○賀來
政府委員 労働組合法案及び
労働関係調整法の一部を
改正する
法律案につきましての逐條
説明をいたしたいと思います。
まず
労働組合法案につきまして申し上げます。第一條の第一項は、
労働組合法の
目的を具体的に規定いたしておるのでありますが、現行
労働組合法は新憲法施行前に制定せられたものでありますので、第一條の
目的に関する規定も、憲法二十八條の規定と同趣旨のことを規定しているにすぎなか
つたのであります。しかし
労働組合法の最大の使命が、憲法に規定されておる基本
原則をより具体的に規定いたしまして、これを
保障するにあることはいうまでもありませんので、
本法案におきましては、
現行法第一條を
改正いたしまして、次の三つの
目的を規定し、憲法第二十八條の根本精神の具体化をはか
つたのであります。第一は、
労働者の地位の向上であります。
労働者が使用者と交渉する場合において、対等の立場に立つことは、この地位の向上のための根幹であることはいうまでもないのでありまして、本條はその
目的を第一として、
労働者が使用者との交渉において、対等な立場に立つことを促進することによ
つて、地位の向上をはかるということを
目的としておるのであります。第二は團結権の援護であります。本條において、
労働者がその
労働條件について交渉するために、みずから代表を選び、その他の團体交渉を行うために、自主的に
労働組合を組織し、團結することを擁護するということを考えておりますのは、新憲法の根本精神から当然のことでありまして、第二章において、
労働者が自由にかつ自主的に
労働組合を結成し、また民主的に手続をみずから定め、また使用者が行う不当
労働行爲を禁止いたしまして、團結権、團体交渉権その他の團体行動権を
保障したわけであります。第三点は、團体交渉及びその手続の助成であります。本條におきまして、この手続を助成するというふうに掲げておりますのは、
労働協約を締結するための團体交渉が、
労働組合の最も基本的な行爲であり、その適正な
運用によ
つて初めて労使間の不安を除去することができるのであります。從いまして第七條第二号というふうなもの、使用者が正当な
理由なくして、その雇用する
労働者の代表者と、團体交渉をすることを拒み得ないというふうなことを規定するのも、その
意味であります。
第二項の本文は、
現行法第一條第二項の規定と同じであります。すなわち刑法第三十
五條におきまして「法令又ハ正當ノ業務ニ因リ爲シタル行爲ハ之ヲ罰セス」という規定がありますが、
労働組合の行爲でありまして、第一項に掲げまする
目的達成のためにいたしました正当なものは、この正当な業務によりなしたる行爲ということに含まれる規定であります。但書は、
改正法案において新たに加えた規定でありますが、この趣旨は、
労働組合の行爲としてなされましたものは、すベて正当であるというふうな極端な論が一部に行われておりましたために、
労働組合の行爲には、
社会通念に
從つて正当なものと不当なものとあること、及び傷害であるとか、あるいは器物破壊の行い、その他身体または財産に対する権力の行使は、いかなる場合においても正当な行爲にはならない。これは刑法の
犯罪構成要件に該当するときは処罰を免れることはできないということを、特に明らかにしたものであります。もちろんこれ以外の行爲でありましても、その秩序を乱すもの、あるいは権利の濫用にわたるようなもの、その他
労働組合の行爲であ
つて不当なものがあることは、いうまでもないのであります。かかる不当なる
労働行爲について、本條文の免責がないことは当然であります。本項の規定は、いわゆる宣言的規定でありまして、刑法第三十
五條の解釈として当然のことでありますが、戰前において
労働組合の運動が往々にして不当なる彈圧をこうむつたこと、また
現行法施行後においても、
労働運動が往々にして暴力の行使等を見ました事例に徴して、特に年のために規定いたものであります。
第二條は、
現行法の第二条の第一号解釈上不明確な点がありましたのでで、これを具体的かつ詳細に規定したほかは、
原則として
現行法の趣旨とかわりないのであります。まず第一号におきましては、
現行法においては單に「使用者ハ共ノ利益ヲ代表スト認ムベキ者ノ参加ヲ許スモノ」と規定してあつたがために、その限界が必ずしも明瞭でなく、それがときとしては、
労働組合の自主性の阻害の原因とな
つたので、これをより具体的かつ詳細に規定したものであります。なお
現行法におきまして「使用者」というのを書いてありますが、それを削除いたしましたのは、
労働組合に使用者が加入すべきでないことは当然のことでありますから、これを削除いたしたのでありますが、今度の法案におきまして、役員と申しますのは、使用者が法人その他の團体である場合において、社長、取締役、監査役その他
理事会等を構成するものの構成員を言
つておるのであります。「雇入、解雇、昇進、又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある
労働者」と申しますのは、
労働者に対して監督的地位にある
労働者であ
つて、
労働者の雇入れ、解雇、昇進、または異動について直接これを決定する権限を有する者をいうのでありまして、人事課長、労務課長はいうまでもなく、技術的な仕事、あるいは経営の方に関係のあります部課長等でありましても、このような権限を持ちます者はすべて含まれるのであります。なおこの場合におきまして、その役職名にかかわりないということは、いうまでもないのであります。
從來の行き方から見ますと、課長以上あるいは部長以上というような役目でも
つて、非組合員、組合員の
範囲を採決した傾向がありますが、今度の行き方といたしましては、職能によ
つてこれを切るというふうな態度をと
つておるのであります。次に「使用者の
労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該
労働組合の組合員としての忠誠と責任とに直接にてい触する監督的地位にある
労働者」と申しますものは、
労働者に対して監督的地位にある
労働者でありまして、使用者の
労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接しており、その結果その職務上の業務と責任とが当該
労働組合の組合員としての責任に直接抵触する者であります。すなわち工場支配人、人事課長、会計課長、労務課長等はいうまでもありません。その他人事課または労務課等の上級職員のうち、
労働関係の機密事項に接する地位にある者を含むのであります。さらに以上のほかに「使用者の利益を代表する者」ということがありますが、これは会社の高級幹部、社長秘書、会社警備の任にある守衛等を加入させておるものは、
労働組合としての資格が認められないというのであります。
第二号の、この團体の運営のために必要な経費の支出について、使用者による経理上の援助を受けるものと申しますのは、但書の場合を除いて、
本法にいう
労働組合とは認められないことを規定したのでありますが、これは
現行法第二條第二号におきまして、「主タル経費」として規定しておるものよりも、明確かつ具体的に規定したものであります。いわゆる組合專從職員の
生活費といたしましての
賃金、給料、爭議行爲に参加した
労働者の
賃金、給料または就業時間中に行われまする組合大会等の
労働組合の会合に出席した
労働者の
賃金、給料等のごとく、
労働組合の対内、対外の活動を問わず、すベての組合の運営のため必要な経費の支出につきまして、使用者から財政的援助を受ける團体は、本号に該当するということは、いうまでもないのであります。このような使用者の経理上の援助は、それを受ける團体が
労働組合と認められないばかりでなく、
労働組合に対してなされました他用者のこれらの行爲は、不当
労働行爲とされることに注意をしなければならぬと考えるのであります。次に但書におきまして、使用者の経理上の援助の禁止から除かれるものは、次の三つであります。第一は「
労働時間中に時間又は
賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すこと」この場合におきまして、使用者の許可の形式というものは、
