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説明員(
三輪學俊君) 税の問題の中で
中小企業に特別な問題と申しますか、
中小企業の税問題であるにも拘わらず
一般の税問題と特別に
違つた理由、こういうふうなものを考えて見ますと、この
税改正の
意見の中の
各部に出ておるのでございますが、それを要約して申して見ますと、大体
四つの点があるのではないかと
調査の結果考えられるのであります。
その第一点は先程
長官から御
説明申
上げましたように、
日本の
中小企業の中の大体八〇%がいわゆる
從業員四人以下を使用しているものでありまして、これは
資本の
活動組織、言い換えますならば、
資本主義的な
経営企業と申しますよりは、
労働の
組織であるとむしろ考えた方が
実態に近い
性質のものである。こういつたものに対して、いわゆる
企業という形で以ていろいろ
税制が立てられる、運用されておるという点が第一点であろうと考えております。
第二の点はいわゆる
更正決定なるものが実際問題といたしまして、
税務官吏個人の
判断によ
つて行われておるわけでありますが、これが数において八〇%を占めますこの
零細企業、いわば前
資本主義的な
形態を持
つております
企業に対して、
税務官吏個人の
判断といつたようなものに基きます
更正決定が行われるというところに、
中小企業税問題の困難さと申しますか、特殊の
事情が第二点として考えられるわけであります。
第三点といたしましては、
中小企業は大
部分のものが殆んど正確に
帳簿をつけておらない
実情でありますが、この
記帳能力たるや、なかなか急速に向上でき難い。從いましてそれに伴う税の
申告といつたふうなものが、どうしても不正確になる。これはこの
改正意見の中に、或いはその別表の二、三あたりに、
申告とその結果の
更正決定が、どういうふうに
なつたかというふうな数字が入
つておるわけでございますが、恰かも
取引……
税務署と
業者の
取引であるといつたふうな感じを持たしておるわけであります。この点が
一つの大きな
原因ではないかと考える。
第四の点はよく言われます
税務官吏の未熟と
経験不足と申しますか、こういつたことのために、
納税者は困るわけでありますが、特に
中小企業はその数が正に無数と言うに近く、且つ非常に小さくて弱くして、非常に数が多くて、而も小さくて弱い者に対して、
余り経験のない
税務官吏が
査定をして参るということになりますと、どうしても非常に難問題が起るわけであります。
以上申しました
四つの点が
中小企業に
特有の税問題を発生させる
原因ではなかろうかということが、私共の行いました
調査の結果一應推定されるわけであります。でその
調査の報告は、
中小企業の
税負担がどういう
状況にあるか、
中小企業の税問題はどういうところに根本の問題があるかということに引続きまして、そうすれば
税制は如何にあるべきかということについて、
各界、各
業界、その他の各
方面からの
意見なぞも徴して、研究いたしたわけでありますが、その
結論と申しますか、各
方面から出ました
意見及び
実情に基きまして、一應これを取纏めて見まするに、その
意見は大体
税法自体の
改正の問題と、現在の
税務行政の
改善の問題と、この
二つになるようでございます。
最初に各
税法について、これがどういうように改められるべきであるかというふうな
意見の、いわば
結論と申すものだけを
簡單に申
上げますと、やはり問題は
所得税に集中いたしておるわけでございます。九頁以下に大体主なる
調査の内容が出ておるわけでございまするが、これから
結論的に言い得ますることは、昨年度の
消費物價調査によりますると、大体四・七人の
標準家族におきまして、
生計費か十一万七千
幾ら、約十二万円になるわけでございますが、こういつた
所得十二万円
程度の階級のものは、
所得税の
引下げ、
税率の
引下げ、或いは
基礎控除及び
扶養家族控除の引
上げ、こういつた
方法によ
つて、
所得税の
課税から除外される必要が出て來るのではないか。御
承知のように、税の
負担によりまして、家計及び
経営が今破壊され始められておるという事実から考えて、この十二万円という線は、一
應所得税がかかるか、かからないかの境になるというふうに考えることが正しいのではないかと考えられるわけでございます。
