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岡田喜久治君 お聞きの
通り鈴木委員から十分な概況について
お話がありましたので、御
報告申上げる必要もありますまいが、私
一つ簡單に補足して感想を申上げたいと思います。
とに
かく平
事件というものは、もう
新聞紙上でも随分諸般の
情報があります。又
考査委員会における
状態についても御承知の
通りであります。世間に傳わ
つてややその
眞相を傳えておるとは思いますが、私共
行つて実地にこれを見聞いたしまして、私は予想以上にどうも酷いと思
つております。実にこれ程までとは予想しなか
つたという感じを深めました。又
事件の本質が、今
鈴木君の
お話もありましたが、如何にも
暴力革命の雛形とでも言おうか、典型とでも言おうか、非常に鮮やかに行われておりまして、組織的であり、計画的であり、そしてこれにおどり上
つた人々がどういうものか知らんが、想像のできないような盲信、信念、氣持を持
つて、革命は必ず近きにあるのだというような、信念で以て、本氣にな
つて立上
つて勇猛果敢な精神を以て臨んだのは事実です。言うまでもなく
共産党の精神を
中心としており、殆んど
共産党或いは
共産党系と言
つていいでしよう。いずれにしてもそういうような
方面の指導者というものは、そういう加勢しておる人々というものは、どう考えて見ても本氣でや
つておる。それが我々には想像ができません。こうして東京にお
つて想像ができない。実地に見聞して分
つたというような
ところがある。そういうふうなことであ
つて、なかなかこれは容易でなく、併せて又この暴動
事件に反應して現われた
警察の
機構、機能、職能、こういう
方面を見ますと、これ亦我々が想像しておる以上に現在の
警察制度というものは幾多の欠点を暴露しておる。見る影もない、浅ましい、情ない
状態である。あの雛形的
暴力革命事件に関連して現われた
警察制度の
状態は実に情ない。むしろ無
警察の一語に盡きております。
警察の権威は全然認められていない。根抵から踏みつけられ、蹂躪されておる。
警察はなす
ところを知らず、これを一言にして言うならば無抵抗主義、終始一貫
警察のと
つた態度は無抵抗主義、あの傍若無人、暴戻極ま
つた暴力行爲に対して一指をも染めることができなか
つたというのは事実です。事後における檢挙はとも
かくとして、
事件に対処した態度は全く無
警察、
從つて一般の
大衆がこれに対して感じた言葉を聽きますと、全然頼りにならん。どうしたものだろうか。これが一言にして申せば、私は
事件の、本当に
お互いに注目すべき本質ではないか、
眞相ではないかと、こういうふうに思う。そこでややそのことを敷衍して申しますと、とに
かく暴動
事件というものは
福島縣下に六月三十日を期しまして相呼應して数ヶ所に起きておる。これ自身が意外な感がいたします。
若松に、
郡山に、
福島市に、平に、或いは
内郷に、かようなわけで五、六ヶ所相呼應して現われております。これは恐らくは相当のやはり
連絡と組織とを持
つておるとしか考えられません。この確証を取ることはむずかしいが、目下
警察において努力しておるわけでありますから、いずれ確証は出るでありましようが、併し今日私が考えた
ところでは、あの
警察のやり口を以てしてはああいう騷擾
事件の確証を鮮やかに押えることはできないと思う。というのは優柔不断といいますか、漸く檢挙が始ま
つたとい
つても、
事件があ
つて五日も六日も過ぎてぽつりぽつり逮捕状を貰うとか、令状を貰うとか何やかにやで今日百四、五十名とに
かく檢挙にな
つておりますが、これだけではとてもああいう
事件は、私の経驗を以てしては確証は取ることはできない。電光石火、ああいう騷擾という一括した
事件である以上は、俊敏にその本拠を衝くとか、アジトを襲うとか、機敏な行動を起し、記録、
書類押收、家宅捜索ということがあ
つて初めて文書上における取扱に天網恢々疎にして漏らさず、様々な
書類も、断片も集ま
つて來るのであ
つて、苦心惨怛して、これは調べるのが通例であるが、そういうことは全然や
つておりません。やれない。これじやとてもああいう徴妙な
