○風早八十二君 私は、
日本共産党を代表して本法案には絶対に
反対し、かつそのすみやかなる撤廃を
政府に要求するものであります。その
理由とするところは、大よそ次の
通りであります。
第一に、
政府が本法案を
提出いたしました
趣旨は、
産業設備営團法第三十九條に規定しておる損失補償契約を履行するにあるのでありますが、営團法の任務は、その第一條にも明らかでありますように、徹頭徹尾戰爭
目的でありまして、
從つて終戰となり、
ポツダム宣言の無條件受諾となりまして、新しく発足した戰後の
日本の
國民経済のもとにおきましては、これは実質上その存在
理由を失
つておりまして、ま
つたく有害無益なる存在とな
つておるのであります。このことは、軍需補償打切りの大原則がはつきりと立てられたことによりまして、すでに明白でありますが、現に
産業設備営團そのものが、すでに二十一年十二月末には閉鎖にな
つている。このことによりまして、明らかに証明せられておる次第であります。
從つて、
政府が損失補償をなすべきかいなかは、事情のま
つたく変更した今日の事情に照して、
國会の承認を得て、われわれの独自の判断において決定せらるべきものであります。
しかるに
政府は、本法案を
提出するにあたりまして、立法
理由をもはや完全に喪失しております
産業設備営團法をあらかじめ適用して、すでに契約期限の滿了しておりますこの補償をあえてなさんとすることは、打切りの
精神に根本的に反しておるのみならず、これは法理論上から申しましても、事情変更の原則にま
つたく反している。刑法でいえば、擬律錯誤の誤りをあえて犯しておるのであります。
政府は、金融
機関再建整備法を援用してこの法案の
理由といたそうとしておりますが、しかしながら、御承知のように、
再建整備法は徹頭徹尾軍需補償の打切りの大原則に從属した
法律でありまして、この
再建整備法を濫用して、あえて大原則を無視するということは、ひいては
ポツダム宣言に対するまつこうからの違反であると断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
第二に、大体閉鎖
機関たるこの営團の特殊清算事務上におきまして幾多の疑問の点が存するのであります。
政府は、本営團が二十一年十二月末に閉鎖
機関に指定せられて後、二十二年度、二十三年度の業務上の損失を補償すると申しておりますが、清算事務は、建設工場の賣却であるとか、あるいは持
つてお
つた艦船の賣却であるとか、これを
内容といたしておるのでありまして、そこに適当な
價格をも
つていたしますれば、收益こそあがれ、損失があるということは、とうてい考えられない。われわれは、
政府の側からたびたびこの点について詳細な
答弁を求めたのでありますが、遺憾ながら遂に納得が行くことができなか
つたのであります。
政府は、これらの物件を賣却するに際しまして、常に帳簿
價格もしくはそれ以下で賣
つておる。これは妥当ならざる評價基準と称せざるを得ないのであります。清算事務にあた
つて、必ずしも高い値段で賣
つて、もうけなくてはならぬということはない。さりとて、わざわざ損をして國庫の負担を背負い、行く行くは
國民にその犠牲を背負わせるということは、はなはだ妥当を欠く
処置であると考えるのであります。
この問題に関連いたしまして、さらにこの法案の規定しております補償債務の弁済基準にも、はなはだ妥当を欠くものがあるのであります。営團に対する一般債権者は、特に大手筋の銀行であります。あるいは千代田銀行、第一銀行、三菱重工業、こうい
つた大手筋の銀行並びに巨大な企業でありまして、これに反して、社債権者は主として中小の銀行、また大藏の預金部であります。しかるにこの法案は、一般債務の弁済に対しては一〇〇%をやり、社債についてはわずか一一%をやる。このことは、閉鎖
機関令の第十一條の、いわゆる閉鎖
機関の債務の弁済については、特に預金者等小額の債権者の利益を考慮し、かつ債権者間の衡平を害しないように留意しなければならぬ、この規定にまつこうから違反しておるのであります。
第三に、さらに本法案がかりに実施せられた場合の実質上の結果をわれわれは問題にしなくてはならない。これはきわめて少数の銀行
資本家並びに三菱
資本のみを不均衡に利益せしめるのでありまして、一般の産業
資本家そのものに少しも利益にならない。ここに問題があるのであります。すなわち、この設備営團の債務は、八割までは資金統合銀行、
日本興業銀行、千代田銀行並びに第一銀行の四行に対するものでありまして、三菱電工業に対する債務一億円を加えるならば、ほとんど全部がこの一般債務を占めておるのであります。こういう銀行にいくら救済をいたしましても、これによ
つて一般の産業
資本家は少しも利益しない。これは、私は皆さんにお聞きしたいのです。皆さんの中にも堂々たる産業
資本家がおありになる。少くもその代弁者はたくさんおありになる。しかしながら、皆さんの中で、この十一億円の補償によ
つて利益を受けられる方が一人でもおありになるか、私は、はなはだこれを疑わざるを得ないのであります。
この点におきまして、
政府の
答弁によれば、それは金融
機関を補償するならば、結局は産業
資本家にその利益が均霑するのだというお話であります。しかし、これは現在の
政府並びに巨大な
独占資本がと
つておりますところの、いわゆる集中
生産の方式をま
つたくしいておるものでありまして、今日集中
生産によりまして、いかに金融
