○伊東隆治君 私の
質問の第一点は、現在におきまする我が國の政治のあり方について、吉田首相の所見をお伺いいたしたいのであります。吉田首相が老躯を提げて
敗戰後の
日本再建に日夜の
努力を捧げておりますことに対しまして、満腔の敬意を表するものでありまして、
敗戰後の
日本再建のためには、政党政派を超越して挙國一致これに当らねばならぬことは、我が民主党が常に唱道いたして参つたところでございまして、吉田内閣に対しましても我々は同樣の態度を以て
援助いたしておるのであります。これは何も保守陣営に参加するという
意味よりは、むしろこの際政治休戰をなして政界を安定せしめ、再建の業を容易ならしめんとする從來の我が党の態度を堅持し参
つたのに過ぎないのであります。即ち
敗戰後の今日におきましては、殊に軍事占領下にある現在におきましては、各党各派の対立を尖鋭化せしめることなく、一致
協力して再建に邁進すべきであるという理念に基いておるのであります。私は現在並びに
將來の我が國政治のあり方につきまして、大体三段階に分
つて考えることができると思うのであります。
第一段階は軍事占領下における現在のごとき場合のあり方、第二段階に管理
時代とも言うべき
時代が参りますときの政治のあり方、第三段階はいよいわ講和條約の経まして完全
独立を回復した後のあり方であります。軍事占領下におきましては、今度の民自党がつぶさに嘗めました苦い経驗のごとくに、
如何に政党が政策を掲げましても、占領政策の要請に基きましてその実行が不可能に陥るのでありますからして、嚴密に申しますならば、政策を生命とする政党は良心的には存在し得ないわけであります。(「冗談言うな」と呼ぶ者あり)まして首相の唱道せられるがごとく、二大政党対立し、その間に政権の授受を行うがごとき、先進民主
國家において見るようなことは、到底実現し得ないと思うのであります。この点に関しまして吉田首相の所見をお伺いいたしたいのであります。而も対立する二大政党が、一は保守党であり、他は社会党でありといたしますならば、資本主義を基盤とする保守党と社会主義を基盤とする社会党との間に政権の授受が行われることになりまして、政治、
経済、社会の組織は、その基盤を異にするたびに動揺する虞れはないでありましようか。國の状態が疲弊いたしてありまするときにおいては特にこの動揺は一層ひどいと思うのであります。この
意味におきまして、私はこの二者いずれにも偏しない革新的保守政治こそ、今日我々が要請せられておるのではないかと思うのであります。(
拍手、「異議あり」と呼ぶ者あり)
國民が左に寄りつつあるときに、危いと思
つてこれを右に強く引張りますと、船は從らに動揺し沈沒の憂き目を見るだけであります。一九三二、三年頃、米
國民がひどく左傾いたしましたときに、ルーズヴエルトはこれを阻止しようとせず、むしろ、みずから身を挺して
國民よりも更に一歩左に寄
つてNRA政策を断行し、左に驀進せんとする
國民の足を緩め、健全且つ革新的保守政治を
確立して今日に至
つて参
つておりますることは、我々が目撃いたしておるところであります。この
意味におきまして、私は革新的保守政治こそは現在の
日本が要請しておるものと信じまするが故に、この点に関しまして首相の所見を伺いたいのであります。今や我が國は、漸く安定
復興の曙光を見出さんとしております。このとき吉田首相は
國民の大なる
期待の下に第三次奥閣を組織し、懸命の御
努力をなさ
つておられます。今次の民自党の大勝利は、その掲げた人氣取りの政策に釣り込まれたというよりは、吉田首相その人に対する信頼から得られたものと私は思うのでありまして、我々は吉田首相に
期待すること大なるだけに、首相が現在の我が國の政治のあり方をはつきり認識して、(「
期待するのか」と呼ぶ者あり)その政治指導に一層の正しさと強さを増されんことを切望して止まない次第であります。吉田首相が過半数をかち得ながら尚我が民主党に参加を要請しておられますことにつきましては、世上いろいろの評をなす者がありますが、これは首相が革新的政治に十分の理解を持
つておられることの証左であると私は思うのでありますが、連立構想に対しまする首相の腹藏のない御意見を披瀝して頂きたいのであります。(「我田引水と称する」「民自党か、どつちだ」と呼ぶ者あり)
質問の第二点は我が国防衞問題であります。このことにつきましては先程吉田首相から所見の開陳がございましたが、私もこの問題に関しまして私の所見を述べまして、首相の所見をお伺いいたしたいと思うのであります。
ロイヤル陸軍長官の
日本視察旅行は、図らずも米國最高当局の間に、
日本の戰略價値
