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公述人(徳島米三郎君)
只今御
紹介に与かりました徳島でございます。先ず最初に
所得税法の臨時特例に関する
法律案について御
意見を申上げたいと思います。この
法律案は誠に簡單な
法律案でございますけれども、その根柢に流れておるものは、今度の
シヤウプ勧告の全面的の
実施の
一つの前触れであります。従いましてこの
法案が通過するということは取りも直さず
シヤウプ勧告がそのまま、全面的に
実施されるということを予想されるものであります。今回の案はいわゆる勤労
所得税に関する取扱が主とな
つたのでございますけれども、これは現在の源泉徴收の
実情からい
つて、一月から
実施しないと間に合わないから一月から
実施するということにな
つておるだけの話であります。この点につきまして、いろいろ誤解が多いのではないかと思いますので、その点について一言申上げたいと思います。
国会におきまして池田
大蔵大臣はこの補正
予算に対する
質疑に対して、今度の補正
予算では労働者の方に特に思い切つた減税を
実施してや
つておるというふうな答弁が新聞にも出ております。成る程今度の減税二百億の
内容を調べてみますと、
所得税では源泉所得のものだけでございます。併しながらこれは何も源泉所得のものだけが特に恩惠に与か
つておるのではなくして、実はシヤウプ案ではその外の
所得税全般に勤労
所得税以上の恩惠を与えておる。と申しますのは、外の
所得税、源泉課税以外の
所得税におきましては、一月以降の所得については、第一回の納期は六月末であります。従
つて一月、二月、三月の所得については、いずれも六月にならないと
税金を支拂わない。ところが勤労所得者の場合については、これは源泉徴收の
関係で、一月済めば直ぐに翌月一月の
給料の中から
税金を取られてしまう。先に取られてしま
つておる。こういうふうな点が違うだけであります。従
つてこの
関係について特にお
考えを願わないと、特に今度の補正
予算については、勤労者にだけ恩惠を与えておるような池田
大蔵大臣の答弁が、そのまま誤解されて承認されてしまうわけであります。こういう答弁をなさるのは、結局我々の今
関係しております官庁労働者に対して賃金を釘付けするための、
一つのいい宣伝材料に使
つておるとしか我々は思えないのであります。而も池田
大蔵大臣が、この案が決まる前に、盛んに宣伝しておりました
シヤウプ勧告案以上の減税、つまり勤労者にと
つては今まで二五%認められておつた勤労控除というものが、今度のシヤウプ案では一〇%に減
つてしまうわけでありますが、これを池田
大蔵大臣は一五%までに止める、シヤウプ案以上の減税にするというふうに盛んに宣伝しておりましたけれども、この宣伝が今度の臨時特例によ
つて、無惨にも挫かれて
しまつたということがはつきりしたのであります。こういう都合の悪い点については、
大蔵大臣はちつともおつしや
つておらない。そうして又この減税が非常な恩惠であ
つて、そうして来年一月から
実施されるところの運賃の値上げ、或いは米価の値上げ、そういういろいろな
物価騰貴を相殺して、尚減税の方が大きいというような答弁をなさ
つております。又青木安本長官も、先般安本の方から発表に
なつた非常に細かいデーターによるところの減税と
物価騰貴の
関係、つまり今度のシヤウプ案によると、減税よりもむしろこのシヤウプ案全体を通じて出て来るところの
物価騰貴、これは資産再評価による
物価騰貴を除外して、ただ価格調整費の削減だけを考慮したところの
物価騰貴、それと比較して実は減税よりも
物価騰貴の面の方が労働者には強く響く。つまり労働者の実質賃金は低下する。こういうふうな
意見を安本の事務
当局は発表しましたが、昨日の
国会では、安本長官はそういう
意見を覆えして、いや減税の方が多いのだという答弁をされたように新聞は報道されております。併しこの点につきましては、その安本長官の言明の基礎にな
つておるデーター、或いは
大蔵大臣がしばしば言
つている計算基礎がはつきりしませんので申上げませんけれども、併し
大蔵大臣が
国会で答弁しておるこのいろいろな計算の中には、只單に勤労所得が
減少するという一点と、その半面今度の補正
予算による価格調整費の削減に伴つた
物価騰貴、この二つを比較して、そうして今度は勤労
所得税の
減少の方が非常に大きいのだ、こういうふうな
意見を出しております。併しこの
意見は、
シヤウプ博士がしばしば繰返して強調されました
