○遠山丙市君 私は委員会決定
通り原案に賛成いたすものであります。
本懲罰
動議に対しましては、草葉議員より提案理由の説明を聽き、懲罰事犯者でありまする中西、金子、カニエ、板野の四君より本会議における詳細なるところの弁明趣旨を拝聽いたしたのであります。懲罰委員会におきましては、
只今委員長より詳細御報告がございましたように、騒擾当夜の数葉の写真並びに数種の新聞記事等をも参照いたし、非常に沢山の証人を喚問いたしまして、宣誓の上、証言を得たのであります。而も愼重を期しまする上に、最後に事犯者に補充的弁明の機会をも與えまして、全委員は全力を傾倒いたしまして事実の真相を追及し、真実発見に努めて参
つたのでありました。かくして漸くにいたしまして結論に到達をいたした次第であります。(「委員長報告はもう聞いたよ。」と呼ぶ者あり)お靜かに願います。
先ず、中西議員の
議長の職務行使に対しまする妨害、副
議長に対しまする暴行、マイクを叩く等の不法行為等について検討を続けて見たいと思うのであります。凡そ懲罰問題は、人をして罰則に当て嵌めるという事案でありまするので、抽象的なるところの賛成若しくは反対の意見のみを以てよしとしないと私は
考えておるのであります。苟くも多数の証人の証言により、而もその証拠を中心といたしまして、処罰する段階、これに向
つていろいろ考究をしなければならぬと思
つておりますので、聊かお耳を再び汚す嫌いはあるのでありまするが、先ず一、二証人の証言を引用いたしまして御資料に供して見たいと
考えておるのであります。この中西議員の問題につきまして、矢野証人は、中西議員の名前を
指摘いたしまして、そうして公務執行妨害であるという点を非常に力説して注意を與えたと言
つておる点、それから松崎衞視の証言中、
議長が議事部長席あたりに行
つたときに、その行く手に五、六人の議員がお
つたが、その中に中西君がお
つたということを明白に述べておるのであります。又松嶋副
議長が
議長席に著きました際における中西議員の暴行行為は、幾多の証人の共述によりまして犯行は極めて私は明瞭であると思う。これはいろいろなる証人の証言を引用するまでもないわけでありまする。淺岡証人が、中西君が副
議長の足を引張
つたる事実を確認いたしておりまするし、それから婦人議員でありまする高良証人は、又次のような証言を行な
つておるのであります。中西議員は左手で副
議長の足を引張り、右手で何か掴もうとしておるように見えたと言
つておるのであります。又他の証人も同じようなる証言を幾人もいたしておるのであります。又他の証人は、中西君は副
議長の腰のあたりに掴ま
つて搖すぶ
つており、マイクを中西君が倒したことは、はつきり認めることができると
言明しておる人すらあるのであります。又証人といたしまして永野衞視の供述中に、中西議員が後から手を出してマイクのコーどを掴んだ。それを自分が後から押したらマイクが机の上から落ちた。そうしてぶら下
つた。こういうことを言
つておるのであります。以上各証人の立証によりまして、中西議員の事犯
関係は明瞭に相成
つたものであると確信をいたすものであります。(
発言する者あり)
次にカニエ議員の事犯
関係でありますが、この事犯は大体二つに分けまして御説明申上げる方が適切であると
考えておるのであります。その一つは、議院運営委員会における加藤常太郎議員に対する暴行傷害事犯であります。これは被害者加藤議員が証人として述べておりまする点は
只今委員長から報告がありましたから省略をいたしまするが、こういう点が又明瞭に相成
つておるのであります。又他の証人によりますと、確かに拳を以て加藤君の頭と頸との間に向
つて突いた、大体三回や
つたと、こういうことを言
つておるのであります。その他の証人も皆同樣なる証言をいたしておるのであります。この点についてはカニエ議員は別段否認もいたしておらんようでありますし、傷害事実は参議院厚生課の医務室の医師の診断書においても明瞭でありまするから、省略をさして頂きたいと
考えておるのであります。
それからカニエ議員の他の一つの事犯は、議場内における騒擾事件即ち松平
議長の職務執行に対する妨害でありまして、問題はカニエ議員が
議長の股ぐらに飛び込んだかどうかという問題、この点を明白にいたして見たいと
考えておるのであります。大体飛び込んだものなりや否や、即ち自己の意思に基かずして倒れたものであるかどうかということについては、各証人の利益なる証言並びに不利益なる証言等も併せて御披露に及びまして、賢明なる諸君の御批判に訴えて見たいと
考えておるのであります。証人の廣元衛視班長は利益なるところの証言をいたしておるのであります。カニエ議員が
議長の右側の方から左側にかけてよろよろつと倒れかけて來た。又助けて呉れというような声がしたと、こう言
つておるのであります。又山田衛視副長は、私が
議長の所に行きますと、その下にしやがんでおる者がある、こういうようなことを言
