運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1949-11-15 第6回国会 衆議院 法務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十四年十一月十五日(火曜日)     午後二時三十四分開議  出席委員    委員長 花村 四郎君    理事 北川 定務君 理事 高橋 英吉君    理事 田嶋 好文君 理事 石川金次郎君    理事 梨木作次郎君 理事 大西 正男君    理事 佐竹 晴記君       佐瀬 昌三君    古島 義英君       眞鍋  勝君    武藤 嘉一君       吉田 省三君    猪俣 浩三君       田万 廣文君    吉田  安君  出席国務大臣         法 務 総 裁 殖田 俊吉君  出席政府委員         刑 政 長 官 佐藤 藤佐君         (検務局長)         検     事 高橋 一郎君         (法制意見第四         局長)         検     事 野木 新一君  委員外出席者         專  門  員 村  教三君         專  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 十一月十二日  戸籍事務費全額国庫負担に関する請願石原圓  吉君紹介)(第二四三号)  戸籍事務を国の委任事務として地方財政法に明  示の請願西村榮一紹介)(第二六五号) の審査を本委員会に付託された。 同日  戸籍事務費全額国庫負担陳情書外十七件  (第四号)  同外二件  (第一〇号)  農地改革に伴う登記事務費国庫負担陳情書  (第六四号)  犯罪者応急保護法制定に関する陳情書  (第八三号) 十一月十四日  三国町に簡易裁判所並びに検察庁設置陳情書  (第二七  号)  戸籍事務費全額国庫負担陳情書  (第二一四号)  同  (第一五一号)  農地改革に伴う登記事務費国庫負担陳情書  (第一五八号)  戸籍事務費全額国庫負担陳情書外一件  (第一六六号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  少年法の一部を改正する法律案内閣提出第三号)  刑事補償法案内閣提出第二号)     ―――――――――――――
  2. 花村四郎

    花村委員長 これより会議を開きます。  本日の日程は刑事補償法案内閣提出第二号。少年法の一部を改正する法律案内閣提出第三号。裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案内閣提出第二号及び検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案内閣提出第二六号でありますが、まず第一に少年法の一部を改正する法律案議題といたし、先日に引続き質疑を締行いたします。質疑通告がありますからこれを許します。大西正男君。
  3. 大西正男

    大西(正)委員 犯罪少年の更生に関しましては、職業補導というものが、その目的を達するための大きな重要な点だと思うのでありますが、この職業補導に関しまして、少年院その他少年関係機関におきましては、どの程度施設が完備しておるものか、そういうことを承りたいと思います。
  4. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 お説のように、犯罪少年矯正教育としては、職業補導が主要な要素になつておるのでありまして、事務当局としましても、その点に重きを置いて矯正教育を施しておるのでありますが、新設の少事年院におきましては、まだ十分に施設が整いませんので、少年院を出てすぐ一人前の生活ができる程度職業補導ということには十分に至つておりませんが、少年刑務所の方はすでに施設が整つておりますので、たとえば水戸少年刑務所のごときは、これを一名職業学校と呼んでおりまして、木工であるとか、あるいはくつを製造する、あるいは洋服の裁縫であるとか、機械工その他十数種の職業別の、それぞれの少年の特技に応じて職業補導をいたしておるのであります。将来少年院におきましても、この水戸少年刑務所で実施しておりますような、完全な職業補導行い事たいと考えておりますが、いまだ施設が十分でありませんので、木工であるとか、あるいは簡單な機械器具の製造であるとか、農耕などに従事させておりますけれども、われわれの期待しておるような、十分な職業補導成績はまだ上つておらない状態であります。
  5. 大西正男

    大西(正)委員 御説明によりまして大体わかり事ましたが、今の水戸刑務所は模範的に行つておるようでありますが、御説明によりましても、少年院における職業補導というものが非常に不完全であるということがうかがわれるのであります。現に私もこの夏視察に参りましたときに、職業補導部屋はできておりますけれども器具もなければ、設備はからつぽだ。そうしてこれを指導する指導官が一人もいないという現状のところがあるのでありまして、それは一にしてとどまらないのではないかと思うのであります。こいねがわくは、すみやかにこの職業補導に重点を置かれて、その設備を充実されることを希望いたします。また中には農耕をやらしておりまするけれども、その農耕によつて得ました獲得物を、職員の人が少年よりも余分に恩典に浴しておつて少年がある意味においてひがんでおるのではないかというふうなこともありはしないかと、想像されるのであります。これらの点につきましても、精神教育の面にも関連をいたしまして、その局に当られる方々については、特別の御留意を願うように御指導願いたいと存ずるのであります。  それから、この前の委員会におきまして、少年院に二度以上入つて来た者は一割ないし二割であるという御説明を承つたのでありますが、刑事処分を受けまして、いわゆる再犯者として参りまするところの少年、そういう者はどれくらいの比率になりますか、御説明を願いたいと思います。
  6. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 現在少年院矯正教育を受けて仮退院をした者が、また再び少年院に帰つて来る者の割合が、一割ないし二割と申し上げましが、これは現在の少年院に入つておる收容者のうちの一割ないし二割、こういう意味つたのであります。少年院から出た者の数に比例いたしますと、これはもうごくわずかのものであります。現在少年院に收容されておる少年のうちで、再び少年院に入つて来た者は一割ないし二割くらい、こういう割合であります。それからおとなの方になりますると、刑務所においての受刑者のうちで、再犯以上の者は、以前は六割程度であつたのでありますが、だんだんに最近その率が下がりまして、現在では再犯以上の者が、全受刑者のうちの四割一分ないし二分の程度で、この成績は非常によろしいのであります。この割合の非常によろしいと言うことは、矯正教育の実がいくら上つておるということも原因いたしておりまするけれども、他面初犯者が戰後非常に多くなつたということも一つ原因ではないかと思うのであります。割合受刑者の中で再犯以上の者が四割一分ないし二分、初犯者が五割八分ないし九分という程度で、戰前に比べまして再犯の率は非常によい成績を示しておるのであります。一たび少年院において矯正教育を受けた者が、全刑務所受刑者の中でどのくらいの割合におるかということは、今手元に詳しい統計がございませんので、その点は後日機会を得て御報告いたしたいと思います。
  7. 大西正男

