○帆足計君 緑風会の主張の一環といたしまして、又首都十万の市民を代表いたしまして、
政府に
質問いたしたいと存じます。(「
国民だよ」「選挙
演説だよ」と呼ぶ者あり)
先ず第一に、
講和会議に臨む
国民の心組みに関してでございますが、この問題につきましては、先程
波多野議員からも触れるところがございました。申すまでもなく、
講和会議の問題が連合国によ
つて取上げられましたことは、祖国の前途に明るい
希望を投ずるものとして喜びに堪えない次第でございます。もとより敗戰の
国民といたしまして、これに対してとかくの批評や主張を云々いたしますることは、或いは愼しまねばならぬかとも存じまするが、それにしましても、自由を理解し、自尊心ある
国民といたしましては、これに対する見解なり、合理的輿論を持ちますことは当然のことであると存じます。而して、かかる公正なる
国民の輿論は、当然幾ばくかの範囲において、理解ある連合軍諸国の見解に反映するであろうことは当然のことと予想せられるのであります。
講和会議の問題につきまして、今後許さるべき
日本産業の水準の問題とか、賠償問題とか、いろいろな問題がございますが、今日といたしまして、それらはいずれも第二義、第三義の問題でございまして、私共が最も関心を持ちますところの問題は、先程
波多野議員も指摘せられましたように、祖国の
独立と、自由と、安全
保障の問題でございます。如何にしい祖国の
独立と自由と安全を
保障するか、問題はかか
つてこの一点にあるのでございまするが、その
保障の方法としては次の
二つの方法が
考えられるのでありましよう。第一には、特定国の衛星国となり、又はこれに海港又は軍事基地を與え、その駐兵を認めるか、又は特定数ケ国の集団的安全
保障の方法による場合でございます。第二の方法は、その技術的方法はともあれ、ともかく
実質的な
永世中立の立場を固守する方法でございます。
先ず、その第一の場合を考慮いたしますと、このような例は或いは妥当でないかとも存じまするが、仮に
日本が特定国の軍事的庇護の下に立ち、その軍事基地となることによ
つて安全
保障の道を求めようといたしまするならば、勿論私は米ソ間その他の
戰争のないことを信ずるものでありますけれども、万が一にも両国間に
戰争が勃発いたしました場合には、
日本本土は戰場となり、猛爆の中心となり、数十発の原子爆彈によ
つて痕跡も止めざるに至るであろうことが予想せられるのであります。尚、若し当該特定国が戰略的に撤退するといたしますならば、開戰月余にして、今日の保護者の手によ
つて明日は
日本の重要なる産業施設が破壞されねばならぬというような悲運も又我々に予想し得られるのであります。太平洋同盟への参加、その他数ケ国の集団
保障の場合におきましても大同小異でありまして、
日本の占めております宿命的なる地勢的
條件よりいたしまして、最もひどい犠牲と打撃を一身に受けるものは
日本の私達
国民であることを憂うるものであります。
從いまして、現実に残される道は、第二の
実質的
中立の途をおいては外にないと存じます。申すまでもなく、敗戰の祖国に万全の道を求めようとしましても、あり得る筈がございません。我々は與えられた
條件の範囲内において最善の道を選ばねばならぬと存じます。この場合、
永世中立の
條件といたしましては、国際連合又は
世界各国が
日本の
永世中立を認め、それに対して
保障を與えるということが
前提條件として必要なことは申すまでもございません。勿論その法制的な技術につきましてはいろいろな問題が残されておるでありましようが、スイツツルの方式にせよ、又はスエーデンのごとき
実質的なる
中立の方式にせよ、とにかく絶対的
中立の立場を保つことが唯一の祖国を救う道であり、新
憲法に忠実なる
ゆえんであると信ずるのでございます。同時にこの観点に立ち、飽くまで
日本国民がポツダム宣言と新
憲法の線に沿うて進みまするならば、ソ連、中国も又これを認め、
講和会議に参加するものと私は信ずるのでございます。若し万一講和が特定国だけの講和であり、その
條件が特定国の軍事基地と駐兵とを認めるものでありまするならば、それはポツダム宣言の約束する講和とは凡そ縁の遠いものである。(「そうだ」と呼ぶ者あり)又一面にはソ連、中国との対立の激化となり、他面には、
実質的には
日本の從属と植民地化との永続を
意味するものであると存じます。マツカーサー元帥は、デーリー・メールの主筆ウオード・プライス氏に、「余はソ連との間に
戰争が起るとは思わないが、若し万一
戰争が起つた場合においても、アメリカは
日本が軍事同盟国として参戰することは
希望してはいない。アメリカが
日本に
期待しておるところのものは、その
