○岩間正男君 私は
日本共産党を代表して、
政府の
財政経済政策並びに
予算について質問いたします。
池田蔵相の
財政演説によりますと、
日本経済は安定し、今後は
国際経済との結び付きにおいてますます
復興発展の途を迫るかのようであります。ところが
日本の現実はどうか。事実は正に正反対であります。成る程一握りの大資本家、大
企業家は安定しておるかも知れない。だが人民大衆の生活は目下極度の不安にさらされ、不景気は拡がり、
失業者は巷に溢れておる。而もその
犠牲は、特に婦人、兒童のか弱い肩にのしかか
つておるのであります。その原因は言うまでもなく、低
米価、低賃金、苛酷極まる重税政策であります。大衆は生活必需品をさえろくろく買えない。
国内市場では品物は売れない。加うるに
外国の過剩
生産物資が高く
輸入されておる。その結果、
国内で売れない
日本商品は安く
外国市場に叩き売らねばならなくな
つておるのであります。これが今日までの吉田
内閣の経済政策の総決算であります。ところで今回提出されました
予算を見ますと、この傾向はますますひどくな
つて、低賃金、低
米価はますますこれを押し付け、一方あれ程宣伝に憂身をやつした大幅
減税は、軽くなるどころか実際は逆に重くな
つている。これでは無論人民大衆は堪え切れない。必ずや
政府の政策に反対する。これを予想した
政府は、警察力を増強し、いよいよ彈圧を強化する。ここに吉田
内閣のフアツシヨ的性格がはつきり出ているのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)而も低賃金、低
米価により
外国市場に進出する
やり方は、軍国主義時代の
日本貿易の再現に外ならず、(「その
通りだ」と呼ぶ者あり)民族の独立を失い、戰爭を呼ぶ結果ともなるのであります。(「そうだ」「その
通り」と呼ぶ者あり)我々はかかる戰爭とフアツシヨへの道には絶対賛成することができない。
次に吉田
内閣の経済政策の大きな
一つの特徴は、教育、文化、厚生などの面において極めて貧困なことであります。今回示された
予算のどこに
日本の文化を繁栄させるに足るものがあるでしようか。元来、文化は一国興隆のバロメーターであり、文化の振興は
生産の増強のために必要欠くべからざる要素をなし、
生産の増進は必然的に又文化を隆盛ならしめるものであります。然るに
政府はこれら
生産と文化の関連を消極的にしか理解することができない。享楽的、反動的な文化をしか
考えていないのであります。その結果は至るところに現われており、民族文化の崩壞、頽廃の事実は、民族の自主性の喪失と共に今日大きな問題を投げかけています。私はここでお伺いしたい。吉田首相は今日如何なる文化政策を以て国政に臨んでおられるか。又池田蔵相には、
日本財政において占める文化
予算の地位並びにパーセンテージは如何なるものと
考えられるか。又如何にすべきか。先ずその所見が伺いたいのであります。吉田
内閣の経済政策がもたらした文化破壞の現象が今日最も集中的に現われているのは、何と言
つても六・三制であります。
政府は
新制中学建築予算として十五億、更に来
年度四十五億を計上している。併しこれは目下窮迫した
地方の要請には何ら応えるものではないのであります。本
年度十五億は、これを一県あてにすると平均約三千万円にしかならない。これでは僅々四十教室の
建築費を賄うに過ぎないのであります。たとえ、これに来
年度の四十五億を加え、同額の
地方起債を認めたとしても、その総額は僅かに百二十億であり、約一万五千
程度の教室が新築されるだけであります。ところで第五
国会における
政府の発表を見ますと、不足教室数六万五千であ
つて、これは無論講堂、特別教室などを含めない最低要求であります。六万五千のうち一万五千、残りの五万教室をどうするか。而も聞くところによりますと、六・三
建築予算は来
年度で全部これを打切るとのことであります。その結果は言うまでもなく、目下窮乏のどん底にある
地方財政並びに大衆の生活を極度に苦しめ、将来に亘
つて長くその桎梏となることは紛れもない事実であります。
私は先ず吉田首相に質したい。首相の施政
方針演説によりますと、「文教において、
政府は特に初等教育に力をいたし、健全なる思想と円満なる常識を涵養するための設備の充実完備を期したい」とのことでありますが、かかる間に合せの
予算措置で以て設備の充実完備ができると
考えていられるのかどうか。又曾て六・三制は文部省の行過ぎであるということを答えられて、第五
国会で物議をかもしたが、この
予算を見ると、現在でもまだ同じような所見を持
つておられるようにしか思われないのでありますけれども、どうであるか、その本心を明らかにされたいと思うのであります。
又高瀬文相には、今後五万の不足教室をどうするか。殊に研究室、特別教室を持たない中学校というものは全然
意味をなさないと思いますが、その処置をどうするか。更に本年四月以前に苦しい中から自己財源を工面して、すでに
建築を進めている分に対しては、今度の
補正予算は
