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田中参議院文部委員長 本
法案は
参議院文部委員会のほとんど全員の
共同発議に
なつております。その
提出の趣旨は、
日本が
將來文化國家として発足して行く上におきまして、
世界文化の長所を取入れますと同時に、わが國の千数百年來の
文化の
価値を自覚、意識いたし、そうしてその
価値を十分認識いたしまして、これを精神的のかてとして、強化するとともに、それを
保存し十分利用するということは、これはユネスコの精神なり、あるいは
國際社会の理想にも合致するわけであります。また同時に
外國の
観光客等に
日本の
価値を理解せしめるのにも、大いに役に立つことを存じます。なお
文化財を適当に
保存する、また
管理するということは、これまたネツクスト・ゼネレーシヨンに対するわれわれの
義務であるという信念に基きまして、
文化財保護法案を立案し始めたのでございます。ことにわが國の
現状におきましては、
文化財の
保存はきわめて遺憾な点が多々あるのであります。まず
國宝保存法は、二十年の期間をすでに経過しております。それで不備であ
つて種々の点において
改正の必要があるわけであります。また
國宝関係の
行政機関がきわめて多岐複雑に
なつておりまして、現在文部省なり、あるいは
博物館、
國宝保存委員会等にわかれておりまして、
責任の所在が明らかでないので、これを單純化する必要があります。また現在の機構におきましては、とかく
行政が官僚化するおそれがあります。さような
意味におきまして、
國宝なり
文化財保存の
行政に
自主性を與え、そうして
國権の
干渉からできるだけ守るというようなふうに行くのが教育なり、あるいはほかの
文化的の
制度の行き方でもある、さような方向にこの
國宝なりその他の
文化財の
保存も持
つて行きたいというふうに考えた次第でございます。
なお、現在の
國宝の
荒廃状態は、一刻も放置することを許さないものがございます。特に去る一月二十六日の
法隆寺金堂の火災のごときは、
從來のいろいろな
意味の
欠陷を暴露したものと申していいのでございます。また
國宝が海外に流出するというような懸念も、今後の
経済状態の変動によりましては相当ありはしないかと考えられます。さような点からいたしまして、
文部委員会の多数の者は、かような
法案の起草にとりかか
つておる次第でございます。
本
法案の特色を
簡單に申し上げますと、第一に、
國民の持
つておりまする
文化的遺産を
保存するとともに、それを
公開することによりまして、
文化的遺産と民衆との接触をはかることを努めたこと、第二に、特に考慮いたしましたのは、
私有財産つまり所有者の
財産権を尊重し、それと同時に
國家全体の利益、すなわち公共の
福祉等の調和をはかつたという点でございます。このことは第四條の第二項が宣明しておるのでございます。
本法の
適用範囲といたしましては、ただ單に
有形の
文化財及び
建造物、絵画、
彫刻等以外に、なお
無形の
文化財すなわち演劇、娯楽、
工藝技術、その他の
無形の
文化財もその中に含まれておるのであります。たとえば文楽であるとか雅楽であるとかいうものは、
保存し奨励しなければ、だんだん衰頽して行くおそれがありますから、さようなものもこの
法案の中に盛り込んでおる次第であります。
次に本
法案の全貌をごく
簡單に申し上げます。まず運営の主体は
文化財保護委員会でございます。これは
文部大臣の所轄に属しておりますけれども、しかし独立して職権を行うことに
なつております。つまり
文部大臣の
干渉を受けないというわけでございます。
委員の数は五人でございまして、これは廣い
文化的識見を有する者で、
両院の
同意を得て
文部大臣が任命することに
なつております。しかし
両院の
同意を得て任命する前には、やはり各
方面の意見を十分聽取して、民主主義的にこのお膳立てをしなければならないことは当然でございます。この
委員会に付属しておりますところの
機関といたしましては、
國立博物館や
研究所がございまして、
從來の
國立博物館なり
研究所はこの
委員会の傘下に属するわけでございます。なお事務的の
機関として
事務局が置れております。
ところでこの
委員会の
委員の数はきわめて少いのでございます。これが動くためには
委員会に
諮問機関を設置する必要があるのでありまして、この
諮問機関として
專門審議会が設けられるのであります。これは各專門々々の
方面によ
つてたくさん部が置かれるのであります。この各部におきましてほんとうにその道のエキスパートが
國宝並びに
文化財一般につきまして、
保存または
管理及び利用に当ることになるのでございます。
保護せられます
文化財は
現行國宝及び
重要美術品の限度とは多少違
つておるのでございまして、まず
有形無形の二つにわけます。
有形の
文化財のうちで特に重要であり、
世界文化的に
価値の高いもので、類のない国民の宝として
國家が特別に
保護する必要のあるものを
國宝といたしました。現在
國宝の数は相当多数に上
つておりまして、たしか七千くらいあるということを聞きましたが、さような多数の中に今度の新しい
制度によりまして
國宝として指定せられるものはあるいはもつと減じはしないかと思われます。
それから
保護、
公開の
規定としては、あまり細目にわたりますので、
法律案ごらん願いたいと思いますが、
簡單に申し上げますと、法人の場合の
管理責任者を定めましたこと、あるいは
所有者、
管理責任者の
変更の場合の
規定を設けたこと、輸出の制限、
現状変更の場合等の
條件をきめましたこと、また
公開につきましては期日を
限つて出陳あるいは
公開の
勧告をする。その場合には
給與金の支給をするというようなことがきめられております。それから
有形の
文化財を賣却いたします場合においては、ほかに賣
つてしまうよろも國が相当の価格で買うことが、
國家的に適当であると思われるときもございますから、まず國に対する賣渡しの
申出をなすべきことに
規定せられております。また
委員会は
管理または
修理に関する命令または
勧告をなし得ることに
なつております。
特に今までの
國法保存法その他におきまして考えられていないものは環境の保全という問題でございまして、たとえば奈良だとか京都だとかの市中に
りつぱな國宝建造物がありまして、その近所には民家が櫛比しておる。一旦火災が起つた場合においては、その
國宝建造物は類焼の危險にさらされておるというようなわけで、その環境を整備して
國宝を
保存する必要も場合によ
つてはあるのであります。またたとえば桂離宮のような、ああいうりつぱな庭園の周囲に俗悪な工場等ができることも好ましくないのでありますから、さような点につきましても、制限的の
規定を設け得るようにしたわけであります。もちろんこのような場合におきましては、一般原則に從いまして
國家の補償がなされなければならないことほ当然でございます。
大体内容はこの
程度にとどめておきまして、立法の経過といたしましては、文部小
委員会あるいは昨日行われました本院の
文部委員会との打合会、それらを含めまして会合十七囘、案を改めること六囘に及んでいるわけでございます。その間に現地に出張いたしまして、いろいろ研究もいたしたような次第でございます。何とぞ慎重に御審議をお願いして御
賛成あらんことを切望する次第でございます。