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1950-03-02 第7回国会 衆議院 大蔵委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年三月二日(木曜日)     午前十時三十一分開議  出席委員    委員長 川野 芳滿君    理事 大上  司君 理事 北澤 直吉君    理事 小峯 柳多君 理事 小山 長規君    理事 島村 一郎君 理事 前尾繁三郎君    理事 川島 金次君 理事 河田 賢治君       岡野 清豪君    奧村又十郎君       鹿野 彦吉君    甲木  保君       高間 松吉君    田中 啓一君       塚田十一郎君    苫米地英俊君       西村 直己君    三宅 則義君       田中織之進君    宮腰 喜助君       神山 茂夫君    竹村奈良一君       中野 四郎君  出席公述人         東京商科大学教         授       井藤 半彌君         中小企業連盟常         務理事     稻川 宮雄君         日本租税研究協         会常任理事   金子佐一郎君         農業協同組合代         表会議実行委員         会委員長    黒田新一郎君         日本酒造協会代         表理事     土田國太郎君         東京商科大学教         授       都留 重人君         東京都セメント         建材商業協同組         合理事長    寺山 三郎君         納税者新聞主筆 徳島米三郎君         品川税務署直税         課長      森 藏之助君  委員外出席者         專  門  員 黒田 久太君         專  門  員 椎木 文也君     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  所得税法改正その他税制改正案について     ―――――――――――――
  2. 川野芳滿

    川野委員長 これより大蔵委員会公聴会を開会いたします。  本日の問題はただいま本委員会において審査中の所得税法改正その他税制改正法案についてであります。御承知のごとく今回の税樹改正は、昨年のシャウプ勧告に基く画期的改正でありまして、地方税法改正とともに種々議論のあるところと存じますが、本委員会におきましても今回の税制改正重要性にかんがみ、公聴会開き、真に利害関係を有する方々及び学識経験ある方々においでを願つて、広く意見を聴取し、税制審議の参考に資し、審査の愼重な期することといたした次第であります。公述人の方におかれましては、この意味において忌憚のない御意見の開陳をお願いいたしたいと存じます。  本H御意見を述べていただく公述人のお名前は、お手元に配付してあります九名の方々でありまして、発言時間につきましては、理事会申合せによりまして、大体お一人二十分ぐらいといたしますから御了承願いたいと思います。なお公述人の方の発言の順位につきましては、議事の進行上委員長に御一任願いたいと思います。  それではこれから公述人の方の御意見発表をお願いすることといたします。東京商科大学教授井藤半彌君。
  3. 井藤半彌

    井藤公述人 東京商科大学井藤であります。お招きにあずかりまして、税制改正に関する法案に関して意見を申し述べたいと存じます。  御案内通り税制改革に関する法案は、まだ全部そろつておらないのであります。おもなものは出ておりますが、まだ二、三出ておりません。私の本日の公述は出ていないものにつきましても申し上げるものであります。もちろんでたらめの材料によるのではなくて、政府発表昭和三十五年度予算の説明並びに税制改正及び資産再評価に関する要綱、あれを基準にして意見を申し上げたいと思います。それから今回の税制改革案は去年の秋、第六臨時国会を通過いたしました税制改革案と総合して取扱うべきものだと思いますので、両者を総合して述べることといたします。  それから申すまでもなく今回の税制改革シャウプ勧告基礎とするものであります。それで政府の原案に関する意見を申し述べることは、翻つて考えますとシャウプ勧告に関する意見をも申し上げることになるのでありますが、私シャウプ勧告につきましては、大部分賛成でありますが、全面的に必ずしも賛成というのではございません。しかしシャウプ使節団の四箇月にわたる労苦に対しましては、もちろん多大の敬意を表するのであります。しかしながら率直に意見を述べる方がその労苦に報いる道だと存じまして率直に意見を申し上げたいと思います。  そこで租税問題でありますが、これは今回の問題に限らず、一般租税問題は三つの問題にわけて研究すべきではないかと思います。一つ数量の問題、一つは品質、内容の問題であります。きよう公述におきましても、数量内容二つにわけて述べたいと思います。  まず数量の問題でありますが、昭和二十五年度の国税は四千四百十六億、専売收入は千二百十億、両者合計いたしますと広い意味国税は五千六百五十六億であります。これに地方税千九百億、もちろんこの十九億という数字シャウプ勧告数字使つたのであります。地方税千九百億を合計いたしますと、国税地方を通じて日本昭和三十五年度の租税は七千五百五十六憾円になるのであります。二十四年度に比べますと総額におきまして三百億の減税なつておるのでありますが、その内容を見ますると国税につきましては七百億円の減税地方税につきましては四百億の増税になつたのであります。由来減税というものにはとかく問題は少いのでありますが、増税となりますととかく問題が多い。今回の税制改革におきましても国税問題とりも、増税をやります地方税の方に大きな問題があるのじやないかと思います。そこできようは主として国税について申上げさしていただきます。  まず数量の問題でありますが、国税地方税を通算いたしまして二十五年度は七十五百五十六億という数字であります。これがはたして妥当なものかどうか、これはいろいろな立場から問題にすることができるのでありますが、私はここではもつぱら経済という観点から問題にしたいと思います。そこで国の経済力を示すものは何かと出しますと。国内の経済力といたしましては国民所得国民財産があり、国外からの経済力といたしましては外国資源日本の場合においては具体的に申し上げますとアメリカからの援助のものであります。ですがこのうち国民財産につきましては政府の最近の研究がございません。外国資源アメリカ側援助につきましてはこれは計数がわかつておりますが、去年よりやや金額が減りておりますが大差ありません。そこでやはり何と申しましても、囲の経済力を一数字で示す最も重要なものは国民所得と考えますので、国民所得をもつて胴囲経済力を示すものと仮定いたしまして、国民所得組税との関係を問題にしたいと思います。そこで租税国民所得割つて何パーセントになるか。これは多くの人々が絶えずやることでありますが、私はそれと同時にきようはもう一つ違つた方法をとりたいと思うのであります。そこで租税国民所得割つて幾らか。たとえば昭和二十五年度は二三%ということになりますが、これは必ずしも正確とは言われないので、いろいろの点に不正確なところが出て参ります。どういう点がこれではいけないというようなことは一々申し上げません。それではもう少し実情に近い数字が得られないか。そこで私次のよう方法計算をやつてみたのであります。それで租税国税地方税を通算しての話、それから租税国民所得としないで、租税負担能力比率を求めてみたのであります。そこで負担能力というものはどうして現わすか。これもなかなか現わすことは困難でありますが、数字計算しますと、とかく粗雑にならざるを得ないのであります。そこで負担能力を現わすものとして、こういうものをとつてみました。それは一人当り国民所得から最小生活費を引いた残り、これを負担能力と仮定したのであります。ところが問題は最小生活費は何によつて計算するかというのでありますが、これまたやさしいようで非常にむずかしいのであります。そこで私は急いで計算する必要がありますので、かりに食費をもつて最小生活費とみなしたのであります。そこで一人当り国民所得から食費を引いた残り、これをもつて負担能力を現わすもの、新しい言葉で申しますと、一人当り国民所得からエンゲル係数による食費部分を引いた残りであります。それを負担能力を現わすものと見て、そうして一人当り租税との関連を見たのであります。そういたしますと、租税国民所得に対する比率と、今私が申し上げました租税負担能力に対する比率を比べますと、相当開きが出て参ります。やや古い統計でありますが、一九四八年、すなわち昭和二十三年の数字につきまして、わが日本アメリカ合衆国を比較いたしますと、租税国民所得に対する割合日本も二〇%、アメリカも二〇%であります。もちろん国税地方税を含めてであります。ところが今申し上げましたよう計算をいたしますと、どういうことになるかというと、昭和二十三年度は日本は六三%であり、アメリカはわずか三四%なのであります。なぜそういうことになるかと申しますと、エンゲル係数日本の場合は六二・五%、アメリカの場合は三二・六%、大体これは勤労生活者でありますが、こういうために、日本アメリカ租税国民所得に対する比率から申しますと同じでありますけれども、今計算したよう方法から申しますと、日本は六三%、アメリカは三四%という開きが出て参るのであります。そこでこの二つ方法による比率を比較してみまして、昭和二十五年度について見ますと、租税国民所得に対する比率は二三%、ところが租税の今申し上げた意味負担能力に対する比率は五五%、これはふえます。すなわち二三%に対する五五%、かりに日華事変以前を平時といたしまして、昭和十年について同じ計算をいたしますと、租税国民所得に対する割合は一三%であつたものが租税負担能力に対する比率は一九%になつておるのであります。そこで昭和十年の平時の場合は二三%対一九%であつたものが、二十五年度は三三%対五五%となつております。なぜこういう大きな開きが出たかというと、エンゲル係数が違うからであります。具体的に申しますと、当時エンゲル係数は三四%、三十四年度は五八%と推定して計算するからそうなつたのであります。これを過去数年間比較してみますと、昭和二十四年の租税国民所得に対する比率は二六%、租税負担能力に対する比率は六四%、昭和二十四年度は一番高いのであります。昭和二十三年度はどうかというと、租税国民所得に対する割合は先ほど申し上げました二〇%、租税負担能力に対する比率は六三%であります。昭和二十二年度はどうかというと、租税国民所得に対する比率は一八%、租税負担能力に対する比率は五一%、こういう係数を比較いたしますと、租税負担能力に対する割合におきまして、昭和二十四毎度が一番重いことになつております。その次に重いのは二十三年度でそれから二十五年度がその次に重い。だから二十四年、二十三年に比べまして、三十五年度は相当負担が軽くなると一応考えていいのじやないかと思うのであります。しかしながな平時ともいうべき昭和十年当時と比べますと、かなり負担が重いということが言えます。こういうふうに二十四年度と二十五年度を比較いたしますと、確かに減税なつております。しかしながら今から一年か一年半くらい前のように、インフレーシヨンが進んでおりましたときには、税金拂うのはたやすいのでありますが、現在のようなデフレーシヨンないしディス・インフレの時代になつて参りますと、税金を拂うということは、なかなか困難だと思うのであります。数量の問題はそれだけにいたしまして、今度は内容の問題に入りたいと思います。  そこで今度の税制改革内容でありますが、これは申すまでもなく、シャウプ勧告中心にしたものであります。ですがシャウプ勧告を文字通りにそのままに実施するのではなくて、多少の修正を加えられておりますが、大体シャウプ勧告によつておるものであります。そこでシャウプ勧告特徴と言うべきものを列挙いたしますと、まず一番の特徴面接税中心主義とつておること、解説は省きます。二番目の特徴は、資本蓄積ということを非常に重く見ておる。それから三番目は、きわめて精密な精微な組織である。しかしながら、きわめて精微なものでありますので、税務機構その他租税制度が非常に進む状態を前提にするのであります。これが三番目の特徴、それから四番の特徴は、相続税それから地方における附加価値でありますが、この相続税及び附加価値税世界税制史以来初めての新しい税でありまして、附加価値税については今度初めて問題になつております。相続税は学界では言われておりますが、実施されたことはないのでありまして、世界にない新税を二つつくろうとしておるのであります。こういうところに今回のシャウプ勧告、また従つてこれによる税制改革特徴があるのではないかと思います。  そこでまず第一番の直接税について申し上げます。直接税と間接税割合を私が計算してみました。これは井藤計算でありまして、大蔵省計算ではありません。従つてこれは当てにはならぬのでありますが、しかしながら私のかつてな計算をやつてみました。大蔵省計算では、直接税と間接税とその他のものとなつておりますが、これをその他というあいまいなものをやめまして、直接税、間接税のどちらかに整理をやつたのであります。その点が違うのであります。そういたしますと直接税は幾らかと申しますと、三千百五十九億でありまして五六%であります。間接税は二千四百九十七億でありまして、四四%であります。これを二十四年度または二十三年度に比べるとどうかというと、二十四年度は補正予算を加えたものでありますが、二十四年度は直接税五七%に対して間接税四三%、二十三年度は直接税が五一%に対して間接税は四九%、そこで二十五年度を二十四年度に比べますと、一%の狂いはありますけれども、あまりかわらない。二十三年度に比べますと相当直接税の比重が重くなつておりますが、二十四年度と二十五年度と比べますとあまりかわつておりません。そこでこの分類は申すまでもなく、直接税というものは大体金持負担する、それから間接税または消費税は大体大衆負担するということになつておるのですが、御案内通り現在日本では金持なんというものはほとんどおりません。もちろん全然おらぬわけではありませんが、統計的に見ますと大部分大衆というべきものであります。だから現在日本で直接税、間接税の区別をするという実益が、数年前に比べますとあまりないのであります。それで何ゆえにそういう実益がないかということを感じで言つてはいけませんので、数字で申しますと、直接税でも実は大衆課税のものが大部分だ。それはどういうことかと申しますと、昭和二十三年度直接税の確定申告納税者について最近私が調べました。これは昭和二十三年度所得税統計基礎にいたしまして、確定申告納税者によつて調べました。これによりますと、人数合計八百七十八万人であります。ところが課税所得二十万円以下の者は何人かと申しますと、八百二十七万人でありまして、この比率は全体の九四%であります。それから今度所得金額で申しますと、課税所得合計が六千八百九十二億円でありますが、課税所得二十万円以下の者の合計を見ますと、五千三再九十九億円でありまして、全体の七八%を占めておるのであります。そこで二十万円というと非常に多いようでありますが、こんなものは大したものではございませんで、二十万円は昭和十年ごろの貨幣の価値に直しますと千円であります。千円と申しますと、昭和十年の日本租税の上では第三種所得税で千円以下は免税であります。だからしてどういうことになるかというと、現在は納税者人数からいつて九四%、金額からいつて七八%に当る金額が、昭和十年ごろはみんな免税であつた昭和十年ごろ免税の階級が大部分所得税負担しておるということになるのであります。  それからもう一つ国民所得の種類の構成を見ますと、勤労所得が非常にふえて資産所得が非常に減つておるのであります。昭和二十五年について安本の資料基礎として計算いたしますと、昭和二十五年は勤労所得が全体の四二%、資産所得はわずかに一%であります。ところが昭和十年はどうだつたかというと、勤労所得が三七%に対しまして資産所得が二二%、こういうふうに勤労所得の方に重心が移つております。これも負担能力という点から言うと、やはり減つておるということは言えるのであります。こういうものを資料として判断いたしますと、現在では日本では直接税、間接税と申しましても、実は大体同じ連中が負担すると考えて大きな誤りはないのであります。そこでどういうことになるかと申しますと、私は現在わが日本におきまして、間接税というものはやはり存在理由があるのだ。それは第一納税の苦痛を納税者が感ずることが少いということ、それから徴税という点からいつて便宜でありまして間接税というものは重要性がある。もちろんシャウプ勧告におきましては直接税中心主義とつて、間接税はなるべく減らすという方針とつております。これは恒久的制度としては私はこの方針は非常にけつこうだと思うのでありますが、今すぐにこういうことを実行するのはどうか。私は率直に申しますと、この恒久的制度に達する前階段といたしまして、やはり過渡的に間接税相当増徴する必要があるのじやないかと考えております。  その問題はそれだけにいたしまして、今度は同じくシャウプ勧告前提といたしまして、個々の租税内容について簡單に吟味してみたいと思います。そこで率直に申しますと、シャウプ勧告というものは、直接税改正につきましてきわめて綿密、合理的にしてまた精微な勧告をしております。ところが間接税または消費税系統のものについてはどうかと申しますと、はつきりした言葉で申しますと、検討が不十分ではなかつたかと私は思うのであります。これは一方から言うと、物品税消費税というものはいろいろたくさんの物品が、ございましてそれが国民生活に対しでどのよう重要性を持つておるか。これはその国で長らく生活しておる者でなくては、ちよつとわからぬというようなこともあるのではないかと思うのでありますが、とにかく結論から申しますと、直接税の精微なのに比べまして、間接税についてはもう少し掘り下げていただきたかつたのであります。ところが政府が去年の秋に国会に出しました案によりまして、このシャウプ勧告において論ずべくして論じなかつたものを掘り下げて研究いたしました。私はこれを一歩進めたものと思うのであります。その他間接税系統に関する政府の今度の提案は、大体私は妥当なものだと考えております。  それからもう一つ、これはちよつとわき道に話がそれるのでありますが、一言だけ申し上げたいことは一月一日から取引高税が廃止されましたが、これは世界租税史上重要な事実であります。というのは、取引高税というものは、一度かけるとなかなか廃止することができないのでありますが、日本ではとにかく一度かけた取引高税を一応廃止いたしました。これは外国の学者も言つておることでありますが、相当大きな国で――日本相当大きな国か小さい国かは問題でありますが、相当大きな国で取引高税を一度かけて、そうしてそれを廃止したという例はないのであります。これは注意すべき事実だと思うのであります。  そこでまず間接税の問題はそれだけにいたしまして、直接税の方に移ります。具体的に申しますと、重要なものは所得税法人税富裕税相続税でありますが、この四つはなかなか精密なものでありまして、私はこれに対して多大の敬意を表するものであります。いか与精密であるかというと、たとえば変動所得につきましては五年間の平均課税をやれとか、あるいは営業の損失につきましては繰越しをせよとか、逆に繰りもどしを認めよとか、減価償却制度についていろいろなものを認めよとか、これは実行可能性の有無は別といたしまして、きわめて精微な勧告をしておるのでありまして、私はこの直接税の部分は、シャウプ勧告の白眉とも言うべきものじやないかと思うのであります。そこでそのおのおのについて、どちらかと申しますと批評的なことを申し上げます。私は大体シャウプ勧告賛成するのでありますが、違う部分は重点を置いて申し上げます。そこでまず富裕税でありますが、これは所得税補完税として設けられました。シャウプ勧告にも言つておる通り、わが日本におきましては財産税というものは昔から割合発達が遅れておるのであります。そこで富裕税という形で所得税補完税を設けられることになつたのでありますが、われわれはこれに賛成するのであります。それから今度は所得税でありますが、所得税につきましてはシャウプ勧告におきましても、社会政策的要素というものが相当強く取入れられております。たとえば基礎控除を上げたとか、その他あるいは不具者特別控除を認めるとか、災害や盗難や病気にかかつた場合の医療費については引くとか、あるいは家族合算制度を緩和するとか等々、いろいろ合理的なことがあるのでありますが、それに比べますと今度の政府の案は、シャウプ勧告よりもさらに社会政策という要素を強く強化しております。具体的に申しますと、基礎控除シャウプ勧告が二万四千円だつたのが、政府は二万五千円に引上げました。家族控除は同じ、しかし現在よりは家族控除は引上げられております。それから勤労控除でありますが、シャウプ勧告が一〇%であつたものが、政府の今度の案では一五%に引上げられております。こういう点において社会政策的考慮というものが相当強く盛られているように思うのであります。  それから次に法人税でありますが、これは相当に私は問題が多いと思うのであります。今度の法人税でありますが、これは御案内通り超過所得税という累進課税をやめまして、普通の所得税三五%一本にしようとしたのであります。それから個人と法人との間の二重課税をできるだけ少くしようとしたのでありますが、これによりまして会社その他営業者負担が非常に軽くなるのであります。この目的とするところは、言うまでもなく資本蓄積を尊重しようとするのでありまして、これは大体減税になる。そこでこれに対してはかなり賛成論が多いのであります。しかし率直に申しますと、私はこれには必ずしも賛成でない。税金が安くなつたからありがたいということは、だれしもけつこうでありますけれども、問題は何ゆえにということであります。その根拠に関する吟味がシャウプ勧告発表以来わが日本においては十分に行われておりません。そこで租税というものは法人であろうと何であろうと、負担能力に応じて税金を取るべきものであるとするならば、法人につきましても累進課税をかけるということはそれほど意味のないことではない。もつとはつきりした言葉で申しますと、これは相当存在理由があると思うのであります。だから日本の従来の旧制度も、私はまんざら捨てたものでないのじやないかと考えております。申すまでもなく法人課税、さらに進みましては法人の本質に関する考え方の相違でありまじて、法人課税につきまして大体イギリス式大陸式、これは大体ドイツ式でありますが、イギリス式というものは法人につきましてあるいはビジネスにつきまして事業につきまして、経済單位としての独自性をなるべく認めないというのがイギリス式。それから大陸式はそれを認めようとするのでありますが、日本の今度のはイギリス式大陸式の中間とも言うべきアメリカ式に大分近づいたものでありますが、一体これかはたしていい方向に進んだのか、あるいはそうでない方向に熟んだのか私は問題だと思います。現にアメリカにおきましても、これにつきまして砥ビジネスというものを独立の経済即位として認ある方がいいか悪いかにつきましては、アメリカ單界におきましても議論があるのでありまして、たとえば大陸式の考えをとる学者はアメリカではアダムス、それからスチュウデンスキー、こういう人たちは大陸式の考えをとつているようであります。それからイギリス式の考えをとつでいる学者は、アアメリカでは有名な人ですが、グローヴス、プラウ、それから日本に参られたシャウプ、こういう人たちはみな英国式の考えをとつているのであります。私はどうも頭が古いかどうかわからぬのですが、日本の従来の法人が非常にもうけが多い場合に累進税をかけるという制度自体は、そう捨てたものじやないのじやないか。私はもう少し理論的根拠を掘り下げて研究して、そうして法人と個人との二重課税問題について、理論的にもつと納得の行くまで研究する必要があるのじやないかと考えております。  それから次は相続税であります。これは法案は出ておりませんか、大体要綱によつて判断いたします。この内容は御案内通り相続税と贈與税と一緒にして、もらつた方から税金をかけようというのであります。先ほども申しました通りに、これかもし実施されるとすれば、世界最初の試みではないか。これはシャウプ使節団の一人のヴイツクレー教授が、一九四七年に次の名前の書物を融きました。アジェンダ・フォア・プログレッシーヴ・タックセーシヨン、累進課税のための覚書、その中にアクセッシヨン・タックスとしてそれが提唱されております。それからヴイックレー教授以前にはやや似たもの内容は前と違うのですが、アルトマンという人が一九四〇年に言つており、一九四五年にはラディツクという人がこれをとなえておりまして、それを日本に実施しようとするのであります。これはきわめて精密なものでありますが、しかし日本ではたしてこなせるかどうか。一例を申し上げますと、一生を通じて十五万円までは免税にしようというのです。これは理論的には私は非常にすぐれた礎案だと思うのであります。ことに注目すべきことは、五十万円を超える部分に対して最高率が九〇%になつております。これに対して所得税の最高率は五五%であります。所得税の最高率が九〇%で、相続税の最高率が五五%だつたら常識に合うのでありますが、これは常識と逆のことをやつております。これはシヤウプ使節団の特色のある考えでありまして、結論を申し上げますと、私はこれに賛成であります。それはどういうことかというと、少数の人に富が集中すると生産意欲が衰えます。それで所得税の方を軽くして、出炭意欲か衰えないようにしようとするのでありまして、この点も相当特徴があると考えるのであります。  最後に資産再評価の問題、これについてはシャウプ勧告政府法案とは雨天な点が趣うのであります。シャウプ勧告におきましては、営業用の資産につきましてはすべて強制する。ところが政府はこれを自由に認めるということになつております。自由を認めたということは、これは納税者側の実情を考えてやつたのでありまして、決してりくつのないことではありませんが、しかしながら資産再評価税という立場から申しますと、はたしてよいものかどうか、私は問題だと思うのであります。申すまでもなく資産再評価の目的は、インフレーシヨンによつて下落いたしました貨幣の価値、逆に申しますと、騰貴いたしました物価、それを一律に修正する。單単に申しましと、価値修正ということ、目的であります。従つてそういう立場から申しますと、シャウプ勧告ように強制する方か理論的に正しいのであります。ところが政府の案を見ますと、そうしないで各企業の自由にゆだねている。自由にゆだねると企業は自由の立場で評価するので、收益を見て物を評価する。すなわちどういうそろばんはじきをするかというと、高く評価すると再評価税は高くなる。そのかわり毎年拂う法人税が安くなるのであります。すなわち減価償却もふえますから、そこでプラスとマイナスとにらみ合せで一番收益が多くなり、逆に言えば、税金か少くて済むという評価方法をするだろうと思うのであります。納税者たる企業の利益を政府か尊重するということはもちろんけつこうであります。このごろのようなディスインフレまたはデフレ時代は、この点を考慮する必要があると思うのでありますが、資産付評価という趣旨から申しますと、これを自由にいたしますと、結局は評価益の計算基準が企業ごとに相違いたしまして、これに対して課税することになると、きわめて不公平になるのではないかと思うのであります。これはむしろシャウプ勧告の方が、理論的に言つて正しいのではないかと私は考えております。  以上が今度の税制改革に関する私の意見であります。要するにこの種の税制改革というものは、シャウプ勧告案よりは大部分はきわめて合理的なものであります。ところがこれを実行するわが国の租税機構はどうか、国民の納税道徳はどうかと申しますと、はつきりとした答えは十分に得ておりません。従いましてこれをうまくやらなければ意味をなさないので、これに対して多大の疑問を持つのであります。これは税務当局もわれわれ人民も相当協力しなければ、この精緻なる租税制度を実施することは困難ではないかと思つております。私は主として国税について申しましたが、地方税については、こういうことがさらにより大なる程度において言えるではないかと思うのであります。  はなはだまとまらないことを申し上げましたが、これをもつて私の公述を終ります。御静聴を感謝いたします。
  4. 川野芳滿

