるべきことではないと思うのであります。矯正保護は残念なわれわれの負担であります。人間としてまことに悲しむべき負担でありますけれどもや
つて
行かなければならない負担なのであります。その負担を、少くとも他の企業と競争するというような立場に置くことは、矯正保護そのものの本来の本質をまつたく離れたものといわなければなりません。御当局が、国家財政が非常に困つた場合において本案を立案せられました御苦衷はわかるけれども、しかしながら矯正保護の作業そのものの本質を離れたという点については、何とか考えなければならぬ問題だと思うのでありますが、御見解を承
つて
おきたいと思います。
佐藤藤佐
10
○佐藤(藤)
政府委員
矯正保護作業
の
目的
は、一般の企業と同じように、利益追求というようなことは全然考えておらないのであります。その
矯正保護作業
によ
つて
得たる利潤を刑務所の運営に利用するとか、あるいはその利益の増大をはか
つて
国家の財政に寄與しようとか、そういうようなことは全然考えておらないのであります。しかしながら
矯正保護作業
の運営にあたりまして、なるべく国家の財政を有効に経済的に使わなければならぬと考えて
矯正保護作業
を運営いたしておるのであります。たとい国家の財物でありましても、なるべく経済的に有効に使おうということを運営の方針としてははか
つて
おりまするので、そのために、その作業の種類を選ぶにあたりましても、またその作業の運営についても、なるべく経済的に有効に国家の財産を使
つて
おるのであります。また本
法案
の
施行
によりまして、
矯正保護作業
をかような運営の仕方にすると、一般の企業に非常に影響が起きるのではないかというような御懸念のように承
つたの
でありますが、かような
法律
をも
つて
規制しなければ、どうしても
矯正保護作業
の運営の結果として、一般の企業との自由競争ということに陷りやすいのであります。むしろその自由競争なり摩擦を防いで、そして官公署の需要の一部を満たすだけにして、一般の自由企業との競争や摩擦をできるだけ避けたいということも考えておるのであります。もしも従来のように野放しにいたしますれば、むしろ御心配のような自由企業との競争、摩擦というものが当然予想されると思うのであります。むしろかような
法律
を
施行
することによ
つて
、一般の労務
関係
、あるいは企業
関係
において、競争や摩擦が起きないように調節をはかりたいというのが、やはり一つのねらいにな
つて
おります。
石川金次郎
11
○石川委員 そこで今のお答えからさらにお聞きしたいと思いますが、
矯正保護作業
によ
つて
行われるであろう業と世の中の他の業との自由競争じやないと、こういうのでありますが、私のお尋ねしたいのは、
矯正保護作業
はいかなる場合であ
つて
も、自由競争に介入してはならぬということであります。そうすべきじやないのではないかと思うのであります。実は当局から配付いただきましたアメリカの矯正作業の運営基準及び生産品の処理についてという資料の七百六に書いてあります。「過剰生産物は一般自由労働による生産品と競争しない
條件
のもとにおいてのみ一般公開市場において販売することができる。」こう書いてあるのであります。つまり矯正作業そのものをも
つて
しては、国内における他の産業と自由競争の立場に立たせない、こういう
方法
をとりませんと、一つの権力のもとにおいて労働力を集めて、そうして常に国家資本をつぎ込み、その力を持
つて
いる企業を満たしておるというところに民間企業の心配することが出て来る。かつまたその
方法
が非常に危險になりはせぬかという点なのであります。それを考えて行かなければなりません。私はこう思
つて
いるのであります。これは私の聞き違いかもしれませんが、たしかケインズが失業対策として考えましたことは、片方において穴を掘る人があり、片方はそれを埋めて行くというのであります。これが一つの失業対策として考えられた案だとか何とか言
つて
おるのでありますが、
矯正保護作業
におきましても、その人をよくして行くのでありますから、こしらえたものをこわすこともあり得ていいのであります。他の正当なる生産者の営利を侵さないためには、またその苦衷というものは、国民自身が負担しなければならないわれわれの悲しい一つの現象だと私は思
つて
いるのであります。
従つて
この
矯正保護作業
の本質から考えて参りましても、この立案をしたところの御説を理解いたしまするまでにはまだ私参
つて
おりません。これから順次お聞きをして理解を深めて参りたいと思います。そういう状態でありますので、ひ
とつ
この点についてもう少し論戰してみたいと思います。
佐藤藤佐
12
○佐藤(藤)
政府委員
ただいま申し上げましたように、
矯正保護作業
によ
つて
生産されたものを一般の市場に出して、一般の自由労働等による生産品と競争しようというようなことは全然考えておらないのであります。むしろそういう競争を避けよう。できるだけそういう方向に持
つて
行かないためには、官公庁の需要の一部を満たすこによ
つて
矯正保護作業
を十分達して行くことができるのであります。これは昨日も申し上げましたように、官公庁の需要を一〇〇といたしますれば、刑務所全体の一年間の生産力というものはその一%にしか当らないのであります。官公庁の需要の一%だけをもらえば、刑務所の作業は十分なのであります。その一%を現在では刑務所の作業として請負
つて
おらない。その一%を満たすためにそのうちの四分しか官公庁の需要をと
つて
おらない。あとの六分は民間から請負
つて
おるのであります。
従つて
官公署の需要の一%だけ全部こちらへもらえますれば、民間のこの六分に手を出すだけの余力はもちろんないし、またこの
法律
によ
つて
民間には全然手を出さない、こういう理想に到達したい、かように考えておるのであります。ところが今お示しになりましたアメリカのこの七百六條の
規定
は、御承知のようにアメリカでは官公庁の需要のみを刑務所で請負
つて
おります。なお請負つたほかに過剰生産があるならば、一般公開市場にそれを出すが、しかしそれは一般の自由労働による生産品と競争しない程度に出せ、こういうので、向うの生産力は非常に大きなものでありまして、官公庁の需要を満たしてもなお過剰生産物があるかもしらぬということを、この法文で予想しておるのであります。ところが
日本
の現状におきましては、おそらく今の收容者は一番多い絶頂だろうと思います。それでも御承知のように、十万になんなんとするだけでありまして、そのうち実際働ける者だけの人数というものは、六万ないし七万しかないのであります。
従つて
労働力、生産力というものは、その六、七万の人だけしかない。その六、七万の受刑者が常に同じ仕事をや
つて
お
つて
、熟練工になるのではない。刑期が来ればどんどん出てしまう。常に新陳代謝をしておる、その六、七万の者がフルに働きまして官公庁の需要の一%だけの生産力しかないわけでありますから、全然民間の仕事をやらないで、官公庁の一%だけ仕事をやるということで、必要にして十分な量なのであります。その意味において、この
法案
の結果、一般の自由競争に対して非常な惡影響を及ぼすとか、あるいは中小企業に対してたいへんな影響を及ぼすというようなことはとうてい考えられないのではないか、かように私どもは考えておるのであります。この点は私どもの机上のプランだけではありません。通産省の方におきましても、また中小企業庁の方におきましても、実際の生産力と、それから需要供給との
関係
を調べまして、刑務所の現在の生産力をも
つて
官公庁の一部を満たしても、さしたる影響はなかろうということを裏づけておるのであります。この
法案
の実施において、一部の人が心配しておるように、中小企業にさしたる影響はなかろう、かように私どもは考えておるのであります。
石川金次郎
13
○石川委員 ただいまわずか百分の一ぐらいの量を仕事するにすぎないとおつしや
つたの
でありますが、なおその点について、
法務
府の方にも民間の印刷業者から出て参りました表をひ
とつ
ごらん願
つて
いただきたいと思います。そうしてこれはあとでよろしゆうございますから、この表が間違いであるということを、よくわれわれに納得が参りますように、資料に基いてお教え願いたいと思う。政策的に関することはあとまわしにいたしまして、今度は法文に入
つて
参ります。 第三條の点について聞いておきますが、非常にわかつたようでありまして、法規に出て来ると、どういうように考えていいかわからないことがあります。
矯正保護作業
を運営いたしますのは、主として刑務所の人たちだと存ずるのでありますが、刑務所の役人の人たちがこの法を運用いたしますにつきましても大切だと存じますからお伺いいたしますが、第三條に「行刑に関する法令の定める
