○天田勝正君 私は
日本社会党を代表いたしまして
政府に
質問いたします。
第五国会終幕以来僅々五ケ月間に、我が国内外の情勢は驚くべき変貌を遂げたのであります。五月末にはパリにおける四国外相
会議において、東西両勢力の調整がとられてお
つたのでありまするが、十月になりますると東独政権の成立が宣言せられまして、更に九月にはソ連の原子爆発が確認されておるのであります。東亜においては九月三十日、中華人民
政府の樹立が宣言され、今や
国民政府の最後の拠点でありまする重慶に砲煙上らんといたしておるのであります。この間MRA大会のごとき平和への
努力も試みられましたが、東西両勢力は冷たい休戰のまま險惡化しつつあるのであります。国内においては陰惨なる不祥事件が惹起する一方、台風は次々と襲来いたしまして、復興途上にありまする我が国に甚大なる
影響を與えたのであります。又
政府部内におきましては、
国家警察本部長官、この更送問題をめぐりまして、内閣と公安
委員会の対立という事件が惹起され、
国民の一大不安を與えたのであります。
かくのごとく国際的に国内的に激動の中にありまする
日本にと
つては、その激動に対処する覚悟と
政策の樹立がなされなければならないのであります。私はこの見地に立ちまして、主として国内問題について以下順を追うて
政府の所信を質したいと思うのであります。
先ず治安問題について
質問いたします。
政府は六月十三日治安閣僚懇談会を開いて、警察制度の再
検討をなさ
つておられます。下
つて九月八日、樋貝
国務大臣は記者団会見において警察法改正を表明いたされました。然るに折柄来朝中のヴオルヒーズ陸軍次官は、九月十日の記者団会見において、
日本の警察力は十分である、こう述べられておるのであります。思うに現警察に欠けておりまする点は、その機構或いは数にあるのでなくして、その運用、
予算の問題、並びに、治安に任ずる意思にあると思うのであります。然るに
政府は敢えてこれが改正を俎上に上ぼせてある、このことは第五国会におきます労働諸法規の改惡、公務員法、人事院規則、或いは又今期国会に上程を予定されておりまする地方公務員法等によりまして、思想彈圧、この問題と関連して、巷間戰前の特高警察の復活を企図しておるやに伝えられておるのであります。
政府は果して特高警察の復活のごとき改正をもくろんでおられるかどうか、樋貝
国務大臣は如何なる改正をもくろんであられるか、先ず明らかにした頂きたいのであります。
次に七月六日、内閣は公安
委員会に対しまして齋藤国警本部長官の罷免の申入れを行な
つております。公安
委員会はこの罷免の
理由はないということによりまして、内閣の申入れを拒否された。内閣はこの拒否に対しまして、直ちに声明を発表せられると同時に、増田官房長何から不適格五
理由を公表されたのであります。
政府みずからが不適格者なりと断定いたす者が
国家治安の実権を握
つておるというこのことは、当時不祥事件の頻発の折柄でありましたために、
国民に一大不安を與えたのであります。この事件は総理並びに
官房長官と、治安担当大臣たる樋貝
国務大臣との閣内不統一でございます。若し旧制度でありましたならば、内閣不統一の責を負
つて直ちに闕下に辞表を捧呈しなければならない重大問題であると思うのであります。
官房長官、樋貝国務相、公案
委員会、齋藤長官、そのいずれにこの責任がありまするか。今日におきましては、主権者である
国民に対してこれを公表するところの義務があろうと思うので、私は
国民の代表といたしまして、総理、
官房長官、樋貝国務相に対し、本事件の措置の公表を要求するものであります。
次に中小
企業対策について、稲垣通商
産業大臣並びに
大蔵大臣に伺います。我が国の
経済再建に当
つて貿易の発展が重大なる要素であることはここに喋々するまでもございません。目下
政府は集中
生産方式によりまして、中小
企業を顧みないかのごとくに見受けられております。併しながら、すでに戰前に比較いたしまして七〇%の復活を見ておりまする今日は、大
企業重点の
方式に一大修正を加える必要があろうと思うのでありまするが、この点に対する通商
産業大臣の所見を承わりたいのであります。次に第二国会において中小
企業庁の設置がなされまして、これら
企業の育成が図られたのであります。然るに定員法の施行に伴いまして、現在僅かにこの機構は九十四名によ
つて運用されております。この程度の小機構によ
