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1950-04-05 第7回国会 衆議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年四月五日(水曜日)     午後一時五十六分開議  出席委員    委員長 花村 四郎君    理事 角田 幸吉君 理事 北川 定務君    理事 小玉 治行君 理事 田嶋 好文君    理事 猪俣 浩三君 理事 田中 堯平君       佐瀬 昌三君    眞鍋  勝君       武藤 嘉一君    石川金次郎君       田万 廣文君    世耕 弘一君  出席政府委員         刑 政 長 官 佐藤 藤佐君         検     事         (刑政長官総務         室主幹)    關   之君         検     事         (民事局長)  村上 朝一君  委員外出席者         專  門  員 村  教三君         專  門  員 小木 貞一君     ————————————— 本日の会議に付した事件  矯正保護作業の運営及び利用に関する法律案(  内閣提出第八八号)  国籍法案内閣提出第一三八号)  国籍法施行に伴う戸籍法の一部を改正する等  の法律案内閣提出第一三九号)     —————————————
  2. 花村四郎

    花村委員長 これより会議を開きます。  本日はまず国籍法案を議題といたし、政府より逐條説明を求めます。
  3. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 国籍法案につきまして逐條的に御説明いたします。  現行国籍法明治三十二年法律第六十六号として、同年四月一日から施行され、その後大正五年、大正十三年に改正を見、さらに終戰後、内務省の廃止及び法務庁の設置に伴いまして、一部の形式的改正を見まして今日に至つておるのであります。  現行国籍法は、出生による国籍取得については、血統主義原則といたしまして、その補充として出生地主義を採用しております。また近代各国国籍立法傾向に従いまして、国籍自由ないし国籍非強制の原則に基く規定を設けますとともに、国籍積極的牴触、いわゆる二重国籍及び消極的牴触、すなわち無国籍発生を防止するために、相当考慮を沸つておるのであります。現行法の立脚しておりますこれらの諸原則そのものは、今日においてもこれを変更する必要はないのでありますが、何分現行法は新憲法制定前の法律でありますために、憲法規定趣旨に沿わないものを含み、ことに改正前の民法における家族制度を基礎としております関係上、その中には改正民法と直接に牴触する規定も少くないのであります。従いまして現行法には改正を要する條文がかなり多数に上りますので、この法案におきましては、現行法の一部改正という形式をとらずに、現行法廃止して新たに国籍法を制定するという形式をとつたのでありますが、この法案の立案に当りましては、現行法中新憲法及び改正民法趣旨に一致しない点を、これに合致するよう改めることに主眼を置きまして、その他の点につきましては、長年にわたつて実施されて参りました現行法建前をできる限り踏襲いたしまして、その変更必要最少限度にとどめることといたしたのであります。  以下現行法と対照しながら御説明を申し上げますが、まず第一條でありますが、これは現行法にはこれに相当する規定はございませんけれども、憲法第十條の規定を受けて、この法律目的を明らかにいたしたのであります。  第二條出生による日本国籍取得に関する規定でありまして、第一号及び第二号は現行法一條に相当いたします。第三号は現行法第三條に、また第四号は現行法第四條に相当いたします。現行法の採用しております出生による国籍取得に関する血統主義原則及びその補充としての父母が知れない場合及び父母が無国籍の場合における出生地主義原則を、そのまま踏襲しようとするわけであります。現行法二條に相当する規定改正案にはないのでありますが、この現行法二條のうち、第一項は離婚または離縁日本国籍喪失原因となることを前提としております。また第二項は家族制度に立脚する規定でありますが、この法案においては、後に申し上げます通り、離婚及び離縁には国籍喪失効果を伴わしめず、また家族制度に立脚する規定はこれを廃止する建前でありますので、現行法二條に相当する規定は、この法案には設ける必要がなくなつたわけであります。  第三條は、帰化に関する通則を規定したものであります。外国人は、帰化によつて日本国籍取得することができること及び帰化をするときには、法務総裁許可を必要とすることを明らかにしております。現行法の第五條第五号及び第七條第一項に相当するものであります。右に述べましたように、帰化によつて日本国籍取得効果が生ずることは、現行法においても、この法案においても同様でありますが、現行法は、第十六條及び第十七條において、帰化人に対し国務大臣その他国家の重要な官職につく資格制限しておりますが、これは、日本国民のすべてが法の前に平等であることを宣言した憲法第十四條の規定牴触するものと考えますので、この法案ではかかる制限を撤廃しております。  第四條は、通常の場合における帰化資格條件規定したものでありまして、現行法七條第二項の規定を踏襲したものであります。ただ同項第三号の「品行端正」をこの法案では「素行善良」と改めておりますが、これは單に表現を平易にしただけであつて、実質には変更ありません。またこの法案の第六号は、現行法にはない規定であるが、今後新たに日本国民になろうとする者については、当然に要求せらるべき條件でありまして、かつ第三号の素行善良ということだけでは、必ずしもまかないきれぬおそれがありますので、特にこれを追加することといたしたのであります。  第五條は、通常帰化の場合に要求される第四條所定條件のうち、第一号の規定による五年の住所期間條件が緩和される特別の帰化の場合を規定したのであります。大体において現行法第九條の趣旨を踏襲したものでありますが、第一号では、現行法第九條第一項第二号の「妻ノ日本人タリシ者」とあるのを「日本国民の夫」と改めました。これは、現行法第十八條によりますと、日本国民外国人の妻となり夫の国籍取得したときは、当然に日本国籍を失うこととなつておりますが、この法案では後に申し述べますように、右の原則を採用しないことといたしましたので、外国人の妻となつ日本国民日本国籍を失うのは、外国帰化し、または日本国籍を離脱する等、直接または間接に日本国籍の喪失を希望する行為の結果なのでありますから、かかる者の夫に対して、妻が日本国民であつたという理由で、住所期間條件を緩和するのは適当ではないという考慮に基くものであります。第二号及び第三号は、現行法第九條第一項第一号、第三号及び第二項の規定に相当するのでありますが、現行法においては、家族制度との関連上、養子実子と同様に取扱つておりますが、家族制度廃止せられた今日におきましては、帰化條件関係では、実子養子はこれを区別するのが適当でありますので、この法案では、養子については住所期間條件を緩和しないことにいたしました。第四号は、現行法第九條第一項第四号とまつたく同一趣旨であります。  第六條は、通常帰化の場合に要求される第四條所定條件のうち、第一号、第二号及び第四号の條件の具備を必要としない特別の簡易帰化の場合を規定したものであります。  まず第一号の規定によつて日本国民の妻に対しては、本條規定によつて帰化許可することができるといたしております。現行法は、夫婦国籍同一主義原則によつて外国人の妻は、その夫とともにするのでなければ帰化をなし得ないものとして、妻の單独帰化を禁止するかわりに、外国人日本国民の妻となつたときは、婚姻によつて、当然に日本国籍取得し、また日本国籍取得する者の妻は、その本国法に反対の規定がない限り、夫による日本国籍取得効果として、当然に日本国籍取得するものとし、ただ、本国法に反対の規定がある結果、その者が日本国籍取得できない場合には、通常帰化の場合に要求される條件を具備しないときでも、帰化許可することができることとしているのであります。元来、妻は夫の国籍に従うという夫婦国籍同一主義は、従来各国の国籍法の採用していた原則でありまして、家族制度に立脚する現行国籍法も、もとよりこの原則によつていたのでありますが、近来における夫婦平等の思想の発展の結果、国籍関係においても、妻に夫からの独立の地位を認めようとする傾向が次第に強くなりまして、ソビエト・ロシアは一九一八年、アメリカ合衆国は一九二二年、フランスは一九二七年、つとに国籍得喪について夫婦平等主義を実現しておりますし、また最近においては、イギリスも一九四八年の新国籍法において、同じく夫婦平等主義を採用し、カナダを初め、イギリスの各自治領も、本国の立法にならうこととなつたのであります。以上の傾向にかんがみますときは、現在なお夫婦国籍同一主義を採用する諸国も、今後近い将来において、夫婦平等主義を採用することになるのは、容易に予測できるところであるばかりでなく、ことにわが国は、憲法第二十四條において、両性の本質的平等を宣言し、個人の尊嚴を重んずる立場から、民法における家族制度をも廃止いたしました以上、上述した現行国籍法夫婦国籍同一主義は、当然に廃止せらるべきものと考えるのであります。この法案におきましては、外国人たる妻の單独帰化を禁止しないのはもとより、日本人たる夫との婚姻及び夫による日本国籍取得は、外国人たる妻の日本国籍取得の当然の原因とはならないことといたしますとともに、日本国民の妻である外国人は、この法案第六條第一号の規定によつて、きわめて簡易手続によつて帰化し得る道を開いたのであります。第二号は、現行法第十條に相当するものでありますが、ただ養子については、これを実子同一に取扱うのは必ずしも適当でありませんので、別に第三号において規定することといたしました。現行法は、子の国籍は親の国籍に従うという家族一体主義原則及び家族制度の要請によつて外国人日本国民たる父または母によつて認知されたときは、当然に日本国籍取得するものとし、また日本国籍取得する者の子も、父または母による日本国籍取得に随伴して、ともに日本国籍取得するものといたしております。しかしながら、子の地位父母地位から独立させるという、子の地位の独立の思想は、近代における親子法の指導原理でありまして、諸国国籍立法においても、団籍の得喪に関し、できる限り、子の自由意思を尊重するという方向に向つておりますばかりでなく、個人の尊嚴は、憲法第二十四條の宣言するところでありますので、この法案におきましては、認知及び父または母による日本国籍取得は、当然には子の国籍に影響を及ぼさないこととし、日本国民の子である外国人日本国籍取得するには、帰化の方法によらなければならないことといたしますとともに、その者が現に日本住所を有するときは、この第六條第二号の規定によつて簡易帰化をすることができることとしたのであります。第三号は、日本国民養子である者が、本條規定によつて簡易帰化し得るための條件規定したものでありまして、現行法では、やはり家族一体主義及び家族制度建前に基き、外国人日本国民養子なつたときは、当然に日本国籍取得するものとされるとともに、明治六年第百三号布告改正法律において、日本国民外国人養子とする場合の要件を規定しております。しかしながら、かかる現行法建前も、憲法第二十四條との関係上、もはや維持すべきでないことは、もとよりでありますので、この法案では、養子縁組には日本国籍取得効果を認めず、日本国民養子である外国人日本国籍取得するには、実子の場合と同じく、帰化手続によらなければならないものとし、特に第六條の規定によつて簡易帰化をするには、引続き一年以上日本住所を有し、かつ縁組のとき本国法により未成年であつたことを要するものといたしました。ここで一年の住所期間を必要としたのは、前記明治六年第百三号布告改正法律規定趣旨を踏襲したものでありまして、また縁組のとき本国法により未成年であつたことを必要としたのは、成年者養子とする場合には、子の利益のために親子関係を創設するという養子縁組本来の目的のためではなく、他の目的を達するための手段として縁組制度が利用されることが少くなく、ことにこの法案第六條の関係では、第四條第一号の規定によつて要求される五年の住所期間條件適用を免れることによつて簡易日本国籍取得するため、その手段として縁組がなされるおそれがありますので、これを防止しようとする趣旨であります。第四号は、日本国籍失つた者日本住所を有するときは、本條規定によつて簡易帰化し得ることを規定したものであります。現行法第二十五條によれば、婚姻によつて日本国籍失つた者婚姻解消の後日本住所を有するときは、法務総裁許可を得て日本国籍を回復することができ、また同じく第二十六條によれば、第二十條から第二十一條までの規定によつて日本国籍失つた者が、日本住所を有するときは、法務総裁許可を得て日本国籍を回復することができることとなつているが、本号の規定は、現行法における右の国籍回復に相当するものであります。現行法のもとにおける帰化及び国籍回復は、ともに法務総裁許可を得て日本国籍取得する場合なのでありますが、両者の相違は、第一に、帰化によつて日本国籍取得したものは、第十六條の規定によつて一定の公職につく資格制限されるが、国籍回復によつて日本国籍取得した者は、かかる制限に服せず、第二に、帰化許可されるためには、原則として第七條第二項第五号の規定によつて国籍牴触を生じないことが條件として要求されるのに反し、国籍回復の場合にはかかる條件の具備を必要としない点にあります。しかるにこの法案におきましては、現行法第十六條のような帰化人に対する資格制限規定はなく、また二重国籍発生を防止する必要は、ひとり帰化の場合だけでなく国籍回復の場合においても存するのでありますから、この法案のもとにおいては、帰化のほかに別に国籍回復制度を設ける実益がありません。従つてこの法案では、現行法国籍回復帰化の一場合として、これを第六條第四号に規定したのであります。なお日本帰化したのち、日本国籍失つた者を本号の適用から除外しましたのは、現行法第二十六條但書精神を踏襲したものであります。  次に第七條現行法第十一條規定を踏襲したものであつて、ただ憲法第四條第一項の規定によつて、天皇には国政に関する権能がないこととなつたので、勅裁を国会の承認に改めました。ここで特に国会の承認を得ることとしたのは、国会の権威を重んずるとともに、本條規定による帰化をより意義あらしめるという考慮に基くものであります。  以上この法案では、第二條から第七條までの規定によつて日本国籍取得原因は、出生及び帰化の二つに限り、このほかに現行法日本国籍取得原因として認めている婚姻認知養子縁組、夫または父母による日本国籍取得等は、前述しました通り、すべて日本国籍取得の当然の原因とはならないこととしました。  次に第八條は、国籍変更の自由を認めるとともに、国籍牴触を防止することを目的とする規定であつて現行法第二十條の規定をそのまま踏襲したものであります。  第九條は国籍牴触を防止する規定でありまして、出生による国籍取得について、出生地主義を採用する国、たとえばアメリカ合衆国南米諸国イギリス、その自治領等において生れた日本国民は、出生によつて日本国籍のほかに出生国国籍をも取得し、二重国籍となりますので、かかる者については戸籍法の定めるところによつて日本国籍を留保する意思を表示しなければ、出生のときにさかのぼつて日本国籍を失うこととしたのであります。本條現行国籍法第二十條の二、第一項に相当する規定でありますが、現行法では同項の適用勅令指定国における出生の場合だけに限定していますが、国籍牴触防止の必要がありますのは、ひとりこれら特定の国における出生の場合だけに限られるものではありませんから、この法案では右の現行法趣旨を、出生による国籍取得について出生地主義を採用するすべての国において生れた日本国民に拡張することといたしました。なお現行法は、国籍留保手続に関しては国籍法施行規則に讓り、同規則第二條にこれを規定していますが、国籍留保出生届と関連がありますので、この法案では戸籍法でその手続規定することとしました。  第十條は憲法第二十二條第二項におきまして、国籍離脱の自由を保障しているのに対応して、日本国民法務総裁届出ることによつて日本国籍を離脱し得ることを規定したものでありますが、無国籍発生防止は、一九三〇年の「国籍法牴触に付ての或種の問題に関する條約」その他最近における各国国籍立法の理想とするところでありますから、本條においても、日本国民は同時に外国国籍を有するときに限つて国籍離脱をなし得ることとして、無国籍発生を防止することとしました。なお現行法第二十條第二項、第三項、第二十條の三及び国籍法施行規則第三條第一項によれば、勅令指定国で生れたことによつてその国の国籍取得した日本国民が、当該外国国籍を有し、かつその国に住所を有するときは、法務総裁に対する届出によつて、また勅令指定国以外の外国で生れたことによつて、その国の国籍取得した日本国民が、その国に住所を有するときは、法務総裁許可を得てそれぞれ日本国籍を離脱することができることとなつておりますが、まず国籍離脱の方法を法務総裁に対する届出法務総裁許可との二つに区別する実質的な理由がないのでありまして、国籍離脱法務総裁許可にかからせることは、前記憲法第二十二條第二項の精神にも反しますので、この法案におきましては、国籍離脱はすべて法務総裁に対する届出によつてすることができることといたしますとともに、国籍離脱をなし得る場合を現行法のように狭く限定することも、また右の憲法規定精神に反しますので、この法案におきましては、当該日本国民がいかなる原因によつて外国国籍取得したか、及びその住所がどこにあるかを問わず、外国国籍を有する日本国民は、すべて自由に日本国籍を離脱することができることといたしたのであります。  以上この法案におきましては、日本国籍喪失原因を第八條から第十條までに規定する場合、すなわち自己の志望による外国国籍取得日本国籍の不留保及び国籍離脱の三つの場合に限つたのでありますが、現行法におきましては右以外に、婚姻離婚または離縁、夫または父母国籍喪失認知等身分行為または身分関係によつて当然に日本国籍が失われる場合を規定しておるのでありますが、この法案におきましては、前述した国籍得喪における夫婦平等の実現及び家族一体主義廃止建前を一貫しまして、現行法規定する前記諸事由は、すべて日本国籍喪失原因とはならないことといたしたのであります。  次に第十一條は、帰化許可申請及び国籍離脱届出の能力に関する規定であつて本人が十五歳未満であるときは、その法定代理人がかわつて申請または届出をすべきことを規定いたしたものであります。現行法には本條に相当する規定がなく、ただ国籍法施行規則第三條第三項及び第五條において、国籍離脱届出または国籍離脱許可申請は、本人が十五歳未満であるときは、法定代理人がこれをし、十五歳以上の未成年者または禁治産者であるときは、法定代理人の同意を得てこれをすべきものと規定されております。また同じく第八條第二項におきまして、国籍法第二十條の二または第二十條の三の規定によつて国籍失つた者が十五歳未満であるときは、父、母、祖父、祖母の順序に従つて国籍回復許可申請すべき旨を規定されるにととどまり、帰化及び右に掲げた以外の者の国籍回復の場合には、許可申請能力については何ら規定されるところがなく、規定が不備であつたのでありますが、この法案におきましては、意思能力に基準を置き、できる限り本人意思を尊重するという建前から、帰化許可申請及び国籍離脱届出は、本人が十五歳以上であるときは、本人みずからこれをし、十五歳未満であるときは、法定代理人本人にかわつてこれをすることとしたのであります。  次に第十二條は、帰化及び国籍離脱に関する官報の告示並びに帰化及び国籍離脱効力発生の時期についての規定であります。現行法のもとにおきましても、帰化及び国籍離脱官報に告示することとなつておりますが、その効力につきましては、帰化については、法務総裁許可の日から生ずるが、官報の告示があつた後でなければ、これをもつて善意の第三者に対抗することができないものとされております。また国籍離脱につきましては、法務総裁に対する届出による場合には、その受理の日から、法務総裁許可による場合には、許可書の日付の翌日から起算して三十日を経過したときから生ずるものとされておる。しかも満十七歳以上の男子については、すでに陸海軍の現役に服したとき、またはこれに服する義務がないときでなければ、日本国籍を失いません。もつともこの規定は軍備の廃止によつて効力を失つていると考えるのであります。また現に官職を帯びている者は、その官職失つた後でなければ、日本国籍を失わないこととなつておるのでありますが、この法案におきましては、現行法の右のような態度を改めまして、帰化及び国籍離脱効力発生の時期を明確にするため、この両者はすべての人に対する関係におきまして、ともに官報に告示された日から効力を生ずることといたしたのであります。  第十三條は、帰化及び国籍離脱に関する細目の手続規定法務府令に委任する趣旨でありまして、法務府令におきましては、主として帰化許可申請及び国籍離脱届出をする場合の経由機関申請及び届出の方式、添付書類等について裁定する予定であります。  附則の第一項におきまして、この法律施行期日を本年七月一日といたしましたのは、この法律施行につきましては、準備期間を必要といたします。かつ在外の日本人にもこの法律の内容を周知させるため、時日の余裕を置く必要があるからであります。第二項は、この法案現行法改正という形式をとらず、新法の制定という形式をとつたことに基く規定であります。第三項及び第四項は、この法律施行前にされた帰化許可申請国籍回復許可申請及び国籍離脱許可申請でありまして、この法律施行の際に処理未済であるものの処置に関する経過規定であります。第五項は現行法第二十六條但書規定によりまして、帰化人だけでなく、現行法第十五條第一項の規定によつて日本国籍取得した帰化人の子及び日本国民養子または入夫となつた者国籍回復をなし得ないこととなつておりますので、この規定趣旨を踏襲して、これらの者が日本国籍失つた場合は、新法施行後においても、現行法国籍回復に相当する新法第六條第四号の規定による帰化をなし得ない旨を規定したものであります。  以上をもつて国籍法案の逐條の説明を終ります。
  4. 花村四郎

