○
井藤公述人 私ただいま御紹介にあずかりました
井藤半彌であります。現職は東京産科
大学教授でありますが、ごく簡單に三十分という御指定がございますので、要点だけを申し上げます。私の
公述は数字がたくさん出ますので、お聞き苦しいところもあると思いますし、申しますことが少し早いかもしれませんが、生れつき早口でありますので、どうか御容赦願います。
そこで今度の
予算の特徴でありますが、これは一言で申しますと、
一般会計、
特別会計、
政府関係諸機関を通ずるあらゆる
予算の総合的
均衡をはかることに
努力した。これは確かに特徴であります。
〔
西村(久)
委員長代理退席、
委員長着席〕
これによりまして、
インフレーシヨンの、
收束をはかり、そしてわが
日本経済の
再建をしようとする
努力がなされておる。これは確かに今度の
予算の特徴であります。
そこでこの
予算を分析してみようと思うのでありますが、分析するについていろいろな観点があります。立場が人によ
つて違うのでありますが、私はこれを純
國民経済の立場から分析してみたいと思います。從
つて経済的側面を取上げるのでごいざますので、一面的解釈であるというそしりも免れ得ないのであります。まず問題を次の二つにわけたいと思います。それは
予算の数量の問題、もう
一つは
予算の品質の問題、すなわち
予算の内容の問題、こういうふうに問題をわけて取扱いたいと思います。
そこでまず第一の
予算の数量の問題でありますが、
予算の数量と申しますと、これは
一般会計、
特別会計その他の数字でありますが、ここでは便宜上
一般会計を中心に
予算の数量を取扱いたいと思います。
特別会計はその他地方
財政の問題に関連して触れることにいたしまして、
一般会計をも
つて予算の数量を代表するもの、それからもう
一つそれに対應いたしますのが
國民経済でありますが、一体
國民経済は何によ
つて代表せしめるか、これを数字によ
つて代表せしめるものは次の三つであります。それは
國民所得、それから國富、すなわち
國民財産及び外國の資源、この三つが
予算の背景になり、
國民経済の具体的の大きさを示すものであります。皆さん御案内の
通り、わが國の
國民所得は、
政府発表によりますと、今
年度は二兆九千七百億とな
つております。それから
國民財産、すなわち國富でありますが、これは数日前の安本の発表がございましたが、それによりますと、終戰後の
日本の
國民財産は十二兆三千億円といわれておるのであります。これが
日本の
財政の
経済的背景で國内のもの、それから外國の資源でありますが、皆さん御案内の
通り、アメリカの
援助資金が千七百五十億円予定されておりますが、これはやはり
日本の
財政運営について
作用するのであります。そこで
國民経済力を代表するものといたしまして、今の三つのものがあるのでありますが、しかしながらこの三つを機械的に合計することはできないのであります。そこでやはりその中の最も重要な
國民所得二兆九千七百億をも
つて、かりに
日本の
経済力を代表するものといたしまして、そうしてこれを
一般会計との
関係をうかがいたいと思います。
そこでまず
予算の数量と
國民経済との
関係でありますが、これを例によ
つて割算をや
つてみます。
一般会計の七千億で
國民所得を割算してみますと、二三%という数字が出るのであります。そこで
國民所得二三%に当る金を國がと
つて使うのでありますが、これは一体
日本國民経済に対してどの程度の大きさを持
つておるか。この場合に二三%という数字をいかに分析しても、多いとも少いとも言えませんので、そこで
日本の過去の新字と比較してみます。そこで結論だけを申しますと、大正末期から支那事変の始まりますまでのころは、この数字が大体一割乃至一割五分でありました。ところが御案内の
通り、今度の大戰が始まりましてから、この数字が非常にふえまして、
昭和十九
年度は七〇%とな
つております。それから終戰後減りまして
昭和二十二
年度は一八%、昨年の二十三
年度は一九%とな
つております。そうして一時下
つて参りましたが、今
年度、すなわち二十四
年度は、また二三%と上
つて來たのであります。この二三%という数字は、先ほども申し上げましたように、
一般会計だけをと
つたものでありますが、
一般会計、
特別会計を総合いたします
予算の純計、これについて比率を求めますと、二十四
年度は五九%になるのであります。だから二三%というよりも、五九%という方がより正しいのじやないかと思います。昨
年度すなわち二十三
年度につきまして、同じ計算をいたしますと、
予算の純計の
國民所得に対する比率は四三%とな