労働協約その他の協定によ
つて一般的に許可しておいてもよろしいわけでありますが、あるいはまたその都度許可を與えてもよいわけであります。
労働協約におきまして規定することは望ましいこととは考えますが、この規定は使用者がかかる許可を與えるということについて、
労働者がこれを請求する権利を與えたものではないということは、いうまでもないのであります。第二は「厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは
救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附」は、この場合において、その使用者の寄附が、たとい明示の意思表示がなくても、指定寄附であ
つて、かかる寄附による基金を他の基金に流用した場合には、その團体は
本法にいう
労働組合とは認められないことになるのであります。第三は、最小限度の必要な
事務所の供與であります。第三号は
現行法通りであります。第四号もまた現行
通りであります。
第三條は
現行法の第三條そのままを口語体に改めたのであります。
第四條でありますが、これは地方公共團体の警察吏員及び消防吏員は、
労働組合を組織し、または
労働組合に加入することができない旨を規定したのであります。
現行法の第二項及び第一項中、「監獄ニ於テ勤務スル者」を削除いたしましたのは、これは
國家公務員法の附則第十六條によりまして、
労働組合法が
國家公務員には
適用されないこととなり、地方公務員についても政令第二〇一号の
適用を受けているからであります。次に
現行法第一項の「警官官吏」及び「消防職員」を「警察吏員」及び「消防吏員」と改めましたのは、
國家公務員法との関係からでありまして、本條によりまして、地方公共團体の警察吏員及び消防吏員すベて
労働組合を結成し、これに加入することができないのであります。
第二章の
労働組合の章に入ります。第
五條、本條は第二項におきまして
労働組合の規約に必ず記載すべき最小限度の事項を規定するとともに、第一項においては、
労働組合として設立されたものが、
本法及び
労働関係調整法に規定する手続に参與し、
救済を受けるための要件を規定したものであります。
現行法におきましては、第
五條において組合設立等の届出、第六條において
労働組合の資格審査の規定があります。さらに第八條におきましては、組合規約の変更命令、第十
五條におきましては組合に対する解散命令等について規定しておりますが、
本法案においては、かくのごとき行政廳または裁判所が
労働組合の存立そのものを決定し、またはその内部に干渉するような規定をすベて削除いたしまして、單に
法律に規定するところの自由にして民主的な
労働組合として、必要な最小限度の要件を満たさない
労働組合に対しては、この
法律による特別のせわをいたさないということを規定した次第であります。すなわち第三條に該当しない
労働者の團体は、
本法にいう
労働組合ではなく、この
法律に規定する
労働組合に関する規定が
適用されないことは当然でありますから、問題はないのでありますが、第二条に該当する
労働者の團体であ
つても、その規約が本條の第二項の要件を滿たさないときは
労働委員会といたしましては、前者の場合と同様に、何らそのせわをしないということを想定したのであります。
労働組合が
労働委員会のせわになろうとするときは、その都度第二條に該当していること及び規約が第二項の要件を滿たしていることを、証拠を
提出いたしまして、
労働委員会に対して立証しなければならないのであります。この立証ができなくて、
労働委員会が、たとえば、この
労働組合は御用組合であるとか、この
労働組合の規約は組合員に対して均等の取扱いを與えていないということを認定いたしたときは、当該
労働組合は、
労働組合法及び
労働関係調整法に規定いたしまする不当
労働行爲、あるいは調停時の手続に、
労働組合として参加する資格がなくなり、さらに第二十七條に規定する
労働委員会の不当
労働行爲に対する命令等の
救済をも受けられないということになるのであります。すなわち
法律の特別の保護は、
法律が要求しておりまする最小限の要件をも備えておらないようなものに対しては、與えないというのがこの項の趣旨であります。しかして第五条第二項の要件を滿たさない
労働組合も、たとえば
労働関係調整法に規定する調停申請のごとく、それが
労働組合でなくとも、
労働者個人または
労働関係の当事者としてなし得る場合は、
労働組合としてでなく、爭議團その他の
労働者の團体、または爭議の当事者としての資格において、その手続に参與することができるのであります。次に本條但書の規定は、第七條第一号に規定する個々の
労働者に対します保護については、第
五條第二項の要件を滿たさない
労働組合の組合員であることのみを
理由として、
労働委員会が
救済を與えないというようなことにはならないことを規定しておるのであります。第二項は
労働組合の規約に関する規定であります。
労働組合は規約を定めることが必要であります。その規約には少くとも本項各号に掲げる事項を
内容として規定しておられなければならないのでありますが、なおこれらの事項以外でも、
目的その他に関する規定は、社團である性質上、当然規定さるべきであると考えておるのであります。第一号は名称、第二号は
事務所であります。第三号は單位
労働組合の組合員が、すべての問題に参與する権利を有すること、及びその権利の行使に十分な
機会が與えられ、いかなる組合員にも特権的地位を與え、または差別的な取扱いをしてはならないということを規定しておるのであります。これらの組合員の基本権を
保障いたしますところの規約の規定は必ず設けなければならない。
從つて中央執行員や部長の選出等につきまして、特定の組合員に選出権の二重行使を許すとか、特定の組合員に選出権を與えることは許されないのであります。たとえて申しますれば、青年部に入
つております者は、青年部員として
一般の執行
委員の
選挙に参加すると同時に、青年部長を
選挙し、その青年部長は、青年部長たるゆえをも
つて執行
委員に参加することは、青年部員が二重の権利を行使することになるのであります。第四号は、何人も人種、宗教、性別、門地または身分によ
つて組合に加入する権利なきものとされ、または組合員たる身分を失うことはないことを規定しておるのであります。第五号は役員の選出に関する規定でありまして、單位
労働組合の役員は、その單位
労働組合に加入する組合員の直接無記名投票によ
つて選出されねばならないのであります。ただ連合團体である
労働組合または全國的な
規模を持つた
労働組合につきましては、單位
労働組合の組合員の直接無記名投票によることがもちろんいいのでありますが、実際上それが困難な場合は、その組合員の直接無記名投票によ
つて選挙された代議員によ
つて、選出されるということが規定されてあるのであります。第六号は組合員の総意を反映いたします組合の最高意思決定機関であります総合は、少くとも年一回以上は開催されなければならぬという規定であります。総会と申しますのは、組合の最高意思決定機関であり、かつ組合員全員、または組合員全員によ
つて選ばれた代議員によ
つて構成されたものであります。第七号は会計に関する規定であります。組合存立の基本は、財政
確立と組合財政に対しまする組合員の信頼感が
基礎でありますので、民主的かつ、強力な組合となるためには、組合財政を嚴正に行わなければならないのであります。そこですべての財政及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況等を示す会計報告は、組合員の総意によ
つて委嘱された公認会計士及び経理士の檢査を受け、正確であるという証拠と一緒に公表しなければならぬことを定めたのであります。なおこの号は、
日本労働組合に関する極東
委員会の十六
原則第十六号と同じ趣旨であります。第八号同盟罷業は、組合員または組合の直接無記名投票により
選挙された代議員により直接無記名投票を行い、賛成が投票数の過半数を得なければ開始されないということを規定したものであります。同盟罷業は組合の最も重大な行爲でありますので、組合幹部や一部少数者によります独裁を排除したものであります。なお過半数は最低数でありまして、これ以上の数になることを妨げるものではないのであります。第九号は、組合規約の