    花村委員長 次に国籍法施行に伴う戸籍法の一部を改正する法律案について、政府説明を求めます。村上政府委員
  5. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 国籍法施行に伴う戸籍法の一部を改正する等の法律案につきまして簡單に御説明いたします。  第一條は、新国籍法施行伴つて国籍得喪に関する戸籍手続にも変更を生ずることとなりますので、戸籍法国籍得喪に関する第百二條から第百六條までの規定に必要な改正を加えようとするものであります。  まず現行戸籍法第百二條及び第百三條は、外国人養子縁組または婚姻等によつて日本国籍取得すべき場合及び外国人認知によつて日本国籍取得すべき場合における戸籍届出に関する規定でありますが、新国籍法におきましては、養子縁組婚姻及び認知は、いずれも日本国籍取得原因とはならないこととなりますので、右の規定はいづれもその必要がなくなつたので、この法案では、帰化届出に関する規定を第百二條とし、国籍喪失届出に関する規定を第百三條としたのであります。  第百二條は、現行法の第百四條に相当する規定でありますが、新国籍法では、帰化効力告示の日から生ずることとなつておりますので、現行法届出の起算日が帰化許可の日となつておりますのを告示の日に改めます。また新国籍法では本人帰化によつてその者の妻または子が、ともに日本国籍取得するという場合がなくなりますので、現行法第百四條第二項第四号及び第三項に規定する事項にかえまして、配偶者に関する事項を届書に記載させるものとし、かつ帰化をした者の父母日本国籍を有するときは、戸籍上の関連を明確にするため、その本籍をも届書に記載させることとしたのであります。  第百三條は、現行法の第百五條第一項及び第二項と同一でありますが、同條第三項は、新国籍法には現行国籍法第二十四條第二項に相当する規定がないので、その必要がなくなつたのであります。  第百四條は、新国籍法第九條の規定を受けて、日本国籍留保する場合の届出に関する手続規定したものであります。  第百五條は、従来国籍喪失届出がとかく怠られがちであつた実情にかんがみまして、法務総裁国籍離脱告示をした場合、その他官庁または公署が、その職務上国籍失つた者があることを知つたときは、本籍地の市町村長に国籍喪失の報告をさせることによつて、すみやかに戸籍の記載を可能ならしめようとする趣旨であります。  現行法第百六條は、国籍回復届出に関する規定でありますが、新国籍法では国籍回復制度がなくなるので、これを削除することとしたのであります。  第二條は、法務府設置法第十三條の二第一項は、法務総裁の管理に属する事務のうちに、法務局及び地方法務局の分掌するものを規定しているのでありますが、その中には、同法第八條第三項第一号に規定する国籍に関する事項は、含まれていないのであります。しかしながら、新国籍法施行後においては、法務局または地方法務局に、帰化申請があつた場合における帰化條件の下調べその他国籍に関する事務を分掌させるのが適当でありますから、第十三條の二第一項の引用條文中に第八條第三項第一号を追加したのであります。  第三條は、明治六年第百三号布告改正法律明治三十一年法律第二十一号の廃止でありますが、この法律は、日本人外国人養子または入夫とするには、法務総裁許可を得べきこと及びその許可條件として、当該外国人が引続き一年以上日本住所または居所を有し、かつ品行端正であることを要する旨を規定しているのであります。この法律は、養子縁組または入夫婚姻が当然に日本国籍取得効果を伴うことを前提としたものであります。しかるに入夫婚姻制度民法改正によりまして現存すでに廃止され、また新国籍法のもとにおいては、養子縁組日本国籍取得の当然の原因とはならないわけで、日本国民養子となつた者日本国籍取得するには、すべて帰化手続によるべきこととなつておりまして、この法律は新国籍法施行後においてはその必要がなくなりますので、本條においてこれを廃止することとなつたのであります。  簡單でありますが、これをもつて説明を終ります。
  6. 角田幸吉