税制の問題は、全般を通じて検討しなければならないという問題を忘れた議論でありまして、このシヤウプ案というものは、国税の方で減税する代りに地方税の方で大幅に増徴するという、この地方税の増徴ということを一願もしていない議論であります。成る程地方税の改正は四月以降に
実施されます。併しながらその計算基礎については、或いは一月に遡
つてこの計算基礎が置かれるかも知れない。そういうことを
考えるならば、どうしてもこの減税という問題は、
税制全般、或いは
物価との関連全般を
考えてやらなければならない議論であります。昨日の
予算の
公聽会において、一橋教授の井藤半彌先生は、勤労
所得税は却
つて増税であるというふうな
意見を
公述されたように新聞で拜見いたしました。併しながらこれは何も今度の
税制改正によ
つて増税になるというものではありません。すでにわれわれ勤労者、或いは所得者全般でも同じですが、昨年の七月からの
税制改正以後毎月々々我々は増税を受けて来た、実質的な増税を受けて来た。現実に増税を受けているのだということの方が適切な表現であります。つまり勤労
所得税は昨年の七月から改正に
なつたとき、成る程そのときには前月に比べて可なり減税に
なつたようであります。併しその後
物価は毎月々々騰貴しております。にも拘わらず基礎控除その他の控除は依然として据置かれておる。従
つて実質的には毎月増税にな
つておる勘定であります。この点について最も分り易い例を引きますと、ドイツにおいては、あのインフレの最高潮期におきましては、この天引
税金の控除額の計算は
物価指数に応じて自動的に調節できるようにな
つておつた。この例
一つを取
つて見ましても、こういう
物価に応じて控除額を引上げるということは、これは極めて当然の措置でありまして、これは本当の減税でも何でもないというようなことがいえるわけであります。
又一面
数字的な減税がどうこうというよりも、一体今勤労
所得税というものは、どういうふうな
状態の中から納められているかということを十分御検討を願いたいと思うのであります。前の
公述人から勤労
所得税の滞納等についての
お話がございましたけれども、現在
中小企業におきましては、もう小さな会社では殆んど全国的な現象でございますけれども、二月、三月前の
給料を今やつと二千円とか三千円とか分割して支
拂つているというふうな会社が沢山ございます。従
つてこういうところではなんとかした賃金の遅配をなくしたいというような
状態、そういう
状態の中から今
税金が拂われておる。又銀行とコネクシヨンがあ
つて、賃金の支拂に金を貸して呉れるような会社では、どういうことをや
つておるかというと、銀行は
税金を引いた残り、つまり労働者に拂う手取りの賃金だけを貸して呉れる。従
つて会社の方では勤労
所得税を拂えば現金がない、こういうふうな
状態で止むを得ず滞納する、こういう
状態にな
つておるようであります。こういうふうな中から現在勤労
所得税というものが支拂われておる。そうするならば、今の問題は、果してこういう
状態の中で本当に勤労
所得税の、今のような
軽減とい
つても殆んど名前だけの
軽減、十円でも
軽減なら千円でも
軽減、或いは一万円でも
軽減、
軽減ということに変りはありませんけれども、今度の
軽減は極めて僅かな
軽減であります。こういうふうな
軽減で果して妥当なものかどうか、前の
公述人も非常に
所得税の基礎控除額が低いということを申されましたけれども、我々も亦、これは
お話にならないくらい低いと申上げる外仕方がないのであります。それから、次にこの
所得税法の臨時特例の中には帳薄の問題、いわゆる青色申告書の問題が出ております。この問題は
シヤウプ勧告の中でも、特に強調されました問題でありまして、
シヤウプ勧告では、今、
日本のこの税務行政というものが、極めて非科学的な、不合理なやり方をや
つておる、従
つて税法
通り税金をとるという極めてまともなことが、今実行できていない。これを税法
通り税金を取るように改めるには、どうすればいいかというので、非常に苦労されたようであります。その結論としては先ず帳薄をつけさせる、そうして帳薄をつけたものには、非常な恩典を与える。こういうふうな案が青色申告書ということに
なつたわけでありますけれども、果して、これが旨く行くかどうか、この点について私、この前
シヤウプ博士にお会いしたときに、特に申上げたのでありますが、この帳薄をつけさせるという運動は、一番大事なものは何かと言えば、現在のこの苛酷な
税金をもつと緩めて納税者が納められる限度の
税金にしなければ駄目だ、いくら宣伝し、いくら利益を説いてみたところで、納税者が本当に、納められる
程度の