制限
のもとにおける受刑者の基本的人権」こういう言葉が書いてございます。これを質問申し上げるのは多少どうかとも思いますけれども、そういう言葉が入
つたの
でありますから、行刑に関する法令の定める
制限
のもとにおける受刑者の基本的人権、こうなりますと、受刑者も侵し得ざる一つの基本的人権を持
つて
おるのだということになりますから、その受刑者が持
つて
おる基本的人権、これはだれにも侵されないという一つの人権があるならば、これを明瞭にしておきます方がこの場合大切だと思うのであります。もつともあとで監獄法の
改正
の場合にも問題になると思いますので、この点をひ
とつ
お伺いしておきます。
佐藤藤佐
14
○佐藤(藤)
政府委員
第三條には、法令の定める範囲内においては
制限
されるけれども、その他一般人と同様に基本的人権を享有しておるのであるから、受刑者の基本的人権は尊重しなければならぬという
趣旨
を
規定
いたしておるのでありますが、仰せのように他の法令において
制限
しておらない、また
制限
することのできないような基本的人権は、もちろん受刑者といえども、享有いたしておるのであります。たとえば
憲法
第十九條の
思想
の自由であるとか、あるいは良心の自由であるとか、あるいは
憲法
第二十條の信教の自由、あるいは第二十九條の財産権不可侵の権利、かようなものは、他の法令においても、現在も
制限
いたしておりませんし、また将来といえども、
制限
すべからざる基本的人権であろう、かように考えておるのであります。
石川金次郎
15
○石川委員 そのほかに單に受刑者の生命をできるだけ守
つて
やる、生命そのものはきわめて尊重するという意味は含んでおるかと思われますが、それはいかがですか。
佐藤藤佐
16
○佐藤(藤)
政府委員
その点は申し上げるまでもなく、生命身体についてはできるだけ尊重しなければならぬと考えておるのであります。ただ身体の自由については、刑の執行上当然一定の拘束はいたしておりますけれども、生命に対する権利は十分尊重いたさなければならぬものと考えております。
石川金次郎
17
○石川委員 そこでここにその基本的人権を尊重しながら、かつ受刑者の矯正保護に役立つものでなければならぬという
規定
があります。受刑者の矯正保護に役立つ作業でなければならぬというのでありますから、その各
個人
が矯正せられ、保護せられるために役立つ作業と見なければなりません。その決定がどのようにしてなされますか。もう一つこの点について現行監獄法の第二十四條の一項の
関係
であります。それには、御承知のように考え方が違うときにできた
法律
なのでありますから、別の意味に書いてあるのでありますが、これとの
関係
をお聞きしたいのであります。たとえば二十四條には「作業ハ衛生、経済及ヒ在監者ノ刑期、健康、技能、職業、将来ノ生計等ヲ斟酌シテ之ヲ課ス」と作業の課し方がこれにきま
つて
おるのであります。このほかにさらに矯正保護の
目的
を達するような作業でなければならぬことになるのでありますから、この二十四條第一項がただちに
変更
されるのか、
変更
されないのか。これをこの法をそのままにしてこの新しい法を出すのでありますから、それを明らかにしていただきたいのであります。
佐藤藤佐
18
○佐藤(藤)
政府委員
矯正保護作業
が受刑者にこれを課するに当
つて
も、受刑者の矯正保護に役立つものでなければならぬし、また矯正保護に役立つように
矯正保護作業
を課しなければならぬ。かように考えておるのでありまして、本
法案
の第三條の
趣旨
をさらに具体的に申し上げますならば、ただいまお示しの現行監獄法第二十四條において「作業ハ衛生、経済及ヒ在監者ノ刑期、健康、技能、職業、将来ノ生計等ヲ斟酌シテ之ヲ課ス」この
矯正保護作業
に役立つものとしての内容を現行監獄法の二十四條で
規定
しておるもの、かように解釈いたしておるのであります。しからばどういう
方法
で矯正保護に役立つような作業を考えておるかという御質問でありまするが、最近におきましては、受刑者が刑務所に入りますと、これを專門家は科学的分類
方法
と言
つて
おりますが、医学の方面から、また心理学の方面から、また教育学の方面からその受刑者の適格、技能等を判別いたすのでありまして、さらに
本人
がどういう作業を希望するかというその志望を参酌いたします。さらに刑期を終えて社会に出たならば、どういう職業をも
つて
身を立てるつもりか、その志望なり方向を聞きまして、それをしんしやくして適正な作業を課しておるのであります。その
本人
の希望
通り
に行かない場合もありまするけれども、まず第一に科学的に分類をいたしまして、それに適当な作業を課しておるというのが現在の方針にな
つて
おるのであります。その矯正保護に役立つものというのは、先ほども申し上げましたように、
矯正保護作業
はただ経済ということを考えない、ただ労役だけを課するものではない、さような考えをも
つて
矯正保護作業
をなすべきものではないということもこの第三條に表われておるのであります。やはり同じ作業をなすに当りましても、こういう作業についての技能を身につけ、そうして社会に出たならばこの技能によ
つて
生計が立て得るように、経済が成立
つて
行くようにということを目標にして
矯正保護作業
を課しておるのであります。
石川金次郎
19
○石川委員 そこで第三條の第二項をお伺いいたしますが、この二項の
規定
であります。「受刑者は、その作業を通じて、勤労の風を養い、職業技術を覚えて、健全な社会人として更生することに努めなければならない。」という受刑者の心構えと受刑者に対するところの要求をここに書かれたのであります。これは
法律
としてどういう意味がありましようか。もし
法律
がこの法を執行して行くところの側において、この法はこの
精神
をも
つて
施行
しなければならない、運用しなければならないと書くのがほんとうかと思います。ここに受くる方の側の心構えを要求されましたひ
とつ
の
理由
をお聞きしたいのであります。
佐藤藤佐
20
○佐藤(藤)
政府委員
御指摘のように、この
條文
の書き方としては、いかにも受刑者の心構えだけを
規定
したように読めるのでありますが、立案者といたしましては、受刑者の心構えはもちろんであるが、その受刑者に対して作業指導する者、いわゆる職員の心構えとしても、受刑者をしてそういう方向に向けるように努力しなければならぬ。両方の意味を含ませておるつもりなのであります。
石川金次郎
21
○石川委員 それではそのように承
つて
おきますが、第四條でありますが、この
矯正保護作業
に従事する受刑者には、予算の範囲内で作業の賞與金を給するものとする。こう言
つて
おりますが、これはどういう意味でありますか。予算の範囲というのは、これは予算でこれだけは作業賞與金としてやるという予算を見積るのでありますか。それとも仕事が非常によく行つたからというので、あとでやるというのではなくして、ただ予算があるだけ出す、それだけやる、こういう意味なのでありますか。お聞きしておきたいのであります。それからこれは監獄法の二十
七條
二項でありますが「作業賞與金ハ行状、作業ノ成績等ヲ斟酌シテ其額ヲ定ム」とありまして、これは予算とも何とも書いてありません。この場合にはその人の行状であるとか、作業成績をしんしやくして定められるのであります。それが予算の範囲とここにかわ
つて
参りましたのはどういう意味でありますか、明らかにしてください。どのような差異があるかということであります。
關之
22
○關
政府委員
お尋ねの点にお答えいたします。この監獄法二十
七條
とこの
法律
第四條との
関係
でありますが、まず予算の範囲内においてという文言でありますが、これは最近
法律
のみならず、他のいろいろの
法律
にこのような文言が取入れられておる。これもここに採用した一つの
理由
でありますが、なぜそういうことが入るかと申しますと、もしこれは書きつぱなしでありますと、ちよつと無
制限
に出すということに一応
規定
の上から相なるわけでございます。年度の当初におきまして、大体このくらいというふうに予算を組むのは、これは普通の
手続
でございまして、要するにその範囲が無
制限
でない。予算の範囲でしか出し得ないということをこれによ
つて
明示する。
従つて
予算以上出し得ないという
制限
をこの
法律
でつく
つて
おるわけでございます。もとの二十
七條
によりますと、一応無
制限
にな
つて
おりますが、事実上はやはり予算の範囲以外には出し得ない、こういうことになるわけであります。それでこれをはつきりいたしまして、その範囲だけしか出せないということが