    ○角田委員長代理 これにて政府説明は終了いたしました。  速記をとめてください。     —————————————
  7. 角田幸吉

    ○角田委員長代理 速記を始めてください。  次に昨日に引続き矯正保護作業の運営及び利用に関する法律案を議題とし、質疑に入ります。質疑の通告がありますから、これを許します。石川金次郎君。
  8. 石川金次郎

    ○石川委員 矯正保護作業の運営及び利用に関する法律案についてお伺いいたしますが、まずこの法律を理解いたしますのには、矯正保護作業というものの本質とでもいいますか、概念といいますか、これを明らかに認識しておく必要があるかと存じますので、この点をお伺いしておきたいと思います。  受刑者に対する国の政策は、その受刑者の矯正保護にあるということは申し上げるまでもなかろうと思います。そこでこの矯正保護の目的を達成する一つの方法といたしまして作業が課せられるのでありまして、作業が課せられる以上、必要量の作業が常に存しなければならぬということも、これまた言うまでもございません。しかし矯正保護作業そのものが受刑者の矯正と保護にあるのでありますから、矯正保護作業の本質というものは收支的計算であるとか、利益損失というものを考慮するとか、あるいは企業的な一つの態勢をとらなければならぬとか、あるいは採算がなつて行かなければならぬとか、あるいは利潤を追求されなければならぬとかいうようなことは、まつたく度外視してなさるべきものであると思います。またもう一つは、矯正保護作業のこのような本質からいたしまして、作業の量を確保して参りますことは、受刑者を矯正する上において必要であつて、これはその行政を担当する行政庁の任務ではありまするけれども、その作業を確保いたしますために、そのときにおけるところの社会の一つの企業、社会の他の正常な一つの生産であるとか配分であるとかいうものを侵してはならないと思われるのでありますが、矯正保護作業について、まずこの本質を明らかにしていただきたいのであります。
  9. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 矯正保護作業の本質につきましては、ただいま石川委員の仰せの通りであると私ども考えているのであります。従つて法律の要求しておる労役を受刑者に課するにあたりましても、その労役はやがて受刑者を矯正し、また保護する一つの方法となるようにというところに目標を置いて作業を課しておるわけでありますから、その作業が全然なかつた、あるいは適当な作業がないために受刑者を無為に牢獄につないでおくということは、矯正保護の本質にまつたく相反することになりますので、仰せのように矯正保護作業を確保しようということで当局は苦心いたしておるのであります。矯正保護作業は他の企業と違いまして、決して利潤追求というようなことには考えておらないのであります。ただ同じ作業をやるにいたしましても、まつたく不生産的な作業のみをやつておりますると、国家の財政について非常な不経済な使い方になりますので、作業を課するにあたりましても、ある程度採算のとれるような作業が望ましいものとして選択いたしているのであります。ただ普通の企業のように、利潤追求ということはもちろん第一には考えておらないのであります。それから矯正保護作業を確保するために一般社会の労務関係、あるいは中小企業との関係につきまして、その間に競争あるいは摩擦ということも当然考えなければならぬのでありまして、その点につきましては、常に一般の社会の企業なり、あるいは労務関係と調和をとるように心がけているのであります。その点は本法案におきましても、第八條の第二項に「矯正保護作業を実施するに当つては、労務に関する政府の政策を尊重しなければならない。」こういう一項目を掲げまして、方針としては労務に関する政策と調和しつつ矯正保護作業を確保しようという点を努力いたしているのであります。
  10. 石川金次郎

    ○石川委員 具体的には政府がこの矯正保護作業をいたしますために、どれほどの予算をもつてどのような設備をなさるかということは、あとで政策的な問題としてお伺いいたします。そしてその点からまたわれわれの見解を申し上げたいと存じますが、本日私は法文に現われました一つの法律的な概念を明らかにしておきたいと思います。この点に限つてまず質問を続けます。そこでいま一つお伺いしておきたいのでありますが、矯正保護作業そのものは、国家の財政の收入を増加する目的のもとにこれを使つてはならない。そういう意味においてこの作業というものはなされてはならないものであると思うのでありますが、この点はどうでしようか。国の財政の苦しいことは十分承知しております。しかし拘束しているところの受刑者の労力を、一つの企業体のごとくしてこれを利用して参りますときに、他の産業に及ぼすところの影響がことに多いのみならず、これを企業化することによつて、いろいろな弊害が起つて来るだろうと思うのであります。実際にあるかないか私は知りませんけれども、ある県においては何千万円の矯正労働があるとかないとかいうような問題すらも出て来るのでありまして、一たびその刑務所におけるところの仕事を企業体的形態に乘せて、営利の社会において一つの企業として経営して参りまするときには、それ相応の企業体的な一つの本質を現わして来るだろうと思うのであります。そういう危險がありまするから、国家の財政の増加をおもんぱかつて、刑務所におけるところの経費が非常にかさむから、その幾分かを受刑者の労務によつてこれを行わしめようということはなさるべきことではないと思うのであります。矯正保護は残念なわれわれの負担であります。人間としてまことに悲しむべき負担でありますけれどもやつて行かなければならない負担なのであります。その負担を、少くとも他の企業と競争するというような立場に置くことは、矯正保護そのものの本来の本質をまつたく離れたものといわなければなりません。御当局が、国家財政が非常に困つた場合において本案を立案せられました御苦衷はわかるけれども、しかしながら矯正保護の作業そのものの本質を離れたという点については、何とか考えなければならぬ問題だと思うのでありますが、御見解を承つておきたいと思います。
  11. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 矯正保護作業目的は、一般の企業と同じように、利益追求というようなことは全然考えておらないのであります。その矯正保護作業によつて得たる利潤を刑務所の運営に利用するとか、あるいはその利益の増大をはかつて国家の財政に寄與しようとか、そういうようなことは全然考えておらないのであります。しかしながら矯正保護作業の運営にあたりまして、なるべく国家の財政を有効に経済的に使わなければならぬと考えて矯正保護作業を運営いたしておるのであります。たとい国家の財物でありましても、なるべく経済的に有効に使おうということを運営の方針としてははかつておりまするので、そのために、その作業の種類を選ぶにあたりましても、またその作業の運営についても、なるべく経済的に有効に国家の財産を使つておるのであります。また本法案施行によりまして、矯正保護作業をかような運営の仕方にすると、一般の企業に非常に影響が起きるのではないかというような御懸念のように承つたのでありますが、かような法律をもつて規制しなければ、どうしても矯正保護作業の運営の結果として、一般の企業との自由競争ということに陷りやすいのであります。むしろその自由競争なり摩擦を防いで、そして官公署の需要の一部を満たすだけにして、一般の自由企業との競争や摩擦をできるだけ避けたいということも考えておるのであります。もしも従来のように野放しにいたしますれば、むしろ御心配のような自由企業との競争、摩擦というものが当然予想されると思うのであります。むしろかような法律施行することによつて、一般の労務関係、あるいは企業関係において、競争や摩擦が起きないように調節をはかりたいというのが、やはり一つのねらいになつております。
  12. 石川金次郎