税金にならなければ、こういうものは到底実行出来ないのだ、いくら強制した
つて駄目だということを申上げたのであります。現在のような、極めて低い基礎控除の下において、非常に苛酷な
税金を課けられておる、納税者は多少の恩典を与えられたところで、決してこの税法
通りの
税金というものは、なかなか納められるものではありません。従
つて、こういうものは、果して
シヤウプ博士の思われるように、うまく運営されるかというと、我々の考からいうと、これは非常な疑問があると申上げるより外に仕方がないのであります。これに似た制度が、現在でも行われております。と申しますのは、現在税務代理士が関与しております申告書には、色分けには、税務代理士が全責任を負う申告書と、それから税務代理士が、ただ納税者が提出した
資料に基いて、ただ整理しただけの申告書と二種類の申告をすることにな
つています。これは戰時中からこういう制度が出来ましたけれども、それはうまくい
つておりません。何故うまくい
つておらないかというと、やはり根本的な原因は、今申しましたように、まともに税法
通り税金を拂うということが、なかなか困難な
事情にあるから、どうしても納税者が本当の申告をしようとしない。これが根本的な原因とな
つて、なかなかこの制度もうまくい
つておりません。それと、いろいろそれに対する措置は違います。今度の青色申告書には、いろんな恩惠を与えると同時に、それに違犯した場合の罰則強化ということもございます。併しながら、根本は同じでありまして、根本的な原因を直さない限り、この運営はうまくいかないと私は思います。
それから、その次の問題、
間接税の問題でございます。今度提出されました
法案では、
物品税関係、それから
織物消費税関係だけでございますが、まもなく
取引高税の
撤廃に関する
法案も出るんではないかと思いますので、そこの三つを中心にして申上げたいと思います。そして特に、我々勤労者の
立場からこれが家計に、どういう
影響を与えるかという点について申上げたいと思います。この
間接税の
撤廃乃至
軽減ということが、勤労者の家計に非常な恩典を与えるような印象を与えております。併しながら、現在の労働者の実際の家計薄を見てみたときに、果してこの家計支出の中で、この
間接税が
撤廃したために、どれだけ物が安く買えるか、或いは我々の家計がそれによ
つてどれだけ潤うかということは、極めて僅少な金額でございます。我々の
手許に信用する家計薄がございませんので、取敢えず、産別で出しております理論生計費の中に、かなり詳しくいろんな家計支出の
内容について、物品ごとに金額が出ておりますので、一応それをもとにして、
取引高税撤廃ということは、我々の家計にどれだけの
影響を与えるかということを二月程前に計算した
資料がございます。それによりますと、この
資料は一九四九年七月分の青年男子独身者の場合でございます。これによりますと、総生計が九千六百四十七円六十七銭、これに対して
取引高税は、八十七円六十四銭かかると、こういう計算が出ております。これは勿論仮定の計算でありまして、
実情に一致しない点もあるかと思いますけれども、とも角そういう計算によりますと、総生計費に及ぼす
影響は、僅かに〇・九%にしか過ぎない。極めて僅かの
影響しか与えないということが出て参
つたのであります。而も更に
考えますと、現在の
取引高税は、どういう
実情にあるかというと、小さな
小売商人は殆んど、この
税金は
小売商人の負担にな
つてしま
つておる、理論的には
消費者に転嫁する
税金であるけれども、実際は購買力の低下、その他によ
つて、殆んどこれはその商人の負担にな
つてしま
つておる、こういうことが言えるのであります。
物品税の中でも、理論的には
消費者に転嫁するものが、実質的には営
業者の負担にな
つておるものも沢山あります。或いは闇物品であ
つて、全然脱税しておるものもある。そういう
事情を
考えると、この
間接税の
撤廃というものは、本当に
物価の方には微弱な
影響しか与えないということが、容易に予想されるわけであります。そして一面
考えますと、この
物品税の削減乃至
撤廃、或いは
織物消費税の
撤廃ということの中には、先程の
公述人が申されましたように、やはりいろんな注意すべき点があります。それは先程言われたように絹とか或いは毛
織物の中には、我々から見て贅沢品と思われるものが沢山ある。又こういうものは、我々の
立場から申しますと、我々なかなかそういうものは買えない、例えば洋服にした
つて、これは成程一着買うと高い値段であります。
税金も非常にかか