法律
でも
つて
明らかにされておるのであります。かようにこの解釈は私ども考えております。そして二十
七條
におきましては、まず「在監者ニシテ作業ニ就クモノニハ命令ノ定ムル所ニ依リ作業賞與金ヲ給スルコトヲ得」ということにな
つて
おりまして、賞與金の性質といたしましては、それは賃金ではなく、要するに刑務所の側におきまして、
本人
の作業の成績がよろしいからほめるという意味合いにおいてやるわけでありまして、やるかやらないかは刑務所側の一方的な考えで決せられるわけでございます。要するに非常に恩典的な恩賞的な意味があるわけであります。ところがそういう作業に対する対価といいましようか、そういうものをどう考えるかということは、監獄法の刑の執行との問題につきましては、
日本
においても問題にな
つて
おりますし、
外国
においても問題にな
つて
いるのであります。いわゆる賃金まで行
つて
いいのか、それとも賃金というのはむりだ、やはり賞與金かそこらのところかということが
法律
的に非常に問題でありまして、お配りいたしました資料の中のニユージヤーシーのものには賃金というふうに書いてあるわけです。ところがいろいろに考えまして、わが国においてはまだ賃金というふうには考えられない。たとえば受刑者に賃金の請求というのはとても認められない。しかし受刑者も労務を提供してそこに働いたというならば、働いたことはやはり尊重してやらなければならない。
従つて
非常に含みのある変な言葉でございますが、本法の第四條におきましては、監獄法の二十
七條
よりはやや前進いたしまして、賞與金を給するものとするとした。だから多かれ少かれ働いている限りにおいては、若干のものは国家の側において給する義務を持つ。しかしそうかといいまして、受刑者側に作業賞與金を請求する権利をこれによ
つて
設定するものではない、かように考えているわけであります。
石川金次郎
23
○石川委員 まず年度初めに一定の作業賞與金としての予算を見積りますが、その見積る根本は何によるのですか。この刑務所においてこれだけの生産を上げるだろう、その場合にはこれだけの賞與金をやるというようになるのでありますか。
佐藤藤佐
24
○佐藤(藤)
政府委員
その点は一般の企業と違いまして、これだけの收入があるから、そのうちから賃金を幾らやろうというような
建前
と全然違うのでありまして、従来の経験からみまして、何人の受刑者に対してどれだけの賞與金を支出するかということを予算で見積るのであります。その賞與金を給する基準としては、内規できめております。一般の作業に従事する者については一日どのくらいとか、あるいは重労働に従事する者はどのくらいとか、それから刑務所の中で作業する者と郊外で作業する者とについての差もあります。そうして一箇月に二十八日労働するものとして、一人の賞與金がどのくらいになるかというような一定の基準がありまして、その基準に基いて受刑者の人数等をかけて予算が計上されるのであります。作業による收入のいかんということは、賞與金の多寡には影響しないのでございます。
石川金次郎
25
○石川委員 そうすると、結局は作業による量とかいうものではないのだということになるが、量があ
つて
もなくても、働いたということだけでやるべきものではないかと思う。
従つて
これは企業のように、刑務所においてこれだけ働くと賞與が来るのだという意味の労働というものはさせないのだ、こう承
つて
よろしいのでありますか。 次に、作業賞與金については、ただいま受刑者の請求権がないのだというお話でありますが、私は予算の範囲内で給する責任を持つと考えます。それを支給しなかつたとすればどうなるのでありますか。これはやはり依然として請求権があると見なければならぬのじやないでしようか。こういう点の基本的人権はどうなるかということであります。行刑の上におきましては、労働すれば給與を受けることができることにな
つて
おりますので、その点はどうなりますか。
關之
26
○關
政府委員
働いたことに対して一定の金銭が給せられる場合に、受刑者に請求権を認めるかどうかという問題でありますが、これは従来の監獄法二十
七條
から申しますと、給することを得という刑務所側の権限
規定
にな
つて
おりまして、解釈といたしましては、給することを得であるから、受刑者が請求する権利はないというような解釈にな
つて
お
つたの
であります。従来わが国といたしましては、そういう請求権を認めるという考え方については、どうもそこまで行くのはよくないのではないか、刑務所側で受刑者の労務を無視するような態度ではいけないけれども、官庁側にだけ給するというように義務づけをして、受刑者の側に請求権を認めるというところまでは行かない方がよいというような考え方を持
つて
いたのであります。この点については、
外国
の
立法
例等を調べてみましたが、やはり
外国
においても賃金という言葉は使
つて
おりますが、その賃金につきましても、受刑者側に請求権というところまでは認めないというふうに、今まで私の調査した範囲ではわかつたわけであります。そこで第四條といたしましても「作業賞與金を給するものとする」というふうにいたしまして、受刑者が働いた場合には、官庁側において予算の範囲内において給するというふうにしたのであります。これについて、もし刑務所の職員が給しなかつたならば、
法律
の
通り
職務を執行しなかつたということで、公務員法上の官吏の懲戒といいましようか、責任問題に相なると思います。この文字ではあるいは不十分かもしれませんが、もし請求権があるものといたしますれば、受刑者は請求することを得とかなんとかいうような表現をするはずであ
つたの
でありますが、それを避けてこういう文面にした
趣旨
は、実はそういうような
考慮
のもとにいたしたからであります。
石川金次郎
27
○石川委員 国は支拂い義務者として立
つたの
であります。債務
関係
がある以上、債権者というものは出て来なければならぬというふうに考えられる。この場合、受刑者という特別な身分なるがゆえに請求権がないのだというだけではだめであります。どうしても現在の
法律
的な考え方からして、何か別な
理由
を持
つて
来なければならぬのであ
つて
、それを首肯せしむるに足るところの一つの
法律
理論を構成しなければならぬと思います。ただ慣例だからというのではなく、何人も首肯し得るという一つの論理体系を持ちながら進んで行かなければならぬのであります。そうすることがこの
法務
委員会の責任であると思う。そこでなぜそれを認めないかという
理由
をお聞きしたいのであります。基本的人権を認めるぞということは、ちやんと書いてあるのであります。また佐藤さんのおつしやつた財産権の尊重はどうなりますか。
關之
28
○關
政府委員
受刑者に、働いたことに対する作業賞與金という一定の金額の請求権を認めるかいなか、これはすぐ前のお答えに申し上げたように、実はそういう権利を受刑者に認めるのが本質上正当であるかいなかという、むしろ一つの根本の問題にぶつかる問題でございまして、私どもとしても、この点は一番頭を悩ました根本の問題であるわけであります。そこで身体の拘束を受けて、
法律
上苦役に服さなければならないというふうに
規定
されてある受刑者があるわけであります。それが一定の
法律
の当然の
規定
によ
つて
労務を提供した。そうして一方において、
規定
としましては作業賞與金というのがここにある。その労務を提供したということを尊重して、とにかくそこに何がしかの金をどういう
理由
においても供與することは、疑いない事実であるわけであります。そこでその
関係
を受刑者側に請求権ありとして、そこまで行くという一つの考え方も私は存在すると思うのであります。それこそ受刑者の基本的人権であるという考え方も、十分に私は考え得る余地があるものと思うのでありますが、しかしいろいろの従来の監獄法の経過、わが国の今までの受刑者の作業賞與金に対する考え方、また
外国
などの
立法
令なども参酌いたしまして、やはり身体の拘束を受けて苦役に服さなければならないという身分で、特殊的な
地位
にあるところの受刑者に対しては、請求権というか、働いたからそれに対する相当の報酬を請求する権利というものは、そこまでは認めないのが、やはり今日の段階において、いろいろの法制の発展の経過から見て妥当ではないかというふうに考えまして、かような第四條のごとき
規定
を設けたのであります。おそらく今の受刑者の労働に対して、それに対する請求権を認めるかどうかという問題は、受刑者の基本的人権の問題と
関連
いたしまして、将来残された重大なる研究問題であると私どもは考えておるわけであります。
石川金次郎