    ○石川委員 そこで今のお答えからさらにお聞きしたいと思いますが、矯正保護作業によつて行われるであろう業と世の中の他の業との自由競争じやないと、こういうのでありますが、私のお尋ねしたいのは、矯正保護作業はいかなる場合であつても、自由競争に介入してはならぬということであります。そうすべきじやないのではないかと思うのであります。実は当局から配付いただきましたアメリカの矯正作業の運営基準及び生産品の処理についてという資料の七百六に書いてあります。「過剰生産物は一般自由労働による生産品と競争しない條件のもとにおいてのみ一般公開市場において販売することができる。」こう書いてあるのであります。つまり矯正作業そのものをもつてしては、国内における他の産業と自由競争の立場に立たせない、こういう方法をとりませんと、一つの権力のもとにおいて労働力を集めて、そうして常に国家資本をつぎ込み、その力を持つている企業を満たしておるというところに民間企業の心配することが出て来る。かつまたその方法が非常に危險になりはせぬかという点なのであります。それを考えて行かなければなりません。私はこう思つているのであります。これは私の聞き違いかもしれませんが、たしかケインズが失業対策として考えましたことは、片方において穴を掘る人があり、片方はそれを埋めて行くというのであります。これが一つの失業対策として考えられた案だとか何とか言つておるのでありますが、矯正保護作業におきましても、その人をよくして行くのでありますから、こしらえたものをこわすこともあり得ていいのであります。他の正当なる生産者の営利を侵さないためには、またその苦衷というものは、国民自身が負担しなければならないわれわれの悲しい一つの現象だと私は思つているのであります。従つてこの矯正保護作業の本質から考えて参りましても、この立案をしたところの御説を理解いたしまするまでにはまだ私参つておりません。これから順次お聞きをして理解を深めて参りたいと思います。そういう状態でありますので、ひとつこの点についてもう少し論戰してみたいと思います。
  13. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 ただいま申し上げましたように、矯正保護作業によつて生産されたものを一般の市場に出して、一般の自由労働等による生産品と競争しようというようなことは全然考えておらないのであります。むしろそういう競争を避けよう。できるだけそういう方向に持つて行かないためには、官公庁の需要の一部を満たすこによつて矯正保護作業を十分達して行くことができるのであります。これは昨日も申し上げましたように、官公庁の需要を一〇〇といたしますれば、刑務所全体の一年間の生産力というものはその一%にしか当らないのであります。官公庁の需要の一%だけをもらえば、刑務所の作業は十分なのであります。その一%を現在では刑務所の作業として請負つておらない。その一%を満たすためにそのうちの四分しか官公庁の需要をとつておらない。あとの六分は民間から請負つておるのであります。従つて官公署の需要の一%だけ全部こちらへもらえますれば、民間のこの六分に手を出すだけの余力はもちろんないし、またこの法律によつて民間には全然手を出さない、こういう理想に到達したい、かように考えておるのであります。ところが今お示しになりましたアメリカのこの七百六條の規定は、御承知のようにアメリカでは官公庁の需要のみを刑務所で請負つております。なお請負つたほかに過剰生産があるならば、一般公開市場にそれを出すが、しかしそれは一般の自由労働による生産品と競争しない程度に出せ、こういうので、向うの生産力は非常に大きなものでありまして、官公庁の需要を満たしてもなお過剰生産物があるかもしらぬということを、この法文で予想しておるのであります。ところが日本の現状におきましては、おそらく今の收容者は一番多い絶頂だろうと思います。それでも御承知のように、十万になんなんとするだけでありまして、そのうち実際働ける者だけの人数というものは、六万ないし七万しかないのであります。従つて労働力、生産力というものは、その六、七万の人だけしかない。その六、七万の受刑者が常に同じ仕事をやつてつて、熟練工になるのではない。刑期が来ればどんどん出てしまう。常に新陳代謝をしておる、その六、七万の者がフルに働きまして官公庁の需要の一%だけの生産力しかないわけでありますから、全然民間の仕事をやらないで、官公庁の一%だけ仕事をやるということで、必要にして十分な量なのであります。その意味において、この法案の結果、一般の自由競争に対して非常な惡影響を及ぼすとか、あるいは中小企業に対してたいへんな影響を及ぼすというようなことはとうてい考えられないのではないか、かように私どもは考えておるのであります。この点は私どもの机上のプランだけではありません。通産省の方におきましても、また中小企業庁の方におきましても、実際の生産力と、それから需要供給との関係を調べまして、刑務所の現在の生産力をもつて官公庁の一部を満たしても、さしたる影響はなかろうということを裏づけておるのであります。この法案の実施において、一部の人が心配しておるように、中小企業にさしたる影響はなかろう、かように私どもは考えておるのであります。
  14. 石川金次郎

    ○石川委員 ただいまわずか百分の一ぐらいの量を仕事するにすぎないとおつしやつたのでありますが、なおその点について、法務府の方にも民間の印刷業者から出て参りました表をひとつごらん願つていただきたいと思います。そうしてこれはあとでよろしゆうございますから、この表が間違いであるということを、よくわれわれに納得が参りますように、資料に基いてお教え願いたいと思う。政策的に関することはあとまわしにいたしまして、今度は法文に入つて参ります。  第三條の点について聞いておきますが、非常にわかつたようでありまして、法規に出て来ると、どういうように考えていいかわからないことがあります。矯正保護作業を運営いたしますのは、主として刑務所の人たちだと存ずるのでありますが、刑務所の役人の人たちがこの法を運用いたしますにつきましても大切だと存じますからお伺いいたしますが、第三條に「行刑に関する法令の定める制限のもとにおける受刑者の基本的人権」こういう言葉が書いてございます。これを質問申し上げるのは多少どうかとも思いますけれども、そういう言葉が入つたのでありますから、行刑に関する法令の定める制限のもとにおける受刑者の基本的人権、こうなりますと、受刑者も侵し得ざる一つの基本的人権を持つておるのだということになりますから、その受刑者が持つておる基本的人権、これはだれにも侵されないという一つの人権があるならば、これを明瞭にしておきます方がこの場合大切だと思うのであります。もつともあとで監獄法の改正の場合にも問題になると思いますので、この点をひとつお伺いしておきます。
  15. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 第三條には、法令の定める範囲内においては制限されるけれども、その他一般人と同様に基本的人権を享有しておるのであるから、受刑者の基本的人権は尊重しなければならぬという趣旨規定いたしておるのでありますが、仰せのように他の法令において制限しておらない、また制限することのできないような基本的人権は、もちろん受刑者といえども、享有いたしておるのであります。たとえば憲法第十九條の思想の自由であるとか、あるいは良心の自由であるとか、あるいは憲法第二十條の信教の自由、あるいは第二十九條の財産権不可侵の権利、かようなものは、他の法令においても、現在も制限いたしておりませんし、また将来といえども、制限すべからざる基本的人権であろう、かように考えておるのであります。
  16. 石川金次郎

    ○石川委員 そのほかに單に受刑者の生命をできるだけ守つてやる、生命そのものはきわめて尊重するという意味は含んでおるかと思われますが、それはいかがですか。
  17. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 その点は申し上げるまでもなく、生命身体についてはできるだけ尊重しなければならぬと考えておるのであります。ただ身体の自由については、刑の執行上当然一定の拘束はいたしておりますけれども、生命に対する権利は十分尊重いたさなければならぬものと考えております。
  18. 石川金次郎

    ○石川委員 そこでここにその基本的人権を尊重しながら、かつ受刑者の矯正保護に役立つものでなければならぬという規定があります。受刑者の矯正保護に役立つ作業でなければならぬというのでありますから、その各個人が矯正せられ、保護せられるために役立つ作業と見なければなりません。その決定がどのようにしてなされますか。もう一つこの点について現行監獄法の第二十四條の一項の関係であります。それには、御承知のように考え方が違うときにできた法律なのでありますから、別の意味に書いてあるのでありますが、これとの関係をお聞きしたいのであります。たとえば二十四條には「作業ハ衛生、経済及ヒ在監者ノ刑期、健康、技能、職業、将来ノ生計等ヲ斟酌シテ之ヲ課ス」と作業の課し方がこれにきまつておるのであります。このほかにさらに矯正保護の目的を達するような作業でなければならぬことになるのでありますから、この二十四條第一項がただちに変更されるのか、変更されないのか。これをこの法をそのままにしてこの新しい法を出すのでありますから、それを明らかにしていただきたいのであります。
  19. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 矯正保護作業が受刑者にこれを課するに当つても、受刑者の矯正保護に役立つものでなければならぬし、また矯正保護に役立つように矯正保護作業を課しなければならぬ。かように考えておるのでありまして、本法案の第三條の趣旨をさらに具体的に申し上げますならば、ただいまお示しの現行監獄法第二十四條において「作業ハ衛生、経済及ヒ在監者ノ刑期、健康、技能、職業、将来ノ生計等ヲ斟酌シテ之ヲ課ス」この矯正保護作業に役立つものとしての内容を現行監獄法の二十四條で規定しておるもの、かように解釈いたしておるのであります。しからばどういう方法で矯正保護に役立つような作業を考えておるかという御質問でありまするが、最近におきましては、受刑者が刑務所に入りますと、これを專門家は科学的分類方法と言つておりますが、医学の方面から、また心理学の方面から、また教育学の方面からその受刑者の適格、技能等を判別いたすのでありまして、さらに本人がどういう作業を希望するかというその志望を参酌いたします。さらに刑期を終えて社会に出たならば、どういう職業をもつて身を立てるつもりか、その志望なり方向を聞きまして、それをしんしやくして適正な作業を課しておるのであります。その本人の希望通りに行かない場合もありまするけれども、まず第一に科学的に分類をいたしまして、それに適当な作業を課しておるというのが現在の方針になつておるのであります。その矯正保護に役立つものというのは、先ほども申し上げましたように、矯正保護作業はただ経済ということを考えない、ただ労役だけを課するものではない、さような考えをもつて矯正保護作業をなすべきものではないということもこの第三條に表われておるのであります。やはり同じ作業をなすに当りましても、こういう作業についての技能を身につけ、そうして社会に出たならばこの技能によつて生計が立て得るように、経済が成立つて行くようにということを目標にして矯正保護作業を課しておるのであります。
  20. 石川金次郎

    ○石川委員 そこで第三條の第二項をお伺いいたしますが、この二項の規定であります。「受刑者は、その作業を通じて、勤労の風を養い、職業技術を覚えて、健全な社会人として更生することに努めなければならない。」という受刑者の心構えと受刑者に対するところの要求をここに書かれたのであります。これは法律としてどういう意味がありましようか。もし法律がこの法を執行して行くところの側において、この法はこの精神をもつて施行しなければならない、運用しなければならないと書くのがほんとうかと思います。ここに受くる方の側の心構えを要求されましたひとつ理由をお聞きしたいのであります。
  21. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 御指摘のように、この條文の書き方としては、いかにも受刑者の心構えだけを規定したように読めるのでありますが、立案者といたしましては、受刑者の心構えはもちろんであるが、その受刑者に対して作業指導する者、いわゆる職員の心構えとしても、受刑者をしてそういう方向に向けるように努力しなければならぬ。両方の意味を含ませておるつもりなのであります。
  22. 石川金次郎

    ○石川委員 それではそのように承つておきますが、第四條でありますが、この矯正保護作業に従事する受刑者には、予算の範囲内で作業の賞與金を給するものとする。こう言つておりますが、これはどういう意味でありますか。予算の範囲というのは、これは予算でこれだけは作業賞與金としてやるという予算を見積るのでありますか。それとも仕事が非常によく行つたからというので、あとでやるというのではなくして、ただ予算があるだけ出す、それだけやる、こういう意味なのでありますか。お聞きしておきたいのであります。それからこれは監獄法の二十七條二項でありますが「作業賞與金ハ行状、作業ノ成績等ヲ斟酌シテ其額ヲ定ム」とありまして、これは予算とも何とも書いてありません。この場合にはその人の行状であるとか、作業成績をしんしやくして定められるのであります。それが予算の範囲とここにかわつて参りましたのはどういう意味でありますか、明らかにしてください。どのような差異があるかということであります。
  23. 關之