    川野委員長 ただいまの井藤君の公述に対して、御質疑があればこの際これを許可いたします。
  5. 川島金次

    ○川島委員 井藤さんに一、二お伺いいたしたい。現行勤労控除二五%、シャウプ勧告では一〇%、政府案では一五%、勤労所得と一般所得との間の問題は私どもが説明するまでもない事柄であるが、しかし勤労控除の三五%を一五%にしてしまうことによつて、一般の個人所得と勤労所得に対する課税の公平を期することは、きわめて困難ではないかというような感じか私どもいたすのでありますが、そういう事柄につきまして、井藤さんはどういうふうなお考えでおられますか。それからまた勤労所得に対する課税について、諸外国の例を御存じでございましたならばこの際お聞かせを願いたい。  もう一つ所得税の税率でございますが、この税率は、シャウプ勧告によりますと御存じの通り三十万円を限度として五十五%、政府案によりますと五十万円、しかも税率は五十五%で押えている。この五万円から五十万円の間に小刻みな段階で税を賦疎いたしますることは、比較的少額な所得者に重い負担をかけることになる。そうして五十万円以上は五十五%で、百万円でも二百万円でも同じ率だということになつておりますが、これは今博士がお話になりました法人税と同じように累進であるべきである。一般個人の所得につきまして、五万円から五十万円程度で小刻みに五十五%までのいろいろの段階で負担をかけ、五十万円以上は同じだということになると、高額所得者に比して少額所得者に非常に不公平なものができるのではないかというような感じを強く持つているのであります。その二点について御所見を伺いたいと思います。
  6. 井藤半彌

    井藤公述人 一番初めの問題でございますが、勤労所得とそれ以外の所得の不公平、これは主として所得捕捉率が問題湾なるのであります。勤労所得は御案内通り源泉課税であります。それ以外のもので源泉課税をやつているものは少い。これは推定でありますが、従来勤労所得につきましては大体九〇%捕捉ができているのであります。もし脱税があるといたしましても一〇%くらいであります。その次に脱税の困難なのは農業所得、商業の方は一番やさしい。そういう点から考えますと、従来の日本の二五%というのは、やはり所得の捕捉率ということを計算に入れて考えますと、私はちようど妥当なところではないかと思うのです。ですが、御注意願いたいのは、シャウプ勧告の中でこういうことを言つております。これは私はごもつともだと思うのでありますが、税法をつくるときに脱税ということを見込んでつくることになりますと、人員の方は必ずよけい置くにきまつている。税務当局も必ず手加減を法律的にはせざるを得ない。これはよくない。とるのはできるだけ厳正にするが、制度としてはやはり合理的にしよう。これがシャウプ勧告の考えでありまして、その点から言いますれば、私はやむを得ないところではないかと思つております。ただ事実問題といたしまして、私さいぜん申しましたように、このシャウプ勧告の精緻なものが実際うまく実行されないということになりますと、今おつしやいましたよう意味のことが起るのではないかと思つております。それから外国の実例でありますが、私ども最近のものはよく調べておりませんが、勤労控除なんかについてはアメリカではほとんど認めておらない。認めておる国もありますが、実数は私はつきり申し上げることはできませんが、日本のはそれほど低いものでもないのであります。  それから第三の問題でありますが、所得税の最高率を五五%にする。これはいろいろの問題を含んおるのではないかと思います。というのは今おつしやいましたように、所得税が五万円から二十五万円まで行く。シャウプ勧告では三十万円、そして五五%、日本の場合は二十五万円から五十万円に一飛びして五五%、体裁からいうと確かに変だ、なぜ直さないかということになるのでありますが、私はこういうことだと思います。さきに申しましたように、大体二十万円、二十五万円以下というところが大部分負担するのでありまして、しかも日本租税制度の重場点を所得税に置くといたしますと、それを直しますと税收がうんと減るのです。それからもう一つシャウプ勧告前提としたところは、すべての所得者について、租税制度という点からいつて、形式的に見て全部減税になるようにしようとして相当苦労してあの率をきめられたのであります。そういう点から申しまして、ことにわれわれ学校教員がやるよう意味でいじくりますと、日本の税收に相当な減收を来すおそれがあるのではないかと思います。それからもう一つ、最高五五%は低過ぎるじやないか、これも私はある意味においてごもつともだと思いますが、ただ考えなくてはならないことは、従来日本には富裕税という経営財産税がございませんでした。経営財産税というのは、大体所得税補完税でありますので、所得の多いものが負担する。それで所得税は従来のように最高八五%で、しかも富裕税がかかるということになれば、これは重過ぎて困りはしないか。それで所得税は五五%くらいにとどめておいて、そうしてもつと上のところは富裕税という形でとる。その場合所得税一本でやるのと同じようなことじやないかという議論も立つのでありますが、税金をかけます場合に、どうせ脱税ということはあり得るわけでありますので、同じ角度から、たとえば所得なら所得という側面から解釈いたしますと、一度脱税したものは永久にとることができません。それだから所得という側面からかけて、また財産所有という違つた角度からかけますと一方で脱税したものも他方で押えることができる。それから富裕税は、金のもうからない消費財産にもかかりますし、奢侈抑制という意味でもありますのでこの富裕税財産税二つを考慮して考えますと、所得税の最高率五五%ということは、実質的に見ましてそれほど下げたものとも言えないと思います。
  7. 川野芳滿

    川野委員長 ほかに御質疑がなければ、次は東京商大教授都留重人君にお願いいたします。
  8. 都留重人

    ○都留公述人 東京商科大学教授都留重人であります。問題が非常に多岐にわたつておりますのに、時間の制約がございますので、私は主として一つだけの問題について私の意見を申し述べる予定であります。  私たちがこういう税法の問題を審議いたしますのは、租税国民生活に及ぼす影響に非常に大きな関心を持つておるからであります。でありますから、税法の問題はそれがどのように実際に適用されるかという問題を離れては、論ずることができないのであります。イギリスやアメリカような先進国のように、税法の法文がほとんどそのまま現実に実施されておる国では、税法の法文を論ずることがこれすなわち実際への適用を論ずることに近いのでありますが、その両者の間に間隔がはなはだしい国では――私は日本などもその中に入ると思うのでありますがそういう国では法文を、審議するにあたりましても、実施面を詳細に検討することが必要であります。昨年アメリカの有名な実業家であるエリック・ジョンストンという人がフォーチュンという雑誌にフランスのことについて書きまして、フランスでは税率を一割上げると、脱税が二割ふえて、税收は五分減るということが公理のようなつておるということを申したことがありますが、わが国でもこれに似たことはあるのであります。近的代な納税道徳が十分に発達していない国では、法文の上に現われました税法と、私たち国民のふところと接触する面での税法との間には、ちようど何らかの液体の中を通るときに光線が屈折いたしますように、一種の屈折作用が働いております。この屈折作用の性格を明らかにすることなくしては、税法の構成とか、直接税と間接税割合いとかいうような問題を論ずることはできないのであります。その屈折作用が、あらゆる階層の人々にとつて一様の屈折であるとか、あるいはまたたとい屈折がありましても、それがきわめてわずかなものであるとかいうのでありますならば、強いて問題にする必要はないのでありますが、わが国の現実におきましては、大蔵当同の方々が一番よく御存じのように、この屈折作用は相当の片寄りを持つております。つまりほとんどだれもが、実際の所得よりは少い所得額を基礎にして所得税を納めておりまして、しかも大切なことは、ほんとうの所得と税務署相手のときの所得との間の開き、これを便宜上比率で表わして、ディヴィェーションという意味でDと呼ぶことにいたしますが、このDは職業により、所得階層により非常に違うのであります。しかもこの違い方は偶然的に違うのではなくて、ちやんと法則的に説明し得るようなものを持つております。大蔵当局の方では、私がDと呼んだものを脱税とは呼んでおりません。大蔵当局が脱税と呼びますのは、大蔵省の推定と申しますか、手心と申しますか、要するに多年の経験によりまして、これだけはとれるだろうという税額を一応頭に置いてその税額に満たなかつた部分を脱税と呼ぶのであります。なぜこういう片寄りができるか、これは私から申し上げるまでもありません。源泉課税ようにとりやすい税金の場合には、先ほど井藤教授からお話がありましたように、非常に正確にとられております。また最近皮肉なことに、タバコ小売業者の方々がしかるべく筋へ陳情されまして、タバコ小売業者というものは、自分らの売るタバコの数が正確に大蔵省で押えられるのるで、税金を一番正確にとられていると思う。国民のほとんど大部分は大分免れていると思うから、特別の措置を講じてもらいたいという陳情をされたということなども、こうした法則的な片寄りを現わすエピソードであります。問題点は先ほどのフランスの話のように、ほんとうの所得と税務署相手のときの所得の間の開きというものは、税率の高さに依存しております。税率が非常に高いと、やはり人情としてだれでも脱税したいという気持にならざるを得ないのであります。税率が比較的低いと、まあこれくらいならひとつ正面に拂おうという気持になるものであります。その点は私たちにもよくわかるのでありますが、一層重要なことは、特に国会におきまして一層重要なことは、Dと私が呼びましたものが、税率の高低を規定するということであります。税率の高低それ自体が、ほんとうの脱税が一体どれくらいあるかという見通しに依存しておるのであります。この法律案の中に出て参ります税率の決定にあたりましても、大蔵当局におかれましては、ほんとうの脱税Dの推定が、一つの重要な推定の基礎なつているのでありますが、では法律案を準備されますにあたりまして、どのよう基礎のもとにそのDを推定されたものでありましようか。その点を簡單にここで申し上げておきたいと思います。  先ほども井藤教授からお話がありましたが、普通国税と呼ばれるものは約四千四百億、それにタバコ益金、これは官業收入と申しまして、大蔵省統計などでは国税の中には入つておりません。しろうとの方は、国税という欄を見られましても、わが国で一番重要な間接税であるタバコの間接税は、国税の中に入つておりませんから、よくお間違いになるのでありますが、それが千二百億円ほどでありまして、合せて五千六百億円くらいを国税として必要とするといたします。これは仮定であります。実は税法を論ずるにあたりましても一体どれくらいの歳出が必要なのかということと、無関係には論ずることはできないのでありまして、たとえば昭和二十五年度におきましては、予算の説明によりすまと、約十二百億円の債務の償還と、それから七百億円の剰余金及び積立金等を可能にするために、かなり多額の税金をとるようなつておりますが、この千九百億円に上るところの債務償還プラス剰余金、積立金、これだけのものを可能にするために、それがないならば三千七百億円で済むところの税金を、五千六百億円にふやすということは、それを拂う側の国民の気持から申しまして犠牲と代償とがはたしてバランスしておるかどうかという問題が、当然起つて来るのであります。しかし本日は、この点には、詳しくは入らないことにいたしましよう。今の五千六百億円のうち、約三千億円を直接税の形でとることにする。ここにも問題があります。これは先ほど井藤教授からお話がございましたので、私は詳しく申しませんが、はたして現在のように直接税に非常に強く移行するということは、現状のもとにおいて賢明であるかどうかという問題があるのであります。しかしながらこれも詳細には入らないことにいたします。その中で二千五百億円は所得税によつてとるといたします。ここまでは実は仮定なのでありまして、いろいろ問題があるのでありますが、大体政府がきめておられる通りに、二千五百億円を所得税でとるといたします。それだけのものをとるためには、どういうような税率体系が一番いいか――主として所得税の問題についてお話しておるわけでありますが、どのような税率体系が一番いいかという問題がそこで起つて参ります。所得税の税率体系を論ずるにあたりましては、どうしても私たちの知らなければならないのは、所得の大きさとその所得の分布であります。どういうふうに所得が分布されておるかということを、正確に知る必要があるのであります。  まず第一に所得の大きさにつきましては、シャウプさんは、一昨年の大体六五%増しという推定をいたしました。これはいろいろな指数でもつて評算してみますと、私の判断ではほぼ正確なように考えられるのでありまして、実効価格の変動を見ますと、一昨年とことしとの間には約四割の差があります。工業生産の方では、大体ことしが昨年の下平期の一割増しくらいは確実というふうに見られておりますから、一昨年に比べますと、それはちようど五割増しになります。実効価格の方は四割ふえまして、工業生産の方は五割ふえますが、農業生産がそんなにはふえないのでありますから、結局生産全体は、一昨年に比べて二割五分くらいふえるのが妥当な見当ではないかと思います。そういたしますと、生産のふえるのと価格のふえるのとをかけ合せまして、所得は大体七割から七割五分くらいふえるという推定になるのであります。一昨年の国民所得は、政府の推定によりましても約一兆九千億円、ざつと二兆円であります。でありますからこれに今の倍数をかけますと、ことしの国民所得は、ざつと三兆二千億円くらいであろうという推定ができるのであります。この三兆二千億円という推定自体も、実は非常に問題でありまして、シャウプさんの、日本租税改革に関する勧告の中でも、昨年の国民所得でさえが、あるいは四兆くらいあつたのではないだろうかということが書いてあります。私たちにそういう考え方もある程度正しいのではないかと思わせるような事実があるのでありまして、それは非常に正確と見られておりますところの酒に関する租税と、タバコに関する専売益金とを合せますと、ざつと二千億円になるのでありますが、それにいろいろな諸掛、生産費などを加えますと、私たちが一年間に飲んだり吸つたりいたしますところの酒とタバコは、二千五百億円くらいあるのであります。そのほかに密造酒等もありましようし、あるいは非合法でありますが、外国のタバコを吸つておれらる方も非常にたくさんおいでになりましようし、結局酒タバコの類は、おそらく一年間に二千八百億円くらい飲んだり吸つたりいたしております。そのほかに、よく私たちが人々に聞いてまわるのでありますが、一体酒タバコを辛いものと考え、菓子とか果物とかあるいはコーヒーとか紅茶とかいうものを甘いものと考えて、甘いものと辛いものと、どちらを日本の国民は多く食べておるかということを方々で伺つてみますと、大体半々だろうという御判断であります。もしかりに半々であるといたしますならば、このような嗜好品、酒、タバコに加うるに、甘い辛いを加えましたものが、実に五千五百億円くらいになるのであります。もしも国民所得が、二兆とか二兆五千億とかいうことでありますならば、その中から五千五百億円の嗜好品を食べるということは、どう考えましてもこれは非常に行き過ぎるのでありまして、おそらくはこういう事実から判断いたしましても、日本国民所得は、シャウプさんが烱眼にも昨年推定されましたように、昨年でさえおそらく四兆くらいあつたのではないかと思われるのであります。しかし国民所得というものはなかなか捉捕できませんから、一応三兆二千億くらいといたしましても、その中から二千五百億円という所得税を得ようといたしますならば、平均いたしますとこれは七・八%の税率であります。皆さんの国民所得の中から、皆さんんが平均して七・八%ずつお拂いになれば、ちようど三千五百億円の所得税が出るわけであります。ところがシャゥプ勧告におきましては、どのような推定をいたしたかと申しますと、これが今度の改正案におきましては、ほとんどそのときの推定と変化はないように私は見受けるのであります。シヤウプ勧告では、課税対象となる個人が申告を予想される所得額というのは二兆二千億、これはことしのことであります。そのほかに課税対象とならない個人があることは考えられます。しかしながらシャウプ勧告によりますと、独身の勤労者でありますと、月給二千二百五十円ですでに税がかかります。もしも扶養家族三人の世帯主であられるならば、勤労者も月給五千六百月ですでに税はかかります。でありますから、ほとんど課税対象とならないような個人がおいでになることは、まあ考えられない。もしおありになりましても、それは非常に少いであろうということが予想せられております。ですから大部分の国民の勤労者以外の方の所得が、合せて二兆二千億という推定のもとに、まず所得分布図を描いてあるのであります。総額を少な目に計算してありますので、どうしても所得分布図は所得の少いところにたくさん固まつてしまいまして、高い所得の人が非常に少い分布になつてしまうのであります。このような仮定のもとに分布表をこしらえまして、それに御承知の税率体系を適用したのでありますが、そういたしますと一応の税收見込みが出るのでありましてそれをシャウプ案のときは約三千二百億と見たのであります。ところが大蔵当局では、この三千二百億を実はそのままとらないで、さらに第二段の手心をそこで加える。その手心というのは源泉課税でとられる方にはほとんど加えないのであります。ほぼ一〇〇%、非常に正確にいえば九八・九%くらいとれるという推定をいたしておられますが、申告納税の方に対しては、このように第一段で手心を加えた所得に対しても、さらに六五%しかとれぬだろうという手心を加えておるのであります。これ以上は脱税とみないということであります。そうして合計して大体において二千五百億円くらいの所得税が生れて来るのであります。でありまするから国民は、税率というのが一方にあつて、それが所得税の二千五百億円という数字と結びつくように思いがちでありまするが――ほとんど大部分のしろうとの方はそう思つておられます。しかし実はそうではなくて、以上に私が説明いたしましたように、大蔵省の長年の貴重な体験を基礎にされましたところの勘と手心をもつてきめられたところの屈折作用が間に入つておるのであります。従つてたとえばかつて農民の供米に対して行つたような非常に強い権力を利用いたしましてもしも徹底的に正確に所得税を徴收しようといたしますならば、この法律案に出ております税率を適用した場合には、所得税は二千五百億円ではなく、おそらく五千億円以上とれるでありましよう。またたとい五千億とれたといたしましても、正確なる国民所得に対してはおそらく一二%くらいでありましよう。この屈折作用こそが実は問題なのでありまして、その屈折という問題は、従来までは行政当局に一任されておるのであります。その屈折がはたしてよいかどうか、適当であるかいなかという問題は、税率をおきめになる国会において実はおきめにならなければならぬ問題なのであります。税率の体系といたしましては、いかに美しいものであつてもし国民所得においてまず第一段階において五〇%も低く見積るような手心を加えられ、その低く見積つたものに対してさらに捕捉率を六五%とみるような屈折作用があるのでは、税率そのものを独立に審議しても意味がないのであります。行政当局に実際の適用税率決定を委任するにひとしいのでありましてその趣旨から申しまして私が公述人として特に申し上げたいことは、国会の審議において、そういう角度から屈折作用を考慮に入れて税場率を考え直していただきたいということであります。減税と申されますが、たとい法文の上で一〇%そこらの減税がありましても、もつと大きな屈折作用が途中にあつて、それが行政当局の判断にまかされている限りは、国民自身の納税道徳も決して進歩しないと思います。私が最初に引用いたしましたエリック・ジヨンストンのフランスに関する言葉は、その意味からまことに味うべきものだと思います。
  9. 川野芳滿

    川野委員長 ただいまの都留重人君の御公述に対し御質議はありませんか。できるだけ公述人に時間を與えたいと存じますので、御質問の方は要旨の点を簡單にお願いいたします。
  10. 川島金次

    ○川島委員 ただいまの都留さんのお話、まことにわれわれ同感の点がたくさんあつたのであります。ことにただいまお話の屈折作用の点でありますが、この屈折作用が強くなつております現状というものは、要するに税率もさることながら、控除額のきわめて少額であるというようなことも大きな作用をしておるのではないか。たとえば勤労者の基礎控除におきましても、勤労控除基礎控除、扶養家族の控除等がありますが、これらの控除は少くとも勤労者にとつては、最低生活費を保障するに足る程度でなければならないと私どもは常に考えております。さらに一方一般事業所得税におきましても、その基礎控除の点につきまして、ことに農業者の零細所得者、あるいは中小企業以下の零細所得者に対するところの基礎控除というものが、その最低生活費を維持するに足るだけのものになつておらないというところにも、私は大きな屈折作用が作用されておるのではないかと考えております。そこで一言お伺いいたしたいのですが、ただいま都留さんから税率体系の改訂について、われわれに大きな注意を喚起されたのでありますが、この点について都留さんは常に深い御研究をされておりますので、まことに恐縮でありますが、この機会に今の日本国民所得と財政及び国民経済生等をにらみ合せた税率体系というものは、どの程度であることが望ましいかというようなことについて御所見が、ございましたならば、この機会にわれわれにお聞かせ願いたいと思います。
  11. 都留重人