事件の
眞相を捕促するということなどは恐らく追いつかないのじやないか。だからいつまで経
つてもなかなかこういう
事件は手数ばかりかかりまして、本当の事の根幹を衝くというような鮮やかな一刀両断の
処置を考えることは困難じやないかと思います。そこで私は確証のないことですから、主観を交えてかれこれ言うわけに行きますまいが、要するに
連絡通謀の十分にあ
つたことですから、
警察電話などは、
鈴木さんから
お話がありましたが、完全に
警察電話だけじやない、あらゆる
電話は暴徒によ
つて操縦左右されたという
状態である。
警察側の
情報というものは皆聽き取られて、而も全然
電話も使えないと言
つて、署長は終いには
電話を
使つておりません。こういう有様であります。それですからいろいろこの前後に
亘つてさまざまな事実もありまして、いわゆる
連絡通謀がなくして、あのうよな
事件が同日を期して偶然に現われておるということは考えられません。かような意味において、これが單なる地域的
闘爭という言葉じやなくして根本は
労働爭議の悪化したものでありましようが、併せてこれに加えて
國鉄ストの時期を迎えて風雲をはらんでお
つた時期でありますが、この機会を以ていわば何と申しましようか、
各地に向
つて一斉に一種の社会騷擾、
暴力革命を企らもうじやないかとい
つたような
一つの脈絡がここにあるのじやないかということを考える外ないと思いますが、そういう点において注目すべきです。少くともただ單なるこれが平とか
内郷ということじやなくて、
福島全
縣下に
亘つてあれだけの計画がとに
かく実現されたということは注目すべきことであります。これはどうもなかなか油断ができません。私共はこの点においても從來
自分が考えておることは非常に安閑とした考えであ
つて、一段と
治安問題については認識を改めてかからなければならない、
治安問題についてはこういうふうな感じを深くしたのであります。それから又暴行の
状態がここに書いてある。丁度
福島警察署の
報告が作成してあるが、大変よくできている。外の
書類は的外れですが、これは非常に
事件の外貌をよく把握しております。併せて又如何に暴状を極めたかという暴状の有様をなかなか上手に生き写しに写しております。なかなか酷い言動を以て
警察側に対しては終始一貫強迫どころではない、奴隷のように扱
つております。
警察署に漸次出入して
行つて土足のまま上
つて來る、机の上に立上りまして、三十人、五十人、八十人と押し掛けて
警察を自由自在に踏み躙
つておる。
警察官に向
つては頭からどなりつけ、おどしつけてお前達は吉田内閣の犬だぐらいはまだまだ上等なんで、誰が貫様達に飯を食わしておるか、俺達が
警察をや
つておる、この廳舍は俺達のものじやないか、俺達がお前達を養
つているのだ、それが俺達の労働運動を妨害するのか、彈圧するとは貫様達何事か、他の
警察署に向
つて應援するとは何だ。こういうことで、これが我々と観念が違
つておる。
警察署に向
つて應援をしてはならんぞ、この
誓約書を書けと言
つて、どこの
警察署に
行つてこれをねじ込んでいる。
應援の命令というものを
自分の方が持
つておるわけであ
つて、
警察特有の機能作用である
ところの
應援すべからずと言う。自治
警察というものは他署の
應援なんかすべきものじやない、これは自治
警察は俺達が握
つておるもので、これを勝手に
應援するということは何事だ、こういう観念を以て頭から
應援することを否認しておる。そうして
應援することを極端になじ
つて、
應援は一切しないという
誓約書というものを書かせるべく要求して止まない、こういう
やり方であります。それから随時
警察官の或る者を、或いは警部補、或いは巡査部長、そういう者を引き出して來て、庭先で散々叩いたり殴
つたりしておる。外の
警察官は救援するのでも何でもない、要するに手を出さずに見ておる。署長が引き出されまして、庭先で四五十人の
群衆に取巻かれて、ボタンを取られたり、叩かれ、頭から痰を吐きつけられ、これを他の
警察官が
應援するのじやない。皆そういう
警察官でありまして、眼の先で
警察の、而も役所の内外においてやられてお