    ○關政府委員 お尋ねの点にお答えいたします。この監獄法二十七條とこの法律第四條との関係でありますが、まず予算の範囲内においてという文言でありますが、これは最近法律のみならず、他のいろいろの法律にこのような文言が取入れられておる。これもここに採用した一つの理由でありますが、なぜそういうことが入るかと申しますと、もしこれは書きつぱなしでありますと、ちよつと無制限に出すということに一応規定の上から相なるわけでございます。年度の当初におきまして、大体このくらいというふうに予算を組むのは、これは普通の手続でございまして、要するにその範囲が無制限でない。予算の範囲でしか出し得ないということをこれによつて明示する。従つて予算以上出し得ないという制限をこの法律でつくつておるわけでございます。もとの二十七條によりますと、一応無制限になつておりますが、事実上はやはり予算の範囲以外には出し得ない、こういうことになるわけであります。それでこれをはつきりいたしまして、その範囲だけしか出せないということが法律でもつて明らかにされておるのであります。かようにこの解釈は私ども考えております。そして二十七條におきましては、まず「在監者ニシテ作業ニ就クモノニハ命令ノ定ムル所ニ依リ作業賞與金ヲ給スルコトヲ得」ということになつておりまして、賞與金の性質といたしましては、それは賃金ではなく、要するに刑務所の側におきまして、本人の作業の成績がよろしいからほめるという意味合いにおいてやるわけでありまして、やるかやらないかは刑務所側の一方的な考えで決せられるわけでございます。要するに非常に恩典的な恩賞的な意味があるわけであります。ところがそういう作業に対する対価といいましようか、そういうものをどう考えるかということは、監獄法の刑の執行との問題につきましては、日本においても問題になつておりますし、外国においても問題になつているのであります。いわゆる賃金まで行つていいのか、それとも賃金というのはむりだ、やはり賞與金かそこらのところかということが法律的に非常に問題でありまして、お配りいたしました資料の中のニユージヤーシーのものには賃金というふうに書いてあるわけです。ところがいろいろに考えまして、わが国においてはまだ賃金というふうには考えられない。たとえば受刑者に賃金の請求というのはとても認められない。しかし受刑者も労務を提供してそこに働いたというならば、働いたことはやはり尊重してやらなければならない。従つて非常に含みのある変な言葉でございますが、本法の第四條におきましては、監獄法の二十七條よりはやや前進いたしまして、賞與金を給するものとするとした。だから多かれ少かれ働いている限りにおいては、若干のものは国家の側において給する義務を持つ。しかしそうかといいまして、受刑者側に作業賞與金を請求する権利をこれによつて設定するものではない、かように考えているわけであります。
  24. 石川金次郎

    ○石川委員 まず年度初めに一定の作業賞與金としての予算を見積りますが、その見積る根本は何によるのですか。この刑務所においてこれだけの生産を上げるだろう、その場合にはこれだけの賞與金をやるというようになるのでありますか。
  25. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 その点は一般の企業と違いまして、これだけの收入があるから、そのうちから賃金を幾らやろうというような建前と全然違うのでありまして、従来の経験からみまして、何人の受刑者に対してどれだけの賞與金を支出するかということを予算で見積るのであります。その賞與金を給する基準としては、内規できめております。一般の作業に従事する者については一日どのくらいとか、あるいは重労働に従事する者はどのくらいとか、それから刑務所の中で作業する者と郊外で作業する者とについての差もあります。そうして一箇月に二十八日労働するものとして、一人の賞與金がどのくらいになるかというような一定の基準がありまして、その基準に基いて受刑者の人数等をかけて予算が計上されるのであります。作業による收入のいかんということは、賞與金の多寡には影響しないのでございます。
  26. 石川金次郎

    ○石川委員 そうすると、結局は作業による量とかいうものではないのだということになるが、量があつてもなくても、働いたということだけでやるべきものではないかと思う。従つてこれは企業のように、刑務所においてこれだけ働くと賞與が来るのだという意味の労働というものはさせないのだ、こう承つてよろしいのでありますか。  次に、作業賞與金については、ただいま受刑者の請求権がないのだというお話でありますが、私は予算の範囲内で給する責任を持つと考えます。それを支給しなかつたとすればどうなるのでありますか。これはやはり依然として請求権があると見なければならぬのじやないでしようか。こういう点の基本的人権はどうなるかということであります。行刑の上におきましては、労働すれば給與を受けることができることになつておりますので、その点はどうなりますか。
  27. 關之

    ○關政府委員 働いたことに対して一定の金銭が給せられる場合に、受刑者に請求権を認めるかどうかという問題でありますが、これは従来の監獄法二十七條から申しますと、給することを得という刑務所側の権限規定になつておりまして、解釈といたしましては、給することを得であるから、受刑者が請求する権利はないというような解釈になつてつたのであります。従来わが国といたしましては、そういう請求権を認めるという考え方については、どうもそこまで行くのはよくないのではないか、刑務所側で受刑者の労務を無視するような態度ではいけないけれども、官庁側にだけ給するというように義務づけをして、受刑者の側に請求権を認めるというところまでは行かない方がよいというような考え方を持つていたのであります。この点については、外国立法例等を調べてみましたが、やはり外国においても賃金という言葉は使つておりますが、その賃金につきましても、受刑者側に請求権というところまでは認めないというふうに、今まで私の調査した範囲ではわかつたわけであります。そこで第四條といたしましても「作業賞與金を給するものとする」というふうにいたしまして、受刑者が働いた場合には、官庁側において予算の範囲内において給するというふうにしたのであります。これについて、もし刑務所の職員が給しなかつたならば、法律通り職務を執行しなかつたということで、公務員法上の官吏の懲戒といいましようか、責任問題に相なると思います。この文字ではあるいは不十分かもしれませんが、もし請求権があるものといたしますれば、受刑者は請求することを得とかなんとかいうような表現をするはずであつたのでありますが、それを避けてこういう文面にした趣旨は、実はそういうような考慮のもとにいたしたからであります。
  28. 石川金次郎

    ○石川委員 国は支拂い義務者として立つたのであります。債務関係がある以上、債権者というものは出て来なければならぬというふうに考えられる。この場合、受刑者という特別な身分なるがゆえに請求権がないのだというだけではだめであります。どうしても現在の法律的な考え方からして、何か別な理由を持つて来なければならぬのであつて、それを首肯せしむるに足るところの一つの法律理論を構成しなければならぬと思います。ただ慣例だからというのではなく、何人も首肯し得るという一つの論理体系を持ちながら進んで行かなければならぬのであります。そうすることがこの法務委員会の責任であると思う。そこでなぜそれを認めないかという理由をお聞きしたいのであります。基本的人権を認めるぞということは、ちやんと書いてあるのであります。また佐藤さんのおつしやつた財産権の尊重はどうなりますか。
  29. 關之

    ○關政府委員 受刑者に、働いたことに対する作業賞與金という一定の金額の請求権を認めるかいなか、これはすぐ前のお答えに申し上げたように、実はそういう権利を受刑者に認めるのが本質上正当であるかいなかという、むしろ一つの根本の問題にぶつかる問題でございまして、私どもとしても、この点は一番頭を悩ました根本の問題であるわけであります。そこで身体の拘束を受けて、法律上苦役に服さなければならないというふうに規定されてある受刑者があるわけであります。それが一定の法律の当然の規定によつて労務を提供した。そうして一方において、規定としましては作業賞與金というのがここにある。その労務を提供したということを尊重して、とにかくそこに何がしかの金をどういう理由においても供與することは、疑いない事実であるわけであります。そこでその関係を受刑者側に請求権ありとして、そこまで行くという一つの考え方も私は存在すると思うのであります。それこそ受刑者の基本的人権であるという考え方も、十分に私は考え得る余地があるものと思うのでありますが、しかしいろいろの従来の監獄法の経過、わが国の今までの受刑者の作業賞與金に対する考え方、また外国などの立法令なども参酌いたしまして、やはり身体の拘束を受けて苦役に服さなければならないという身分で、特殊的な地位にあるところの受刑者に対しては、請求権というか、働いたからそれに対する相当の報酬を請求する権利というものは、そこまでは認めないのが、やはり今日の段階において、いろいろの法制の発展の経過から見て妥当ではないかというふうに考えまして、かような第四條のごとき規定を設けたのであります。おそらく今の受刑者の労働に対して、それに対する請求権を認めるかどうかという問題は、受刑者の基本的人権の問題と関連いたしまして、将来残された重大なる研究問題であると私どもは考えておるわけであります。
  30. 石川金次郎

    ○石川委員 受刑者は一つの犯罪をやつて、刑務所に服役した。それは刑法理論の上では合法であるか、何であるかわかりません。しかし一たび刑務所に入つてあなた方がおせわしてくださる上は、これはここに明らかに書いてありますように、矯正保護であります。基本的人権を認めるとこうこの法律にお書きになつたことは非常な進歩的な法律であります。ここには高いヒューマニズムの思想が流れておると思つております。もしもこの法律を受刑者の諸君が見てくれたならば、喜んでくれると思うのであります。それでそのときに苦役をやつてつても、昔ならば、お前が惡いことをしたのだからただ働け、どんな苦労もやれ、どんなむりも忍べということも一つの方法でありましたが、だんだんに進歩して参りました社会におきましては、そういう下等のことはいたしません。残酷な刑罰は許されません。それなのでありますから、今の状態においては、賃金を拂うというところまでは行かないにいたしましても、自由拘束をやり労務を提供したら、賃金を拂うのだ、自由拘束だけは刑であるという、その点までは行かないにいたしましても、予算できめた範囲の賞與は給するようにしなければならぬ。当然これは受刑者の側から見れば請求権があるものだし、拂わないなどという、そんなばかげたことはないなどと言つて安心させるわけには行きません。先ほど佐藤さんが財産権——二十七條を尊重するのだとおつしやいましたが、一つの債権者ではありますまいが、あるいはまた労働権を考えなければなりません。そうなると、この條項は何もかえる必要もない。そういう気持はそうでないというのとどれほど違いがあります。そういうものであると言つて受刑者の心持を発奮さして、感激を覚えさせることこそ一つの政治じやないでしようか。救済法律でありましても、心構えであります。恩惠などという立場はやめなければなりません。ほんとうにあなた方が基本的人権を尊重するならば……。
  31. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 一般の企業における労働者の賃金のように、受刑者の労務に対して一定の賃金を拂う。従つて労務者たる受刑者にはその賃金の支拂い請求権があるというところまでは、先ほども關政府委員も申し上げましたように、どうもそこまでは考えられないのであります。受刑者の労役に服しておりまするのは、これは申し上げるまでもなく裁判による刑の執行として、法律上当然労務に服さなければならないのである。しかしながらその労務によつて一定の国家の生産にも寄與することになるし、またその労務は受刑者の矯正保護の手段として、将来りつぱな社会人として更生する一つの手段にもなりますので、その受刑者の勤労の精神を養い、また勤勉の風を奨励するという意味からも、労務に対する対価ではないが、国家として労務に服した者には、ある程度の賞與金を給しなければならぬというその関係を、この法文で現わしたのであります。これを石川委員のおつしやるように、受刑者の方に賞與請求権があるというふうにはつきりと條文で書き表わすことも、一つの方法ではあるかも存じませんが、この條文を起案いたしました心持は、受刑者の労務に対する一定の賃金というわけではないが、また従来のように、国家において一方的に恩惠的に賞與を給する、あるいは給しないということは随意であるというような程度でもないので、言わばその中間に位するのでありまして、労役に服した受刑者に対しては、国家は一定の賞與を給しなければならぬという、その国家に対する一つの義務を認めたのである。しからばその義務が受刑者に対していつ権利となるのかということを考えますと、現存賞與の支給の手続を考えてみますと、毎日受刑者が労務に服した場合においては、普通の労務によつて一定の基準に従つた賞與金というものが計算されるのであります。賞與金額の計算が決定されますれば、そこで受刑者に決定された賞與金を請求する権利が発生して来る。こういうふうに私どもは解釈できると思う。従つてきよう労務に服して一定の基準に従つた賞與金の金額が決定されれば、あすはその受刑者はその賞與金を自分のものとして、たとえば受刑中に訴訟を起すという場合に、訴訟費用に充当してもらうとか、あるいは何か自分が私物をほしい場合に、その私物を買う代金に充当してもらう、残つたものは釈放の際に全部請求して、それを自分が持つて行くというふうに、作業によつて賞與金額が決定されれば、そこで受刑者に賞與金額請求権が発生するもの。こういうふうに解釈してよいのではないか、かように思います。
  32. 石川金次郎