つております。そこが今度は九五%にふえておるのであります。これでおしまいかといいますと、まだ地方費がございます。これは國家
予算のように計上することは困難なのでありますが、しかし
政府発表の数字によりますと、
昭和二十四
年度の地方費は、合計いたしまして三千四百六十五億といわれておるのであります。そこでこの地方費をも加えまして、それから重複と思われるものを引いて計算いたしますと、
昭和二十四
年度は、國家及び地方
財政を通ずる
経費の
國民所得に対する割合は、
井藤個人の計算でありますが、六八%となるのであります。大体
國民所得の七割に当る
金額を、國家及び地方
財政がと
つて、これを使
つておるのであります。それが
國民所得の六八%に当る
財政の数量、これを
日本の
國民経済という立場から見ますと、はたして大き過ぎるものであろうか、少な過ぎるものであろうかという問題であります。とかく
経費がふえるとこれはいけないので、
経費が少いとこれはいいものだというような
考えもありますが、しかしながら國家
財政のヴオリユームがふえたからとい
つて、いいとも言えないし、惡いとも言えない。また逆に減
つたからとい
つて、いいとも言えなければ、惡いとも言えないのであります。問題はその内容
いかんであります。品質
いかんであります。
そこで次の問題に入りまして、今次の
予算の内容、品質の檢討に入りたいと思います。これを歳出すなわち
経費の問題と歳入の問題、この二つにわけて研究してみたいと思います。
まず
経費、歳出から始めます。そこで
経費の歳出を
國民経済の立場から見た檢討でありますが、これも
嚴重に申しますと、一々
経費の内容について当らなければならないのでありますが、そういうことはやるいとまもなく、私自身能力もありませんので、きわめて大まかな
方法で
経費の分類をや
つてみたいと思います。この
経費の分類は、
政府発表の数字を基礎といたしまして、これまたかく言う
井藤がか
つてにや
つたものでありまして、実は昨年の七月一日発行の東京商科大学の一橋
新聞、学生
新聞にこの分類を掲げまして、それから後わが国におきましても
経済雑誌や、
経済年報なんかで、この分類が踏襲されております。しかしこれは
井藤自身の分類でございますのでずいぶん欠点が多いことだろうと思いますが、この分類は要するに
経済という立場から國家の
経費の分類をや
つてみたのであります。くどく言うようでございますが、ほかの観点は無視いたしまして、
経費の
経済的
効果という観点から、國家の
経費を分類してみたのであります。それは大して時間がかかるわけでなく、十五分か二十分くらいでもちろんできる分類でございます。どういうふうに
経費を分類したかといいますと、次の五つにわけました。
一番が終戰
関係費、それから二番が移轉的
経費、三番が補助費及び扶助費、それから四番目が
経済助長費、五番が
一般行政費、この五つにわけたのであります。
そこで今度は
金額及び内容を申し上げたいと思います。まず一番の終戰
関係費でありますが、この総額は千二百九十八億でありまして、
予算総額に対する比率は、一九%であります。その内訳は終戰処理費が千二百五十二億、賠償施設処理費が二十七億、特殊財産処理費十七億、解除物件処理費が二億、合計いたしまして、先ほど申しました千二百九十八億で全体の一九%、この内容については、もちろん解説を要しないと思います。
今度は二番の移轉的
経費であります。これは合計いたしまして七百八十一億、全体の
経費総額に対する比率から申しますと、一一%であります。この内訳を申しますと、國債費が百三十六億、年金及び恩給が三十億、地方
財政費が六百十五億、以上合計いたしまして七百八十一億、すなわち全体の一一%。この移轉的
経費と申しますのは、皆さん御案内の
通り、國家が購買力を國家以外の團体に移轉するだけの
経費でありまして、
仕事をしないものであります。國債費について申しますと、國債に関する元金及び利子の償還費といたしまして、
政府が人民に金を出すだけ、そうしてただいわば國家の購買力を人民に移轉するだけのことをしかやらない
経費でありますので、これを移轉的
経費と言うのであります。これが全体の一一%。
それから三番目が補償費及び扶助費でありますが、合計いたしますと二千二百七十八億、全体に対する率は三二%。その内容は何かと申しますと、價格調製費が二千二十二億、社会及び労働施設費が二百五十六億、この二つを合計いたしまして二千二百七十八億。これが補助費及び扶助費で、全体に対するパーセンテージは三二%であります。そこで補助費及び扶助費でありますが、これは移轉的
経費に非常に似たものであります。すなわち國家が人民に対して購買力を移すという点は、移轉的