29
○石川委員 受刑者は一つの犯罪をや
つて
、刑務所に服役した。それは刑法理論の上では合法であるか、何であるかわかりません。しかし一たび刑務所に入
つて
あなた方がおせわしてくださる上は、これはここに明らかに書いてありますように、矯正保護であります。基本的人権を認めるとこうこの
法律
にお書きに
なつ
たことは非常な進歩的な
法律
であります。ここには高いヒューマニズムの
思想
が流れておると思
つて
おります。もしもこの
法律
を受刑者の諸君が見てくれたならば、喜んでくれると思うのであります。それでそのときに苦役をや
つて
お
つて
も、昔ならば、お前が惡いことをしたのだからただ働け、どんな苦労もやれ、どんなむりも忍べということも一つの
方法
でありましたが、だんだんに進歩して参りました社会におきましては、そういう下等のことはいたしません。残酷な刑罰は許されません。それなのでありますから、今の状態においては、賃金を拂うというところまでは行かないにいたしましても、自由拘束をやり労務を提供したら、賃金を拂うのだ、自由拘束だけは刑であるという、その点までは行かないにいたしましても、予算できめた範囲の賞與は給するようにしなければならぬ。当然これは受刑者の側から見れば請求権があるものだし、拂わないなどという、そんなばかげたことはないなどと言
つて
安心させるわけには行きません。先ほど佐藤さんが財産権——二十
七條
を尊重するのだとおつしやいましたが、一つの債権者ではありますまいが、あるいはまた労働権を考えなければなりません。そうなると、この條項は何もかえる必要もない。そういう気持はそうでないというのとどれほど違いがあります。そういうものであると言
つて
受刑者の心持を発奮さして、感激を覚えさせることこそ一つの政治じやないでしようか。救済
法律
でありましても、心構えであります。恩惠などという立場はやめなければなりません。ほんとうにあなた方が基本的人権を尊重するならば……。
佐藤藤佐
30
○佐藤(藤)
政府委員
一般の企業における労働者の賃金のように、受刑者の労務に対して一定の賃金を拂う。
従つて
労務者たる受刑者にはその賃金の支拂い請求権があるというところまでは、先ほども關
政府委員
も申し上げましたように、どうもそこまでは考えられないのであります。受刑者の労役に服しておりまするのは、これは申し上げるまでもなく裁判による刑の執行として、
法律
上当然労務に服さなければならないのである。しかしながらその労務によ
つて一定
の国家の生産にも寄與することになるし、またその労務は受刑者の矯正保護の
手段
として、将来りつぱな社会人として更生する一つの
手段
にもなりますので、その受刑者の勤労の
精神
を養い、また勤勉の風を奨励するという意味からも、労務に対する対価ではないが、国家として労務に服した者には、ある程度の賞與金を給しなければならぬというその
関係
を、この法文で現わしたのであります。これを石川委員のおつしやるように、受刑者の方に賞與請求権があるというふうにはつきりと
條文
で書き表わすことも、一つの
方法
ではあるかも存じませんが、この
條文
を起案いたしました心持は、受刑者の労務に対する一定の賃金というわけではないが、また従来のように、国家において一方的に恩惠的に賞與を給する、あるいは給しないということは随意であるというような程度でもないので、言わばその中間に位するのでありまして、労役に服した受刑者に対しては、国家は一定の賞與を給しなければならぬという、その国家に対する一つの義務を認めたのである。しからばその義務が受刑者に対していつ権利となるのかということを考えますと、現存賞與の支給の
手続
を考えてみますと、毎日受刑者が労務に服した場合においては、普通の労務によ
つて一定
の基準に従つた賞與金というものが計算されるのであります。賞與金額の計算が決定されますれば、そこで受刑者に決定された賞與金を請求する権利が
発生
して来る。こういうふうに私どもは解釈できると思う。
従つて
きよう労務に服して一定の基準に従つた賞與金の金額が決定されれば、あすはその受刑者はその賞與金を自分のものとして、たとえば受刑中に訴訟を起すという場合に、訴訟費用に充当してもらうとか、あるいは何か自分が私物をほしい場合に、その私物を買う代金に充当してもらう、残つたものは釈放の際に全部請求して、それを自分が持
つて
行くというふうに、作業によ
つて
賞與金額が決定されれば、そこで受刑者に賞與金額請求権が
発生
するもの。こういうふうに解釈してよいのではないか、かように思います。
石川金次郎
31
○石川委員 それでよくわか
つて
参りました。 次にお聞きしたいのは、その支給のとき、いつ支給なさるのか。それから受刑中であ
つて
も、今のお話によりますと、不時の場合、訴訟が起つたという場合にはやることができる、もらうことができるというのでありますが、あるいはまた受刑者が、受刑者としての境遇を逸脱しない範囲においては、物を自由に購入することも許すのか。そういう点をひ
とつ
お伺いしておきたいと思います。
佐藤藤佐
32
○佐藤(藤)
政府委員
作業賞與金が決定されました後に、受刑者がその作業賞與金をも
つて
適当な範囲内において支弁することは認めておりますが、その範囲については時代によ
つて
大分違
つて
おります。最近は非常にその範囲をだんだん広げて参りまして、先ほど申し上げたように、訴訟を起すための訴訟費用であるとか、あるいは罰金を納付するための納付金であるとか、あるいは衛生上必要な食物をある程度購入することも認めております。また衣服につきましても、一般の支給で足りない人については、希望によ
つて
その衣服の購入をすることも認めております。また家族の生計のためにどうしても送りたいというような場合には、その送り先等も十分調べまして、せつかく得た賞與金が有効に使われるということが認定できますれば、家族の扶養のために送るというようなことも認めております。また勉強したいためにノートが欲しいとか、鉛筆が欲しいというような場合には、そういう教科の材料を購入することも認めております。これは
法務総裁
の訓令によりまして、こまごまと内容を
規定
しておりまするが、その賞與金の使い道は、だんだん時代によ
つて
範囲が広くな
つて
いるように思われるのであります。
石川金次郎
33
○石川委員 わかりました。そこでお伺いしておきますが、先にこれをお伺いすべきでありましたが、途中になりましたけれども、監獄法は
改正
のお考えがないでしようかもう一つ、現在の監獄法を見て参りますと、六十條の第二項にあります屏禁、軽屏禁、重屏禁というのがありますが、これは今どうな
つて
いるのですか。この監獄法のやり方が新しい
憲法
に
牴触
しないように実施されておりますとは思いますが、こういうふうなことはどうな
つて
おりましようか。
佐藤藤佐
34
○佐藤(藤)
政府委員
監獄法全般につきましては、新
憲法
実施以来、当然抵触するような部分もありますので、将来
改正
の場合には全部これを整備いたしたいと考えているのでありますが、まだ
改正
の準備の過程にありまして、間もなく監獄法
改正案
を提出する運びまでにも至
つて
おらないのであります。しかしながら監獄法の中で、新
憲法
の
精神
に沿わない点は全然死文として、運用いたしておらないのであります。たとえばただいまお示しの第六十條につきましては、懲罰の
方法
としても、減食をするとか、あるいは重屏禁というようなことは、現在では行
つて
おりません。
石川金次郎
35
○石川委員 そこで第
五條
をお伺いします。第
五條
の作業時間、休憩及び休日でありますが、現在どのようにや
つて
おられるかをお聞きします。
佐藤藤佐
36
○佐藤(藤)
政府委員
第
五條
には、特に労働基準法ということを掲げておりませんけれども、運用の仕方としましては、労働基準法の
精神
にのつと
つて
現在も運用しておりまするし、将来もそういうつもりで合理的な運用をするという方針を定めているのであります。作業時間及び休憩、休日はもちろん労働基準法にのつと
つて
、一般の労務者と同じような取扱いをいたしているのであります。
石川金次郎
37
○石川委員 第六條、これはここでお尋ねすることはむりかもしれませんが、ひ
とつ
お考え願いたい。六條の作業の実施にあた
つて
、これに従事する受刑者に危害を與えず、その健康を害しないような適切な処置が講ぜられなければならないことは言うまでもない。ところが作業中に誤
つて
受刑者が危害を受けた、健康を害したという場合、六條違反になり得るような
行為
はないと思いますが、過失があつた場合の責任は、その賠償はどうなりましようか。これは当然見てやるべき責任があると思いますが、どうなりましようか。