次に
所得税につきましては、例えば
從業員四人以下の工業、或いは
從業員二名以下の
商業、こういつたものは、いわゆる零細な
企業、以前の
事業形態でありますために、こういつたものにつきましては、
勤労所得と同様の
基礎控除が、特別の
控除が必要になるのではないか。これは
企業組織というよりは、
労働の
組織であると考える方が
実態に近いのではないかと考えられるわけであります。
それから第三番目は、
中小企業に
特有の
家族從業者の問題でありますが、こういつた
家族從業者につきましても、一人当り少なくとも、現金から年三千六百円
程度の
控除があることが、全体として合理的であるのではないかと考えられるわけであります。
尚いわゆる
家事関連費といつたふうなものは、それが合理的なものである限り、普通の大
企業或いは
法人税におきますると同様に、やはり
事業の
必要経費と認められることが適当であるのではないかという
結論に
なつて参るわけであります。それから
資産の再
評價の問題でありますが、この問題は
中小企業におきましても、大
企業におきますると同様に、それ以上に必要にな
つて來るのでありまするので、
是非行われる必要があるのではないか。又再
評價に伴います
減價償却、こういつたものが大
企業に劣らず、或いはそれ以上に必要に
なつて参るように考えられます。尚最近の
地方財政事情なぞからいたしまして、いわゆる
税金以外の
寄附金というものが、事実上
税金に近い
恰好で賦課されるような
恰好に相成
つておりまするが、こういつたものは
法人税におきましては大体二%
程度に相成りまするが、その
程度のものは
必要経費と認めなければならないのでありますから、
中小企業につきましても、
所得の大体一%くらいのものはいわゆる
必要経費に認めなければ、
企業そのものがや
つて行けない
実情でありまするので、こういつた点を考慮される必要があるのではないかと考えられます。
それから
同居親族に対しまする、いわゆる
合算課税というものがあるのでありますが、これは新らしい憲法で謳われておる
考え方、新らしい家という
考え方、こういつた点から見れば、現在の
住宅事情からたまたま同居しておるといつたものについて
合算課税をすることは、どうしても筋の通らない次第でありまして、特にこの
合算課税の故に、
家族労働者或いは
家族の中でいろいろな形で
勤労所得について、或いは
事業所得を持
つておりますものが、結果において
累進的課税を受けておるという結果に
なつております。こういつた点は
是非改められる必要がある、各
所得者に対して各々別個に
課税せられるように考える必要があるのではないかと
調査の結果考えられるわけでございます。
次は
法人税の問題でありますが、先程申しましたように、
資産の再
評價は
是非必要であると考えられます。ただ
資産の再
評價益に対して
課税いたすという
意見が一部あるようでございまするが、
中小企業の
立場からいたしますると、特に
評價金に対する
課税は面白くない、適当の
措置とは考えられないのでありまして、將來の
経済変動は相当なものが現に予想されのでありまするが、この
経済変動が収まりまするまでの間、この
評價益なるものは
企業の中に留保されておる必要がある、かように考えられるわけでございます。
次は
事業税でございますが、
事業税は、御
承知のように、
比例税率によ
つて課せられておるわけでありますが、この
比例税率によりまして、
事業税の賦課ということが
少額所得者に取りましては、結果において非常に大きな
負担になるということは当然なんでありまして、
調査の結果、この点が非常に強く現われておるわけであります。中には時間の
ズレの
関係もありまして、
課税決定のスレがありました結果、前年度
所得に対する
事業税を合算いたしますと、その年度の
所得をオーバーした税額を拂わなければいけないという実例も出ております。これは時間の
ズレが一時そういうことに
なつたのでありますが、
インフレの
終束期において、これが如何に
企業の金繰りを圧迫するかという点に思いをいたしますならば、單に時間の
ズレというだけの
説明では、
中小企業者は納得いたしかねる
状況でございます。そういうわけで、この
事業税につきましては、やはり一定の
基礎控除、例えば三万円といつたふうな