経費と同じでありますが、ただその使い方が社会政策とか、物價の引上げの停止というふうに使途が限定されているものであります。
以上終戰
関係費、移轉的
経費、補助費及び扶助費、この三つの
経費は國家という立場からいえば、もちろん必要な
経費でありますが、しかし
経済という観点から申しますと、きわめて消極的な
作用しか持
つておらない
経費でございますので、これを私は消極的
経費と名づけたいのであります。この消極的
経費、この三つのものを合計いたしますと、
日本の
一般会計の数字のうちの六二%が、
経済という立場から見れば、きわめて消極的な
作用しか持
つておらない
経費で占めているということは、注目すべきことだと思うのであります。
今度は四番目の
経済助長費。これは合計いたしますと、千六百七十三億、全体の二四%、これは
経済的発展のために使う
経費で、いわゆる資本的支出をも含むのであります。その内容を申しますと、産業
経済費が六百七十五億、公共
事業費が五百十九億、出資及び投
資金が四百十九億、
物資及び物價調整費の取扱費が六十億、以上合計いたしまして千六百七十三億、全体の二四%。これは国民
経済発展のために使う
経費であります。
それから
最後の五番目が
一般行政費。これはその他大勢でありまして、それ以外のものは全部入るのでありますが、実はこれはばかにならないのであります。その
一般行政費の合計は千十六億で、全体の一四%。その内訳を申しますと、行政費が三百八十億、地方及び警察費が百六十六億、教育文化費が三百四十七億、保健衛生費が六十六億、皇室費が四捨五入いたしまして一億、
國会費が十四億、裁判所の
経費が四十二億、以上合計いたしまして千十六億で一四%。これは國家が行政をする上において当然使わなくちやならぬ
経費であります。そこで
経済助長費と
一般行政費、これを合計いたしますと三八%でありますが、これは積極的な
経費と私は名づけたいと思うのであります。
そこで、以上
経費をいわば
経済という立場から分類したのでありますが、
昭和二十四
年度の
予算を
経済という立場から見ますと、消極的立場を持
つているものが六二%で、積極的
作用を持
つているものは、わずかに三八%と非常に少いのであります。これを昨
年度二十三
年度に比べますと、二十三
年度は消極的
経費が五四%、積極的
経費が四六%、それに比べますと、
経済という観点から申しますと、今度の
國家経費の配分は必ずしも望ましいものとは言えないのであります。
経費の問題はそれくらいにいたしまして、今度は歳入の問題に移ることといたします。歳入は租税、印紙收入、それから官業及び官有財産收入、これが大
部分を占めておりまして、両者合計いたしまして歳入総額の九一%を占めております。そこで租税や官業收入で國家の歳入の九割以上も占めておるということ、これは確かに健全
財政の姿でありまして、これは決して惡いこととは言えないのであります。
次にその内容であります。あらゆる歳入について檢討することはできませんので、ここではそのうち最も重要なる租税だけについて檢討してみたいと思います。私の申します租税というのは、租税に印紙收入を加えたものに専売局益金を加えたもの、すなわち廣い意味の租税であります。その租税の合計は、今申しました三つを合計いたしますと、六千三百五十六億。そこでこの六千三百五十六億という國税でありますが、これが数量という立場から見て、
日本の
國民経済に対してどういう影響があるだろうか、今度はその内容はどうか。数量と内容の問題にわけて検討してみたいと思います。
まず数量について問題といたします。まず六千三百五十六億というこの租税は、一体
國民経済という立場から見てどういう程度の重さを持
つているか。例によりまして租税を
國民所得で割るという割算が行われております。
これによ
つて計算いたしますと、二十四
年度は國税の
國民所得に対する割合は二一%であります。ところがこれ以外に地方税が――地方税と申しましても配付税を引いた地方独立税、地方直接税が千五百億ございます。これは
國民所得に対する五%で、國税、地方税を通算いたしますと、
昭和二十四
年度は
國民所得の二六%に当る税金をとるということにな
つておるのであります。ところが御注意願いたいことは、この二六%という数字は、少し大げさなものの言い方をいたしますと、明治、大正、
昭和を通じて最高率であります。これは少し大げさなようでありますが、決して大げさではございませんので、地方税、國税を通算いたしまして二六%という比率は、近代
日本の始まりまして以來高い税率であります。戰争中はもつと多か
つたろうという印象を受けますが、戰争中はそう多くなか