つた。片つ端から引出されて、いわゆる
人民裁判というか何というか、吊上げ同樣の所作で以
つてやられておるのを、
警察官が皆何らこれに手を出さない。これはよくその心情を聽くというと、何とも
自分達も無念に堪えない、
警察としてこれでいいものかと考えるが、如何せんどうも手の出しようがない。どうにもこうにも二十人、五十人は愚か、背後に何百人の暴徒を控えておる。そうして僅かに五人を十人若しくは二三十人足らずの
警察官が今出してもどうにも及ぶものではない。相手は根棒を持
つておる、或いは石を持
つて石を投げる。どうにも手のつけようがない。少くとも
事件を拡大させるといかんから、あらゆるものをこの場合隱認自重、我慢に我慢、これがむしろ何といいますか
警察のせめてもの御奉公だとい
つたような氣持です。そういう氣持で事に臨んで來た。こういうことで、実に酷い浅ましい
状態にある。これは
内郷署において然り、平署において然り、或いは
若松署も記録で読んで見ますと殊に酷い。
若松の
警察の
状態なんかは、すべて
各所において常時不断当然のこととして、こういう恐ろしい浅ましい、何といいますか暴状が繰返されて來ておる。ただ一日の出來事じやない。これの記録を見ますと、前後十日間に
亘つて始終これが行われておる。そういう
状態を默過し、そういう
状態を忍ばなければならんというのが
警察のありのままの形であるということを総合して來ると、無抵抗主義です。これで一体いいのかということを何人も考える。又一面から言うと、そういう
状態ですから、すでに暴徒は勿論のこと、
一般の民衆の氣分が、
警察というものを眼中に置いていない。こういう観念を受けて來た或る者は
警察を信頼しない。信頼しないのじやない、或る者は眼中に置いていない。その困
つて來る原因は、自治
警察という観念を誤
つておる。先きに言
つた通り、
自分達が経費を出してこの廳舎を造
つておる。又巡査の俸給を拂
つておるというのですから、役場の吏員を扱かうことより以上に、これを何といいますか奴隸視して考えておる。
警察官の職能とかということについて観念なんというものは全然ない。これは殊に
警察制度そのものの上からも考えなければならん。いろいろ申上げたいが、そういう大ざつぱな一二のことを申上げて
一つの感想を申上げざるを得ない。
それから今度は一方
共産党側の非常に刺戟した言動については、細かしいことですから事実を申上げます。これも確証じやなく、
土橋代議士が
事件前の六月二十三日、選挙区に帰
つて或る細胞組織に傳達したと称せられておる或る
一つの意見が傳わ
つております。その要領は、例えばこういう文句が出ております。随分何といいましようか、実に恐ろしい文句があるのです。非常に燿動的文句としては明快な文句です。この最良な契機を逸するな、米ソ対立の深刻化、中共の
情勢、大韓國政府の南鮮部における叛乱軍蜂起、欧洲ベルリン封鎖の問題の解除等の最も我々に有利な時期が今到來したぞ、これに呼應して徹頭徹尾抗争運動を開始せよ、又各
地方情勢を檢討して善戰善謀せよ。それから中共軍は七月末までには全土を完全に
占領し、又完全なる政権を樹立すると同時に、八月にはいよいよ
日本國民に向
つて有形無形の戰鬪を開始する。よ
つて九月には最後の攻撃を開始する。おのおの自己を顧みず初志貫徹に邁進せよ。若し敵の攻勢に屈服し、或いは自己の失業を恐れるならば速かに脱党すべきである。覇かに
地区突撃隊を編成して晝夜別なく戰鬪せよ。まあこういう一種の指令を與えたというようなことであります。その外に更に土橋代義士の言葉は正に將士の
士氣を軒昂たらしめるものがあ
つて、翌日から遊説運動の参加者の数を激増し、且つ労務係員の拒否を肯んぜず、強引に会社内に侵入し、熱弁論鋒を以て必死の鬪争運動を展開した。又
土橋代議士の演説の中には、曽て二ケ年を通じて、九月の季節に入ると東北北上川が氾濫し提防を決壞しておるではないか。今年の九月に又々北上の流れが氾濫し提防を決壞するだろう。そのときこそ吉田反動内閣がなだれを打
つて決壞するときである。というような街頭演説を盛んにや
つている。こういうような氣である。これは言うたか、言わんか知れませんが、要するにいろいろの
