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説明員(吉田隆君) 吉田であります。今飯島氏からいろいろ、大綱的なことを申上げましたが、私は少し
実態に立入りまして申述べたいと存じます。豊凶常でないということを基調にいたしまして、つまりこの漁業が非常に大きな山と大きな谷とがある。從
つて大きな山のときに根こそぎその山を取られてしまいますと、大きな谷を埋めることができないということは、この漁業の特異性のうち最も大きなものでありまして、そういう点が他の産業と比較して率が高いにも拘わらず、現在の
税制ではアジヤストしていないということが大きな問題なんでありまして、從
つてそういう基調でできております國秘、それから
地方税が自然不合理であるという点が出て來るのであります。
一つ一つ項目を分けて、大綱的なことは今申しましたのでお分りかと存じますので、それを基調としました一々について申したいと存じます。特に
地方税のうちに船舶税、
町村税の船税を含みます。これにつきましては非常な不合理がございまして、原則としまして船舶税、船税と申しますものは撤廃さるべきものだと思います。そういう原則は事例がございまして、工業方面では工場だとかなんかには税は課か
つておりません。それから
農業には農機具、こういうものにも税は課か
つておりません。要するに
生産手段であるものに税の課か
つていないにも拘わらず漁業の
生産手段である船舶、同じでございますが、船、こういうものに税を課けるということが大体根本的に
間違つておると思うのであります。大体こういうことが根本的に
間違つておる結果といたしまして、自然
生産を阻害するというようなことになりまして、現在漁業者の一番困惑しておりますことは、漁價の問題でありますが、この漁價の問題でGHQと交渉して参りますと、これは米麦、主食と同じである、つまり欧米人につきましては、
観念的に主食、副食という区別がないのであります。魚というものは主食と同じだ、日本人に限
つて慣習的に魚は副食であるという
観念があるのですが、その主食と同じ取扱いを
観念の上とそれから取締の上で実施されておりまして、そうして政策の面、つまり日本
政府が行います政策の面では第二義的に水産を限られでおる。魚というものは副食であるということで、非常に第二義的な割引をされておるわけであります。自然
生産ということはいろいろ資材を呉れましても、他の産業と比較いたしまして、資材というものについては援助物資は非常に多い筈であります。然るに
生産がそれだけ上らないということは再
生産を阻害しておるからなんであります。この船舶税というものはその
一つの現われでございまして、再
生産手段に使うそういうものに税を課けて来るということが大きな
間違いであります。而もその謀け方たるや実に
地方におきましても種々雑多であります。
一つの例を挙げて見ますと、大体運輸省と大蔵当局、つまり
地方の
財政委員会、こういうものが申合わせてこういう
税率というものは或る程度決ま
つておるものでございます。それは三千トン以上は百分の二、それから段々逓減いたしますトン数につきまして、百トンクラスでは百分の十という
基礎があるのでございます。ところが逓減して参ります中に入ります百トンクラスというものは魚船の八〇%を占めておるのであります。そしてその
税率を見ますと、最高が平均は大体百分の十に近いものでありますが、その倍課けております百分の二十というのが宮崎縣にございます。而もその百トンに加えまして、超過トン数、つまり百トンから超過したトン数一トンにつき五十円の超過税をや
つておる。その他ずつと殆んど
基礎の百分の十でありますが、この超過トン数を取られるために百分の十というものはただ百トンの船だけであ
つて、その他の船、つまり百三十五トン、大きな船で三百五十トン、その附近に入る船は大変高いものを謀けられておるということになるのであります。最少、つまり一番少いのは熊本縣でありまして、これはトン当り三円から五円というような状態にな
つております。取得税を課けられるということはこれはいたし方のないことでありまして、併しこの船舶税というものは先程申しましたように、原則的として
生産手段であるというようなものは同じ課けるのであれば天下均一であ
つてよろしき筈であります。ところが或る地域では非常にかけられる、或る地域では少いというようなことは納税の精神から申しまして非常に納税意欲を殺ぐというような結果になると思います。
その次は今度は漁業の從事者のことになりますが、歩合金でございます。漁業は他の産業と違いまして、いわゆる工場における出來高拂、それに似た歩合金
