○
紅露みつ君
只今議題となりました
海外残留同
胞引揚促進に関する
決議案の
趣旨につきまして弁明申上げたいと存じます。
先ず、その
案文を朗読いたします。
海外残留同
胞引揚促進に関する
決議
終戰以來今日まで
連合國の積極的な厚意により六百余万の
引揚が
実施せられたことは、全
國民の深く
感謝するところである。
しかし、今なお四十数万
同胞が
國外に
残留を余儀なくされている。昨年は、五月六日
ソ連地区から
引揚第一船の入港をみた。しかるに本年は、まだ
引揚再開の予報さえなく、その
引揚如何は全
國民の悲痛極まりない
関心事である。
この際、われわれは、更に
一段の
努力と
施策をなすことを
決意する。
政府は、本
年度帰還完了を必ず実現するよう緊急に有効な
措置をなすとともに、
残留者留守家族に対し、万全の策を採るべきである。
右
決議する。
以上が
決議案の
案文でございます。
海外残留同
胞引揚促進について、本院は悲痛なる
國民の声を代表し、すでに
昭和二十一年六月以來しばしばこれが
決議をいたして参
つたのであります。而して本日ここに実に四度目の
本案を上程しなければならないことは、深く遺憾に存ずる次第であります。今更申すまでもなく、
連合國側におかれては、我が
國民の輿望に應えて絶大なる好意を寄せられました結果、
終戰当時六百数十万と言われた
在外同胞中、すでに六百余万は
引揚を終り、残るは主として
ソ連地域及び中共地域合せて四十数万とな
つたのであります。この点に関しましては、
連合國側の御
努力に対して、この際、
國民と共に深く
感謝の意を表する次第であります。
ソ連地区の
引揚状況を顧みまするに、これは滯留すること一ケ年半の後、即ち
昭和二十一年の末から漸く
引揚が開始され、翌二十二年十二月までに六十二万五千名、昨二十三年五月から十二月までに二十八万九千名という
引揚状況でありまして、誠に遅々たるの感なきを得ないのであります。而も尚、取残された四十万の
人々は、遂に四度の冬をあの嚴寒の地に送り迎えしなければならない
状態に置かれ、愛する
父母は、妻は、子は、兄弟は、と思うにつけ、押え難い望郷の念をじつと耐えて、僅かに「異國の丘」を歌い続けながら、一日千秋の思いで
帰還の日を待ち焦れておられることでありましよう。又
中共地区に残された六万の
同胞は
戰塵尚收まらざる中にあ
つて、昨二十三年八月以降、
帰還の途も全く途絶え、
帰國の
希望も失われんとするかの中に
労苦を重ねておられるのであります。
一方
留守家族の
方々は、今年こそは、今年こそはと、夫帰る日を、父帰る日を、さては又我が子の
帰還を見るまではと、老いの
努力をこの一点に集中した
父母たちの願いも、すべて今尚叶わず、せめて
残留者の安否だけなりとも明らかにせられたいというたびたびの懇請さえも顧みなられず、遂に四年の月日は空しく流れて、ここに
引揚最後の年を迎えたのであります。
又さなきだに
生活難に喘ぐ
敗戰後の
社会情勢下に、一家の
支柱と頼む人を
海外に残すこれら
留守家族の
方々の大部分の
生活状態が、如何に悲惨なものであるかは、ここに喋々するまでもない周知の事実であります。すでに行き着くところまで追詰められたこれらの
方々の唯一の
希望は、次々に
引揚げて來られる
人々を見るにつけ、ひとえに頼みとする人の帰る日にかけられておるのであります。申すまでもなく、
ポツダム宣言によれば、
海外残留者は当然各自の家庭に復帰し、平和的且つ生産的な
生活を営む
機会を得せしめられると定められてあるにも拘わらず、荏苒ここに至り、望みをかけた最後の年もすでに五月を目前に控えて、尚今日のような憂慮すべき
状態にあるのであります。今日この頃の
留守家族の
方々の焦燥は全く筆舌に盡し難いものがあると存じます。
本院においてなされた最初の
決議の際、私共は、その当時の
引揚状況を以てしては、二十四年の秋ならでは
完了は不可能ではないかと、痛く憂慮したのであります。然るに現在の
情勢においては当時の憂慮が更に進んで、一体本年中に
引揚が
完了するであろうかという危惧に変り、時の
経過と共に、いよいよ心身の
労苦に疲れ果てて行く
留守家族の
方々と共に、全
國民挙げて沈痛なる憂いに閉ざされ、今や
引揚促進の声は血の叫びとな
つて挙げられつつあるのであります。本院におきましては、從來この問題に関し深き
熱意を以て、
残留者各位が一刻も早く
引揚を
完了せらるるよう百方力を盡して参
つたのでありまして、この点につきましては
内外共に認められておるところであります。これが
受入態勢につきましても万遺漏なきを期し、
上陸地受入準備視察のためには、先般、
在外同胞引揚問題に関する
特別委員会から、
委員長外四名の
委員を
舞鶴及び
函館に派遣し、
視察せしめました結果、
舞鶴においては、新粧を終えた
病院船高砂丸を初め、十二隻の
輸送船が一切の
準備を終え、
命令一下即時出航し得るの
状態にあり、又食糧その他物資の
積込も終え、
医療施設も完備し、尚又、
舞鶴援護局内には各
縣ごとの
郷土室も設けられ、それぞれの縣においては
代表者が特にこの地に出向いて、
引揚者を迎える手配も整えつつある実情であります。又
函館班もすでに
視察を終り、同
樣受入準備の
完了を確認されております。
政府におかれても去る四月四日、
吉田総理大臣は、本議場においてその
施政方針演説中に、
在外残留同
胞引揚促進に関して最も明白に
決意を述べられ、本年中の
引揚完了を強く期待しておられることは皆樣承知の
通りであります。
飜つてソ連側においても、昨年末、同
國代表部に本
院議員が訪問いたしました際、
引揚中止の原因は、冬季における天候と、
ソ連國内の
輸送事情とによるものであ
つて、これ以外には
理由なく、むしろ一日も早く一人残らず帰したいと申述べられておるのであります。而も又本年一月中旬、
ソ連から飛行機で輸送されました
引揚者を本院が証人として召喚し、その証言を得たるところによれば、ハバロフスク、
ナホトカ間の鉄道は円滑に運行され、旦つ一月半ばにおいても
ナホトカ港は尚凍結を見なかつた程の緩冬であつたということであります。にも拘わらず今日
只今のこの状況はどうしたことでありましようか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)私共はこの遺憾なる
現状に鑑み、この際更に
決意を新たにして、
関係國の
一段の御理解と勇断を懇請し、速かに
引揚を再開し、本
年度引揚完了と
留守家族援護とに万全の
努力を誓うと共に、
政府に対しこれが
目的完遂のために最も有効適切なる
手段を速かに講ぜられんことを強く要望するものであります。何とぞ満場一致御賛同あらんことをお願い申上げる次第であります。(
拍手)