○
川上嘉君
只今上程にな
つております
所得税法の
臨時特例等に関する
法律案に、次の
諸点から
反対いたします。
第一点は、
本案は表面は
所得税法の
臨時特例と相成
つておりまするが、実は
シヤウプ勧告の
基本原則を尊重し、来
国会において行われる
税制の全面的な
改正の
一環として云々と
提案理由に述べてあります。改めて言うまでもなく、
シヤウプ勧告には五つの
目標があります。この五
目標は必ず
国民生活の安定、
国民経済の
自立、
企業の
自立に結び付くものであり、又
税制全般から見ましても、又
個々の
税法、
個々の
特例等から見ましても、必ずこれらの五
目標は常に有機的にその中に力強く織込まれていなければならない筈でありますが、
本案はこうした点に欠けているのであります。
第二点は、九
原則やド
ツジ予算のために減税の公約を果せなか
つた政府は、その面子を維持するために、
万事シヤウプ勧告案が出るまでの辛抱だとい
つたような公言をたびたびや
つて、如何にも本年度の
税金が相当大幅に
軽減されるがごとき印象を
国民に與えたことは、正に
国民を欺瞞することであり、(「そうだ」と呼ぶ者あり、
拍手)又
シヤウプ使節団にと
つては有難迷惑だ
つたに相違ないと、かように
考えるのであります。
大蔵大臣は
財政演税の中で、
シヤウプ勧告の精神を尊重して
国民負担の一部を
軽減すると述べております。(「その
通りだ」と呼ぶ者あり)又
本案の
提案理由で、
国民租税負担の
軽減及び
適正合理化に資するためにと述べておりますが、昨日二十四年度
補正予算の
反対討論で、木村、内村両
議員からも鋭く指摘されました
通り、本
改正案程度のものでは右の
目的を果すのにまだまだ遠いものと
考えるのであります。
第三点は、
青色申告制度の
実施についてでありますが、
帳簿記載事項等も直ちに一両日中に決定の見込のようであります。この
趣旨には勿論
賛成でありまするが、この
程度の
改正案で果してこれが
実施についてうまく行くかどうか。こうい
つた点に頗る疑問を持
つているのであります。
東京財務局の
税制諮問委員であり、
商業者同盟の
專務理事である北村氏が、
昭和二十二年の
税金につきまして、
帳簿の
記帳指導をして
税金の
軽減を図ろうとしたら、
却つて重い
税金がかか
つて来てやりきれなく
なつた。それで今は
考え直していると、「実業之
日本」の別冊に発表しております。そこで、なぜ
納税者が記帳していないのか。これは能力がないとか、或いは知識がないとか、或いは面倒くさいとか、こうい
つた單なる
理由からのみでなくして、正直に記帳すれば必ず損をしたからであります。そこで決して損はしない、正直に記帳することによ
つて得をするのだということが分れば、おのずから進んで記帳する筈であります。この
対策といたしまして、先ず第一に
税率の大幅な
引下げ、更に
基礎控除額等の大幅な
引上げを行うことが
急務であります。本
改正案では、
税率は、三十万を超ゆるものは、五十万であ
つても、百万であ
つても、二百万であ
つても、五百万以上であ
つても、全部同率にな
つておりますが、これは大きな不公平であります。余りにもその恩典が
高額所得者に厚く、
低額所得者に薄く、大衆
課税的な性格を
改善するどころか、
却つて逆進課税的作用が拡大されていることは誠に遺憾であります。
現行法では、三十万を超ゆる額の上に更に五十万、七十万、百万、二百万、五百万等、それぞれ区分してありまするが、
所得階級別は
現行程度に区分するのが妥当でありまして、尚、
最低税率、
最高税率並びにこれらの
適用等については、もつと十二分に検討するの必要があると
考えるのであります。次に、
基礎控除につきましても同様でありまして、即ち戰争前の
免税所得千二百円を今日の価値に換算いたしますというと、一ドル二円が三百六十円に
なつた割合で二十一万六千円となります。その当時一ドルは四円だ
つたとの