制度というものを施行しております。これは出来高拂に似て非なるものであります。根本的にこれは相違しでおるものであります。ところがその形式が似ておるために
課税の対象とされた場合、同一の取扱いを受けておるわけであります。これは歩合金と申しますのは、つまり取れ高によ
つて給與を受けるものでありますが、先程來問題にな
つております山と谷があるわけでありまして、これねつまり
收入の安定がないことと、それから
生産意欲を増大するという
意味でこういう
制度が昔からできておるわけであります。元來九一金と言われておりますものがこの
制度なんであります。これは漁業の種類によりましていろいろありますが、要は先程申しました
生産意欲、それから
收入の不安定、それからもう
一つは生命の危険、この漁業の危檢性、それを織込んだものなのであります。陸で生命の危檢のない
仕事をしております陸上
労働者と、この板子一枚下は地獄であるという譬えの生命の危檢を持
つております
労働者を一緒にして行くということが大変な
間違いでありまして、これは経営者自体としましても、経営のつまり円滑と、それから漁業のマツチした合理的な給與の
方法でありまして、これを根低的に
考え直して貰う必要があるのであります。それで工場の出來高拂いと違うと申しましたのは、つまり工場の出來高拂いというものは、
生産設備がちやんと備
つておりまして、その個人々々の努力によ
つて出來高拂いというものはされるのであります。この歩合金というものは、結局獲れたときは沢山貰う、この沢山貰うという
観念がいつまでも続いておりまして、獲れなか
つたときには零であるという
考え方がちつともされない。而もそれは危檢を冒しても尚且つ零の場合があるということを十分ここで
考えて貰わないといけないのであります。これは
基礎的の控除をするか、累進
課税の率を直すか、もう
一つは豊漁の場合の、つまり歩合金の多い場合の超過
所得は
考えない、
課税の対象にしないという方向を取
つて頂きたいと思います。歩合金は大体その程度に止めまして、
事業税に移
つて参ります。
地方の
事業税は、大体初め
事業税が制定されます場合に、
原始産業には課けないという原則であ
つたように承
つております。それが段々日が経つに從いまして、結局漁業にもこれが課せられるということに
なつたように
承知いたしております。この
事業税が制定されます場合に、漁業方面は或る程度連絡の取れるところは連絡を取りまして、漁業者としての
意見、総意という
意味で
反対の陳情をしてある筈であります。にも拘わらずこれが課けられて参りましたのは、先程申しました漁業の対象、水産物が主食でないという
意味で扱われたことが大きな問題なのであります。それで
一つの漁業
制度の中に流れる
間違つた観念が二つあります。それは先程來申しました豊凶常ならすということと、それから蛋白給源である漁業
生産物は主食と別個に扱われておる、この二つの大きな根抵をなす流れがあるためであります。それでこれは須らく現在の統制のあります魚類につきましては、全面的に撤廃をするというのが本来の
税制の行き方だと存じております。この点は須く
考え直しをして頂いて、この
原始産業には
課税をしないという方針に戻して頂きたいことを要請いたしておる次第であります。
それからこれに関連がある次第でありますが、
生産者税というものがございますが、これは今の二十一税目の中のどれに嵌まるか、私はこれをよく存じませんが、多分独立税の中に入るのだと思いますが、
間違つた考え方でつまりこういう生用者税的なものが漁業に課けられている面があります。それは
一つの例を取りますと、宮城縣、岩手縣におきまして捕鯨場がありますが、これに対して捕鯨税が課か
つているわけであります。それは一頭につき鯨種別にしまして「白ながす」には一頭につき幾ら、これはデーターを只今ちよつと持ち合せをいたしませんので誠に申訳ありませんが、「まつこう」には幾ら、「いわしくぢら」には幾らというような
課税があるわけであります。この税目ははつきりいたしませんが、いわゆる
生産者税的の存在なのであります。この一例を以て見ましても、外にもつと課けられている例があると思います。
一つは長崎縣で以西の底曳き、トロールでございますが、これは水揚げしました一箱に付き幾らという
課税が実在しておりまして、併しそれは結局業者の非常に懇切な
説明と、税務当局の理解の下に、実施後日ならずしてこれは撤廃されました。併し他府縣につきましては、この総務当局の意向が十分滲透していないのと、それから
財政委員会の……これは
財政委員会の取締りの権限があるかどうかは存じませんが、そういう中央の監督不行届のために、未だにそういう不合理な二重
課税が現存しておるのであります。
