○末弘
公述人 私は実は当面の問題にな
つている法律を三年間運用することの当面の
責任者でありまして、それからまた今度の
改正のいきさつも、おそらく
政府の直接御
関係に
なつた人を除くと実は一番よく知
つておるのであります。そこできわめて実際的なことだけを申し上げようと思います。
二つにわけまして、一つは、もしも
國会がこの
法律案をもう一度
政府にもどして十分練り直した方がよいというお
考え、あるいは勇気を持たれるならば、そうなすつた方がよくはないかということであります。と申しますのは、私
ども三年間あの法律を運用して参りまして、確かにいけないと思う幾多の点も知
つておりますが、同時に法律の
改正というものは、やはり法律を施行しましてからあと、その結果がどうであるかということを事実について十分に調査しなければいけない。その調査と申しますのも、ただ役所が一方的にいろいろな事実を集める、司令部おも含めてのお役所が一方的に資料を集めるというようなことでできた事実というものは、かなり一方的な間違いがございます。それでこれがイギリスの場合でありましたならば、おそらく必ず
國会がロイヤル・コミツシヨンというようなものを任命しまして、それには議員の方もなれる、あるいはほかの者も入れますが、これには法律上、証人を呼び出して尋問する
権限を持つこと、あたかも
國会のいろいろな
委員会がや
つておるような
権限をも
つて、
関係者を呼んで公開の席上で調査をする。そうしますと初めて爭われておる事実が、どこが眞実であるかということがわかるのであります。ところがこの三年間、司令部はずいぶん御熱心に
日本の
労働組合運動の動き、あるいは
労働委員会の動きというものを観察され、心配されておるのでありまして、その点は私よくわかるのでありますが、それにもかかわらず、やはり御観察が一方的でありまして、そのためにそこから出て來る
考え方が必ずしも適切でないと思うことが実は多いのであります。それでたくさん例がございますが、一つは
労働委員会のことであります。中労委及び全國の地労委を通じて、あの
委員会の動きというものに対しては世間でもいろいろ御批評もございますが、司令部でも非常に関心を持
つて、いろいろ御指導されておるのであります。それで御承知のように、一つは仕事が遅いという批評を受けております。これはあまり世間に聞えておりませんが、仕事が遅い、もつとてきぱきやれというようなことを言われております。それからもう一つは不公平だということをときどき言われます。それで不公平だということについての最も大きい
理由として、どうも
労働側の
委員が強過ぎるというか、むりを言うて結局
委員会がその方に傾く、こういうのであります。これでおそらくそのためでありましよう、昨年あたりから地方軍政部の御指導によ
つて、地方の
労働委員会の
委員の委属について、いわゆる職権委属問題なるものを起しまして、そのためにある
委員会のごときは長いことできない。できてもまるで麻痺状態に陥つたような事件がかなり方方にあるわけであります。それではこれはどうしてそういうことになるかと申しますると、確かに
委員の中に不適任な人は私
どもの知
つておる限りでもあります。しかしそれは
政党あるいは
労働組合の
関係からいうと、いずれのものに属しておるのにも不適当なものは不適当であります。非常に熱心だが、はげしくて困るし、それから
委員会に来ればおとなしいが、なまけていて、もつとやつたらよいと思うような人もおりますが、実を言うと問題は中立
委員に人を得ることが困難であります。中立
委員さえしつかりしておれば、私の
考えでは
労働側の
委員が強いほどよい。強いほどよいというのは、
労働者の
立場をあくまで
委員会で主張する。そうでないと、いざまとめるということになると、うしろを向いて
労働組合をなだめることができないのであります。それで
労働側の
委員を何んでもかんでもおとなしい者にしてしまつたら、
労働委員会はうまく行くかというと、あにはからんや実際うしろを向いたときに力がありませんからだめなんであります。それで昨年から今年にかけての各地労委の人選を見ておりまして、その点に非常な欠陥があると思います。たとえば東京のような、あれだけ大きな
組合で、いろいろなものがそろ
つているところに、今度の東京都の
労働側の
委員のような人選をいたしまして、たとえば産別はいかぬ、産別の中でも共産党はいかぬというようなことで選んで参ります。その結果産別の中からいわゆる民同という、しかもそれも産別の東京の中心からいえば、むしろ地方にはずれているという方面、あるいはその他中立
組合とい
つて終戰後ようやく初めて動き出した、しかも小さい
組合あたりでどうやらやつたというような人が並んでいるようでありまする。こういう人は、なるほど