つております。併しながら、果してこの一着の洋服が何年間使用するかということを
考えて、それを月割りにして見たならば、極めて僅かな金額であります。又差当りの問題としても、現在我々が
買つておるこの洋服にした
つて、或いは靴にした
つて、これを買うというのはなかなか大変な問題でありまして、借金して買うと、そういう
意味から言うと、
撤廃はありがたいようでありますけれども、一面そういう場合には、やはり我々の持
つておるものを売らなければならない、売るときに
織物消費税が
撤廃になると、当然我々の売るたけのこ生活の、物品の売値に
影響して来る。そういうことも当然
考えなければならない。そうすると我々にと
つては、こういう
織物消費税の
撤廃は、いい面も、悪い面も、両方出て来る、こういうことになるわけであります。以上で三
法案に対して極めて大ざつぱな
意見を終るわけでありますけれども、この機会にいろいろ今
国会で論議されておりまする補正
予算に対する
税金の論議を見てみますと、非常に沢山の誤解があります。でその誤解の特に大きなものを申上げますと、自然増というものが今度の
予算に計上されております。自然増二百十三億の中で、実際に増收になるものが五百三十億、反対に
予算よりも減收になるものが百百十七億、こういうふうな
数字が発表されております。でこれが非常に論議にな
つておる、これは水増しであるとか、或いは取れないものを無理に通るとかいうことが言われております。併しながらこの問題は個々のものについて見ると、実はすでにこの自然増ということは、当初
予算を組んだときから分
つておつた
数字であります。その証拠を申上げますと、この自然増五百三十億の中で、一番大きなものは法人税の二百二十七億であります。当初
予算とその自然増の二百二十七億を加えますと、丁度五百億六千万円になります。ところが法人税が大体五百億円以上取れるということは、実は当初
予算を組んだときにすでに分
つておつた問題であります。我々全財の機関紙の中でも、当初
予算が組まれたときに、すでに法人税はどんなに税務所がぼやつとしてお
つても、五百億ぐらい取れるだろうという批評を載せておりました。実は大蔵省の役人の方が非常に沢山寄稿されておる、半官的な雑誌である財政
経済公報という、この新聞、或いは雑誌の、この新聞とも言われるし、雑誌とも言われる書物の中に、これは五月九日発行のものでありますが、これに法人税は二百七十二億円に決められておるけれども、これは各税の中で最も過少に見積られており、
予算額の倍額五百億円は十分徴收し得るよう努力したいということが発表されております。つまりこのときにすでに五百億以上取れるということは当然予想されておつた問題であります。従
つてこれは水増しでもなんでもなしに、当然取れるものを最初なんらかの
理由によ
つて計上しなかつただけの話であります。そのなんらかの
理由は何かということを、いろいろ調べて見て、これは私の推測でありますけれども、これは資産再評価ということを当初
予算のときに
考えておつた、まだ決まりもしない資産再評価の問題をすでに、当初
予算の中に織り込んでおつた、これは国民所得の計算でもはつきり分ります。国民所得の計算では当初
予算に組まれたときの国民所得の中で、法人所得は当初
予算では七百五十億円の法人所得を見込んでおりました、ところが最近十一月十五日付の税の道標という、これは国税庁監集の
税金新聞であります。これに記載されておるところによりますと、同じ年度の同じ時期の法人所得の、国民所得の中における法人所得は千百九十億に変
つております。国民所得全体では当初
予算のときの二兆九千二百八十六億は、今度は二兆九千四十四億に
減少して、その中で法人所得は反対に増加しております。七百五十億から千百九十億で、四百四十億増加しておる、この原因は
一つには所得の増加ということも
考えられますけれども、一番大きな
理由は資産再評価という問題であります。資産再評価について、法人所得の増減が起るということになるわけであります。従
つてこういう自然増ということも今やかましく論議する問題ではなくて、論議の中心になるのは何故当初
予算のときに資産再評価も決まらないのに、それを
予算に組んでおつたかということが論議の中心になるべきだと思います。その外に勤労
所得税の問題も或いは酒税にしても、それは大体当初
予算施行後暫くして大体もう予想された問題であります。従
つてこういう点につきましては、もつと税務の
実情ということを御研究にな
つて、そうしてもつとポイントを突いたいろいろな調査をして、そうしてこの肝腎な点について十分御検討あらんことを特に
お願いする次第であります。