○農林大臣(森幸太郎君)
食糧確保臨時措置法の一部を改正する
法律案の
提案理由を申上げます。
食糧確保臨時措置法は、
食糧供出制度の根本的改善を図るため、第二回
国会に
提案し、
法律として成立を見たものでありまして、今年産主要
食糧農産物から、この
法律に基き農業
計画を各
生産者に指示し、これにより今年産主要
食糧農産物の
生産及び
供出の確保を期していたのでありますが、昨年末経済九原則が公表され、
日本経済の自立安定はひたすらこの線に沿
つて強力に推進されることに
なつた結果、その最も重要な一環を占める主要
食糧農産物の集荷も従来の制度に改善を加え、その能率の
向上を図られねばならん次第に相成
つたのであります。右九原則の具現化に当りましては、特に財政の実質的均衡、物価及び賃金の安定がその根幹となるのでありますが、終戰以来の経験に鑑みましても明らかな
通り、経済全体の改善につきましては、
食糧配給の確保がその大きな
基礎的な役割を持
つているのでありますから、この際急速に経済の自立安定を図らんとするならば、
食糧配給は必ずこれを確保せねばならんのであります。終戰以来、我が国は
食糧の不足を
輸入食糧により補
つていることは今更申上げるまでもないことでありますが、今日我が国は
配給主要
食糧の約二割五分を
輸入食糧に仰いでいるのであります。そうして今日までこれはすべて連合軍の占領地救済
基金により供給されているのでありまして、我々が自力で調達し得たのではないのであります。即ち我々は連合軍の絶大なる援助により、終戰以来今日まで
国民生活の破綻を防止して参
つて来たと言えるのであります。併しながらいつまでも連合軍の好意ある援助にのみすがることはできないのでありますから、我々はこの際、その必要とする
食糧を自力によ
つて最大限度に確保することについて、従来に増し一層の努力を傾けなければならないのであります。これがためには先ず
国内産
食糧は可能な限り、余すところなく集荷し、これを公平に配分するのが第一でありまして、その十分なる実現をして後にこそ、初めて真の不足量の
輸入につき、連合軍の援助を引続き期待することができるのでありますし、又今後極めて乏しい我が国の輸出代金を
食糧輸入に割くことが期待できるのであります。現行の
食糧確保臨時措置法は、主要
食糧農産物の
生産、
供出その他に関する農業
計画の指示を作付の事前にこれをなし、爾後
供出割当数量は増加せられないことを規定しているのでありますが、これは
国内産
食糧の超過
供出を
農民の自発的意思にのみ期待するものといたしますため、最大限の
食糧を集荷しようとする面から見ると、経済自主化を急速に促進しなければならない現段階におきましては適当でない点がありますため、旧臘連合軍最高司令部からも、九原則に関する書簡の発表に相次ぎ、主要
食糧集荷に関する覚書が発せられ、この点の
法律改正が指令せられたのであります。従いまして今般の改正は、この覚書に基き、減收があ
つた場合は、これの減額補正を実施すると共に、
食糧需給の均衡を図るため、特に必要がある場合は作況を考慮して、
供出数量の変更をなし得るような
措置を講じるための法的
措置を主たるものとしているのであります。
以下順次内容の重要な点を述べますと、第一に、現在地方農業調整委員会を置いた場合、都道府県知事は、地方農業調整委員会の管轄区域については、地方農業調整委員会の議決を経て、その区域の市町村別の農業
計画を定めているのでありますが、従来この点については、明瞭な法規上の規定を欠いておりますため、新たにこれを設けたのでありまして、農業
計画に対する
異議の申立に関しても、地方農業調整委員会を関與せしめるものとしたのであります。
第二の点は、現行法によると、農業
計画が公表されても、そのまますべての
生産者が納得するとは限らないので、
生産者が自己の農業
計画に対して
異議があるときは農業
計画の公表のあ
つた日から十日以内に、市町村長に対して
異議の申立をすることができることにな
つているのでありますが、
異議の申立の期間を、公表のあ
つた日から、十日以内とすると、各市町村の農業
計画の公表が時間的に差異がありますため、市町村の農業
計画により県の
供出数量に変更を生ずる場合、その事務処理に、支障があるのであります。即ち
現状においては、農業
計画の変更は、国全体の
食糧事情を考慮して決定しなければならない事情がありますため、最後の
異議申立があるまで全体が決定し得ないことに相成るのであります。特に現在法規上は、知事の承認を要する場合の決定は、
異議申立期間経過後四十日以内とな
つておりますためこの
関係からも実際の決定が著しく困難となるので、農業
計画に対する