つて中小
企業の育成は十合であると
産業大臣はお
考えにな
つておられるかどうか。更に中小
企業に対する
金融の問題でありまするが、今日においては大
企業も中小
企業も同例に扱いまするために、結局復金の例に見まするがごとく、中小
企業は殆んど問題にされないという結果を生ずるのでございますが、これは中小
企業の規模に対応するところの
金融機関の設立が必要にな
つて参ると思うのであります。
従つて現在の
金融機関を区分いたしまして、その
産業規模に応ずるところの
金融機関設置の用意があるかどうか。
大蔵大臣に伺います。
次は在外同胞引揚
対策につきまして、総理、
大蔵大臣並びに厚生大臣に伺います。先ず引揚同胞に対する基本的な
考え方について総理に伺いたいのでございます。現在單に引揚者と総称いたしておりまするが、この引揚には二種類あるのであります。即ち今次戰争によ
つて日本が侵略しました地域における引揚と、それ以外の地域の引揚であります。沖縄、千島、奄美大島は本来
日本の領土でございました。台湾、南樺太、関東州、満鉄附属地、朝鮮、南洋諸島、これらはそれぞれ條約に基きまして、
日本が割讓を受けるか、或いは委任を受けた地域でございます。而も朝鮮を除いてはこれら條約の相手国はむしろ
日本より強大であ
つたのであります。この條約が不当だといたしましても、これは在留民の責に帰すべきではなくして、
国家相互の責任であるのであります。
従つてこれらの地域は講和條約によ
つてその帰属が決定されるまでは通常
日本に委ねらるべきでございます。在留民は
日本政府によ
つてその居住、労働、
企業の諸権利ガ保護されなければならないのであります。然るにこれらが保障されませんために、
連合国の命令と
日本政府の実行によ
つて危險のない地域に移住を命ぜられたと考うべきであるのであります。
従つて国内的には、これらは引揚にあらずして強制立退きと言えるのであります。故にこれらの引揚者は、前居住地域と同様、居住、労働、
企業の諸権利が
政府によ
つて保障されなければなりません。この基本的な点に関しまして、総理はどのように
考えておられるか承わりたいのであります。次にソ連地区、中共地区の在留邦人の引揚に関しましては、総司令部、ソ連代表部に対して、総理はどのような墾請、折衝をなされておられるか、勿論正式交渉は不可能な今日でございますが、併し国会及び民間団体はこれをなしているのであります。これらの国会並びに民間団体がなし得ることが総理にできない筈がないのであります。この点に関する総理の熱意を承わりたいのであります。
第三に、引揚者の在外資産については、外務当局は講和の成立までは論ずることが困難であるとの見解を持
つておられるようであります。五月の極東
委員会で米国代表マツコイ少将が我が国の賠償
施設撤去中止の声明を発せられました際に、同代表は、
日本は在外資産を以てすでに賠償を支拂
つているとの見解を有していると外電は報じているのであります。更に米国上院は、一九四八年七月戰争犠牲補償法なるものを通過せしめまして、その内容として伝えられる点は、一、日独両国人の財産にして敵産監理局長官において管理しあるものはすべて日独人に返還しない。これを売却処分いたして置きまして、二、第二次世界大戰中、日独両国によ
つて抑留された米国人に対し、財務長官は週三十ドル程度の計算を以て右
資金によ
つて損害を補償する。こう伝えられているのであります。然らば今述べましたところの
日本が賠償を行いつつあるとの報道と符節を合せているのでありまして、もはや在外資産問題は国内問題として解決すべき
段階に到達したと思うのであります。ここに申上げまする在外資産とは戰争遂行
企業としてではなくして、
一般在留民が正当に取得して零細資産を指すのであります。外務大臣はこれが措置について如何ように
考えておられるか。或いは在外資産補償法の提出について
考えておられるかどうか。伺いたいのであります。
次に在外公舘が戰争後、当時の
政府——吉田外相でございますが——の命令に基いて
資金の借入を行いまして、引揚の費用に充てたのであります。これが一応の措置といたしまして、第五国会に在外公舘等借入金
整理準備審査会法、こうした
法律が制定せられました。この
法律に基いて本年度中にその確認がなされるのであります。
大蔵大臣はこの確認があ
つた以上は、二十五年度