事件に対してこの氣持以上の氣持を以て革命必至という信念を持
つて立ち騒いだのは事実のようです。すべてこういうあるまじき
考え方を以て、非常な考えを持
つて何といいましようか、地域
暴力革命というような形で立上
つておるというような事実を見て來たわけであります。そこで最後に申げたいことは、
警察の態度について以上申上げましたが、どうもこれは本当に我々は
警察制度のこれに対する
欠陷補充については余程責任のあるものではないか。何とかしてこれは
時代順應の現実に側した適当な改善の途を一日も早く講ずることが適当だということを考えております。今度の
事件で巡査の
動員して数は平
事件には九千何百名、
若松事件において三千三百、一万何百名というものが特に数次に
亘つて動員されております。先程
鈴木君から
お話がありましたように、
財政そのものに今後非常に問題がありまして、自治
警察相互間においても、
お互いに援助し合
つたりしておるのだから、帳消しというようなことで行こうというような話もあるようであるし、或る者は或る場合によ
つたらこれを適当に打切
つて行こうじやないかというような適切な
予算準備というものがありませんので、そこで非常に苦慮いたしておりますし、適当な
処置もつきかねまして、そのことは
警察内におきましては不公平や無理がありまして問題の
一つ種である。それは相当な途を開く措置が必要でありましよう。併しとに
かくかようなこれだけの
事件に五千名、三千名、或いは小さな地域において三百、五百、七百の巡査を
動員をしてでなければ、二十名、五十名、百名の暴徒に対することはできません。今日これでは
警察官が奔命に疲れて、帰する
ところは経費の点からも大変で、檢挙するに際してどうも二、三人の暴徒を檢挙するのに二、三百名、五百名の巡査を用意しなければならん。こういうことを繰返しておるならば、これは実に
財政負担の上から容易じやない。だからして
警察は檢挙するにさえ実際においては手心を考えなければならん。手心とは
財政的考慮を考えなければならん。
自治体警察なら町にどうも負担をかける。公安
委員も好まない。町長も好まない。好むと好まんとは別といたしまして、やはりこれは相当に考慮しなければならんという次第である。今の
警察組織を以てしたならばこういう問題に対しても容易ではない。國が全部負担することは当然でありましよう。國が開担するにいたしましても問題はそれだけに止まりません。以上申上げました
通り、
警察は奔命に疲れてしまいまして、問題は
警察の
機動性を持たせるとか、或いは現在の
警察制度がやはり
國家警察と
地方警察と一貫した協力
関係ではなく……共同捜査が随時随意に行えるような組織がなか
つたならば、
警察機構、人員、組織を以てしては
治安維持の任には堪えない。
警察官が浅ましい情けない、酷い目に遭わされていじめられておる。何と申しましても背後の組織がありません。
自治体警察は五十人に限られた組織である。これによ
つて下手な問題を起したならばこれは到底收拾がつかない問題にな
つて來る。從來の
警察制度であるならば、全
警察官が背後勢力をなしておりますから、僅かに、五十人、百人の警部派出所のような
ところでも巡査何百人いつでも出動し得るのであります。こういう機能、組織を欠いておるのだからして、それは
群衆の方から申せば何でもない。これをいいことにしておる。これは用意が悪いのであります。今のような組織を以てしたならば大変なことになる。こういうことを感じたのであります。同時に申上げた
通り暴徒の組織というものは、若しくはその心情というものは企らみを以て、決意を以て臨んでおるのであります。これに対應しただけの体制を考えなければならんのであります。非常に今考えざるを得ないのであります。極く大局的のことのみ申上げました。細かしいことはむしろ御質問に応じて問答した方がいいじやないかと思うのであります。若し
福島本部が書いたもので発表したものは、できるものならば、これを皆さんに読んで貰えば、非常に感想というものは何かしら起
つて参ります。
事件の全貌というものを掴むためにはよく分るものであります。一應これで終ります。