○中西功君 私は中國との貿易問題に関しまして、
首相並びに
関係閣僚に
緊急質問をいたしたいと思います。
今、中國においては人民
解放軍が大なる勝利を成しつつある。近く中國に新らしい
政府ができるであろうことは、すでに万人が認めております。私がここで
緊急質問をしようというのは、單に近く中國に新らしい
政府ができるから、それとの貿易
関係を考えねばならないというふうなものではないのであります。今日の中日貿易の我我にと
つての緊急性というものは実に切実なものであります。
日本政府によ
つて貿易
計画は非常に華やかに大きく立てられております。併し現に滯貨は日に日に増大しており、入超もますます大きくなる傾向を見せております。それに関連いたしまして、現在この
政府の貿易
政策の強行と関連いたしまして、國内向け産業は大量に沒落しつつあり、首切りは荒れ狂
つているのであります。特にこの点は、本來ならば
日本の経済の自立の基礎であるべきところの重化学工業において非常に悲惨であります。これは若し実際に正直に
日本の経済を見ておられる方ならば、今日のこの国内向け産業、特に重化学工業のこの惨状が如何に甚だしいものであるかということは、もう簡單に了解して頂けると思うのであります。從
つて又このような点から、今日この
経営者或いは労働者は、特に自分たちの起死回生のために、新らしい中國との、而も即刻の貿易を切実に願
つておる。このような人々は、この貿易の中に正に起死回生、生きるか死ぬかの問題を賭けておる。從
つて今日全國各地に中國貿易を
促進せよといういろいろの團体或いは運動が起
つておるのであります。これをなしている人々は、これこそが自分たちの血路であるこういうふうに、はつきり考えて、この問題を実に眞劍に
提出しているのであります。私は正にこれこそ今日の大きな一つの國民運動だと思います。このような國民運動に対して、私は
吉田内閣或いは閣僚各位が、実際にこの國民の要望に対して眞に應えるだけの策、或いは態度を持
つておられるかどうか。この点について以下四点に亘
つて具体的に
質問をしたいと思うのであります。
第一の問題は、今後の中日貿易を打開するために中國共産党の指導下の新中國が一体如何なるものを要求し、如何なるものを希望しているか。端的に言うならば、如何なる貿易
政策をやろうとしているかということは、これは是非とも我々は考えなければならない点だと思うのであります。御存じのごとく中共といたしましては、昨年の十二月において
日本に対する或る種の根本的な要望を発表したことはあります。併し私は今日ここでそのことを問題にしようとしておるのではないのであります。問題は、この新らしい中國が如何なる貿易
政策を持
つておるか、それに対して
日本政府はどのような理解或いは又態度をとろうとしておられるか、ここに大きな問題、大切な問題があると思うのであります。新中國の貿易は、國民党の、或いは古い中國の貿易とは全く違
つておるのであります。國民党の貿易は全くアメリカに依存しておる。或る
意味ではアメリカ中心主義と言
つてもよかつたし、同時に國民党の貿易は決して中國の眞の建設の上に建てられていなか
つたのであります。その結果が、今日に見られるように甚だしい経済的危機と、そして國民党自体の沒落を結果したのであります。新中國の貿易はこれとは全く違
つております。その貿易
政策を向う側の言葉で言いますれば、その根本はこうであります。中國の工業化のための輸入であり、輸入のための輸出である、これが新中國の貿易
政策の根本をなしておるのであります。(「それはアカハタに書け」と呼ぶ者あり)私はこれらの内容は別に詳しく申しませんが、要するに中國を低い
農業國或いは軽工業國として止めて置くような貿易であ
つてはならない。飽くまでも中國の工業化を
促進するものでなければならない。從
つて又重工業、重化学工業の建設資材の輸入ということが、これが中心なんであります。更に又これを押進めて行くならば、多角的な貿易であり、バーター制にな