それから次は零細漁業者のことになりますが、
家族を挙げて漁業に從事しておるいわゆる漁民があります。これは御
承知の
通りつまりその漁業経営と家計との分離がはつきりしていないというような
実態のために、これが
家族の
労働賃金とでも申しましようか、労力が零と見られているわけなのであります。こういう不合理なことは誠に天下の奇怪事でありまして、
家族が働いているからそれの賃金は
必要経費と見ないというような理論は成り立たないのであります。これは
間違つた家族制度の解釈だろうと思います。從
つてこの
家族はただ働きをしておる。從
つて必要経費と見られないというところで、
税金の
課税の対象となります。つまり
收入額がそれだけ殖えるということと、それからこの指定
家族の働いている者についての
基礎控除というものが全然見られてないということなのであります。これは聞くところによりますと、
農業方面でも
相当大きな問題であろうと思います。こういうことが小さいところに眼がつかないというような
意味でネグレクトされるという
税制であれば何をか言わんやという次第であります。これは諄々と申さなくても自明の理でありますので、十分酌取
つて頂いて、この点は強硬に
一つ私達も要請しておる次第でありますので、この
委員の
方々に特にお願いしたいと思いまする次第であります。
それから先程飯島常務から漁船の償却ということについての
説明がございましたが、それに付加えて少し補足したいことがありますのは、魚類の運搬船であります。これは船内に凍結の設備を持
つております。又米藏の設備も持
つておるし、塩蔵の設備も持
つておる、これが一般運航船舶と同様に扱われておる。つまり償却年度においての扱いが同様であるという次第なのであります。御
承知のようにこの冷凍設備と申しますのは中に船舶を運航する以外の機械、器具が入
つております。而も船艇内には「くも」の巣をはりめぐらしたようなタイビングがあるわけであります。この損耗度と申しますのは、扱
つております物が化学ガスであるために損耗が非常に早いということが
一つの理由、それから冷凍にいたしますと、御
承知のように氷を入れるわけでありますが、年中船艇内が濕め
つておるこいうような
関係上普通一般船舶より耐用年数は極めて短いということは分り切
つたわけなのでありまして、これを漁船と同様、先程の
説明のように漁船はしけを目がけて出て行くときが多い、それからしけだと言
つてすぐ避難し得ない程遠洋へ出て行くということ、こういうものを加味して十分
考える必要があると存じます。尚少しは見当がはずれるかも知れませんが、陸上においての漁業とは切
つても切れない縁のあります冷蔵庫であります。この冷藏庫は現在一般倉庫と同じ取扱いをまだ受けているわけであります。現在鉄筋コンクリートの倉庫の償却年数は六十年、その他のものは三十年とな
つているように
承知いたしておりますが、この魚類を格納いたします冷蔵庫はやはり構造上冷凍船と同様であります。つまりこの点はもつと短縮する必要がある、こう思います。これに課けられておりまする倉庫税というようなものにつきましては、これは言及はいたしませんが、要するに
必要経費として落す面が普通の倉庫より多いということ、それから耐用年数が少いために償却年数を縮めて
課税の対象にならぬ償却というものを十分見ておるということでここを強く要請したいのであります。
それから漁業権税に移りたいと存じます。この漁業権税につきましては、いずれ水産廳から提案されております漁業法が
改正されますと、その内容において幾らかの相違は出て参りますのでありますが、現在は実に複雑怪奇な状態にあるのであります。端的に申しますと、同じ規模で同じ魚を同じ量穫
つた。それで富山縣と神奈川縣では取られます
税金が大変違うという
実態があるのであります。これはしつかりその
実態を掴んでおりませんから申上げるのはどうかと思いますが、或る漁業者は百二十万円の
税金を取られておる。今申しました状態において……。然るに或る方面ではこれが八十万円である。つまり四十万円の差が出るという
実態が出て來ておるのであります。それは勿論
地方々々によ
つて税が
割当てられる。先程のように申告税であるにも拘らず、
割当制をとるからそういうことになるのだというてしまえばそれまでなんでありますが、
税金を
負担します方から見ますと、同じ日本國民でありながら地域別によ
つてそういう税の
負担が違
つて來るというのは、一体何事かということが言い得る筈であります。それでこれは
説明いたしますと、非常に種目も多うございますし、一々分りにくい漁業の実体に触れないと分りにくいこともございますので、私からはちよつと省いておきまして、若し御質問がありましたら、本日はそれぞれの業界のエキスパートが見えておりますから、御
