○小川(平)
委員 それでは問題の経緯をいま少し詳細に御
説明申し上げます。十一月の長野県における都市代表者
会議におきまして、現
段階における引揚げの困難性にかんがみて、県民に訴えるべく放送をやるということを、決定をいたしたのであります。その結果十二月十七日午前七時十五分から、放送をいたすことにな
つたのでありますが、後に朗読をさせていただきます原稿を、放送局に提出をいたしたのであります。ところが放送局の方では、これでは放送ができない、
内容かおもしろくない。その際どこがいけないということを、明瞭に指摘はしておらないのであります。要するにいけないということで、別に愛の運動の原稿を放送局の方から提示いたしまして、これならいいということを申したのであります。ところが、言うまでもなく愛の運動は、援護者側か行う運動でありまして、根本的に性格が異なるのでありますから、放送をする予定にな
つておりました前記島立氏は、この申出を拒否して放送をとりやめたのであります。その後先ほど申し上げましたように、十二月十一日諏訪市に開催いたしました長野県の
在外同胞
帰還促進県民大会において、この問題をぜひとも両院の特別
委員会」持ち出して、そうして適切な
解決策を講じてもらいたい、こういう決議が行われたわけでございます。
問題になりました原稿は、後刻朗読をいたしますが、どういう観点からいたしましても、いやしくも不穏当な箇所はとうてい考えられない。しかも本年の八月、同じ島立氏が、東京の全国大会におきまして放送をいたしましたものは、録音をされましてNHKから全国放送をされておりますが、その放送の
内容と比較いたしまして、はるかに緩和されたやわらかい
内容のものなのであります。かような次第で、中央においてりつはにパスしているものが、それよりももつと穏やかな
内容のものが、地方の放送局で拒否されるというようなことは、これはいかにも不合理なことであります。放送局側の新聞記者に語
つたところの理由といたしましては、国際問題に触れておるからいけない、
数字の問題に触れているからいけない、こういう理由を述べておるのでありますが、言うまでもなく、この
段階に至りまして、
数字の問題に触れず、国際問題に触れずして世論を喫起するというようなことは、とうてい不可能なのでありまして、私はこれはゆゆしい問題であると考えているわけでございます、至急にこの
委員会で御検討を願いまして、たとえば当事者を喚問するなりしていただいて、真相を究明していただいて、何らかの強力な措置を講じていただきたいと、こう考えるのであります。
問題になりました原稿を朗読させていただきます。少し長くなりますがごしんぼう願います。次の
通りであります。
長野県の皆様、
海外の同胞引揚
促進運動につきましては、常に深甚なる御盡力を賜わり厚く御礼申し上げます。
終戰以来今日まで連合軍総
司令部の御好意により、六百余万の同胞が引揚げて参りましたが、なお
海外には、
ソ連地区三十万、中共地区七万の
日本人が帰国を待ちわびております。この約四十万は総
司令部発表の
数字でありますが、入ソ当時の栄養失調や、零下数十度の酷寒や苛酷の労働や、中共地区における暴徒来襲下の逃避行、あるいは戰禍、惡疫などのために相当の死亡者を出していることは想像に難くないのでありますが、本春
ソ連タス通信は、在ソ同胞を九万五千名と発表し、このほか約一万名の戰争犯罪者の抑留を伝えておりますが、私はこの
数字には承服し得ないのであります。なぜならば、去る六月、本年度引揚げ再開以来、本月の第六船団までに大連引揚二船を含み九万四千余名が
帰還し、タス通信発表に従えば、残留はいわゆる戰犯
関係者の約一万名となるのでありますが、われわれ
在外同胞
帰還促進全国協議会調査による在ソ健在者の実数は、今日までに判明の分だけでもこれを上まわ
つている事実から見ましてタス発表は、一通信社の報道として、われわれは総
司令部発表のいまだ帰らざる四十万を堅持し、
ソ連大使館に対しては、死と者生存者名簿並びに戰犯理由と氏名の公表、抑留者全員の即時送還、戰犯
関係の
内地処理を懇請し続けておりますが、今日まで納得できる
回答を得られないままとな
つております。
一方中共地区におきましては、中国共産党が戰果を拡大し、漸次国民
政府軍を圧迫し、戰線を拡大したため、各地に分散、戰争、技術、その他に留用されるとともに、婦人、老人、小兒などのいわゆる難民階級は、きわめて悲惨な毎日を繰返すの余儀なきにある実情であります。この非人道的行為に対して全国協議会は、去る八月十日の全国留守家族大会における憤激は、中共毛澤東主席あての懇請公開状とな
つてあらわれました。
当長野県は、戰前わが国の
食糧問題
解決のために、満洲開拓民の送出に全国一の成績をあげ、その一割に当る四万余者を送出いたしましたが、このうち
引揚者一万四千六百余名、死と確認一万四百名、未
帰還並びに生死不明一万五千、この大
部分が中共地区の抑留とな
つておりまして、これに軍人、軍属、一般邦人を加えると、
北海道、東京に次ぐ全国第三位の未
帰還者数を示し、この家族数万のうちには、結婚直後夫を送
つた若き妻、いまだ父の顔さえ知らない幼兒、多くの子女をかかえて生活苦と闘う夫人、病床にわか子の安否を気づかう老父母など、常にこの環境のうちにある私たちでさえ、見るに忍びず聞くにたえない悲劇は随所に繰返えされております。また各地の大会において、お父さんを帰してください、私のお父さんはなぜ帰
