○森國務
大臣 圖司さんにお答えいたします。問題が非常に大きいのでありまして、
日本の農業行政を
考えますときに、極限された國土において、限りなく
増加する人口をどうして包容いたして行くかという問題でありまして、これはひとり農林行政だけの問題ではなく、わが國政の上の最も重要な問題として取上げなければならぬと思うのであります。耕土は狭められ、人口は年々百六十万ずつも
増加して行く、この
増加して行く人口をどうして養
つて行くか。一部にはすでに産兒制限であるとか、あるいはいろいろな問題まで起
つて、まじめに論議されつつあるような今日、將来の問題をどういうように解決するか。しかも現段階におきましては、連合國から食糧を仰いで、ようやくにして生活をいたしておる。この
アメリカからの食糧輸入もいつこれ杜絶されるか、これもわれわれの
考え得ない問題でありまするから、かように
考えて來ますると、
日本の食糧問題は実に一日もゆるがせにできない大きい問題と
考えるのであります。
しからば現段階においてどういうことを
考えて行くかということになるのでありますが、さしあたりの問題として、まず外國からの食糧輸入をできるだけ早く断り、
日本再建の道を早める意味におきましても、この食料輸入をできるだけ少くして、自給自足の方面に持
つて行くということに
考えて行かなければならぬと思うのです。そうしますればここに
増産の方をどういうようにして行くか。消費面においても
増産面においても
考えなければならぬのでありまするが、消費面につきましては、いつかここでもどなたかにお答えいたしましたように、今まで
日本の國民はカロリーということにのみ重きを置いて生活してお
つたりで、米麦を主要食糧として
考えてお
つたのでありますが、不幸戰爭のためではありますが、いろいろの雜食、いわゆる粉食でありますとか、パン食でありますとかいうことを余儀なくされて、今日の食生活は戰前とはよほどかわ
つておるのであります。この変化いたしましたる食生活を今後持続せなければならない。いわゆる今までのような穀物主食という
考えよりも、総合的な食糧を
考えて行かなければならぬとともに、
日本は幸い水産國でありますから、この水産方面も取入れて、カロリーとさらに栄養の面において食生活を
考えて行くということを、國民は現在より將來に
考えて行かなければならぬと思うのであります。
さて
生産の面におきましては、御
承知の
通り戦争中土地が非常に荒廃いたしまして、地方は減退いたしております。現にはなはだしきに至りましては、硫酸アンモニアなどを施しましてもほんとうの力は出ないほどに土地が荒廃いたしておる。ことにまた酸性土壌がふえておるというような情勢でありますから、まず土質の改良を
考えて行かなければならぬと思います。この土質の改良には有畜農業を取入れ、あるいは手間肥の方面に行く。とにかく土質を改良して行くことをまずも
つて考えて行かなければならぬと思います。
次には耕地の拡張維持であります。既墾地に対しましてはその土質を改善いたしまして
生産力を高めるとともに、新しく土地を設けて行く。それは開墾干拓等でありまするが、この干拓につきましても海岸を干拓するものと沼を干拓するものとあります。これらの問題につきましては十分なる配慮を拂いまして、できるだけ耕地を廣めて行きたいという気持を持
つております。また開墾の方におきましても、國土の保安を妨げない
程度に開墾地をつくりまして、耕地の
増加を求めて行くということにせなければならぬと思うのであります。こういうことで耕地を廣げ、そうして土質を改良して行くのに、農業
生産者が農業
生産に対して相当に報いられるように
考えて行かなければなりません。いわゆる
生産物資と農産物との価格があまりにもかけ離れてお
つてはいけない。そうして樂しんで励みがいのある農業であらなければならないと思うのであります。
ただそういうことによ
つて、この
増加する人口をどう消化して行くかという問題でありますが、これはいかに今日の耕土の
生産力を倍加いたしましても、またあらゆる方法を講じましても、將來何年か後には必ず人口過剩という問題が起
つて来るのであります。どうしてもここでわれわれは
日本のみの自給自足をはかり得ない段階に到達すると思うのであります。そういう場合にはベルギーの例を引くのではありませんが、この
増加する人口を家庭工業、あるいは軽工業の方面に利用いたしまして、そうしてこの工業力によ
つて海外貿易を求めて、食糧を獲得するという方面に
考えを及ぼさなければならぬ。かように
考えておるのであります。
しからばさように
考えながら現
政府においては、この農業
生産に対する
予算をどれだけ見積
つたか。そういう重要な食糧事情であるにもかかわらず、農業
生産に対する
予算を一向に計上しないではないかというおしかりをこうむるかと思いますが、前に申しましたことは、
日本の食料事情についての農政の大綱を
お話申し上げましたので、その氣持でも
つて私は行きたいと
考えておるのであります。それで本年の
予算においてはこの氣持に対してできるだけとにかく
努力いたしたのでありますが、御存じの
通り、どうしてもあれ以上の
予算を獲得することができなか
つたのであります。しかし今後
予算が許され、あるいはその機会が與えられるならば、あくまでもこの線に沿うて、私はこの農林行政を実現して行きたいと、かように
考えるのであります。しかし干拓
計画にいたしましても、あるいは開墾の
計画にいたしましても、非常に厖大であります。厖大でありますし、このたつとい國土をも
つて計画を実行して行くのでありますから、できるだけ重点主義で、一日も早く耕地化されるところの方面に力を盡して行きたいと出
考えておるわけであります。