如何、並びに米國に
日本防衞の義務ありや否やという
二つの大きな問題につきまして、鋭く対立しておる意見が存在することを明らかにいたしました。この
新聞報道の経緯は御存じの
通りでありますが、トルーマン大統領並びに
ロイヤル長官の否認声明によりまして、一應この問題は収まりましたものの、
日本人の心の底に一旦惹き起されたところの疑念はなかなか去ろうとはしないのであります。二月二十五日の英國エコノミスト誌は、「
日本人が知りたが
つておるのは、米國軍が当分
日本に留まるかというのではなくて、
戰爭が起つた場合
日本を防衞できるのかどうかということである」と指摘し、尚「
日本が中國のようになるのを欲しないならば、
日本に防衞軍を作ることについて
眞劍に考慮しなければならない」と論じております。これは太平洋に重要な権盆を有しまする英國方面の意見を如実に代表したものであると思うのであります。この間にありまして、
マツカーサー元帥が常に不動の信念を以て我々に安心感を與えて頂きましたことは、ここに改めて感謝する次第でありまして、
日本に望むところは「太平洋のスイス」となることであると申されております。これは、
二つの
世界が対立しております今日、きつぱりと言い切つた我が
日本に対する大きなサゼツシヨンであると思うのであります。
日本とスイスとはいろいろの点において類似いたしておりますが、國際的
立場をも類似することを要請せられたことは、
一つの因縁でありましようが、我々の希望するところも正しく「太平洋のスイス」であります。第二次
世界大戰が済んで第三次大戰のにおののいておりますこの際、はつきりと
日本の
立場を示されたことは誠に氣強い次第でありまして、我々は是非「太平洋のスイス」として終始すべきであると確信するものであります。併しスイスの
中立は、内は
國民の
平和維持に関する
努力があり、紙は
関係國よりの保障がありまして、初めてこの両者が相俟
つて中立は
確立いたしておるのであります。即ち内外の要素が相俟
つて、かち得られておるのであります。「太平洋のスイス」におきましても、この内外の二大要素がなければ到底その
中立はかち得られないと信ずるものであります。然るに我が國は、この内部的要素でありまする
國民の
平和維持に関する
努力につきましては、
憲法によりまして
戰爭を放棄しておりますからして、すでに満たされておるものと言
つても差支ないでありましようが、この外部的要素とも言うべき國際制度による保障は、まだ十分とは言うことは得ないのであります。私はこれらの問題はいずれ講和條約締結の際にこの保障は得られるとは存ずるのでありますが、この保障がなければ、「太平洋のスイス」たる
國民が
如何に
戰爭放棄の國内態勢を整えましても、それは全く自己満足に過ぎないのであります。私はこの
意味におきまして、講和條約の急速なる締結を希望するものでありますが、以上申述べました私の所見に対しまする首相の所見並びに講和條約の
見通しにつきまして、首相の御答弁をお願いいたしたいのであります。
〔議長退席、副議長著席〕
ここに今
一つのことは、先般
新聞紙上において、或る外務高官の談として、太平洋條約に加盟するのでなければ
日本の地位は保障せられないとの趣旨が報道せられましたが、太平洋條約が締結せられますれば、その内容は恐らく
北大西洋條約と同様のものと察せられるのでありまするからして、條約國に対する侵撃があります場合、当然
戰爭に加入する結果を招くもので、ありまして、この結果は
憲法違反になるわけであります。「太平洋のスイス」たり得ないわけであります。併しこれは恐らく右高官の私的意見に過ぎないと思うのでありまして、この点に関して特に首相の答弁をお願いするわけではありませんが、(笑声)太平洋條約が
北大西洋條約と同様、
平和維持を目的とするものであります以上、我々はこれに加盟せずとも、(「太平洋條約反対だ」と呼ぶ者あり)防衞の地域に、我が
日本がその防衞の対象となるべき地域に包含せられまするならば、例えば西ドイツが
北大西洋條約の防衞地域に包含せられるごとくに、我が
日本もこれに包含せられまするならば、我々といたしましても大いに歓迎すべきものだと思うのであります。(「絶対反対だ」と呼ぶ者あり)この点に関しまする首相の御意見を拜聽いたしたいのであります。
質問の第三点は賠償問題についてであります。対日賠償問題は過去三ケ年間連合國側において論議せられましたが、未だ尚最終決定を見るに至らず、現在八百余の工場が幾多の不利不便を蒙む
つております。而もこの八百余の工場の中には、全