補助されないと聞いておりますが、その不公平、不合理をどうするか、承わりたいと思うのであります。文部省は六万五千の教室増設
計画をいつの間にか放棄して、生徒一人当り一・三坪の所要数を〇・七坪に切下げ、机上の統計操作によ
つて苦しい現実を巧みにごまかそうとしている。併し生きた兒童に変りはない限り、今後の破綻は免れないのであります。このような施設面の不備によ
つて、目下広汎に惹起されている生徒の学力低下、青少年の不良化等、教育の破壞をカバーする
方法は、教員の量と質を向上させるより外ない筈である。然るに
政府は本
年度より定員定額制を実施し、目下教員の首切りに大わらわであります。高瀬文相は第五
国会において教員の首切りは行わないと言明された。それにも拘わらず、その後大学機関、
地方の教育委員会等をして、著々これを行わしめているのであります。而もその
方法は実に惡辣陰險、誠に人権を無視したものがあるのであります。すでに八月下旬から文部省の内密な指導により予めリストが作成され、又思想調査を国警の協力によ
つて著々進めている事実がある。その免職に際しては、例えば京都における例のごとく、依願免職並びに懲戒免職、二
通りの辞令を突き付け、そのいずれを選ぶかを二十四時間の期限付で強要し、これを拒否すれば立ちどころに懲戒処分に付し、退職金、恩給をさえ剥奪しているのであります。かかる首にあいくちを擬し、天下り的に辞職を強いるの類は、正に軍部專制時代のフアシズムを髣髴させるものがあり、かかる不合理が白晝公然と行われているところに吉田
内閣の首切り政策の実相があるのであります。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)私は法務総裁にお聞きしたい。総裁はかかる事実を知
つておられるかどうか。又これら法令無視の違反行為を今後
如何ように処置されんとするか。私はかかる事実を
日本の民主主義のために惜しむ。又学問と自由のために嘆かざるを得ないのであります。何故ならば、これら首切り該当者の多くは、吉田
内閣の文教政策の貧困によ
つて惹起された教育の破壞を身を以て闘
つて来た諸君であるからであります。これらの者を無惨に首切ることによ
つて吉田
内閣の無為無策は蔽われるかも知れないが、教育界は再び戰前、戰時中の無気力な強権盲従の暗黒地帶に戻りつつあるからであります。その例証は至るところに起
つている。吉田首相はかかる思想彈圧を取消す
用意があるかどうか伺いたい。
又高瀬文相には、今次
補正予算の
程度を以てしては尚今後一万数千の教員首切りは必至と思いますが、首を切らないと言つた曾
つての文相の言明と連関して、その責任はどうされるか伺いたいのであります。
更に来
年度予算によれば、小学校一学級一・五人、中学校同じく一・八人の教員数を復活されると聞いておりますが、かかる決定はシヤウプ勧告による平衡交付金との関連において、今後具体的に如何に処置されるか、その見通しを池田
大蔵大臣に伺いたいのであります。
次に過般の行政整理に関連する大学研究室の壞瞬問題、又朝鮮人学校の解散事件に伴う受入態勢の問題、法隆寺の燒失事件に代表される古美術保存問題、並びに私学
貸付金問題等、緊急文化問題について、池田蔵相並びに高瀬文相の意見を質したい。湯川博士のノーベル賞授賞に当
つては、吉田首相も遅ればせながらその喜びを電報された筈であります。而もその世界に誇るべき業績の半面、足下ではまるで反対の現象が起りつつあるのであります。京都大学の湯川研究室では、研究員十三名のうち、その半数がすでに過般の行政整理で馘首されており、もはやこれ以上の研究が不可能にな
つている事実があります。又その研究費を見ますと、年額五万円、それに議座研究費八万円、合せて十三万円である。これでは研究費とい
つても單なる名目に過ぎないのが実情であります。而もこれは單に湯川研究室だけのことではなく、目下全国至るところの大学を襲いつつある運命である。文部大臣はこれに対して如何なる対策を持
つておられるか。承わりたいのであります。
次に、朝鮮人学校の解散に際しまして、高瀬文相は、受入態勢はできていると言明されておる。併しその兒童数約三万五千の教室設備費、それから所要教員数約一千一百人の人件費は、何ら
予算には計上されていないのである。この食い違いをどうするか。国宝保存費も
補正予算には全然ない。来
年度分として二億円
程度のものが決定の線を彷徨しておる。更に私立学校の
貸付金の約百億円の必要に対しまして、僅かに二億七千円万が計上されているに過ぎないのに、
政府は今度新たに私立学校法を提案し、私学に対するところの文部省の支配権を強化しようとしていることは、我々の見逃することができない問題であります。
次に、教育される生徒、兒童の側、家庭の方から見れば、賃金の遅配、欠配、
失業洪水などのために、長期欠席兒童は最近とみに
増加しているのであります。又アルバイト学生は
失業群発生のためにその仕事を日に日に奪われ、農村
恐慌の波は最近農村の子弟の育英
資金の申込者を続出させているのであります。更にPTAの会費の激増、寄附金の強請等は、文部