    ○石川委員 それでよくわかつて参りました。  次にお聞きしたいのは、その支給のとき、いつ支給なさるのか。それから受刑中であつても、今のお話によりますと、不時の場合、訴訟が起つたという場合にはやることができる、もらうことができるというのでありますが、あるいはまた受刑者が、受刑者としての境遇を逸脱しない範囲においては、物を自由に購入することも許すのか。そういう点をひとつお伺いしておきたいと思います。
  33. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 作業賞與金が決定されました後に、受刑者がその作業賞與金をもつて適当な範囲内において支弁することは認めておりますが、その範囲については時代によつて大分違つております。最近は非常にその範囲をだんだん広げて参りまして、先ほど申し上げたように、訴訟を起すための訴訟費用であるとか、あるいは罰金を納付するための納付金であるとか、あるいは衛生上必要な食物をある程度購入することも認めております。また衣服につきましても、一般の支給で足りない人については、希望によつてその衣服の購入をすることも認めております。また家族の生計のためにどうしても送りたいというような場合には、その送り先等も十分調べまして、せつかく得た賞與金が有効に使われるということが認定できますれば、家族の扶養のために送るというようなことも認めております。また勉強したいためにノートが欲しいとか、鉛筆が欲しいというような場合には、そういう教科の材料を購入することも認めております。これは法務総裁の訓令によりまして、こまごまと内容を規定しておりまするが、その賞與金の使い道は、だんだん時代によつて範囲が広くなつているように思われるのであります。
  34. 石川金次郎

    ○石川委員 わかりました。そこでお伺いしておきますが、先にこれをお伺いすべきでありましたが、途中になりましたけれども、監獄法は改正のお考えがないでしようかもう一つ、現在の監獄法を見て参りますと、六十條の第二項にあります屏禁、軽屏禁、重屏禁というのがありますが、これは今どうなつているのですか。この監獄法のやり方が新しい憲法牴触しないように実施されておりますとは思いますが、こういうふうなことはどうなつておりましようか。
  35. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 監獄法全般につきましては、新憲法実施以来、当然抵触するような部分もありますので、将来改正の場合には全部これを整備いたしたいと考えているのでありますが、まだ改正の準備の過程にありまして、間もなく監獄法改正案を提出する運びまでにも至つておらないのであります。しかしながら監獄法の中で、新憲法精神に沿わない点は全然死文として、運用いたしておらないのであります。たとえばただいまお示しの第六十條につきましては、懲罰の方法としても、減食をするとか、あるいは重屏禁というようなことは、現在では行つておりません。
  36. 石川金次郎

    ○石川委員 そこで第五條をお伺いします。第五條の作業時間、休憩及び休日でありますが、現在どのようにやつておられるかをお聞きします。
  37. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 第五條には、特に労働基準法ということを掲げておりませんけれども、運用の仕方としましては、労働基準法の精神にのつとつて現在も運用しておりまするし、将来もそういうつもりで合理的な運用をするという方針を定めているのであります。作業時間及び休憩、休日はもちろん労働基準法にのつとつて、一般の労務者と同じような取扱いをいたしているのであります。
  38. 石川金次郎

    ○石川委員 第六條、これはここでお尋ねすることはむりかもしれませんが、ひとつお考え願いたい。六條の作業の実施にあたつて、これに従事する受刑者に危害を與えず、その健康を害しないような適切な処置が講ぜられなければならないことは言うまでもない。ところが作業中に誤つて受刑者が危害を受けた、健康を害したという場合、六條違反になり得るような行為はないと思いますが、過失があつた場合の責任は、その賠償はどうなりましようか。これは当然見てやるべき責任があると思いますが、どうなりましようか。
  39. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 この矯正保護作業を実施するにあたつて、これに従事する受刑者に危害を與えないということは、これは受刑者を観護し、指導する職員にとつて常に心がけなければならぬ事柄でありまして、もし職員に第六條違反のような故意または過失がありますれば、これはもちろん国家賠償法の問題が生じて来ると思うのであります。もし刑務所の職員に、さような故意、過失がないといたしましても、受刑者が従業中に不祥事を起したというようなことがありますれば、行政上の懲戒処分の責任は免れないのでありまして、また受刑者に対しては、現在の監獄法の二十八條によつて、相当の手当金を給するということになつておるのであります。
  40. 石川金次郎

    ○石川委員 第七條に参ります。矯正保護作業の確保、第一項に「国は、受刑者の就業に十分な量の作業を確保しなければならない。」ということは、先ほど申し上げた通り、当然の責任であると思います。そこでこの作業の確保のために、他の企業を圧迫するという点は、さらに別にいろいろの問題があるようでありますから、あとでまた御意見を伺うことにいたしますが、第二項の「地方公共団体は、矯正保護作業の確保について、国に協力しなければならない。」という、この協力の義務が、どういう理由から出て参りましようか。たとえば盛岡の刑務所においてなら、盛岡の市役所、岩手県庁に協力してくれということになるが、どういう意味で協力の義務が出て来るのでありましようか。非常にりくつくさくなるけれども、地方公共団体ではいやだと言うかもしれません。
  41. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 受刑者に対して刑を執行するに当つて、国が矯正保護作業を確保しなければならぬということは、これは十分御了解願えることと思うのでありますが、第七條第二項で、地方公共団体が、その矯正保護作業の確保について、国に協力しなければならぬということを規定いたしましたのは、私どもの気持としては、地方公共団体もやはり受刑者の收容に必要な作業を確保する義務があるのではないかというふうにも考えられるのでありますけれども、現在の制度としては、受刑者を矯正保護することは国の義務であるというふうな制度になつておりますために、一応地方公共団体は受刑者の矯正保護作業については、無関係のように法制上はなつておるのであります。しかしながら、この受刑者がもともと発生する状態、またその受刑者として刑務所まで入れられるその経過をたどつて考えますると、やはり受刑者を矯正保護して、そして社会の健全なる一員として送り出すということについては、国家の一部分である地方公共団体にも責任があるのではないか、こういうふうな気持を持つておるのであります。それについては、別にお示しのできるような法文上の根拠はありませんけれども、一般的に考えて、やはり地方公共団体も、受刑者の矯正保護に対しては一半の責任をわかつべきものではないか、かような気持を持つておるのであります。なお現行の法文について調べますと、地方財政法の第二條第二項には、地方公共団体に負担をかけてはならないというような特別な規定もありまするので、負担をかけない程度に国に対する協力義務をここに規定しても、現在の法的な秩序に何らさしつかえはないのではないか、かような気持から、国に協力しなければならぬという、協力義務の規定を設けたのでありまして、国に協力しなければどうなるかというようなことまでは、考えておらないのであります。むしろ国に協力するように努めてもらいたい、その方向で地方公共団体も援助してもらたい、かような気持で規定いたしたのであります。
  42. 石川金次郎

    ○石川委員 ところが国の仕事のうちの百分の一くらいしか、大体矯正保護作業でやることはないだろうとおつしやつたのですが、国の百分の一の仕事すらやらないというのでありますから、何のために地方公共団体の協力を求める必要があるのであるか、これはまず第一に実際上の問題になつて来るのではないかと思う。それから理論的にはこうなりはしませんか。政府の中央集権的な権力を、できるだけ公共団体の自治性にまかして行くということが、日本の国の進み方ではなかろうかと思います。そういう場合にこのような規定を設けることは、やはりこれは政府の中央集権的な考え方から来るのではないか。従つて理論的にも実際的にも、こういうことを必要としないのではないだろうかと思います。まずこれを地方公共団体の方から言いますと、その地方公共団体の人に一生懸命働いてもらつて、税金を出してもらわなければ、その団体は立つて行きません。たとえば印刷業なら印刷業は全部刑務所にやつて、そして失職者が出て来て、そして税金を取るというのは、これはどうもいかぬという地方公共団体が出て来るだろうと思います。なぜかと言えば、地方公共団体自体が、その住民の経済的確保をしてやるというのが政治の任務でありますのに、そういう場合に、この規定を置かなければならないということがどうしてもわからない。これはなくてもいい規定じやありませんか、お伺いしたい。
  43. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 お尋ねの点でありますが、この法文の立案にあたつて、一応そういうことも私ども考えたのであります。国の需要だけで、各地の刑務所における受刑者の矯正保護作業が十分満たされますならば、何もわざわざ地方公共団体に協力を借りる必要がないのであります。ところが先ほど申し上げました官公需の需要の約一%が、全国の刑務所の受刑者の矯正保護作業の量であることを申し上げたのでありますが、なるほど全体の量としては、あるいは国の需要だけで足りるかもしれませんが、その百分の一と申し上げたのは、国と地方公共団体と、いわゆる官公需の全部の需要の約一%という計算であります。実際の作業の状況を見ますと、刑務所は御承知のように各地方に、少くとも各県に一つ以上あります。ところが各府県に、矯正保護作業に役立つような仕事を十分に供給し得るような国の機関は少いのでありまして、各地方に参りますと、むしろ地方公共団体の需要が国の需要よりも多いというようなところもありますので、全国のすみずみまでの各刑務所における受刑者の矯正保護作業を確保するためには、国だけでは不十分であつて、地方公共団体の協力を求めなければ実際十全なる運営をいたすことができないような状況になつておるのであります。さような実際上の必要から、地方公共団体の協力をお願いいたしたいというつもりで、第七條第二項を設けたのであります。なお地方公共団体は、国の矯正保護作業にまでわざわざ協力する必要がないのではないかというようなお尋ねでありますが、私の考えるところでは、地方公共団体も今では地方公共団体の支弁のもとに警察を持つておるのであります。地方警察は地方公共団体の財政でこれをまかなつておるのであります。その地方公共団体の警察の手によつて治安が確保せられ、またその地方の公共団体の警察の手によつて犯罪者を検察庁へ持つて行く、また検察庁から裁判所へ持つて行き、また裁判所から刑務所へ送り出す、こういうような順序になつておりまするので、そういう点から考えましても、やはり地方公共団体から発生した犯罪人の検挙に協力するばかりでなく、その検挙から自然に発展して行く検察、裁判、行刑、また釈放後の保護というふうなことについても、地方公共団体は特別な関心を持つて国に協力する責任がやはりあるのではないか。かような考えから第七條第二項を設けたのであります。従つて今申し上げたように実際上の必要、また理論上も別に法文の根拠はありませんが、一般的に地方公共団体の協力義務ということを認めても、何らさしつかえないのではないかというような考えを持つておるのであります。
  44. 石川金次郎

    ○石川委員 私專門外のことですからわかりませんがあとでお答えしていただいてもいいのですが、国及び公共団体の仕事の一割以上を刑務所でやる。こうすることによつて国民所得にどれだけの影響があるかということをお調べになつたと思います。これは通産省であるとか、安本に行つてお調べになつた、こういうのでありますから、どういう影響があつたか、税金の割合から見たらどのようなものであるかということをお調べになつたか、それをひとつ説明できるようにしてもらいたい。これは全国知事会議で何かこの法案反対しておるようでありますが、非常に国のためになる法案でありますならば、だれが反対いたしましてもみんなのためにやらなければならないことでありますが、反対する方にも反対する理由があると思います。反対する人のためには、その人が首肯するような説明を與えなければならないと思いますから、今の点もお調べがあつたならばお聞かせ願いたいと思います。
  45. 關之