説明されるとしまして、大綱的にはそういうところに止めさしておいて頂きたいと思います。
それからその次は物品税であります。これは漁業に課けられております物品税は、品目は非常に少いのでありますが、現在課けられておりますのは寒天と、それから乾海苔であります。これは二品目だけであるとい
つて等閑にできないことなんであります。これは常識的に
考えても、乾海苔と申しますものは、海草を取
つて來て簀子の上に乾かし、そうしてそれが始めて商品になるわけなんであります。これは海苔を取
つて來たそのままでは賣買の対象にならないのであります。魚を取
つて参りまして、冷蔵する、塩藏するとい
つても同じことなんであります。それまで持
つて行かないと直れないものでありますので、それを物品と見なして物品税を課けるということは、非常に
間違いだろうと思われるわけです。勿論これを焼いたり、それに味をつけるということになりますと、加工ということになりまして、物品税の課かることは止むを得んと思いますのでありますが、こういう生の
生産の域を脱しないものに現金を課けるということは大変
間違つたことに思います。而もその率は二割というような高率であります。これはその
実態を掴んだのがありますので、御参考までに申し上げますが、大森の海苔業者で調べたものでありますが、約二十万円の
生産があ
つた。それで
必要経費として六割つまり、十二万円を控除された後八万円、勿論この八万円の中には人件費なるものは全然含んでありません。それに課かります物品税が何と三万三千三百二十二円、こんな大きなものが課か
つて参りますのであります。
所得税は約一万八千円課か
つております。八万円の中で
所得税が二万八千円、物品税が三万三千円取られますと、後には何も残らないというような状態であります。先程言及しました船税ですが、船税はどれぐらい課か
つておるかと見ますと、ミトン未満の機械船で、これは海苔を採ります小さな船を載つけて沖へ行く船であります。この登録税が二百円へ船舶税が三百六十円。五百六十円かかります。それから三間未満の、つまり載せて行
つて海苔を採る軽い舟でありますが、それには船税が百五十円、登録税が百円、これだけでも千円近いものがかか
つておるというような状況であります。それで船舶税、舟税はかか
つておる実体がそう多くないからいいじやないかというような
考え方もできないことはないと思うのでありますが、この実体を掴んで参りますと、海苔業者はこれは決して大きな規模とは申されません。むしろ中以下の海苔業者だと思いますが、それにしても僅かな
收入の中から千円というものが舟税だけで取られるというような状態であります。而もまだそれに
関係して、船舶を繋いでおる場所の使用水面料というものだけでも三百五十円も取られておるような状態であります。このように掘下げて参りますと、漁業というものはその認識度が低いために非常に不合理な課け方とまちまちな課け方と重複
課税とがあるわけなんであります。
もう
一つ申落したのでありますが、漁業権税の中でこれまで課けられていなか
つた部面について、これは将來のことでありますが、漁業法が
改正されると、從来は免許漁業だけにこういう漁業権税というものがあ
つたのでございますが、許可漁業にも今度は税に似たものが課けられることになるのであります。それは水揚の約三%か五%か存じませんが、その附近のものが要するに許可漁業の何というか、使用料というか許可料というか、そういう
意味で取立を受けることになる筈であります。その使い方はどういう使い方をされるかというと、現在の案ではこれが行政費に使われる。つまり海区の
委員会、漁業
調査委員会の
費用に使われるというような立案が現在されておるのであります。これは誠におかしな話でありまして、行政費の一部分を特別な漁業者が、税の対象ではありませんが、税に似たようなもので取立てられるということになりますと、
税金と変らないことになるわけであります。而もその取り方が水揚の何パーセントということになりますと、その漁業が黒であろうと、赤字であろうと、とにかく天引きするということなんであります。それでは漁業というものの赤字面う一体どうして呉れるんだということになるのであります。損をしてお
つても取立てられる、そういう税に異ならない取立
方法は極めて悪い
影響を起す。漁業者としてはこれは納得できないことと言
つていいと思います。この点によく、まだこれから継続審議ということで、今度の議会には提案されると思いますので、その点をそういう不合理の生じないように漁業の実体をよく把握願いまして、御善処して頂くようにお願いしたいと存じております。大体これで……。