    ○都留公述人 時間の節約もございますから、特に御質問の中心点だけに限つてお答え申し上げたいと思います。私が税率体系と申しましたのは、実は扶養家族の控除とか、基礎控除とか、そういう控除の額なども考慮に入れて申したのでありまして、先ほど申し上げましたように、もしかりにも歳出の面で千二百億にも上る国債償還をしたり、七百億にも上る剰余金、積立金をこしらえなければならぬということを黙認するとしても、それ自体非常に問題があるのであります。現状のよう日本経済のもとにおいて、そこまでもやらなければならぬかどうかということについては、愼重な御審議をいただかなければならぬと思いますが、かりにそれを黙認するといたしましても、その際に約二千五百億円の直接所得税を必要とすることになるのであります。それにつきましては先ほど井藤教授からお話がありましたように、もつと関接税の方に現在は依存した方が、かえつてよいのではないかという議論もありまして、国税所得税として二千五百億円も必要とするかどうか。そごにもすこぶる問題があるのであります。しかしそれをまたさらに黙認したとしても、二千五百億というのは現在の推定される国民所得から見ますと、五%から八%の間くらいであります。ですから皆さんが平均して大体それくらいの租税を拂われるならば、実は二千五百億円というのは出るのであります。実際には捕捉できない所得が非常に多いし、それからまたどうしても脱税もあるし、あるいは税率というものが非常に高くなつて、実効税率が一八%だとか二〇%だとかいわれるような状態になつておるのであります。それで私が特に提案いたしたいのは、そういう基礎控除とか扶養控除とかのよう部分をも含めた、広い意味の税率体系というものをもう一ぺん考え直して、ほんとうの所得と私どもが税務署を相手に扱う所得との間の大きな開きを狭める方向へ、税率体系そのものをもかえて行くその一歩を進めることが、大切ではないかということを特に申し上げたかつたわけでありまして、実際に基礎控除を二万五千円から幾らに上げたらよいとか、あるいは税率そのものもどういうふうな累進の形にして、どの額にどういうふうに適用したらよいとかというような問題は、税法全体との関連において論じなければならぬので、この席では遠慮いたしたいと思います。
  12. 奧村又十郎

    ○奧村委員 ただいまの教授の屈折作用のお話は非常に同感であります。ところがシャウプ勧告によりますと、そういういわゆる屈折作用のごときはなるべくあつてはならぬ。そういう考えのもとに非常に公正な税制をここで実行よう。ところが日本の現実としては屈折作用はなかなか取除くことができぬ。その現実を無理して非常に理想的な税制を実行よう。そこにシャウプ勧告の持つ矛盾がある。この勧告関係しておられた教授として、この点についてまたせつかく屈折作用のこを力説された教授としての御意見を承りたい。  それから特にただいまのお話の中に、課税額の六五%しか調整できないということをシャウプさん自身が見積つておられる。これまたシャウプさんの勧告の持つ非常な矛盾である。あの勧告のすみそれにまでそういうことがないという前提のもとに、あの税制ができておる。そこに私は非常な矛盾があると思う。この点どうお考えになりますか。
  13. 都留重人

    ○都留公述人 シャウプさん自身はわずか三箇月しかこちらにおられませんでしたので、私の知る限り十分にいろいろな資料を討検されるいとまを持たれなかつたと思います。その趣旨におきましては、勧告の中にも明らかなように、ただいまのような屈折作用を最小限にするよう方向に、税率体系を改正されることを意図されたのでありますが、そのときに利用されましたいろいろな基礎的な統計資料が、私の見解によれば十分を欠いたように思われますので、それと密接な関係にある税率体系の勧告において、ああいう形になつたのではないかと思うのであります。それでいかに合理的な体系を意図されましても、日本のいろいろな実現というものはやはり無規できないので、ある程度はその現実に譲歩しなければならぬと思うのであります。この現実というのがまた非常に奇妙なもので、先ほどのジヨンストンのフランスに関する話にあるように、税率を上げるとかえつて税收が減るという事態が実はあるのでありまして、この現実とある程度妥協するということを考えるにいたしましても、私が特に力説いたしたいのは、その現実の妥協の面の手心に大きな幅があつて、その幅をコントロールするものは実は行政当局である。実際には法文の上である予想を立てられても、その通りにはならない。ならないのは自然的にそうならないのではなくて、かなりの程度まで手心というものがあつて、そうならない場合があるのではないか。だからそれを最初から予定して、十分にその現実との関連を検討された上で、税率というものを考えられること、それを私は提案いたしたいのであります。シャウプさんの意図は明らかに合理的な租税体系をこしらえることにありましたが、現実とある程度妥協をした上でやらなければならぬという趣旨で、おそらくは勧告の中に、申告納税については六三・四%という徴收率しか見ておられないと思うのでありますが、その点については実は私個人としては反対したのであります。
  14. 川野芳滿

    川野委員長 ほかに御質疑がなければ、次は農業協同組合代会議実行委員会委員長黒田新一郎君にお願いいたします。黒田新一郎君、
  15. 黒田新一郎

    黒田公述人 私は立場上主として農業関係の立場から、今回の税制改正について所見を申し上げてみたいと考えるわけであります。政府は今回の予算を安定より復興への予算というふうに説明をされておるのでありますが、私ども農村の立場からこれを見ますると、復興どころではない、安定恐慌への予算であるというふうに考えざるを得ないのであります。現在農村の状態は再生産の基礎資材である肥料の配給すら完全に受けられない。また非常に生活に不自由しておりまして、報奨物資等はのどから手の出るほどほしいのでありますけれども、それすら引取るのを躊躇いたしておるという事実は、明らかにこれを物語つておるのであります。この際もしも農業政策を一歩誤るならば、ただちに恐慌に突入するであろうという状態を見のがすわけには参らないのであります。今回の税制改正は、本年度予算と不可分の関係を持ちますがゆえに、私どもは非常にこの点を重視いたすのであります。そこで本年の予算について政府は農業政策の最も重点を減税に置いておる。本年の思い切つた農村繰税の軽減は、すべての農業問題を解決するかぎであるという説明をいたしておるのでありますが、私どもがその実態を分析いたしてみますると、政府が称しております点とは非常に食い違いがあるのであります。二十五年度の米価の予定は、政府はパリティー一六八、四千五百六十円を基礎にして計算を立てておるのでありますが、これは昨年度の米価に比べてわずかの五%程度の値上りであります。しかるに減税の最も重要な財源として引当てられておりまする補給金の撤廃でありますが、そのうち農業生産に直接関係を持ちます肥料補給金の撤税において二十四年は四百二十億円、それが二十五年の改正後においては二百億円、固定資産税は昨年が五十五億円に対しまして、本年は二百億円と相なるのであります。住民税は昨年は五廃による肥料の値上りは、一月二割、三月に三割五分、七月に七割の値上げが予想されるのでありまして、その農村の負担増になります部分は、二百三十七億円であります。これに引比べまして、今回の税制改正による農村の税の負担減でありますが、簡單にこれを数字の上で申し上げてみますると、二十四年と二十五年、すなわち改正前と改正後を比較いたしまする場合、所得十億円でありましたものが、本年は百億円ないし百五十億円程度になるという数字が出るのであります。卒業税は一応今回は改正によりましてなくなりまし一部分だけになりますが、昨年は大体五十億円でありまして、本年は十億円程度に農村全体としては減少いたす予想であります。これを合計いたしますと、昨年の合計が五百七十五億でありまして、本年は五百十億ないし五百五十億程度になろうかと考えるのであります。従つてその税負担減は僅々三、三十億か、多くて五、六十億でありまして、先ほども申し上げましたように、肥料の値上りの二百三十数億に比べますと、この減税政策が農村問題の解決のかぎであるというふうな政府の宣伝は、実に当らない考え方であると言わざるを得ないのであります。ことに私どもが強調いたしたいのは、農業協同組合に対する課税上の考え方の問題であります。これは各種協同組合に共通した問題でありますが、特に私は農業協同組合の場合を強く指摘いたしたいのであります。これが今回の税制改正では、一般営利法人と比べて何ら特別な考慮が拂われておらないという点であります。これは従来産業組合当時から、農村の経済組織として協同組合は、一般営利法人とはそこに画然たる区別をもちまして、本日まで参つておるのでありますが、今回の改正において、それらの特別な扱いが全然考慮に入れられておらないのであります。農業協同組合は今さら私が説明申し上げるまでもない。日本農業が世界に類例のない悪條件を宿命的に持つておりまして、すなわち土地が非常に狭小である。そこへ終戦後たさくんの引揚者、あるいは政府の行政整理による過利人員、あるいは一般企業の合理化による失業者、こういうものの大部分が農村に流入いたしまして、戦前において大体一千四百万人程度の就労人員が、現在では二千万人を突破しておる。従つて耕作面積のごきも、従来一町歩程度のものか、今では七反五畝に落ちている。このことは、いかに農業経営の高度化、科学化を考えましても、日本農業の宿命的な弱さであります。いわば敗戦の跡始末を一手に引受けておるというふうな形の農村は、何らかの特別の施策が行われざる限り、とうてい外国の合理的な高度化せられた農業と裸で太刀打ちすることは不可能であります。私どもは農村が崩壊するということを考える場合に、とうてい日本の経済の再建はあり得ないというふうに考えるわけでありまして、日本農業の持つ特異性を正しく理解し、それを解決する方途として農業協同組合法が制定をせられ、その方向で農村は、協同組合のもとに脆弱な農業経営を維持しようと、常々と努力しおるのでありますが、この農業協同組合に対して一般営利法人と同様な課税上の扱いをするということは、何としても当らないのであります。この農業協同組合に対する考え方は、法にも明らかにその目的をうたつておりまするように、すなわち協同組合法に、「この法律は、農民の協同組織の発達を促進し、以て農業生産力の増進と農民の経済的社会的地位の向上を図り、併せて国民経済の発展を期することを目的とする。」と示しておるのでありまして、明らかにこれは、上つの社会的な責任を協同組合は負担をし、その経済活動は組織内でやるという限界が設けられ、その行う事業は、従つて国や地方団体の行う経済事業に準ずる性格を持つておるのであります。従つて、産業組合当時から免税の特典を與えられておつたのでありますが、第二次世界大戦中から、特別法人税なる名称を冠せられまして一般法人と比較いたしますと低率な法人税を課せられておつたのでありますが、それすら今回は除かれようとしておる点が、非常に今後の農業政策の上に重大な問題であろうと考えるのであります。  そうしたような一応農村側からの原則的な立場から、以下簡單に具体的に問題に触れてみたいと思うのでありますが、もまず所得税についてであります。これは、先ほど井藤先生、都留先生からもお話がありました点でありますが、今回の所得税は五十万円超五五%という税率でとめておられるのでありまして、それ以上の従来ありました累進率は、一応ここでは改正をせられておるのであります。これは国の財政需要が、そう高率所得者に対しても、累進率を高める必要がないというならば、別でありますけれども、要するに担税力に応じた公平な賦課をしなければならないという考え方から、一応資本蓄積を助長する意味における今回の措置に対して、ただいま申し上げましたように、農村では増産施設、土地改良その他現在の農産物価においては目力において資本蓄積ができない――この重税の本とにあつては資本蓄積ができずに、完全な取奪農業をしておるという現状に徴すれば、今後高率所得者に対して資本蓄積を許すならば、それより前に、この零細農業に対して資本蓄積を許して、食糧増産、農業経営の維持、そうしたことを完全に推進し、そうして少しも早く世界農業と日本農業が太刀打ちのできるよう方向へ推進することこそ、重要な問題ではなかろうかというふうに、私どもは考えまして、この高率所得者に対する累進率を五五%で押えておる点について、非常な不満を持つのであります。  それから次に所得把握の問題でありますが、これは都留先生からもお話がありましたように、非常にむずかしい問題であろうと思いますが、そうしい場合、われわれ農業者は所得把握の点で非常に大きな犠牲を負つておるというふうに考えるのであります。それを具体的に申し上げますと、私は昨年米価審議会の委員というふうなことで、米価決定にも参加をいたしておつたのでありますけれども、この農地の生産條件というものは非常に複雑な幅がありまして、すなわち米で申しますならば、昨年農林省の調査賞料に基きましても、一石の生産費が一番條件のいいところでは一千五百点でできております。一番生産費のかかる條件の悪いところでは一万五千円かかつております。十倍であります。われわれが生産費を償う米価という主張をいたしまして原則的には米価審議会もそれを一応了承いたしたのでありますが、さてそこで生産費を、一本の米価にする場合に一体どこを押えるかという問題になりまして、行き詰まつたのであります。一千五百円から一万五千円までの生産費がかかるのに、どこを押えることが妥当であるかということで、非常に議論をいたしました結果、結局生産費米価というもの一本できめることができずに、四千七百円という、一応政治的な価格におちつかざるを得なくなつたのでありますが、私どもはその場合に米の生産費の分析をいたしましてつくそれ考えましたことは、四千七百円が四千二百五十円に結局決定したのでありますが、一万五十円まで生産費のかかる地帯が非常にたくさんある。それが強制的に四千二百五十円という米価で押えられて、それ以上の生産費を要しておる農家は経営が全面的に赤字であります。にもかかわらず、今の所得の把握は、本年は青色申告等の制度もありますけれども、従来は反別標準でありまして、ほとんど條件のいいところも悪いところも一律に税務署から査定を受ける。それがために條件が悪い農家というものは、非常な苦しさに追い込められておるのであります。それを救済いたすために青色申告制度が設けられるのでありますけれども、青色申告制度が完全に農家に訓練されるまでには、おそらく数箇年を要すると思います。農家は働くことは営々として働きますけれども、帳面をつけるなんということはまことに不得手で、税金を少しくらい余計にとられても帳面をつけることなんか煩わしい。それで帳面をつけないということを口実に、おそらく今までのような苛敏訣求をするだろうと思う。その点は農業生産が非常に複雑な條件に置かれておるということをよく理解を願つて、今後所得の把握についてはむりの行かないような御考慮を願わなければならないというふうに考えるのであります。  次の法人税の問題でありますが、これは先ほど申し上げましたように、農業協同組合に対しては私どもは免税をするか、さもなければ課税するにしても、特別法人として農業協同組合設立の趣旨に合致するような特別の考慮をぜひお願いいたしたい、かように考えるのであります。農業協同組合の経営は一般に営利経営と違いましてその組織員のために行う協同事業でありまして、そこでは剰余金を生まないということが建前である。剰余金が生れそうになれば、これは手数料を減額するというふうなことにして、赤字を出さない、剰余金も出さないという経営が農業協同組合のねらいであります。もしもこの協同経営によつてその法人の段階で利益が生まれない、それだけ農業者個人が恩恵を受けるわけでありますから、その個人の恩恵に対して課税をされることは肯定すべきでありますけれども、農業協同組合を他の利益法人と同じに考えて税金をかけるということは、まつたく当らないのであります。この点を御考慮を願いたいと考えるのであります。  次に附加価値税の問題でありますが、これは農業協同組合ばかりではない。一般にも問題があろうと思いますけれども、一応私は農業協同組合の立場についてのみ申し上げたいと思うのであります。ただいま申し上げましたように、利潤を生まないということを本旨として経営をいたします協同組合が、他の営利法人ように利潤を含めての他の課税客体、一方農業同組合は利潤というものを生まないのに、それを同率の課税をされることは、これでは経営の基礎がとうてい成り立たないのであります。これは協同組合に対する場合は、さよう意味で全面的に免税をしていただくというふうな御考慮が願いたいと思うのであります。私どもの方でいろいろ調査をいたしてみたのでありますが、十数組合の調査でありますが、現在多少の剰余金を生まないといたしましても、赤字になつては困りますので、多少は利益を生んでおります。そうした多少でも利益のある組合の附加価値税の影響を調べてみたのでありますが、従来事業税の場合は一組合当り四千円程度の課税でありましたのが、附加価位税になりますと八万円程度の税額になります。それから本年あたりは協同組合は利益の出ない組合が相当たくさんあろうと思いますけれども、そうした場合へこの附加価値税を当てはめてみますと、町村の單位組合で利益の出ない組合も、大体四万一千円程度の附加価値税負担しなければならないという数字が出るのであります。こういうふうな協同組合の性格に照しまして、非常な不合理な点を持ちますので、特にこれは御研究を願いたいと思うのであります。  次に固定資産税でありますが、これは協同組合の場合というのではありません。全体的な問題でありますが、農地の調整係数は、今政府は一応一千倍あるいは九百倍というふうな御方針ようでありますが、これは農地改革等の精神に徴しましても、できるだけ低くしていただくことが妥当ではなかろうか。ことに相続等の場合におきまして、現在の余剰のない農業経営の場合を考えますと、自作農創設の方針を――相続の場合に根本的に障害を起すというふうな点も考えられますので、農業の係数をできるだけ引上げていただきたいというふうに考えるのであります。  次に家屋の問題でありますが、これも一千倍程度に想定をされておるようでありますが、土地の方はその年々の一応の生産性が伴います関係上、ある程度税負担ぼ可能だろうと思いますけれども、農村におきます家屋は、必ずしも家屋の大きさというものと、価値というものと、所得生産性というものは伴いません。私は長野県でありますけれども、従来養蚕が盛んであつて、養蚕をするために非常に大きな家屋を持つております。それが養蚕がいけなくなつたので、その家屋はあき家同然である。また以前は家族が大勢であつたけれども、現在は家族が少くなつて、その建物を維持するにさえようやくであるというふうな、いろいろ長い間にはその農家の家族構成、経常状態というものが変化をするのでありますが、今考えられるような固定資産税における家屋税の考え方が高率である場合に、はたしてその負担に耐えられるかどうか。これは非常に心配な問題でありまして今その税金がかかると参つております。これらの実情もよくお考えをいただいて、特に家屋の場合は生産性が伴わないという事実の上に立つて、税率その他をおきめいただきたいと考えるのであります。  次に住民税の問題でありますが、住民税は扶養控除の対象となつておる者も、一応納税義務者にしてありますけれども、これは非常に私ども矛盾だと思うのでありまして、扶養控除を受けるということ自体が、これはもう独立しての納税義務を負うべきでない。納税能力がないというふうな解釈をいたしてよろしいと思うのであります。にもかかわらず住民税の場合は、扶養控除を受ける者も納税義務者であるということになつておりますが、この点等も改めていただきたい点であります。  それから次に住民税の所得割の計算についてでありますが、御承知のよううに、三つの方法が示されております。これは本年に限つては、第一の方法をとるように一応なつておるようでありますけれども、もしこれが二、三の方法をとられるというふうな場合には、非常に高率になりますために、これも明らかに一の方法をとるということにおきめを願い。もし二、三の方法をとる場合には、制限率を、ずつと引下げるというふうなことに御考慮を願いたいと考えるのであります。  その他二、三申し上げたいことがありますが、大分時間を経過いたしてしまいましたので、一応この程度にとどめまして、私の意思にいたしたいと考える次第であります。
  16. 川野芳滿

    川野委員長 ただいまの黒田新一郎君の御公述に対して、御質疑があればこの際発言を許します。
  17. 小山長規

    ○小山委員 ただいま一番最初にお話になりました農村の税の負担の問題でありますが、これはわれわれが今まで政府当局から説明を受けておりましたのと相当違うのであります。それであなたの立論の基礎を、一応お伺いしてみたいのでありますが、その前に政府当局が出しました表によりますと――これは家族の構成がどうもはつきりしないので、その点が若干不安でありますが、所得八万円の農業者は、従来の地方税が二千二百五円で、新しい地方税が四千八百六円で、地方税において二千六百一円の増加を来しますが、国税において六千七百円の減少を来し、差引四千円の減少である。十万円の場合には、現在の地方税が五千八百八十九円で、新法によれば六千八百九円に増加して、九百二十円の増加を来すが、所得税において一万五十円の減少となる。十五万円の農業者は、従来の地方税が一万四百八円、新法によれば九千九百九十五円で、四百十三円の軽減になりまして、さらに所得税において一万九千五百五十円の減税になる。合計いたしまして、約二万円の減税になるという説明であります。ところがただいまの黒田さんの御説明によりますと、地方税所得税と合して、農村総額においては五十億円程度の減税にしかならない、こういう御説明であります。  ところでお伺いしたいのは、所得税を二百億円と御認定になつておるにかかわらず、住民税を百億円ないし百五十億円と計算されたのは、何か間違いではないかと思うのであります。と申しますのは、住民税のいわゆる均等割というものは非常に少いのでありまして所得税制であります。所得税の一八%が大体住民税でありますから、農村の場合においては所得税がぐんと減れば、それだけ住民税はぐんと減るのでありまして、この計算によれば、所得税は四百二十億円から二百億円に減税になりますならば、住民税はその一八%の三十六億見当でなければならぬはずであります。そういたしますとあなたの計算で、すでにここで七十億ないし百二十億の誤差が出て来る。これがもし私の申す通りであるとすれば、農村の実態と違つたお話をなさつたことになりますし、あなたの方が正しいとすれば歳府当局の説明が間違つておるということになります。もつとも問題は、この国税と住民税との関連において、私の計算によれば大体三十六、七億であるはずのを百億ないし百五十億と計算された、その基礎をひとつお伺いしてみたいのであります。  それから第二といたしましては、ただいまの説明は、税法に関してでありましたが、肥料の値上り三百三十七億円と税との関係を御説明になりまして、肥料の値上りによつて、非常な負担増になるというふうな結論を引出されたようでありますが、この農村の收入の場合には、昨年の米の値上りの差額でありますところのいわゆるバツク・ペイと申しますか、このバツク・ペイが農村に幾らもどるかということと、それから今度の予算によりますれば、二十四年度の米は一石四千二百五十円で計算し、二十五年度産米は四千七百五十円で計算されておりましてその差額は五百円、一石当り五百円の増收ということは御説明の中になかつたのでありますが、それは御考慮の上でありましようか。それも伺つておきたい。同時にまたそれらのバツク・ペイあるいは今度の二十四年度産米と二十五年度産米との値上り増、これを所得税の根拠にお考えになつておつたかどうか。この三点をお伺いしたいのであります。
  18. 黒田新一郎

    黒田公述人 御質問の第一点でありますが、これはなるほど所得割は一八%程度でありまして、住民税人頭割が四百円ないし五百円というふうなことでありまじて、その数字が四百円になるか五百円になるかというふうな点、それからこれは都市の方は高額になりますが、大体農村は、最高額は五百円ということになりましよう。そうした場合、一応所得のほかにそれを加算して出してあるのでありますが、これは全国指導連の調査いたしたものでありまして今お話を伺いますと、差手これは数字が大きいのじやなかろうかというふうに考えますので、これは再調査いたしてみます。  それから米の問題でありますが、バツク・ペィは、これはことしはバツク・ペィをされますけれども、それは一応昨年の米価という考え方であり、本年は四千七百円でありません。四千五百六十円でありまして五%、これは大体米を三千万石にしまして、その値上り分が七億程度あります。それでありますので、その七十億と減税分とを加えましても、肥料の値上りの二百三十億に比べますと少額であるということを申し上げたわけであります。
  19. 小山長規

    ○小山委員 いや私が申し上げたのは、今度の税制は、政府当局の説明によりますと、国税地方税を合せて勤労者及び営業者の場合は若干の減税であるけれども、農村の場合においては相当減税になる、こういう説明を受けておるのであります。あなたの御説明を聞いておりますと、それが一向減税なつてはいないという御説明でありますので、それをお伺いしたわけであります。
  20. 黒田新一郎

