○國務
大臣(森幸太郎君) 岩男議員にお答えいたします。人議と食糧問題ということが、國家といたしまして誠に重大な問題であるのであります。限りある國土に限りなく殖えて行く
人口を養
つて行く、お話の通り年々今日では百六十万の
人口が殖えております。一面に産兒制限であるとか、或いは
人口調節というような問題も起る程、この
人口問題につきましては、國家として関心を持たなければならない重大な問題であります。而も戰爭に負けまして郷土は荒廃し而も四つの島に限られまして、年々百六十万も
増加する
人口をどうして養
つて行くかということを
考えるときには、國家として実に重大な問題と
考えざるを得ないのであります。私微力にしてこういう大きい問題を解決することに御満足を與える解答ができるかどうか知りませんが、私のこの問題に処して
考えておりますることを申上げたいと思うのであります。
日本の各種食糧の増産が果してできるかできないかという問題であります。年々、六百万町歩の水田畑地を持
つておりますこの耕地を十二分に耕しつつあるかどうかという
一つの問題であります。戰爭以來化学肥料に依存いたしまして、耕土は非常に瘠せております。もはや化学肥料、硫酸アンモニアを施しましてもそう効果を挙げることができない程酸性土壤化している面もあります。こういう瘠せた土地でどうして増産を挙げて行くかという問題でありますが、これは即急の問題としては、或いはその効果を見ることはでき得ないかも知れませんが、私といたしましては有畜農業を採入れまして、そうして土質の改良をや
つて行く、又酸性土壤の改良に対しましては化学的措置もありまするが、客土等によりまして土質を改良して行く、又耕種方面、栽培技術方面においては、まだまだ採入れる技術があろうと思うのであります。
日本は余りに科学というものを尊重しない今日までの
状況でありまするが、この農業
生産の上におきましても科学を用いるという点が非常に多いと
考えておりまして、農業改良局等にも動員いたしまして、この技術面の惨透を考慮しなければならぬと、かように
考えておるのであります。又耕地の拡張でありますが、これは干拓と開懇と土地改良、この三つの面が許されてあります。開懇につきましては戰爭以來
失業対策の
意味を以ちまして開懇が継続されたのでありますが、その入植條件が不十分でありまして決して成功いたしたとは
考えておりません。併し相当の耕地が新らしく設けられたのでありますが、この新らしく設けました耕地をうまく利用するということについては、開拓に相当の体驗を持つものでなければ実際いけないのであります。昨年來満州なり或いはシベリアから引揚げて來ましてこういう開懇事業に体驗を持つ優良な人の入植を見まして、現在で二万五千世帶が入
つておりまするが、更に現在待機しておる人もありまするので、この一万世帶を二十四
年度においては入植して貰うということもやりまするが、この開懇、開拓がややもすれば行き過ぎまして國土保安を乱すような平地林の用木材を伐採して、そうして耕地に仕向けるというような各地に摩擦が起きております。これは昨年の十二月、
農林省といたしましては各府縣に指令を発しまして、そういう摩擦の起らないように國土保安の上にも耕地を守るような注意を拂
つておるのでありますが、開懇の方向におきましては当時百五十六万町歩というものが
計画されてお
つたようでありますが、事実さほどの開懇の余地はなか
つたと思います。併し今後におきましてはこの開懇というよりむしろ干拓の方に力を入れたらどうかということも
考えているのであります。この干拓におきましても、沿岸地方の潮の満干を利用して干拓いたしまするところと、湖沼を干拓いたしまするところの二つの面がありまするが、この海岸線の干拓におきましては余程規模が大きくありまして、又経費も相当掛るのであります。一反歩に六万円から七万円も経費が掛るのでありますが、区域が非常に廣範にな
つている場所が多いのであります。併し所によりまして実に簡單に干潮を利用して干拓できるところがありますのでこういうような所において耕地を拡める。而も市街地に近いのでありますから今後入植いたします場合におきましても、
生活の保障もあり便利でありまするから、こういう方面の改革に力を入れる、又湖沼の干拓におきましては、これは水の溜
つておりまするものを引上げて、そうして必要時に水を灌漑すればいいのでありますが、至極簡單に干拓ができますので、こういうふうな方向に力を盡して耕地を殖したい、こういうことを
考えておるのであります。これは耕地を拡張する問題でありまするが、更に耕地を開拓しますのと、土質を改良しまして、地力を復活させるという面によ
つて努力いたしまして、果して年々百六十万の
増加率を持つ
人口を、どうして養
つて行くかということを
考えますと、なかなか容易ならざる問題がここに起
つて來るのであります。そこで現在私の
考えておりますることは、あらゆる力を以てこの増産に
努力する、いわゆる科学を取入れ、土地を拡め、そうして土質を改良して、そうして
生産の技術を総合的にあらゆる角度から改善いたしまして増産いたしますと共に、輸入食糧をできるだけ防遏して行きたい、この
考えを持つのであります。二十四
年度の米穀
年度において今
政府の
