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早川愼一君 私は
緑風会の一員といたしまして、政治的には
嚴正中立の
立場から、又
終戰以來、今日まで
労資の問題につきまして直接掌理に当りました実感に基きまして、この際
政府に対しまして
質問申上げ、明らかにして置きたいと思うのであります。
先ず第一に、この
法案が
國会に提出せられるまでの経過についてであります。昨日の
提案の御
説明によりますと、昨年の十二月に
マツカーサー司令部の示唆を受けられまして、
労働省は本
法案の
改正に着手せられた。二月の十四日に第一次
試案が
発表になりました。第一次
試案は八章六十七
ケ條でありましたが、極めて
廣汎なものでありまして、今回
提案になりましたのは三章三十三條、單に形の上からだけ申すわけではありませんが、我々の受ける
印象は非常に
後退されたという
印象を受けるのであります。(「それが中立か」と呼ぶ者あり)尚、
試案の
発表の際に、
改正の主要な
題目として
四つの項目を挙げておられるのであります。その第一は、
組合の
民主化、
自主性、或いは
責任性の
確立、第二は、
團体交渉の
慣行と
手続の
確立、第三は
労働委員会の
強化、第四は
爭議行爲と
公共の
福祉との
調和というような、
四つの主要な
題目を挙げられておるのであります。今回の
改正案によりますと、このうちの主要な
部分がすべて省かれておるのであります。只今も
大臣は、
基本方針には
変りはない、即ちその
基本方針は
労働組合の自主的、
民主的責任性の
確立という
方面に
重点があるのである、こういう御
説明であります。併しながら、これは
從來もいろいろ
労働省或いはその他の
方面から
教育の部面に随分盡しておられるのでありまして、すでに
通牒等も行われ、又その一部についてはすでに実行を命ぜられておるのであります。むしろ今日の
事態から申しまするならば、今日
労働紛爭が起きました場合に、一体どういうことが行われておるかということを果して認識せられておるのかどうか。私共の感想によりますというと、実は
團体交渉の面におきまして、いろいろ現在の
法規が不備欠陷がありますために、頗るこれを一部の過激なる
労働組合の
指導者に濫用されておる点が多々あるのであります。(「その
通りだ」と呼ぶ者あり)若しその
実例を挙げろと言われるならば非常に沢山あるのであります。ここに
政府の
発表せられました
事件だけでも、
最高裁判所の
刑事部で
発表にな
つております
労働関係の
事件の
判決集によりますというと、
昭和二十三年の六月までに、有罪と決定されておるものだけでも、
暴力行爲三十二件、傷害十三件、
業務妨害十一件、
不法監禁八件、
住居侵入七件、
建造物侵入五件、
公務執行妨害四件、強要二件、
業務上横領二件、暴行二件、
名誉毀損、殺人、脅迫各一件、かように多くの事例が今日実際に行われておるのであります。(「
使用者側のやつはどうした」と呼ぶ者あり)然るに昨日もこの議場で、現在の第
一條の第二項でありますか、いわゆる刑法の三十
五條の
規定が
労働組合の正当なる
行爲については適用される、即ちこれを言い換えますというと、
労働組合の
行爲はどういうことをや
つてもよろしいのだというように專ら言い触らされておるのであります。又それが実際の実情なのであります。かようなことに対して(「どこの國でだ」と呼ぶ者あり)昨日一
議員から、この
條文は撤回すべきものである。成る程この
條文は宣言的な
法文でありますので、必ずしも必要のないことでありますが、かくのごとく今日はこの
條文すら惡用されておるのであります。かような実態を基にいたしまして、
現実を直視するならば、今回の
改正法案が提出されることは極めて当然と言わなければならぬと思うのであります。(
拍手、「
賛成演説か」「それが
質問か」と呼ぶ者あり)そこで、かように
現実を直視し……
労働組合の問題はイデオロギーの問題ではありません。(「
賛成々々」と呼ぶ者あり)現在の
事態を如何に解決するかということが
根本にあるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)そのような観点からいたしますれば、今回の
労働者がとられました
手続については、私は遺憾ながら
賛成いたしかねるのであります。なぜかと申しますというと、大体
労働立法に対して、
内閣が
基本方針を決めずに、いきなり
労働省に事務的な立案を命ぜられたということは如何なる
理由によるのでありましようか。(「
総理大臣を呼べ」と呼ぶ者あり)そのために先の
試案と今回の
提出案との間に非常な
後退或いは違
つたところができましたことは、
労資双方に非常な心理的な
影響を及ぼすのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)即ち今後の
労働紛爭に対しまして、かような
影響を與えたことにつきまして、果して
政府は今後の
労働紛爭が円満に解決できる御自信があるのかどうかということを、先ず第一にお伺いいたしたいと思います。(「そうではないよ」と呼ぶ者あり)
次にお伺いしたい第二点は、
経済九
原則の
実施と本
改正案との
関連に関することであります。
経済九
原則が
実施せられましてその効果を挙げて参りますのには、その前提といたしましては、
労資間の
安定関係が維持せられ、その
紛爭が終熄せられるということでなければならんのであります。この点に関しまして九
原則の
指令の
マツカーサー書簡の中には、目的を弁えぬところの
労働紛爭、破壊的な思想の圧迫の結果による復興の
妨害を除去しなければならぬということが示されておるのであります。そのために、自由の社会に與えられておるところの特権と、自由の一部の一時的な放棄も亦止むを得ないということが示されておるのであります。このように九
原則の
指令は、今後の
労資関係につきまして、
生産増強という線に沿うて
協力体制へ強力に推進せられなければならぬということを示しておるのであります。その結果といたしまして、