機関に金が集まろうとも、その金は決してまじめな大産業
資本家にすらも行きはしない。これは限られた独占財閥系の一部の大企業に行くだけであります。お互いにこの点は、しみじみと今日この苦労を味わ
つておる。私は、この意味におきまして、この法案は先ほど社会党の川島
委員が申されたと同樣でありまして、ま
つたく一部の金融
資本家を救済する露骨なる反動的な法案であるといわざるを得ないのであります。(
拍手)
第四に、本法案がこのような不当な補償債務の決済をなすにあたりまして
——これは最も大事な点でありますが、交付公債を発行しようといたしております。この法案の
提案の
理由書には、補償契約の期限経過後において生じた業務上の損失をこの際補償することとする、ということを申し述べておりますが、これだけが
理由である。結局何も
理由はない、無
理由書なのでありまして、この無
理由書におきまして、た
つた一つ意味深長である言葉は、今申しました「この際」ということです。一体「この際」とは何であるか。「この際」というのは、私が大藏
委員会で
政府委員から承りました
説明によりまして判断いたしますと、これはまさに経済九原則が出て、そうして二十四年度の
予算案が上程されんとして上程されざるこの際、上程されるがごとくにして上程されざるこの際でありまして、言いかえれば、経済九原則並びに内示によりまして公債発行は認めない、この大原則が今出ようとしてまだ出ないこの際だ、これが出たならばたいへんだ、これが出たならば、たいへん事はめんどうになる、今のうちだ、この際火事どろ的にわれわれはこの法案を通しておこうというのが、本法案の
趣旨なのであります。(
拍手)
最後に重要なことは、この交付公債の十一億の発行によりまして生ずべき
政府負担の財源が
一つもないということです。実に無
責任きわまる話なんです。
政府委員は、しばらく耳打ちをされました後に、これは本年度の
予算でも
つてまかなうのだと言われた。本年度とは二十三年度のことであるか、もしくは二十四年度のことであるか、私は重ねて尋ねたのでありますが、これに対して、結局二十四年度の
予算と言われる。これは驚くべきことであります。まだ出ておらない二十四年度の
予算案におきまして、この十一億円の交付公債の全員担がかか
つて來ておる。今これを決定しておいて、結局いやおうなしにこの
予算案に織り込んで行こうという
意図が、はつきりとここに暴露せられておるのであります。
私は、この法案に書いてあります
通り、利率五分五厘をも
つて掛けてみますと、六千二百五十万円になる。六千二百五十万円といえば何でもないじやないか、そういえば、それまでであります。しかしながら、今日わずか三万円、わずか五万円の税金のために、首をくく
つて死んでいる中小業者がたくさんあるではないか。(
拍手)また、一家心中をしているような業者の人たちも、たくさんあるではないか。われわれは、日常これを目撃しておる。こういう状態におきまして、いやが上にも太りに太
つているところの巨大銀行
資本のみに六千二百五十万円を與えるという、その
理由がどこにあるでありましようか。
しかしながら、交付公債の発行は單に利子負担だけの問題ではありません。交付公債は、日銀の引受によ
つて直接通貨を出す場合におきましても、またこれを引当にして日銀から新たな借入金を行う場合におきましても、いずれにしても、それはインフレ
政策であることには、かわりはない。今日それでなくても、物價の騰貴、勤労大衆の
生活の困窮はほとんど目に余るものがあるのでありまして、こういう状態に対して、今経済九原則をわれわれがいかに活用して行くか、経済九原則の中心的な要請は、言うまでもなく総合
予算の均衡であり、インフレーシヨンの克服であります。この大原則に対して、われわれはもつと眞劍に当らなくてはならないと思う。この際におきまして、この経済九原則を彼ら一部の巨大な銀行
資本の利益にのみ奉仕させようとするのが、今日の
政府のこの法案に現われたる
意図であるということは、もはや何人も疑うことはできないのであります。(
拍手)
私は、いやしくも
國民の負託を受けた
責任ある
國会議員でありまして、決して
反対せんがために
反対しているものではない。
國民の代表として納得の行く
理由さえあれば十分に賛成し、かつその実現のためにあらゆる努力を惜しまない。私は、大藏
委員会における日常の
活動において、これを十分に証明しております。また、昨日のあの商工
委員会の石炭配給公團の問題についてのわが党の
態度においても、はつきり現われておる。その他の
委員会におきましても同樣であることは、十分に御承知の
通りであります。
皆さん、この際この火事どろ的な交付公債によりまして、産業
資本家に一文の得にもならないし、ましてや
國民の税金負担をますます重くすることによりまして、きわめて少数の財閥、大
資本家にのみ奉仕しようとするこの法案に対して
反対を唱えるのは、決してわが
日本共産党だけではないと考えるのであります。
共産党が言い出したから、どんなに
國民の利益になることであ
つても、やはりこれには
反対するという、そういうけちな根性はやめていただきたいのであります。労農党、社会党はもとより、國協党、
民主党、
民自党の各位におかれましても、
國民の代表として、眞劍に
ポツダム宣言、
極東委員会の諸決定並びに経済九原則を守
つていただきたい。そうして、これらの大原則に即して私の
反対討議に御賛成あらんことを皆樣方に切望してやまない次第であります。(
拍手)