改正に関する規定であります。規約は
労働組合の憲法ともいうべきものでありまして、その変更は愼重を要するのであります。この
改正にあた
つては、單位
労働組合におきましては、その組合に加入する組合員の過半数を得なければならないというのであります。但し連合團体でありますれば、先ほど申しましたと同じであります。なお過半数と申しますのは、これは最低数をい
つておるのであります。
第六條は、
現行法と同じでありまして、交渉は
労働協約の締結その他の事項に関してなされるのでありまして、普通
労働協約の締結を
目的として、
賃金、
労働時間等の
労働條件が、交渉
内容のおもなものになるであろうと思うのでありますが、その他の事項についても交渉することもできる。組合の代表者というのは、組合の規約、総会の決議等によりまして外部に対して組合を代表するという者であります。交渉する権限と申しますのは正式に協約、契約を締結する権限を含むものではなくして、單に交渉する権限をいうのでありますが、実際上はこれらの点について権限の
範囲に関しましては、紛糾を生じやすいものでありますから、これらのものは交渉にあた
つて、その権限を明らかにしておくことが必要であると考えております。
第七條に、不当
労働行爲に関する規定であります。本條の規定は、使用者の不当
労働行爲として禁止された行爲を列挙したものでありまして、
本法の最も重要な規定であります。第一号の本文は、
現行法第十一條と同じ規定であります。個々の
労働者が
労働組合に加入をしたり、あるいは
労働組合を結成しようとしたり、その他
労働組合の正当な行爲をしたことを
理由として、不利益な取扱いをすること、及びいわゆるイエロー・ドツグ・コントラクトを禁止したものであります。但書は、ある
労働組合に特定の工場
事業場に雇用される
労働者の過半数が加入しておる場合当には、その
労働組合は、当該
事業場工場で働いておる
労働省がその組合員であることを要求するところのクローズド・シヨツプやユニオン・シヨツプの
労働協約を締結することができるということをい
つておるのでありまして、これは念のために規定をいたしました但書であります。第二号は、使用者が雇用する
労働者の加入する
労働組合の代表者等との團体交渉に應ずる義務をきめておるのでありまして、これが違反は不当
労働行爲となることであります。ここにいうところの代表と申しますのは、
労働者の代表者でありますが、代表者がさらに委任することが
一般に許されることは当然であります。その使用者が應ずる義務のある團体交渉が、平和的に秩序のある交渉であることを要するのはもちろんでありまして、しからざる場合に、その他の正当な
理由がある場合、使用者は團体交渉を拒むことができるのであります。第三号は、使用者が
労働組合の結成、運営等を支配すること、すなわち御用組合化しようとすること、及び組織運営を妨害することを禁止したものであります。金錢上の援助は、多くの場合組合の支配に至ることが多いのであります。ことに組合の役職員の專従者が、その
生活費を使用者から受けておるというふうなことは、御用化するおそれが多分にあるのであります。この程度に至らないものでありましても、組合の経理上につきましてその援助を與えることは、但書の場合を除いてはすべて禁止されるのであります。但書は第二條第二項の場合と同じようなものであります。なおここで「支配」あるいは「介入」と書いてありますが、組合の内部意思に干渉するものであり、「支配」はその結果の意思を左右するというところまで行くのを支配といいますし、「介入」と申しますのは、その左右する程度までには至らないものをい
つておるのであります。
それから第八條は
現行法と同じであります。ただこの際申し上げておきたいと思いますことは、この第一條第二項には、暴力行爲の行使が
労働組合の正当な行爲と解釈されてはならないという旨が規定してあります。暴力行爲の行使は主として刑事上の問題でありますので、第一條第二項の但書として規定したのでありますが、本條におきましても、暴力の行使が正当な爭議とならないことはもちろんであると考えております。
第九条は
現行法とほとんど同じであります。
労働組合が行う共済事業その他福利事業等について、これが使い方を変更すると言うふうな場合には愼重を要しますので、総会の決議を必要としたものでありますが、なお使用者が、福利事業その他共済事業のために寄付いたしまして場合に、その使用者の寄付した金を流用すれば、総会の決議があつた場合でありましても、その組合は第二條第二号に該当するに至
つて、
労働組合ではなくなるものと解釈いたしておるのであります。
第十條は
労働組合の解散事由といたしまして
現行法に規定されているもののうちから、組合資格否認による解散と、裁判所の解散命令による解散は、資格否認または解散されたこの規定が廃止されたのでありますので、これを除いております。さらに破産を
労働組合の解散事由とすることは妥当でないので、削除いたしております。規約で定めましたところの解散事由がある場合は、これによることはもちろんでありますが、組合規約に解散の規定がないときでも、総会で組合員の四分の三以上の多数決で決議いたしますならば、解散することができるのであります。なお総会の決議の多数決につきましては、規約で三分の二以上とか別段の定めをした場合は、それによるのであります。
第十一條は、
労働組合がこの
法律の規定に適合する旨の
労働委員会の証明を受ければその主たる
事務所の所在地において登記して、法人となることができるということを規定いたしておるのであります。第二項は、
労働組合の法人登記事項その他に関しては政令で定める。第三項は法人である
労働組合が、その登記事項に変更を生じたときは、変更した事項について変更登記をした後でなければ、第三者に対抗することができないことを規定しておるのであります。
第十二條に、法人でありますところの
労働組合について、民法及び非訟事件手続法の所要規定を準用することを規定いたしておるのであります。この
内容は省略させていただきます。
第十三条は
現行法と同じであります。
第三省
労働協約の章に入ります。この章におきましては、現行
労働組合法のうちから第十九條第二項、第二十一條及び第二十
五條を削除いたしましたほか、第十九條第一項、第二十條及び第二十四條に若干の
修正を加えたのみで、現行の第三章の規定と別段の差異はないのであります。
第十九條第二項を削除いたしましたのは、
労働組合の届出制を削除したのと同じ趣旨であります。第二十一條を削除いたしましたのは、この規定が当然のことと解せられるからであります。次に第二十
五條を削除いたしましたのは、この條文はほとんど実益がないのみでなく、かえ
つて平和條項を
労働協約中に規定することを妨げるおそれがあつたからであります。
第十四條は
現行法第十九條第一項をそのまま口語体に改めたもので、
労働協約の当事者、協定事項及び効力発生要件を規定したのであります。
労働協約の当事者の一方は
労働組合でありまして、他方は使用者またはその團体であることはいうまでもありませんが、
労働協約におきまして協定される事項は、
労働條件その他
労働関係全般に関する事項であります。しかして
労働協約は書面に作成し、両当事者が署名することを
労働協約の効力発生要件といたしましたのは、その
内容について、後に至
つて無用の紛議を生ぜしめないためであります。
第十
五條は
現行法第二十條を
改正したものでありまして、
労働協約の有効期間について規定したのであります。第一項は、
労働協約には必ず有効期間を定めなければならないことを規定したものでありまして、不確定期間を定めた
労働協約は有効であるが、有効期間を定めない
労働協約及び條件つきの
労働協約は無効であります。次に
労働協約は、いかなる場合においても三年を越えて有効に存続することはできない旨を規定されておるのでありまして、三年を越える有効期限を定めた場合は、その三年を越える
部分は無効となり、三年の有効期間を定めたことになるわけであります。
從つて労働協約にいわゆる自動的延長規定があり、