つておるのであります。証人として出ましたる松平
議長は、この点について詳細なる証言をいたしておるのであります。その言葉の中に、揉み合
つておるうちに、誰か自分の前と立ち塞
つてお
つた人との間に倒れた人がある、二人の衛視が前へ引つ張
つて呉れたが通ることはできなか
つた、その人は何となく足下にまつわるような気がした、股なんかにちよつとしがみ付いたようなことはあるが、終始押えてはいなか
つたと、こういうことを言
つておるのであります。その人が倒れたとき、どつちから來たか、どうだ
つたかというなことは全然分らぬ、こう
議長さんは述べておられるのであります。ただ、いきなり足下にぱつと人が來たというだけである。こういうことをおつしや
つておられるのであります。又その人がどういうことを
言つたか言わなか
つたかということは全然気が付かなか
つた、恐らく無言であ
つたように思うと、述べておられるのであります。証人山田衛視の証言によりますると、自分が混乱の中に入
つて、
議長の通路を開く
ため、初めに前におりまする人間を除かして前を少し拡げた、その一尺か一尺五寸ぐらいの間に一瞬自分の左からカニエ議員が潜るようにして入
つた、押されたのかどうかは分らぬけれども、自分としては飛び込んだと
考えると、はつきり
言明いたしておるのであります。これはカニエ議員に対する不利益なる証言であります。各証人は、よろよろつと倒れたとか、助けて呉れとか、しやがんでお
つたとか言
つておりますが、
議長の証言によりますと、ただ、いきなり足下にぱつと人が來ただけだと言
つており、それから足下にまつわるような気がしたとか、助けて呉れとも何とも聞かなか
つたと、こういうようなことを言
つておるのでありまする。山田衛視班長の証言というものは誠にはつきりいたしておるのでありまして、カニエ議員が潜るようにして入
つた、自分としては飛び込んだと
考えると述べておるのであります。かくのごとくに相異なりますところの証言がありまして、真相把握には誠に困難でありまする。カニエ議員が仮に何かの調子によ
つて倒れたといたしましても、カニエ議員が
議長の足下に横たわ
つておればこそ、衛視二名が引つ張
つても、
議長は一歩も前進することができない実情にあ
つたのであります。かくして
議長の公務執行に重大な障害を與え、よ
つて議長の職務行使を不能ならしめたる重要なる
責任者なりと言わなければならぬのであります。(「それはもういいんだよ、過ぎたことだから」と呼ぶ者あり)
次は金子議員の事案でありますが、
議長席に著きましたる松嶋副
議長に対しまして暴行を以て公務執行妨害をなし、(「簡單に簡單に」)と呼ぶ者あり)議場をして混乱に陥れたという事案であるのであります。各証人の証言を案じまするのに、証人松嶋副
議長の陳述によると、手を持
つて引つ張
つたり、足を引つ張
つたり、左のこの辺を小突き廻されたりしたが、手を引つ張
つたのは金子君だということは後で分
つたと、こう述べておるのであります。又他の証人は、副
議長の左手が引つ張られておるそのときには、誰だか分らなか
つたが、とにかく頭の禿げたのが引つ張
つておる、(笑声)
あとで、それが金子議員でということが分
つたと証言をいたしておるのであります。又他の証人は、金子君は副
議長の左手をかけて引き下ろそうとしてお
つたのを見たと言
つておる人もあるのであります。又他の証人は、大方同樣の証言を行な
つておるのであります。そのうちで高良証人は極めて重要な証言をいたしておるのであります。即ち副
議長の椅子に近付いて右手を副
議長の肩に当て、左手で副
議長の腕を引つ張
つて頻りに引き下ろそうとしており、北村議員が覚書を机の上に何度も拡げて延ばそうとすると頻りに取ろうとしてお
つた、覚書は一度鷲掴みにされた、誰の手だかはつきり分らない、金子氏の行動は、副
議長を引き下ろそうとしたが力及ばなか
つたので、今度は覚書にかか
つてお
つたように思われた云々と述べておるのであります。又他の証人は、北村氏が
議長席に置いたと思われる書類、それを金子君が鷲掴みに握
つたことは私が見ておる、
議長が腰掛けたのを金子君は椅子を引き倒そうとするというようなことも同じように述べておるのであります。金子議員の副
議長に対しまする暴行行為は、淺岡議員が椅子を押えておらなければ恐らく引つくり返
つたであろうという証言すらあるのでありまして、その暴行は全く目に余るものであり、覚書を鷲掴みにするに至りましては、言語道断の暴力行為と言わなければならないのであります。
次に板野議員の
議長の職務妨害並びにマイクを叩き、議場をして混乱せしめた重要な事犯者といたしまして、若干御説明を申上げて見たいと思うのであります。板野議員は種々弁明をいたしました。事犯該当者にあらざる点を又委員会等においても力説せられたのでありまする。私はその然らざるゆえんを証拠によ