    ○關政府委員 この法律をかりに実施いたしました結果においても、税金の関係とか、今お尋ねのようなことについてはまだ調べておりませんから、後日関係省の方と打合せまして、調査の上お答えいたしたいと思つております。
  46. 石川金次郎

    ○石川委員 矯正保護作業によつてかりに何か生産物があつたといたしまして、その生産物はその当時の社会需要を越ゆるような場合には、どういう処置をおとりになるのでありましようか。労務の場合も同じであります。
  47. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 かような法律制定いたしませんで、全然放任いたしますれば、御心配のような一般企業との自由競争、まだ生産品の過剰というようなことも考えられまするけれども、この法律施行によりまして官公需にだけ進んで行くということになりますれば、先ほど来申し上げましたように、官公需の約一パーセントにすぎない需要しか刑務所には能力がないのでありますから、一般企業に影響を及ぼすような生産過剰というようなことはとうてい考えられないのではないかというふうに思つております。
  48. 石川金次郎

    ○石川委員 この法律の第八條第二項に「労務に関する政府の政策を尊重しなければならない。」と書いてあります。提案理由説明によりますと、政府の労働または民間企業に関する政策を尊重し、これに反してはならないとあります。これはあとで労働大臣にもお尋ねしたいと思いますが、大蔵大臣は本会議におきましても述べられましたが、本来の経済的姿というものは自由主義である。こう言つて今の政府は自由主義経済というものを高く掲げておられる。このことはお認めにならなければならぬと思います。この自由主義経済と、このように一つの官給的計画を施して行くこの仕事とは矛盾するものがないか。この点どのようにお考えでありますか、お聞きしたいのであります。
  49. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 先ほど来申し上げましたように、受刑者に対する矯正保護作業というのは、法律によつて刑の執行としての労役を課するに当つて、その労役をいかなる方法で受刑者に課するか、または労役を受刑者のためになるように用いるかということを念頭に置いて官用主義を立案いたしたのであります。従つて刑務所における受刑者の矯正保護作業というものは、一般社会の企業とはまつたくその性質を異にいたしておるのであります。そのゆえに政府において、一般企業について自由経済主義によらなければならぬという政策を立てましても、刑務所における受刑者の矯正保護作業について官用主義を実施するということは、何ら関係がないものではないかというふうに考えております。
  50. 石川金次郎

    ○石川委員 次に提案説明に、民間企業、ことに中小企業に対する政策を尊重しとあるが、これに対しては何らの影響なしと思うなら、影響なしということを、さらにこの民間企業に関するところの政府の政策というものは、こういう政策をとつておるものであるから、何らの影響なしという御説明を願えばけつこう。もう一つ現在の政府は、こういうような労働政策をとつておるのであるから、この意味においてこの法案は、何ら抵触するものでないということを御説明願いたいのであります。そうしてことに「労務に関する政府の政策」という言葉について、法律的に概念をはつきりきめておかねばならないのでありますから、現政府の労働政策はこうである、ゆえにこの点においては相反しないということを明確にしておきませんと、あとで実施になりますときに非常に困つて来ると思いますから……。
  51. 關之

    ○關政府委員 受刑者の、たとえば労務の点から申しますと、従来におきましても、司法省の受刑者の労務をいかにするかという点と、労働省との関係においていろいろ問題があつたのであります。具体的に申しますと、受刑者の労務を民間へ出すか出さぬか、この程度なら出すという点につきましてて、労働省の側と法務府の側と一応のとりきめをいたしておるわけであります。これこれの労務には出さない、これこれには出してよろしい。こういうような具体的なとりきめをいたしまして賃金その他の額についても、十分に労働省側の意見を聞きまして、こちらの作業を実施しておつたのであります。将来におきましても、そういうふうに労務担当省である労働省側の御意見を十分に尊重をして、個々具体的な場合に、向うの意見を十分にとり入れてこちらの作業を運用する、かようなことになると思うのであります。  また中小企業の問題におきましても、中小企業庁の方とよく連絡いたしまして、個々の具体的な場合、たとえば刑務所の矯正作業の能力というものと、その地域における中小企業の力というものが、土地によつて非常にバライエテイーがあると思うのであります。ある所においては刑務所の作業能力が全体の五%くらいしかない、ある所ではそれが四〇%あるというように、いろいろそこに問題があるのでありまして、それらの事情をよく加味いたしまして、中小企業庁その他の方面の意見も十分に伺いまして、摩擦をできるだけ少いようにして運営いたしたい。かような趣旨のことが第八條の二項に盛られておる考え方であるわけであります。
  52. 石川金次郎

    ○石川委員 この点についてはなおあとで機会を與えていただきまして、私たちのわかるまでひとつ説明を願いたいと思います。政策に関する問題でありますからあとまわしにして、法文についてお伺いします。  第九條、第十條、第十一條にまたがつておる問題であります。この場合法務総裁は注文案内書を作成いたしまして、これを当該官庁ないしは公共団体の支出相当者に送る、そうして協議をする。こういうふうにありますが、やはりこれも民法の契約というようなかつこうになりますでしような。それをお伺いしておきます。
  53. 關之

    ○關政府委員 今のお尋ねの点でありますが、民法の契約自由の原則にのつとつておるものであると考えております。そのときには別にどうこうというこまかしい内容は言わないで、こういう仕事があるということを御通知をいただく、そうして一応話に入る。そこまでが法律の義務づけでありまして、あとは話をいたしまして、品質、値段、納期その他の点について向うで御承知がなければ契約は成立しない。こちらは仕事をお受けできない。こういうことになるわけでありまして、契約は一切契約自由の原則によつて事を行うということになると思うのであります。これは主として国家機関相互の間の問題でありますから、会計法の規定になるのでありまして、会計法によりますると、競争入札が原則でありまして、自由契約は例外ということになるのであります。随意契約が認められる場合は、官庁間相互の問題であるとか、あるいは刑務所の製品であるとかいうような規定がありまするが、要するにその会計法から申しますと、随意契約の線にのつとつてこの物品購入の手続が行われる。かようなことに考えて法案をつくつておるわけであります。
  54. 石川金次郎

    ○石川委員 他の公共団体の場合はどういう関係になりますか。
  55. 關之

    ○關政府委員 それは各地方自治体において制定されております会計取扱い規定によりまして事を行うことになると思うのでありますが、こちらといたしましては、やはり今の政府の各官庁機関の場合と同じく、一応随意の考え方で事を行いたいと考えておるわけであります。
  56. 石川金次郎

    ○石川委員 第十條の読み方でありますが、契約自由になりますか、いやならば断るという趣旨でありますか。
  57. 關之

    ○關政府委員 一応注文案内書をお送りいたしまして、注文案内書の送付を受けた官庁においては、一応これこれの仕事があるというふうに御通告いただいて、注文していただくかいただかないかという協議に入つていただく。そこまでが一応の義務づけになつておるわけであります。それから先におきましては、今申し上げたように、納期、品質あるいは規格その他において先方の御要望と一致しないものであるならば、契約は成立しない。向うの官庁におきましては、他の方法によつてつくられることになる、かように思つております。
  58. 石川金次郎

    ○石川委員 公共団体との契約はどういう契約関係になりますか、私法上の契約でありますか。
  59. 關之

    ○關政府委員 今の説明は各官庁相互、従つて法律的には会計法にのつとつての考えであるわけであります。各地方自治団体との関係におきましては、その当該地方自治体の物品購入に関する法律規定が問題になるわけであります。一々当つて調査しておりませんが、大体競争と随意と二本建になるのじやないかと思います。こちらといたしまして、一応随意の線によつて行いたいと考えております。
  60. 石川金次郎

    ○石川委員 第十條の「協議しなければならない。」という意味は、協議に応ずればいい、それだけでありますね。刑務所長からこれこれのものがあるから契約せよということに対しても、協議すればいいというのであつて、応じなければならぬという責任は持つておらない、こういうわけですか。
  61. 關之

    ○關政府委員 お尋ねの通りでございます。その品物を購入するについて、承諾しなければならないというような義務づけはない。要するにそちらから申込む協議に応じなければならない、それだけの義務づけでございます。あとの点は全部自由契約の線に乗つておると思うのであります。
  62. 角田幸吉