    大西(正)委員 それから少年法に直接関係はありませんが、少年院法の中で、特殊少年院は現在東北にあるように承つておりますが、この少年院法によりますと、おおむね十八歳以上の少年特殊少年院に收容するようになつておりますが、十八歳未満少年につきましても、特殊少年院に現在收容されておる者があるかどうか、あるいはまた收容すべき必要があるのではないか。と申しますのは、先ほど申しました少年院視察に参りましたときに、少年院職員の方でそういう意見を出されておつた方がかなりございます。十八歳未満少年についても、特殊少年院に收容すべき者が相当あるという御意見がありましたので、御当局におかれましてはどういうお考えか承りたいと存じます。
  8. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 新しい少年院法によりまして、十八歳以上の者で、特殊な教育を施す必要のある者を特殊少年院に入れることになつておりまするので、現在は十八歳未満の者は、特殊少年院には一人も入つておりませんけれども、ただいま仰せのように、十八歳未満にして、しかも凶暴性のある者、性格のよくない者で、ぜひ特殊少年院において特殊な矯正教育を施さなければならぬ必要のある者がしばしば見受けられますので、過去一年間の経験に徴しまして、将来は、たとえば十六歳以上の特殊な少年については、特殊少年院に收容することができるように少年院法改正をしたい、こういうような気持で、来るべき通常国会においては、その点の改正案について御審議をお願いしたいと考えております。
  9. 大西正男

    大西(正)委員 もう一点伺います。前回の委員会におきまして、佐瀬委員その他の方から御質問がございました点に関連をいたしますが、少年法の第五十六條によりますと、刑事処分を受けました少年が、少年として裁判を受けた場合には、刑務所における少年としての処遇を受けるわけでありまして、刑務所に在所中に成年に達した場合におきましては、引続き二十六歳までは少年としての処遇を受ける道が開かれておるのであります。ところが裁判の経過中におきまして、裁判時に成年に達した場合には、この少年法の適用を受けないということになるのでありまするが、こういう点におきまして非常な矛盾があるというふうに私ども考えるのであります。そこで少年法についての今の点につきまして、何らかの救済規定と申しますか、そういうものを入れて、裁判時においてたまたま成年に達しても、ある程度の年齢までは区切つて、これに対して同じく少年法による処遇を受け得る道を開く必要があると存ずるのであります。こういう点についての将来改正等に関する御意見がありまするかどうか、承りたいと存じます。
  10. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 新しい少年法におきましては、法律に定める少年については、なるべく保護処分によつて矯正教育をするという建前になつておりますので、裁判が遷延しておるために、少年をして、少年の特殊な処遇を受けることができないような不都合の結果を生じないように、十分裁判の迅速を期さなければならぬのでありまするが、それにもかかわらず、裁判が延びたために、少年をして保護処分機会を失わしむることがないように、何らか立法を要するのではないかという御意見につきましては、まことにごもつともな次第でありまして、私どももその点の立法が必要ではないかというような観点から、その後の実施状況を調査いたしておりますので、調査の結果資料がまとまりますれば、あるいは改正案に着手することにもなろうと思いますが、今のところは、最近の機会に、たとえば来るべき通常国会改正案を提案しようというところまでは進んでおりません。
  11. 大西正男

    大西(正)委員 私の質問は終りました。
  12. 石川金次郎

    石川委員 関連して一点だけ、気のついたことをお伺いいたしますが、少年刑務所に対しましても、作業による歳入予算というものはあるようでありますが、それはやはりあるのでございますか。
  13. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 少年刑務所におきましても、普通の刑務所よりは割当が少いのでありますが、作業收入割当予算は計上してあるつもりであります。
  14. 石川金次郎

    石川委員 少年刑務所では、少年でありますから予算歳入見積りは少いと存じますが、予算額決定しておりますために、その歳入を必ず達成しろ、そのような御指示をなすつておるのではないでしようか。そうしてまたそのために、教育第一義でなければならぬにかかわらず、最近に至りますと、その歳入目的達成第一義になつておるというようなことが、少年刑務所に見られないであろうか。そういうような傾向があつたならば、どういうような方法を講じて行かれるかをお聞きしたい。
  15. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 ただいまの仰せまことにごもつともでありまして、私ども作業成績を上げるようにということを全国の刑務所に伝達する際に、本来の矯正教育目的を忘れないようにということは、つけ加えて申しておるのでありますけれども、各現地におきましては、作業成績を上げるということに重きを置いて、そのために教育という観点がやや薄らいで来るような弊がないでもないのであります。それは御承知のように、作業予算を大蔵省と折衝する際には、来年度はこの程度予算を認めるから、收入はこの程度上げてほしいというような注文もありまするので、そのようなことが反映して、各現地においては非常に收入を上げるということに重きを置くというきらいがないでもありませんので、その点はお説のように、そういう弊に陥らぬように今後も十分注意をいたしたいと存じております。
  16. 花村四郎

