○本間俊一君
昭和二十一
年度の決算外数件につきまして、
委員会の経過並びに結果を御報告いたします。
昭和二十一
年度の決算、すなわち
予算の執行についてその概略を申し上げますと、
昭和二十一
年度の一般会計の歳入の決算額は千百八十八億九千九百万円、歳出のそれは千百五十二億七百万円でありまして、差引三十六億九千二百万円の剩余を生ずるわけであります。しかしながら、この剩余中には同
年度から
昭和二十二
年度に歳出
予算の繰越しがありまして、これが財源を留保いたしておく必要がありますので、その金額十九億五千五百万円を差引まして十七億三千六百万円が使用できる純剩余金であります。なおこの剩余中には
昭和二十
年度の剩余金使用残額が七千八百万円ほど含まれておりますので、これを控除いたしますと、本
年度に新規に生じた剩余金というのは十六億五千八百万円であります。
昭和二十一
年度決算額を
予算額に比較いたしますと、歳入の
予算額千百九十億八千七百万円に対して一億千八百万円の減少を示しておるのであります。また歳出の
予算額は、歳入
予算額と同じく千百九十億八千八百万円でありますが、
昭和二十
年度から本
年度に繰越しました二億六千九百万円を加えますと、歳出の
予算現額は千百九十三億五千六百万円となりまして、そのうち
支出済みとなりました金額は前申した
通り千百五十二億七百万円、
昭和二十二
年度に繰越した金額は十九億六千余万円でありますから、ま
つたく不用と
なつた金額は二十一億八千八百万円であります。操越額のうちおもなるものは、内務省所管の災害
対策費等の補助金一億二千万円、終戰処理費三億六千六百万円、特別住宅建設費六億五千二百万円、文部省所管の公立諸学校戰災その他復旧費等の補助金一億千二百万円、民生安定施設費二億七百万円、價格調整補給金二億九千九百万円等であります。これらの繰越しはやむを得ないものと認めて承認いたすこととな
つております。
なおこの際一言しておきたいと存ずるのでありますが、
予算の繰越制度につきましては、会計檢査院からも制度再檢討の要あることを指摘しておるのでありますが、繰越しのみならず、一般に
予算執行上の処理が遅延いたしまして、ひいては
政府支拂いが遅延して参
つておる現状から、本制度の再檢討はもちろん、その運営についても最も注意が拂われなければならないと存ずるのであります。
次に予備費でありますが、その第一予備金二億円、第二予備金四億七千万円合計六億七千万円でありまして、これを
支出したものは、第一予備金一億七千八百万円、第二予備金四億五千七百万円、合計六億三千六百万円でありまして、結局予備金の
支出残額は三千三百万円であります。なお
昭和二十一
年度におきましては、経済安定費と称する予備費が六十五億四千万円ありましたが、これが
支出されたものは六十五億千九百万円でありまして、その使用残額は二千万円余であります。これら予備費の
支出につきましては、第二予備金は第九十二回帝國議会に、第一予備金及び経済安定費は第二
國会にそれぞれ
提出して事後承諾を経ておりますので、ここには説明を省略いたします。
大藏省証券及び一時借入金の発行または借入れの最高限度額は三百十億一千万円でありましたが、実際に発した額は九百五十五億円でありました。また
昭和二十二年
法律第四十二号による一時措入金の限度は百億円でありましたが、実際借入れたのは七十億でありました。会計法第十一條による翌
年度にわた
つて契約のできる限度は五千万円のところ、実際には契約をなさなか
つたのであります。以上は一般会計の決算についての概要を説明したわけであります。
特別会計の決算につきましては、おのおのの決算書についてごらんを願うことにいたしまして説明を省略いたしたいと存じますが、
昭和二十一
年度の決算に掲げられた特別会計数は二十五でありまして、その歳入歳出の決算総額は、おのおの歳入決算額千九百七億七千八百万円、歳出決算額千七百八十二億五百万円であります。しかして、これを前記の一般会計のそれと合計いたしますと、歳入総額三千九十六億七千七百万円、歳出総額二千九百三十四億千二百万円となるのであります。しかしながら、以上の
計算のうちに
相当多額な重複勘定がありますので、これを控除して、いわゆる純計額を
計算いたしますと、歳入総額千六百二十四億七百万円、歳出総額千五百三十五億三千九百万円となるわけであります。しかして、これをただちに財政
支出なりと速断し得ないのはもちろんでありますが、大体の傾向はこれによ
つて推知し得るのでありまして、これを同
年度の
國民所得三千八百六十九億円から判断いたしますれば、
國民負担の
相当の重荷であ
つたことがわかるのであります。
以上が
昭和二十一
年度の決算の大綱であります。しかして、これを審査いたしますのに最も注意を要することは、当時の財政事情あるいは社会情勢とい