自立と平和であり、そうして望むらくは太平洋のスイツツルたることである」。私はこの
態度こそは、この示唆こそは、
日本の進むべき道を示したものであると信ずるのであります。私共はとかく過去の小銃、機関銃、戰車の立場から物事を
考え易いのでありますけれども、今や我々は原子爆彈の
時代に生きておることを忘れてはなりません。
世界の平和は今や人類がみずからを救うための絶対の要件であるばかりでなく、更に
日本国民といたしましては、如何なる
戰争に対しても飽くまで
中立を守るという堅い
決意が必要であると信じます。すでに一切の
武器を放棄し、永世の平和を
決意した
国民として、私は、如何なる国と雖も、
日本の国土の中において、
日本の国土を基地として、これを戰場とすることに対しては、断じてお断わりせねばならぬと思います。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)我々は原子爆彈の最初の天刑を受け、
戰争の災害を骨身にしみて味わつた
国民であります。この八千万
国民の平和と
中立への良心的叫びは、全
世界の平和を愛好する人類の知性と団結の力によ
つて保障されることを信じて疑わないのでございます。
永世中立の問題につきましては、総理がいつぞや、ベルギーの例を引かれまして若干の御批評がございましたが、その外交技術的細目に関しましては確かに幾多研究すべき余地もあるでありましようけれども、併しながら、何らかの形において
実質的な
中立の立場を堅く守り通したいという
決意は、恐らく八千万
国民の一致した要望であろうと存じます。私は、総理が今次の
施政演説におきまして、率直に新
憲法の精神を尊重され、平和に徹し、無
軍備を押通すべき
態度を闡明されましたことに対しましては、深く敬意を表するものであります。祖国の平和と
中立の問題に関しまする限り、自由党たると、社会党、民主党、共産党たるとを問わず、全
国民が良心にかけて一致団結せねばならぬことと信じまして、全
国民のこの問題に対する自覚を
期待しますると同時に、是非共総理の御賛成を
期待し、重ねて御所信の程を伺いたいと思うのでございます。
更に、現在
日本の置かれておりまする立場の深刻なる矛盾は、政治的にはアメリカ
民主主義の影響下にありますにも拘わらず、
経済的には
日本の生きるべき唯一の道がアジアにあり中国にあるということでございます。この微妙な切線を行きまするためにも、私は今日、
日本の進むべき道は
永世中立の道をおいて外にないと信じます。同時にそれはスエーデン、印度、
日本を繋ぐ平和の切線であると存じます。
日本の進むべき道は、今や單なる常識論や、即ち算術や、代数ではなく、
国民の叡智、即ち高等数学の上に立
つて打ち立てられねばならぬのではないかと思います。新生中国との
貿易につきましては、すでにイギリス
政府並びに印度、濠洲等の
政府は、それぞれ承認問題はもはや時日の問題のように思います。又ロンドン、サンフランシスコの商工
会議所等におきましても、相次いで中国との
貿易を要望する旨を声明しております。私が多少接触いたしておりまする在日華僑並びに中国の諸君にいたしましても、
日本が
中立と平和、即ちポツダム宣言の道に忠実である限り、その
経済体制やイデオロギーの如何を問わず、
日本と進んで提携すべきを
希望しているのでございます。この問題に対しましては、私は総理が從來の行きがかりを離れられ、虚心担懐、もつと積極的に中日
貿易再開のために努力されますことを
希望して止まないのでございます。
次に産業復興の問題につきましてお尋ねいたしたいのでありまするが、昨年の秋、戰前の五割程度まで回復いたしました
日本の産業は、その後、石炭、電力事情の好転、
貿易の振興並びに援助物資の増大によりまして、今春には六割、この夏には七割程度まで回復いたしました。併しながら
我が国の人口は戰前に比べまして二千万人も増加しておりまするが故に、
国民一人当りの生活水準は未だ戰前の五、六割にしか達せぬ
現状でございます。
国民大衆は未だ堪え難き苦痛と生活の不安にさらされている
現状でございます。かくて七割まで回復した国内の
生産をせめて
來年度には八割まで持
つて行きたいというのが私共の念願でございます。ところで目を転じて
世界の情勢を見ますると、西ヨーロツパ諸国はすでに
戰争の打撃から回復し、戰前水準の二、三割を超え、又カナダ、アメリカ等も戰前水準の更に七、八割までの繁栄を突破いたしております。併しながら戰後の五ケ年、
世界市場はすでに
生産過剩の徴候を呈し、
世界的な景気の停滯はもはや免かれ難い実情でございます。然るが故に、今春以來輸出
貿易は停滯し、滯貨の激増となり、又国内的には財政支出の減少、復