労働協約の効力が自動的に延長し、かつ当事者のいずれもが廃止の意思表示をしない場合でも、
労働協約が効力を発生した日から起算して、三年を越えて有効には存続し得ないのであります。三年の期間を経過したときは当然効力を失います。しかしいわゆる更新規定がありまして、これに基いて
労働協約の効力が更新される場合は、同一
内容を持つ新しい
労働協約であるから、この規定の
適用はないのであります。第二項は、
本法において新しく設けられたものであります。その趣旨は、
從來の
労働協約の多くに規定されておりました、いわゆる自動的延長規定のもたらす不合理な結果を是正せんとするものであります。すなわち
労働協約のうちに、
労働協約の
改正の意思表示があつた場合においては、期間滿了後においても、なお本協約は、新協約成立まで有効とするという規定がある場合におきましても、
労働協約の中に規定された期間が経過したとき以後におきましては、当事者の一方が
反対の意思表示をすれば、そのときからその
労働協約は失効することを規定いたしたのであります。
從つていわゆる自動的延長規定があ
つて、改廃についての予告期間の規定がある場合におきまして、その予告期間の定めに從いまして、当事者の一方が改訂の意思表示をしたときは、その
労働協約は自動的延長規定に基いて、新協約が成立するまでは、その期間滿了後においてもなお有効に延長されるが、一方の当事者が破棄の意思表示をいたしましたときには、そのときから当該
労働協約は失効することになるのであります。次に自動的延長規定がなく、ただ改廃についての予告期間のみがある場合におきまして、一方の当事者が改廃の意思表示をしたときは、その
労働協約は期間滿了のときから効力を失うことは、いうまでもありません。次に但書は、
労働脇的中に、この
労働協約の期間滿了一箇月前までに、事事者のいずれか一方が改廃の意思表示をしないときは、この
労働協約は引続き同一期間有効とするという、いわゆる更新規定を設けてさしつかえない旨を規定したものであります。
從つてかかる規定がありまして、当事者の双方が期限滿了一箇月前までに、改廃の意思表示をしないときは、その
労働協約は期限の到來したときから、新しい
労働協約として、その効力が更新されることになるのであります。
第十六條は、
現行法第二十二條の規定を括弧内を削除いたしまして、そのまま口語体に改めたものであります。この括弧内の規定を削除いたしましたのは、
從來この規定の解釈につきまして種々の紛議を生じたること、及びこの規定を削除しても、別段弊害が生じないのみでなく、
労働條件その他
労働者の待遇に関する基準は、でき得る限り
労働協約に規定しておくことが、
労働協約の本質上当然のことであるからであります。
第十七條は
現行法第二十三條をそのまま口語体に改めたものでありまして、同一工場、
事業場における
労働協約の
一般的拘束力について規定したものであります。
第十八條は、
現行法第二十四條をそのまま口語体に改めたものでありまして、一定地域内における
労働協約の
一般的拘束力につきまして規定したものであります。但し
現行法の職権決定は削除いたしております。これは
労働委員会がこの決議をなし得ますのは、当事者の一方または双方から申立てがあつた場合にのみ限
つておるのであります。
第四章は
労働委員会の規定でありますが、
現行法が施行されましてから、
労働委員会は非常な業績をあげております。しかし
改正法案ではさらにこれが機能の十全の発揮を期して、準司法的機能と調整的機能との運営を分離し、中労委と地労委との関係を緊密にする等の方策をと
つたのであります。その他の点では
國家行政組織法などの新しい文法に伴
つて必要な調整を加えたほかは、おおむね
現行法の建前を踏襲しているのであります。なお新憲法下の立法として、新たに
法律事項と
なつた現行施行令の規定が、
法律の上に多く加えられておるのであります。
第十九條は
労働委員会の組織、権限、
委員等について定めております。すなわち第一項から第四項までは
労働委員会の構成、
労働委員会の種類、
労働委員会の職員の身分、及び政令委任についての通則であります。第五項以下は、中央
労働委員会について、その所轄、組織、
委員の任免、任期、
給與、及び費用弁償、会長、
事務局長等について定めております。これらの規定は第二十項で地方
労働委員会に、第二十一項で船員
労働委員会に準用しております。第一項は、現行第二十六條第一項と同様、
労働委員会が三者構成である旨の規定でありますが、「第三者」を「公益を代表する者」と改めたのは、
從來ともすれば誤解の生じやすかつた、いわゆる中立
委員の
意味を明らかにしたまでのことで、
從來と異
なつた性格を與えようとするものではないのであります。第二項は
労働委員会の種類であります。
労働委員会に中労委、地労委船員中労委、船員地労委の四種があることは、現在と同様でありますが、
現行法第二十六條第三項は船員
労働委員会について触れるところがなく、施行令第四十八條第三項で「
労働省」が「運輸省」に「都道府縣」が「海運局の管轄区域」読みかえられているところから、施行令第三十五条に基いて、それぞれ船員中労委、船員地労委が設けられていたのでありますが、行政機関の設置がすべて
法律事項と
なつた今日では、適当でないので、
法律の上に明記したのでありまして、実態にかわりはありません、なお
現行法第二十六條第三項後段に規定する特別
労働委員会の
制度は、
從來さして実益がないのみならず、いわゆる準司法的機能の強化拡充を見た
改正法案においては、かかる
制度により
労働行政運営の一貫性を阻害することは、避くべきでありまして、また行政機関の設置を、
労働大臣の專断とすることも、新憲法下妥当でないので、廃止することにいたしたのであります。第三項は
現行法第二十六條第四項と同趣旨の規定で、職員が刑法上第七條の公務員であることを念のために規定したものであります。第四項は政令への委任規定であります。政令で定められるおもな事項は、
労働委員会の
委員の推薦方法、
労働委員会の名称、地方
労働委員会についての條例に関する規定等が考えられるのであります。第五項は、中央
労働委員会が
労働大臣の所轄に属することを明らかにしております。これは
現行法のもとでも同様であ
つたのでありますが、
國家行政組織法との調整上、この点を明確にしたのであります。
労働省設置法
改正案にも、中央
労働委員会が
労働省の外局であることを規定しております。なお、中央
労働委員会が
労働省の外局であると規定されましても、
労働委員会の本質上、その專管に属する判定的
事務及びあつせん、調停、仲裁の
事務は、独立して行われるものであること、
從來とかわりはないのであります。ただ國会との関係においては、
労働委員会の活動全体について
労働大臣が責任を有することは言をまたないのであります。第六項は、第一項の趣旨を受けて、具体的に
委員の数を定めたのであります。現行施行令第三十七條第一項で「二十一人以内」と定めてありますが、
本法案では「各七人」と員数を限定しております。なお、現行施行令第三十七條の三に定められている
臨時委員の
制度は、廃止されることにな
つたのであります。これはこの
制度がねらう
目的のほとんどは、
労働法に定める調停
委員制度をも
つて達せられているし、また準司法的機能の強化された
改正案の建前からも、妥当でないからであります。第七項は、
現行法第二十六條第二項と同様の規定であります。現行施行令第三十七條第二項によりますれば、この場合の推薦資格を有するのは、二以上の都道府縣にわたる組織を有する使用者團体、または
労働組合であります。第八項は中央
労働委員会の
委員の欠格條項を前段に規定し、後段では、
委員が欠格條項に抵触した場合には、当然に退職すべきことを明らかにいたしております。
本法案に特にこのような欠格條項を定めましたのは、もとより
労働委員会の職責の重要性にかんがみましてのことでありまして、その
内容は衆議院議員の場合と同様であります。第九項は中央
労働委員会の公益
委員の任命についての
制度規定であります。これは公益
委員が、いわゆる準司法的機能を運営することからいたしまして、その中立性を担保するために設けられた規定であることは、いうまでもありません。すなわち七人の公益