つた、
昭和十八
年度は、地方税、國税を通算いたしまして二〇%、十九
年度は一九%、戰争が終りまして、それから二十二
年度は一八%、二十三
年度は二〇%、そうして今度は二六%とな
つておるのであります。そこで二六%という数字が多いか少いか、これを
日本の過去または外國と比較することが普通行われております。それで外國の最近の例を見ますと、一九四八
年度のアメリカは國税、地方税を通算いたしまして二一%、去年の
日本の二〇%とほぼ同額で、アメリカの方がやや多いのです。英國は同じく一九四八年、地方税、國税を通算いたしまして三八%という高い比率を示しておるのであります。そこで問題はこの比率を基礎として、外國の比率なんかと比較して、
日本ではさらに増税に余力があるとかないとかいうことが問題になるのでありますが、一体この比率だけで増税余力があるとかないとか、議論することができるかというと、それは他の事情にして変化なき限りという註釈があるのでありまして、実は他の事情に変化がございますので、これだけを基礎といたしまして、
日本の税金が現在安いか高いかというようなことは言えないのであります。どういう事情かと申しますと、これは少し網羅的に申しますと、たとえば外國と
日本とを比較計算すべき場合に注意すべきことは、まず第一番に租税という概念、それから
國民所得という概念が國によ
つて違う、また同じ國でも時代によ
つて違うことであります。一例と申しますと、これは実は戰争中でありますが、
昭和十九
年度の租税の国民所得に対する比率計算をや
つてみた場合に、租税という言葉を廣い意味に解釈する場合もある、狭い意味に解釈する場合もある。それからまた
國民所得という言葉を廣くも解釈できるし、狭くも解釈できる。いろいろの解釈をいたしまして、いろいろの組合せをや
つてみたのです。そうしますと、
昭和十九
年度の
政府発表の
予算を基礎にして計算したもので、しかも租税の
國民所得に対する比率で、一番
日本の比率を軽いような計算をいたしますと一八%、相当重いというような印象を受ける計算をいたしますと三二%、この大きな違いが出て來るのでありまして、租税と
國民所得の概念が違いますために、手かげん次第でどうでもなるということに御注意願い、こういう比較計算をする場合に、できるだけ両者の概念を調整することが必要であります。それが
一つ。
その次に注意すべきことは、租税以外の強制的
経済負担があるかないか。具体的に申しますと戰争公債はないか、これは
日本では戰争中はあ
つたのでございますが、現在はありません。それから強制的寄付があるかないか。
日本におきましては御案内の
通り、地方
財政では強制的の寄付金が多いのであります。それから農家及び
工業家の強制供出制度、これも
國民の強制的
経済の負担でありまして、わが國ではかなり現在多いのであります。
その次に注意すべきことは、
國民の
経済力を示すものといたしまして、
國民財産すなわち國富、それから外國資源、現在わが
日本におきましては、外國資源といたしましては、アメリカの対
日援助資金千七百五十億があります。これは
日本の
経済としてはプラスであります。ところが國富は御案内の
通り、戰争で非常に減りまして、戦災とか賠償その他の
関係で、國富というからは、
日本では過去の蓄積は非常に減
つておりますから、租税の
國民所得に対するパーセンテージは高くなくても、國富という点を考慮しますと、あまり負担能力がないということであります。ただ外國の
援助があることはプラスになります。
それから次に注意すべきことは、比率がかりに同じでありましても、その國が貧乏な國の場合は負担能力が少く、金持の國の場合は多いのであります。これは累進税と同じことで、私に対して一割の税金がかかる場合と、一億円收入がある人に九割税金がかかるのと、どちらが苦しいかというと、私の方が苦しい。それと同じことが國際間にも言えるのであります。わが
日本は貧困でありますから、二六%でも、アメリカの場合とは非常に意味が違うと言えるのであります。
その次に租税の内容はどうか、租税の負担配分法はどうかということであります。これは後に申しますが、わが
日本では大衆課税が非常に多いのであります。
從つて租税負担、また大衆課税をやらざるを得ないような國情にな
つておるのであります。そのために
日本では租税の
國民所得に対する割合がそれほど重くなくとも、内容からいうと、
國民はかなり苦しんでおる。
從つて負担能力がないということであります。それから租税ということはできませんけれども、廣い意味で租税にあたるものは
インフレーシヨンで、
インフレーシヨンは惡税的な
作用があるのであります。そこでこれから