    黒田公述人 その減税なつておることは、これは私どもも認めるのであります。先はども申し上げましたように、数字の上では多少食い違いがありますが、私の申し上げたのでも五、六十億の減税にはなる。しかしその減税の引当てである補給金の撤廃ということが一方にある以上、農村全体の経済から考えると、その減税が決して農村にそれだけただちに恩恵になつておらないということを申し上げたわけであります。減税であるということの事実は認めます。
  21. 北澤直吉

    ○北澤委員 ただいまのお話によりますと、中央と地方と両方の税を合せまして、農村においては大体五、六十億、五十億ないし百億見当の減税になるだろう、こういうお話でありますが、今度の税法改正によりますと、従来寄付金の形か何かで大体一年に三百億くらい納めておつたものが、大体なくなる。こういうふうなことを考えまして、従来寄付金を納めたことを考え合せますと、やはり私は相当程度これは減税になりはせぬか、こういうふうに思つております。  もう一点伺いたいのは、営業所得と農業所得との比較を考えますと、営業所得には固定資産税のほかに附加価値税がある。今度の地方税法によりますと、附加価値税は全部で四百四十億円上る、こういうことでありますが、この四百四十億円というものは、これは全部営業者にかかる。これは農村の諸君にはかからないというわけであります。固定資産税の方は全体で五百三十億円ということになつておりますが、これは先ほどのお話によりますと、農村はそのうち二百億、そうすると農業以外の営業所得の方に三百二十億円かかる、こういうふうに考えまして、私は農業所得と営業所得の比較を考えますと、農業所得の方が営業所得に比較しまして、むしろ恩恵を受けておるというふうな考えを持つておるのでありますが、その点についてお考えを承つておきたいと思います。
  22. 黒田新一郎

    黒田公述人 私はいささかここは意見が違います。先ほど都留先生からもお話がありましたように、最近におきまする日本の鉱工業の生産力の増大と農業のそれを比較いたします場合に、農業の方はほとんどそうした飛躍は見られないのであります。それに比べて鉱工業の進歩というものは、今年の安本の調査による所得によりましても非常な数字でありまして、それだけ経済的の弾力というものが農村と商工業とは比較にならない。そういう基礎の上に立ちますると、ただ税額だけで今のような比較をなさつても実質的には当らない、私はかように考えたわけであります。
  23. 北澤直吉

    ○北澤委員 私は全体の商工業者と農業者との比較を言うのではありませんで、今度の税制改革に関連して営業所得の方の負担の軽減と、農業所得の負担の軽減とを考えます場合において、農業所得の方が税の軽減が多いのじやないか、こう考えたりであります。何も生産力の問題なんかを言うのではありません。
  24. 川島金次

    ○川島委員 今小山君からちよつとお話がありましたが、それに対して黒田さんは住民税の問題で、この係数は違うかもしれぬ――そんな御自信のないことではいかぬと思います。農家は全体で六百万戸くらい、所得税の方は三百万戸で半分きりかかりません。しかしながら住民税は残り三百万戸にもかかつて来る。人頭制そうして所得割。こうなればやはり百億ぐらいかかるかしれぬと私は思う。よく御調査になつていただきたいと思う。  そこでお尋ねするのですが、今北澤君から帯付金もどうだという常業新との比較、これも私は違うと思う。寄付金の問題もやはりシャウプ勧告によりまして、今度の地方税においてそれを吸收しておるのです。ですからその寄付金が省けるから、それだけ農家の負担が軽くなるということは当らないので、今度の地方税の中に大部分がそれを吸放した体系で、地方税というものは農民にもかかつて来るということでありますから、今後寄付金がなくなりましても、農民の負担は従来の寄付金が含まれてある負担なつ、て来るという実際の形になるのであります。討論ではありませんが……。(笑声)  そこで一つお伺いしたいのですが、従来の農民の課税が非常に重い、そしてまたインフレーションの間において蓄積いたしました農家の預貯金も、今日ではほとんど激減、ゼロに近いはうな形になつておる。そういう一方における重税と一方における預貯金の減少等による金詰まり、それから低米価、こういつた形からいたしまして、全国にそういうような原因で耕作権の放棄が相当増大しておる。最近の黒田さんのお調べの手元にあるものがありますれば、最近におけるこの重税によつての耕作権の放棄というようなものの面積がどのくらいになつておるか。その人員はどのくらいになつておるか。この税制改正によりまして、地方税を含めれば、かなりまた農民に相当負担の加重が、やはりシェーレによつて起つて来る。税そのものにおいては多少軽減があつても、一方は工業生産の価格において非常に鋏状価格差が大きく奪ということで、ますます農民の経済は非常な困難を加えて来るのじやないか。そういうことからいたしますと、さらに今までの耕地放棄面積というものが増大して行くという心配があるというようなことを私は感じておる  ので、最近の黒田さんのお手元にそういつたものについての御調査の済んだものがありますれば、この機会にお示しを願いたい、こういうように思うのであります。
  25. 黒田新一郎

    黒田公述人 耕作放棄の傾向は各所に出ておりますが、今事務的な統計というものは私の手元にありません。農家がどうかこうか現在生活を維持しておるというのは、決して経済的に恵まれておるから、弾力があるから、現在の生活が維持されておるというふうな見方は当らないのでありまして、農家というものは経営が苦しくなればなるだけ、幾らでも自己の労働強化によつて経営を切り抜けよう、それから一面幾らでも生活水準を低下するということによつてもう人間らしい生活はできない。私ども田舎にしよつちゆうおつて東京に出て参りますと、一体東京あたりの電力の濫費は何だ。電力料が上つて、農村では脱穀調製のあの電力料さえ抑えぬで困つておるにもかかわらず、あの夜のネオンサインの濫費、あの極力を農村にまわしてくれたらいいじやないか。また東京あたりで宴会をやつて一晩千円、二千円という米一俵にも値するような宴会費で、それで料理屋はまた二日も三日も前に申し込まなければできないというような始末である。百姓が一粒々々こぼれた穗を拾つて、ようやく経営を維持しようとするあのむごたらしい状態に引比べて、一体都市の生活などというものは農村に見せられるかというふうに思うのですね。税金の面でもなるほど資本蓄積をざせるために累進率を一応五十万円で押える。決して私はあれは国家的に資本蓄積に役立つのではなくて、そうした人々のいたずらな生活の濫費、生活水準をますます一般の農民あたりと開かせるということに終らせてしまうだけである。だから担税能力のあるそうしたようなところは、もつととれるだけは負担をしてもらわなければならぬじやないかというように、農村から今の都市の姿なんかを見ると一つの憤りさえ感ずるわけであります。いろいろ私の申し上げたことは数字的にも異なる点もありましようが、とにかく農村からながめた現在の農政のあり方、税制のあり方というものに対する率直な意見を申し上げたつもりなのであります。
  26. 塚田十一郎

    ○塚田委員 黒田公述人にお願いを申し上げたいのでありますが、私は今いろいろ御説明を伺つた数々の統計資料などについては、私どもしよつちゆう政府からもらつておりますものと、数字の食い違いがあるといたしましても、当委員会で税法を審議いたします上に、非常に貴重な御意見であるように考えておるのであります。願わくばひとつ委員会のために、公述人がお持ちになつておるそういう資料をわけていただけるならば、私ども真剣にこれを検討調査いたしまして、そうして真理の存在する部分はこれを取入れて審議をやつて行きたい、こういうふうに考えますから、どうかその点お願いいたします。
  27. 黒田新一郎

    黒田公述人 それではまたあとで整理をいたしまして、資料委員長のお手元に差上げることにいたしますから、何分ひとつ……
  28. 川野芳滿

    川野委員長 すでに十二時を相当経過いたしましたが、実は午前中に用件の関係上、ぜひ公述をさせていただきたいという御希望の方がもう一人ございますので、もう一人だけ公述を続行することにいたします。中小企業連盟常務理事、稲川宮雄君。
  29. 稻川宮雄

    ○稻川公述人 私は中小企業者、中小商工業者の立場から、今回の所得税並びにその他の税制に関しまする意見、あるいは希望を申し上げたいと存じます。時間の制約もございますし、たいへん時刻も過ぎておりますので、要点のみを申し上げたいと存じます。  まず第一に所得税関係でございますが、先ほどいろいろお話が、ございましたように、今回の所得税シャウプ勧告の三十万円超五五%、それから五十万円超五五%にされましたことに対しましては、まことにけつこうだと考えるのでありますが、先ほど来お話もありましたように、なお五十万円程度では今日の物価水準から考えまして低きに過ぎる。またその税率にいたしましても、低きに過ぎるというふうに考えておりますので、さらにこれを上げていただくことが中小商工業者といたしましての要望でございます。  第二の点といたしまして、所得税基礎控除が現行一万五千円からこれを二万五千円に引上げる、こういう案に対しましては、従来から中小企業側一般の引上げの要望ではございましたけれども、その点もまことにけつこうだと存ずるのであります。しかしこの基礎控除額につきましても、やはり今日の物価水準から考えまして、あまりに低きに過ぎると考えるのであります。昭和十年の一ドル二円の当時におきまして、基礎控除が千二百円であつたのでありますが、ただいま一ドル三百六十円として換算いたしますると、二十一万六千円の基礎控除でもしかるべきものだと言えるのであります。そこで所得税率は上げなくとも、もう少し基礎控除額を上げていただくことが、中小企業といたしましてはぜひともお願いいたしたい。これが第二の点でございます。  第三の点といたしましては、中小商工業者に対しましてはただいま申しましたように、基礎控除が従来より上つたという点においては有利でございますが、しかし一般の勤労所得に比較いたしましては、特に勤労控除というものがないという点において、なぜそういう差別待遇を受けなければならぬかということに対して、非常に疑問とかり不満を持つわけであります。もとより中小企業といたしましてもピンからキリまであるわけでありますが、その中でも零細な中小企業者というものは朝早くから夜おそくまで、極端に申しますれば天びん棒一つかついで多くの危険を負担しながら、給料取りと違つてその営業をしておるものであります。その受ける所得というものは、勤労所得者と性質において何ら異なるものではないのであります。同じ十二万円の所得の給與所得者でありますならば、現行法におきましては一箇年十二万円といたしまして一万五千円で済むのが、営業所得でありますために同じ十二万円にいたしましても、これが四万八千円もかかる。こういう計算が出ておりますように、同じ所得に対してなぜ営業者のみがそれだけ多く負担しなければならないのか。これは所得税関係のみではなく、事業税の関係も入れたのでありますが、資本を投下してそれに対してふところ手をしておつて入つて来るという性質のものでもないのに、なぜ特に事業をしておる営業所得であるからといつてそれほど多くの負担をしなければならないのかということが、われわれには了解できない点でございます。この点は今度の勤労控除が従来の二五%が一五%に引下げられるということと、先ほどの基礎控除が引上げられるということによつて緩和されておりますけれども、なおその間に不均衡があるということに対しまして、特に零細業者のためにこの際特別の控除を認めていただきたいと考える次第であります。最近中小商工業者は中小企業等協同組合法によりまして、企業組合というものを結成いたしておりまするが、これなどは自分の営業を放棄いたしまして、廃業いたしまして企業組合の従業員となつて給料取りになろう。そこまで考えて給料生活者の給與所得に切りかえたいというところまで進んでおるということは、この税負担が特に給與所得に比較していかに重いかということを、端的に物語るものであろうと思うのであります。もちろん私は勤労所得を特に重くしろという意味において申し上げるのではございませんが、零細業者の事業所得と公平を失するという点につきまして、特にお考えをいただきたいと考えるのでございます。  次に中小企業の所得税に関する一番大きな悩みは、申告に対しまする一方的な更正決定が働いて来るという点でありまして、いかに説明をしてもいかに帳簿を示しましてもこれを信用してもらえない。そのために非常に多くのトラブルが起り、そのために非常に多くの労力を要するという点でありまして、ために賞美をも廃止しようというような人が続出しておるという現状でございます。この点につきましては幸い青色申告制度というものができまして、まことにこれもけつこうな制度であると考えるのでございまするが、御承知のようにこの青色申告制度というものは、非常に利用が少いということに相なつております。かようけつこうな制度、またぜひともこれをやつて行かなければならない制度であるにもかかわらず、なぜ業者がこれを利用しないか。これは業者の側におきましても、大いに反省しなければならない点が多々あると思うのでございますが、なおこの制度を実施する上におきましても、いろいろお願いたしたい点があるのでございます。  第一の点は帳簿の様式がかなり複雑難解でございまして、中小業者にはこの青色申告制度の帳簿様式に乗ることができない。この程度のものは当然つけなければならぬものでありましようけれども、これは漸を追つて完全なものにするのがよろしいと思うのでありまして、現在の状態におきましてはもつと簡易なものを御指定願うように願いたいのでございます。  第二の点は税務当局におきましての御理解あるいは御協力が薄いように考えるのでございます。国税庁におきましては相当予算をお使いになりまして、宣伝のために全国に普及していただいておるのでございますが、税務署当局におきまして――これは全部そうであるとはもちろん申し上げられませんが、中には青色申告などやつてもだめだよということをおつしやる税務署が相当ありまして、迷つております業者が今まで税務署といろいろ交渉いたしましても、なかなか信頼してもらえない。また青色申告をしても、税務当局がそういうことをやつたのではとてもだめだ。こういう感じを持つ人が非常に多いのでございまして、せつかくこういう制度ができます以上、ぜひともこの制度を利用するように税務当局におきましても御協力、御理解をいただきたいと考えるのでございます。  それから第三の点といたしまして、青色申告をすればこういう点について不利益がなくなるというようなことはございますが、こういう点についての利益があるという点がございませんから、これは率直なことでございますが、青色申告をすれば何かそこに一つの大きな特点がある。消極的な特点でなしに、積極的な特点というものをお考え願いまして、この青色申告制度というものの普及に御協力をいただきたいと考える次第でございます。なお所得税につきましてはその他二、三ございますが、時間の関係で省略さしていただきます。  次に法人税関係でございますが、零細な業者が、先ほど申し上げましたように中小企業等協同組合正法によつて、企業組合というものをつくつておるのでありますが、この企業組合に対しましては、普通の協同組合に與えられておりますように割りもどしに対する損金勘定の持点が與えられておりませんので、特に中小業者のうちでも零細なものをつくつて、企業組合に対しまして普通の協同組合と同様の特点を與えていただきたいと考えるのでございます。なお法人税のうちで従来の超過所得が廃止されたということにつきましては、中小企業が非常に資本が少い。昔の十九万五千円程度の資本でやつておりまして、利益が相当率といたしましてよく出るというよう関係から、これが廃止されるということは非常にけつこうだと考えております。  次に物品税関係でございますが、物品税は先ほどの議会において御改正願いまして改善されたのでございます。そうして物品税の納期が、今までは倉出し後一箇月以内に納めるというのが、一箇月延長せられたということは非常にけつこうな点でございますが、なお実情から申しますると、倉出し後どうしても代金の回收までには、三箇月以上を要するということになつておりますので、その税金の立てかえをするということは、今日のような物価が高い場合には非常な負担なつて参りますので、この納期をさらに一箇月程度延長していただきたいということが切なる要望でございます。また税率につきましても相当改正にはなつておりますが、それでもなお非常にこれが重い負担なつておりますので、この点もあわせて御考慮願いたい。この物品税は業者にとりまして非常な悪税に相なつておりまして、正しい者はどうしても物品税を納めなければならぬ。しかるに物品税を三面においてのがれる者がありますために、非常に不公平なことに相なつておりますので、物品税を将来におきましては全廃していただくということが望ましいのでございます。物品税がありますために帳簿も実はつけられない。これははなはだよろしくないことでございますが、事案はそういう関係に相なつて参りますので、ぜひともこの物品税につきましては、将来は廃止するという方向にお考えをいただきたいと考えるのでございます。  それから次は地方税のうちにおける附加価値税の点でございます。附加価値税というものは非常に新しい考え方であると言われておりますが、こういう新しい制度を今ただちに施行されるということは、そこに非常な困難があるのではないか。業者の要望といたしましては、やはり従来の事業税のように收益税ということにしていただきたいということが、大きな要望に相なつております。ことに地方の徴税機構が十分でございませんから、実際の徴税にあたりましては折衝能力の少い中小業者との間に、大きなトラックが起るということも起るということも考えられますので、少くともこれを一年程度は延期していただきたいということが業界の要望でございます。かりにどうしてもこれを実施するといたしましても、相当額の免税点を設けていただきたい。取引高税とは性質が違つておりますが、一部において似たところもございますので、取引高税が主万円の免税点がありましたように、少くとも五万円程度の免税点を設けていただくということをお願いいたしたのでございます。  それから先ほどもお話が出ておりましたが、従来事業税の場合には農業その他につきましても事業税が附加されておつたのでございます。今度附加価値税におきましては農業等はこれを除外されておる。私どもは特に農業方面に重く課税してくれということを決して要望するものではございませんが、何ゆえに同じ附加価価に対して特に商工業のみがそれを負担しなければならないかということの理論的根拠、その説明に苦しむのでございます。あるいはこれは固定資産税との関係もあるかと存じますが、中小商工業者におきましても、やはりそういう固定資産税は当然に負担するのでありまして、特に附加価値税を商工業のみが負けなければならぬということにつきまして、その不公平が指摘されると考えるでございます。要するに今日中小企業は、お互い会えば税金の話以外はないというほど税金のために苦しんでおるのでありまして、税金負担することは当然でございましようけれども、そのために倒産、没落をする者が非常に多いのでございまして、特に中小企業のために、税制改正にあたりましては、その立場を御考慮願いたいと思うのでございます。  たいへん時間が切迫しておりますので、急いで申し上げまして御了解が行きにくかつたと存じますが、一応中小企業の立場から、今回の税制改正につきまして一言申し上げた次第であります。
  30. 川野芳滿

    川野委員長 ただいまの稲川宮雄君の御公述に対して御質疑がありますならば、この際許します。
  31. 三宅則義

    ○三宅(則)委員 私は簡單に二、三の点について公述人の稻川さんにお話を承りたいと思います。御承知の通り中小企業は零細な事業が多いのでありまして、税金に苦しむことは一番多いことと考えております。ただ一方的に官吏が更正決定をいたしましたときにおいて、この異議申請をいたしましたらこれに対する訂正をいたさなければならないとは存ずるのでありますが、今連盟の方ではどう考えておられるかどうかという点が一つ。  第二番目は、青色申告という点につきましてはまことにけつこうなお話でありますが、場合によりますと青色申告をいたしましても、帳簿か不完全の場合におきましては、かつてに税務署がやるのではないかという不安があると思いますが、これに対して連盟の方ではどう考えておられるかという点が第二点。  第三点は、物品税でありますが、物品税は私の観点からいたしますると、はなはだここで申しにくいことでありまするが、半分以上納めていないと私は感ずるのであります。これはもちろん税金が高いからでありますが、これにつきまして正直な着が割合にばかを見て、不正直な者は、あるいは自分でかつてにやつておつて、物品税を納めない者が多少あると思つておりますが、これに対して均等せしめるように、中小企業の方でも考えなければならぬと思つておりますが、この点について、どういうふうな考えを持つておられるか。この三点についてお伺いいたしたいと思います。
  32. 稻川宮雄

    ○稻川公述人 御質問の第一でございますが、税務署の方の一方的の更正決定に対して、どういう考を持つておるかという意味が、実はよくわからないのでございますが、私どもはやはりこの点については、税務署が一つの基準などを設けまして、一方的にかけられることは非常に困るのであります。しかし業者の側におきましても、証拠力が非情に不十分であるという点につきまして、違憾の点が非常に多いと思うのであります。従つてこれはどうしても私どもといたしましては、青色申告の制度に乗るように、今後業者を指導して行かなければならないと考える次第でございます。  第二点の青色申告をいたしましても、なお税務署が更正決定をして来るではないかということはごもつともでありまするし、またそういう点から、青色申告制度に乗らないものが相当多いかと思うのであります。しかしそれにいたしましても、少くとも青色申告をすれば、帳簿を調べることなしには更正決定ができないという点がございまするので、まず青色申告をすることの方が有利である。青色申告をしなければ、いきなり行かれましてもこれに文句を言う余地がなくなるのでありますが、少くとも青色申告をしておれば、一応その線で防がれるということがございますし、有色申告をいたしまして一定の帳簿をつけまする以上、どうしても真実性のあるものでなければならないということは当然であります。今後の官民の指導によりまして、真実性のある帳簿をつけて行くようにして行かなければならないと考えるのであります。  それから物品税の点につきましては、お話の通りはなはだ申しにくいことでございまするが、その納税状況はよろしくないのでございまして、そういうよう意味から申しましても、正直者がばかを見るということになりますので、私はその全廃を希望したのであります。しかしながらこの制度が行われておりまする以上は、正直者がばかを見ないように、特に納税の点につきましてこれは強力にやつていただくことが、必要ではないかというふうに考えておる次第でございます。
  33. 三宅則義

    ○三宅(則)委員 それでは先ほどの私の申し上げたことがおわかりにくかつたと思いますから、一言だけ申し上げます。税務署がかつてに更正決定をいたしました場合に、非常に困ると存じますが、これにはいろいろ機関もあります。もちろん連盟といたしましても、業者を代表いたします者が、ある程度折衝することも必要であろうと思うのでありますが、これにつきましては、もちろん帳簿というものが源泉になるわけであります。帳簿の思想の発達と、もう一つは業者の方で模範店を示しまして、その模範店におきます收支計算を極力税務署長等に申達して、この線によつてきめるということも一つの案だと思いますが、公述人は何と考えられるか承りたい。
  34. 稻川宮雄

    ○稻川公述人 最近ガラス張り経営、公開経営ということが盛んになつておりまして、ガラス張り経営をしたものを標準にして、一斑を推すというようなことも行われておりまして、私どもはそういうガラス張り経営というものを非常にけつこうな経営の方法であると考えておりますので、ただいまの御質問はこれによつてお答えできるというように考えております。
  35. 宮腰喜助

    ○宮腰委員 ごく最近に企業協同組合を盛んにつくつておるようです。これは非常に税が経減されるというお話ですが、今までの十人なら十人の者が企業協同組合をこしらえて、税が安くなる、源泉徴收だけでいいというような考えを持つておるようでありますが、われわれは実際昨年度の更正決定よりもそう安くなるとは考えられない。企業連盟あたりでは、こういう協同組合をつくる場合にどう御指導をしておるか伺いたい。
  36. 稻川宮雄