予算にこれを計上する用意があるかどうか。この点を伺
つて置きます。
次は住宅問題でありまするが、住宅危機は世界的な現象でありまして、もはや
理由を述べる必要はございません。ただ引揚者は現在、神社、仏閣、工場、或いは豚舍、或いは鶏舍、こういうものに住ま
つております者が一割に上ぼ
つております。これが急速なる
対策の樹立を要望されておるのであります。
政府は公営庶民住宅建設について今回の
補正予算に増額の用意があるかどうか。又住宅復興金庫の設立の用意があるかどうか。この点を明らかにして頂きたいと思うのであります。
第五に、内地に地盤を有しない引揚者にとりましては、新規着業
資金は更生の鍵ともいうべきものであります。本年度貸付目標額は三億円でございまするが、これを十億円に
引上げる用意があるかどうか。又引揚者の唯一の
金融機関は
国民金融公庫であります。この
資本金を二十億円増資するの用意がありまするかどうか。
次は文化財保護と学者身分保障の問題につきまして、文部大臣、
建設大臣及び厚生大臣にお尋ねいたします。先の国宝法隆寺の燒失によりまして、各界非常にこの文化財保護の問題が重視されるに至りました。このことは遅きに失したとは言いながら、非常に喜ぶべき現象でございます。文化財とは勿論国宝に止まるものではございません。最近
新聞紙の伝えるところによりますると、南葵文庫、或いは仙台文庫、
幾多の貴重なる文庫が、僅かの維持費がないために散逸の危險に陷
つております。或いは又博物館等の標本は放置されておる。こう伝えられております。過日のノーベル賞に輝く湯川博士の写真のその下には、我が国科学研究の破滅が掲載されておるのであります。こういう
状態でありまするから、これらの措置は最も急速に
対策を立てられなければならないのであります。又一方、明治以後におきまする我が国の世界に誇り得る文化的な業績は、個々の学者によ
つて成し遂げられておるのであります。遠くは野口英世博士、或いは志賀潔博士、或いはZ項の木村博士、近くは湯川博士、これらの得難い博士は、
日本によ
つて認められるよりもむしろ
外国によ
つて認められ、この援助によ
つてその天分を発揮いたしまして、人類文化に貢献し、更に世界の学界に我が国文化を認めしめておるのであります。私はこの学者の天分と、
国家の保護と、社会の尊敬、この合作による諸
外国の例のごとく、
日本においてもさようにしなければならないのでありまするが、現在事務官僚の下風に学者を圧迫しておる事実を指摘し得るのであります。まして公務員法或いは定員法の惡用によ
つてこの事実を見得るのであります。七月三十一日の毎日
新聞に掲載されました予研の矢追博士事件はその一例でございます。一学者のことをと或いは嘲笑される人があるかも知れません。併しながら瀘過性病毒の世界的権威者を極めて不明確な無根な
理由によ
つて馘首いたしました林厚相が、又やがては
日本が後悔するときが来たるであろうと警告申上げて置きます。
さて、そこで
質問いたしたいのは、学校附属の研究所の研究者は、教育公務員特例法によ
つて、多少その身分が保障されておるのであります。ところが官庁附属の研究所、例えば予防衛生研究所のごとき、これらの学者は何ら身分の保障がなされておらないのであります。これらに対して
政府は特別の
法律を制定する用意がありまするかどうか。或いは先に申述べました文化財をどのように保存されまする用意がありまするかどうか。又今次
補正予算においてはどのような措置が講ぜられておりまするかどうか。この点をお伺いいたします。
更にもう一点、文化財創造者に対する課税の問題について
大蔵大臣に伺います。元来、漱石なくんば漱石文学はなか
つた筈であります。幸田露伴なくんば露伴文学はこの世に生れなか
つたのであります。或いはエジソンなくんば電気の惠沢に我々は浴せなか
つたのであります。野口英世博士なくんば黄熱病の災禍から人類は免れ得なか
つたでございましよう。これらの文化創造者は他人の労働を何も搾取しておらないのであります。みずからの頭脳と
努力によ
つて文化を創造し、その惠沢は人類がこれを受けておるのであります。従いましてこれらの文化創造者に対しまして課税するは愚か、我々は感謝と賞金を贈らなければならない義務があるのであります。この観点に立ちまして、
政府は今回の税制改正に当
つて、発明者、発見者或いは著述者、これらに対して課税特例法を設くるの用意があるかどうか。