つて行く。こういうふうな、いろいろな問題があります。そこで問題の所在はどこにあるかと言えば、若し我々が今後中日貿易をやるといたしましたならば、相手國のこのような貿易
政策を考えないでやつたならば、もう完全に貿易は拒否されるということであります。併し又これに反して、幸にして
日本の貿易が中國の建設のために役立つようにな
つて行くならば、これは、あの四億五千万の厖大な國民を背景にして無限に栄えて行くことができると思うのであります。このようなことは我々が新中國の貿易
政策に対してどのような態度をとるか、ここにあるのであります。この点であります。
吉田首相は曾てこういうことを言われたということを聞いております。どうせ中國だから、赤であろうと、黒であろうと、貿易くらいはするであろうというふうなことを言
つておられる。このような、あやふやな、或る
意味においては人を馬鹿にした考え方でやられたならば、恐らく私は中日貿易の好ましい打開は絶対できないと思うのであります。更にこの点に関して、安本或いは又商工省当局において、この新らしい中國の貿易
政策の調査や或いは研究を如何程や
つておられるか。先ず私はこういう点をお聞きしたいと思うのであります。
第二番目は、この中日貿易の問題は、実は我が國のこの貿易
政策の根本の再檢討を要する問題であります。又しなければならぬ問題であります。戰前でも
日本の中日貿易は
日本貿易の三割以上を占めておりました。今日は非常に残念にも一%内外であります。何故にこれ程悲惨な数字であるか。これは中國の事情にも理由がありますけれども、根本はそうではなく、根本は、やはり現在の
日本のアメリカ中心の貿易
政策が持
つておるところの弱点、或いは欠点というものが明瞭にここに露出しているのであります。逆の言葉で言えば、これは中國のこの現状がその弱点及び欠点を示しておるのであります。私は國民党の貿易
政策の悲劇的な結果については先に申しましたが、殷鑑決して遠くはない、近くこの國民党の古い中國にあるということを、はつきり認めなければならないと思う。私はここで現在アメリカ中心の
日本の貿易がどんな欠点を持
つているか、いろいろのことについては、もうここに申しません。要するに私が今まで申しましたことによ
つて、我々が今後本当に中國との貿易を考えて行こうとするならば、單にこれは中國だけの問題ではない。
〔
議長退席、副
議長着席〕
インドに対しても、南方諸國に対しても、イギリスに対しても同じ問題である。結局においては
日本の現在の貿易
政策を根本的に再檢討しなけりやいかん。これなくしては本当の中日の貿易はできない。好ましく発展しないという点であります。この点について私は過去の事情をいろいろ説明すべき点もあるのでありますが、時間も十分ではないので、それは省略いたします。とにかく、この第二点の私の
質問は、本当に現在のこの
日本國民の中國との貿易を
促進したいという國民的要望を、
吉田首相並びに
関係閣僚が眞に考えておられますならば、私は
吉田首相或いは
関係閣僚として、眞劍に今までの
日本の現在の貿易
政策について、どうしても根本的にもう一度再檢討しようとするだけの誠意がなければならぬ。そのことなくしては新中國との貿易の打開は絶対にできない。これに対して
吉田首相は一体どう考えておられるか、安本長官はどう考えておられるか、はつきり述べて頂きたいと思うのであります。
第三は(「簡單々々」「時間だよ」と呼ぶ者あり)中國或いはその他の地域に対する貿易使節團派遣の問題であります。中國との貿易につきましては、私は直接貿易が一番好ましいと思うのでありますが、勿論これが直ちに実現できるというわけではないのであります。併しその直接貿易が直ちに実現できなくとも、我々は今日やはり一日も早くこの中國との間に新らしい
関係を設定しなきやならないのであります。そのために努力しなければならないのでありますが、これは現に重化学工業が一日々々沒落しておるのを見れば極めて明白なのであります。而も今日如何に不自由な状態の下にあろうとも、我々は、やはり努力することはできると思うのであります。幸いにして