基礎控除の
制度を設けると同時に、これを
超過累進税率に改めることが
中小企業の
立場からいたしますると必要である。こういう
調査の結果に
なつて参るわけでございます。尚各
地方及び
地方の
業界からの要望によりますると、
所得税と
事業税は
是非できるならば一本
課税にして欲しい。それによ
つて税制を簡素化し、又
納税者が納め易い結果にな
つて來る、こういう
意見が強いようでありまして、
地方自治の問題とも根本的に
関係いたす問題でありまするが、
中小企業者の
立場といたしてはこれが望ましいという一應の
結論に
なつて参るようでございます。
取引高税の問題でございますが、これはやはり廃止が
中小企業の
立場といたしては望ましい、
中小企業は御
承知のように大
企業のように
一つの
企業の中で
一貫作業を、從いまして各
企業の手を経てこれは原料の
生産者から
問屋、
問屋から中間の者、それから
商業者の手を経て次々と出て参るわけであります。この
過程において一々
取引高税が課せられるということは、
中小企業の
立場からいたしますると誠に工合の惡い
状況なんであります。やはり
取引高税は撤廃されることが望ましいというのが
一般の
意見、及び
調査の結果でございます。併しながらその他の
関係からどうしても
取引高税が撤廃できないということであるならば、
税率を少くとも現在のままに据置くと同時に、例えば石鹸であるとか、マッチであるとか、或いは
ゴム履物であるとか、こういつたものについては
非課税にする必要があるのではないか。又
協同組合と
協同組合の
組合員の間の
取引、こういつたものは
組合理論の本質上当然
非課税のものであるべきではないか。又輸出品量生産いたしますための原材料の
取引は、これ又
非課税にいたすことが
輸出振興の
立場から見ましても必要なことではないか。このためにはそういつたルートのはつきりいたしたものについての
資材の
割当証明書にその旨を別に表示すればさして困難ではないのではないかと考えられるわけでございます。
それから次は
物品税の問題でありますが、御
承知のように
インフレがデフレに向いましたときにおいて、從來の通りの
物品税を考えていることは理論的に非常に問題のある点ではないかと考えられるのでありまして、要はこの
経済変動、特に
購買力の変動いたしますときにおきましてはこの
税金及び
税率を再調整いたしまして、或いは一分くらいのものについても
引下げることによりまして、無理をしない、或いはこの一線で似て最大の
税収を挙げるように持
つて参る。いわば
物品税のごときものについては
経済法則の波にそのまま乗せるという考慮が
是非佛われなければ、國が
幾ら徴税費をかけましても
税金は決して集ま
つて來ない。これが
中小企業の
立場から見ました僞わらざる
実情でありまして、如何に
脱税が多く行われておるかということが、その観念の切換えが必要に
なつて参
つておるということを私共に感じさせられるわけであります。例えばライターであるとか、家具であるとか、或いは
和傘、洋傘、或いは楽器、こういつた物について今少しく
経済ベースに乗せた
税率が行わけますならば、大して手数をかけないでより容易に、より多くの
税収が確保されるのではないか。
中小企業の
実態を
調査いたしておりますとかように考えられて参るわけでございます。
尚これは
倉出課税に
なつておりまするが、只今の
取引状況、
企業の
金詰り状況、
購買力の
状況から見ましては
倉出を三ヶ月
程度の
期間を求めることが結果において最も、全体的に見ましても円滑に
徴税ができる
方法ではなかろうか、こういう
結論に
なつて参るわけでございます。
これで
税法それ
自体につきましての結果得られました
結論の御
説明を終りまして、次は
税務行政の運営につきましての
各部各界からの、或いは
実態調査の結果出て参りますいろいろな
意見を総合して、その
結論的な
部分だけを
簡單に申
上げますと、先程も申
上げましたように
中小企業は
帳簿をつけておらない
関係上、いろいろな問題を起すわけであります。從いまして、
中小企業については
是非簡易帳簿制度というふうなものを設ける必要があるのではないかという
実態調査の結果の
結論でございます。この
簡易帳簿制度と申しますのは、例えば先程からも申しまする
從業員四人以下というふうな本当に零細な、