    花村委員長 ほかに御質疑はありませんか。
  17. 北川定務

    北川委員 青少年不良化の大きな原因一つとして、私は未成年者禁酒法禁煙法嚴格に実行されることが必要ではないかと考えております。福岡の少年院に参りました際に、入院しておるほとんどすべての者が、タバコをのんでいるというような現状でありました。これらを防止することによつて不良化を防止することができるのではないかと考えておるのであります。最近に禁酒禁煙法によりまして取扱われました事件がどのくらいございましようか。また将来この法律の実行について、特にこれを強化しようというお考えを持つておられましようか、伺いたいと存じます。
  18. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 青少年に対して禁酒禁煙と申しますか、禁酒法禁煙法が励行されなければならぬことは、まことにお説の通りでありまして、その点は十分嚴重取締りをしておるつもりでありますが、実際事件として現われて来るのは、ごくわずかな数でございまして、正確な数字は今手元にございませんので申し上げかねます。この禁酒法禁煙法の励行につきましては、取締り当局がただ嚴重にやるということだけでは足りませんので、むしろ私ども家庭において、社会において青少年教育する上から、飲酒喫煙の弊害があることを十分自覚して、そしてはたから青少年をして酒は飲まない、タバコはのまないように自制させるように教育することが、一番効果があるのではないかと存じております。はなはだ余談になりまするが、先般司令部の私の尊敬しておる知合いの方、これは向うのローヤーでありまするが、私はアメリカ自由教育の盛んなところであるから、どこの家庭でも、酒を飲んだりタバコをのんだりすることは、親は当然認めてはおるものと想像しておつたのでありますが、その方の話によりますと、大学時代に夏休みに家へ帰つて来たら、自分おやじタバコをのんでいたが、あわててそのタバコを消してしまつた。そして部屋中がもうもう煙だらけであつた。そこで初めておやじタバコをのむのだということを知つたので、自分タバコをのませないために、おやじ自分の前ではそれまで一度も煙を見せたことがなかつたというような家庭教育の模様を私に話して聞かせましたので、自由教育の盛んなアメリカにおいても、やはり家庭においてそういうふうな嚴格なしつけをしなければ、禁酒禁煙というようなことは守られないのじやないかということを、痛感させられたのであります。日本においても禁酒禁煙法律を励行するためには、やはり私ども全体が家庭において、社会において、青少年タバコはよくない、酒はよくないということを自覚するように、お互いに戒め、また教育するのが一番効果的ではないか、かような考えを持つておるのであります。
  19. 花村四郎

    花村委員長 ほかにありませんか。御質疑がなければ、本案は次会審査を終了いたしたいと思いますから、さよう御了承願います。     —————————————
  20. 花村四郎

    花村委員長 次に刑事補償法案議題といたします。  質疑通告がありますから、これを許します。石川金次郎君。
  21. 石川金次郎

    石川委員 刑事補償法案についてお伺いいたします。まず私のこの法案に対する考え方は、憲法に相応した刑事補償法ができ上つて参りますことは、私先国会以来、その前からの願いでありますが、提案理由に書いてありますように、不幸にして前国会は通らなかつたのであります。今度はでき得るだけいい法律といたしましてこれを通したいと思つております。しかし一つの法が出て参りまして、これを実際に運用することになりすると、いろいろ疑問も出て参りますので、でき得るだけ立法者としての意思を明らかにいたしますための、運用の場合における疑問をなくしますために質問をいたしたいと思うのであります。私の質問の態度はそれであります。  まず第四條に関連してお伺いして、明らかにしておきたいと思います。提案理由説明によりますと、刑事補償国家賠償と異なるのは、国家機関故意または過失補償要件としないこと及び補償の額が定型化されておることの二点である、こう言つておるのでありますが、まつたくその通りでなければならないのであります。そこで刑事補償国家機関故意または過失補償要件としないということになりますと、第一條に規定してあるところの冤罪者請求権者国家機関故意過失ということを要件としないで請求し得るものだと思います。ところが国家機関故意過失がありました場合には、今度は刑事補償法並びに国家賠償法に基くものとしての請求と、この二本の請求権が出て来るものと思います。そういうような御趣旨説明でありましたが、それは間違いないでありましようか。
  22. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 ただいまのお尋ねの通り刑事補償故意過失要件といたしませんで、従つて故意過失のある場合には国家賠償も受けられる。もつとも額について刑事補償国家賠償との関係につきまして、大体五條の規定がございますけれども、両立するものと考えます。
  23. 石川金次郎

    石川委員 もしそうでありますと、刑事補償請求の場合は、補償額決定にあたつて国家機関故意または過失ということは審理の外になる、審理が必要ないと存じますが、その点はどうでありますか。
  24. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 その点はただいま申し上げた通り刑事補償手続におきましては、故意過失要件とならないのでありますけれども、しかしはつきりわかつております公務員の故意過失について、この刑事補償法規定いたしますところの、たとえば抑留拘禁について、二百円ないし四百円というような額の範囲で、もしカバーできるものでありますれば、それを考慮してさしつかえないのではないか。その結果、特にまた故意過失を立証いたしまして、国家賠償手続をとるというようなむだも省けると思いますので、カバーできる範囲では、わかつておるものについてそれを考慮することは、さしつかえないのではないかというふうに考えております。
  25. 石川金次郎