佐藤藤佐
38
○佐藤(藤)
政府委員
この
矯正保護作業
を実施するにあた
つて
、これに従事する受刑者に危害を與えないということは、これは受刑者を観護し、指導する職員にと
つて
常に心がけなければならぬ事柄でありまして、もし職員に第六條違反のような故意または過失がありますれば、これはもちろん国家賠償法の問題が生じて来ると思うのであります。もし刑務所の職員に、さような故意、過失がないといたしましても、受刑者が従業中に不祥事を起したというようなことがありますれば、行政上の懲戒処分の責任は免れないのでありまして、また受刑者に対しては、現在の監獄法の二十
八條
によ
つて
、相当の手当金を給するということにな
つて
おるのであります。
石川金次郎
39
○石川委員 第
七條
に参ります。
矯正保護作業
の確保、第一項に「国は、受刑者の就業に十分な量の作業を確保しなければならない。」ということは、先ほど申し上げた
通り
、当然の責任であると思います。そこでこの作業の確保のために、他の企業を圧迫するという点は、さらに別にいろいろの問題があるようでありますから、あとでまた御意見を伺うことにいたしますが、第二項の「地方公共団体は、
矯正保護作業
の確保について、国に協力しなければならない。」という、この協力の義務が、どういう
理由
から出て参りましようか。たとえば盛岡の刑務所においてなら、盛岡の市役所、岩手県庁に協力してくれということになるが、どういう意味で協力の義務が出て来るのでありましようか。非常にりくつくさくなるけれども、地方公共団体ではいやだと言うかもしれません。
佐藤藤佐
40
○佐藤(藤)
政府委員
受刑者に対して刑を執行するに当
つて
、国が
矯正保護作業
を確保しなければならぬということは、これは十分御了解願えることと思うのでありますが、第
七條
第二項で、地方公共団体が、その
矯正保護作業
の確保について、国に協力しなければならぬということを
規定
いたしましたのは、私どもの気持としては、地方公共団体もやはり受刑者の收容に必要な作業を確保する義務があるのではないかというふうにも考えられるのでありますけれども、現在の
制度
としては、受刑者を矯正保護することは国の義務であるというふうな
制度
にな
つて
おりますために、一応地方公共団体は受刑者の
矯正保護作業
については、無
関係
のように法制上はな
つて
おるのであります。しかしながら、この受刑者がもともと
発生
する状態、またその受刑者として刑務所まで入れられるその経過をたど
つて
考えますると、やはり受刑者を矯正保護して、そして社会の健全なる一員として送り出すということについては、国家の一部分である地方公共団体にも責任があるのではないか、こういうふうな気持を持
つて
おるのであります。それについては、別にお示しのできるような法文上の根拠はありませんけれども、一般的に考えて、やはり地方公共団体も、受刑者の矯正保護に対しては一半の責任をわかつべきものではないか、かような気持を持
つて
おるのであります。なお現行の法文について調べますと、地方財政法の第
二條
第二項には、地方公共団体に負担をかけてはならないというような特別な
規定
もありまするので、負担をかけない程度に国に対する協力義務をここに
規定
しても、現在の法的な秩序に何らさしつかえはないのではないか、かような気持から、国に協力しなければならぬという、協力義務の
規定
を設けたのでありまして、国に協力しなければどうなるかというようなことまでは、考えておらないのであります。むしろ国に協力するように努めてもらいたい、その方向で地方公共団体も援助してもらたい、かような気持で
規定
いたしたのであります。
石川金次郎
41
○石川委員 ところが国の仕事のうちの百分の一くらいしか、大体
矯正保護作業
でやることはないだろうとおつしや
つたの
ですが、国の百分の一の仕事すらやらないというのでありますから、何のために地方公共団体の協力を求める必要があるのであるか、これはまず第一に実際上の問題にな
つて
来るのではないかと思う。それから理論的にはこうなりはしませんか。
政府
の中央集権的な権力を、できるだけ公共団体の自治性にまかして行くということが、
日本
の国の進み方ではなかろうかと思います。そういう場合にこのような
規定
を設けることは、やはりこれは
政府
の中央集権的な考え方から来るのではないか。
従つて
理論的にも実際的にも、こういうことを必要としないのではないだろうかと思います。まずこれを地方公共団体の方から言いますと、その地方公共団体の人に一生懸命働いてもら
つて
、税金を出してもらわなければ、その団体は立
つて
行きません。たとえば印刷業なら印刷業は全部刑務所にや
つて
、そして失職者が出て来て、そして税金を取るというのは、これはどうもいかぬという地方公共団体が出て来るだろうと思います。なぜかと言えば、地方公共団体自体が、その住民の経済的確保をしてやるというのが政治の任務でありますのに、そういう場合に、この
規定
を置かなければならないということがどうしてもわからない。これはなくてもいい
規定
じやありませんか、お伺いしたい。
佐藤藤佐
42
○佐藤(藤)
政府委員
お尋ねの点でありますが、この法文の立案にあた
つて
、一応そういうことも私ども考えたのであります。国の需要だけで、各地の刑務所における受刑者の
矯正保護作業
が十分満たされますならば、何もわざわざ地方公共団体に協力を借りる必要がないのであります。ところが先ほど申し上げました官公需の需要の約一%が、全国の刑務所の受刑者の
矯正保護作業
の量であることを申し上げたのでありますが、なるほど全体の量としては、あるいは国の需要だけで足りるかもしれませんが、その百分の一と申し上げたのは、国と地方公共団体と、いわゆる官公需の全部の需要の約一%という計算であります。実際の作業の状況を見ますと、刑務所は御承知のように各地方に、少くとも各県に一つ以上あります。ところが各府県に、
矯正保護作業
に役立つような仕事を十分に供給し得るような国の機関は少いのでありまして、各地方に参りますと、むしろ地方公共団体の需要が国の需要よりも多いというようなところもありますので、全国のすみずみまでの各刑務所における受刑者の
矯正保護作業
を確保するためには、国だけでは不十分であ
つて
、地方公共団体の協力を求めなければ実際十全なる運営をいたすことができないような状況にな
つて
おるのであります。さような実際上の必要から、地方公共団体の協力をお願いいたしたいというつもりで、第
七條
第二項を設けたのであります。なお地方公共団体は、国の
矯正保護作業
にまでわざわざ協力する必要がないのではないかというようなお尋ねでありますが、私の考えるところでは、地方公共団体も今では地方公共団体の支弁のもとに警察を持
つて
おるのであります。地方警察は地方公共団体の財政でこれをまかな
つて
おるのであります。その地方公共団体の警察の手によ
つて
治安が確保せられ、またその地方の公共団体の警察の手によ
つて
犯罪者を検察庁へ持
つて
行く、また検察庁から裁判所へ持
つて
行き、また裁判所から刑務所へ送り出す、こういうような順序にな
つて
おりまするので、そういう点から考えましても、やはり地方公共団体から
発生
した犯罪人の検挙に協力するばかりでなく、その検挙から自然に発展して行く検察、裁判、行刑、また釈放後の保護というふうなことについても、地方公共団体は特別な関心を持
つて
国に協力する責任がやはりあるのではないか。かような考えから第
七條
第二項を設けたのであります。
従つて
今申し上げたように実際上の必要、また理論上も別に法文の根拠はありませんが、一般的に地方公共団体の協力義務ということを認めても、何らさしつかえないのではないかというような考えを持
つて
おるのであります。
石川金次郎
43
○石川委員 私專門外のことですからわかりませんがあとでお答えしていただいてもいいのですが、国及び公共団体の仕事の一割以上を刑務所でやる。こうすることによ
つて
国民所得にどれだけの影響があるかということをお調べに
なつ
たと思います。これは通産省であるとか、安本に行
つて
お調べに
なつ
た、こういうのでありますから、どういう影響があつたか、税金の割合から見たらどのようなものであるかということをお調べに
なつ
たか、それをひ
とつ
御
説明
できるようにしてもらいたい。これは全国知事
会議
で何かこの
法案
に
反対
しておるようでありますが、非常に国のためになる
法案
でありますならば、だれが
反対
いたしましてもみんなのためにやらなければならないことでありますが、
反対