委員会でおとなしく、しかるべくやるかもしれない。だけれ
どもこれでは
組合はそういう人の言うことではおさまらない
組合がたくさんあることは事実であります。これは仕方がない。そういう事実があります以上は、やはり
労働委員会の中に、東京の全体の
労働組合の
傾向を如実に反映したような
労働委員をつく
つて置かないと、これはおきまりがつかないのであります。この点での私の結論は、要するに
使用者側、
労働者側の
委員はあくまでもそれぞれの
立場を十分主張するような強い、しつかりした人が出てほしいが、大事なことは中立
委員にその人を得る、三年間の私の
経驗で、地労委にしてあるいは
労働側にはなはだしく押され過ぎて不公平に
なつたというようは非難があつたり、いろいろ非難があります。その原因のほとんどすべては中立
委員にその人を得ていないということであります。その原因はどこにあるかと申しますと全部の都道府縣に、こういう大問題を責任を持
つてやられるだけの五人の中立
委員の優秀なものを得ることは、実はできない相談であります。それでどうしても中立
委員にもつといい人を得ようと思うならば、一つは中立
委員の待遇をよくしなければ問題にならない。もう一つはアメリカのワグナー法あたりでや
つているように、現在ある職についている人間を、
委員会に専念させようと思うならば、法律でその人は三年間なら三年間という任期でやらせて、終つたら元の職にもどれるということを法律できちんときめれば、優秀なものが出て來て熱心にやると思います。私は司令部から、お前は中労委だの、都労委だの般員
労働委員会だの、そんなにお前が一人で
三つかのことをいろいろや
つているから仕事が進行しないのだということ言われますけれ
ども、私のように幸いにどうやら
三つをほとんど專念的に務めることができるようなひまな人間はいないのであります。私は偶然遊んでおつたからでたのでありまして、中立
委員を得ることに何か特別なごくふうを願わないといけない。
話をもどしまして、実は先ほど一度
國会として、イギリスのロイヤル・コミツシヨンのようなもので至急にお調べに
なつたらいいということを申しましたが、これはよく誤解がありますのは、先ほ
どもどなたかの御
発言に、
労務法制審議会のようなものをつく
つて、
民主的に、みんなが
納得するようなことを言われましたが、私のロイヤル・コミツシヨンと申しますのは、事実を調べるのであります。すなわち
意見を闘わすのは
國会へおまかせすればよい。
意見は
國会で十分におやりになればいいので、
意見でなくして
意見のもとになる事実がはつきりしない。そうして非常に誤つた事実の上にいろいろのことを
考えたり議論することがそもそも間違いである。事実を十分に檢討しさえすれば、おのずから結論は出て來るのではないか、たとえば先ほど
吾妻さんから話され、御質問に
なつた労調法の三十
七條、あれをどうにかしたらということは、これは事実を調べるとおのずからわかると私は思
つております。もうあの三十
七條には私も閉口いたしております。それで今度の
法案でもちつともその閉口はとれないのであります。どうか事実をひとつ十分にお調べを願
つて、そうしてその上で対策を立てるという段取りに進めるようにしていただきたということであります。
それからもう一つ申し上げますことは、今のようなことではいかぬと司令部ではおつしやる、ぜひこの際
改正しろということをどうしてもおつしやるのであります。といたしますと、いろいろな方がいろいろここでおつしやつたようなこまかいことを申しましても、なかなか司令部ではお聞き入れにならないかと思
つております。今度は特別にずいぶんよく勉強されて、非常に強い
意見を持
つておられる。それで私も実はあの
法案に言いたいことはたくさんありますけれ
ども、ごく実際的にと初め申し上げました
立場で、これだけはどうか何とか直していただきたい、それからこれだけは
國会で直したらいいじやないかと言えば、あちらさんでも聞いてくれると思う点だけを申し上げます。というのは、
日本の交渉される
政府の官吏の方の力がある
意味から言つたら足りないといいますか、十分先方を
納得させていないと思う点があるのであります。それで偶然のことで変なことになる。それで小さい点だけ、これなら必ず直るし、それから直していただかなければ困るという問題だけ申し上げます。
簡單なことから申しますと、
労働委員会の
委員を地方は全部五人ずつ、つまり十五人ということです。それで現在では施行令で臨時
委員を置いてふやすことができることにな
つておりますので、これを活用して東京都では七人、つまり二人臨時
委員を入れた形で、常時臨時
委員で二十一人であります。これを今度は全部五人ということで、そうして臨時
委員を置く
規定も何もありませんのですが、そうしますと東京都の
