○
岡田五郎君 敗戰によりまして、邦人の財産はことごとく喪失するの結果を見るに至つたのであります。ことに外地居住者は、その居住の地を失いますとともに、父子二代三代に築き上げました一切の財産を、一朝にして失うことになりまして、まつ裸の姿で本土に
帰還を命せられたのであります。ポツダム宣言には基本的人権を尊重すると宣明されたが、事実はそれと反しまして
在外同胞の財産権は侵害せられ、すでに四年有半を経過するに至つたのであります。憲法第二十九條第三項によりまして、これらの
在外財産は明らかに公共のために喪失せしめられたのであつて、国家は当然にこれが
補償の義務を有するということは、ベルサイユ條約またはイタリア平和條約によつて明らかなところであります。かくて憲法に明定せられた財産権下侵害の原則が、数百万人に対して四年有余適用されていない現実にあることは、財産権侵害の事実を立証するものであり、憲法違反を犯しているものであります。従つて今日においてはこれら存外財産の
補償は、国内問題として解決すべきであることはまつたく明らかであります。一方一九四八年米国のウオー・クレームス・アクトはこの措置を国家がなすべきことを明らかに暗示するものであります。以上の理由によりまして、存外財産は当然政府において
補償すべきものであるので、政府及び国会におきましては、緊急に左記の措置をとらるべきであると信じまして、憲法第十六條によりまして、次の通りに
請願いたす次第でございます。
一、政府はすみやかに存外資産
補償のための
調査、並びにこれが
審査のための強力なる機関を設置すること。
二、
在外財産
補償のために、引揚者
団体全国連合会及びその下部機構たる各都道府県連合会をして、予備
審査をなさしむること、
右予備
審査のための経費は予算に計上すること、
三、財産権保障の原則を内外に宣明し、将来に備え、もつて民生を安定せしむるの適当なる措置を講ずること、
このため基本的人権は尊重せられるべきである旨の決議を国会にて、また政府はこれに関しての声明を発すること。
なお以上申し述べました
請願の事項中、第一項、すなわち政府はすみやかに
在外資産補償のための
調査云々の事項につきましては、政府におかれましてもすでに適当の措置をとつておられると思うのでありますが、まだ漏れておるものも多いし、またその後
帰還した人々も多数ありますので、今後とも十分に措置せられたい、こういう意味合いなのであります。また第二項の
在外財産の予備的
審査その他経費の予算計上の件でございますが、これは現地の事情に最も明るいところの引揚者
団体全国連合会等で、今後引揚者より正確な資料を提供せしめ、記憶の新しいうちにこれを整理することは、将来政府の
調査審議を著しく円滑ならしめるものであるから、政府としてもこれに反対するものでないと解釈いたす次第でございます。また予算に計上云々は、必ずしも
請願者はこれを固執するものではありません。
以上
請願申し上げますとともに、
請願者の意図のほどを申し述べましたような次第でございます。何とぞ引揚者の実情を御賢察の上、愼重審議、御採択あらんことをお願い申し上げる次第でございます。