    石川委員 そこで第四條の第二項に書いてあります「警察、検察及び裁判の各機関故意過失」ということがわかつて参りました。わかつては参りましたが、決定裁判であります。この点はあとでお伺いいたしますが、裁判いたしますときに、故意過失なきところの補償はこの限度である、故意過失のあるところの額はこの限度であるということを明らかにするのでありますか。そうしてまたそうなつて参りますと、国家賠償法精神と離れて来はしないかという点を憂慮いたしますが、これをお伺いしたい。
  26. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 補償決定裁判には、故意過失がなければこの額であるが、この場合はあるからこうなるというふうに、故意過失有無によりまして特に額を明示いたさないのであります。それで刑事補償を受けまして、故意過失を立証すれば、おそらくもつととれる事だろうというような場合に、国家賠償請求をするというようなことになるものと考えるのであります。
  27. 石川金次郎

    石川委員 しかし刑事補償は、あなたが先ほど明瞭におつしやつてくださいましたように、故意過失というのを前提要件としない。要件とせずしてただ冤罪であつたがゆえに補償する、これは当然であろうと思います。何ゆえにここに故意過失を調べなければならないとしたかわからないのであります。故意過失ある場合は別の救済法律があるのでありますから、国家賠償法にこれを讓つてさしつかえないと思う。ただ故意過失あるなしにかかわらず、これは冤罪としてやるのですから、当然二百円ないし四百円というものは補償するというのが当然ではないかと思う。御説によりますと、ここに故意過失を入れたということがわからないのであります。また刑事補償法精神からも、本来の原則からも反するのであります。この点、これが必要であるという理由をお開きかせ願いたい。
  28. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 御質問の点はまことにごもつともでございます。しかしながら刑事補償金額が、かりに三百円なら三百円というふうにきまつております場合には、そういうこともさしつかえないのではないかと思うのでありますが、やはり二百円ないし四百円というふうに裁量の中がございまして、その場合一切の事情をやはり裁判側としては考えざるを得ないのではないかと考えるのであります。そのような観点から、考慮の中に当然故意過失は入るのではなかろうかというように考えた次第でございます。
  29. 石川金次郎

    石川委員 先ほどのように、裁判として現われて参ります決定書に、故意過失に基く額はこれこれ、しからざる額はこれこれとお書きにならないで、全部二百円から四百円の間の額を決定するといたしますならば、あと故意過失ありとして、また再び国家賠償法に基く一つ損害賠償請求がなされました場合、一体どう取扱うのでありますか。全然その決定によつて故意過失というものは現われ得ないのであります。現われ得ないものを、故意過失をここに調査しなければならぬということになると、裁判官に対して過重な負担を與えなければならぬ。その他の点については、ここにも書いてありますように「うべきであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損害並びに」というふうに書いてある。四百円を決定して参りますのは、これらを考慮して、故意過失を除いておくというのがほんとうの法の御趣旨ではないかと思います。
  30. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 その補償金額をきめます場合に、故意過失有無を考慮しなければならないとありますのは、特に故意過失有無まで裁判所において調べをしなければならないということには考えていないのであります。刑事補償は、故意過失有無を問わず、これをするのが建前でありますから、そういうふうに考えているのでありますが、ただ何と申しましても、抑留拘禁を受けた者の身になつて考えますと、故意過失によつてさような目にあつたという場合と、そうでない場合とでは、おのずから苦痛程度が違うのではないか。この刑事補償はさような苦痛に対する損害賠償ということを目的といたします以上、そのような苦痛事だけを考えるという場合でも、やはり故意過失についてわかつたものについては、これを考えてもさしつかえないのではないか、このように考えているのであります。
  31. 石川金次郎

    石川委員 どうしてもまた深くお聞きしなければならぬと思います。四百円という限度は、故意過失をプラスした最高限でありますか。どうもそういう御趣旨のようでありますが、当初はそうでなく、故意過失なきにかかわらず、額を押えてそれをやるのだ、故意過失があつた場合はまた別だ、こういう救済方法のようにわれわれは考えておつたが、どうしてもそこに返つて来るのです。  それからもう一つ裁判所考えなくてもいいのだ、そういう意味ではないのだという御趣旨に承りましたが、もしそうでありましたならば、書いてあるのは故意過失有無事情を考慮するとあるので、そうなりますと、こういうことは実際にそれを除く事という意味で、ただ文字をここに入れておくだけだということでありましても、実際の運用の場合はそうでなくなつている。だからこの場合、どうして故意過失を入れなければならないのか。故意過失ならざる一切の事情は二百円、こうしてくださつた方が国民に対する親切な裁判ではございますまいか。二本建にするのは、故意過失を含む、四百円が最高だということになつて来たら、わからなくなつてしまうじやないかと思います。
  32. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 補償金額の二百円ないし四百円と申しますのは、故意過失があることを前提として定めたものでは絶対にありません。故意過失なくして刑事補償をする金額を定めたものでございます。それでただいまのような御疑問の点もあるのでありますけれども、たとえば同じような條件で抑留拘禁された者が二人ありました場合に、他の條件は同じで、一方は故意過失によつてそのような目にあつた、片方はそういうことはなかつたというような場合に、やはりそういう点はこのわくの中で考えられるだけは考えてよろしいのではないかと思います。
  33. 石川金次郎

