○平田(敬)
政府委員 昨日問題になりました
脱税額の問題につきまして、お答えいたしておきたいと
考えます。
八千億という大
脱税がある、これは毎日
新聞に載せられたところでございますが、二十二年以來の悪質
資本家が、大やみ会社の大口
脱税が八千億に上る、かような結論を國民、
所得と
課税所得との比較から勇敢にも出しておられるのでございますが、私ども檢討いたしたところによりますと、かような
方法によ
つてかかる額を悪質
資本家や大やみ会社の大口
脱税というように
推定いたしますることは、何ら科学的根拠がないという結論に到達しましたことを申し上げておきたいのでございます。その内容を若干御
説明申し上げたいと存じます。まず最初に申しますが、
國民所得と
課税所得との間に
相当の開きがありますことは、前から申しますように事実でおります。問題はこの開きが、今申しましたように大口
脱税であるかどうかということにかかるわけでございまして、大口
脱税をかくのごとき
方法によりまして
推定いたしますことは、非常に当を失しておるのではないか。率直に申しまして、前から申し上げておりますように、
相当なる
脱税のあることは事実であります。目下
大藏省におきましても國税
査察部を設けまして、極力この摘発に努力いたしております。その実績が先ほど申しましたように五十五億円という実績が上
つております。ただしかしながら今ここに申し上げましたように、單に
國民所得と
課税所得との比較から、八千億からの大口
脱税があるということは、なかなかそうは言い得ないのではないかと
考えるのでございます。その点をやや詳細に御
説明申し上げておきたいと思います。
まず
昭和二十二
年度の
國民所得額は一兆一千七百二億円ございます。それから
昭和二十三
年度の
國民所得は二兆四千六百十一億ございます。これに対しまして実際の
課税所得は、
昭和二十三
年度におきましては五千八百九億、二十三
年度におきましては一兆三千四百二十六億ございますので、この二箇年間における会計
年度の
國民所得と
課税所得との比較差引はまさに一兆七千億ほどあります、これは先ほどの八千億の
課税の際に一兆六千幾らという
数字を出しておられますが、この
数字とほとんど同様であります。この差はおそらく二十三
年度の
國民所得の見積りにおきまして、当初は二兆三千九百億という見積りを安定本部が発表しておりましたが、その後精査の結果若干増加いたしまして、二兆四千六百十一億とな
つております。その開きが若干ふえております。だから
あとの判断に大きな狂いはございませんが、一兆七千七十八億の差額がございますから、これからただちにこれは大口
脱税所得であるから、五〇%の税率を
課税いたして八十億の大口
脱税がある、こういうように断定を下されておられるように見受けるのであります。ところでかような
方法によりましてかかる
所得税を
計算することは、私としてはどうも感心しない
方法であると思います。かりにこういう
方法で
計算するといたしましても、非常な開きがございます。まず
所得税は御
承知の
通り、
勤労所得は大体会計
年度の
所得と一致いたしますが、
事業所得税の方は、
暦年で
課税することにな
つております。その
関係で
相当の開きが出て來るわけでございまして、
昭和二十二
年度におきましては一千六百七十四億、二十三
年度におきましては、一千四百四十一億、合せまして三千百十五億という実は本來
課税すべからざる
数字が、
脱税所得として
計算されるということに相なるかと思います。その次に
事業所得税の
計算にあたりましては、
経費を差引くことに相な
つております。この額が
昭和二十二
年度におきまして百四億円、
昭和二十三
年度におきまして二百五十四億円、合せまして、三百五十八億円という
数字がございます。これも少しよけいに見積られているのではないかと思います。それから失格者の
所得、これは実際のところなかなか正確な調査は困難でありますが、一應
計算いたしてみますと、少くとも二十二
年度におきましては三百四十九億、
昭和二十三
年度におきましては千二百二十五億、合せまして千五百七十四億程度は失格者の
所得ではないか、これよりも少くなることはあるまいと思います。それらを合せますと、五千四十七億円という
数字が、一兆七千億円の中に当然
課税すべからざる
所得として算入されております。それでなお一兆二千億ほど残ります。これはいろいろの点ではなかろうかと思いますが、このうち
勤労所得と
農業所得、これはおそらくだれが見ましても、かりにぬけているのがありまして、大口
脱税と見るわけには参らないと思いますが、この
勤労所得、
農業所得との間に関しまする
國民所得と
課税所得の開きが、二十二
年度におきましては千七百八十八億、二十三
年度におきましては四千三百四十二億、合せまして六千百三十億の開きが実はあるのでございます。これはぬけておるのかもしれない、あるいは
國民所得の
計算が適正でないかもしれませんが、とにかくこれだけの差がございます。この差が大口業者の
脱税と言うわけには参らないかと
考えるのであります。その他の
所得、営業なり法人とかの中に、あるいはそういう要素が入
つておるかもしれませんが、その額が
所得額で五千九百一億でございます。ただこの中におきましては中小商工業者の
所得が大分入
つております。現在の
課税状況から見て、ぬけておるのは大
所得者だけで、中小商工業はぬけていないという論理でつく
つておるようでありますが、なかなかそうばかりは言えないのではないかと思います。かりにこの
数字がある程度入
つているといたしましても、その
数字がただちにも
つて大口
脱税だとはなかなか言い切れないのではないかと
考えます。從いまして八千億を出されました根拠につきましては、どうも私ども納得行きかねるのでございまして、むしろそういうものは率直に申しまして、実際上軽々に
数字として出し得ないのではないかと思います。先ほど申しましたように、
課税した結果の実績によりますと、
査察部が調べました
数字が五十五億で、これは結果の
数字でありますから正確であろうと思いますが、こういう
数字をああまり根拠なくして言いますのはどうであろうかと
考えます。私どももそういうものにつきましては、軽率な
数字を申し上げることはこの際差控えておきたいと思います。むしろ一般の納税思想等にも、非常に悪影響を生じておる向きがあるようでありますから、この際
國民所得と
課税所得の差額でも
つて、大口
脱税の額を推計なさいます
方法は、ひとつ見合せていただくようにお願いいたしておきたいと
考えます。