    ○角田委員長代理 次に田中堯平君。
  63. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 まず提案理由についてお伺いします。提案理由は大分長く書いてありますが、要するに受刑者の人権を尊重するためには、受刑者各人に適合した矯正保護作業を課さなければならない。ところがそのためには官公の需要を独占的に引受けるという方法が非常に有利である。従つて矯正保護作業は官用主義で行くということに大体盡きておると思うのであります。そこでお伺いしたいのは、受刑者は社会の各層から出ております。従つていろいろな技能を持つておるし、趣味、性行も異なつておるわけであります。ところが官公の需要というのは、社会の中の何百分か何千分の一の需要の種類しか持つておりませんので、もつぱら官公と取引するという官用主義で行こうとするならば、第一の目的である受刑者の人権を尊重して、その趣味、性行の矯正に最も適合した複雑多種なる業種を選ぶことができなくなりやしないかと思うのでありますが、この点についての御説明を願います。
  64. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 現在の刑務所における矯正保護作業を見渡しますと、刑務所は社会の縮図のような感を呈するのでありまして、大体の職業は備わつておるのであります。さらに現在の業種以外に矯正保護作業として適当なものがあれば、新たに取入れることにはやぶさかでありませんが、官公庁の需要に適するような職業によつて、十分受刑者の矯正保護の理想が達せられるものと考えるのであります。
  65. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 今の点でありますが、たとえば印刷とか家具をつくる木工とかいうようなものは、なるほど官公需要は相当大きいと思うのであります。ところがそれには限らない。まことに多種多様、いろいろな道具をつくり、いろいろな生産品をつくる業態がありまして、活社会においては千差万別であります。そういう層からおのおの受刑者が出ておるために、もしも官用主義ということを基本にして進もうとするならば、どうしてもそこにむりが生ずる。今までは全然印刷などには経験はないし、興味もないという人間でも、官公、官用主義をもつてすれば、印刷という仕事が非常に刑務所としても有利であるし、かつ官公の需要が大きいから、この部門にお前は入れというので、むりやりにもこの印刷なら印刷という業種に入らなければならないというむりが生ずると思うのでありますが、その点もう少し詳しく御説明願います。
  66. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 その点につきましては、先ほど石川委員の御質問に対してもお答え申し上げたのでありますが、実際の運営の過程を見ますと、受刑者については、最初にいろいろな点から、その健康状態なりあるいは技能、将来の生活の方便、またその者の嗜好であるとか、あるいは本人の志望等をしんしやくいたしまして、適当な作業を選択いたすのでありまして、その作業の種類を官公署に限りましても、受刑者の矯正保護について、むりを生ずるというようなことは、とうてい考えられないのであります。
  67. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 たとえば洋裁というような作業はどうでございますか。官用主義で十分に間に合いましようか。
  68. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 洋裁でありましても、婦人や子供の洋裁というようなものは、あるいは十分には行かないかもしれませんが、男の洋服その他の洋裁については、これはとうてい刑務所ではまかない切れないくらい官公の需要があるのであります。
  69. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それではその点はそのくらいにいたしておきまして、矯正保護作業法案が提案されるに至りますまでの経過についてでありますが、第一にお伺いしたいのは、これは政府の発意によつて発案されたものでありますか、あるいは関係筋から何らかの命令なり、あるいは指示があつて、勧告があつて発案されたものでありますか。
  70. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 この法案を立案する動議といたしましては、刑務所の受刑者に対する労務を十分確保することができない現状にありますので、民間の方から受刑者に與える仕事を探し出すのに、非常に苦労をいたしておるのであります。官庁の方面の仕事につきましても、なかなか刑務所の注文とりだけでは思うように仕事がありませんので、全然仕事がなくて、ただ大きな広間に何百人という受刑者がすわつておる。そのために受刑者にとつては、仕事をするよりもすわつている方が非常な苦痛である。また本人の矯正保護をするという上から見ましても、何らかそこに生産的な仕事を課しまして、勤労の風を養い、また将来社会に出てから自活のできるような生産技能を與える方が、矯正保護の目的が達成せられるのであります。そういう点について、われわれ当局は非常に仕事の不足な点にむりをいたしておるのでありますが、たまたま関係方面からも、アメリカにおいてはすでに官用主義が行われておるが、日本でも官用主義の一部をとり入れたらどうかという示唆もございましたので、とりあえず外国の文献等を研究いたしまして、なお他官庁と十分な連絡をとりまして、成案を得た次第であります。
  71. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 その点についてでありますが、伝え聞くところによると、最初二月の初旬に本案についての各省次官会議が行われたときに、法務次官はこれは関係筋の命令であるというふうに言つて、通産とかあるいは文部という方面では反対的な意見であつたものを、鶴の一声で話がきまつたあとで、よく調べて見たらこれは指令ではなしに、單なるアドバイスであつたというふうに、巷間伝えられておりまするが、この際こういうことが真であるか偽であるかを御説明願いたいのです。
  72. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 ただいまのお言葉でありますが、私らはそういうデマは全然耳にいたしておりません。ただいま申し上げましたように、関係方面から外国の例を示されて、日本でもとり入れたらどうかというアドバイスは受けました。そういう示唆を受けた程度でありまして、もちろん向うから命令を受けるというようなことはありません。また他官庁に対して、この法案を立案することにつき、また通過することについて、それを強要するとか命令するというようなことはとうてい考えられないことでありまして、お聞き及びのことはおそらく逆宣伝であろうかと考えられるのであります。
  73. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 最初これが閣議にかかつたときには、民間企業を圧迫しないような措置をとるということ。それから矯正保護作業の現状を拡張するとか、強化するというようなことは、とり立ててはやらないという趣旨の附帯條件がついておると伝えられておりますが、その辺はいかがでありますか。
  74. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 この法案が閣議を通りますについて、附帯條件がついたというようなことは、われわれ事務当局は聞いておりません。なお方針といたしまして、労務に関する政府の政策を尊重するということは、先ほど申し上げましたように、一般企業の関係であるとか、労務の関係について十分調整をとつて行きたいという方針で立案いたしておるのでありまして、この法案を実施するにあたつて、特別な予算を要求するというようなことも考えてはおらないのであります。
  75. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 この予算上には大体矯正保護事業の経費、昭和二十五年度は約十二億になつているようでありますが、さようでありますか。
  76. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 昭和二十五年度の刑務所作業費は、仰せのように十二億計上いたしております。
  77. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 これは昭和二十三、四年度、すなわち前年度及び一昨年度等に比べましてどういう比率になりましようか。
  78. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 二十五年度は、仰せのように刑務所作業費が十二億、二十四年度は八億五千万、それから二十三年度は二億九千余りになつております。これは非常に年々増加しておるようでありまするが、御承知のように、戰災によつて全国の施設の約三分の一が燒失しておるのであります。ところが受刑者の数は戰前は五万にも達しなかつたものが、二十三、二十四年度は御承知のように十万になんなんといたしておりまして、約二倍の收容者を抱え、施設は三分の一減、こういうことになつておつた。従つて皆様の御協力を得まして、戰災後は年々設備を増設し、あるいは新設して整備に努めておるのであります。従つて施設の充実に伴いまして、作業の施設についてもこれを整備する必要があつて、金額も自然増額いたしております。また購入費も、インフレの影響等によつても年々増加いたしておるのであります。
  79. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そこで年々この経費が増加しておる原因は一応わかりましたが、本年度十二億によつて矯正事業が相当拡張される見通しでありますか。ことに印刷部門のごときはどういう計画を持つておられますか。拡張されるのでありますか、現状維持でありますか。
  80. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 ただいま申し上げましたように、刑務所の施設がだんだん拡張いたしますれば、それに伴つて作業に要する施設も充実しなければなりませんので、作業費の支出がだんだん増額されておりまするが、昭和二十五年度におきましては、備品としての予算は一億七千八百万円、これは機械器具、自動車等の備品費の予算であります。なお詳しく申し上げますれば、業種別に申し上げますると、木工、印刷、それから窯業、洋裁縫、化学工業、皮工、メリヤス、わら工、竹工、紙細工、農耕、それからそのほかの各業種の共通の費用及び自動車購入費等、合計一億七千八百万円が備品費の項目にあがつておるのであります。  それからお尋ねの印刷関係でありまするが、このうち印刷に要する機械は七十五台、現在よりもふやす予定になつておりますが、現在は二百九十三台あるのを明年度七十五台ふやすことにして——御参考までに申し上げまするが、戰前は三百八十台あつたのでありますが、現在では二百九十三台しかありませんので、七十五台ふやして戰前の生産力まで到達させようというふうに考えておるのであります。
  81. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そこで印刷について少しくお尋ねしたいのです。と申しますのは、木工とか、洋裁とかその他の部分では、民間業者に対する影響がそれほど重大ではないかもしれませんけれども、印刷という部門をとつて見ると、これは申すまでもなく地方の印刷、都会の印刷、その地方別によつてその発生理由も業態も非常に異なつております。いなかの各府県地方の印刷業者は大体官公需要を目当に操業しまた経営しておるものが非常に多いのであります。中には官公署等といろいろな特約や、あるいは内密の條件まで取りかわして、特殊な機械を仕入れてやつておるというようなのもあるようであります。ところがこういうふうに、ことに官公署におきましては印刷に関する需要は非常に大きい。すべてがみな机上の仕事を通じてやられておりまするので、いろいろ印刷物の注文が多いわけであります。都会では大新聞関係、いろいろな本を発行するとか、やはり文化の中心になつておりまするので、印刷業も大企業が相当多いし、また中小企業といえども官公需要以外のものが相当あるわけであります。地方においてはこれは決定的に官公署の注文に依存しておると言つて過言ではないと思うのでありまするが、今承りますれば、本年度は十二億、そのうち一億七千八百万円という部分が備品費に使われ、印刷に対しては二百三十九台のものが七十五台もふえるほどの拡張をされる。その上に官用主義ということで官公署の注文は一手にこれを引き受けるというようなことになりますると、これは地方の中小印刷業というものは明らかにあるいは廃業しなければならないし、あるいは経営が成立ち得ないまでに事業を縮小しなければならないという結果になると思います。私どもの知つております範囲では、大体政府のこの案が実現され、実施されるということになりますると、もつぱら官公用の印刷物をやつておつたものが全国で業態数にして四千、従業員が約六万、これはさつぱり業務を停止する以外に方法がないと思いまするが、それ以外にも半官半民的な印刷業をやつておつたものが大体五千くらいあるわけでありまして、これも半身不随の状態となり、従業員も十数万というものが失業の状態にさらされるということは、大体明らかだろうと思うのであります。これは国家的に見ても社会的に見ても非常に重大なる反響をこの法案が引き起すことになると思うのでありまするが、昨日来の政府の御答弁を聞いてみると、そういう方面については心配はいらぬ、ただ官需の百分の一を刑務所が生産しておるにすぎないからという、この一本のりくつだけで、失業とか廃業とかいうおそれはさらにないというふうに軽く答弁をなさつておられまするが、今のように、ことに印刷にとつてみましては、まことに決定的な結果が来ると思いまするが、この点についてもう少し責任ある御答弁をお願いしたいと思います。
  82. 佐藤藤佐

    ○佐藤(藤)政府委員 この法案の実施によりまして、将来は刑務所の行刑保護の作業が官公需の一部分を請負うだけで、民間の仕事には手を出さないという姿になることを理想といたしておるのであります。現在は御承知のように民間の仕事は約六〇%、官公需の仕事は四〇%ということが刑務所の作業の内訳になつておるのであります。もし官公需の仕事が現在よりもだんだんふえて参りますれば、それだけ現在の民間の仕事をしておる分から手を引くことになりまするので、そういうプラス、マイナスの関係から、民間に対してさしたる影響がないだろうという見通しをつけております。ところがただいまお尋ねのように、ある地方において官公署だけを請負つておる印刷業者が、将来官公署の仕事がなくなるのではないかというお尋ねでありますが、それはごもつともなことでありまして、官公署だけをやつておる印刷屋に対しては相当影響はあるだろうと思うのです。しかしながら官公署の仕事がだんだんなくなりましても、そのかわり刑務所で引受けていた民間の仕事は民間でやつてもらうことになりますから、そこで相対的に見れば、仕事がなくなるということにはならないのであります。ただ官公署だけを請負つておつた印刷業者は、民間の仕事にくらがえしなければならぬということにはなるのでありますから、その意味において、さような特別な印刷業者には相当影響があるだろうということは予想されます。  それから各府県別によるところの民間の生産高と、そこの所在地の刑務所の生産高について、出版印刷の生産高の比較が、ここに通産省の調査の資料から拔萃したものがありますから、もし御必要とあれば、これをさらに印刷して御配付申し上げてもよろしゆうございます。あるいは特定の県について、どこの県が民間の生産高と刑務所の生産高とどういう比較になるかというお尋ねがあれば、それも今申し上げてもよろしゆうございます。もしわれわれの調べだけで不十分でございますれば、この資料をいただいた通産省の方にお調べくだされば、なお明瞭になるだろうと思うのでございます。
  83. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 今の資料でございますが、これはぜひ配付していただきたいと思います。それから今の点について、私ども一向納得が行かないのでありますが、きようは時間もありませんし、この点についてはさらにまた質問を留保しておきます。
  84. 石川金次郎

    ○石川委員 当局にひとつ資料をお願いしておきます。それは刑務所の作業といたしましてどういう業の作業がやられているかという業種別、それから設備の状況、それらの業種別的生産予想、供給量の予想、そしてそれは矯正作業法が実施せられました場合における生産量の予想、供給量の予想、この資料をいただきたいと思います。そうすると、大体どういう影響があるかということがわかつて参りますから、それをひとつお願いいたします。
  85. 北川定務

    ○北川委員長代理 ほかに御質疑はありませんか。——御質疑がなければ、本日はこの程度といたしまして、次会は明日午後一時より開会いたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時五十六分散会