    ○稻川公述人 この点につきましても実は詳しく申し上げまして、お願い申し上げたい点もあるのでありますが、時間がございませんので省略いたしたいと思います。ごく要点だけ申し上げたいと存じます。今まで事業所得でありまするために、勤労所得に比べましてあまり税金が重かつた。またもう一つは、税の重い軽いということよりも更正決定が事業所得に対しては一方的に働くというその煩わしさのために、ここに企業組合というものを結成して、従来の一国一城のあるじから、その商売をやめて組合の従業員になろうそこまで思い切つた政策をとられておるのでございますが、企業組合に対しましても、給與所得にしたからといつて従来はともかく、今後はそれほど税が軽くなるものとは考えておりません。すなわち基礎控除が引上げられておりまするし、勤労控除が引下げられておりまするし、また企業組合に対しましては、従来事業税がかかつておつたのでありますが、その事業税の軽い特典もなくなりまして、附加価値税ということになつて参りますと、これは收益課税でございませんので、企業組合にも相当税金がかかつて来る。そういうような点を見ますると、企業組合の従業員になつたからというので、従来の税制の場合は相当安くなりまするが、今後の税制の場合におきましてはそんなに安くなるものではない。しかし少くとも勤労控除一五%だけは空くなるということが、はつきり言えると思うのであります。しかしながら企業組合によりまして、営業を徹底的に合理化するということの利益が非常に大きいのと、もう一つは、税の安くなるとかいうことはしばらく別にいたしまして、事業所得の場合には、青色申告を正すれば別でありますが、なかなか荷色申告も使えないということでありますと、やはり税務署との交渉、更正決定の煩わしさからのがれる意味におきましても、企業組合の従業員になりたい。こういう希望が相当にございます。そういう意味で、税金が若干安くなるという点と、更正決定の煩わしさからのがれたいというので、企業組合の従業員になる者は、依然として相当あるという現状であります。
  37. 川野芳滿

    川野委員長 午前はこの程度にいたしまして、午後一時半から再開することとし、残される公述人方々公述を続行いたすことにいたします。     午後零時五十九分休憩      ――――◇―――――     午後一時五十分開議
  38. 川野芳滿

    川野委員長 休憩前に引続き会議開きます。  公述人税制改正法案に対する御意見の拝聴を続行いたします。まず日本酒造協会代理事土田國太郎君にお願いいたします。
  39. 土田國太郎

    ○土田公述人 私は日本酒造協会代理事土田國太郎であります。本日公述人といたしまして意見を申し上げて、御参考に供したいと思います。私は肩書にあります通り、酒類の製油に関しまして、一言考えておりまするところを申し上げてみたいと存じます。  ただいまお手元へ参考書類を差上げましたが、それをごらんくださりながらお聞きを願いたと思います。現在の酒類の価格が一般購買力に比しまして著しく高価でありまするがために、最近非常に売れ行きが悪くなりまして、このまま推移いたしますときは、業者は滞貨のため経営不振に陥り、結果は当然国家の税收入に大なる悪影響を及ぼすことに相なそのでございます。清酒の税率は、その改正ごとに、いわゆる市場価値と称するものをあまりに過大に評価されまして、これが累積されたため、他の酒類に比しまして著しく税金が高価になつて参つたのであります。一面酒類の密造――これは推定約二百万石と予想されているのでありますが、これを撲滅していただかなければ、国庫收入にも大なる影響があると同時に、また国民保健衛生上にもゆゆしき問題となつて来ておるのであります。昨年よりしようちゆうの税金は、密造対策といたしまして非常に低率になつて参りまして、しようちゆうに対する密造というものは大分都鄙を通じて減退して参つておるのでありますが、米原料の清酒に対しましては、今申し上げましたような高率の税額でありまするがために、農村は現在の経済といたしましては、とうていこれを消費する力もないような状態であり、また市街地とたしましても非常な不景気に陥つておりまするがために、高い酒類は消費できないような情勢に立至つております。ただいまお手元へ差上げました資料の第二ページをごらんくださいますと、酒の価格と他の物価に対比いたしまする騰貴の比率とが参考に書いてあります。消費者価格比較表として一升当りとしてあります。種別というのは酒の種類別でありますが、清酒について見ますと、特級酒は昭和十五年には二円七十銭であつたのであります。それがことしの一月には千百四十円に相なりまして四百二十二倍にも上つております。一級にいたしましても、昭和十五年には二円四十銭で買えたものがことしの正月は九百十円、騰貴率は三百七十九倍、それから二級酒でありますが、昭和十五年には一円九十銭であつたのが、本年一月には六百四十円になりまして、騰費率は三百三十七倍ということになつております。また清酒代用の合成清酒について見ましても、一級が昭和十五年は三円三十銭でしたが、今年は六百四十五円、これは二百八十倍の増であります。二級合成酒にありましては、昭和十五年は一円九十銭であつたものが、ことしは五百二十五円、倍率は三百七十六倍ということになつております。しようちゆうは昭和十五年には一円八十八銭で、普通の清酒よりもむしろ高いくらいであつたのでありますが、本年は四百二十五円、騰貴率二百二十六倍で、一般酒類としての騰貴率は少いのであります。この清酒、合成酒、しようちゆうの平均価格を見ますると、昭和十五年には一円二十五銭になつております。それから本年一月は六百五十七円に相なつておりまして、倍率は二百九十三倍であります。  次の欄に参りまして、食糧品及び嗜好品の小売物価の指数――昭和八年基準でありますが、それから見ますると百七十五円七十五銭のものが、二十五年の本年一月は二万七千二百四十四円になつておりまして、百五十六倍の倍率になつております。  次の欄の商品全部の総平均の小売物価指数、昭和八年を基準といたしまして昭和十五年は百七十八円、昭和二十五年一月は二万五千三百九十五円、それから倍率は百四十三倍、こういうふうに明らかにこの表に販売価格の値上りというものが示されてあるのでありますが、ほかの商品に比しまして非常に値上りが高くなりまして、一般の商品に比しまして二・四倍ないしは三倍の程度で、他の商品より高騰率を示しておるのであります。こういうふうに非常なる値上りを来しました原因は、申すまでもなく税率の引上げによつて、価格が高くなつたためであります。戦前の昭和十一年は一升四十銭の税金であつたものか、現在は特級が一升八百四十八円、こういう税率になつております。実にこれらは二千百二十倍の増徴であります。実際われわれ業界といたしましては、酒を売るのでなくして税を売るというような感じを持つておりまして、消費者もさように感じておるのであります。また昭和十五年の一升七十銭の酒税に比較してみましても、現在は清酒の特級酒は千二百十一倍となり、また一級は九百二十四倍、二級は六百三倍、これが清酒の税率の暴騰状態であります。また合成酒の一級は四百七十九倍、一番安いと言われておりますしようちゆうも、四百二十一倍というような高税率が課せられておるのであります。シャウプ博士の勧告は酒税收入の目標を二十五年度大体八百億円見当、二十六年に至りまして五十億円増、約八百五十億ないしそれ以上というよう勧告を受けておるのでありますが、今回政府国会へ御提案になりました湾税收入は、一千三十億円であるというように私承つておるのでありまして、シヤウプ博士の目標よりも本年度においては三百三十億円の超過となつておりまして、十分シャウプ博士の希望額以上、つまり歩合にいたしますと約三割弱の増徴に相なる計算になるのであります。かように多額の増徴を見込まれておる次第でありますが、今回政府提案の酒類の増税を見ますと、はたしてわが国の経済界にマッチした税であるかということにつきまして、非常に疑問があります。はたしてかくのごとく高率のものがありまして、消費者各位がこれを完全に消費してくれるかどうかということも、非常に危ぶまれて参つておりまして結果は税の收入にも非常に、悪い影響があるのではないかということを心配しておるのであります。御承知のように今や一般の物価はいわゆるデフレ傾向になつて参りました。決して景節がいいというようなことは申せないのが事実でありまして、一升七百円から一千円以上もする高い酒類は、予期する数量の販売が完了するかどうかということも、人なる疑問に実になつて来ておるのであります。その例といたしましては現在、本年一月以後清酒の特級であるとかあるいは一級とかいう高級酒は、地方はもちろんでありますが、大東京でさえも非常にストックが多くなりまして、卸販売機関が全部これを抱いておるというような、非常に悪い現状に今立至つておるのでありまして、非常に業界の前途も危ぶまれておる情勢であります。あわせてこの高い税をねらつて密造というものが、地方には盛んに横行しておるということは事実であります。密造というものは申し上げるまでもなく税の高いということかねらいになつておりまして、酒税が高いことはむしろ密造の奨励というよう意味にも実は見得られるのでありまして、この点非常に憂慮にたえないのであります。ところが政府といたしましては、しようちゆうを下げたから密造はこれで全部防止できるのではないかというお考えで、おやりになつておるか存じませんが、日本のわれわれ国民性といたしましては、酒類で何を一番好むかといいますと、いわゆる日本の米でつくりました清酒というものが、一番日本の国民性にマッチした飲料であるのであります。過般も輿論調査をいたしたのを群見いたしますと、清酒を一番欲求いたしておるような事実が、最近はつきりわかつて参つておるのであります。かくのごとくこの密造というものは大きな問題でありまして、これをこのままにいたしておきすときには、国民の税の観念はもちろんのこと、また清酒の価格、この両画から非常に大きな問題が想起されるのであります。こういう点をわれわれはつとに国会に対してお願いをいたしまして、何とかしてこの密造の対策を講じなければ、国家といたしましてもまた国民といたしましても重大なことになるのじやないかと考えるのであります。  次に酒類の生産及び消費の状況を簡單に申し上げますと、戦前の昭和十二年を基準として見ますると、昭和十二年は清酒が四百三十七万石、ほかの酒類が二百十四万石で合計六百五十一万石、その当時は内地人口は約五千万人であつたのであります。でありますから一人当りは約一斗三升を飲んだという計算に為るのであります。ところが本年のごときは清酒が約八十万石、合成酒が四十万石、しようちゆうが約九十万石、ビールが七十六万石、そのほかの雑酒類が四万石で、合計いたしまして、二百九十万石そこそこでありまして、半数にも足りないというように、酒類の生産は少くなつて参つておるのであります。人口は今約八千二、三百万人もありましようか、それを割つてみますと、ただわずかに三升五合というよう計算が出て参りまして、戦前の酒類飲料の消費から一人当り一斗も減つて来たというのが現在の実情であるのであります。清酒は主食の関係から原料米が非常に少くなつて参りまして、戦前に比較いたしますと、酒造用につぶします米というものはわずかに一二%ほどであります。これにようやくアルコールを加えまして製造して会百計が約一八%の生産になるというのが清酒の現状であります。戰前と比較してみますと、三百万石もの酒類の生産というものが各種類を通じて減少されておる結果、この三百万石はしからば現在何によつてまかなわれておるのであるかということになるのでありますが、それは先ほど申し上げました密造によつてこれがまかなわれて参らておるのであります。これは常識として官民ともに、これに関係ある方々の御意見は、大体原料米として二百万石が密造されておるのじやないか、こういうように推定されておるのであります。二百万石の原料米を正式ルートに引き直しまして販売いたしますと、大体二千億万円の税の増徴になる計算であります。こういうよう意味合いからいたしまして、政府といたしましては二千億の脱税をそのままにしておくことはもちろんけしからぬと言えば言えるのでありますが、いろいろ地方税務署等の報告を調べますと、これが取締りに対する收税官吏の人員が足りないとか、あるいは経費が非常に不足をいたしておりまして、取締りに出動することができないというのが現況であります。取締りに出られる方々は警察官を初めといたしまして、收税官吏が行くのでありますが、ほとんど命がけで行くというような状況であるにもかかわらず、手当はほとんどないというような非常に悲惨な状況であるのでありますが、どうかこういう点もひとつ国会に沸きましてはお取上げに相なりまして、密造の対策ということは税收の増大をはかる一大原因であり、またこれは食糧問題の解決にも重要なポイントであると、私は考えるのでありますから、どうか皆様方におかれましても、ただ單に税金だけ高ければ国の税收を増すというような表面に現われた問題でなく、この慮れたる裏面の大きな損害を除去くださるようにしていただくには、すなわちわれわれ日本人といたしましては、先ほど申し上げますように、米の酒が一群好まれておることは事実でありますから、適当な科準的方法をもつてこの増産をはかり、また当然税率も安くしていたかきまして、都鄙を通じて消費者が安心して買い得るような状況にしてほしいと思うのであります。先般シヤウプ博士がこちらへおいでの際にも、酒というものばほとんどぜいたく品であるというようなことを申されたことを聞いておりますが、日本の酒はそういうものではなく、実際勤労者各位が明日の活動のために家庭で晩酌をしていたかくのが、大体のわが国酒類の消費量の七割程度になつておりまして、あとの二、三割というものが、あるいはシャウプ博士のおつしやつたようなことに該当するか存じませんが、全部の酒類がぜいたく品であるということは私どもは肯定し得ないのであります。どうかそういうようなところをひとつお考えくださいまして、本年はまた酒税が増加されるというように承つておるのでありますが、私どもといたしましては、お手元に差上げましたように、酒税の税率を現行の七〇%にしていただきたい。それから酒類間の税率の均衡を保つていただきたい。これが酒税間の均衡がとれませんと、ある酒類は非常に売れ行きがよくなり、ある酒類は売れ残りなつてしまうというような、非常に不公平な結果ができ得まして、国庫の収入にも非常に影響があると考えますので、合成清酒、しようちゆう、従来の清酒というようなものの税率の差ということについて、十分御検討をお願いいたしたいと存ずる次第であります。  はなはだとりとめがないようでございますが、大体自分らの平素考えておるところを申し上げまして、本日の公述人として申し上げた次第であります。
  40. 川野芳滿

    川野委員長 ただいまの土田公述人の御公述に対して御質疑があればこれを、許可いたします。
  41. 宮腰喜助

    ○宮腰委員 ただいま公述人のお話によりますと、酒税が高いために購買力が減る、こういうお話でありましたが、大体これは大蔵省でも考えておる通り、財政收入を根幹とする関係上、タバコの専売にしても安いタバコを売つて税をとる、こういう問題につきまして、われわれは再三この委員におきまして、タバコの品質改良ということを強調したのでありますが、多少とムこの改良の問題に近づきつつあるのであります。しかし酒に至つてはなおそういう酒に至つてはなおそういう面が残されておるので、大いに改革する必要があるのではないかと思います。これは單なる例でありますが、値段が上つたために購買力が減る問題についてわが党の代議士である茨城の選出議員で金塚孝という代議士がおります。この方の状態をこの間茨城まで出張して実際に調べてみたのでありますが、ここのお酒はやはり政府の計画通り実施されまして、製造されたものは全部買上げになるそうです。ところが一箇年たつてもなお計画配給しない。従つて自分のところの労働賃金にしても、買入れ代金にしても拂えないために、とうとうやむを得ず――政府に再三請求してもなおかつこれに応じなかつたために、労働賃金とかいもの買入れ代金だとかほかの買入れ代金を、拂うために、承認しにとうとう幾らか倉出しをしたというので問題が遡りまして、これなどは千五百万円ばかりの追徴罰金を要求されたので、現在公判にかかつているようですが、こういうぐあいで、政府がそういうことをしいながら、どうも計画的な倉出しをしないというのが大分問題だというのです。本田さんの組合の関係もありますが、実際そういうことがあるのですか。
  42. 土田國太郎

    ○土田公述人 計画販売というものは公団存置当時は当然行われておつたのでありますが、昨年の三月公団が廃止されました結果、消費に関します販売計画というものは全然なくなつて参りまして、自由に販売し得る程度になつているのが現状であります。
  43. 宮腰喜助

    ○宮腰委員 それは昨年の三月前の事件です。
  44. 土田國太郎

    ○土田公述人 二月前でありますれば、当然この計画販売に入つておらなければならぬはずでありますが、今の御質問の点といたしましては、公団存置時代でありますから、当然出荷の指令に基いて売るというのが常道になつておりますが、その当時倉出しの指令がなかつたということの事情は私は存じないのであります。その人がいわゆる横流しであるか、あるいは脱税的のものであるかは存じませんが、無届で販売したということは当然その人の責任に帰することだろう、こういうことに私は考えられるのであります。
  45. 宮腰喜助

    ○宮腰委員 密造防止という問題ですが、地方のいなかへ参りますと、どぶろくをつくつてもどうも心配だから、よく米一升出すから酒一升とかえてくれないか、こういうことを法律で出したらどういうものかという意見が大分出ているのですが、組合ではどういう考えを持つておりますか。
  46. 土田國太郎

    ○土田公述人 いわゆる委託醸造と申されまして、われわれ業界におきましてもこれは熱望している問題でございます。農民が心配して密造するよりも、米を持つて来まして適当量の酒類を日生産者かち持つて行くということを、法律できめていただければ当然できる問題でございますから、私どもといたしましては密造防止の一端といたしましても、あるいは税收の方面から見ましても、この委託醸造ということは適当であるというふうに考えている次第でございます。
  47. 川野芳滿

