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森澤参考人 ただいま御紹介をいただきました、私広島市
漁業協同組合長の
森澤でございます。画期的な
漁業法ができますことを、私ども
漁民は鶴首して待
つておつたのであります。いろいろ
水産委員の皆様方の御盡瘁によりまして、ようやく私ども
参考人としてお招きにあずかり、
意見を申し述べる機会を與えていただきますような法律が、今期
国会に提案されるということを承りまして、まことに欣喜雀躍の感がするのであります。従いまして、私はこれを総括的に申しますると、現段階におきましては、この
漁業法はきわめて適法である、かように信じております。が、その適法である法律の
内容に、一、二愚見ではございまするが、各位の御
参考になればと存じまして、申し上げたいと存じます。
まず第二條事の第二項、
漁業者とは、という定義が、現行法におき場ましても、
漁業者とは
漁業を
生活のかてとして営む者をも
つて漁業者というという、実はこれとても、
漁業者の実態に即しますると、はなはだ抽象的であるのであります。改正法の條文で参りましても、
漁業者とは
漁業を営む者をいうということで、より一層抽象的であるのであります。私どものような、都市に近接しておりまする
漁業地区では、
漁業協同組合いわゆる加入
條件を、三十日ないし九十日の出かせぎ日数をも
つて一つの資格要件にしておりまするが、都市におりまする、いわゆるほんとうに
漁業をも
つて生活のかてとしておらない者でも、三十日や九十日は喜び半分に海に行くのであります。しかいたしましてこういう者ほどが、純粹無垢な
漁村地区へ入り込み、または巣くうて、
漁村地区を乱しいろいろ好ましからぬ言動をしつつある者をも
つて漁業協同組合をつく
つておる例が多多あるのであります。
従つて、せつかくの画期的な法律でありますから、いま少しくこの
漁業法に対しまする
漁業者の定義を、
漁村地区の実態に即した字句にお改め願うことができますならば、幸甚と思うのであります。おそらく、この定義はなかなかむずかしいので、ああいうような字句にきまつたのではないかと思いまするが、私ども
漁民といたしましては、いま少しく
漁村の
民主化をはかる、ほんとうの
漁業者の福利増進をはかる上において、
漁業者の団結の
一つのシンボルである定義を、
はつきりとしていただくことを希望するのであります。
次には、法の第十七條の区画
漁業免許のことでございますが、区画
漁業権のうちでも、かきの養殖
漁業でございます。御
承知のごとく広島県のかき業は、広島市の草津町、これは当時佐伯郡の華津村でございましたが、三百六十年の歴史持
つております。
いわゆる人工的に養殖を始めましてから、約三百六十年の歴史を持
つておるのであります。当時は石を使い、ささ竹を使いまして、いわゆる俗に言う地まき式とひび建式の養殖業をや
つておつたのであります。約二十年ほど前からこれを簡易垂下儀式、すなわちくいを打ちましてそうして針がね、なわ等を利用いたしまして、いわゆる附着器を利用して養殖する立体的な養殖業に転化したのが二十年前のことであります。現在までその養殖法をいろいろくふう
進化いたしまして広島県下のかき養殖業
経営者が約五百四十人おります。これに従事する従業者は約三千人おりますが、年産額はむきみにいたしまして六十万貫、これを年間の平均価格として一億五千万円の
生産価を上げておるのであります。ところが半面五百四十人、三千人のかき養殖業者が従事いたしております海上面積は、年年、埋立てその地の作用によりまして、
漁場は年年狭小を告げておるのであります。御案内のいごとく、かきの養殖業は一般
漁業と異なりまして、その
漁場の位置、また
漁場の適否、またはかき養殖業の利率、この三拍子そろいませんことには、このかき養殖は絶対成立ち得ないのであります。従いまして、終戦直後において遊休
資本と申しますか、どさくさにもうけた
資本が、私の方へも三、四入りまして、会社組織でこのかき養殖業をお始めになれましたけれども、今申しましたような三
條件を無視せられた、ただ金の力によるかき養殖をせられるということで、相ついで失敗いたしまして、その失敗した施設を多年経験を持
つておりまするかき養殖業者が引受けまして、本年非常な成績を上げておる例があるのであります。
従つてこのかきの養殖ということにつきましては、適地を選ぶということ、それから技術の練磨ということと、地理的
條件の
三つをかね備えなければとうてい成立たない、これは端的に申しますれば、経験を相当に積んでいない養殖業者は絶対成立たない。ところが私の方は五百四十人の
経営者でございます、三千人の従業者でございますが、この三千人が順次
経営者化しておるのであります。将来三千五百人の広島県下におけるかきの養殖業は限度であります。
漁場は年年狭められるのであります。でありまするから、今回の
漁業法が幸いに私どもかき業者のためになる法律でありますならば、この点を
はつきりした線できめてもらいたい。これを換言いたしますならば、経験いわゆる
漁業免許の資格要件の中へも五年ないし十年間かき養殖業に従事していない者は、この
免許資格の欠けたものであるというふうな、お取扱いが望ましいのであります。なお広島の現在のかき養殖業の
現状は、御
承知の方もあると思いますが、現在呉と岩国に駐屯しております英連邦軍の御好意によりまして、本年二、三月、この二、三箇月に南支、シンガポール、濠州まで、飛行機でむきみを実は輸出した経験があります。
従つて三百六十年の歴史を持
つております、きわめて封建的なかき養殖業は、現在日本が一番必要としておりまする輸出面にまで進出しております。九死いましてかかるこの経験をどうか
漁業法の
内容の、特に必
漁業権のいわゆる資格要件のうちには、かきに限
つては五年ないし十箇年間の経験年数を
はつきりお示し願いたいと思うのであります。