委員のうち同一の政党に属する者が三人以上とな
つてはならないのであります。公益
委員が入党その他のみずからの行爲によ
つて、前段の規定に抵触したときは、抵触するに至つた順位に
從つて、資格喪失者が定まり、その者は当然退職することになります。第十項は中央
労働委員会の
委員を
労働大臣が罷免することができる場合を定めたのであります。現行施行令第三十九條第二項の場合とは異
なつた規定の仕方をしておりまするが、欠格條項に抵触したときは、当然退職することにな
つておりまするから、
内容的には大差はありません。ただこの場合の中央
労働委員会の同意は全員の同意でなく、通常の
会議の議決方法に從うのであります。第十一條は
委員の任期の規定であります。現行施行令第三十九條第一項本文及び第三項の規定と同様であります。第十二項は再任の規定であり、
現行法でも規定はなかつたが、同様にいたして参
つたのであります。第十三項は任期の到來した
委員でも、後任者の任命があるまでは、その職務を行うべきことを定めた規定でありまして、現行施行令第三十九條第一項但書と同趣旨の規定であります。第十四項は
労働委員会の
委員の俸給、手当等につきましては、この
法律とは別の
法律で、また費用弁償につきましては、政令で 定められる旨の規定でありますが、これは
委員の職責が、特別法による
給與を必要とするものであるとの見解に基くものであります。ただこの
法律が定められるまでは、中央
労働委員会の
委員も
一般職に属する国家公務員でありますので
政府職員の新
給與実施に関する
法律の
適用を受けるものであります。第十五項から第十七項までは現行施行令第四十條第一項及び第二項と同趣旨であります。ただ会長が
労働委員会を代表することは、
國家行政組織法第六條から当然でありますから、省略をいたします。第十八項は現行施行令第四十條第三項にかわるものでありまして、すなわち会長に長期にわたる事故があり、そのためその職務を行うことができないとき、または会長が欠けたときは、この條の規定、すなわち第十六項の手続きに
從つて、新会長が
選挙され、旧会長は当然その職を失うことになるのであります。第十九項は
事務局に関する規定でありますが、現行施行令第四十二條と同趣旨であります。職員の定員につきましては、中央
労働委員会が
労働省の外局であることから、
労働省定員法で定められます。第二十項はこの條の規定のうち
労働委員会に共通の規定を、地方
労働委員会に準用する旨の規定であります。
從つて地方
労働委員会は、都道府縣知事の所轄に属する都道府縣の機関ということになり、また
委員及び職員の任免は都同府縣知事が行います。地労委の
委員の数は現行
通り労使の公益代表おのおの五人であります。
從つて第九項の公益
委員の任命についての制限も二人以上ということになるわけでありますが、なお地方
労働委員会に関して條例で定められるべき事項は、政令で明らかにいたすことにな
つております。第二十一項は船員法の
適用を受ける船員に関する
労働行政が、運輸大臣の所掌に属することから來ます調整規定でありまして、現行施行令第四十八條第三項の規定の趣旨と同じでありますが、都道府縣知事の権限も海運局長でなく、直接運輸大臣が行うものとしたことは現行規定と異な
つております。
第二十條は
労働委員会の権限を定めたのであります。すなわち
労働委員会は、第一は
労働組合が
提出いたしますこの
法律の規定に適合する
労働組合である旨の証拠においてその認定を行う、これは第
五條であります。第二は法人である
労働組合となる前提要件として、それがこの
法律の規定に適合する旨の証明を第十五条でやることにな
つておりますが、それをいたします。第三は
労働協約に地域的の
一般的拘束力を持たせることの適否を決議するのであります。第四は、十八條の不当
労働行爲について必要な調査審問を行い、命令を発し、これに関連する措置をとる等の、いわゆる準司法的機能及びあつせん、調停、仲裁の調整的権限とを有するのであります。なお
現行法第二十七條第一項第一号及び第二号を省いたのは、これらの
事務が
労働省と重複して行われることを避けるためであり、また第二項の建議の規定を廃したのは、建議の
内容が
現行法施行の後に設けられた
労働基準
委員会の
事務であるからであります。
第二十一條は
労働委員会の
会議についての規定であります。第一項は
会議の非公開
原則を定めたものでありまして、
現行法第二十八條と同じ趣旨の規定であります。ここで公益上必要があるというのは、事案の審判について、公正な輿論によることを適当と認めるような場合であります。ただ関係者の請求を削除したのは、從来の経驗からこれが
労働委員会の円滑な運営を阻害した例が少くなく、公開するか、しないかは
委員会自身の判断にまつことが妥当であるからであります。第二項から第四項までの規定は、現行施行令第四十一條第一項第二項と同様の規定で、
会議の招集、定足数、議決方法等を定めておるのであります。
第二十二條は
現行法第二十九條とまつたく同様の規定でありまして、関係者は
労働委員会の要求または檢査に應ずる義務があります。本條に違反してこの義務を怠つたものは三万円以下の罰金に処せられます。
第二十三条は
現行法第三十條と同様の規定であります。中央
労働委員会及び船員
労働委員会の
委員及び職員は、
國家公務員法の起用を受けるわけであるが、秘密遵守義務については、まずこの規定の
適用があるものと解すべきであります。
第二十四條は
労働委員会の権限のうち、公益
委員のみで行う権限を定めました。
労働組合が第二条及び第
五條第二項の規定に適合するかどうかの立場の認定、法人たらんとする
労働組合が、この
法律に適合することの認定、不当
労働行爲に関する判定及び処分並びに労調法的四十條の処罰請求についての決定がそれであります。いわゆる司法的機能は、事の性質上、その権限の行使も、中立的性格の公益
委員のみで行うのが妥当なわけであります。但し労使
委員といえ
ども、これらの処分に関する決定の前に行われる審問に参與して、
意見を述べる等のことはさしつかえないのみでなく、決定の公正を保つために必要でもありますので、但書が設けられてあります。
第二十
五條でありますが、本條は
労働委員会のうち中央機関である中労委について、その権限を定めました。すなわち中央
労働委員会は
労働委員会の一種として第二十條の規定による
一般事務を行うほか、第二十六條に定める規則制定権を持ち、しかも二以上の都道府縣にわたり、または全國的に重要な問題にかかる事件のあつせん、調停、仲裁及び不当
労働行爲に関する命令等の処分については、優先的管轄権を持
つております。ここで全國的に重要な問題にかかる本件とは、單に地域的
規模において全國にわたるもののみならず、事件そのものの発生は局地的であ
つても、問題の性質が
國家的影響を持つものをもいいます。また優先して管轄権を持つとは、かかる
事務については中央
労働委員会がみずから行うことを
原則とし、必要があれば、特定の地方
労働委員会を指定して行わしめることができるという
意味であります。次に中央
労働委員会は当事者の申立てに基き、または職権で地方
労働委員会の第
五條、第七條及び第二十七條に関する処分の再審査を行う権限を有します。このような権限を定めたのは、地方
労働委員会の行うこれらの処分について統一性を保持し、かつ
事務の愼重を期することが必要であるからであります。再審査の手続等については、中央
労働委員会規則で定められます。なお本來中労委と地労委の間には、
一般的に上級下級の関係があるわけでなく、ただこの
法律の特別の定めをま
つて、一定の場合にのみこのような関係が生ずるにすぎないことは、
從來の
通りであります。
第二十六條でありますが、本條は中央
労働委員会がみずから行う手続及び地労委が行う手続について、規則を制定し公布する権限を有することを規定しました。この規則は内部手続を定めるいわゆる行政規則のみならず、法規たる性質を有するものでありまして、
國家行政組織法第十三條に定める規則に該当するものであります。
從つてその形式的効力は政令の下にあり、また、省令に抵触することはできません。この規則で定められるべき事項は、第