    石川委員 限界を金で表わしますと、最高限四百円になります。四百円そのものは、故意過失がない場合に行き得る限度でありますか。
  34. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 そうです。
  35. 石川金次郎

    石川委員 もしそうだとすれば、故意過失を含むことは意味をなさないじやないか。ですからそれよりも、この点はなくてもさしつかえございますまい。それをお聞きします。ない方がかえつて明瞭であり、ない方がよろしいかと存じますが、御意見を伺いたい。     〔委員長退席、高橋委員長代理着席〕
  36. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 ただいまの点非常にごもつともな点と思いますので、若干の時間を與えていただき、至急に考えてみたいと思います。
  37. 石川金次郎

    石川委員 少し続けて参ります。補償額を二百円ないし四百円ときめました基礎ですが、どういうところからこの二百円と四百円は出て来たかを、国民にわかるようにお知らせ願いたいと思います。最高限四百円とありますのは、物価がかわつた場合はそれがかわつて行くのかどうか。私はもちろんわかつておりますけれども、国民に知らせるつもりでお願いします。
  38. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 金額を三百円ないし四百円と定めました経過を御説明いたします。現行法が一日五円以内ということになつておるのでありますが、当時の立法事情を調べてみますと、その根拠が必ずしもはつきりいたしておりません。従つてそれとの比較において、現在どの程度金額が適当であるかということを定めるきめ手には実はならないのでありますが、一応当時の政府委員は、訴訟費用における証人の日当などを考慮いたしまして、定めたものと思つておるのであります。かりにこれを標準といたしますれば、当時の証人の日当が二円以下でありまして、現在の日当は百二十円以下ということになつております。従つて六十倍でありますから、元が一日五円以内の刑事補償であれば、三百円以下ということになるわけであります。さらに賃金の推移を見ますと、工業に従事する男子の賃金は、昭和七年に比べまして、昭和二十三年の平均が八十倍、昭和二十四年、五月が約百五十倍、交通業は昭和二十三年平均が九十倍、昭和二十四年五月が百二十倍になつております。東京の小売物価を見ますと、昭和二十三年が百六十倍、昭和二十四年六月が二百六十一倍でありまして、米の価格は二百倍余になつております。これらの観点から見ますと、証人の日当以外は昭和七年に比べまして、いずれも現在百五十倍以上になつているので、旧案当時はともかく、現在では二百円以上四百円以下という金額は、あるいは低きに失するというようなことも言われるかもしれないのでありますが、国家財政の見地から、補償金額にある程度の制限のあることはやむを得ないと考えます。一方最低生活の保障をはるかに上まわる補償金を交付するということは、このような財政状態その他のもとにおきましては、妥当ではないというふうに考えたのであります。そこで昭和二十四年五月における男子工業平均賃金は一日三百七十四円、坑内夫四百二十九円、交通業約三百五十円、業種別労務者平均賃金一日三百五十二円、職人一日四百四十八円というような金額を考慮いたしまして、結局旧案のような一日二百円以上四百円以内というところが、大体適正なるところではなかろうかというような結論に達した次第であります。
  39. 石川金次郎

    石川委員 お伺いいたしますと、その二百円ないし四百円の金額は、抑留拘禁せられなかつたならば、そのとき賃金を得たであろうという点は大体補償されましたけれども、それだけで刑事補償法はいいでしようか、それだけで刑事補償法目的が達せられましようか。それ以外に求めて行かなけれぱならぬ本人が受けた名誉上の打撃。ここには「精神上の苦痛及び身体上の損傷」と書いてありますが、それらをどのようにおはかりになつたかということであります。むしろ受けました方の側から申しますならば、これは終世拭うべからざる苦痛になると思いますが、今の御説明の四百円は、得べきであつた賃金ということが根拠になるから、この点もさらに考慮されているのかということをお尋ねします。
  40. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 お尋ねのように、確かにこれは経済上の損失というもののほかに、さらに慰藉料も含んでいなければならないものと考えるのであります。それで先ほどの御説明が足らなかつたかと考えるのでありますが、このように、現在の平均賃金を考慮して定めたのでありますけれども、平均賃金からただちにこの金額なつたわけではないのでありまして、いわゆる損害賠償等におきます計算になりますと、先ほど申し上げました平均賃金というようなもの、あるいは実事際の賃金というようなものから、その本人の生計費などは差引かるべきものと考えるのであります。かような点がマイナスになり、一方慰藉料相当のものがプラスになる、そのようなところを勘案いたしまして、勘案いたしまして、まず二百円ないし四百円というところが妥当ではないかというような結論に達したわけであります。
  41. 石川金次郎