労働委員会はもうほとんど動かないだろうと思います。たとえば今度のあの
組合法案の
附則にありますように、この法律を施行してからたしか三十日でありますが、その間にすでに法人にな
つておる
労働組合はみんな
資格審査を一度
労働委員会にしてもらわなければいけないというのですが、そういうことはとても実はできないのであります。まず第一に、
現行法でも
資格審査ということを、東京都では特別の場合しかしないのであります。なぜかと申しますと、東京には三千五百の
労働組合がございます。それでこれの
資格審査なんということは実際上できません。何か実際必要があるとやるのであります。それでこの法律を施行してから三十日くらいの間に今法人にな
つているのはどのぐらいありますか、そうたくさんはないかもしれませんが、それだけでもとてもできないと思います。それで、東京都の
労働委員会というものは、絶えず四十件ぐらい事件を持
つております。つまり解決するあとからあとから事件が入
つて來るわけであります。これにはよほど優秀な中立
委員が相当数あ
つて、手わけをしてやれるだけの仕組をしなければだめであります。それから事務局にしても、よほど優秀な者を置かなければいけない。よほど特別に
考えなければいけない。この事情は程度の差はありますが、大阪及び福岡についてはあると思います。それでぜひ定員を必要があれば何らかのことでふやせるという
規定を置いていただきたい。司令部ではそれに対してはこうおつしやるのです。それは調停の必要があつたらば、
委員でない者を調停
委員に頼んだからいいじやないか、それからあつせん員を頼んであつせんしたらいいじやないか、こう言われるのでありますが、私
ども三年間の
経驗では、
労働委員にな
つている人に頼むのがせいぜいで局外の人を頼んでも適任者がいないのみならずや
つてくれません。いやな仕事なんです。あのくらい両方からにくまれるいやな仕事はないのでした、あんないやな仕事を臨時に頼まれて、しかも報酬が実に出せないような仕組にな
つております。報酬を十分に上げないで、あんないやな仕事を臨時に頼んで片づけると思うような点は、非常な認識不足なんであります。それでその点はぜひ実際問題としてお
考えを願いたい。ですからこの
法案をどうしても通して行くんだという
態度をおとりになるならば、これはぜひや
つていただきたい。これは
國会でおつしやれば通ります。私はそう思
つております。実は東京が五人になりましたのは、いろいろないきさつがありまして、そのいきさつの当面のことを存じております。これはなると私は思
つております。
それからその次に大きい問題は、
不当労働行爲の
七條と二十
七條でありますが、これについては
二つだけ申し上げておきます。
七條の第三号を一号、二号と同じ扱いにすることは間違いじやないだろうか、つまり一号、二号ならば、
労働組合の側から、あるいは被害者たる
労働者から提訴して来るというような問題で、
從つて二十
七條流の片づけ方で片づけるのも一つの
考えだと思う。ところが第三号は、よくお読みくださるとわかりますように、こういうことを
使用者がしたからと申しましても、被害者というものはないのであります。つまりあるとすれば、第二
組合があるような場合、たとえば在來第一
組合がある、ところが
使用者がこの第三号のような、金を出したりなどして、第二
組合をつくるというようなことをやります。そうすると第一
組合からこういうことを訴えて來るということが想像されるのであります。それでその場合に、すべて二十
七條のようなことでやるかと申しますと、二十
七條のような形のことをやる、二十
七條は一号、二号の場合だけを予想して大体できています、あれを実は三号の場合に当てはめてやりますと、あの
手続ではうまく行かないだろうと思います。それで私は
現行法のあの十
一條及び労調法の四十條が刑罰をも
つてことに臨んでおるのを、今度は民事的な方法で行こうというのは、この点は私は
賛成であります。しかしこの第三号だけはむしろこういう
組合の者を買收して、御用
組合化させるような行為、これはむしろ罰したらよいじやないか。一号、二号はそうでなく、二十
七條にあるような方法で、第三号は罰したらよいのだという
考えを持
つておりますが、これはよく御研究願いますと、一号、二号、三号はどうも言葉が大分違うように思う。これは三号はこういうことなんです。
現行法の
二條の第二号であります。あの主たる
経費を
云々ということ、あれを一方では今度の
二條の第二号に加える形にな
つていて、その裏の、今度はそういうことをする、
使用者を押えなければいけないというのが、第
七條の第三号にな
つて出て來ておる。これを押えるのならば罰がいるのじやないかというふうに
考えております。
それから二十
七條の第五項に