五條の証拠の種類、形式認定の手続、第十一條の証明の様式、第二十七條の
労働委員会の命令等についての手続及び、あつせん、調停、仲裁の細部手続その他
労働委員会の運営に関する事項等であります。
第二十七條は、
労働委員会の命令等についての規定であります。本條は第七條の規定に違反した使用者の行爲、すなわち不当
労働行爲があつたときの
労働委員会の原状回復等の命令及びこれに関する裁判所の手続を定めたものであります。第一項におきましては、
労働委員会は、
労働者、
労働組合その他のものから、使用者が不当なる
労働行爲をした旨の申立てがされたときは、遅滞なく事件の調査をしなければならないのであります。この場合
労働委員会は、その申立てが第
五條第二項の規約を備えない
労働組合からの申立てである等のときは、不適法として却下することができるのでありますが、適法の申立てとして受理いたしましたときは、必要があると認めますれば、両当事者その他の関係者を呼び出しまして、
現実に不当
労働行爲があつたかどうか、それがいかに行われたかについて、当事者の言い分を聞く審問を行わなければならないのであります。この手続は裁判に準ずるものでありますから、特に愼重を要し、調査、審問の手続は前條の中央
労働委員会の規則で定めまして、
労働委員会は審問をするときは、使用者と申立てをしたものとに、証拠
提出証人として呼び出された者に対する
反対尋問等を行う、十分な
機会を與えるようにしなければならないのであります。第二項におきましては、
労働委員会が審問を終つたときは、裁判所の行うように事実認定をいたしまして、この事実の認定を
基礎として、不当
労働行爲があつたかどうか、その程度、被害の態様などを判断いたしまして、申立人が申し立てた
救済、すなわち復職、
賃金支拂い、組合に対する干渉の中止等のことを命ずるのであります。申立人の申立てが全部認められることもありますし、一部だけを認めることもあり得るわけであります。また全然不当
労働行爲がなかつた場合、あるいは不当
労働行爲があつたけれ
ども、ごく軽微で命令を出す実益がないような場合は、申立て棄却の命令を発するのであります。この命令は裁判の判決に相当するものであります。
從つて命令と事実認定とは書面に書きまして、命令を受ける使用者と、申立人とにその写しを交付いたします。命令の効力発生の時期は公付の日であります。この場合の手続も、中央
労働委員会の規則によるものであります。第三項におきましては、事件を処理した
労働委員会が、中央郎党
委員会でありますときは、行政上さらに不服を申し立てる道はないのでありますが、地方
労働委員会であるときは、使用者は中央
労働委員会に再審査の申立てをいたしまして、さらに審査を受けることができるのであります。但し、事件は迅速処理を要するものでありますから、申立てができるのは、命令の交付があつた日から十五日以内に限られております。また再審査の申立てをしたからとい
つて、地方
労働委員会の命令がすでに効力を停止するのでは、
労働者保護に欠けるおそれがありますから、中央
労働委員会がその命令につき不当その他の疑いがあ
つて、事件を取上げる價値があるとして、再審査を開始する決定をするまでは、完全にその効力を保つものといたしまして、再審査開始決定があ
つて、初めてその効力を失うことといたしたのであります。なお第七項で
労働者から再審査の申立てがあつたときは、中労委が地労委の命令の取消し、変更等をしない限り、原命令が効力を保つことは、いうまでもないのであります。第四項におきましては、
委員会の命令も行政処分でありますから、使用者は当然行政事件訴訟特例法の規定によりまする訴訟を起して、その命令の取消し、変更を求めることができるのであります。しかしながら迅速処理の建前からいたしまして、出訴期間は命令交付の日から三十日以内といたしたのであります。また同時に、
委員会と裁判所両方で爭わしめるのは無用の紛糾を來すから、地労委が最初に事件を取扱つたときは、その命令について中労委に再審査を請求しないときにのみ、裁判所への出訴を許したのであります。中労委が初めからみずから事件を取扱い、または再審査をして命令を発したときは、もはや行政上さらに不服申立の方法はないから、ただちに行政訴訟を起すことができるのであります。第五項におきましては、行政訴訟を起したときは、当然相当の日数を要することが予想せられまして、その間において
委員会の命令が行政代執行法によります強制方法だけしかないのでは、実効に乏しいうらみがありますので、判決確定までの間、仮処分的なものといたしまして、裁判所が
委員会の申立てに基いて、その
委員会の命令の全部または一部に從うことを命ずる命令を出すことができることとしたのであります。この命令違反は過料に処せられるのであります。裁判所は一旦命令を発しても、必要によりその取消しまたは変更をすることもできるのでありますが、この命令は民事訴訟法による裁判所の決定の手続によるものであります。第六項におきましては、使用者が地方
労働委員会の命令につきまして、中央
労働委員会に再審査の要求をしたところが、却下され、しかもその却下のときには、地方
労働委員会の命令があつた日から、三十日以上経過していたというようなときは、第四項によりますと裁判所に出訴できないことになり、不都合であるので、再審査を要求したときの出訴期間は、中央
労働委員会による申立ての却下、もしくは棄却の命令のあつたとき、または地労委の命令を変更し、もしくは取消してみずから命令を出したとき等の、終局的処分をした日から起算することとしたのであります。第七項におきましては、使用者が地方
労働委員会の命令について、期間内に内審査の要求もせず、訴訟も起さないときは、
労働委員会の命令は、その使用者については爭う方法のないものとな
つて確定いたします。この中央
労働委員会の命令については、再審査要求の余地がないから、期間内に訴訟を起さないことによ
つて同様に確定をいたします。
労働者が再審査の申立てをしたし、中労委が職権で再審査することを妨げておりません。確定した命令の違反についても、第五項の場合と同様の過料に処せられるのであります。この過日の裁判を開始するためには、裁判所が命令があ
つて確定したこと、使用者がこれに違反したことを知らなければならないので、このような場合には、命令を出した
労働委員会が、裁判所にその旨を通知しなければならないことといたしました。また当初
労働委員会に申立てをしたもの、その他の
労働者も、裁判所の注意を促すために、その旨を裁判所に通知できることは当然でありますが、
労働者でない他の関係者が、かかる通知を裁判所に対してすることも、もとよりさしつかえないのであります。使用者が地方
労働委員会の命令に対して訴訟を起したが、裁判所の判決でその訴えの全部または一部が容れられなくて、
労働委員会の命令の全部または一部がその判決で指示されたときは、使用者の当該命令違反に対して、刑罰が科せられるのであります。しかるに確定判決に使用者が違反を犯し、刑罰に処せられた後にな
つて、中央
労働委員会が地方
労働委員会のその命令の再審査をして、その結果万一地方
労働委員会の命令が取消され、または変更される等のことがあ
つたのでは、はなはだ困るので、第八項においては使用者の起した訴訟の判決が確定した後には、中央
労働委員会は、再審査をすることができないこととしたのであります。以上各項においては、もつぱら使用者の再審査請求、出訴について規定いたしましたが、
労働組合または
労働者が地方
労働委員会の命令になお不満なときに、中央
労働委員会に第二十
五條第二項の規定により、再審査の請求をすることや、民事訴訟法によ
つて、たとえば解雇無効確認の訴えを起すことは、もとよりさしつかえないことでありますので、念のために第九項でその旨を特に規定したのであります。なお調査、審問、命令交付などは、中央
労働委員会が再審査をするときにも、地労委の審査の場合と同様の手続で行うべきでありますから、第十項で第一項、第二項の規定を準用したのであります。この條の規定は他の各條に比し詳細に定めてありますが、
改正前の第十一條では、使用者の一定の行爲を禁止し、これに違反したものに、ただちに刑罰を科しておりましたが、使用者が禁錮の刑に処せられても、なお不当