金融資の停止、一般購買力の減少等によりまして、
日本経済は著しい不況に直面いたしているのでございます。この不況を打開しまするためには、今若し漫然とただ通貨の増発、購買力の増大を図りまするならば、いわば
国民共食いとなりまして、資材を食い潰し、再びインフレの再燃は必至であります。然るが故に、この滯貨並びに原材料を極力
生産の方面に動員し、例えば食糧の増産、電源の開発、戰災の復興、住宅の建設、
失業者の救済、輸出並びに海運の振興というような積極的な方面に活用せねばならぬと信ずるのでございます。八千二百万の人口を抱え、年々増大する二百万人の人口を擁して、今
日程度の
生産水準で停滯するような
消極的な
政策では、敗戰の
国民は断じて救われないと思うのでございます。僅か四千万トン足らずの石炭が滯貨を生ずるような
消極政策は、どうしても切り換えて頂かなければならないのではないかと思います。現在
我が国は年に三億ドル近くの食糧を輸入しております。又この難局を打開しまするためには、現在の極端なデフレ状況を打破しまして、せめてドツジ公使が最初に予期しましたようなデイス・インフレの線に切換えることが必要であろうと存じます。このためには、
生産の復興並びに国土の開発方面の資金に対して積極的な疏通の途を開くことが必要であろうと存じまするが、これに対して総理大臣並びに
大蔵大臣の御所見を伺いたいと思うのであります。
我が国の食糧は
経済安定本部の計画によりますると、数年後に尚只今の倍額の六億ドル、二千万石以上の食糧を輸入いたさねばならぬことにな
つております。現在
我が国は年に三億ドル以上、一千万石以上の食糧を他国の惠みに依存しておる
現状であります。而も敗戰直後の一年であるとか、或いは飢饉等、特別の事情であるならばいざ知らず、年々巨額の食糧を漫然と他国の惠みに仰いでおります
現状は、嚴重に反省されねばならぬのではないかと存じます。私共は現在三億ドルの食糧輸入をせめて数ケ年後には二億ドルに圧縮するというような真劍な対策を樹立いたさねばならぬと信じております。併しながら
農民諸君の孤立した努力のみにこれを求めることは到底無理でございます。全
国民がこれを自覚し、これに協力し、国家が国策として積極的指導と援助をこれに與え、協同組合の育成、科学技術との結合、治水、治山、農地の改良、肥料の増産、国有林野の開放、牧畜水産の振興等、全面的努力が必要であろうと思います。
現状を以て
講和会議を迎えまするならば、祖国の
自立と解放どころか、
講和会議の日は
国民の飢える日でなくてはなりません。かくのごとき難局に処して、農林大臣は如何なる覚悟で農政に当
つておられますでありましようか、御所見の程を伺いたいのであります。
食糧の増産と並んで当面の急務は水力電源の開発の問題であります。敗戰の
日本といたしましては、かのデンマルクの復興のスローガンにもありましたように、外に失いしものを内に耕さねばなりません。彼の
日本降状の日、ミズーリ艦上におきまして、
日本の今後進むべき道に関し、マツカーサー元帥が、平面的復興ではなくして、
日本は立体的復興の方式を選ばなければならぬと言われましたことは、極めて示唆に富む
言葉であると私は思います。我が祖国は山高く水清き国でありますけれども、
我が国の水力電気は、御
承知の
通りそのアジア的な気候に影響されまして、夏は豪雨と洪水に見舞われまして、冬は渇水によりまして半減するというところにその欠陥があるのでございます。然るが故にこれが対策といたしましては、全国至るところにそれぞれの地勢に応じ、大中小無数のダムを設け、それによ
つて水流を夏冬平均化し、併せて電源開発と治山治水を結合し、食糧増産と工業の振興を結合することが必要であろうと存じます。このダム式の電源開発の急務に対して通産大臣は如何なる御所見をお持つでありましようか。電源開発に関しましては、アメリカのテネツシー・バレーの開発計画が極めて示唆に富むものでございまするけれども、同時に
我が国におきましては、鴨緑江の豊水ダムを開発いたしました強力なる技術陣を動員することが最も肝要であろうと存じます。この点に関しまして
政府の一段の施策と奮起を要望いたす次第であります。
次に本日御欠席でありまするけれども、
大蔵大臣にお伺いしたいのでありまするが、これは最初に述べましたように、現在産業界は非常なる資金難で悩んでおります。敗戰によりまして根柢から瓦解しました
日本経済再建のためには、正常なる民間資本蓄積だけでは到底再建の不可能なことは申すまでもございません。どうしても国家資金並びに
設備長期資金の援助が必要でございますが、右に関しまして
大蔵大臣なり次官にお尋ねいたしたいのでございまするが、第一には、アメリカ