関係するのですが、実際上困ると思うことだけ申し上げます。つまりこの裁判所と
労働委員会の
関係というものが、
現行法で非常にうまく行
つていない。そしてそのうまく行
つていないことが今度の法律でも取除かれない。と申しますのは、
現行法で
労働委員会に
労働側から十
一條違反だと言
つて訴えて参ります。そうすると
労働委員会ではもつぱら違反であるから檢事局へ送るべきものかどうかということの
立場で調べて行く。ところがその間解雇された
労働者は、首を切られつぱなしでは飯が食えませんから、このごろは必ず裁判所の方へ解雇無効確認の訴えを起して、そして仮処分の申請をして、その間給料をもらうことを
考えるわけです。そうすると裁判所が、一方この
労働委員会にかか
つているものですから、
労働委員会の様子を見る。
労働委員会と無
関係にあまりすぱすぱやるとあとで困るだろうと思うものだから、
労働委員会のや
つておることを暗に見ている。しかし何とかしなければそのために遅れます。しかしまたいろいろなことを出される、ところがその出されることが今度は
労働委員会で事を扱
つているのにいろいろ惡い影響を與えます。それで何とかして
労働委員会一本でずつとや
つて行く。むろん
労働委員会は裁判所ではありませんから、憲法上、法律上の強制力を持たせることはいけませんから、しまいは裁判所のせわになるということになるのでありましようが、そこまでの間、何とか裁判所と
労働委員会が
二つにわかれるというような形にならないことをしなければならない。それではどうしたら今度のこの案で行けるかと申しますと、地方
労働委員会が調べまして、ほぼこれは
不当労働行爲であるということの確信を得、そしてかつこの際一應この解雇された者をあとへもどしておいてやらないと、飯が食えないでかわいそうだと思うことが顕著であるような何らかの事実があつたならば、地方
労働委員会がもうすぐ裁判所と連絡して、地方
労働委員会が裁判所に仮処分の申請をする。これは今の民事訴訟法から言うと、全然筋違いで変なことであります。民事訴訟法では訴訟の当者が仮処分を申請するのであります。それを
労働委員会が裁判所に仮処分の申請をして、裁判所が調べて、なるほどと思つたら仮処分をやる。これによ
つて裁判所と
労働委員会が
二つ二本建てで、変なことをやるということになることを防ぐ。それから今の制度では
組合員にと
つても
使用者にと
つても、非常に気の毒です。仮処分の申請をする場合には、本訴訟を起さなければいかぬのですから、本訴訟を起すために弁護士を頼み、金がいる。その上仮処分の申請をする。また金がいる。またそれを解くために
使用者の方でもまた金を注ぐというようなことをやる。これを一本にしてすらつとなくするには、
労働委員会が裁判所に仮処分の申請をする。この
法案では、後にいよいよ問題がうるさくな
つて、
労働委員会で決定ができてから三十日た
つて裁判所に事件が行
つてから、裁判所が仮処分的なことをやれるようなことは二十
七條の終りの方にございます。そうでなく、初め地労委の方で仮処分を申請する。これは実は司令部でこの
意見がなかなか御採用にならなかつたもとはどこにあるか、人様のことですからわかりませんが、どうも
日本の法務廳のお役人が十分司令部を
納得させる努力をしておらないと思うのです。と申しますのは、今の民事訴訟法の建前というものが一本でありますから、
労働委員会が仮処分を申請するという変てこな、今までの法体系をみだるようなことは、役人が嫌いです。ですから
労働委員会が仮処分の申請をするなんという変なこと、これはアメリカ人はや
つておることなんです。アメリカの法律ではそんなふうにな
つておる。そういうことをやることを嫌いなんです。それでここの二十
七條は二日間にわた
つて法務廳のお役人と司令部の
労働課の方が熱心にいろいろや
つてこしらえられた
部分なんですが、あとから拜見して、依然として今の仮処分ということと、
労働委員会の動きが二本建てにな
つておるという欠陥が残
つておる。これは事の進行を妨げるのみならず、
労働委員会の信用にも関します。それから裁判所の信用にも関します。つまり両方の違う
意見が出るということは、何となく信頼感を失わせることになる。これは
労働委員会はいち早く裁判所に連絡をする。裁判所も
納得するようだつたら仮処分を出すということにしたら、ぴたりと片づくのであります。
時間がございませんので、あと一つだけ申し上げます。それは第
一條の第二項であります。これはこの間の
労働省の議案、あのときの
公聽会その他で非常に議論のありました点でありますが、この点は司令部でも、何とかいい案があればそれに從うかと言われたくない熱心に、いい案がないだろうかということを言
つておられた点であります。つまりこれは、
使用者から申しましても