する方にも
反対
する
理由
があると思います。
反対
する人のためには、その人が首肯するような
説明
を與えなければならないと思いますから、今の点もお調べがあつたならばお聞かせ願いたいと思います。
關之
44
○關
政府委員
この
法律
をかりに実施いたしました結果においても、税金の
関係
とか、今お尋ねのようなことについてはまだ調べておりませんから、後日
関係
省の方と打合せまして、調査の上お答えいたしたいと思
つて
おります。
石川金次郎
45
○石川委員
矯正保護作業
によ
つて
かりに何か生産物があつたといたしまして、その生産物はその当時の社会需要を越ゆるような場合には、どういう処置をおとりになるのでありましようか。労務の場合も同じであります。
佐藤藤佐
46
○佐藤(藤)
政府委員
かような
法律
を
制定
いたしませんで、全然放任いたしますれば、御心配のような一般企業との自由競争、まだ生産品の過剰というようなことも考えられまするけれども、この
法律
の
施行
によりまして官公需にだけ進んで行くということになりますれば、先ほど来申し上げましたように、官公需の約一パーセントにすぎない需要しか刑務所には
能力
がないのでありますから、一般企業に影響を及ぼすような生産過剰というようなことはとうてい考えられないのではないかというふうに思
つて
おります。
石川金次郎
47
○石川委員 この
法律
の第
八條
第二項に「労務に関する
政府
の政策を尊重しなければならない。」と書いてあります。提案
理由
の
説明
によりますと、
政府
の労働または民間企業に関する政策を尊重し、これに反してはならないとあります。これはあとで労働大臣にもお尋ねしたいと思いますが、大蔵大臣は本
会議
におきましても述べられましたが、本来の経済的姿というものは自由主義である。こう言
つて
今の
政府
は自由主義経済というものを高く掲げておられる。このことはお認めにならなければならぬと思います。この自由主義経済と、このように一つの官給的計画を施して行くこの仕事とは矛盾するものがないか。この点どのようにお考えでありますか、お聞きしたいのであります。
佐藤藤佐
48
○佐藤(藤)
政府委員
先ほど来申し上げましたように、受刑者に対する
矯正保護作業
というのは、
法律
によ
つて
刑の執行としての労役を課するに当
つて
、その労役をいかなる
方法
で受刑者に課するか、または労役を受刑者のためになるように用いるかということを念頭に置いて官用主義を立案いたしたのであります。
従つて
刑務所における受刑者の
矯正保護作業
というものは、一般社会の企業とはまつたくその性質を異にいたしておるのであります。そのゆえに
政府
において、一般企業について自由経済主義によらなければならぬという政策を立てましても、刑務所における受刑者の
矯正保護作業
について官用主義を実施するということは、何ら
関係
がないものではないかというふうに考えております。
石川金次郎
49
○石川委員 次に提案
説明
に、民間企業、ことに中小企業に対する政策を尊重しとあるが、これに対しては何らの影響なしと思うなら、影響なしということを、さらにこの民間企業に関するところの
政府
の政策というものは、こういう政策をと
つて
おるものであるから、何らの影響なしという御
説明
を願えばけつこう。もう一つ現在の
政府
は、こういうような労働政策をと
つて
おるのであるから、この意味においてこの
法案
は、何ら抵触するものでないということを御
説明
願いたいのであります。そうしてことに「労務に関する
政府
の政策」という言葉について、
法律
的に概念をはつきりきめておかねばならないのでありますから、現
政府
の労働政策はこうである、ゆえにこの点においては相反しないということを明確にしておきませんと、あとで実施になりますときに非常に困
つて
来ると思いますから……。
關之
50
○關
政府委員
受刑者の、たとえば労務の点から申しますと、従来におきましても、司法省の受刑者の労務をいかにするかという点と、労働省との
関係
においていろいろ問題があ
つたの
であります。具体的に申しますと、受刑者の労務を民間へ出すか出さぬか、この程度なら出すという点につきましてて、労働省の側と
法務
府の側と一応のとりきめをいたしておるわけであります。これこれの労務には出さない、これこれには出してよろしい。こういうような具体的なとりきめをいたしまして賃金その他の額についても、十分に労働省側の意見を聞きまして、こちらの作業を実施してお
つたの
であります。将来におきましても、そういうふうに労務担当省である労働省側の御意見を十分に尊重をして、個々具体的な場合に、向うの意見を十分にとり入れてこちらの作業を運用する、かようなことになると思うのであります。 また中小企業の問題におきましても、中小企業庁の方とよく連絡いたしまして、個々の具体的な場合、たとえば刑務所の矯正作業の
能力
というものと、その地域における中小企業の力というものが、土地によ
つて
非常にバライエテイーがあると思うのであります。ある所においては刑務所の作業
能力
が全体の五%くらいしかない、ある所ではそれが四〇%あるというように、いろいろそこに問題があるのでありまして、それらの事情をよく加味いたしまして、中小企業庁その他の方面の意見も十分に伺いまして、摩擦をできるだけ少いようにして運営いたしたい。かような
趣旨
のことが第
八條
の二項に盛られておる考え方であるわけであります。
石川金次郎
51
○石川委員 この点についてはなおあとで機会を與えていただきまして、私たちのわかるまでひ
とつ
御
説明
を願いたいと思います。政策に関する問題でありますからあとまわしにして、法文についてお伺いします。 第九條、第十條、第十
一條
にまたが
つて
おる問題であります。この場合
法務総裁
は注文案内書を作成いたしまして、これを当該官庁ないしは公共団体の支出相当者に送る、そうして協議をする。こういうふうにありますが、やはりこれも
民法
の契約というようなかつこうになりますでしような。それをお伺いしておきます。
關之
52
○關
政府委員
今のお尋ねの点でありますが、
民法
の契約自由の
原則
にのつと
つて
おるものであると考えております。そのときには別にどうこうというこまかしい内容は言わないで、こういう仕事があるということを御通知をいただく、そうして一応話に入る。そこまでが
法律
の義務づけでありまして、あとは話をいたしまして、品質、値段、納期その他の点について向うで御承知がなければ契約は成立しない。こちらは仕事をお受けできない。こういうことになるわけでありまして、契約は一切契約自由の
原則
によ
つて
事を行うということになると思うのであります。これは主として国家機関相互の間の問題でありますから、会計法の
規定
になるのでありまして、会計法によりますると、競争入札が
原則
でありまして、自由契約は例外ということになるのであります。随意契約が認められる場合は、官庁間相互の問題であるとか、あるいは刑務所の製品であるとかいうような
規定
がありまするが、要するにその会計法から申しますと、随意契約の線にのつと
つて
この物品購入の
手続
が行われる。かようなことに考えて
法案
をつく
つて
おるわけであります。
石川金次郎
53
○石川委員 他の公共団体の場合はどういう
関係
になりますか。
關之
54
○關
政府委員
それは各地方自治体において
制定
されております会計取扱い
規定
によりまして事を行うことになると思うのでありますが、こちらといたしましては、やはり今の
政府
の各官庁機関の場合と同じく、一応随意の考え方で事を行いたいと考えておるわけであります。
石川金次郎
55
○石川委員 第十條の読み方でありますが、契約自由になりますか、いやならば断るという
趣旨
でありますか。
關之
56
○關
政府委員
一応注文案内書をお送りいたしまして、注文案内書の送付を受けた官庁においては、一応これこれの仕事があるというふうに御通告いただいて、注文していただくかいただかないかという協議に入
つて
いただく。そこまでが一応の義務づけにな
つて
おるわけであります。それから先におきましては、今申し上げたように、納期、品質あるいは規格その他において先方の御要望と一致しないものであるならば、契約は成立しない。向うの官庁におきましては、他の
方法
によ
つて
つくられることになる、かように思
つて
おります。
石川金次郎
57
○石川委員 公共団体との契約はどういう契約
関係
になりますか、私法上の契約でありますか。
關之
58
○關
政府委員
今の
説明
は各官庁相互、
従つて
法律
的には会計法にのつと
つて