労働行爲の中止をがえんじないようなときは、被害者たる
労働組合または
労働者は、民事訴訟で解雇無効確認の判決を求め、これに基いて強制執行をしなければならず、時間と金のない
労働者にと
つては、不可能に近いことでありまして、
改正法案では、使用者の不当
労働行爲をただちに罰することはいたしておりません。当事者間の私法上の関係を正常な
状態にもどし、も
つて労働組合の組織と活動とを守ることを第一義といたしまして、そのために、
労働委員会が必要な命令を出し、この命令に使用者が從わないときに附則を科することといたしまして、その手続をできるだけ簡易迅速にできるようにして。時間と金を費さずに解決の方途を與えたのであります。第
五條でいう
救済とは、主としてこの手続をいうのであ
つて、第
五條第二項の要件を満たさない
労働組合は、この有利な方法を利用できないわけであります。
第五章は罰則でありますが、第二十八條は不当
労働行爲に関する刑罰を定めたものでありまして、第二十七條の規定により
労働委員会の命令が発せられて、これに対して使用者が命令交付の日から三十日以内に不服の訴えを行政事件訴訟特例法の規定によ
つて提起したときに、その判決で
労働委員会の命令の全部または一部が適法であるとして支持され、その判決が確定した場合は、使用者がその支持された
労働委員会の命令に違反したときは、その違反行爲をしたものが、一年以下の禁錮または十万円以下の罰金に処せられます。
改正前の規定よりは相当の加重でありますが、罰を受けるものは
法律上の使用者自体でなく、その行爲を実際に行つたもの、たとえば担当重役とか、労務部長とか、工場長とかいう人であることは、
改正前の規定とかわりはないのであります。
第二十九條は第二十三條の規定に違反して祕密を漏らした者は、一年以下の懲役または三万円以下の罰金に処せられる旨の規定であります。
現行法でに千円以下の罰金でありましたが、
國家公務員法の例に準じて規定したものであります。
第三十條は第二十二條の規定に違反した者の罰を規定したのでありまして、
現行法では五百円以下の罰金であります。
第三十一條、本條第一項は、法人、または人の代理人、同居者、雇人、その他の從業者が、その法人または人の業務に関して第二十二條の規定に違反して報告をせず、もしくは虚僞の報告をし、または帳簿書類の
提出をしない場合は、その代理人、同居者、雇人その他の從業者が処罰されるのみでなく、法人または人も罰せられることを規定した両罰主義の規定であります。條二項の規定は、右の違反行爲については、行爲者が法人または未成年者、もしくは禁治産者であるときは、その罰が一定の責任者に転嫁されることを規定したものであり、労調法第三十九條第二項の規定と同じ例であります。
第三十二條は、不当
労働行爲に関する過料を規定したものであります。使用者が第二十七条第四項の規定により訴訟を起した場合に、同條第五項の規定によ
つて労働委員会の申立てに基く裁判所の命令が出たときには、この裁判所の命令に対する違反行爲に対しては、使用者が過料に処せられます。過料の額は、たとえば「
労働者を復職させよ」というような作爲を命ずる命令であるときは、使用者がその命令を履行しない限り、その履行しなかつた日の日数を十万円に乗じた額、すなわち一週間経過後にようやく履行したときは、七十万円まで科することができる。不作爲を命じた命令、たとえば「組合
事務專從者の
給與を支拂うべからず」というような命令に違反したときは、これに違反して給料を拂う等の行爲をしたたびごとに、十万円以下ずつ科せられる。この不履行の日数に應じて額を定めることは、
労働者保護の法の趣旨を実効あらしめるために、今回初めて設けられた
制度でありまして、わが國法体系上、他に類例のないものであります。過料を科する裁判の手続は、
一般の例と同じく非訟事件手続法第二百六條以下の規定によるのであります。
第二十七條第五項の規定による、確定した
労働委員会の命令に使用者が違反した場合も、まつたく同情にして過料が科せられるのであります。
第三十三條、本條は規定の仕方が
現行法と異な
つているが、その実質的
内容は非訟事件手続方第三十六条に関する過料を省いたほかは、
現行法第三十七條第一項第四号ないし第六号と同様であります。すなわち民法第八十二條の規定による裁判所の検査を妨げたとき、民法第八十一條の規定に違反して破産宣告の請求をしないとき、民法第七十九條または第八十一條の規定に違反して公告をせず、または不正の公告をしたときは、民法代八十四條に定める過料と同一の
範囲の額の過料に処せられるのであります。第二項は、法人である一
労働組合の代表者が、第十一條第二項の規定に基いて発する政令で定められた登記事項の変更の登記をすることを怠つた場合には、民法第八十四條第一号の規定に準じて、同條に規定する過料と同一の
範囲の額の過料に処せられることを規定したものであります。
附則におきましては、第一項は、施行期日に関する規定であります。第二項は、
改正法施行の以前から、すでに法人である
労働組合の処遇についての経過規定であります。すなわち、この
法律施行の再現に法人である
労働組合は、一應この
法律の規定による法人である
労働組合とみなされるが、
改正法施行の日から六十日以内に、この
法律の規定に適合する旨の、
労働委員会の証明を受けなければならない旨を定めたのであります。第三項は、
労働委員会の
委員及び
事務局職員に関する経過規定であります。第四項は、この
法律施行の際、現に
労働委員会に係属中の事件の処理については、從前の
法律の規定によることを定めたものであります。
從つてたとえば不当
労働行爲の処罰にあた
つては、
労働委員会の請求が訴追事件となるわけであります。第五項は、この
法律施行前にした行爲に対する罰則の
適用については、從前の
法律、すなわち行爲時法によるべき旨を明らかにしたものであります。第六項は、
本法改正に伴う公共企業体
労働関係法の必要な
改正を規定したものであります。條文の変更から來る当然の
改正でありまして、実体的にはかわりはありません。第七項は
法律番号の変更に伴う整理についての規定であります。
引続いて
労働関係調整法に入ります。第八條第二項、
從來は、公益事業の一年以内の追加指定は、主務大臣が中央
労働委員会の決議によ
つて行うこととな
つていました。しかしながら公益事業の
範囲は、本條第一項に規定せられておるので、これ以外の事業を一年以内の期間を限り、公益事業に追加指定するのは、新憲法との関係及び第一項との関係から見て、
從來のごとく行政機関のみに行わしめず、國会の承認を経て行わしめ、さらに主務大臣にかうるに
内閣総則大臣をも
つてして、公益事業の
臨時的追加指定の手続を、より新憲法の精神に適合せしめ、かつ愼重ならしめようとしたものであります。第三項以下の
改正は、第二項の
改正に伴う調整であります。
第九條におきましては、現行第九條が行政官廳として予定しているのは、都道府縣知事であるが、都道府縣知事は地方自治法の制定により、國の機関ではなくな
つたので、國の機関に用いられる行政官廳という用語を用いることができなくな
つたので、行政官廳を都道府縣知事に改めたのであります。なお
改正労働組合法の規定に対應して、船員法の
適用を受ける船員については、都道府縣知事を海運局長と読みかえたのであります。
第十一條、本條に新たに第二項を加え、斡旋員候補者名簿に記載されている者は、
労働委員会の
委員であることができないこととしたのは、
從來労働委員会の
委員が斡旋員候補者を兼ね、斡旋員に指名されることによ
つて、
労働爭議の調整手続があつせんから調停に、または調停からあつせんに不明確に移行し、あつせんと調停との区別が明瞭を欠くことがあ
つたので、
労働委員会の
委員は、第十二條但書の規定によるほかは、
原則として斡旋員となり得ぬこととし、あつせんと調停との本質的区別を明らかにしたものであります。
第十七條の
改正は、
労働組合法の
改正に伴う條文調整あります。
第十八條の第一項におきまして、本項第五号において行政官廳として予定せられているのは、
労働大臣または都道府縣知事であるが、第九條において述べたごとく、國の機関にあらざる都道府縣知事と、國の機関たる