    川野委員長 ほかに御質疑がなければ、次は日本租税研究協会、十條製紙株式会社取締役金子佐一郎君にお願いたします。金子佐一郎君。
  48. 金子佐一郎

    ○金子公述人 時間の関係もありますので、私は産業人の立場から、国税については企業に直接影響のあります所得税法人税、再評価税等に関してその要点を申し述べまして、現在いろいろ問題になつております。地方税について、少し詳しく意見を述べてみたいと思つております。  国税は、改正要綱について見ますと、本年は大体四千四百四十六億円で、前年度に比べまして七百十四億円の減税なつておるのでありますが、所得税はそのうち前年に比しまして五百十億円軽減となつておるようでございます。ただこの最高税率を五五%にとどめまして、これが適用を五十万円超過から行うこととなつておりますが、これは現在の実情から見ましても、百万円超過から実施する方が適当ではなかろうかと考えるのであります。それから勤労控除を前年度三五%を一五%に引下げますし、それからその最高額も三万円に引下げてあるようでありますが、これは捕捉率のよい働労所得の性格にかんがみましても、前年度より下げるということはわれわれとしてはいかがかと考えるのであります。特にこの勤労所得は捕捉率というだけを考えてみるよりもその所得内容が、これは現価で支給されるのでありまして、何らそこに弾力性がありませんけれども、一般の常業所得は收入から必要経費を引いて、その差額をもつてこれを所得額と考えております。  もちろん脱税的意味ではなくても、少くともその間に多少の憚力性のあることをわれわれは見なければならないのでありまして、その点必ずしも捕捉率のみをもつて勤労所得税の措置を考えるということになることは、先ほども公述人の指摘がありましたように、他の税制の捕捉傘の悪いことを前提として考えるごとには、これはむしろ矛面が来るというような点から、これに反対されるような向きもありますが、私はむしろ所得内容の方を強く考えた方がよいのではないかと思います。それからこの所得税を五五%に押えて、その補完税の形において富裕税が実施されることになりましたが、これは事情やむを得ないとしても、この富裕税の問題はむしろ副作用的な問題がいろいろ起つております。この方か企業にとりましては大きな影響があると思う。すなわち株式の名義書きかえの問題、あるいは無記名公社債の登録の問題等は今後企業が資金獲得の面においても、この措置いかんによつては悪影響があるものと考えられます。審議せられるにあたつては、十分この点について御留意を願いたいと思うのであります。  法人税は再評価の実施、あるいは超過所得税の廃止等によりまして、約百億円程度軽減されることになつたのであります。そのうち法人と株主というものを一体と見まして、配当に対する源泉所得税をやめ、それから株主における所得のうち、配当所得の所得税の控除というような点が考えられておりますので、これは適切なる処置と思いますが、その反面利子附加税というような考え方から、企業が利益を社内に保留いたしますその積立額に対しまして、二%の税なかけるということが考えられております。これは各企業の社内蓄積をはかりまして、金業の内容の堅実化をはからんとする今日におきましては、これは一種の資本課税でもありますので、でき得るならばこれを廃止すべきではないかと考えるのであります。  再評価税の問題は、最初勧告案によりますれば調整して税をとる。かつ資本化を五箇年認めないというようなことは、私どもからいたしますれば、当初よりむりであるということを指摘して参つたのでありますが、いろいろと世論を反映しまして、それを事業資産については再評価の任意に実施を認めました。さらにこの税金の納付についても五箇年の延納を認める。また資本化も三箇年に短縮する等いろいろと調整が行われたことは、われわれとしてもたいへん多とするところであります。ともかく再評価をするということは、資本ダンピングによりまして、資本の食いつぶしをしておりますのを、いかにして是正するかということでありますから、これは他のいろいろの制約がなければ、企業としてはでき得ろ限りこれをやるように、当局においても支援すべきではなかろうかと思うのでございます。従つてでき得るならば、この再評価の差額のような、いわゆる資本的剰余金に課税をするということは適切でないので、これをとりやめていただきたいのでありますけれども、実情においてはいろいろの事情から、この六%の課税はやむを得ないといたしましても、企業によりましては現在赤字であつて、再評価をなかなかやることができないというような企業であつても、将来收益税を考えられるようなものも多々あると思います。このような企業にとりまして、将来の收益税を目標といたしまして、再評価の限度内におきまして、数回にわけて再評価を許すというような処置も、ぜひとも考えていただきたいと思うのであります。これで国税に関する要点を依りまして、この次は地方税に移りたいと存じます。  全体を見まして国税勧告案の趣旨を取入れまして、それを輿論に従つて適切な調整を行いまして、合理的な経営をはかつた跡はよく見えるのでありますが、これに反して地方税は、まつたシャウプ勧告案そのままをなぞつておるような感じがいたします。そうして一般国民もこれに対する関心が国税ほど強くなく、論議もはなはだ不活発なように考えられますことは、はなはだ遺憾でありますが、本年度の地方税を見ますのに、税制を通じまして地方行政の改革をはからんとしておるために、千九百億の予算を立てております前年度に比べますれば、補給金を含めるというよう理由のもとに、四百億の増税なつております。これは特に注目すべきところだと思います。そもそもこの地方税は従来国税の附加税的な地位にあつたのでありまして、従つて徴税機構というものが非常に弱体であります。このむつかしい税を実施するために、特に急速に拡充しようとするような考えもありましようけれども、これは人をただ雇つて来てもこの徴税の衝に当らせればいいというものではございません。税に対する知識あるいは経験者でなければ、国税において幾多の実例を見ておりまするように、徴税上の混乱は今からわかりきつた話であります。特にこのように強力な徴税機構を持たんとするならば、徴税費用というものが莫大にかかることも考えなければならない。これらの徴税費用はまた翻つて地方民の負担とならざるを得ないということを、われわれは強く主張したいのであります。そのよう意味合いからいたしまして、この地方税なるものは、課税標準は非常に簡單なものにならなければならない。そうして税率もなるべく低くいたし、また捕捉率をよくいたし、できるだけ負担の公平をはかるようにしなければならないと思うのであります。しかるに今回の改正要綱を見ますと、従来の事業税とかあるいは地租家屋税にかわりまして、附価価値税とかあるいは固定資産税というようなものを創設採用いたしておるのでありますが、これらはともに課税標準が非常に複雑でありまして、その上に支拂い能力に比例しない外形標準課税と申しますか、絶対に利益があろうとなかろうと、これに課税をして行くというような建前がとられております。しかもこの考えられている税率によりまして各企業が計算をしてみますと、予想外に巨額な負担になるものが多いのであります。しかもこれが転嫁税であるとするならばよろしいのでありまするが、現在のような経済の実情のもとにおきましては、転嫁が困難であるというようなことを考えますと、これはまつたく企業の適用貧打になつて、ひいては徴税上の混乱が今から予想されておるのであります。しかも現在考えられておるよう課税標準や税率を見ますと、最初よりはよほど修正せられて軽くはなつようでありますが、これだけで計算いたしましても、税額が徴税目標額よりはるかに多く取過ぎてはいないかというようなことが、各方面から指摘されておるなどということは、私どもから考えますれば、はなはだおかしいと思うのであります。国民の現在の租税負担はもうこれ以上はむりたと思います。でき得る限りこれを軽減する時期に、その徴税目標額を上まわるようなことが予想せらるる税率や、課税標準を適用するということは、これはよほど愼重に研究されて行かなければならないものと信ずるのであります。  一般論はさておきまして、附加価値税について少しく申し述べたいと思います。附加価値税は申すまでもなく今回日本で初めて実施せらるる税金でございまして、過去において他にその前例を見ないのであります。それにこの附加価値なるものを課税標準とすることが、妥当であるかどうかというところの理論的論拠の結論にも、まだ到達いたしておらないようであります。それにこの附加価値税というものは取引高税と異なるのでありまして、二重に附加価値課税されることがないということを論拠といたしておるにかかわらず、実際面といたしましては、金融機関というよう関係を考慮いたしますと、企業の支拂い利子が金融機関の收入利子となつて、この附加価値が重複するという点などで理論的困難があるのであります。そこで課税標準たるものは何であるかと申しますれば、これは申すまでもなく所得いわゆる利益であります。支拂い給與額、支拂い利子、支拂い賃借料であるのであります。従つて所得の多い事業、利益のある企業は従来の事業税にかわる部分もできて参ります。また支拂い能力もこれは多少あるということが言えるでありましようけれども、赤字企業で所得というものがなければ従来は事業税がかかつておりません。従つてつたく斜税力がないにもかかわらず、この附加価値税場を負灯しなければならない。特に附加価値税の対象が利益を拔きますれば、支拂い給與額が基準になります。多くの従業員を使い、そうして支拂い給與額が多いような企業は、利益の有無にかかわらず巨額な附加価値税負担しなければならないという例は、すでに運送業その他において明らかに見られるのであります。もちろんシャウプ勧告では、この税金取引高税と同じように消費者に転嫁できることを前提としておるようでありますが、これは正常経済の場合においては可能だと思いますけれども、わが国のような変則的な経済下におきましては、転嫁はなかなか容易でない。これだけ原価がかかつたらといつて、ただちにそれを何割かの利益を見て幾らに売るというわけには行かないのでありまして、公定価格すらも割つておるところの製品もあるのであります。従つてこのような企業はその負担しただけが原価以下になつても、これを企業として回收することができません。このような企業はわずかに企業合理化の方法によつてこれを吸收することができればともかく、もはやそのような余地もあまりないように見られますので、結局新たなる企業の負担として、これが経営に重圧を加えることにならねばよいがと心配しておるわけでございます。ただ企業に利益があつてもなくてもこれを課税するという論拠は、企業が地方にあるとすれば、その地方自治体の財政上の恩恵を、何らかの形において受けておるという点から見ますれば、その一部を負担することが当然であるというようなことでこれを課するのでありまして、これはわれわれは受益説としばしば言つておるのでありますが、この場合もしもこの税の負担ができなかつたならば、これらの企業は企業から脱落して行くのもやむを得ないという考え方であります。これはまつたく正常経済において優勝劣敗の考え方から理論通りに行われるときにおいてこそ、あるいは正当でありましようけれども、わが国の赤字企業、一日に言えばそれは多く基礎産業である重要産業であり、大きな会社が多いのであります。これらは自己の責めに帰せられないよう理由によつて、赤字に悩んでおるような事情でありますので、このような厳格な考え方を適用するということは、はなはだしく企業を危機に追い込むのではないかという感が強いのであります。しばしば問題になつておりますように、こうしたこの附加価値税課税標準の把握の方法については、非常に複雑な形がとられている。これには二つ方法があるのでありまして、一つは要綱で定めておりますような差引計算の方式であります。これを簡單に具体的に申し上げますならば、総売上げ收入から買いました固定設備の購入代金を引きさらに他の企業から買いました材料費、その他電力代あるいは地方自治委員会で定めるところのいろいろの費用を引くのであります。その残りをもつて附加価値と定めるのであります。しかしこれらのうち特に強く指摘いたしたいのは、最初の固定設備を賢い入れた購入代金を差引くということであります。これがこの差引計算を特に強く主張する理由にもなつておりますが、これは普通の企業が固定資産を買いました場合においては資産勘定に上つて損費にはならぬ。それをここで一時に償却を認めるという意味でこれを差引いてしまうのであります。かようれいたしますれば、毎期々々続いて大きな拡張計画を持つたり、あるいは新設工事をもくろんでおるような企業は、ほとんど附加価値税を犬部分これによつて差引かれまして、むしろ赤字附加価値が五箇年間も後期へ繰越されて行くとするならば、それらの附加価値を拂う必要のない部分が大分出て参ります。しかしこれは私どもから見まして、非常にむずかしい問題だと思います。というのは、このよう資産を毎期々々獲得して行けるような企業、というものは非常に優秀な企業、また金融力のある企業であると考えなければなりません。かりに機械を改良しよう、あるいは新しい機械を買おうと思つても金がない、あるいは赤字で悩んでいるというものは、これらの購入ということは不可能であります。従つて優秀企業においてはこれらの恩典は適用できるでありましようけれども、赤字企業にとつてはこれはまつたく何らの恩典にはならない。しかも絶対額がきまつている附加価但税のうち、大きな企業がこれによつての、かれるとするならばそのはね、返りをもその赤字企業がさらに負担しなければならぬという点も、これは大きな過重負担になると思うのであります。特にこの問題について指摘申し上げたいのは、この総收入から何々を引けと簡單に言われますけれども、この総売上げ收入は国税ような強力な徴税機構を持つておるものでも、完全に捕捉できないのであります。もしもそれを完全に捕捉していたとするならば、取引高税の脱税はないはずであります。しかし取引高税においても、更正決定なりあるいはしばしばこれが通暁をしれていることを発見するということは、国税の力をもつてしても、総売上げ收入の捕捉していた容易でないということを考えなければならない。しかるに先ほど申し上げた通り地方自治体のような弱体な徴税機構をもつて、これらの総売上げ收入はもちろんのこと、その購入した材料その他の複雑な経理機構のものを完全に捕捉し得るやいなや。これは非常に疑問でありまして、その結果は負担の公平を欠くのではないかという感じが強いのであります。しかもこの固定資産の購入額を差引くということは簡單なようでありますが、各企業とも来期どれだけのものを買うかということは、普通の生産にリンクしているとか――売上げというものには長い統計がありますが、こういう偶発的なものを差引くということになりますと、この附加価値なるものの予想が非常に困難であります。従つて現在自治庁において、今二十五年度においては二千四百億円の固定資産の購入があるだろうということを、初めは考えていたのでありますけれども、だんだん研究の結果、ほとんどこれが半分すなわち千二百億円となるであろうから、差引きは少くなるから、税率を改正してもよかろうということまで主張しているくらい、これらの予想はまつたく腰だめ式でありまして、これらの点は大いにわれわれとして考えさせられるのであります。むしろこの場合におきましては、われわれが主張しているように、この所得と支拂い給與額と利子と支拂い賃借料を加える方式、いわゆる加算方式に従つた方がはるかによろしい。これは国税においてすでに検討済みのものをここへ加えればよろしい。それな官ば地方自治体としては何らの問題はないではないか。ただこれを独立税として考える場合、一部課税標準について、国税の力に依存するということは、どうかという問題があると思います。しかし私は独立税の本質は財政上の独立であつて、その課税標準として国税で定めたものを適用しても、何ら独立税としての根本は侵害されない、矛盾もないと思うのであります。と申しますのは、住民税の場合におきましても、これは前年度の所得額といえば、やはり国税においても所得顔を使つているのでありますから、同じことだと思うのであります。ともかくこのようにして理想的な線を行くということは、決して悪くはないのであります。しかしこのような徴税機構は急には拡充されないし、しかもその捕捉率も自信がないとすれば、シャゥプ勧告案も必ずしもすぐとそれを実行するのではなく、実情に照し合せで漸進的にこれを行つて行くことを考えるならば、附加価値税などはむしろこの際一箇年くらい延ばしたらどうかという意見が一部に強かつたのも、当然だと考えられるのであります。税率につきましても四%と言つておりますけれども、これは当然これ以下に引下ぐべきでありまして、それに先ほど申し上げました附加価値なるものの統計資料もはなはだ乏しいのでありますから、この点十分と御審議を願いたいと思います。  固定資産税については、税率の問題もさることながら、しばしば言われている通り一千倍が交渉によつて九百倍になりましたか、これは当然八百倍以下に引下ぐべきであるということは、一般の輿論であるばかりでなく、われわれも確信する次第であります。特にこの固定資産税は企業にとつて特別な重圧となるが、徴税の予想額も各企業にとりまして予想以上に多いのでありますから、その点この課税標準の定め方についても混乱があるばかりでなく、この倍率について特にこれは軽減すると同時に、この税率についても一・七五%をさらに一五%に引下げるように考えていただきたいと思います。  以上地方税を終りまして、結論として一言申し上げれば、国税はどうにかこうにか軽減がはかられておりますが、地方税については附加価値税、固定資産税という他に転嫁のできない税でありますので、赤字企業には非常に過重な負担である。それからまた労務費を多く使つているような、それから固定資産を非常に多く持つているような大企業の負担も、また大きいということも考えていただきたい。そうして徴税機構が弱体であるということからいたしまして、このように新しい税であるために、技術的にも何らかの非常に困難が予想されるのでありますから、課税について円滑なる運用ができるように、すべての点を考慮されることを希望いたします。  はなはだ簡單でありますけれども、時間が参りましたので、この辺で終りたいと思います。
  49. 川野芳滿

    川野委員長 ただいまの金子佐一郎君の公述に対して、御質疑があればこの際許します。
  50. 河田賢治

    ○河田委員 ただいまの公述人のお話では、今度の特に地方税に属する固定資産税あるいは附加価値税、こういうものによつて企業の経営がますます困難になるというお話だつたのでありますが、同時に今日の日本の産業の状態では、企業合理化も大体いわば底をついている。しかしながら企業としてはどうしても利益を得なければならぬとすれば、結局今日の労働者の賃金を切り下げる以外にはない。もちろん独占的な企業では消費者にこれは転嫁できますが、そうでないものば購買力がなければ製品の価格を上げるわけに行かぬと思う。従つてどうしてもここで利益をあげようとすれば、労働者の賃金を減らす以外には資本家の諸君としては手がないと思いますし、また今日資産荷評価を前にしてあちらこちらで労賃の切下げなんかも起つておりますが、こういう点について公述人の方の御意見を一応伺いたいと思います。
  51. 金子佐一郎

    ○金子公述人 ただいま御質問のように、赤字企業でありてこの税をかけられますれば、結局合理化以外にはない。ところが企業の合理化は昨年以来いろいろ各企業とも苦心をしてやつておりますので、これがやはり今御指摘のように、できることならば各企業ともおそらく賃金の引下げとか、あるいは人員の整理とかいう方向に向うでありましようけれども、これも私としてはなかなか容易ではないと思うのでございます。現在の不況の時代においてかえつて人員整理などは摩擦を起し、簡單には行かない。そうすればやはりその企業として非常な重圧になつて、この徴税の問題については非常に苦しむのではないか。それ以外には考えられない。おつしやる通りもしも可能ならば、いわゆる賃金の引下げとかあるいは人員整理というところに行く可能性は多分にある。しかしなかなかそれが困難だといたしますと、結局は企業の負担として、企業自体がそれによつて過重な負担のもとに悩むという以外に考えられない。これがわれわれが非常に悪税であるということを考える理由であります。
  52. 河田賢治

    ○河田委員 もう一点お尋ねいたしますが、これは先日大蔵委員会におきましても、大蔵大臣が――まだはつきりした内容はきまつていないので、提案されていないのでありますが、政府方針といたしましては、外国資本家あるいは資本、またこの資本について来る技術者、こういう人々に対して特に外資導入を歓迎する意味において、日本の産業人よりもはるかに軽い税金をとる、あるいは免税するということが一応考えられているようであります。こういうことにつきまして現在日本の産業界を担当しておられる公述人方の立場から、こういう問題についてどういうふうにお考えになるか。一応この点をお聞きしたいと思います。
  53. 金子佐一郎

    ○金子公述人 私どもといたしまして結局日本的に考えた場合には、少くともこの問題は外資導入そのものが、日本の企業全体にどれだけの有利な影響を與えるかどうかという一つの問題であります。もしも競争的な企業であつて、日本の企業がそれがために非常に大きな影響をこうむつて、場合によつては市場から脱落するというような問題が起りますれば、政治的に私は考慮しなければならぬと居う。これはやはりあくまでも日本企業の保護という点を考えなければいけないと思うのでございます。外資導入という程度は日本の産業なり企業なりを有利にして、それを助成する意味において行うということが根本でなければならない。日本の企業をそれによつてつぶしてしまう、ひいては日本の経済界の少くとも再建を妨げるというようなことになれば、私は逆な意味なつて来るので、いけないことだと思うのであります。
  54. 田中織之進

    ○田中(織)委員 金子さんに二点ほどお伺いしたいと思うのでありますが、先ほどの公述を承つておりますと、特に地方税の問題につきましては、附加価値税あるいは固定資産税ともにこれは課税標準等が明確でない関係から、勢い予定以上の増收というような形が現われるのではないが、かように申されておるのでありますが、われわれもそのように見るのであります。そこで政府は今回の二十五年度の予算の編成にあたりましては、国税の面において約九百億の減税をした。地方税は逆に約四百億の増徴になるが、それでも国民全体としては五百億ばかり前年度に比べれば減税になると、かように説明されておるのでありますが、われわれは附価価値税なりあるいは固定資産税については、公述人の金子さんと同じような心配を持つ建前から、地方税政府の予定以上に増徴せられる結果になつて、差引すると政府が大声で宣伝をしている二十五年度における減税というのは、どうやらそういう宣伝だけで、実際には減税されない結果になるのではないかと思うのであります。金子さんは租税研究協会にも関係しておられるようでありますが、そういう地方税国税との関係をにらみ合せまして、二十五年度においては、はたして政府が国民に宣伝するよう減税が行われると見られておりますかどうか。この点について御意見を聞かしていただきたいと思うのであります。
  55. 金子佐一郎

    ○金子公述人 ただいま御質問がありましたように、総体的に見ますれば、これは理論的には簡單に言えると思います。この国税において、御指摘のように九百億減税になり地方税で四百億増税になれは、差引五百億減税になるということは言えるのであります。しかし私はこの地方税なるものがなかなか国税とリンクがうまく行つてない。国税は大体において支拂い能力があるところに税金がかかつて来る。従つてこれらの点が地方税でも同じように、課税標準をもつていえば考えられるのであります。ところが地方税は全然支拂い能力とか裸視負担ということには関係なしに利益があろうとなかろうと、所得があろうとなかろうとこれにかけて来る。従つてその課税亘担の基準が違う。従つてある企業などは国税では減税になるけれども、地方税で逆に大きく増税になるといつて嘆いている企業もあります。それから中小企業以下でもつて、固定資産もあまり持たず、労務費もあまり拂つていないところは、案外両方とも減税になるような形でもつて、減税の利益を享受しているというところもなきにしもあらずであります。しかし総括的にいえば、大体が国税でもつて減税なつ部分が、地方税によつてほとんど相殺され、もしくは相殺される以上になるものがあるということは言えるのであります。この点は各企業によつて実情が非常に違うのであります。これは課税標準がまつた地方税とは違うからであるということを申し上げてよろしいのではないか。それから非常に過重負担になるところがある。しかし案外地方税増税を引きましても、幾分なりとも減税の恩典に浴せるというようなところもあるのであります。ですから各企業の実情によつてこれが違うことは、課税標準がまつたく違うからだということをお答えいたしたいと思います。
  56. 川野芳滿

    川野委員長 簡單に願います。
  57. 田中織之進

    ○田中(織)委員 なお金子さんにお伺いしたいのでありますが、先ほど地方税では特に附加価値税あるいは固定資産税というようなものは、これは転嫁税でない関係から勢い企業を圧迫するという関係になる、かように申されたように私拝承したのでありますが、私の見るところでは、たとえば附加価値税の問題で労賃部分に対する課税といよう関係が、先ほど共産党の河田委員からの質問にもありましたように、労働者の賃下げなりあるいは首切りというような形においてこれは転嫁される。さらに消費者の面にも転嫁されることは私は必至だと見るのであります。固定資産税の関係におきましても勢いやはり地代あるいは家賃、こういうものに対する転嫁は必然的、だかようにわれわれは見るのでありますが、そういう観点から申しまして、私らもこの附加価値税あるいは固定資産税といものは、企業という建前よりも一般の労働者なりあるいは消費者という建前からも、この点については反対をしなければならない税金ではないかと考えておるのであります。公述人も大体われわれと同じ見解のようでありますが、これにかわるところの税金について、公述人の金子さんが租税研究協会においてお考えになられたことがありますかどうか。この点についてお答えを願いたいと思います。  ついででございますから、もう一点お伺いをするのでありますが、それは国税の面において今度五百万円以上については、所得税補完税としての富裕税を課することに相なつておるのでございますが、総額にいたしまして富裕税は二十四億という微々たる額でございます。われわれはこれにつきましてはもう少し累進率を高めまして、やはりこの面からの税收を確保しなければならないと考えておるのでありますが、この点に対しまする公述人の御見解、並びに今度は政府の方で所得税の最高限度五五%というのを、三十万円から五十万円まで引上げられたのでありますが、われわれはこれをさらに百万円程度まで引上げることによつて、私の社会党の計算によりますと約二百億の増收が得られる、こういう計算を持つておるのでありますが、この点に対する公述人の御見解、並びに富裕税を五百万円と押えた関係から、五十万円以上五百万円までの間がただ五五%の所得税だけで済むというよう関係から見ましてこの間にやはり一つのブランク状態が出て来るのであります。これは何とかうまく累準率の適用によつて捕捉する方法がないだろうかということを、われわれは考えておるのでありますが、金子さんはこういう点についてお考えになられたことがございますれば、どうした方法があるだろうかということについて、お答えを願えれば幸いだと思います。
  58. 金子佐一郎

    ○金子公述人 時間もないようですから要点だけ申し上げておきます。先ほど御指摘の転嫁の問題、附加価値税が転嫁税であるかどうかということについては、私は転嫁ができるもきないということは、まつたくこれは経済界そのものが常態であるとすれば、附加価値税の転嫁は可能だと思います。そうすればこれは取引高税よりも――その課税標準はまだ研究の余地がございますが、考え方としては取引高税よりいいというわけであります。それは私もそう考えております。要するに今附加価値税を適用するということは、あくまでも転嫁が困難のよう日本の変則経済だからということで、附加価値税そのものがそれだから悪いと言い切るまでには、まだ研究をしなければならないと思います。従つて今のような変則経済において担税力とにらみ合さないよう課税標準はやめた方がいい。結局所得にリンクしたような担税力を伴つた税制を考えなければならないということが、今の第一のお答えだと思います。  それから第二の問題として富裕税の問題、これをもつと強くかけたらどうかと言うけれども、私はこの富裕税の問題はあくまでも財産税的なものである。このよう相続税その他も非常に税率も高いのでありますから、財産税的のものをそう強くかけるということになりますと、これを支拂うという面についてもまた大きな問題が起つて来るのではないか。この点は私どもといたしましてそう強くこれをかけることについては、その税の性格から言つて考えなければならないのではないか。それから五五%を五十万円にとどめたというような問題も、これはむしろ私は現在の状態では百万円ぐらいまで五五%を適用して、そうしてそれまでの間に幾らかカーブをゆるめて行かなければならないのではないかと考えております。というのは大体所得の五五%を所得税にとられてしまいますと、それに住民税がかかつて参りますし、それから家を持つておればそれに今度の固定資産税等かかかつて参りますので、これらを合せますとその人の收入のうちまず六〇%から六五%ぐらいとられてしまうのであります。それをそれ以上強くするということは、結局勤労者では勤労意欲がなくなる。働く者なら働く意欲がなくなつてしまう。そこでむりやりに税をかければ結局脱税その他が考えられる。われわれが税率を高くすれば必ず税金がよけい入るという考え方は絶対間違つておる。その辺の呼吸というものはむずかしい。そこを適当に調節しなければならぬ。今のお話の五五%はあくまで百万円から五百万円までで、それ以上にスライドすることは強過ぎるとしうふうに私は考えております。これは私一個の考えでありますが、大体そういうことであります。
  59. 西村直己

    ○西村(直)委員 公述人があとお控えになつておりますから、一点だけ簡單に伺います。租税研究協会でこの付加価値税の問題は相当議論されたように私は思います。その際に地方税として一番大きい問題になりましたのは附加価値税と固定資産税、これははつきりしておるかと思いますが、特に中小商工業の方は附加価値税は今度従来よりも非常に楽になる。これももちろんだと思います。問題は基礎産業ないしはマル公の産業というような、ある程度価格を押えられがちな大きい産業、それから労務を非常に使つておられる産業においては、附加価値税は非常に問題になつて来る。ところでシャウプ勧告で大体一応の計算をして、この当時財務当局が御計算なつ数字から言うと、事業税の従来の五百億円と取引高税の従来の五百億円これで千億円となります、それの見合いとしてただ四百四十億円の新しい附加価値税が生れた、こういう説明だと思いますが、この議論は納得されるかどうかという点が一つ。  それからいま一つは、さらにこの議論をわけて参りまして大体税率の問題が起つて来る。附加価値税に対する四%という税率の問題、これが高い低いの問題が今非常に折衝になつておると思いますが、この四%程度の税率の場合に、全体の総收入を一〇〇%にした場合に、現在は事業税として百分の一八という計算なつておる。それに対して取引高税が一%加わる。そうすると大体二・八%という数字が出て来る。ところか新しい附加価値税の場合におきましては、差引くものを引くと大体百に対する七十、つまり七〇%、それに対して百分の四であるから二・八、そうすると大体とんとんじやないか、こういう財務当局の御説明かあつたと思うのであります。これに対して当時御討議がなかつたようでありますが、公述人の御意見を聞かしていただきたい。
  60. 金子佐一郎