異議の申立は、都道府県知事が定める期間内にこれをすることに改めたのであります。
第三の点は、これまで市町村長が
生産者に農業
計画を指示する場合において、その指示は一定の形式によることを特に定めておりませんでしたので、個人別割当が曖昧となり、特別価格の支拂等につき不都合がありましたので、個人別割当を常時明確ならしめるためにも、個人に対する割当の指示は、農林大臣が様式を定めた書面によるべきことを明文化したのであります。
第四点は、本改正
法案の主眼点であります。前述の
通り、
政府は
生産者が災害等真に止むを得ない事由により、当初に定められた
供出数量の
供出が不可能と
なつたと認めた場合、及び收量が当初の見込に比し増加し、
生産者に
供出の余力があり、且つ国の
食糧事情からも
食糧需給の均衡の保持上必要があると認めるときには、中央農業調整審議会及び都道府県知事の意見に基いて、事前に割当てた
供出数量の変更をなし得ることとしたのであります。
次に、
供出数量の削減の場合の手続の点であります。現行法によると、
生産者から市町村長に対し、減額請求があ
つた場合に、
供出数量の削減を行うことにな
つておるのでありますが、これによ
つては
農家の
現状から見ても、減額請求の手続を逸して補正を受け得ぬ
農家が生ずる虞れがあり、補正の完全を期し難い事情があると思われますので、災害等のあ
つた場合は、
政府の指示するところにより、市町村長がこれを行うことと変更したのであります。
以上の
供出数量の増減変更の場合にも、農業
計画の事前割当の指示の場合と同様に、
生産者の意思を尊重し、
供出数量の変更に対する
異議の申立を認め、割当変更の公正を期し、
農家の納得の行く
供出を行な
つて貰おうとするものであります。尚
供出数量の変更を受けないものにつきましては、市町村長がその旨公表し、これに対し
異議の申立をなし得る途を開き、かかる場合の救済
措置を講ずる次第であります。ただ
供出数量の変更に対する
異議の申立については、
供出期限の
関係もあり、
生産者別の
供出数量を迅速に決定する必要がありますため、市町村長は
異議申立期間経過後十日以内に、都道府県知事の承認を要する場合は、
異議申立期間後二十日以内にこれを定めることとし、当初の農業
計画に対する
異議申立後の決定の場合に比し、その期間を短縮したのであります。
改正の第五としては、農業
計画の変更の場合の
措置につき、これを円滑に
運営いたしますため、いわゆる地方補正を明らかに法的制度として認めようとするものであります。即ち特に必要ある場合には、都道府県知事は都道府県農業調整委員会の議決を経た後に、農林大臣の承認を経て、農林大臣が指示した農業
計画に変更を来さない場合に限り、事前に割当てた
供出数量の変更について農林大臣の指示と異
なつた指示を市町村長にすることができることとした点であります。これは全体としての
食糧確保には支障なく、而も市町村の実態に即して合理的補正を行うための
措置であります。尚この場合においても指示を受けた
生産者が
異議の申立をなし得ることは勿論であります。
以上のごとく今般の改正は、内外の要請から、災害等の場合の減額
措置に併せて
食糧需給の均衡保持上必要ある場合は、收穫の増加した
生産者に対し
供出数量の増加を命じ得る途を開いたのでありますが、若し努力して收穫した数量のすべてに対し追加割当を命ずると、真面目な
農民の勤労意慾を阻害する虞れがありますため、
政府は追加割当の場合、
食糧事情の許す限り、超過
供出をする
生産者が超過
供出の一部を保有することができるように増加数量を定めなければならんこととしたのであります。
最後に、改正の第六点について申述べますと、主要
食糧農産物の
生産を増進するため、
生産障碍除去に関する市町村農業調整委員会の指示権の中に、陰樹の伐採を加えた点であります。今日耕地に隣接する林木の陰のため、その耕地の
食糧の
生産力が著しく低下しておる事例がありますため、かくのごとき場合、陰樹を伐採し得ることといたしたのであります。これの
運営につきましては、具体的事実を十分考慮の上、愼重に運用せしめるつもりでありまして、その際の補償の
措置についても、受益者は市町村農業調整委員会の指示に従
つて、損失を受けたものに補償しなければならんこととし、陰樹伐採に関する指示を円滑になし得るようにしたのであります。
以上が
食糧確保臨時措置法改正
法案の骨子となる点でありますが、要旨とするところは、経済九原則の具体化を中心とする
日本経済再建に関する近時の動向に即応するため、
供出制度の能率的な改善を図らんとするところにあるのであります。何とぞ速かに御審議の上、御可決下さいますようお願いする次第であります。