    石川委員 そこでちようど問題にぶつかつたから、この点明らかにしておきたい。国家が刑事補償というような責任を、憲法の上で定められたものを果して参りますときに、財政上の理由でそれは許されないであろうというところで一定の限界を切るひとつの根拠、これを御説明願いたい。これは議論としては、基本的人権は公共の福祉の破壊になる場合がある、こういうことをしばしば政府当局から承つておる。もちろん私自身も基本的人権は一切の制約を受けるものだとは、権利の発生のそのとき自体にあると思いますけれども、その言葉をしばしば用いるのでありますから、ちようどここに似たりよつたりの問題が起きておりますから関連して伺いたい。たとえば正義も公共の福祉のためには犠牲にならなければならない場合もあり得るのだという理論的の説明であります。首肯ができますように御説明願いたい。
  42. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 確かに基本的人権を侵害された場合の補償を、金がないからといつて、これを不十分な限度で減らすということは、許さるべき事ではないと考えるのであります。ただ財政上の要求もありまして、できるだけ所要の額を節約したいという要請に対しまして、絶対に二百円ないし四百円では実は足りない、もつと高額にすべきであるという合理的な論拠というものが見出しにくかつたわけであります。大体これで憲法の要請する程度のことはまかなえるのじやないか。  いや、それでは足りないのであつて、たとえば全部四百円とか、あるいは五百円とかいうようにしなければならないという論拠がなかなか見出しにくかつた次第であります。そういう関係で、先ほど財政云々ということを申し上げたのでありますが、決してこれは財政上の理由で不十分な補償でもしかたがないというふうなつもりではございません。
  43. 石川金次郎

    石川委員 わかりました。そこで、これは困難かもしれませんが、この法律を実際実施することによりまして、一体いくらくらいの予算が必要だということになりましようか。参考資料としてこの表はもらつておりますが、すでにこのような統計ができておるのでありますから、大体における見当がつき得るであろうと存じます。来年度はどれほどの予算を見込んでおられますか。
  44. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 予算関係につきましては、これは最高裁判所予算に含まれるのでありますが、現在最高裁判所事務局側と、大蔵省側との間に協議がととのいまして、この国会に追加予算として、及び来国会に来年度予算として計上さるべき案を御説明いたします。先に金額を申し上げますと、本年度の追加予算としては、最高裁判所は九百八十六万四千円を要求しております。これは実際には四千八百六十三万二千百円を要すべきところを、そのうち、三千八百七十六万八千百円は補償裁判がおそらく来年度にわたるであろう、あるいは拂渡しが来年度にわたるであろうということで繰越しになつておりまして、本年度内には九百八十万円あまりという要求にとどまつているわけであります。来年度において大体一年間分の刑事補償金額として最高裁判所が算定いたしましたものは千九百八十四万二千九百円であります。これに先ほどの繰越額三千八百七十六万八千百円を加えまして、来年度予算は五千八百六十一万一千円ということになつているのであります。法案でおわかりになりますように、本年度内において、新憲法施行後今日までたまつておりました刑事補償事件が、お手元に差上げました配付資料に詳しく載せておりますように、全部これが訴訟になる可能性があるのでありますが、そういうために、本年度は非常に多額の経費を要します。しかし来年度からは約二千万円程度予算が済むのではないかというふうに見ておるわけでありまして、この一年間二千万円という大体の数字の根拠を概略申し上げますと、無罪の率が、新しい刑事訴訟法になりましてからかなり高くなつております。もちろん有罪言渡し人員に対する比率から言いますと、微々たたるものであることは従来通りでありますけれども、それでも従来の率に比べますと、二倍あるいは二倍以上というように高くなつておるのであります。本年の一月から三月までの三箇月間に、全国の裁判所において無罪の言渡しを受けたものが六百三十八人ございます。それでその数字は、勾留されたか、されないかということを別にいたしまして、すべて無罪の言渡しを受けたものの数でありますが、その中で勾留されたものは実績に徴しますと約三分の一であります。そしてその一人の平均勾留日数は六十日ということになつておるのであります。それでこの三箇月間の実績を大体もとにいたしまして計算をいたしました結果が、先ほどの年間約二千万円という数字になつておるわけであります。概略御説明申し上げます。
  45. 石川金次郎

    石川委員 それでは補償額のことは打切りますが、これは各国の例でもないようでありますが、もし抑留拘禁によつて回復しあたわざる健康の喪失というような場合があり得ると思う。こういう場合、補償というものを考えなくてもよいものでしようか、考えられなかつたのでありましようか。     〔高橋委員長代理退席、委員長着席〕
  46. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 抑留拘禁されております間に健康状態の惡くなつたというような点は、当然刑事補償において考慮さるべきであると考えております。
  47. 石川金次郎

    石川委員 その点を考慮しての最高限四百円と考えられたのでありますか。
  48. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 さようであります。
  49. 石川金次郎

    石川委員 この補償額は、さつきの得べかりし補償という限界をはるかに下まわるようなことになるのではないか。最後の回復しあたわざる健康の喪失というものを入れてここで最高限を示したものと私は思う。そうすると普通の賠償額は非常に少いものになりはしませんか。それは除いておるのじやないですか。除くということを御説明願わなければ、補償法の筋が通らない。除くことは除くという別の理由をはつきり説明願いたい。それは除くことがやむを得ないものであるという理論がはつきりしなければ、あるいは百円になるかもしれぬ。五十円になるかもしれぬ。
  50. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 たとえば最高限が四百円になつておりますのは、裁判所最高が四百円になつておるが、これは抑留拘禁によつて相当健康を害した場合も含んでおるのである。それから先ほど御質問になりましたように、故意過失がある場合も含んでおるのである。そうすると具体的な場合はそういうことがなくして、ただ抑留拘禁されて無罪になつただけであるから、ずつと軽くてもよい、こういうことになるのでは、われわれの立案の考えとはたいへん隔たるのでありまして、大体において抑留拘禁されて無罪になれば、それで二百円ないし四百円以内においてのしかるべき金額裁判所できめていただきたい。もちろんその場合に、健康状態を害したというのであれば、できるだけ高く見る。しかし害していないからといつて、その分から著しく下げるというふうには、実は考えておらないのであります。
  51. 石川金次郎