    ○金子公述人 その問題につきましては、やはり非常にむずかしい問題だと思うのであります。というのはこの取引高税と事業税がなくなつて、従つてその総額を押えてみますると、この附加価値税があまり問題にならないのじやないかということは私も聞きました。おつしやる通りであります。けれどもこの問題をただ税率の関係や総額負担の問題で片づけることはちよつとむずかしいというのは、先ほどからお話がございましたように、この附加価値税なるものは、利益があろうとなかろうと、つまり早く言えば支拂い能力があろうとなかろうと、これをかけて行くというところに問題がありまして、取引高税取引高税法で一%ということで、確かに企業の負担なりあるいは転嫁なりできたのは、同じよう附加価値税につきましても言えると思います。けれども事業税はほんとうに利益があつたものだけにかかつて参りますので、この点はただいまの附加価値税や税率の問題でできないのであります。従つて附加価値税で問題になつているのは、利益がなくて、ただ労務費がよけいかかつているということだけで、附加価値税をよけい強く負担するというために、附加価値税の混乱が起つて来る。つまり前と同じよう課税基準でもつて、この附加価値税の総額が割当てられるといたしますならば、確かに取引高税が廃止され事業税が廃止されまして、その総額において大差がないと私は思う。ところが負担内容課税基準がまつたく違うためにこの附加価値税の大部分が、ある大きなとどろにごそつと行つてしまつて、これは前に比べて非常に過重負担なつている。ところが前に負担したところはその割合附加価値税が流れて行かないというような、負担の不均衡から来る問題が非常にこの問題を左右するわけであります。
  61. 川野芳滿

    川野委員長 ここは国税の審議中ですから、地方税は後日にひとつお願いいたしたいと思います。
  62. 金子佐一郎

    ○金子公述人 それでは時間も参りましたので御質問があればまたいずれ……
  63. 川野芳滿

    川野委員長 次は品川税務署直税課長森蔵之助君の公述をお願いすることにいたします。森蔵之助君。
  64. 森藏之助

    ○森公述人 私は税務行政の一端におります公務員でありまして、公務員の立場から今次の税制改革案につきまして、二、三意見を述べたいと思います。まず第一に、税制の改革に伴いましてこれを実施した場合におきまして、税務行政の運営の問題について、三、三意見を述べたいと思つております。なるほど今度の税制改革案は、非常に徹底的に合理化されたものであることは事実であります。今まで税制の実施面におきまして、相当一般国民と摩擦がありまた相当抵抗があつたのであります。これは今まで国民がひとしくそのことについて認識しておると思います。その大半の原因は従来の税制の欠陷にあると思います。もちろんその反面、税務職員の個人の行動の面、あるいはそれに対する監督の不行届の面、なお税務行政運営の面というものもあります。今次のこの税制改革を見ますれば、これほど合理化されておりますれば、この税制面から来るそういう国民との摩擦は、相当緩和されるものと信じております。しかしながら税制の改革案は相当高度のものでありまして、しかも完全にこれを実施しなければ、この税制の理想とする結果は得られないのであります。従いまして内容を見ましても、税法自身が複雑でありまして、なかなかしろうとには了解に苦しむ点も相当あるのであります。これは徹底的な合理化という面から見ましても、またやむを得ない面があると思います。特に税務行政の運営面におきましては、相当事務量が増大したことと非常に複雑になつたことであります。今まででさえ相当事務量が多くて仕事に追われるというような現況からしまして、この税制を完全に実行する場合に、現在の税務の機構なり陣容をもつてしては、ほんとうにその税制をこなし切れるかどうか。私たちその画に当る者としましていささか不安にたえないのであります。すなわち改革案によりますれば、税制が相当に複雑な手続がいるようなつております。たとえば変動所得平均課税の問題、その他特別控除の問題、利子配当所得の従来源泉でやつておつたものが廃止になりまして、それが総合課税になること、それらに基く資料の收集、整理、活用、また所得の調査面におきましても、納税場面の有利な面についても、とくと一つ一つその一件々々について調査し確認しなければ、とかく申告納税におきましては、やはり人情としまして自己に有利なものについてはなるべく過大に評価し、また自己に不利な点については過小に評価するというのが人情であります。そういう面におきまして、税務行政の実施面においては相当徹底した調査が必要であります。しかもそれは科学的に調査しなければならぬというようシャウプ勧告の要求によりまして、従来とは一変した税務行政の執行をしなければならぬと思います。かかる事情から見まして、この新しい税制をこなすには、徹底した税務行政の事務組織上の合理化というものが絶対必要であると思います。従いましてこの税制を実行する場合には、委員の方におかれましても、特に行政面の事務組織上の合理化を徹底していただきたいと思つております。私案でございますが、たとえば従来内部事務については、徴收面において相当増大しておりましたが、賦課面においては、さほどの事務がなかつたのでありますが、内部事務の増大と複雑化が先ほど言いました事務等によりまして、相当増大したのであります。しかしながらこれはよく分析しますれば、非常に部門別に分類できるのであります。その分類できるところから見まして、相当分業制度が確立できるのじやないかと思つております。とにかく今までは分業制度というものが確立しておらなかつたのであります。その日その日の事務に追われましてそこに相当のロスもあつたのでありますが、こういうように事務が増大し、しかも割にいろいろな面に分類ができます観点から見ますれば、執務の分業態勢と言いますか、そういうものがはつきり確立するのじやないかと思つております。その他帳簿組織の整備とか、用紙の統一、事務施設の改善――施設の改善は税務署においでになつたらよくわかると思います。官庁のうちでも一番施設が悪いと思います。この施設は非常に口では簡單でありますが、事実執務する場合には、ちよつとしたペンがなかつたり、あるいはいすがこわれておつたり、そういうちよつとしたことが重大な能率に影響するのであります。また現在の税務の機構の改正相当考慮していたたきたいと思つております。特に現在総務、直税、間税ということになつておりますが、それを内部事務、外部事務に区分しまして、その上に監理事務を設けましてやりますれば、相当分業化が徹底するのではないかという考えを持つております。  第二は、今度の新税制は收得税を根幹としております。特に所得税がその基本でありまして、日本の現在の社会制度また国民の税習慣なりあるいは生活態様からしまして、この收得税一本ではなかなか十分な所得の捕捉が困難であると思うのであります。それは先はども都留先生が言いましたように、実際の所得と、課税捕捉のできる所得の問題に大きなギャップがあるということであります。それは故意に加減するという意味ではなくて、実際にわれわれが行政の最善を盡しても、なおできない面があるのであります。それはもちろん税務行政の面にもあります。日本の社会制度や生活態様から見まして、納税者の側にあるべき資料かなかつたり、科学的に調査できないという面なり、そこにあるいは勘とかいうものが相当働いておつたとは思いますが、しかし納税者に何も資料がない場合には、そのまま放棄するのはいけないのであります。そこに何らかの調査の方法を講じまして、その所得を捕捉するのであります。そこで私はこういう現状から見まして、なるべく完全に所得を捕捉する手段といたしまして、收得税のほかに消費税的なものを加味したらどうかと思つております。それは私たち現実に行政の実施面におきまして、いろいろ世帯ごとの生活というような面を調査しました場合に、相当課税漏れも出て来るのであります。しかしながらそれがいかなる所得の面から消費されておるかということがはつきりわからないのであります。それは現在の調査の技術からしまして、どうしても表顕的なものから受ける所得というものは、割合に捕捉できるのであります。たとえば長く店舗をもつて、店舗を中心にして商売をやつているものについては、非常に完全に所得が捕捉できるのでありますが、そういう表顕的なものでない隠れたものにつきましては、なかなかそこに所得の捕捉ができないのであります。ましてやこういう経済の変則期に際しましては、一時的な所得、あるいは隠れた所得というものは相当あると思うのであります。実際の技術面において相当苦労するのでありますが、なかなか捕捉が困難であります。そういうものを補完する意味におきまして、各世帶ごとの消費というものを何らかの形で外形標準をとりまして、最低生活費以上の消費をさるべきものについては、しかもそれが直接税において負担がされない場合においては、ある程度の租税を課してはどうかという考えを持つております。これは実際の技術面においても相当むずかしいと思いますが、それでもしなければこのギャップは埋められないと思つております。大体以上であります。非常に簡單でありますが、これで終ります。
  65. 川野芳滿

    川野委員長 御質疑があるかとも存じますが、あと公述人が二人おりますので、二人の公述人公述が終りました後に質疑を許したいと思います。  それでは、次は納税者新聞主筆、元全国財務労組の副委員長徳島米三郎君にお願いいたします。
  66. 徳島米三郎

    ○徳島公述人 午前中から各公述人の方よりいろいろな方面をつかまえてかわつた意見の開陳がありまして、私の用意しておりました公述内容の中に、重複する点がたくさん出て参りましたので、一応そういう観点を離れて、全然別な観点から公述を進めてみたいと思います。  今度の税制改革案シャウプ勧告に基いてつくられたものであろということは、もう論ずるまでもないことであります。このシャウプ勧告に基いてこういう税制ができたという問題を論ずるにあたつて、われわれの思い起すことは、昭和二十二年にやはり当時の総司令部の方の御指導によりまして、初めて所得税予算課税に基くところの申告納税制度というものができました。この制度ができましたときに、実際税金問題について関心を持つておる人々の意見はどうであつたかと申しますと、当時の大蔵省の主税局の責任の地位にある方々、そういう人たちは大体はこれに対して反対をしておつたのであります。この委員会におられます前尾委員も、当時私が意見を聞いたときには大体反対のようた意向でありました。にもかかわらず、この予算課税に基くところの申告納税制度というものが実施されて、その結果非常に大きな問題を起しておる。税務署員も困るし、納税者もめちやくちやな更正決定で非常な迷惑をこうむつておる。この問題につきましては、今度のシャウプ勧告においても指摘されておるように、これが現在の日本所得税制度における最も大きな欠点となろうとしておることであります。納税者は税務官吏を信用しないし、税務官吏は納税者を信出しない。そしてどちらもお互いに責任のなすり合いをしておる。こういう現状を打開するためにシャウプ使節団は、所得税に対して非常に綿密な勧告をなされております。しかしながらはたしてこの勧告よつて、われわれが今日起つておるところの所得税の問題を解決できるかといえば、私は遺憾ながらほとんどこれは解決できないと判断せざるを得ないのであります。と申しますのは、今日所得税において最も問題になつております点は、中小商工業者に対する主として少額所得に対する税金の問題であります。この点について一番根本的な問題は、基礎控除が低過ぎるということであります。これはもの各委員の方々にも御異見のないところではないかと思います。この点につきましてもシャウプ勧告では、一応はこの基礎擦除の低過ぎるということを認めておるようであります。そうしてこれが今日の日本における所得税制度の根本的な悪い点、つまり税務官吏も納税者もお互いに信用しないで、無責任なことをやつておる。これを打開する一つのかぎは、基礎控除を引上げることであるというふうに指摘しております。どころがまた他のページをくつて見ますと、この基礎控除については商過ぎもしないし、低過ぎるということも言えない。アメリカの労働者の賃金、アメリカの現在の所得税基礎控除と比較してみると、大体平均的な労働者の二箇月分に相当するものが基礎擦除になつておる。日本の場合では一万五千円というのは、大体平均的な労働者の月給を一万円とみて一月半分に当るから、大した差がない。だから一万五千円はあまり低過ぎもしなければ高いこともない。こういう意見が出ております。両方を並べてみますと、一応矛盾しておるようでありますが、そういうふうにシャウプ博士の診断はまことに適切なところを突いております。しかもそれに対する処方箋もうひとつわれわれとしては適切でないような感じがいたします。その最も具体的な現われとしては、シャウプ勧告の中で特に力を入れておりますところの青色申告の問題が、現在日本納税者にどういうふうに見られているか、その結果を一つ見ただけでもはつきりするのではないかと思います。青色申告の申告の状況というのは、すでに新聞にも出ておりますように、平均すると大体五%か六%、成績のいい税務署で大体一割くらい出ておる。法人ように必ず決算報告書を出さなければならないよう納税者でも成績のいいところで五割くらいしか申告していないというふうな状況であります。この点につきましても、私税務官吏の組合を退きまして、税金新聞を始めていろいろ納税者の方に接触をして参つておりますので、どういうわけで納税者が青色申告をしないかという点についていろいろと聞いております。まず第一に指摘いたしますのは、現在でも税金は高い。しかも現在の高い税金でも理論的に税務官吏から説明されると、なるほどと思う。むしろ自分の正直な所得額よりも低い場合が多い。しかもそれでもやつて行けないのに、これを全部はき出したときにどうなるか心配でたまらない。これが一番多い答弁であります。それから次の問題は、やはり税務官吏は信用をしないのではないかというふうな心配もありますけれども、これは大体法律できめられることであり、こういう問題はあまり問題にならないのであつて結局は青色申告で納税者が裸になつたときに、はたしてこれでやつて行けるという自信を與えられるかどうかということがこの問題のかぎであります。この点につきましては、国税庁が監修をしております税のしるべという新聞にも、これと同じよう意見がはつきり出ておりまして、なぜ青色申告をしないかということに対する東京の新宿の洋服屋さんの意見が出ております。これによりますと、税法通り納税しては生活ができないことはあまりに明瞭である。私の店は三十万円以下の口であるから、青色申告をしないで従来通り税務署に適当にきめてもらう方がいい。青色申告をすれば正しいことを前提としなくてはならない。正しくすれば生活はできないし、正しくあるべきものを偽るのは自分の良心が許さない。だから生きるために青色申告などは出せないし、そんなことをして税務署へも迷惑をかけたくない。こういうふうにこの洋服店の主人は告白しておるわけであります。この悩みは良心的な税務官吏であれば、だれもが持つている問題であろうと思います。だから青色申告をしておる者でも、実はわれわれの新聞の方へもいろいろ相談に見えて、青色申告を出したいが、しかし全部出したら生活できないから、何割引ぐらいが適当かという相談がよくあります。     〔委員長退席、小山委員長代理着席〕  つまり七割にするとか八割にするとか、大体税務署の認めるような標準で帳面をつけたいから、教えてもらいたいというような質問もよくあります。これを見てもはつきりわかるように、結局現在の生活というものと税法というものがうまく一致しなければ、決して理想的な税法というものも実行されないわけであります。このシャゥプ勧告に対して国民が期待しておるところの減税というものも、ただいま政府案として出ております程度では、あまりわれわれの生活の助けにはならない。政府資料によりますと、非常に減税になるよう計算も出ております。しかしながら十万円の営業者が、現行税法に比べて今度の政府案ではどれくらい減税になるかという比較は、現在の政府のやり方ではほとんど意味がないのであります。と申しますのは、現在政府はそういうふうな観点から税金をかけていない。大部分納税者に対しましては、やはり一定の予算に基いたところの各税務署ごとの徴收見積額というものを出さして、そうしてそれを適当に予算に合うように作成し、それをもとにして税務行政というものをやらしておるのであります。これにつきましてはいろいろ政府の方でも言い分はありましようけれども、現実的にそういうやり方をやつている以上は、税法通り課税すればこうなるということが理論的に出て参りましても、現実に納税者の頭にかかつて来る税金は、それでは説明できないわけであります。現在政府はそういうふうに、一方では税法面ではこういうふうに減税になる。農業所得の場合には、三分の一くらい減税になるというふうに言つておりますけれども、片一方では所得は増加する、税務署の見込む所得は増加するから、税收の面ではその減税にならないということを言つております。この点につきましていろいろ問題があると思います。政府がどういうふうな見通しのもとに、現在のこの個人事業所得が増加するという見積りを立てているか。これについても問題があります。先ほどの国会において平田主税局長は、農林水産業関係においては一六%昨年度よりも所得増の見積りをしておる。営業関係においては二〇%増の見積りをしておる。こういうふうに答弁しておるように新聞で拝見いたしました。ところが政府発表しております国民所得の面から見ますると、農林水産業関係国民所得は〇八%の増になつております。それから営業関係におきましては一二・二%の増しか計上されておりません。従つて政府が農林水産業関係において、一六%の所得増と見、営業関係において二〇%の所得増と見た点について政府の方に資料はあります。物価の騰貴歩合、生産の増加歩合というようなものが出ておりますけれども、しかしながらこの問題についても、国民所得計算とどういうわけで違うかという点についても問題がありますし、またさらにこういうひとつの見積り、はたしてこれを基準にして今までのような税務行政をやることが正しいかどうかということも、非常に大きな問題になつて参ります。それから政府は、こういうふうに一応予算を組んで、これから新しい税制で税務行政をやるわけでありますけれども、そのときにも問題になりますのは、一体政府はこの宵色申告制度に対して、どのような熱意を持つておるか。これは先ほどから公述人の方からも御意見がありましたが、大体政府は熱を持つていないようであります。これは納税者方々がすぐにぴんと来ることでありまして、われわれはそういうふうな納税者と接触する機会を非常にたくさん持つようになりましたので、よくいろいろわかりますが、それによりますと、どうも税務署はあんまり青色申告をしてもらつては困るのではないかというふうな納税者の声もあります。税務署へ行つて聞くと、あまり宵色申告をよけい出し過ぎると、税務署の手が足りなくて実際それは処理しきれないから困るのだ。こういうふうな感じを持つている税務官吏もあるがどうですかと言つて、私どもの方に聞きに来る人もあります。こういうふうな感じを抱かせるほど現在の税務官庁は、この青色申告納税制度については熱を持つておらないということは事実であります。従つて現在非常に大きな変革を行いますこの所得税におきましては、シャウプ勧告では現在の税務行政が充実し徴税機構が拡充強化され、そして納税者の協力を得られる見通しがなければ、こういうふうな所得税制度も実施できないだろうということを報告書に言つております。しかも今までの進行状況は、大体形だけの勧告が今から実施されようとしておるわけであります。この点につきましても御研究、御討議を願いたいと思うわけであります。  それからその次の問題は、今回のシャウプ勧告による税制体系というものが、国税におきましては大体所得税中心とするようにできておる。と申しますのは法人税におきましても、法人税に対する考え方をころつとかえまして、これは所得の先取りである、こういうふうな考え方を取入れております。従つて直接税全体が所得税におぶさつているというふうな体系であります。この考え方がいいかどうかという点につきましては、井藤先生からも御意見がありましたけれども、私もこれについては反対であります。と申しますのは、一つは理論的な問題と、もう一つは税務行政上の問題から言つてこれのしりがやはり力の弱いものにかぶさつて来るというおそれがあります。  まだ第一の理論的な問題からいたしますと、現在法人に対する考え方は、現行では一つの独立の企業体として一つの独立の人格を認めてこれに課税するという式であります。ところが勧告ではそうではなくて、法人というものは事業を遂行するために集まつた個人の集合体である。従つてこれに対する課税は、あくまでもその集合した個人に分解して課税すべきであるという見解をとつておるようであります。この点は、会社というものをいろいろ研究してみると、いろいろ性質の会社があります。なるほどこのシャゥプ勧告にもありますように、事業を遂行するために資本を出し、いろいろな意味で強力なほんとうの意味の事業協同体もあります。この一番いい例は企業協同組合あるいは有限会社の中の企業合同によつてできたもの、こういうものはその通りであります。それから次には、脱税を目的とした同族会社があります。これも御承知の通りであります。それからその次には、そういう立場を全然離れて、一つの巨大な勢力があつて、その周囲にただ軍にその配当を日当にして資本を出して行くところの大きな独占資本、こういうような三種類の会社があるのではないかと考えます。これに対して一律に同じような観点からながめるということはどうであろうか。理論的にこういうふうに考えます。と申しますのは、このうちで特に問題になるのは、今後の税負担の上で一番能力のあるこういう独占資本に対する課税が、これで抜けてしまうわけであります。なるほどこういう独占資本においても、結局はその所得というものは理論的には、あるいは法律的には株主に分配されるわけであります。しかしながら現在のその大きな会社の運覚をながめてみると、決して会社の利益はそのまま株主に返るものではありません。また株主もそういうことを目当にはしていない。ただ單に現在、ほかに貸家に投資するとか、あるいは金貸しをするとか、そういうものと比べて株に投資したらどうかというふうな計算で投資しているにすぎない。あるいはこの株の大衆化ということは、広く考えると大衆の資金を集めて、こういう一つの大きな企業体が別個の一つの独立した立場で、巨大な利潤をあげて行というふうな性質を持つているわけであります。従つてそういうこの大きな会社の支配権を握つておるものと、小さな大衆の持つている株式というものの作用は全然性質が違いましてこれを一律に見ようとするところに大きな矛盾があります。そうしてこの矛盾は、さらに税務行政上におきましてもいろいろ困難な問題を惹起いたします。こういう一つの大きな企業になりますと、それだけで大きな信用があります。従つてこの前も問題になりました三菱化成の九億円の脱税問題にいたしましても、あれが非常に早い期間に完納されたということが新聞にも報道されておりますように、こういう大きい会社になりますと、巨大な信用をもちまして税金を容易に支拂うだけの能力を持つております。つまり税務行政上から言つて、これらは非常に容易に税金がとれるわけであります。ところがこれを株主に分解して、はたして九億円の税金がとれるかと言うと決してとれない。だからこういうふうに会社を個人に分解するということは、税金をとれなくすることであります。従つてそういうふうなとれない税金はどこへ来るかといえば、結局力の弱いものにかかつて来ると言わざるを得ないのであります。これが今度の法人税に対する考え方の変化、これに対してわれわれの反対する理由であります。  その次の問題といたしましては、シャウプ勧告ではいろいろ網の目のように脱税の抜け道を防ぐよう方法を講じております。たとえて申しますと富裕税という考え方も、税金をとるのが目的でなくして、むしろこれは脱税の穴を防ぐというのが目的でもあるようであります。あるいはまたさらに考えると、これは所得税の最高税率を五五%にした一つの言訳として、こういうものをこしらえたようにも受取れます。この問題については、われわれは富裕税があつても、しかもなお五五%で最高税率を打切つたということについては反対であります。と申しますのは、現在の周額所得というものの性質と、富裕税の対象になるような財産というものとの関連があまりない。つまり富裕税でもつてこの最高税率を打切つたということの補完にはならないというように、われわれは考えおるのであります。現在長者番付その他に現われております高額所得者――どういう性質のものが現在高額所得をあげておるかということを見た場合に、そういう人々に対して、はたして最高税率を打切つて、そのかわりに富裕税でとれるかどうかということが判断つくだろうと思います。従つてわれわれは、こういう最近ここ二、三年現われているような高額所得者に対しては、もつと税率を上げて税金をとるべきが当然であるというふうに考えるのであります。  それからその次の問題は、さきに申しましたように、脱税に対するいろいろな抜け穴を防ぐ方策が今勧告されております。これに対して政府はあまり熱を入れていないようであります。いわばいやいやながら熱を入れておるようなかつこうであります。まず第一には、無記名定期預金の廃止ということが勧告されております。これについて政府は大体みこしをあげまして、九月一ぱいでこれを打切るような対策を講ずるようであります。しかしながらこれはそのほかの脱税の拔け道も同時にやらなければ効果のないことでありまして、これがなされないと、一方でふさいだ穴がそれで阻止できても、そのはけ品が他の口から逃げてしまう、こういう心配あるわけであります。その一つの心配がもうすでに出ております。と申しますのは、有価証券の名義書きかえという問題であります。現在一番大きな脱税の道というのは、一つには無記名定期預金その他の架室名義の預金へ逃げる道と、もう一つは白紙委任状付で株券を持つことによつてうまく脱税してしまう道であります。この点につきましては、先ほど申しました大会社に対する法人税の性格をかえたことの反対意免にも照応いたしますが、現在の株式というものが利潤証券ではなくして財産隠匿証券である、こういうふうな表現が先般産業経済新聞の証券欄にも出ておりました。つまり現在の株主というのは配当なんか目当にせずに、財産隠匿のために株を持つておるのだからこの穴をふさがれるとその株券はたちまち売り拂われて、たんすの中に入つてしまうだろうというふうな意見が出ておりました。これは大体証券業者の立場からものを見ておるのではないかと思いますが、そういうふうに現在の株式というものが財産隠匿証券であるという性格を持つておる。そういう拔け道に対する政府の措置はどうかというと、非常に緩慢でありまして大体今年中にはこれが実施できないような見通しであります。そういたしますと、せつかく片一方の方で無記名預金に対する措置を完了しても、その抜け道をふさがれた脱税の資産が、今度はどこに行くかというと結局株式へ向うかもしれない。こういうおそれが多分にあるわけであります。従つてわれわれとしてはこういうふうな脱税を懲激するような非常に手ぬかりのある措置に対しては、もつとわれわれとして注意を拂う必要がある、こういうふうに考えるわけであります。  そのほかもう一つの問題は、外人に対する課税の問題が、先ほど委員の方から御質問が出ましたが、この問題についても私が一つ思い起すことは、昭和二十三年の一月ころに外人記者クラブへ呼ばれまして、この申告納税制度の点についていろいろ外人記者を相手に討論会がありまして、そのときに現在の池田大蔵大臣と私と、シャベルというGHQの方と三人で討論をいたしましたが、そのあとで、外人記者が日本の税制についてどういう質問をしたかというと、現在日本は独立国でありながら、第三国人その他に対する課税が非常に手ぬるいではないか。町のいろいろな意見を聞くと、同じように商売をしておつても、片一方で税金を拂い片一方で税金を拂わなければ競争にならないという意見があるが、それについて池田さんはどういう考えがあるかというふうな質問がありました。このときに池田さんは、いろいろな事情があつて十分な課税ができないという苦しい答弁をしておりましたけれども、今後やはり外人に対する課税としては、われわれ愼重に考えなければならない問題が出て来るのではないかと考えます。それは同じよう営業をやつておりましても、現在脱税しておりますところは、その脱税による一つの大きな力によつて非常に好成績をあげておる実例があります。これは現実に私どもも非常に痛感しておることでありますけれども、脱税によつて得た預金を担保にしてどんどん支拂いをよくすれば、幾らでも安い下請業者がある。そうやつて非常に大きな利潤をあげておる会社をながめましたがそれと同じような問題がやはり税に対する差別問題について、起つて来るわけではないかというふうな気がいたします。現在のわが国におきましては、特に重要な産業については、重要物産製造事業に対する免税という法律もありまして、特にわが国の産業の大きな事業につきましては、こういう面からの免税手段も残されておるにもかかわらず、外資が半分以上入つた会社については特別の恩典を與えるとか、いろいろな点がありますが、そうすればやはり同じようにやつておれば、税金の面からとうてい太刀打ちができない。正直な会社にハンディキャップを加えるというふうな問題が起つて参ります。現在外人の会社はどういうふうな申告をやつておるかという状態を二、三ながめてみますと、神戸のあるイギリス系の会社におきましては、これはもう合法的にあまり税金のかからないような手段を使つておるような傾向があります。と申しますのは特許使用料とか、その他そういうような名義でどんどん利益金が出て行けば、それだけで税金がかからなくなつてしまう。こういうように今後いろいろわが国の産業全体にとつて、非常に大弐な問題がこの外資導入についてまわると思います。そういう意味からわれわれとしては、もつとわが国全体の将来ということをながめて、愼重にこの問題を討議していただきたいと思います。  それでこの税制全般についての意見として、特にわれわれの気をつけなければならないのは、理論的にどうこうという問題は、この税制の問題についてあまり役に立たない問題であります。やはりこの税制というものは、一つの大きな経済政策に浩つて出て来る問題です。この経済政策全体に対するところの考え方によつてよくもなり、悪くも批判されるわけであります。現在のシヤウプ勧告というものが、一応ドツジ・ラインと呼ばれておるところの政策に沿つて立案されたものであるということは、われわれの想像するところでありますけれども、ドツジ予算が実施されてからわれわれの国民生活がどうなつで来るかということを、われわれ止して検討する必要があると思います。昨年の暮れに関西経済連合会が実施いたしました輿論調査によりますと、これはそこの職員が一々面接して当つたのでありますけれども、それによりますと、昨年の暮れは一昨年の暮れに比べて生活が苦しいと答弁した人々が、公務員の中では大体七七%、職工は八三・五%、これに対して会社の重役では大体一七%であつて、会社軍役の六六%は去年は一昨年よりも楽であつた、こういう答弁をしておる。ここに会社軍役などと公務員あるいは職工というものの生活に及ぼす影響か、はつきりと言われておるように思います。こういうふうに現在のこのドツジ予算によつてわれわれの国民生活というものは大きな変化を遂げつつあるわけであります。従つてわれわれはとれに対する批判としては、どうしてもこういう行き方がよいのかという、もつと大きな観点からながめる必要がとざいます。いろいろ申し上げたいここもございますが、時間もございませんので、一応この辺で終りたいと思います。
  67. 小山長規

