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松井道夫君 次は第四條の
関係でありますが、これは例の技術的な
規定で非常に分りにくいのであります。又適当であるかどうか非常に疑問の多い
規定であると思うのであります。先ず第一項から申しますと、一日二百円以上四百円以下という
補償金の額にな
つておるのでありまするが、これは資料として
刑事補償金額参考資料というものを頂載しておるのであります。併しながらこれを拜見しても、二百円以上四百円以下ということの如何なるゆえんかなかなか了解しにくいのであります。旧
憲法下の現行
刑事訴訟法では五円ということに相成
つておるのでありまして、單に物価指数からいたしましても、これは四十倍乃至は百倍は
ちよつと欠けるという程度であるのでありまして、普通百倍と申しております。そうすると、四百円という中途半端な数はどうしても分らないのであります。五百円とすれば、百倍にしたのだなあということが分るのであります。四百円というのは
ちよつと了解しにくいのでありますが、成る程この資料の五というところに、鑑定人及び通事の日当が出ておりますが、これによりますと、証人については六十倍、鑑定人、通事については三十六倍ということで、前者は百二十円以内、後者は三百六十円以内、大体この数字を基礎とされたという御
説明であ
つたと思うのでありまするが、私はこの旧法の数字、或いはその当時の立法の
理由であ
つたところの、こういうものをそのまま新らしい
刑事補償法に持
つて行くのは私は間違いであると思うのであります。先程からいろいろ御論議のありましたように、旧法のこの制度を認めた根本の立法
趣旨と、新
憲法下のこの制度を認めた根本の
趣旨とは、これは全然違
つておるものであると存ずるのであります、その故にこそ全然旧法を廃止いたしまして、新法
制定ということに相成
つたように私は解したいのであります。権力的な官権の行使はすべて御無理御尤もであ
つて、これによ
つて損害を
国民が蒙む
つても、それは
国家としての止むを得ざる
損害であ
つて、止むを得ない
補償は
損害賠償はいたさないのでありまして、
国家本位の、
国家権力本位の考えであ
つたのが、新
憲法になりまして
国民に主権がある、
国家組織はその
国民に奉仕すべきものであるという考えに変
つて参りまして、
憲法十七條の
国家補償とか、
国家賠償、それから四十條の
刑事補償というものも当然その精神によ
つて律しなければならないのであります。要するに主客顛倒いたしておるのであります。でありまするから、この
刑事補償法の
金額につきましても、これは單に証人に日当を拂うとか、鑑定人に日当を拂うとかいうような考えであ
つてはならないと私考えるのであります。通常生ずる
損害に、この当然生じまする無辜の者が拘留、
抑留されまして、当然生じまするその直接の精神上の苦痛、のみならず名誉を侵害されまするところのその精神上の苦痛というようなものは、当然この中に織込まなければならない。現に第二項にそういうことが書いてあります。ところが第二項があるに拘わらず、第一項の
金額を見たところでは、そういうことは出て参らないのであります。現在の俸給を貰
つておる。勿論最高は四万円も何がしも俸給にはありますが、最高の四百円にいたしましても、月に直しまして一万二千円にしかならないのであります。でありますから、現実に相当の有力者が拘留、
抑留されまして、仕事ができない、或いは職から退かざるを得ないような状況になりましたような場合には、この最高額を以てしても、これは
補償にならないのであります。この最低額の二百円は、これは三十倍に直すと六千円になります。今の賃金ペースから言いますと、官庁あたりでは六千円ペースであるのでありますが、漸くそれに達したというところである。それにこの精神上の苦痛をその倍額加えるといたしましても、全然もう
補償の
意味にならんことに考えるのであります。如何にも恩惠的なほんの涙銭とい
つたものにしか当らないのであります。我々は、殊にこの検事であるとか、弁護士であるとかいう者は、普通刑事
事件を
取扱い慣れておりまして、そんなに苦痛があるということをしみじみ感じなくなる虞れがあるのでありまするが、実際縁に繋がる無辜の者の苦痛は、実に想像に余りあるのでありまして、先程私
ちよつとその点に触れたのでありまするが、これは十分な
補償をしてやる必要があると存ずるのであります。この二百円以上四百円以下というものは、これは要するに立法
趣旨の全然違う旧法の最高五円の百倍にも足らない。生活費その他賃金、その他皆二百倍とか、二百七十一倍とか、ここに資料がありまするが、そういう工合に暴騰いたしておりまするときに、何としてもこのような額は了解できないのであります。先ずその点についての御
意見を伺いたいと思います。