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政府委員(
高橋一郎君) 見ました。
意見はいろいろあるのでありますけれども、特にこの
判決についてのみということではなくして、私共は
生産管理に関する全体の
傾向ということをいつも氣をつけておるのであります。むしろそういう方のお答ですとやり易いのですが、この
判決自体を特に取上げて
ちよつと申上げます。この
二つの
判決を比較いたしまして法理論的に私が
法務廳といたしまして
注意する点がございます。それは
ヤマサ農機具の方は、
生産管理について
合法の場合があり得るという考を持
つておるのでありますが、その
考え方は
昭和二十一年の
食糧メーデー前後に現われました一部の学者の、いわゆる
理想型生産管理合法論という域を多く出ていないというふうに
考えておるのであります。それに対しまして、
大和製鋼の方の
判決は
結論はともかくといたしまして、理論的には
一つの進歩を示しておると私は
考えております。その違いは
大和製鋼の
判決におきましては、いわゆる
刑法第三十
五條の正当の
行爲という問題ではないということを
はつきり言
つておるのであります。そうしてただ問題として残るのは、いわゆる
緊急行為として許される場合があるかどうかということを更に判断しておるのでありまして、從來の
生産管理合法論というものは、非常に大雜把でありまして、その点の解明が実は足らなか
つたのであります。私は
大和製鋼の
判決をこのように三十
五條の問題と三十
七條の問題とを区別して
考える
考え方は非常に結構であるというふうに実は
考えておるのでありまして、三十
五條の正
当行爲として論ずる場合と三十
七條の場合とどのようにでは
結論的、結果的に違うかと申上げますと、第三十
七條の
緊急避難というものは、
法律が介入するいとまのない時と場合における問題でありますから、
裁判所の前に現れたときには、これは止むべき問題であります。仮に
緊急行爲として正当と認められたとしましても、それが
民事或いは
刑事の
裁判所の問題になりましたときには、その
行爲はもはや続けらるべき問題ではないのであります。然るに從來やられておりましたように、
刑法第三十
五條の正
当行爲の問題である、こういうことになりますというと、
裁判所の面前に出ましても、尚
且生産管理を強行する、こういうような弊害をもたらすのでありまして、非常に專門的な点でございますけれども、実は
生産管理論に関する重要なる問題であるというふうに
考えておるのであります。
法務廳の
檢務局といたしましては、
生産管理問題が非常に理論的にも紛糾の形を呈しております際は、先ず三十
五條の問題ではないということを力説してお
つたのであります。そのような結果がやはり
大和製鋼の
裁判例に現れているのではないかというふうに
考えているわけであります。そうして、次に來る問題は、
緊急行爲として認め得るか否かという問題なのでありますが、これも
相当に研究すべき問題であろうと思います。この点については、まだ余り多くの
議論を見ていないようでありますけれども、先ず
生産管理論というものは、仮りに
合法と認めらるるにしても、それは
緊急避難として認めらるることがあるかどうかが問題となるのであ
つて、三十
五條のいわゆる正
当行爲としていつどこでも続けておられる
行爲という
意味では決して正当視されるものではない、こういうことを言
つている点においては
大和製鋼の
裁判例は
一つの興味のある
資料である、恐らく
結論だけを
御覧になる方は、いろいろな感じをそれによ
つて持たれると思うのでありますが、それに到達した行き道を
考えております我々といたしましては、その点を解明しただけ
大和製鋼の
裁判例は
一つのプラスであるというふうに
考えておるのであります。