○
政府委員(高橋一郎君)
司法警察職員等指定応急措置法等の一部を
改正する
法律案の逐條の御
説明を申上げます。
第一條
関係でありますが、運輸事務官鉄道手等の國有鉄道の職員は、從來大正十二年
勅令第五百二十八号によりまして、司法警察官吏の職務を行うべき者として指定されており、
改正刑事訴訟法の下におきましても、司法警察職員等指定応急
措置法によりまして、從來と同様に司法警察職員として指定されておるのであります。
ところが、先般公布されました日本國有鉄道法が來る六月一日から
施行されますのに伴いまして、現在司法警察職員として職務を行な
つております鉄道職員は、すべて日本國有鉄道の職員となることとな
つておるのでありますが、これらの司法警察職員は、現在約八千八百名ばかりありまして、過去におけるその実績から見ますれば、これらの者をして引続き司法警察権を行使せしめることは、運輸交通に関する治安維持上極めて必要であると考えられるのであります。これらの者は、日本國有鉄道の職員となると共に、官吏たる身分を失いまして、國家公務員法の
適用を受けないこととなるのでありますが、日本國有鉄道は、
一般の商事
会社等と違いまして、公共企業体として、公的性格が強い公
法人でありまして、その職員の行う業務も
從前のそれと殆んど異なるところがなく、これらの者はすべて法令により公務に從事する者とみなされておりまして、從
つて刑法の公務執行妨害罪及び涜職罪の
規定の
適用を見るものでありまして、單なる商事
会社の職員とは、著しくその趣を異にしておるのであります。從いまして、これらの者をして、司法警察権を行使せしめることは、必ずしも不相当ではなく、而も現在國有鉄道の職員たる司法警察職員の執行している職務は、鉄道の業務と密接な
関係がありまして、これと表裏一体をなして、初めてその実効を上げることができるのであります。
そこで本案におきましては、日本國有鉄道の職員を司法警察職員として、指定することとしたのでありますが、尚公
法人の職員たるその性質に鑑みまして、その指定について、國の意思を反映せしめる
方法を講ずることは適当と認めまして、檢事正と協議をして、司法警察職員を指名する、指名権者を運輸大臣が選定することといたしたのであります。そうして又、行政権は内閣に属し、その行使については、内閣が國会に対して、連帶して責任を負うということは、憲法の明らかに
規定するところでありまして、行政権の一種たる司法警察権も亦その例に漏れないことは、勿論明らかなのであります。從いまして、公
法人たる日本國有鉄道に役員又は職員たる司法警察職員については、運輸省設置法中に、これらの者が司法警察職員として行う職務につきましては、運輸大臣が、これを監督する旨の
規定を設けまして、これらの者の司法警察権の行使については、運輸大臣がこれを監督するものとし、その反面、運輸大臣が通じて、内閣が國会に対して、その責任を負うことといたしたのであります。
尚司法警察職員として指定される者の資格につきましては、本案の
規定は、大正十二年
勅令第五百二十八号の
規定するところと、やや趣を異にするところがありますけれども、これは主として日本國有鉄道の内部組織がまだ確定いたしておりませんため、
勅令の
規定するところより表面上はやや広くな
つておることと、
從前その資格を認められておりましたところの自動車区の長及び助役並びに車掌区及び自動車区の支区長は、実際の経過を見ますというと、事実上これを司法警察職員として指定する必要がないことが明らかになりましたためにこれを削除したのであります。この点については、指名の際協議を受ける檢事正をして適当なる者を選定することに努力せしめることとし、その運用上過ちなきを期するつもりであります。要するにこの点は今までの態勢をそのまま持ち続けるというふうに我々は考え、又案もそのつもりで作
つたのでありまして、権限或いは範囲等につきまして、これを拡げるというような意思は毛頭ありません。
次は第
二條関係でありますが、海上保安官は、海上保安廳法第三十一條の
規定によりまして、司法警察職員として職務を行う者でありますが、同條におきましては、二級の運輸事務官又は運輸技官を以て充てられた海上保安官は、司法警察員として、それから三級の運輸事務官又は運輸技官を以て充てられた海上保安官は、司法巡査としまして職務を行う者として指定せられておりますために、執務上少からん不便を生じておるのであります。即ち現在海上保安官の総数は約千七百名でありますが、そのうち二級官を以て充てられた者の数は非常に少いのでありまして、総数の一割強に当りますところの百七十六名にしか過ぎないのであります。而もその中には、本廳職員、燈臺關係、水路
関係等の職員が含まれておりまするので、実際上司法警察員として執務することができる者の数は更に少いのであります。今これを國家地御警察の警察官と
比較して見ますというと、警察官においては、司法警察員として職務を行う者は、総数の三割九分に達しております。これと比べましても、海上保安官につきまして、如何に司法警察員の数が
不足であるかということがお分りになると思うのであります。このような実情によりまして、海上保安官が搜査を行う場合において、事件の處理上支障を生ずる場合が少くないのでありまして、場合によ
つては、みずから事件を完結して檢察官に送致することができないで、捜査の途中において警察官にこれを引き継がざるを得ないというようなこともあるのであります。
そこで本案におきましては、司法警察員と司法巡査の区別を二級、三級の区別によ
つてする機械的な
方法を
廃止いたしまして、これを海上保安廰長官の定めるところによるものといたしたのであります。而して海上保安官は、日本國有鉄道職員と異なりまして、元來警察官に比すべきものでありまして、警察官が陸上において行う職務に準ずるものを、海上において行うことをその職務とする者でありまして、すべてこのような職務に從事すべき適任者を選定しておるのであります。でありますから司法警察員と司法巡査の区別について、特にその資格を区別することなく、海上保安廰長官の定めるところに一任しても格別の支障はないと思われるので、このようにすることが、むしろ司法警察職員としての海上保安官の活動が機動性を持ち、その職務の遂行を完うすることができるものであると考えるものであります。
以上本案は、特殊司法警察職員に関しまして、応急的
措置を講ずる必要のある二つの点を取上げてこれを
規定したものでありまして、これらの者が司法警察職員として十分にその機能を果すためには必要止むを得ないというふうに考えておるのであります。以上を以て
簡單でありますが、逐條の
説明を終ります。