企業と言わんよりは、
労働の
組織であるようなものにつきましては、
一覧表のようなものを持たせまして、それに仕入れと賣
上げと
必要経費だけを書き込む極めて單純な
單式簿記であります。こういつたものを適用して、これに基いて
課税をし、
申告をする、或いは
査定をする。こういうふうに持
つて参る必要があるのではないかというのが
実態調査の一應の結果でございます。
それから今申しました五人未満以上のもの、即ち五人から二十九人までくらいのものにつきましては、毎日の日日の
取引の結果、
單式簿記の
考え方で記録を取りまして、月末にそれを自動的に記入して参りますれば、自然に結果において
複式簿記のバランスシートになる。こういつたような
簡易帳簿制度を
是非採
上げたい。そしてこの
二つの
制度を確立いたしますると同時に、
政府においてこれを正式に認める。そういう
措置に出る必要があるのではないかと思われます。こういつた
簡易帳簿制度を樹立し、且つ公認いたしますると同時に、
政府におきましては、
関係官廳で以て
中小企業者に正確な
帳簿をつけるように、又
申告を正確にいたすように指導いたすわけでありまするが、その際におきましても、かような
帳簿及びそれに基きまする正直なる
申告につきましては、当局においてこれを十分に尊重して、この
納税者の利益のためにこれを尊重する。こういう
立場をはつきりいたさなければ、この税のむずかしい問題は解決できないのではないかというのが我々の
調査の
過程においてしみじみ感じたことでございます。從いまして、こういうふうなことは
租税立法の中で明文化いたすことがいろいろな観点から望ましいと考えられる
次等であります。尚
更正決定につきましては、これは、
惡質な
脱税者に対する場合を除いて廃止いたすべきものである。かように考えられて参るわけであります。從いまして例えば
所得税法の六十四條の辺りのところで、
更正決定などに関連いたしまして、
業者の
團体は若しも
政府から税に関する
質問であるとか、或いは
諮問を受けた場合には、これに対して正直に答えなければならない、又この答えは
税務官廳において尊重されなければならない、こういうふう
一つの明文を置くことが、
立法技術としては或いは議論もあろうかと思いますが、現在の
中小企業の
実態及び
中小企業税務問題の
実態から見ましても、適当な
措置ではないかというふうに考えられて参るわけでございます。
尚これに関連いたしまして、
紛争処理機関の問題でありまするが、先に
更正決定におきます
業者の
團体に対する
諮問などと同様に、民間をしてこのむずかしい
インフレ収束期の
敗戰國の税の問題を役所と協力して完遂するという
態勢を確立させまするためには、各
税務署にいわば
税務の
簡易裁判所というような
制度を附設いたしまして、これに
中小企業者の
代表者を参加させるということが最も適当な
措置ではないかと考えられるわけでございます。尚いろいろな異議の申立の
決定、そういつたようなものは、できれば一ヶ月というふうな
期間を
切つて、その間に必ずしなくちやいけない。勿論これは
原則でございまして、
惡質な
脱税者などについては例外でございますが、
原則として一ヶ月ぐらいの間に必ず
決定しなくちやいけないというふうな
態勢に持
つて参ることが、今の
中小企業の現状から見て必要なことではないかというふうな
調査の
結論に相成るわけでございます。
尚最後に
中小企業の
状況を
調査して参りますと、先程から何度も申しましたように、非常に零細な
所得者に対する
課税というものがクローズアップされて來るわけでございますが、こういつたようないわば無
智文盲な人にも課すような、
零細所得者に対する
申告制度を実際に
日本において可能ならしめるためには、現在各
税務署において実施いたしております
標準所得率実施調査、この結果を公表いたすことが必要であると考える次第であります。これはそういつた
零細所得者が尚且
納税しなければならない
状況でありますから、そういつた
零細所得者の
納税をより便宜にする参考の資料として、これを公開いたすことが適当な
措置ではないか、こういうふうな態実
調査の結果に
なつて参るわけでございます。
以上を以ちまして、この
調査の結果、一應自然と出て参ります
結論的なものをそのまま申
上げたわけであります。