生産実績の六七%を占める電力部門、五五%を占める銑鉄部門、三八%を占める鋼塊部門等の重要工場が含まれておるのであります。今や
経済九
原則の本格的実施に伴い、
経済の再建に専念せんとしておりまする今日、この賠償問題の未決定は重大なる障碍をなすものと信ずるものであります。願わくは連合國側におきましては一日も早く賠償に関し最終的決定を與えて頂きたいのでありますが、
政府におきましては、この点に関し何らか懇請いたしましたことがありましようか。又は懇請する
意思はないか。
関係大臣は御出席にな
つていないようでありますが、適当の
政府委員より御答弁をお願いいたしたいのであります。元來
日本は土地が狹く、農地は集約的に耕作せられておりまするからして、
將來の
人口増加に対應する農産物の
増加は殆んど望み得ないのであります。どうしても
工業生産により、この農産物の不足を補うのでなければ、連合國より示されましたる一九三〇年より三四年に至りまする平均
生活水準を維持することができないのであります。賠償案に関しては、ポーレー中間案、ポーレー最終案、ストライク案、ジヨンストン案と漸次
日本側に寛大なる処理案が提唱されて参りましたが、一九五三年に八千七百万人に
増加せんとする総
人口のうち、約一千百万人を工場に收容するのでなければ、この
生活水準は維持できない計算にな
つておりまするからして、少くともジヨンストン報告によ
つて規定せられましたる
生産施設が残置せられるのでなければ、
日本経済の
自立は到底期し得られないのであります。
政府は
日本経済自立と不可分的
関係にありまするこの賠償問題に関しまして、連合國との間に現在
如何なる折衝が行われておるのであるか、お伺いいたしたいのであります。又中間賠償三割前後即時取立ての決定がありまして、次いで軍二厰三割の撤去指令がありましたが、その後の撤去の進捗振り
如何。尚、撤去数量と各国への割当数量を
承知したいのであります。これらの点について腹藏ない
政府側の御答弁をお伺いしたいのであります。
最後に、私は我が國
貿易の根本
方針に関しまして稻垣
商工大臣にお伺いいたしたいのであります。
経済九
原則の実施によりまして、近く單一爲替レートの設定があり、國内物價の國際物價への鞘寄せが行われることになりまして、我が國
経済もいよいよ
世界経済の一環として運営せらるることになりましたが、この際我が國
貿易の根本
方針について、即ちあり方について稻垣
商工大臣の所信を伺
つて置くことは、極めて緊要と存ずるのであります。即ち今後の我が國
貿易のあり方として、從來のごとくバーター・システム即ち物々交換主義で行くか、即ち
貿易の均衡を第一の主たる目的として行くべきであろうか、それとも通商の自由を理想として、一般最惠國條款主義を採
つて行くべきであるか、この
二つの大きな問題を今日決めてかかることが今後の我が
日本に課せられたる大きな問題であるのであります。一昨年末、英國がポンドの自由交換停止をいたしましたので、
世界の
貿易趨勢は物々交換
國家主義的な
立場においてなさるべきものであるとの意見が
経済評論家の間に散見せられましたが、これは当時藏相ドールトン氏が、これはハード・カレンシー國からの
輸入超過と、ソフト・カレンシー國への
輸出超過の調整をなすため止むを得ざる措置であるという弁明をいたしましたが、果せるかな、数日前の
新聞を見まするというと、佛國において開催せられている関税会議におきまして、米國は
日本に最惠國條款を適用すべしとの論議が行われておることが報ぜられておりまするところを見まするというと、やはり自由
貿易主義は依然として各國が堅持しようとするところであるように窺えるのであります。又現に御
承知の
通り、一九四四年には、連合國は米國ハムプシヤ州のブレトン・ウツドに会合いたしまして、通商の自由を
原則として承認し、國際通貨基金と國際
復興開発銀行とを設けて、これを
國際連合の側面的機関として、爲替の制限を撤廃し、通商の自由を
確立するために
努力しておるのでありますからして、我が國も國内態勢を整えまして、時期が参りましたならば、この協定にも参加いたして、又特に通商憲章、
貿易憲章によりまする
世界貿易機構に加入するのでなければ、我が國の
輸出貿易も円滑に運営されないのでありまして、從
つて又我が國の
経済の
自立もその目的を達成し得ないのであると思うのでありますが、これらの諸点に関しまして稻垣
商工大臣の所見をお伺いいたしたいと思います。私の
質問はこれを以て終ります。(
拍手)
〔
國務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