大蔵大臣の言に従いましてこれを計算いたしましても、大体十万円以上となるのであります。従いまして
基礎控除額二万四千円というのはお話にならないほど低いものであります。
第四点は、
税制が公平、適正、合理的に制定されなくちやならないことは勿論でありますが、同時に又これは公平適正に運用されなければならないのでありまして、このために最も重要なことは、
税務職員の大幅な増員、更に素質の向上、
待遇、諸
手当、副
利厚生の
改善等に画期的な
対策を講ずることが
急務であります。このことは
シヤウプ勧告の五
目標の中に、
税務行政の
改善として大きく取上げられ、更に具体的には
職員の増加の項で、
人事に関する前述の一切の
勧告及び提案した
行政上の
改善の一切の基となる基本的な要請は、
税務職員の数を増加することであると、現
政府の
定員法を
根本から覆しているのであります。十分な数の
税務職員を雇うのを拒むのは、
一文惜みの百失いであるときめつけております。尚、徴税費の増額の項で、
事務設備と運用の近代化の仕事は重大である。その達成には絶えず活溌に努力することが必要である。この努力は不十分な歳出
予算によ
つて妨害されるべきものではない云々。このような支出は、この近代化計画が結果としてもたらす徴税額の増大によ
つて何倍となく補われるのであろうと、かように
勧告しております。もとより私はこれらの措置が急速に一挙になされることを期待しておりませんが、今回の
補正予算でこれらの運用面につきましての
対策が全く講じられていないのは誠に遺憾であり、
政府は果してこの点について積極的意思、熱意があるかどうかを疑わざるを得ないのであります。
第五点、ここ一、二年間に非常な問題に
なつた割当額、
目標額についてでありまするが、
シヤウプ勧告は、今まで各地域の推計が大体天下り的に課せられたものであることを認めております。このような数字が税務署長の頭にあることは、
所得税の執行面に歪みを生ずることになり易いと指摘しております。尚、不幸にも
所得税は
目標額
制度と両立し得ないことが明らかである。それなくして機能を発揮できなければ、
所得税は撤廃した方がよいとまで言
つてこのことを強調し、
目標額を作るという技術が他の国で採用されているのを未だ聞いたことがないと述べております。幸にしまして、本年度以降は決して
目標額、責任額なるものを定めないと、
大蔵大臣は当初
予算の当時からたびたび言明しているのであります。ところが表面は別といたしまして、実質においては税務署は
目標額、責任額ともいうべきものの圧力を受けているようであります。尚、
納税者は税務署から
税金を一方的に割当てられたとい
つたような圧力を受けているようであります。実はつい最近八月十五日の読売新聞に「
日本の進む路」という題で、吉田総理と同社の馬場氏との対談が
記載されており、吉田総理はそのとき
税金問題につきまして、「今は徴税の方法が非常にひどいですね。最初から脱税をするという建前で
納税者に臨むらしい。收税吏が正直にや
つている者に対しても脱税者のような取扱をするから、正直にや
つている者は怒
つてしまう。大体あの
税金の割当ということがいけない。今年は幾ら收入があるという見込で、その見込を申告させる、それによ
つて税金を割当てて徴税するのだから随分変な話だ。」かように述べております。即ち吉田総理は、割当
課税が今尚存在していることを認めておられます。又
大蔵大臣はさようなことは全くや
つていないと言明している。即ち吉田総理大臣の言と池田
大蔵大臣の言との間に非常な食い違いがあります。若し池田
大蔵大臣の言が
真実だとすれば、吉田総理の言は
納税者を混迷させる最も軽卒な惡質な反税的な言動だと言わざるを得ないのであります。
第六点は、要するに以上の
諸点から見まして、本
改正案は、
国民租税負担の
軽減及び
適正化に資するための
税制全般の改革の
一環としては余りにも微弱であり無力であると
考えるのであります。
以上の六点から
本案に
反対いたします。(
拍手)