つてくれないでしようと泣いて訴える少年少女を見るとき、実に断腸の思い禁ずるあたわざるものがあります。
あと半分ほどございますが、これは穏当であるまいかということを判定するのに必要でありますから、どうかもう少しごしんぼう願います。
ソ連地区はもういないと言い、中共地区はいても帰さないという、引揚げの現
段階はこのごとく困難かつ最後的なものとな
つてしまいました。全国百万の留守家族は、
終戰以来いつかいつかと待ち焦がれていた肉身に永久にまみゆることのできない人生最大の悲惨事は、今まさに現出されようとしております。これがはたして戰争を放棄し、平和民主国家として鋭意再建に当りつつあるわれわれに與えられた現実であります。
人類生存の
権利、正義人道いずれにありやと絶叫せずにはおられません。
国会においては、第一
国会以来、参衆両院に
海外引揚特別
委員会を設置して引揚
促進決議をし、また昨年は内閣に引揚同胞対策
審議会を設け、引揚げの
促進と、厚生援護の対策を講じられておりますが、今日の国家情勢下にあ
つては、十分の成果を收め得ることは、はなはだ心もとないものがあります。また長野県におきましても引揚同胞対策
審議会を置き、三回の
会議を重ね、厚生援護より漸次引揚げ
促進の輿論喚起へと進んで参りました。
同じ憂いをともにする全国数百万の留守家族は、二十二年に全国協議会を結成し、東京西神田東方学会ビルに事務局を置き、間断なく運動を続け、各種大会、署名嘆願、陳情、決死の断食など、血まみれの運動をいたして参りましたが、われわれの
努力の不足か、抑留国の無理解か、悲しいかなこの悲願はまだ達するに至らないのであります。
悲観のどん底にある家族の唯一の頼みは、マツカーサー元帥とシーボルド対日
理事会議長が、同胞送還に偉大な
努力をいたされておることと、さらに今後も最善の
努力を言明されておられることで、何よりの喜びであります。もし元帥の御盡力がなか
つたとしたなら、引揚げはこれほどの進展は見られなか
つたことと思います。偉大な元帥の絶大な
努力をも
つてしても、容易に
解決し得ないこの難問題を、われわれはいかに対処すべきであるか、……それは一に全国民の輿論を結集し、も
つて全世界の正義人道に訴え、抑留国の反省を促すとともに、他面いまだ帰らない同胞の正確な調査を完了して、これだけはまだ残
つているという現実の証拠を示す以外に方法はないのであります。輿論は国民によ
つて起り、未
帰還者調査は留守家族の手によ
つて行われるべきでありますが、今日まで幾度調査を行
つても、未報告郡市のあることは、運動の性根を理解しないのみか、かかる家族には、はたして
帰還促進の
熱意ありやを疑わざるを得ないのであります。またただ一部だけではあるが、一昨年連盟結成を準備会にて決定しておきながら、今日まで結成を見ないことは、
当局の冷淡か、運動の不徹底か、家族の怠慢か、いずれにしても遺憾の至りでありまして、この際すみやかに結成を終えて、運動線列へ参加されたいものであります。
私は最後に県民各位に訴えたい。
在外同胞の送還は、ポツダム宣言と国際公法に明らかにされている人類当然の要求であります。悲惨、不遭に注ぐ留守家族、望郷の鬼と化そうとする
在外同胞救援に、県民総蹶起運動の展開を懇請いたします。また留守家族は、今こそ決意を新たにし未
帰還者届、その他の届出にはただちに即応し、
ソ連、中共あて懇請書未提出の向きは、本日作製提出し、家族としての責任を完遂されたいものであります。この運動こそは、人類生存上当然主張し得る正しい
権利でありますから、家族は卑屈に陷らず、どこまでも希望を失わず、最後の一人の帰るまで相協力して
努力すべきであります。
今や問題の
ソ連地区本年度引揚げ終了を契機とする重大
段階に際し、県民各位に経過の御報告と所信を申し上げて、平素の御協力を謝し、あわせて今後の御
努力を請い、さらに留守家族の奮起を促す次第であります。
お聞きの
通りでありまして、これはどういう観点から見ましても、不穏当である、かような原稿は拒否しなければならないという理由は、発見できないのでありまして、かようなことがもし今後も繰返されるようでありますれば、私はこれは非常にゆゆしい問題だと考えます。そこでこの際、本
委員会においてこの問題を取上げていただきまして、さつそく具体的な何らかの措置を講じていただきたい、この点をお諮りする次第であります。
なおこれに関しまして、十二月十五日の毎日新聞の
——これは地方版でありますが、記事がございます。これに放送局の言い分が載
つておりますから、ちよつと朗読させていただきます。
長野放送局では次のように語
つている。
促進同盟の人が十数名来て放送されてくれというので、縣の放送
委員会にかけて採択した。
その
内容は、国際的にわたらず引揚
促進に協力を、求めるとか、末復員者家族に同情して愛の手を差延べようとい
つた、あくまで
国内問題にとどめるという
條件つきで、またこの
條件に合わないときは取りやめるということで原稿を出してもら
つた。ところが
内容が
條件にマツチせず、一例をあげれば「在ソ同盟は九万名というが、われわれの調査したところではまだ三十万名以上の同胞が残
つている。この
数字の食い違いはどういうわけか、あくまで追究しなければならない。」とい
つたような激しいものなので、かわりに愛の運動について放送したが、島立
委員長とは放送
委員会を通じてすでに
了解ができているはずである。これが放送局の言い分でございます。