    石川委員 そうしますと、少し均衡がとれないようでありますけれども、この点はさらにまたお聞きすることにいたしまして、次に移つて参ります。  次にわかりいいような文句でありますけれども、きわめてわかりずらいことになるのです。公共の福祉とは何かと聞いたのですが、だれもわかる人がなかつた。そういうことが出て来るのであります。これはあなた方はすつかりおわかりになることで、本人の死亡によつて現に生じた——現に生じたと書いてありますから、すつかりわかつたような気がいたしますが、ひとつお尋ねしておきます。
  52. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 「本人の死亡によつて現に生じた財産上の損失額」と書きましたのは、本人が死亡したため、本人の財産中から支拂われ、または財産中に債務として残存することとなつ金額を言うのであります。なお旧案では、補償を受けるべき遺族についての損失を考えておつたのでありますが、本案では相続の観念を取入れることになりましたので、損失は本人についてのみ考えることとなつたのでありまして、このような本人主義的な考え方が、死刑の執行による補償額を算定する場合にも現われておるのであります。
  53. 石川金次郎

    石川委員 そうすると、死亡によつて現在財産上の損失があつたというのでありますから、葬式の費用。それから刑務所でなくなつたような場合には、死体を引取らなければならない、それらの費用。それから拘留による收入減。これは賠償の方にくつついて来るかもしれませんが、これはどうなりますか。一日千円もらつてつた人が、補償法ではわずかしかもらえないということになるのですが、これは何を考えているのですか。
  54. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 ここにありますのは、ただいまお示しのような葬式費用とか、死体引取り費用などというものがごく典型的なものでありまして、まずそんなものじやないかというふうに考えておるのであります。  それから後段で申されました、本人が拘留されておつたために收入がなくなつたというのは、現に生じたというよりは、得べかりし利益の損失でありまして、ここには含まれていないというふうに解釈しております。
  55. 石川金次郎

    石川委員 そこで第三項死刑になつた場合の補償五十万円以内というのですが、この五十万円はどんな性格の補償ですか。どういうものを賠償費用として定めた五十万円かをお伺いしたいのであります。
  56. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 それでは五十万円という金額考えました経過をまず御説明いたしたいと思います。死刑の執行の場合の補償金を五十万円以下といたしましたのは、結局その程度をもつて相当であるというふうに御説明するほかはないのでありますが、このような結論に達しますまでの考え方といたしまして、死刑の執行をした後無罪になつた例は、現在までもございません。将来もこのようなことは実はあつてはならないわけでありますが、このような場合につきましては、裁判所が具体的な場合に応じて決定するところに一任するという現行法がありますけれども、そういう考え方に合理性があるのではないかということも考えられますが、こういう場合にもやはり最高限度を定めるべきであるという有力なる意見がございまして、いろいろ資料によりまして調査をいたしたのでありますが、現実に死刑の執行を受ける者の年齢、家族関係、その他あらゆる事情が千差万別でありますために、統計的に幾らを相当とするかということを示すことが不可能であることが、実はわかつたのであります。結局社会通念によつてきめなければならないというふうになつたのであります。その際に私ども考えましたことは、まず刑事補償は不法行為に基く損害賠償ではないのでありますから、生命の侵害に基く損害賠償の前例をもつて、この場合の金額をきめる基準にすることは適当ではないということであります。生命の侵害につきまして、故意または過失があればその責任は重大でありまして、精神的、物質的の全損害を賠償すべきことはもちろんであります。死刑の執行につきましても、公務員に故意または過失があるならば、国は国家賠償法によつて全損害を賠償いたします。刑事補償はそれとは違いまして、公務員には一応過失がない場合を前提としておるのでありまして、故意過失がある場合と同一に考えることは理論的でないばかりでなく、その必要もないと考えるのであります。それからホフマン式計算方法ということがよく言われるのでありますが、これは生命侵害による物質的損害算定の方法でありまして、純粹の慰藉料の算定には実は利用ができません。現在毎月赤字続きの生活をしておる者にとりましては、ホフマン式計算方法を用いますと、実に奇妙なことでありますが、損害がゼロになつて出て来るというようなことがあるのであります。以上のことを十分に考えました上で、一応参考とするために、生命侵害の場合の損害賠償額場を計算してみました結果、次のような数字を得たのであります。計算の前提として必要なのは年齢別の收入でありますが、これは総理府統計局の調査によりますところの昭和二十三年十月の六大産業分類別年齢階級別一人当り一箇月現金給與額によるものといたしまして——それ以外に適当な年齢別の收入調査が見当らなかつたのでありますが、これによりますと、二十歳の者は三千八百九十四円、三十歳の者は七千八十円、四十歳の者は九千三百九十円、五十歳の者は九千七百九十八円という数字が出て参つたのであります。ホフマン式ではこれから所得税を差引き、さらに一人分の生計費を控除するのでありますが、生計費は経済安定本部統計課の調査によりますところの、昭和二十三年十月の東京における生計費を一世帶当り人員四・五人で除して得た一人当りの生計費、二千六百十二円というものを使つて計算してみたのであります。所得税は二十歳の者については一割五分、その他の者につきましては二割といたしまして、その結果ホフマン式によつて計算してみますと、二十歳の者は十八万八千百二十四円、三十歳の者が七十五万二千九百八十九円、四十歳の者が百三万百七十六円、五十歳の者が八十七万四千一二百一五円という数字を得たのであります。以上がホフマン式計算によりますところの結果でございますが、そのほかに慰藉料が加わつて全損害となるのでございます。しかしこの計算にはいろいろの推定の不正確な数字が基礎となつておりますので、その点最初に申し上げたように、非常に考慮を要するのではないかというふうに考えておるのであります。さらにこれを故意過失のない場合に引直しますことは、とうてい数字的に不可能なわけでありまして、最後はやはり最初に申し述べた通り、大体の達観と申しますか、そういうことで金額をきめざるを得ないことになつたわけであります。先ほどの御質問趣旨に多少はずれておるかもしれませんが、五十万円という金額は、以上のような考え方を経て定めたようなわけであります。
  57. 石川金次郎