予算の絶対不足を大衆に押し付けるものであ
つて、主婦の叫びは悲痛を極めている。然るに今次
予算では、
所得税源泉
課税の
自然増收を百五十億と
見込み、そのうち約五十余億を
減税するに過ぎないのである。勤労
所得税は
減税どころか差引き約百億の
増税とな
つているのであります。
政府発表の二十四
年度上半期の自然増は主として首切りによる退職金によるものであるから、これを以て下半期を律することは到底できない。今仮に百歩を讓
つて、これが民間勤労所得の
増加によるものとしたところで、月々一世帶当り三千円を超える
赤字を出していることは、資本家統計でさえこれを認めている以上、かかる所得の
増加に
課税すべきではない筈であります。
大蔵大臣は
国会において、しばしば民間に信用されない作為的な官庁統計を引用して答弁されるが、一体その統計
数字自体がどこまで正当であるかは疑問であります。
従つて数字的なからくり答弁はやめて、具体的な生活実態を以て答弁されたい。その場合特に答えて頂きたいのは、吉田
内閣は一体
国民の生活水準を国際的に如何なる所に置くか、それがはつきりしなければ税金は重いか軽いかは決定されない筈であります。CPIの変更については、一昨日の木村議員の質問に対し、労働大臣から答弁がありましたが、あれでは答弁にな
つていないと思う。私はその結果有利になるのは誰であるか、資本家、人民大衆か、改めて労働大臣並びに
安本長官に具体的な答弁を要求するものであります。又通産大臣には、
国民の生活水準を規定する
産業水準はどう変化するか。その変化によ
つて起る
産業構造の変化は
国民生活に何をもたらすか。この点をお答え願いたいのであります。
又厚生、労働両大臣にお尋ねします。
失業保險、その他の社会保障を、現在のような欺瞞的なものでなく、も
つて人民大衆を保護するものにする
用意があるかどうか。あるとすれば何故その
予算を計上されなかつたか。更に社会施設と言えば、
政府は職場外のことのみに限定して
考えておりますが、これを大衆の職場の内部に持ち込むところの意図はないか。労働基準法についても、これをもつと嚴正忠実に実施すれば
失業はなくなる筈であるが、なぜそれを怠
つておられるか。お答えを願いたいのであります。
以上、時間の
関係上個條書的にお伺いしましたが、これらのことは、
政府がこれを忠実に信行すれば当然に
国民の生活を安定し、主婦の地位も向上し、青少年、兒童も救われるのであります。然るに
政府はまるで反対のことをや
つておる。而も大衆の賃上げ鬪争はこれを彈圧し、
主食の掛売を要求する主婦を検束し、最近広島では学校に警官をさえ配置しておるのであります。だが、
政府は彈圧一点張りではすでに効果の薄いことをよく知
つておる。そこでいわゆるエログロ文化を掛に氾濫させ、カストリ出版物をはびこらせ、社会教育、家庭教育を滅茶苦茶にし、学校教育も、社会科は野球と赤い羽根売り、それが嫌なら逃避的な映画見学を押付けておるのは事実であります。吉田首相が愛読されておると聞く半七捕物帳や(笑声)又文部省の御用教科書「民主主義」の類は巷に溢れておるが、併し真に人民の生活と文化を高める出版は、
資金面、資材の面でも多くの圧迫と制限を受けておる事実を首相はどう思われるか。その御所見を承わりたいのであります。
以上のような思想彈圧をその集中的な表現とする文化破壞、文化否定の諸事実は、人民の経済が安定していないことによるところの証拠であります。文化なき平和、文化なき民主主義、そんなものは平和でも文化でもないのであります。一部の大資本家、大
企業家は、人民大衆を奴隷のように收奪して得た利潤によ
つてみずからを莊嚴し、又人民の目を眩ます手段として文化を利用しているのであります。併しそのような文化こそ腐敗堕落の似非文化と言わなければならない。
私はこの夏、国勢調査のために北海道を視察して、石油の配給のない
農民が、日の出と共に起き日沒と共に寝るいわゆる鶏生活をや
つておる無燈火村の多くを見て、今更ながら農村文化の現状について
考えたのであります。
日本の石油
企業は、例外なく
外国資本が入り、莫大な原油が次々と
輸入され、
日本の精油設備は旧軍事施設まで復旧させて動いておるのに、一体その石油はどこに流れて行くのであろうか。だが、無論これは燈火だけの問題ではなくて、漁船も石油がなくて出航ができない。機帆船も石油がなくて動かなくな
つておるのが現状であります。暗い
日本、身動きもできない
日本、これが吉田
内閣の財政政策の象徴的な現われであります。(「その
通り」「ノーノー」と呼ぶ者あり)
以上私の質問を終りますが、最後に一言断わ
つて置きたいのは、これまで衆参両院の
政府側の答弁を見ますと、その多くは
通り一遍の冷淡な言い抜けに過ぎないのである。併し
国会における我々議員の質問は飽くまでも人民大衆を代表しての質問であるから、その答弁も真に人民への答弁として、もつともつと真劍であ
つて欲しいと思います。以上を以て私の質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