なおこれをいま少しく力強くお願いすることを許していただきますならば、業種別
漁業協同組合には
漁業権を與えないというふうに
なつておりますが、私は、かきに限
つてはぜひとも—業種別
漁業協同組合を今組織準備中であります。県下でわづかに五百四十人の
経営者でありますが、その業種別
漁業協同組合に対して、このかきだけはぜひとも業種別
協同組合に
漁業免許を與えていただくことを
法案の
内容にお入れいただくわけには行かぬものだろうか、かように私はお願いしたいのであります。どうかくれぐもお願い申し上げておきます。
時間の制約がありますから、多くを申し上げることはできませんが、かきというものは決してどこの海にも、どういう所でもできるというものではないということは、私が贅言を要しないほど、各位におかせられましてはとくと御
承知だろうと思いますけれども、広島県の
実情を率直に申し上げまして御
参考に供したのであります。
なお施行法の第十八條に、
漁業調整
委員というものがあるのでありますが、承るところによりますと、海区というものを設けて、海区
調整委員会を組織して
漁業の調整をはかるということに
なつておりますが、実は最終日の十九日に
公述人としてお出ましになるように拜見したのでありますが、東大農学部の講師である野村貫一氏、この方が昭和十年に広島にお越しになりまして、新日本式に基いた
漁業の
経営をしなければならぬという御講演がありまして、当時広島市には十一の
漁業組合がありまして、
漁業の紛議絶え間なく、実に錯綜して係争の真最中にあつたのであります。これがただ一言の御講演によりまして、自主的な
漁業調整委員会を実
はつくりまして、多くは四十年間、少くとも五年間にわた
つて紛議がありましたこの問題を、三年間に片つけた経験があるのであります。
従つて今回この法律で
はつきり示される
漁業調整委員会は、すでに私ども十四年以前にこれを始めたのであります。
従つてかような経験を持ち、体験を持つ私どもとしましては、この
漁業の調整、
漁業権の
免許を與えるに必要なる有力な諮問に応ずるという機関は、確かに
漁村の
民主化をはかり、
漁業権の適正配合を行う上において、最も必要なものであるということを痛感するのであります。ただ
一つその
委員の構成
内容に、
地方議
会議員の中で市町村
会議員はよろしいけれども、県
会議員だけは、これは学識経験者として知事が選任しようと思
つても、でき得ないのだというふうに承
つておるのでありますが、私あえて申し上げたいのであります。その
地方議会の県
会議員の中に、もし
水産に多年の経験を持ち、また
水産というものを至公至平に見るほんとうの適格者があ
つても、それがかれが都道府県
会議員なるがゆえをも
つて、
漁業調整
委員になれないということは、
漁村のためにも業者のためにも、はたまた本法律を適正に
漁村民主化のために適用しようというお
考えにある一点でも、もとるものが出て来やしないか、かように
考えまして、あえてこれは内規的な扱いかもしれませんが、本公聽会において私
意見を申し上げるのであります。
なお第十八條の第三号だつたと記憶しておりますが、瀬戸内海の
漁業調整
事務局を神戸市に置くということに相
なつておりますが、これは当時江農林大臣御在任中に、瀬戸内海の各府県の
漁業代表者には御相談なく、当時の藤田
水産庁次長が中心になりましておきめに
なつたように聞いておるのであります。ところが当時広島県といたしましては、私こういう席で申し上げることははなはだはばかるのでありますが、午前中にも、午後にわたりましても、たまたま、この
事務局設置の位置の問題について、
公述人、
参考人の方からお話がありましたから、私はあえて失礼をも顧みずお時間をさきたいと思うのでありますが、当時広島県としましては、山口県、福岡県、大分県、愛媛県、香川県、徳島県、兵庫県を、除いて、岡山県、この各県に対して、当時の県
水産業会長にあてて、広島県が瀬戸内海において中央部である。また幾多の
漁業を、調整するについて、各県に対していろいろ
なつながりが密接にあるという点等、いろいろ好敵地であるという
意見を述べまして、御賛同を求めましたところ、山口、福岡、大分、愛媛県は最も広島がよい。こうい
つて賛意を表し、徳島、香川は神戸市以外はどこでもよいとのことで、岡山県は当時態度保留であるという意思表示があつたのであります。
従つて午前中四国四県が岡山に同意しておるということがございましたけれども、そういうこともあるかもしれませんが、広島県といたしましては、地理的に見ましても、また陸路、時間的にいたしましても、下関に参りますのも神戸に参りますのも、同じ時間でありまして、岡山に参りますのも大分に参りますのも、瞬間的にやはり同じであります。また四国に参りましても、愛媛県に参りますのに宇品からでも尾道から参りましても三時間、いずれにいたしましても、地理的に申しましても、また瀬戸内海のあり方から申しましても、また
漁業権の実体から申しましても、私ども広島県の約六万の
漁民は、また、山口、大分、福岡等におかれましても、広島県こそ、瀬戸内海の
漁業調整
事務局所在地として一番適地である。かよう
考えを現在もお持ちくださ
つておりますから、できますれば第十八條にある「神戸市に置く。」という原案を、私冒頭に申し上げましたごとく、この
法案はわれわれ
漁民にと
つてこれなくして画期的な
漁村の
民主化をはかれず、これなくして
漁業の
生産増強は成立たない。さようにこの
法案の成立を鶴首待望しておる者の一人として、この修正をお願し、また御
意見をおかえくださるならば、失礼千万でありますが、ぜひともこの神戸市という原案については、皆様方の御賢明なる御判断によりまして、御是正願いますことができますれば、まことにしあわせといたします。
與えられた時間もございますので、以上はなはだ簡略粗辞ではございますけれども、御
参考までに申し上げた次第であります。