考えておりますことは、百八十万トンの輸入を懇請すべく
予想いたしておるのであります。これは御
承知下さる通り、この七月からアメリカの
國会が開かれますので、どういう
予算か
編成されるか、これは未知数であります。百八十万トンの食糧が許可されるかされないか、これも分らない問題であります。もう
一つ日本として
考えなければならないことは、ひよつとすれば或いはこの海外よりの食糧輸入というものが、どういう環境に置かれるとも分らないということも、
一つ考慮に入れて置かなければならないと思うのであります。そうしますと、ますます
日本の食糧の前途というものに不安を持たざるを得ないのでありまするが、併しこの間も御
承知下さるかも知れませんが、シヤムから五万トンの米が輸入されることになりまして、近く又次々とこういう問題もこちらの要請に應じて貰えるような時期も來ると思いますが、いずれにしましてもそういう
意味でなしに自力によ
つて日本の食糧を確保して行きたい、こういう氣持を以て農政を進めて行きたい、かように
考えるのであります。八千万の
國民が戰前は一石七升くらいの消費量でありました。幾らか
増加いたしておりますが、本当に食べても一石一斗くらいだろうと思いまするが、今二合七勺に規正されておりますが、事実はもつと食うておるのではないかと思うのであります。仮に八千万の
國民が一年一石を食べるといたしますれば、丁度八千万石でありまするが、八千万石の米が
日本で穫れることがあるだろうか、どうだろうかという問題であります。私は米が少くとも六千五百万石乃至七千万石取れるといたしますれば、後の二、三千万石を外のもので取れば、麦で千二百万石を先ず
考える、それから「さつまいも」馬鈴薯、これらの芋類によ
つて三千万石くらいを
予定すれば、一億万石の食糧が得られる。そうすると、先ず現在においては輸入食糧に仰がなくてもいいような計数も出るのでありまするが、直ちに今日の供出制度等の
考えから申しまして、尚この制度において改善すべきものがありますので、直ちに輸入食糧をお断りいたしまして、自給自足を樹てるというところまでは進んでおりませんが、私はこういう
考え方を以て進めて行きますならば、必らず或る時期には自給自足の途が立つと、こう思うのであります。本
年度にはいつかも御報告申上げたかと思いますが、「さつまいも」が折角二十億万貫、三十億万貫取れましても、それを腐らせることが多いのであります。でありまするから、本年は小さい規模でありまするけれども、三千万貫を來年の四、五月頃までこれを貯藏いたしまして、そうして総合的な配給をいたして行きたい、こういうような
考えも持
つておるのであります。然らば現在の
國民は八千万でありますから、それで救える。然らばこの百六十万ずつ殖えて行く
人口をどこへ包容するか、これが問題であります。耕土を拡めることはできませんし、
人口は未だに移民も許されておりませんが、どうするかという問題であります。私は今日の
日本の國土は地力が落ちておりまするけれども、土質を改良して行きますならば一毛田が二毛田になる。二毛作地として見ることができます。或る一定の分量ではあるかも知れませんが、一毛作地を二毛作地にすれば、土地が倍に
なつたわけであります。そういう方面において土地の利用を高めて行くということと、もう
一つはベルギーの例を倣うではありませんが、その
増加する
人口を今日の農村にかぶされては農村は持
つて行けません。農村においては自然農村
工業を発達させて余剩労力を利用して農村
経営の
合理化をする。必ず年々百五、六十万ずつも
増加する
人口を農村にかぶされては農村はたま
つたものではない。そこでこれはベルギーの例に倣うではありませんが、いわゆる軽
工業を起して、軽
工業によ
つて輸出品を
生産して、そうして食糧を外國より取入れる。これは今の例には少し不向きかも知れませんが、一反歩の桑園を立派に
経営いたしますと、十五貫の繭が取れます。その十五貫の繭を生糸としてアメリカに輸出すれば、十五石の麦を海外から取ることができます。一反歩の桑園を如何にこれを栽培いたしましても、麦や「さつまいも」で十五石の食糧を得ることはできないのであります。これを生糸としてアメリカへ輸出すれば十五石の麦が入
つて來る。これは
一つの例でありますが、この小さい軽
工業によ
つて過剩の
人口を包容し、軽
工業の力によ
つて必要なる物資に入れるいうこの途によ
つて日本は救われるのではないか。移民等のごときも許されませんし、満洲もあの通りでありますから、今残されたのは北海道であります。北海道は満洲の開拓よりもむしろ有望であり、そうして
日本の
國民としてあの北海道を総合的開拓をいたしまして、北海道に本当に落著いた方法を
考えるならば、
人口増加の方面にもまだ余地を持
つておるのではないか、こういうようなことも
考えるのであります。あちらこちらに亘りまして甚だ雜駁な申上げようでありましたが、私はこの食糧問題と
増加する
人口問題を
考えますときに、
日本にと
つてこれは実に重大な問題であり、この対策につきましては皆樣のいろいろのお智慧をお借りしまして、これはや
つて行かなければならないと
考えておるのでありますが、目下私の
考えておりますことをこういうことを一端ではありますが、申上げさして頂いたわけであります。