次に農村
対策について、
農林大臣、
大蔵大臣並びに安本長官に伺います。先ず農業
政策の基本でございまするが、我が国従来の農業
政策は戰争を前提とする主食自給主義にあ
つたのであります。一朝戰時の場合、封鎖
経済に対処するために、ひたすら国内自給の建前をと
つて参りまして、農業労働力の
生産性を高めることによ
つて市場に適応するという、近代
経済法則に逆行する
政策に終始して参
つたのであります。併しながら戰争を放棄した
日本はもはやその必要はございません。又調和
会議を真近に望んで、国際
経済への全面的な参加近きを予想される今日において、主食強制作付主義から
適地適作主義へ、又土地の
生産性重点から労働
生産性の高揚へ、この転換を早くいたさなければ、
日本の農業はやがて
崩壞に瀕するであろうと思うのでありまするが、
農林大臣はこの基本的な点についてどのように
考えておりまするか伺いたい。
次に我が国農業の近代化を急速に成し遂げまするためには巨額の
資金を必要といたします。現在の農村は窮乏の一途を辿
つておりまして、到底この
資金の調達は不可能でありまするが、これに対して
国家資本投下の用意があると思いまするが、農相はどのように
考えておられますか。又
政府は農業復興金庫のごとき長期
金融機関を設けてこれに当らせる用意があるかどうか。昨年、勧業銀行を普通銀行に改編いたしました。これによ
つて農村の不動産
金融の途は鎖ざされているわけであります。
政府はこれに代るに興銀を以てなさしむるか、或いは新たな特殊銀行を設ける用意があるか。この点は
大蔵大臣に伺いたい。
次に今年度の供出成績の上らないのは米価の決定が遅れた点でございます。これは同僚議員諸君の指摘された点でもありまするが、対価を決めずして物を引渡せというのは、ただ弱い農民にだけ強要している偏頗な措置であるのであります。これは明らかに
国家権力の圧迫による私有財産の收奪でありまして、憲法違反であると思いまするが、農相はどのように
考えておられるか。農民は收奪的米価、徴税的な供出、これに堪えつつ祖国の復興に協力しております。この犠牲の中で、第五回国会を通過いたしました土地
改良法は農民にと
つてただ一つの希望であります。現在土地
改良法がありましも、
予算は計上されておりません。又従来の
改良費も殆んど削除されているという
状態であります。一方去る八日参議院議員会館において、土地
改良促進全国議員大会が開かれました。このときは民自党を初め各党代表が参加されまして賛成されているのであります。又坂本農林政務次官もこれ又参加されまして賛成の意を表されております。この土地
改良の問題に対して
農林大臣は如何なる促進の用意があるか。或いは
予算措置はどのように
考えておられますか。伺いたいのであります。
次に安本長官に一点伺います。農村工業の振興を図らなければ農村の過剰人口は吸收できないと思うのであります。
従つて政府はTVAのごとき機構によりまして総合的に
電源を開発すると同時に、これを基礎として農村工業を興す必要があると思いますが、所信を承わりたいのであります。
政府は
日本の復興のために
国民に耐乏を要求しております。耐乏も結構でございます。併しその耐乏には、耐乏することによ
つて、いつにな
つたら明るくなるかという希望を與えなければならないのであります。それ故に各国共に長期
計画を立てまして
国民に希望を與えつつ復興に
努力しているのであります。総理は五ケ年
計画のごとき長期
計画は無駄であるということを過日申されております。犠牲のみを強要されておりまする農民にと
つては盲耐乏は迷惑千万でございます。特に土地
改良事業は、その性質上長期且つ
計画的に行わなければ到底成功し得ないのであります。この点につきまして安本長官は長期
計画必要なしと主張されるかどうか。承わりたいのであります。農民は誠に犠牲の強要ばかしを受けております。併し未だ赤旗を立てて総理官邸を取囲んでおりません。又
議会に集団坐り込みもいたしておりません。併しながら農民一度憤激して立上るならば、大地の崩るるがごとく、或いは地軸を揺がせるごとく殺到して参りまして、吉田政権のごときは疾風枯葉を捲くがごとく壊滅せられるであろう(笑声、
拍手)ということをば警告いたしまして、私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