の考えであるわけであります。各地方自治団体との
関係
におきましては、その当該地方自治体の物品購入に関する
法律
的
規定
が問題になるわけであります。一々当
つて
調査しておりませんが、大体競争と随意と二本建になるのじやないかと思います。こちらといたしまして、一応随意の線によ
つて
行いたいと考えております。
石川金次郎
59
○石川委員 第十條の「協議しなければならない。」という意味は、協議に応ずればいい、それだけでありますね。刑務所長からこれこれのものがあるから契約せよということに対しても、協議すればいいというのであ
つて
、応じなければならぬという責任は持
つて
おらない、こういうわけですか。
關之
60
○關
政府委員
お尋ねの
通り
でございます。その品物を購入するについて、承諾しなければならないというような義務づけはない。要するにそちらから申込む協議に応じなければならない、それだけの義務づけでございます。あとの点は全部自由契約の線に乗
つて
おると思うのであります。
角田幸吉
61
○角田
委員長
代理 次に田中堯平君。
田中堯平
62
○田中(堯)委員 まず提案
理由
についてお伺いします。提案
理由
は大分長く書いてありますが、要するに受刑者の人権を尊重するためには、受刑者各人に適合した
矯正保護作業
を課さなければならない。ところがそのためには官公の需要を独占的に引受けるという
方法
が非常に有利である。
従つて
矯正保護作業
は官用主義で行くということに大体盡きておると思うのであります。そこでお伺いしたいのは、受刑者は社会の各層から出ております。
従つて
いろいろな技能を持
つて
おるし、趣味、性行も異な
つて
おるわけであります。ところが官公の需要というのは、社会の中の何百分か何千分の一の需要の種類しか持
つて
おりませんので、もつぱら官公と取引するという官用主義で行こうとするならば、第一の
目的
である受刑者の人権を尊重して、その趣味、性行の矯正に最も適合した複雑多種なる業種を選ぶことができなくなりやしないかと思うのでありますが、この点についての御
説明
を願います。
佐藤藤佐
63
○佐藤(藤)
政府委員
現在の刑務所における
矯正保護作業
を見渡しますと、刑務所は社会の縮図のような感を呈するのでありまして、大体の職業は備わ
つて
おるのであります。さらに現在の業種以外に
矯正保護作業
として適当なものがあれば、新たに取入れることにはやぶさかでありませんが、官公庁の需要に適するような職業によ
つて
、十分受刑者の矯正保護の理想が達せられるものと考えるのであります。
田中堯平
64
○田中(堯)委員 今の点でありますが、たとえば印刷とか家具をつくる木工とかいうようなものは、なるほど官公需要は相当大きいと思うのであります。ところがそれには限らない。まことに多種多様、いろいろな道具をつくり、いろいろな生産品をつくる業態がありまして、活社会においては千差万別であります。そういう層からおのおの受刑者が出ておるために、もしも官用主義ということを基本にして進もうとするならば、どうしてもそこにむりが生ずる。今までは全然印刷などには経験はないし、興味もないという人間でも、官公、官用主義をも
つて
すれば、印刷という仕事が非常に刑務所としても有利であるし、かつ官公の需要が大きいから、この部門にお前は入れというので、むりやりにもこの印刷なら印刷という業種に入らなければならないというむりが生ずると思うのでありますが、その点もう少し詳しく御
説明
願います。
佐藤藤佐
65
○佐藤(藤)
政府委員
その点につきましては、先ほど石川委員の御質問に対してもお答え申し上げたのでありますが、実際の運営の過程を見ますと、受刑者については、最初にいろいろな点から、その健康状態なりあるいは技能、将来の生活の方便、またその者の嗜好であるとか、あるいは
本人
の志望等をしんしやくいたしまして、適当な作業を選択いたすのでありまして、その作業の種類を官公署に限りましても、受刑者の矯正保護について、むりを生ずるというようなことは、とうてい考えられないのであります。
田中堯平
66
○田中(堯)委員 たとえば洋裁というような作業はどうでございますか。官用主義で十分に間に合いましようか。
佐藤藤佐
67
○佐藤(藤)
政府委員
洋裁でありましても、婦人や子供の洋裁というようなものは、あるいは十分には行かないかもしれませんが、男の洋服その他の洋裁については、これはとうてい刑務所ではまかない切れないくらい官公の需要があるのであります。
田中堯平
68
○田中(堯)委員 それではその点はそのくらいにいたしておきまして、
矯正保護作業
の
法案
が提案されるに至りますまでの経過についてでありますが、第一にお伺いしたいのは、これは
政府
の発意によ
つて
発案されたものでありますか、あるいは
関係
筋から何らかの命令なり、あるいは指示があ
つて
、勧告があ
つて
発案されたものでありますか。
佐藤藤佐
69
○佐藤(藤)
政府委員
この
法案
を立案する動議といたしましては、刑務所の受刑者に対する労務を十分確保することができない現状にありますので、民間の方から受刑者に與える仕事を探し出すのに、非常に苦労をいたしておるのであります。官庁の方面の仕事につきましても、なかなか刑務所の注文とりだけでは思うように仕事がありませんので、全然仕事がなくて、ただ大きな広間に何百人という受刑者がすわ
つて
おる。そのために受刑者にと
つて
は、仕事をするよりもすわ
つて
いる方が非常な苦痛である。また
本人
の矯正保護をするという上から見ましても、何らかそこに生産的な仕事を課しまして、勤労の風を養い、また将来社会に出てから自活のできるような生産技能を與える方が、矯正保護の
目的
が達成せられるのであります。そういう点について、われわれ当局は非常に仕事の不足な点にむりをいたしておるのでありますが、たまたま
関係
方面からも、アメリカにおいてはすでに官用主義が行われておるが、
日本
でも官用主義の一部をとり入れたらどうかという示唆もございましたので、とりあえず
外国
の文献等を研究いたしまして、なお他官庁と十分な連絡をとりまして、成案を得た次第であります。
田中堯平
70
○田中(堯)委員 その点についてでありますが、伝え聞くところによると、最初二月の初旬に本案についての各省次官
会議
が行われたときに、
法務
次官はこれは
関係
筋の命令であるというふうに言
つて
、通産とかあるいは文部という方面では
反対
的な意見であつたものを、鶴の一声で話がきまつたあとで、よく調べて見たらこれは指令ではなしに、單なるアドバイスであつたというふうに、巷間伝えられておりまするが、この際こういうことが真であるか偽であるかを御
説明
願いたいのです。
佐藤藤佐
71
○佐藤(藤)
政府委員
ただいまのお言葉でありますが、私らはそういうデマは全然耳にいたしておりません。ただいま申し上げましたように、
関係
方面から
外国
の例を示されて、
日本
でもとり入れたらどうかというアドバイスは受けました。そういう示唆を受けた程度でありまして、もちろん向うから命令を受けるというようなことはありません。また他官庁に対して、この
法案
を立案することにつき、また通過することについて、それを強要するとか命令するというようなことはとうてい考えられないことでありまして、お聞き及びのことはおそらく逆宣伝であろうかと考えられるのであります。
田中堯平
72
○田中(堯)委員 最初これが閣議にかかつたときには、民間企業を圧迫しないような措置をとるということ。それから
矯正保護作業
の現状を拡張するとか、強化するというようなことは、とり立ててはやらないという
趣旨
の附帯
條件
がついておると伝えられておりますが、その辺はいかがでありますか。
佐藤藤佐
73
○佐藤(藤)
政府委員
この
法案
が閣議を
通り
ますについて、附帯
條件
がついたというようなことは、われわれ事務当局は聞いておりません。なお方針といたしまして、労務に関する
政府
の政策を尊重するということは、先ほど申し上げましたように、一般企業の
関係
であるとか、労務の
関係
について十分調整をと
つて
行きたいという方針で立案いたしておるのでありまして、この
法案
を実施するにあた
つて
、特別な予算を要求するというようなことも考えてはおらないのであります。
田中堯平
74
○田中(堯)委員 この予算上には大体矯正保護事業の経費、昭和二十五年度は約十二億にな
つて
いるようでありますが、さようでありますか。
佐藤藤佐
75
○佐藤(藤)
政府委員
昭和二十五年度の刑務所作業費は、仰せのように十二億計上いたしております。
田中堯平
76