インフレーシヨンが治まるかどうかわかりませんが、とにかく現在まで
インフレーシヨンによ
つて、かなり惡税的富の再分配が行われておること、これもやはり
日本の
状態からい
つて望ましいことではないのであります。以上が廣い意味で租税に関連しての問題であります。
次にこの問題について研究すべきことに、租税としてと
つた金を
國家経費で使う場合、その
國家経費の内容であります。租税としてと
つた金を國家が
経済の発展とか、
國民経済の安定、その他にたくさん出してくれれば、多々ますます弁ずで、多い方がいいが、わが
日本の場合はどうか、さつきも申しましたように積極的
経費が割合に少い。この点も負担能力からいうと、あまり大であるとは言えないのであります。それからそれ以外に次に私が述べますようないろいろの事情が、やはり租税の負担のうちに影響いたします。それを具体的に言わないで結論だけ申しますと、
國民所得の分布
状態、それから
國民所得の構成はどうか、人口の構成はどうなるか、男が多いか、女が多いか、
経済の機構はどうか、農業國か商業國か、
生産力発展の
可能性があるかないか、
國民生活の様式はどうか、等々、こういうようなものが
租税負担能力の決定に
作用するものでありまして、以上のものを総合して観察しなければ、
國民所得に対する
租税負担能力ありやなしやをきめることはできないのであります。そこでこれを全部数字に直すことはできませんので、観と申しますわけのわからぬことをここにいたしますと、
日本ではもうこれ以上、増税の
可能性は少いものと
考えざるを得なくなるのであります。以上申しましたことは増税の数量の問題であります。
今度は
租税負担配分の問題であります。そこでこの租税の内容がどうかということになりますと、根本は租税制度の内容について、檢討しなければならないのでありますが、やはりこれも数字によ
つて示すことができませんので、普通行われております直接税、間接税の比率によ
つてこれを示したいと思います。この直接税、間接税の比率でありますが、これは大藏当局も発表されておりますが、私の申します直接税、間接税は
井藤の我流でありますので、これまた怪しいものであります。そこで
昭和二十四
年度の租税六千三百五十六億を、直接税と間接税にわけますとどうなるかというと、直接税は三千四百七十三億、全体の五四%、間接税すなわち消費税が二千八百八十三億、全体の四六%。すなわち直接税が五四%、間接税が四六%で、
昭和二十四
年度は直接税の方が多いのであります。これを過去の比率と比較してみますと――これも
井藤の計算でありますが、かりに直接税を一〇〇といたしました場合に、間接税は幾らになるかという計算をや
つてみました。そこで支那事変の始まる前年から計算いたしますと、
昭和十一
年度は直接税二〇〇に対しまして間接税は一四五で間接税が多か
つた。
昭和十二年が直接税一〇〇に対して間接税は一一二。ところが十三
年度になりますと、間接税は八〇に減
つております。それから
昭和十四年から二十一年まで、すなわち戰争中でありますが、
昭和二十一年まではどうかというと、間接税の割合が減りまして、直接税一〇〇に対して間接税は五〇ないし六〇の間を行き來しております。ところが二十二年になりますと、これがまた逆轉して参りまして、間接税がふえて、直接税の一〇〇に対し、間接税は一〇一にふえました。二十三
年度、去年はどうかと申しますと、直接税一〇〇に対して間接税は九七とな
つております。やや間接税が減りました。二十四
年度はどうかというと、今申しました計算に換算し直しますと、二十四
年度は直接税一〇〇に対して間接税が八三、こういうふうにな
つておるのであります。そこで二十四
年度は別といたしまして、終戰後のわが
日本の租税の傾向を見ますと、大衆課税といわれておる間接税が非常に多いのであります。なぜ多いか、これは租税
経済の基盤とな
つております
國民経済が後退したということ、それはやむを得ない事情によるものでありますが、しかしながら租税制度としては、不健全な姿であることは申すまでもないことであります。ところが二十四
年度はまた逆轉いたしまして、直接税の比率がふえました、そこを概観してみますと、これは確かに健全
財政に帰
つたようでありますが、それはそうは言えないので、この直接税の内容を檢討いたしますと、やはり大衆課税的要素が非常に多いのでありまして、直接税、間接税の比率が非常に好轉したからとい
つて、二十四
年度は楽観を許さないのであります。むしろ悲観すべきことじやないかと思うのであります。別の言葉でいいますと、二十四
年度におきまして直接税、間接税の比率により、租税制度のよしあしを判断するという