衆議院におきましては、貿易使節派遣の議が採り上げられました。私は先ずこの貿易使節派遣が何よりも中國に向
つて或いは又ソ連に向
つて向けられるべきであると思うのであります。このことは、先日、東京にできました中日貿易
促進会においても、この中國への貿易使節團派遣を一つの國民運動として採り上げるということが言われております。最近、東京
新聞には、すでに
中共地区から非公式の貿易使節が來た、こういうふうなニユースまで出まして、異常なセンセーシヨンを巻き起しました。これ程今日この問題は國民の切実な関心事にな
つておるのであります。私は
政府がなし得るところの差当りの緊急的
措置として、
現行の貿易の手続の簡素化や、或いはバイヤーの問題等についても十分な
改革を行わなきやならないと思いますが、差当りこの貿易使節の派遣のために、できる限りの努力をなすべきだと思うのであります、この点について
首相並びに安本長官の決意の程をお聞きしたいと思います。
最後に、私は新中國に対する
吉田首相の、或いは
吉田内閣の態度について、総括的なことを三点についてお聞きしたいと思うのであります。
その一つは中國に対する認識であります。即ち若し
吉田首相たちが本当に現在の中日貿易
促進のこの國民的要望のために努力しようと考えておられるかどうか。即ちおられるならば、私は新らしい中國、現在の中國に対しても亦おのずから私は認識が違
つて來ると思う。
吉田首相は、或いは
吉田首相とは限りませんが、今、
日本には、今は中共が割合に調子がいいが、そのうちに又國民党が盛り返して、再び古い中國ができるであろう。こういうふうな氣分、こういうような論説が可なり普及しております。
吉田首相が今日の
新聞紙上に中國の
新聞記者に対して語られたところでは、そのうちに中國では共産主義を克服するだろうというふうなことも言われておりますが、要するに、こういうふうな問題、恰かも古い中國がもう暫らくすれば墓の中から出て來るというふうな、このような考え方では、絶対に新らしい中國と眞に眞劍に今から貿易を
促進して行こうという氣は全然起らないのであります。私はこういう認識を絶対変えなければならぬ。これに対する
吉田首相の
見解は一体どうであるか。これが第一点。
第二点は、私は中國との間に今後好ましい貿易をやろうとするこの事業は、決して生やさしい問題ではないと私は思
つております。知
つております。併し私は若し有力な
日本の國民運動が起
つて、それが
政府のバツクになれば、これは必ずや近いうちに急速に打開し得ると思うのであります。(「何だ」と呼ぶ者あり)し得るに決
つておるのであります。(
笑声)從
つて私は現在澎湃として起
つておるところのこの中日貿易
促進の國民運動に対して、
政府は如何なる考え、如何なる声援を送ろうとしておるか、具体的にそれを聞きたいと思うのであります。
最近に、この
吉田内閣の対中國態度を最も現実的に現わすものとしては華僑の問題があります。外國人の資産取締令の中に華僑を包含したことによ
つて、華僑は非常な憤慨をしております。これは華僑経済を実に無視するものであります。若しこのようなことを今後とも
吉田内閣が続けて行き、この政令の撤廃のために努力されないとするならば、如何に中日貿易
促進の声を千百万言言われたとしても、私はそれは空言であると思う。この政令の中から華僑を取除かれるべく努力するかしないか、これこそが私は最も端的に
吉田内閣が、今日、眞に中日貿易の
促進を考えておるかいないかの試金石であると思うのであります。このような諸点に対しまして、この問題が眞に大きな関心を呼んでおるだけに、特に又最近に澎湃として中日貿易
促進の國民運動が起
つておる際でありますために、特に
吉田首相並びに
関係閣僚のはつきりとした答弁をして頂きたいと思うのであります。これを以て私の演説を終ります。(
拍手)
〔
國務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