つて明らかにいたして見たいと思うのであります。或る証人は、
議長が入つ來ると、二三人、多分板野君が先頭だ
つたと思うが、手を高く挙げて振りながら壇上に上
つて來たと言
つておるのであります。又証人松平
議長は、誰が先に來たか記憶はないが、板野君もお
つたと、はつきり述べておられ、その他の証人も同じようなことを言
つておるのであります。早川証人は、私が議場に入
つたときはすでに板野君は演壇の所にいて、議場の方に向
つて何か頻りに叫んでお
つたと言
つておる。他の証人は、板野君が一番先に事務総長の前の所にがたがたと駈け上
つて、手を挙げると、外の諸君がぞろぞろと上
つて來た、大勢を呼び集めて
議長を食止める方の役を勤めたようにも感じられたと、こう言
つておるのであります。証人赤沼衛視班長も、板野君も
議長の進む前に立塞が
つてお
つたと、こう
言明しておる。その他の証人のごときは、板野君の名前を指し、公務執行妨害ではないかと言
つて注意すら促したる人もあるのであります。前述のごとくに、板野君の行動は、
議長の職務遂行に当りこれが妨害を與えたるものなる点は、最も明瞭に相成
つたと
考えられるのであります。板野議員の行為はただにこれに止まらず、マイクに手をかけてがたがたさしておる事実も証明されておるのであります。或る証人は、板野君が
議長席の上のマイクに手をかけて叩いておるのを見たと言
つており、又他の証人も同樣に、板野氏は二つばかり並んだマイクを掴まえてがたがたや
つておるのを見たと供述いたしておるのであります。証人赤沼衛視班長は、板野議員はマイクで卓を叩いた、自分はマイクが壞れるから静かに願いますと
言つたら止めたと言
つておるのであります。これによりまして、板野議員の行動は、
議長の職務運行に対しまする妨害者といたしましての立役者を勤めたと言わなければならないのであります。マイクに手をかけ叩くに至
つては、その事犯決して軽いものとは思考し能わないのであります。
ここにおいて、事犯は動かすべからざるところの証人の証言、この証拠によりまして、極めて明瞭に相成
つたと
考えるのであります。事犯者四君共に遺憾ながら事犯該当者なりと断ずるものであります。(
拍手)
戰後
日本は、平和国家、民主国家といたしまして誕生したのでありまして、民主国家として暴力行為は断じて許容せらるべきものではないのであります。立法の府である参議院において騒擾、暴行、進んで傷害事犯が公然と行われたということは、国家最高機関の権威の
ためにも遺憾至極であります。誠に
国民の指彈を買うところの一大不祥事件であり、国会の名誉を失墜するものであります。我々公職の最高位に就く者は、私事私行を去りまして、法の前には嚴然たる態度を以て臨んで行かなければならぬのでありまする、参議院規則二百四十五條には、議院を騒がし又は議院の体面を汚し、その情状が特に重い者に対しては、登院を停止し、又は除名することができる旨明記しておるのでありまする。
事犯者中に、中西君は最近の国会においては懲罰に付せられておるのに拘わらず、前述いたしましたように、前回とは比較にならない重大なる事犯を敢えて敢行したということは、改悛の情更になきものとして、遺憾ながら国会法第百二十二條、(
拍手)懲罰事犯罰則中の最高刑たる除名は当然なるものとして、原案に賛成するものであります。(
拍手)若しそれを除名以下の罰則を適用せんか、(「除名にならないよ」と呼ぶ者あり)それが先例となり、除名処分に付する場合においては、この度の事犯以上の重大事件でなければならない。例えば
議長に暴行を加え、頭を割り、腕を折り、足を挫く等、(笑声)古今未曾有の大騒擾事件のみに適用せられる結果となることを虞れるのであります。(
発言する者多し)
次にカニエ、金子両君は事犯者といたしまして、これ又証拠に照らし、事犯誠に明瞭であります。カニエ、金子両君共に、中西議員と異なり、初めての事犯敢行者であることに留意いたしまして、カニエ、金子両君の犯行には若干の差等を付けるのが適当であると思惟し、カニエ議員に対しましては登院停止三十日、金子議員に対しましては登院停止二十五日という原案には賛成するものであります。
最後は板野君でありまするが、これ又重大なる事犯者であるのに拘わらず、
只今どうも無罪のような御議論が出たようでありまするが、誠に根拠のないことでありまして、不可解千万なる御議論であると言わなければならぬのであります。板野君の騒擾当夜の行動は全く常軌を逸し、本件事犯の急先鋒といたしまして事件を拡大いたしたのみならず、
議長席のマイクに手をかけ、これを叩く等、その事犯は決して軽いものではありません。故に登院停止二十日は適当なる処断といたしまして、原案に賛成するものであります。
願はくば諸君の明鑑に訴え、国会の権威を保持し、民主政治に背反する暴力一掃の
ために原案に御賛成あらんことを切望する次第であります。(
拍手、「弁護士はやらんぞ」と呼ぶ者あり)