○田中(堯)委員 これは昭和二十三、四年度、すなわち前年度及び一昨年度等に比べましてどういう比率になりましようか。
佐藤藤佐
77
○佐藤(藤)
政府委員
二十五年度は、仰せのように刑務所作業費が十二億、二十四年度は八億五千万、それから二十三年度は二億九千余りにな
つて
おります。これは非常に年々増加しておるようでありまするが、御承知のように、戰災によ
つて
全国の施設の約三分の一が燒失しておるのであります。ところが受刑者の数は戰前は五万にも達しなかつたものが、二十三、二十四年度は御承知のように十万になんなんといたしておりまして、約二倍の收容者を抱え、施設は三分の一減、こういうことにな
つて
おつた。
従つて
皆様の御協力を得まして、戰災後は年々設備を増設し、あるいは新設して整備に努めておるのであります。
従つて
施設の充実に伴いまして、作業の施設についてもこれを整備する必要があ
つて
、金額も自然増額いたしております。また購入費も、インフレの影響等によ
つて
も年々増加いたしておるのであります。
田中堯平
78
○田中(堯)委員 そこで年々この経費が増加しておる
原因
は一応わかりましたが、本年度十二億によ
つて
矯正事業が相当拡張される見通しでありますか。ことに印刷部門のごときはどういう計画を持
つて
おられますか。拡張されるのでありますか、現状維持でありますか。
佐藤藤佐
79
○佐藤(藤)
政府委員
ただいま申し上げましたように、刑務所の施設がだんだん拡張いたしますれば、それに伴
つて
作業に要する施設も充実しなければなりませんので、作業費の支出がだんだん増額されておりまするが、昭和二十五年度におきましては、備品としての予算は一億七千八百万円、これは機械器具、自動車等の備品費の予算であります。なお詳しく申し上げますれば、業種別に申し上げますると、木工、印刷、それから窯業、洋裁縫、化学工業、皮工、メリヤス、わら工、竹工、紙細工、農耕、それからそのほかの各業種の共通の費用及び自動車購入費等、合計一億七千八百万円が備品費の項目にあが
つて
おるのであります。 それからお尋ねの印刷
関係
でありまするが、このうち印刷に要する機械は七十五台、現在よりもふやす予定にな
つて
おりますが、現在は二百九十三台あるのを明年度七十五台ふやすことにして——御参考までに申し上げまするが、戰前は三百八十台あ
つたの
でありますが、現在では二百九十三台しかありませんので、七十五台ふやして戰前の生産力まで到達させようというふうに考えておるのであります。
田中堯平
80
○田中(堯)委員 そこで印刷について少しくお尋ねしたいのです。と申しますのは、木工とか、洋裁とかその他の部分では、民間業者に対する影響がそれほど重大ではないかもしれませんけれども、印刷という部門をと
つて
見ると、これは申すまでもなく地方の印刷、都会の印刷、その地方別によ
つて
その
発生
の
理由
も業態も非常に異な
つて
おります。いなかの各府県地方の印刷業者は大体官公需要を目当に操業しまた経営しておるものが非常に多いのであります。中には官公署等といろいろな特約や、あるいは内密の
條件
まで取りかわして、特殊な機械を仕入れてや
つて
おるというようなのもあるようであります。ところがこういうふうに、ことに官公署におきましては印刷に関する需要は非常に大きい。すべてがみな机上の仕事を通じてやられておりまするので、いろいろ印刷物の注文が多いわけであります。都会では大新聞
関係
、いろいろな本を発行するとか、やはり文化の中心にな
つて
おりまするので、印刷業も大企業が相当多いし、また中小企業といえども官公需要以外のものが相当あるわけであります。地方においてはこれは決定的に官公署の注文に依存しておると言
つて
過言ではないと思うのでありまするが、今承りますれば、本年度は十二億、そのうち一億七千八百万円という部分が備品費に使われ、印刷に対しては二百三十九台のものが七十五台もふえるほどの拡張をされる。その上に官用主義ということで官公署の注文は一手にこれを引き受けるというようなことになりますると、これは地方の中小印刷業というものは明らかにあるいは廃業しなければならないし、あるいは経営が成立ち得ないまでに事業を縮小しなければならないという結果になると思います。私どもの知
つて
おります範囲では、大体
政府
のこの案が実現され、実施されるということになりますると、もつぱら官公用の印刷物をや
つて
おつたものが全国で業態数にして四千、従業員が約六万、これはさつぱり業務を停止する以外に
方法
がないと思いまするが、それ以外にも半官半民的な印刷業をや
つて
おつたものが大体五千くらいあるわけでありまして、これも半身不随の状態となり、従業員も十数万というものが失業の状態にさらされるということは、大体明らかだろうと思うのであります。これは国家的に見ても社会的に見ても非常に重大なる反響をこの
法案
が引き起すことになると思うのでありまするが、昨日来の
政府
の御答弁を聞いてみると、そういう方面については心配はいらぬ、ただ官需の百分の一を刑務所が生産しておるにすぎないからという、この一本のりくつだけで、失業とか廃業とかいうおそれはさらにないというふうに軽く答弁をなさ
つて
おられまするが、今のように、ことに印刷にと
つて
みましては、まことに決定的な結果が来ると思いまするが、この点についてもう少し責任ある御答弁をお願いしたいと思います。
佐藤藤佐
81
○佐藤(藤)
政府委員
この
法案
の実施によりまして、将来は刑務所の行刑保護の作業が官公需の一部分を請負うだけで、民間の仕事には手を出さないという姿になることを理想といたしておるのであります。現在は御承知のように民間の仕事は約六〇%、官公需の仕事は四〇%ということが刑務所の作業の内訳にな
つて
おるのであります。もし官公需の仕事が現在よりもだんだんふえて参りますれば、それだけ現在の民間の仕事をしておる分から手を引くことになりまするので、そういうプラス、マイナスの
関係
から、民間に対してさしたる影響がないだろうという見通しをつけております。ところがただいまお尋ねのように、ある地方において官公署だけを請負
つて
おる印刷業者が、将来官公署の仕事がなくなるのではないかというお尋ねでありますが、それはごもつともなことでありまして、官公署だけをや
つて
おる印刷屋に対しては相当影響はあるだろうと思うのです。しかしながら官公署の仕事がだんだんなくなりましても、そのかわり刑務所で引受けていた民間の仕事は民間でや
つて
もらうことになりますから、そこで相対的に見れば、仕事がなくなるということにはならないのであります。ただ官公署だけを請負
つて
おつた印刷業者は、民間の仕事にくらがえしなければならぬということにはなるのでありますから、その意味において、さような特別な印刷業者には相当影響があるだろうということは予想されます。 それから各府県別によるところの民間の生産高と、そこの所在地の刑務所の生産高について、出版印刷の生産高の比較が、ここに通産省の調査の資料から拔萃したものがありますから、もし御必要とあれば、これをさらに印刷して御配付申し上げてもよろしゆうございます。あるいは特定の県について、どこの県が民間の生産高と刑務所の生産高とどういう比較になるかというお尋ねがあれば、それも今申し上げてもよろしゆうございます。もしわれわれの調べだけで不十分でございますれば、この資料をいただいた通産省の方にお調べくだされば、なお明瞭になるだろうと思うのでございます。
田中堯平
82
○田中(堯)委員 今の資料でございますが、これはぜひ配付していただきたいと思います。それから今の点について、私ども一向納得が行かないのでありますが、きようは時間もありませんし、この点についてはさらにまた質問を
留保
しておきます。
石川金次郎
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○石川委員 当局にひ
とつ
資料をお願いしておきます。それは刑務所の作業といたしましてどういう業の作業がやられているかという業種別、それから設備の状況、それらの業種別的生産予想、供給量の予想、そしてそれは矯正作業法が実施せられました場合における生産量の予想、供給量の予想、この資料をいただきたいと思います。そうすると、大体どういう影響があるかということがわか
つて
参りますから、それをひ
とつ
お願いいたします。
北川定務
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○北川
委員長
代理 ほかに御質疑はありませんか。——御質疑がなければ、本日はこの程度といたしまして、次会は明日午後一時より開会いたします。 本日はこれにて散会いたします。 午後四時五十六分散会