政府からの好意の賜物でありまするところの援助見返資金を、もつと有効に復興資金に活用する方法はないものでございましようか。第二には、長期建設資金供給のための特別
金融機関の必要につきまして、
政府は如何なるお
考えをお持つでありましようか。第三には、この年末
金融並びに当面極度に梗塞しておりまするところの株式証券
金融に対しまして、
政府は如何なる対策を準備しておられるのでありましようか。第四には、庶民の渇望の的でありまするところの住宅
金融の問題につきまして、
政府は如何なる準備をしておられるのでありましようか。第五には、懸案の石炭関連産業の未拂金の処理に関しまして、通産大臣その他当局におきましては如何なる対策をお持ちでございましようか。これらの
諸点を適当なる機会に関係大臣の皆樣からお伺いしたいと思うのであります。
次に、吉田総理にお伺いいたしたいのでありまするけれども、
経済安定本部が非常な努力を以て作成しました五ケ年計画案は、混沌たる敗戰
日本経済に
一つの参考資料を提供いたしたものとしまして、私はその努力は相当高く評価さるべきものではないかと存じます。もとより現在のような複雑な
内外情勢の下におきまして、綿密なる計画
経済の不可能なことは申すまでもございません。併しながら少くとも祖国再建の大まかな目標と方法論だけは確立いたしまして、
国民の進むべき途を示すことが必要であろうと存じますが、これに対して
政府は如何なる見解をお持ちでありましようか。総理の
施政演説によりますれば、治水治山並びに失業対策とも結合いたしまして、下から盛り上る国土開発計画を強調しておられますることにつきましては、深く賛意を表する次第でありまするけれども、我々はその速かなる推進を要望いたしたいのであります。同時にこれに関連いたしまして、封建明治の遺物でありますところの、現在の余りにも狹小なる府県の制度を廃止し、道庁制度を設ける意思がおありかどうか。これに対する総理並びに関係大臣の御所見を伺いたいと存じます。
戰いに敗れました
我が国が、内に耕さねばならぬことは当然のことでありまするけれども、国土を耕さねばならぬと共に、人の心を耕さねばならぬと思います。即ち教育の改革、科学、技術の振興は
最大の急務でございます。湯川博士がノーベル賞を頂きましたことは、我々
日本人といたしまして
最大の誇りであり、喜びでありますけれども、これを機といたしまして、
我が国の科学技術
政策にこの際一大反省を加えて頂きたいと思います。(
拍手)
我が国の科学技術研究機関の
現状は実に惨澹たる実情でありまして、国家のこれに対する助成は全く冷淡極まるものでございます。(「その
通り」「同感」と呼ぶ者あり)而も多年、例えば納税思想普及費に一億円もの
予算が組まれていると申されますような、無駄な国費の浪費は至る所に見受けられるのでございます。更に、会社の科学技術研究諸施設に要しましたところの各種の施設、機械等に対しましても、戰時中は免税の方法が講ぜられておりましたのでありますが、現在は課税されまして、非常な
負担にな
つております。これらにつきまして当然免税されて然るべきではないかと存じますが、これに対しまして、関係大臣の御所見を伺いたいと存じます。
最後に、終戰以來、占領軍当局の御好意その他によりまして、D・D・T並びに化学薬品の普及は、衛生状況の
改善に著しい進歩の跡を示しましたにも拘わらず、現在結核の蔓延は恐るべき状況にな
つております。特に結核の予防という問題につきましては、殆んど国費もこれに割かれず、僅か九千万円程度しか割かれておりません。御
承知のように、結核は予防してのみ防ぎ得る病気でございます。而も病院に收容されておりまする患者は全患者の五%に過ぎず、百五十万人以上、それ以上の患者が放置されているというような状況であります。全国の保健所等におきましても、進歩したるエツキス線又はその他進歩した気胸療法
設備は殆んど六〇%しか備えられてないという
現状であります。
日本は彼の「ほととぎす」の物語以來、結核の国でございます。このために苦しめられ、又命を失つた秀才の数は、数知れない
現状でございます。然るが故に私はこの際、
政府当局は結核撲滅のために特別の部課を設けられ、一局を設けられ、これに対して最善の努力をなさることを要望したいと存じます。
最後に、現在室業者は激増し、引揚同胞、病弱者、未亡人等の生活難は言語に絶するものがございますが、交通整理又は都市の美観というごとき理由で露店商を駆逐することは余りに苛酷であると思いますが、これに対する関係御当局の御
答弁を承わりたいと存じます。私の
質問はこれを以て終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