方法自体がどうかと思うのであります。それはどういう事情かと申しますと、直接税の中に大衆課税的なものが非常に多いということであります。それをもつと具体的に申しますと、まず富の平等化の傾向があるということであります。そのために從來上の方において重い税金を負担してお
つた者が減り、下の方においた者がふえた。それをさらに数字で申しますと、二十二
年度において
所得税を納めました者のうち、所得七万円以下の者がどれくらい占めておるかというと、全体の九〇%であります。二十二
年度と申しますと、一昨年から去年でありまして、一年の所得が七万円というのはそう金持ではありません。その七万円以下の者が
所得税納税人員の九割を占めておるということから申しましても、
所得税というものをいかに大衆が負担しておるかということがわかるのであります。またもつとほかの観点から申しますと、
所得税納税者の人員でありますが、
昭和十年ごろまでは大体百万人以下――百万人を超えたことはなか
つたのですが、
昭和二十年になりますと一千万人余りにふえております。そしてさらに去年の二十三
年度になりますと一千九百万人にな
つておるのでありまして、今
年度はさらにふえるのではないかと
考えられるのであります。かりに一千九百万人だといたしますと、これはもう大衆といわれておる中産階級以下の者が大
部分だということになるのであります。さらに他の角度から申しますと、
國民所得中勤労所得の占める割合がだんだんとふえて來た。それをパーセンテージで申しますと、
國民所得中勤労所得の占める割合は、
昭和二十二
年度は三二%であ
つたものが、昨年の二十三
年度には四一%に
なつた。そして二十四
年度はさらに四四%になる見込みであります。すなわち
國民所得における勤労所得の割合が、こういうふうに四四%に増大したということは、結局勤労階級が
所得税を多く負担するということになるのであります。それからもう
一つ重要なことは、今度これはいろいろの事情があ
つたと思いますが、
所得税の減税
計画を中止したということであります。シヨープ博士が來朝せられるまで減税
計画を中止したというのですが、これは口の上では減税を中止したと申しますけれども、現状維持の制度をとるということは、貨幣價値の下落している今日、実は増税になるのであります。そういう増税に
なつたからこういうふうに直接税の比率がふえたということになるのでありまして、これは從來のような意味で直接税がふえたからとい
つて楽観はできないと思うのであります。
最後に公債であります。今度の
一般会計に公債がないということ、これはいいことであります。これは石橋さん以來
一般会計に公債がないということにな
つておりますが――公債が出ればきつといけないという非難が出るのですけれども、ないということは決して惡いことではありません。けつこうなことであります。ですがこれ以外には公債があります。皆様御案内の
通り國有鉄道
特別会計には百五十億、通信
事業特別会計には百二十億、合計二百七十億の建設公債があります。これは建設公債と言
つておりますが、何とい
つても公債であります。それから復興金庫への交付公債が六百二十四億計上されております。これは國家のものですが、次に地方債であります。地方債は二百三十億ありますが、これは純粋の赤字公債的性質を持
つたものでありまして、地方
財政において公債が多いということは、現在の地方
財政の困難であることを物語
つておるものであります。
これで一應私の申し上げたいことは終
つたのでありますが、以上申し上げましたことをもつと簡單にまとめて申し上げますと、結局私の
考えは次のようになるのであります。
それは
政府が
予算全体について
收支の
均衡をはかるために勢力して、健全
財政方針をと
つたことは、大いに多とすべきことである、けつこうなことであると思います。ところがひるがえ
つてその内容はどうかというと、必ずしも楽観を許さない。きわめて消極的
経費が六二%を占めており、
経済開発のための
経済助長費はわずかに二四%、
一般行政費は一四%である。これでは必ずしも望しい姿であるとは言えないのであります。次に收入の方はどうかと申しますと、これはやむを得ない事情があるとは申しますものの、大衆課税が多いということであります。ことに
予算のヴオリユーム、
予算の総額の
國民所得に対する比率が非常に大でありますので、こういう
財政状態が
國民経済の上に及ぼす影響は、看過できないものがあると思うのであります。しかしながらこれは一方から申しますと、わが
日本の
経済の苦難の姿が、
財政面に反映したとも言えるのであります。
これをも
つて私の
公述を終ります。御静聴を感謝いたします。(拍手)