    ○小山委員長代理 公述人に対する質側は最後に一括することにいたしまして、寺山三郎公述人公述人に移ります。
  68. 寺山三郎

    ○寺山公述人 時間も大分経過したようでございますので、私はできるだけ簡單に要点だけを申し上げたいと存じます。お断り申し上げておきますことは、私は前の八人さんの公述人と違いまして、学識経験者ではございません。一商業者であり、商業者団体の代表者であり、納税者の立場において、現在の税制改正案についての意見を申し述べてみたいと思うのであります。  まず結論を申し上げますと、税制改正のうち所得税の点で税率の引下げ及び基礎控除、扶養親族控除の引上げ等につきましては一応賛成申し上げます。でありますが、個人のいわゆる事業所得額についての基礎控除につきましては、前公述人の申しましたと同様に、この点については結論的に現在の二万五千円のほかに、勤労所得と同様に一五%の特別控除を認めていただきたい点を、特に力説申し上げたいと思うのであります。この主張の理由は、従来勤労者に比べまして、商業者の所得の実態の把握が困難であるというのでありますが、近来例の青色申告制度の普及及び帳簿記帳の奨励等によりまして、また実際面において、もう毎年確定申告にあたりまして大きな更正決定を加えられた苦い経験からいたしまして、商業者あるいは工業者は真剣に自分らの收入をつけるように今日ではなつておるのであります。そうしなければ自分の商店あるいは事業の経営が成り立たないという立場に追い込まれておるのであります。でありますから所得の把握ということにつきましては、ここ二、三年前の年は税務当局は何らか記録があると思いますから、容易になつておるはずであります。ところで正確でない記帳をやつておきますと、問題になりますのは、第一に仮拙いとして支出しております家事関連費の問題、毎月一万円あるいは一万五千円という商店費の奥の費用として、いわゆる生活費が、年額十五万あるいは二十万円が、青色申告あるいはそれでなくても記帳されておる場合、これが必ず個人所得としての所得税の対象になる。ところが現在この家事関連費をかせぐのに、中小企業者は容易でないのであります。ようやく食つて通る程度の営業をしておるのか大部分なのであります。中小企業者のうち四人以下の使用入を使用しておる商業者あるいは工業者は、全国に約百万ございます。ところが四人でなく、大がいが一人あるいは二人の従業者を使つておりますので、この人たちがようやく店を経営して行くということは、今日では容易でないのであります。ことに生活費以外に余剰金を残して行こうということは、今日のディス・インフレの景気の下向状態になつておるときにおきましては、まず望めないような状態になつております。それで税負担の面から見ますと、かりに年十五万円の月給乞いただいておる勤労者が、一年間に税を負担する率と、われわれ商業者がかりに十五万円の生活費を所得とみなこれて課税される率と比べますと、国税地方税とを合算いたしまして、二十四年度の税率で計算いたしますと、民業所得者の方は実に七万八百六十円も負担しておるのであります。この数字東京都が発行いたしました「納税積立金制度のすすめ」というあのパンフレットにはつきり載つておる数字でございます。かような十五万円の所得者に対して、七万八百六十円を負担させておるということは、勤労者の約十五倍に相当いたします。これでは最低の生活の維持続行すら困難でありふす。いわんや投下しておる資本を毎年食いつぶして行く状態になつております。その結果廃業あるいは没落の一途をたどつておるというのが現状でありまして、町に店じまいの大売出しとか何とか今日ふえておりますのは、その最も大きな現われであるのであります。政府は中小企業の維持育成と声を大にしておられるようでありますが、この税率におきましての所得税納税状態を見ますと、維持育成どころではなく、破滅の方に向けてくださつておるようなものであると思うのであります。そこでこの深刻なる矛盾をのがれるために、営業所得者はどうかして自分の所得をごまかして、少く申告しようという妙な逃げ道を考えておつたのが、従来税務当局とわれわれとの間に年中きつねとたぬきの化かしつこをやつたような結果であります。われわれはもうこういう化かしつこはしたくないのであります。もつと明るい税制をつくつてくだされば、りつばに自分の所得をありのままに申告いたします。そうして喜んで納税したいと思つておるのであります。その意味におきましても、最低生活費は個人の收入の上でむりであるとならば、少くとも二万五十円の基礎控除のほかに、かりに十五万円としますとその一五%の二万二千五百円、合計四万七千五百円の最低生活費の補助を行うに足るだけの額を認めていただくことを、特に力説する次第であります。かようにして国家の予算の許す範囲において、できるだけ最低生活費を補うに足る額を控除していただきますれば、納税者としましてもほんとうに正しい申告、明るい申告、そうして正直者が得をするという明朗な税制をすみやかに確立していただくように、大蔵委員の方にここにお願いする次第であります。  次に意見の第二は扶養家族の問題であります。扶養家族の控除額が従来よりもずつとふえまして、一万二千円になつように示されております。ただこれの取扱い方法が従来は所得税納税額から差引いておりましたが、今度は所得金額から差引くというように技術面において行われるように拝聴しております。これはわれわれ事業者の立場、ことに中小事業者の立場におきますと、実際に運営して行く面において非常に不安を感じておるのであります。たとえば家族相当あつて一万二千円ずつ扶養控除されるというと、税務当局におきましては従来更正決定をする場合に、何らかそこに引くもの、かあるとそれ、だけ水増しにふやしている例があるのであります。現に私などは水害地区でありまして、多くの水害者からもいろいろ意見を聞きましたが、お前のところは決定が少いから、今度の水害に対するそういう損害は認められないというように、決定の最後の土壇場に来て水害の分などゼロになつている。     〔小山委員長代理退席、委員長着席〕  あるいは幾らも認めなかつたという事情を聞くのであります。でありますかり所得金額から一万二千円を認めてもらうことは、大蔵省国税庁にはそんな気持はないのでありますが、ややともすると出先官庁の下の官吏の実際われわれと折衝する方におきましては、決定額が少いからその分をあるいは見込んで課税するというようになりはしはいか。これは私の取越し苦労かもしれませんが、こういうようになりがちになると私は考えるのであります。できるならば私は所得額からの差引きという一本建でなく、従来のよう所得税額から引くという二本建にお願いした方がいいのではないか。なるほど書物を見ると所得額から引く方が、実際負担者から見ると楽だというふうになつておりますが、はたして楽かどうかということは実際の運営において、われわれのふところに響いて初めてわかるのじやないか、こう思つております。  第三の意見は加算税の問題、これは本税と違いましてここで申し上げる意見でないかもしれませんが、しかし滞納金が従来二十銭という、いわば高利のような延滞金がついております。年額にして七割何分の利息であります。これはわれわれにとつてあまりに重過ぎるのであります。たれ一人として納税は期限内に納めたくないという方はないはずであります。たとえば一日も早く納めたくても、今日のわれわれ小さな商業者の立場におきましては、資本は商売をしてもうけるために、あるいは利潤を上げるために、その方に使用するのが忙しくて、ある場合におきましてはみすみす知つておりながら滞納する場合が多いのであります。これに対して二十銭の延滞金というのは非常な重圧なのであります。これはどうか大蔵委員の方々におかれましてもよく御検討くださいまして、少くとも十銭以下の延滞金にしていただきたいと思うのであります。  第四の意見としましては青色申告制度でありますが、これは前公述人からるる申し述べられましたので簡單に申し上げます。青色申告制度がしかれましても、前公述人が申されましたようにやはり税務当局が比較的に冷淡である。この制度をやられてかえつて迷惑だ、お前たち帳面つけておいても否認するような帳面はつけてくれるなというような態度にしか見えないのであります。私も三百人の組合員を持つておりまして、数年税務委員長をやつております関係上、今度の青色申告については双手をあげて賛成いたしまして、組合員に奨励いたしておるのでありますが、幾らも申告して来ないのであります。そうして申告した結果が税務署からもそう言われたというようなことを聞くのであります。どうかこの制度が完全に発達いたしますために、その奨励する意味を持ちましたことを法文化していただきまして、法律の上において、どうかこれをりつぱにやつて行けるようにしていただくことを特にお願いいたしまして、私の意見を終りたいと思います。
  69. 川野芳滿

    川野委員長 これで公述人公述は終るわけでありますが、なおこの際ちよつと皆さんにお諮り申し上げておきます。先ほどの金子公述人発言中、地方税に関する御意見がありましたがこの件につきましては、本委員会審査中の国税に関連しての発言として了承するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  70. 川野芳滿

    川野委員長 御異議がないようですから、さよう決定いたします。  なお公述人に対しまして、質疑がございますれば、この際これを許します。
  71. 宮腰喜助

    ○宮腰委員 森さんにちよつと伺いたいのですが、青紙申告の事件でございますが、大体今まで聞いたところによりますと、個人が三%、それから法人が四四%と聞いておりますが、どうしてこの青紙申告が実際の効果がないかということと、それから徴税面の問題につきまして、昨年の暮れに仮更正決定を出しましたが、その後この仮更正決定に対して意思表示をしないで、確定申告に対して意思表示をするのだということで、この決定を延ばしながら、徴税課の方から再三再四督促が来る。この督促の結果、家を競売されたりあるいは動産を競産されたりしては困るからといつていやくながらこの不当な要求に対して納税をしておる人があるようですが、どうして仮更生決定に意思表示をしないで確定申告に意思表示をしたか、この点について……
  72. 森藏之助

    ○森公述人 第一の青色申告の問題でありますが、税務当局としましては、極力青色申告の励行については奨励しておるのであります。それは現に品川税務署においても、百回近くの説明会をやりまして、なお期限後でも、これは法律的な効果は別といたしまして一応受理はする。しかし今度の改正税法が実施されたあかつきにおいて、税法上明記される問題でありますが、一応税務当局としましては、最初のことでもありますし、受理をするということにしまして相当奨励いたしております。ただこれは昨年も押し詰まつて法律が出ましたために、納税者相当これについて認識も欠けておつた関係上、非常に期限後になつてその問題について研究を始めたよう関係で、税務当局としましてもたとい期限後でありましても、その青色申告の提出あるいは記帳の奨励等につきましても極力奨励しております。  第二の仮更正決定に対する審査の問題であります。もちろん仮更正決定に対する審査と確定申告に対する審査とは別個のものでありますが、税務行政の実施面におきまして、年度末であります関係上、仮更正決定を昨年やりまして、ただちにそれに着手するということは、件数も多い関係上、また一月末には確定申告があり、二月末には確定の更正決定があるというような状況から、実際の行政措置というものは間に合わないのであります。その関係上、仮更正に対する審査と本更正に対する審査とを合致しまして、同時にやる予定であります。
  73. 河田賢治

    ○河田委員 三、四点ちよつと質問したいのですが、今度の税法によりまして、現在税務署におきましても非常に事務能力の点その他においてお困りのようである。われわれはできるだけ公務員法の給與の引上げとか、あるいはまた税務署の施設などにつきましても、できるだけ納税者と税務当局者の融和した気分を出して行くためには、設備などについてもできるだけ改善せよということを、たびたび税務当局にも申しておるのでありますが、現在こういう状況で行きまして、そしてこの新しい法律が万一できました場合には、非常に今度は事務的な方面において、もちろん課税人員はちよつと減りますが、事務的な帳簿の整理とか何とかいうことでは非常に多くなると思います。こういう場合におきまして、直接税務行政に携わつておられる課長さんなんかのお考えから、現在の人員において大体やつて行けるかどうか、もしも足りないとすればどのくらい足らぬか、何割ぐらい増す必要があろうか、こういうことをまずお聞きしたい。
  74. 森藏之助

    ○森公述人 事務量の面から言いますれば相当増大し、また内容においては複雑になるのには肝実であります。従つてりくつとしては陣容を増せば相当行けると思いますが、むしろ内部の税務行政組織の合理化というものを徹底することによつて、現在よりもわずかな増員で足りるのではないかという考えを持つております。税務署は他の官庁と違いまして、非常に旧式な狭隘なで庁舎あり、施設等においても非常に非文明的な利器を使用している。品川におきましても電話はわずか数本しかないというような、また交通関係も自転車とか何とかそういう便利な利器というものは最近まであまりなかつた。最近は相当ふえましたが、そういうよう関係相当施設を強化することによつてそう人員を増加しなくともできるのではないかという考えを持つております。
  75. 河田賢治

    ○河田委員 今度の税法によりましても、またシャウプ勧告によりましても、同業組合が税金のことに介入してはならぬということでありますが、しかしながら今度再色申告になりましても、ある程度やはりこういうものが何らかの形で残るのではないかと思うのです。品川の税務署にしましても、ちよつと聞きますと、たとえば生花の組合があればこれに二割五分とか三割の税金をおかけになつておるようでありますが、たとえば生花組合というものを対象にして――こういう組合の必要経費なんかについては大分差があるようでありますが、しかしこの税法が今度実施されましても、こういう同業組合と相談して、少しでも税務行政の面を少くするといつた方が便利とお考えになるかどうか。この点をお聞きしたい。
  76. 森藏之助

    ○森公述人 純然たる同業組合の意見というものは従来も聞きもし、将来もそういう意見は聞いて行くつもりであります。しかしそれが団体交渉とか、そういう対等の面の交渉ということは絶対にできないと思います。
  77. 河田賢治

    ○河田委員 それから更正決定などをなさいます場合には、大体各税署の署員がそれぞれ課長さんなりあるいは署長さんなりと相談して、現在実際として更正決定をなさつておるかどうか。これに対して一々、各個人の更正決定を指導なさつておられるかどうか。この点をお聞きしたい。
  78. 森藏之助

    ○森公述人 現在の税制というものは申告納税制度でありましてなるべく本人が申告しまして、それに従つて納税するという制度であります。従つて税務当局において調査しましてその調査というものが本人の申告と懸隔がある場合には、なるべくそこを説明しましてその申告を懲通しているのであります。それがまた建前であります。また更正決定をするについては、十分調査した上でやつておるはずです。しかし調査にもいろいろの調査方法がありまして、納税者資料の持ち合せのない場合には、探聞調査のようなことをやつております。調査の具体的方法については、そのときの実態に即応しなければ言えませんけれども、一応調査した事実について更正決定をしております。
  79. 河田賢治

    ○河田委員 昨年までは予算によつて目標を置いたけれども、ことしは大体の推計でやつております。こういう場合に、各税務署では大体これだけのものをとるというみずからの目標を立てるのでありますが、今日のような経済状態の場合には非常にむりが来ておる。そういうところから、たとえば二万五千円の申告をしたのに十九万八千円――これはブリキ屋さんですが、こういう非常な開きのある莫大な更正決定が来ておる。税務署としまして、そういう見積りをお立てになつた場合に、経済状態が悪ければ税金をとろうと思つてもとれぬのだ、見積額が減つてもしようがないという態度でお進みになるのか。見積りを立てた以上、これだけはとらねばならぬというお気持で税務行政をやつておられるのか、それをお聞きしたい。
  80. 森藏之助

    ○森公述人 ただいまも申しましたように、調査した実績に基いて実施しておるわけでありますので、割当とかあるいは水増しとかいうことは絶対にしておりません。
  81. 河田賢治

    ○河田委員 徴税をやる場合に税務署員で、たとえばこの更正決定を認めなければ、今後どうなるかわからぬというようなおどかし文句を言う者が、どこの税務署にも多いのであります。そういう場合に、苦情があつたら一般税務署員を直接監督なさる課長さんとしては、何らか適当なる処置をおとりになつているかどうかお伺いいたします。
  82. 森藏之助

    ○森公述人 苦情の相談につきましては、幹部も率先してその内容を十分聞いております。申告納税関係上、申告の慫慂をすることはたまたまありますが、それは調査がどういうふうになつているのだということを指示して慫慂しているのでありまして、それに対して脅迫的な言辞を弄するとかいうことは絶対にないのであります。もしそういうことがあるとすれば、それはあるいは納税者の勘違いという面もあるでしようが、そういうことがあるとすれば、税務当局においては十分監督して行くつもりであります。
  83. 河田賢治

    ○河田委員 私たちの方の品川税務署管内で聞いたところでは、ただいまの課長さんの御答弁とはいささか違うのであります。今後こういう点については十分監督してもらいたいと思います。  最後に、今度の委員会へ提出されました大口の滞納者、この中の品川で二千万円の滞納をしておりました大八洲工業株式会社、これなどは源泉所得の税金までも滞納しておつたらしいのです。物品税取引高税は申すに及ばす、現在動産、不動産の差押えが行われているようであります。こういう木品に対してある程度差押えをやつておりますが、品川の管内におきましても、風聞によります、たとえば区会議員のボスが土地なんかを相当売つて、利益があるにもかかわらず税金がかかつていないというようなうわさがあるのでありますが、こういう大きな会社なりあるいは大口の――よく税務署へ行きますと三百万円以下の税金に対しては直接税務署でかけるが、それ以上になると一々国税局あるいは国税庁の方へ相談しなくちやならぬというようなことがあるらしいのでありますが、大口に対しても税務署自身でこれを決定しておやりになつているかどうか、一々国税局なりあるいはそれらと相談してなさるかどうか、このことをお聞きしたい。
  84. 森藏之助

    ○森公述人 ある一定額以上の個人所得者、あるいは法人税につきましては、国税庁あるいは国税局の方に移管しまして、国税局が直接調査をしているものもあります。従いまして先ほどの点は、品川でやつているかあるいは国税局でやつておるか調査した上でなければわかりませんが、国税局でやつているものもありますし、また税務署でやつているのもあります。
  85. 川野芳滿

    川野委員長 以上をもちまして、本日予定いたしておりました公述人九名の方々の、税制改正案についての御意見を全部拜聴いたしました。公述人方々におかれては、長時間にわたり今回の税制改正各案について忌憚のない御意見の開陳を行われ、本委員会として税制改正案の審議に多大の参考となつたことを衷心より感謝いたします。  本日の公聴会はこれをもつて閉会といたします。     午後四時二十七分散会