労働組合から申しましても、
一條二項が
現行法のままでいけないことは
公聽会でもみな申しております。そこでとうとう今度の第二項の終りに、
暴力行爲だけはよろしくないという
規定だけがずつと残つた。実はまだいろいろな議論があつたのですが、これだけ残つた。それで私
ども爭議に際して、
労働組合が
暴力行爲を振うことは非常によくないと思います。だからこれは押える必要があると思いますが、これな
ども、全國について
暴力行爲があつたという場合を公正に調べて行くと、私
どもの中労委には、しばしばこういうことについて
組合側からいろいろなことを申して來る書類がたくさん入るのであります。そしてときにはわざわざ人を出して、職務外のようなことでありますが、調べておることがございます。それによりますと、確かに
暴力行爲はあつたが、さてそれでは
組合がただ勝手に
暴力行爲をやつたかというと、
暴力行爲をやつたことについては雇い主側が相当挑発をしておるということがございます。それから雇い主側が
暴力團を雇
つて来て、両方お互いにや
つておるというような事件も出ておるのであります。つまりごく卑近な例を申しますと、けんかをしておるような状態になるのです。あるいはもつと公正な言葉で言えば戰爭です。両方の戰闘、つまり國際法の戰闘行爲がどこまで適法であるかということと同じようなものです。そして國際法に例のレプライザルというのがあるのと同様に、片方ばかりひどいことをやると、片方もひどいことをする。それでどういたしましても、この第二項の今度つくりましたこの
規定だけでは、雇い主側に実は挑発的な、あるいはむしろ責任があると思うような事情がある場合に、一方的に
暴力行爲が行われるのは不都合だ。つまり
暴力行爲を発生させる原因をなくすることなしに
暴力行爲を罰してもだめである。
暴力行爲は自分だけが一方的にやるのもありますが、ある原因によ
つて出る場合がある。そのときにはその原因を押えなければならぬのですから、今度の第二項に掲げました
部分をもう少し練り直す必要があるのだということが
考えられます。ことに最近非常にこの点で心配になりますのは、今の刑法の二百三十四條、いわゆる業務
妨害罪というところに
二つの
規定がございます。第二番目の
規定は「威力ヲ用ヒ人ノ業務ヲ
妨害シタル者」
云々というのであります。それで爭議行爲というものは、必ず業務
妨害になる。結果において業務
妨害にならないような爭議行爲をや
つても目的を達しませんから、業務
妨害には事実上必ずなる。そうすると問題は、威力だけであります。威力という言葉は刑法上にほかに使われておるかというと、私が知
つている限りでは、
暴力行爲等取締り以外にはないと思います。これは暴行脅迫よりも廣い
意味であります。つまり暴行、脅迫でもなく、もつと廣い
意味の威力であります。そうして
労働組合のすることは、程度の差こそあれ、威力的ならざるものはありません。一人來るよりも、十人來れば威力を感じます。それも脅迫、暴行はしないが威力を感ずる。主観的に雇い主側から見れば、すべて威力に感ずる。そこで裁判所の
考え方いかんによ
つては、威力という言葉は廣く見られ、業務
妨害罪というもので爭議行爲というものが刑罰的に押えられることが多いことになりますと、これはか
つての大正、昭和の初めと同じようなことになります。ことにいけませんことは、裁判所で罰せられるのが問題ではなくて、そういうことで罰せられるということがありますと、警察が爭議行爲に出て來ることであります。つまり嫌疑があるとい
つて出て來て、押えて行けば、それで爭議の押えになる。たとえば選挙
干渉というのは、罰しなくても投票日の二、三日前に事務所に手入れをすれば、選挙
干渉になる。それで済んだ翌る日にはのがしてやる。つまり第
一條第二項をああいうあいまいの形に置き、ことに刑法の業務
妨害罪のような
規定をそのままにして置いてや
つて参りますと、おそらく警察が爭議に
干渉する端が——もとから開かれる道はあつたのですが、過去三年はあまりありませんでしたが、このごろの様子ですと、やるおそれが非常にあると思います。これは私
ども、実際に見ておりまして、非常にいけないことが起るんじやないかというふうに思
つております。
こまかいことで申したいことはたくさんございますが、今申しました
労働委員会の人数の問題及び
不当労働行爲の取扱い方の問題、及び最後に申しました
一條第二項、これはもしもこの
法案をこのままお通しになるのでありますれば、ぜひ何とか具体的にこの点について、よい御案をお
考え出し願いたい。そうすれば司令部も
納得していただけると思う点であります。これはもうあまり根本の主義主張の問題ではございませんで、ほんとうに実際的の問題でありますから、どうぞひとつ親切に
考えていただきたいと思います。以上で終ります。