労働大臣とを、同一の名称をも
つて呼ぶことはできないので、「行政官廳」を、「
労働大臣又は都道府縣知事」とわか
つて規定したのであります。船員法の
適用を受ける船員に関しては、
労働大臣を運輸大臣と読みかえているのは、
改正労働組合法の規定に対應するものであります。第二項及び第三項の中央
労働委員会の再調停の規定が削除せられたのは、第一に、いわゆる判定的機能にあらざる調停のごとき事項について、一審制をとることは適当でないこと。第二に一の都道府縣のみにかかる事案については、当該都道府縣の地方
労働委員会のみに行わしめるのが、実情に即した合理的な調停をなすことを可能ならしめ、かつ当該地方
労働委員会の責任ある調停を行うことを促進するゆえんであるから、再調停の規定は適当でないこと。第三に、全國的に重要な問題にかかる事案については、
改正労働組合法案第二十
五條によ
つて、中央
労働委員会が優先して管轄することとな
つたので、労調法において別に再調停の規定を設ける必要がなく
なつたこと。以上の三点に基くものであります。
第十九條、第二十一條、第二十二條。本三條において「第三者である」を「公益を代表する」に改めたのは、
労働組合法の
改正に伴う調整であります。
第二十六條の第二項におきましては、調停案が一たび双方の当事者によ
つて受諾された以上は、その後その調停案の解釈または履行について爭いが生じたときは、当事者がその調停案を提示した調停
委員会に、その解釈または履行に関する見解を明らにすることを申請し、も
つて調停案を受諾した後の、労使の紛爭をでき得る限り防止し、平和を維持しようとする趣旨であります。第三項は、右の申請を受けた調停
委員会の職責を規定したものであります。すなわち右の申請を受けた調停
委員会は、関係当事者に対して、申請のあつた事項について、解釈または履行に関する見解を示さなくてはならない。しかして右の見解は、申請のあつた日から十五日以内に示されなければならない。期間を十五日と限定したのは、調停
委員会に対して、すみやかに見解を示すべきことを義務づけるとともに、本條第四項の爭議行爲の制限を、一定期間後解除する必要があること、及び
本法施行令第十條の規定と符合を合せたものであります。第四項におきまして関係当事者が、調停案を提示した朝廷
委員会に、その調停案の解釈または履行についての見解を明らかにすることを申請した以上、その解釈または履行に関し爭議行爲をなすべきかいなかは、右の調停
委員会の見解を合理的に判断した上で、決定さるべきであります。本項はこの趣旨によ
つて、右の見解が明らかにされるまでに、関係当事者がその調停案の解釈または履行に関して、爭議行爲をなすことを禁じたものであります。但書において、申請のあつた日から十五日を過ぎたときは、この限りではないとしたのは、第三項に應ずるものであ
つて、当事者の爭議行爲を長く制限することを排除するためであります。
第二十九條
改正は、
労働組合法の
改正に伴う條文調整であります。
第三十七條第二項においては、本項が新たに加えられたのは、第一には、
一般大衆が長期にわたり爭議行爲の脅威にさらされることは、公共の福祉と公益事業の爭議行爲の調整をはかることを
目的とする第三十七條の趣旨に反すること。第二に、関係当事者がいつまでも爭議行爲をなし得るとする場合に、かえ
つて当事者の自主的解決の努力がおろそかとなり、公益事業における労道爭議の迅速円満な解決が遷延するおそれがあること。第三には、第一項の冷却期間が進行を開始してから九十日を経るも、なお
労働爭議が解決しない場合は、その間川諸種の
情勢の変化もあり、おのずから紛爭事情も変化するので、再び調停の手続を開始し、関係当事者、関係機関がその解決に新たな努力をすることが適当であること。以上の三点に基くものであります。本項は公益事業に関し、関係当事者が第一項の規定により爭議行爲をなし得るに至
つてから六十日を過ぎた後は、新たに第一項に規定する條件が滿たされなければ、爭議行爲をなすことができない。すなわち、第十八條の規定による調停の申請、
労働委員会の決議または
労働大臣もしくは都道府縣知事の請求がなされて三十日を経過しなければ、爭議行爲をなし得ないことを規定したものであります。本項によ
つて、冷却期間経過後六十日を経たときは、継続中の爭議行爲も、そのとき以後なお継続するときは、本條違反の爭議行爲となる。第三項、公共事業に関し、関係当事者の双方か受諾した調停案の中に、なお関係当事者間において交渉を継続する旨が定められている事項がある場合に、これについてその後関係者当事者間の交渉が不調となり、
意見の不一致が生ずる場合がある。本項は、このような場合においても、調停案の受諾により、当事者が平和的に交渉をすることを認めたのであるから、公益事業における爭議行爲の公共の福祉への影響の重要性にかんがみ、たとい右のような條件付であ
つても、関係当事者がその調停案に含まれた事項について爭議行爲をなすには、新たに第一項に規定する條件を滿たさなければならないとしたものであります。なお右のような條件付でなく、全面的に調停案を受諾した場合に、新たに第一項に規定する條件を滿たさなければ爭議行爲をなし得ないのは、いうまでもないのであります。
第三十八條を削除したのは、
國家公務員法の
改正、政令第二〇一号の制定に伴い、不要の規定と
なつたからであります。
第三十九條。「前二條」を「第三十七條」に改めたのは、第三十八條の削除に伴う技術的調整であり、一万円以下の罰金を十万円以下の罰金に改めたのは、刑法等における罰金額の
引上げに準じたものであります。
第四十條。現行第四十條が、爭議行爲をなした
労働者を保護する旨を規定しているのは、現行
労働組合第十一條のみでは、爭議の際における
労働者の保護の全きを期することができなかつたからであるが、
労働組合法の
改正により、使用者の不当
労働行爲の禁止の規定が整備拡充され、また使用者の不当
労働行爲に対する
労働者の
救済も、きわめて強力なものとな
つたので、爭議行爲の際の
労働者の保護も、
労働組合法の不当
労働行爲の禁止のうち、
労働組合の正当な行爲を
理由とする不利益な取扱いの禁止の中に含ましめることが、理論的にも一貫しており、かつ、
労働者の
救済の実際面からも妥当であると考えられる。本條中「又は
労働者が爭議行爲をなしたこと」を削
つたのは、以上の趣旨に基くものであります。
本法による
労働爭議の調整をなす場合において、
労働者がなした発言を
理由として、使用者がその
労働者に対して不利益な取扱いをすることは、
本法の規定により
労働委員会が行う公的な
労働爭議調整の
事務に対する妨害行爲であります。
從つて右の発言を
理由とする取扱については、
労働者が爭議行爲をなした場合と異なり、
本法の的確嚴正な
運用を確保する見地から、組合法にゆだねず、
本法みずからこれを禁止したのであります。第四十一條において、本條違反に対する処罰を、不当
労働行爲に対する組合法の処罰と異なり、行爲者を直接に処罰することとしているのも、同じ趣旨であります。
從來は本條但書によ
つて、事情により
労働委員解の同意があれば、その
労働者に対して不利益な取扱いをなし得る場合もあ
つたのを削り、いかなる場合でも
労働者の発言を
理由として、これに対して不利益な取扱いをなすことを禁ずることとしたのであります。
第四十一條で、第四十條違反に対する五百円以下の罰金を五万円以下の罰金に改めたのは、
労働組合法の不当
労働行爲に対する罰則との均衡を考えたものであります。
附則第一項は、この
法律の施行期日を定めたのであります。第二項は、
本法により
改正された第二十六條の規定を、
改正前の第二十六條の規定により提示された調停案についても
適用することは、法の不遡及の原理並びに調停
委員会の再編成及び調停案の解釈等について、かえ
つて混乱を生ずることも予想されるので、これを避けたものであります。第三項は、この
法律の施行前の第三十七條及び第四十條の規定に違反した行爲については、本
改正によ
つても処罰を免れることなく、なお從前の
法律の規定によ
つて処罰されることを規定したものであります。
以上で、はなはだ急ぎましたが、大体の逐條
説明を終ります。