    石川委員 死刑になりました場合は五十万円、現に失つた損失額と証明される場合にはこれを得ることができるというのですね。そうすると、今度は刑務所の中に拘留拘禁されていたのは見ないことになるわけですか。
  58. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 それは刑事補償の対象になります。
  59. 石川金次郎

    石川委員 そうすると死刑になつてあとで無罪になつた場合に、この四條第三事項による補償額と、四條第一項による補償額と二つ受けられる、こういうわけでございますか。
  60. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 さようでございます。
  61. 石川金次郎

    石川委員 そういたしますと、この五十万円は結局慰藉料だ、こういうわけでありますか。
  62. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 その通り考えております。
  63. 石川金次郎

    石川委員 さらに五項についてお聞きします。年五分で加算した金額を支拂うということになるのですが、年五分の出所についてお聞きしたい。
  64. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 年五分といたしましたのは、民法の一般原則によつたものであります。
  65. 石川金次郎

    石川委員 それはそれでよろしい。ところが税金をとりましたときには、日歩二十銭国家がとりますが、あれはどうして御改正にならなかつたのでしようか。
  66. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 徴税の場合の率が非常に高率であることは、お話の通りでありますけれども、やはり一般の民法の原則によることが最も妥当ではないかというふうに考えて、さような金額にいたしたわけであります。
  67. 石川金次郎

    石川委員 私たち国民から言いますと、無実の罪で刑務所にひつばられた名誉もなくし、健康も害した、それがまず民法の保護でいいということになるなら、税金をごまかしたりしていない限り、困つて拂えなかつた場合は、二十銭とられるということはどうも合わない気がするのです。法務庁のこしらえていただくところの法案、法務委員会の出していただくところの法案は、どこから見ても公正妥当であると思われるものを出していただきたい。税金の場合は二十銭でもしかたがない、冤罪の場合の補償は年五分でしかたがない、こういうことをなるべく納得の行くように御説明していただければ幸いでございます。
  68. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 税金の場合には過怠金的な意味が含まれているのではないかというふうに実は考えているのです。  それからなおこれはお尋ねにないことでありますけれども、この刑事補償によつて拂いもどされる金額は、所得税の対象にはならない。所得税法の六條の第二項によりまして「損害賠償に因り取得したもの、慰謝料その他これらに類するもの」という中に入るというふうに私ども考えておるわけであります。
  69. 石川金次郎

    石川委員 もちろん所得税の対象にはなりません。自分のものを預けておつたのだから、対象になるとすれば年五分の收入が対象になるわけでありますが、これによると、自分が没收され、罰金としてもうすでにとられたものが返つて来ることになる。この辺はどうもふしぎなのですが、われわれから言うと、罰金をとられておつたものが、無実の罪とわかつてそれが返つて来る。それが年五分の利子が拂われる。税金というと、百円に日歩二十銭だ。それでもお上のやることはしかたがないのだということで、説得し得る御説明になるものかどうか。それで説得ができ、みんながわかれば不平は言いません。それがわからなければ、ちまたで不平を言います。
  70. 高橋一郎

    高橋(一)政府委員 実はこの罰金を執行しました場合に、これを返して、なお利息を年五分の割合によつて補償するわけでありますが、確かにお話のように、現実に受けた損害だけでありまして、利息の点で見るか、あるいは他の金額で見るかはともかくといたしまして、慰謝料的なものは含まれておらないのであります。その点も実は私ども考えたのでありますが、憲法によりますと、抑留又は拘禁された者があとで無罪になつたときは、刑事補償をするということになつておりまして、憲法の考え方から言いますと、今の罰金の取立ての場合は、直接問題にはしておりません。ただせつかく刑事補償をするのであるから、こういう場合についても、最低限度補償は一緒に規定した方がいいであろう。こういうような考え方で、その罰金取立ての場合の刑事補償ができておるのでありまして、確かに慰謝料の要素は含んでおりません。従つてまた利息の率がたいへん低いではないかというようなことも、あるいは起つて参るかもわかりませんが、私どもの方では、刑事補償で、憲法の要請するところが直接カバーされるわけではないけれども、あわせてこの程度のことはした方がよろしいというような考え方で書いたわけであります。
  71. 石川金次郎

    石川委員 わかりました。それではきようはこれだけにして、明日に続行さしていただきたいと思います。
  72. 花村四郎

    花村委員長 本日はこの程度にいたし、次会は明後十七日木曜日午後一時より開会いたし、本日に引続き審議を継続いたしたいと存じます。  よつて本日はこれにて散会いたします。     午後四時四分散会