つたような客観情勢をよく認識してこれをなさねばならないと存ずるのであります。もししからずして、單に
予算の使用が
法律に
違反しておるとか、
予算の
目的通り使用されないとい
つたような個々の問題を摘発いたしましても、それでは皮相の観察たるを免れず、
國会としての決算の審査に万全を期し得ないと存ずるのであります。
從つて委員会といたしましては、
法令上の非違不当を摘発して
政府当局の猛省を促さんとしたのみならず、さらに突つ込んで審議研究を重ね、いかなる情勢下にあ
つて予算の執行がなされ、決算上の非違不当がかくのごどく多く現われるに至
つたかというような点にまで審査を突つ込んで参
つたのであります。
まず、当時の情勢でありますが、
昭和二十一
年度は、御存じの
通りあの長期にわたる大戰争が悲惨なる終熄を告げて未だ八箇月しか経過しておらなか
つたときから始ま
つておるのであります。
昭和二十一
年度は、わが國といたしましては、近代的産業國家として成立以來生産力の最も低下いたした年でありまして、今日の生産力と比較して約三分の一まで低下いたしたのであります。また敗戰という、わが歴史あ
つて以來未だか
つて経驗しなか
つた打撃によ
つて、
國民生活は
精神的にも物質的にも最も貧困を示した年であります。当時三月危機、五月危機と常に
國民生活の危機が繰返され、食糧不足から來る社会不安、思想的動揺とい
つた状態は各位のよく御存じの
通りであります。
かくのごとき中にあ
つて、財政はといえば、
昭和七
年度以來累年続け來
つた赤字財政は遂に支え切れず、まさに財政崩壞の危機に直面してお
つたのであります。すなわち、これを具体的に申し上げれば、
昭和二十年十月にできた幣原
内閣は、
昭和二十一
年度が開始されるのに、もちろんその間総
選挙もあ
つたのでありますが、
予算の編成にも手がつき得なか
つたという事実は、これを最も明瞭にしておるのであります。これは日華事変から太平洋戰争に要したところのあの巨大な戰費の跡始末、またこの戰費に引続いて、これにかわ
つて現われた終戰処理費等とい
つた巨額の
経費を必要とする財政需要があるにかかわらず、旧來の昏迷した思想にとらわれて思い切
つた財政
整理ができず、さらばとい
つて、また
國民生活の貧困の状態から過大な増税もできなか
つたのであります。またかくのごとき状態は、胎動しつつあ
つたインフレ的様相が逐次露呈しつつあ
つて、ここにもまた物價不安、ひいてはこの面からも
國民経済
生活の動揺をはらんで参
つておるのであります。
かくのごとく、
昭和二十一
年度という年、なかんずく
年度初めは、社会状態も財政事情も、今日から振り返
つてみましても、まさに崩壞前夜の感じがいたすのであります。
昭和二十一
年度予算は
年度開始前成立いたさなか
つたのでありまして、旧
憲法第七十一條の
規定によりまして、当然前
年度の
予算をそのまま
施行いたすこととなるのであります。しかしながら、
昭和二十
年度の
予算は戰争を遂行することを前提としてのものであります。情勢のま
つたく一変した
昭和二十一
年度において、これをそのまま
施行できないのは当然の話であります。從いまして、
政府は形式的にはこの
施行予算を
実施したのであるが、実質的には四、五、六月分の暫定
予算を編成して、
施行予算でまかない得ないものは予備金を
支出し、また緊急財政処分をなしたのであります。また本來の一箇年分の
予算の編成が間に合わないので、さしあたりの
措置として、急を要するものに限
つて追加
予算を
提出して、当面の急をしのいだのであります。一方
選挙の結果によりまして、五月には第一次
吉田内閣が成立して、これからいよいよ本格的に一箇年分の
予算を編成することと
なつたのであります。かくして、ようやく七月初めに一般会計の改定本
予算、八月初めに特別会計の改定本
予算をそれぞれ
國会に
提出したのであります。この改定本
予算には、その前に
支出されたところの予備金及び緊急財政処分の
経費が含まれておるのでありまして、
予算としての全貌がようやく判明して参
つたのであります。
しかしながら、当時の情勢は実に変轉きわまりなく、その後情勢の推移に應じ数度にわた
つて追加
予算を
提出してでき上
つたのが
昭和二十一
年度の
予算でありまして、それが前に申したごとき客観情勢の中にあ
つて実行されたのであります。しかして、この決算は
予算の
時代から幾多の特色が存するのでありますが、これを大観いたしまして、終戰処理費、國債費、同胞引揚費、恩給及び年金とい
つたような、要すれば戰争中の跡始末の
経費が全体の約六〇%も占めているのでありまして、直接國家の再建に使用し得る
経費としては、わずかに二八%しかなか
つたのであります。從いまして、この
