○高橋(一)
政府委員 それでは大橋
委員、あるいは先ほどの
石田委員、ただいま土橋
委員などの御
質問に應じまして、便宜私から、
一條二項、あるいはほかに関連しますところの、正当とは何であるか、あるいは
暴力とは何であるかというような問題につきまして、
政府の見解を申し上げたいと思います。但しあらかじめお含みを願いたいのは、この労働
関係におきますところの
爭議行為の正当性といつたような問題は、非常に個性に富んだものでありまして、これを画一的な表現で、あらかじめ正当性を
規定するということは、おそらく世界各國とも、そのような非常にすつきりした解決は、まだ持
つていないのではなかろうか。私よく存じませんが、おそらくそうであろう。それほどにこれはむずかしいとされておる問題であります。從いまして、われわれとしては、これに基きまして各種の事件に対して、最高裁判所ができるだけ早く各種の判例を積み上げて行
つて、おのずからそこに限界を示すというようなことを念願しておるのであります。なかなか最高裁判所の判例というものが出そろいませんので、いろいろ問題が残るのでありますが、そのような前提におきまして、一應のことを申し上げたいと思うのであります。
第
一條第二項に、今回の
改正で「
暴力」という言葉を持
つて來ておるのであります。この
暴力と申しますのは、從來の
法律では、おそらく
暴力行為等処罰に関する件のほかには、あまり見当らないのであります。この
暴力行為等処罰に関する件は、内容といたしまして、かりに六法全書のまとめ方によりますと、集團的、常習的暴行、脅迫、毀損、二條で集團的、常習的面会強請、強談、威迫というようなものを
規定しておるのでありますが、これらに
規定してあることがすべて
暴力行為というわけではないし、
暴力行為等処罰に関する件というふうにな
つておることからしても、
はつきりするのであります。
それではどういうものが
暴力であるかといいますと、要するにわれわれの方では、不法な実力の行使ということは、
暴力である。これを刑法の
條文の中から拾いますと、障害などはもちろんでありますが、單純なる暴行を含みます。それから器物を損壊するいわゆる器物毀損、これは物に対する
暴力でありまして、これも当然これに含まれます。要するに人の生命、身体自由あるいは財産に対しますところの不法な実力、あるいは有形力の行使というものは、これはここにいわゆる
暴力であります。このほかに、たとえば脅迫罪などはどうであるかといいますと、一般的には
暴力には含まれない。ただいわゆる強盗における脅迫、すなわち相手方の反抗を抑圧する程度の脅迫、これは、恐喝なんかの脅迫は、その程度に至らないのでありまして、非常に高度の脅迫でありますが、こういうような脅迫はやはり
暴力と言えるのではなかろうかというようなことがありまして、これは將來の問題であると思いまする。但しこれが
暴力に入るかいなかが問題であ
つて、それがやはり
暴力と同じように不当なものであるということは、これはもちろんであると
考えるのであります。
それから
石田委員からのお尋ねで、刑法の業務妨害罪にいわゆる威力と
暴力との
関係はどうかというお尋ねでありましたが、威力というのは
暴力よりもはるかに廣い概念でありまして、もちろん暴行、脅迫等をいたしまして、他人の業務を妨害するものもやはり業務妨害罪になります。その場合のいわゆる威力というものは、威力の内容がいわゆる暴行であれば、
暴力ということになります。それ以外に單純なる脅迫、軽度の脅迫でありますとか、あるいは
暴力團の無言の圧力といつたようなものなども、威力ということになりますと、入
つて参ります。そういうものをここに
暴力と
言つておるのではございません。すなわち威力の方が廣くて、
暴力と言えないが、しかし威力と言える場合があるということであります。
それからこの際、業務妨害罪の
適用問題について、明らかにしておきたいと思うのでありますが、いわゆる
團結の威力というものを、ただちにこの業務妨害罪にいわゆる威力というふうには、われわれの方では
解釈しておりません。從いまして、他に何と申しますか、暴行でありますとか、その他の行き過ぎがない。單にストをや
つて仕事をほつたらかした、そのためにいろいろな故障が起きたというような場合に、これを問題にいたしますと、ほかの特殊の見地からいたしますれば、特別法などは別でありますけれども、そのストが不当でありましても、これに対する刑罰法規はどうかといいますと、業務妨害罪が当るか当らないかが今問題でありますが、それ以外にはないのであります。それで業務妨害罪をこれに
適用するかいなかということにつきましては、われわれの方では、そういう運用を愼んでおりまして、從來から、そのような業務妨害罪の
適用はしないという方針で参
つております。それから、これはいろいろ民事
関係その他にまたがる問題でありますけれども、大橋
委員からお尋ねのありました
一條二項にいわゆる正当という
意味と、
七條一号の不当労働行為の場合における正当ということと、及び損害賠償に関する八條の正当ということとの関連でありますけれども、われわれといたしましては、やはりこの場合の正、当というのは、いずれも同じ観念でありまして、すなわち
一條一項、これをそうかた苦しく
解釈しないことは、先ほど申し上げました
通りでありますが、要するに
一條一項の精神というものに照しまして、これに適合するところの
労働組合の行為でありまして、社会通念上もつともだということが、いわゆる正当でありまして、これは
一條の場合も、あるいは
七條、八條の場合でも、やはり同じ
考え方ではなかろうかと思うのであります。ただその現われ方がいろいろになるわけでありまして、
一條二項の場合には、犯罪の構成要件ということで、これはたいへん制限を受けております。かりにどのように不当な行為でありましても、これを罰する個々の法規というものがなければ、
一條二項は働いて参りません。刑罰を科することはできません。そういうふうに個々の現われはいろいろと違うと思いますけれども、根本は同じではなかろうか、こう思うのであります。
それから、いわゆる
労調法に定めた手続をふまないで、
爭議行為に入つたというような場合、これはやはり当該争議行為全体としても不当でありまして、これを構成する個々の行為は、やはり同じく不当であるといわなければなりません。現にこの電産に
爭議権がないという前提に立ちまして、この間
労調法所定のクレーム・タイムの期間内に争議行為をいたしました場合に対しまして、その
考え方を
適用しておるのであります。それから
労働協約の
平和條項に違反した争議行為というものはどうかということになりますと、この
平和條項のきめ方にもいろいろあろうと思いますので、一概には申せませんけれども、これはやはり全体としても不当であり、この場合にも不当ではないかというふうに
考えるのであります。さらに
規約の場合になりますと、これは労働
関係においても、あるいは一般の社会
関係においても、
規約の持つウエートの
関係などがいろいろありまして、やはり一概には申せない。これは具体的に解決さるべきであるというふうに
考えておるのであります。たいへん概括的でありますけれども、一應の御
説明を終ります。