労資関係はここに新たな轉機をいたさなければならぬことは何人も認めざるを得ないのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)そこで、
経済九
原則の
実施によりまして、
労働法規も亦この線に
沿つて改正せられなければならぬと思うのであります。特に私共が強調いたしたいのは、この
原則が
実施せられない過去において、或いは
労働協約により、或いは
経営協議会、或いは
ストの脅威によ
つて、不当に奪われておる
企業権の拘束を解放するということが先ず以て必要なりと思うのであります。申すまでもなく九
原則は、
企業の
経営に対しましては誠に
峻嚴なる
制約條件であります。この
原則の下におきましては、何人も
企業経営に当りまして、好むと好まざるとに拘わらず、
企業の整備、
合理化をして行かなければならぬことが要求せられておるのであります。この点に関しまして、私供が
考えますのは、
労資間において成るべく
爭議に訴えないようにおのおのが平和的な
安定條件に立つように、
爭議が激発しないように、予め
労資双方の間において
平和義務を守るということが最も必要なのではないかと思うのであります。(「平和だけでは
生産が挙らない」と呼ぶ者あり)
從來、
労働協約の中にかかる
平和條項を設けるということは、即ち
爭議権の
剥奪であり、或いは抑制であるということを言われておるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)併しながら、これは決してそういうものではありません。(
笑声)往々にして直接
交渉をいたしますときには、
双方が或るときには面子に囚われて、その
勢いのために
爭議に突入することも間々あるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)かような
意味におきまして、(
拍手)第三者の調停を予め予期して置いたり、或いはその他いろいろの方法を設けて、
勢いによ
つてストに突入するというようなことにならぬように
労働協約の中に設けて置く必要があると思うのであります。(
拍手)これは決して
爭議権の
剥奪でもなければ制限でもないと思うのであります。(「さよう」と呼ぶ者あり、
笑声、「その
平和條項を削
つたんだよ」「
労働組合法を
作つた者は黙
つておれ」と呼ぶ者あり)
第三には、これはたびたびここに問題にな
つておりまする
公共の
福祉を
ストの惨禍から救うということであります。この点に関しましては、少くとも今日
経済再建に不可欠な
基幹産業は、
公益事業にこれを含めまして、この部門の産業平和を絶対に確保するということが、そういう
措置を採ることが急速に講ぜられなければならぬと思うのであります。然らざれば折角の
経済再建計画も遂には根柢から覆えされることになると思うのでありますが、これを要するに、
経済九
原則が実行せられるその面から見まして、今回の
改正案がこれで十分だという
政府のお
考えでありますか。その御所信の程をお尋ねしたいのであります。
質問の第三点は、
現行の
法規が頗る抽象的で概括的である、そのために惡辣な過激な
アジテーターのために非常に利用されておるということを申上げたいのであります。(「何が
アジテーターだ」と呼ぶ者あり)
法規の中にも誠に
解釈に苦しむことが沢山あるのであります。で、このために
政府はしばしば
通牒或いは
解釈規定をお
出しにな
つておるのであります。つい最近、
檢務長官の
通牒によりますというと、
現行法の第
一條第二項の正当なるものについての
解釈規定があるのであります。然るにこの
通牒と今回の
暴力の
行使という
通牒との
関係におきまして、私共は現在の
規定は未だ十分でないのみならず、
暴力の
行使は正当なものでないという御
解釈が正しいとするならば、或いは又
暴力以外のものは何でも正当であるというふうに
解釈されるのであります。この点は、
政府はどういうお
考えでありますか。或いは又かねて
労働省は
次官名を以ちまして、
労働協約並びに
労働組合に関して
指導要領をお
出しにな
つておりますが、その中には随分
法規としてお採り上げになるべきものが多々あるように思うのであります。これらの
通牒と今回の
改正法規とは如何なる
関連を持
つておりまするか。又何故
通牒で明らかにされておることを、
法規の上に、はつきり
規定されないのであるか。これが私の
質問の第三点であります。
尚この際、特に
條文について問題を明らかにして置きたい点が二三ございますので、これを
追加して御
答弁を願いたいと思うのであります。それは先程申しました第
一條第二項の
正当性の
限界がどういうものであるか。但書で
暴力の
行使のみを明記してありまして、その他の
行爲が正当であるかのごとき
解釈が採られるのでありますが、この点に関する
政府のお
考えを質して置きたいと思います。尚その他各條につきまして、正当という文字が方々に散見するのであります。特に第八條の
損害賠償の免責について、正当なるものということがありますが、これは一体過去においていろいろ問題にな
つておりました
生産管理を含んでおるのかどうかということも、この際明らかにして置きたいと思うのであります。それから
團体交渉の拒否に関する
規定でありますが、それは第七條の第二号に、ここにも正当な
理由のある場合には
團体交渉を拒否し得ることがあります。併しこの正当な
理由というのは如何なる
意味を含んでおりますか。
試案には可なり詳細にこれが
規定してあるのであります。この点を明らかにする必要があると思うのであります。尚、昨日も問題にな
つておりましたが、
專從者の
給與の問題であります。このことは
試案には明らかに
專從者の
給與の問題が謳
つてありまするが、今回の
改正案によりますと、
使用者の経理上の援助を受けるものというようなことにな
つておるのであります。かように不分明な点が多々ありますことは、今後の
労働紛爭の上において、決して好い結果を來さないだろうということを甚だ恐れるものであります。これを以て私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
國務大臣鈴木正文君
登壇〕