予算が前に申した
通り実行されましても、遺憾ながら未だも
つて國家再建の基礎をなすに十分であ
つたとは申し得ないと存ずるのであります。しかしながら、この
予算実行が前申した各種の不安動揺から來る混乱、崩壞を未然に防止し得たということ、及び曲りなりにも治安を維持し得たということは、連合軍、わけてもアメリカの援助と相ま
つて、
相当重く評價せらるべきものであろうと信ずるのであります。もし万一にも
昭和二十一
年度の
予算の執行を誤り、今日の
國民経済に対し圧倒的重要性を持つ財政に破綻を來したならば、それこそ、かの第一次大戰後のドイツのインフレーシヨンを再現せしめたであろうことは、容易に想像し得るのであります。もしかくのごとき結果となるならば、
國民生活、いな、わが國再建途上に少くとも数箇年の空白
時代が生ずることとなるわけでありまして、今日思いましても戰慄の感なきを得ないのであります。
私は、
昭和二十一
年度の決算を審査いたしまして、
予算が適正に執行されたと信じないのであります。
なかんずく多くの非違、不当が存することは、これは以上のごとき客観的情勢の中にあ
つて、
予算の衝に当る多くの
官吏もまた思想的昏迷に陥り、吏道の頽廃から來るところの要素が少くなか
つたと存ずるのであります。これらの点につきましては、はなはだ遺憾に存ずるのであります。しかしながら、以上のごとき客観的情勢下にあ
つては、
昭和二十一
年度の
予算の執行は、不満の点が多々あるのでありますが、まずまずその大道は曲りなりにも歩んで参
つたと信ずるのであります。
委員と当局との間には熱心な
質疑應答が繰返されましたが、これは
議事録に讓ることといたします。討論に入り、共産党の井之口君から、さらに審議を継続すべしとの意見が開陳されましたが、採決の結果、多数をも
つて民主自由党の川端佳夫君の動議の
通り、違法、不当並びに
措置当を得ないもの計百六十四件を除き他は異議なきものと議決いたした次第であります。
ここに一言申し上げて各位の御関心を煩わしたいことがあります。それは決算の取扱いに関してであります。旧
憲法下において、決算は單に議会に
提出さえすればよか
つたのでありまして、その承認を経る必要はなか
つたのであります。新
憲法による
國会の地位にかんがみ、かかる旧
憲法下の取扱いは変更さるべきであるとの論議がありまして、未決定のままにな
つておりますが、これは近く
國会において確定さるべき問題であることを申し添えておきたいと存ずるのであります。
次に
國有財産総
類別表並びに
昭和二十二
年度國有財産増減及び現在額総
計算書、
昭和二十二
年度國有財産無償貸付状況総
計算書の三件につきまして、きわめて簡單に御報告申し上げます。
まず
國有財産法第四十
五條の
規定による
國有財産総
類別表は、
昭和二十三年
法律第七十三号の新
國有財産法が昨二十三年七月一日から
実施になりました結果、
國有財産を新しい分類及び種類に
從つて類別したものでありまして、同法第四十
五條の
規定により
國会の議決を必要とするので、本月十四日、本院に
提出されたものであります。
決算
委員会におきましては、愼重に審議をいたしました結果、多数をも
つて承認すべきものと決定いたした次第であります。
次に
昭和二十二
年度國有財産増減及び現在額総
計算書について御報告申し上げます。
まず増減について申しますと、
昭和二十二
年度に増加いたしました
國有財産の総額は、一般会計において九十一億六千九百余万円、特別会計において四百五億七千七百余万円、合計四百九十七億四千七百余万円とな
つておりまして、減少いたしました方は、一般会計において百三十九億八千余万円、特別会計において八十一億三千五百万円、合計二百二十一億千六百余万円でありまして、この増減差引きの結果は、両会計を通じまして二百七十六億三千百余万円の増加と相なります。次に現在額について申し上げますと、
年度末における
國有財産の総額は、合計いたしまして七百億四千余万円であります。
本件につきましても、それぞれ
政府当局から説明を聽取いたしまして愼重審議の結果、多数をも
つて是認すべきものと決定いたした次第であります。
最後に、
昭和二十二
年度國有財産無償貸付状況総
計算書について御報告いたします。
本件は、昨年七月一日から
施行されました新しい
國有財産法の第三十七條の
規定により、今回初めて報告として
提出されましたもので、二十二年において増加または減少した無償貸付
國有財産及び同
年度末現在無償貸付
國有財産数量、價格を所管の官廳別、財産の区分別に記載してあるのであります。
本
委員会においては、これまた
政府当局から説明を聽取いたしまして、採決の結果、多数をも
つて是認いたすことに決定いたした次第であります。
以上御報告申し上げます。(
拍手)