○
渡部委員 この
教育職員免許法案というものの趣旨は、將來の
民主主義日本にと
つて必要な、またそれにふさわしい
教育職員をつくり出すということに関係してつくられた
法案だと私たちは考えておるものです。そのためには、言うまでもなく
教育職員の学術的な
質的向上や、
自主性を助長するようなものとして
法案の中に現われなければならないと思います。ところがこの
法案の
内容をよく読んでみますと、こういう見地から見てきわめて不十分であるというだけではなく、まつたくこれに逆行している
條項が非常に多いということを申し上げなければならぬと思います。たとえば第四條の第六項におきましては、これは
教員となるための
教員の
科目でありますが、この点から見ると、職業的な、あるいは実習的な
科目は非常に偏重しておるけれども、しかしながら他の
科学の点では、たとえば
社会科とか
理科とかいうように、一括的に一般的に出されてお
つて、
從つて社会科の場合には哲学とか
経済とか、そういつた
專門的な
教育が施されないようにな
つておる。こういう点では非常に
学術水準を下げるものであるし、また
理科というような一般的な教師をつくるようにな
つておるけれども、これも生物とか物理とか化学とかいうような
專門的な
研究がなされない結果、やはり
学術水準を非常に低める結果になるおそれがあるわけです。なおそればかりでなくて、確かにそうなるに違いないと考えられる点があるわけです。こういうふうな点から
言つて、この
教育職員免許法案は、
教員の
学術水準を非常に下げる憂いが十分にあるという点から、
反対しなければならぬと思います。
それから
教育職員の
自主性に逆行し、あるいは自由を抑圧する
條項としましては、今
松本君からも述べられましたが、私は若干の補足をしながらこれを述べてみたいと思います。
第一に、第
五條第一項の四号及び六号であります。第四号は、
禁錮以上の刑に処せられた者、これは
教員の
免許状を受けることができないということにな
つておりますが、これは單に
法律技術の上から見ましても、單に
禁錮以上と称しておるのであ
つて、刑の軽重の度合いというものが現わされてない。この点で
法律技術的な面から見ても非常に不備であるのみならず、政治犯というような問題が起きますと、これは必ずどのようなものであ
つても、
禁錮以上の刑に処せられるのが從来の例であります。從
つて政治犯人は
教員の
免許状を與えられない結果になる憂いがあるわけです。そういう点でこの
條項はまつたく
反対されなければなりません。
第二には、第
五條第六号、これは
松本君からも述べられましたが、
日本國憲法施行の日以後において、日本國憲法またはそのもとに成立した
政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、またはこれに加入したる者に対しては、
免許状を與えないということにな
つておりますが、これは憲法が保障しておるところの思想や、新党支持や、結社の自由に対する憲法の保障を奪
つており、これを破壊する結果になるという点を、まず私たちは強調しなければならぬと思います。同時にこの解釈は、
松本君の言われたようにあいまいきわまるものであるということ、さらにつけ加えなければならぬのは、関係方面でさえも、このような項目を設けることは、あまりに自由を制限することになりはしないかというような参考
意見を述べて——私は関係方面でさえもと強調するのでありますが、このような参考
意見を述べられているのに、しかもこういう項目を挿入しておるということは、われわれとしては根本的に
反対しなければなりません。現に思想上や政治活動を口実に、
教員の馘首や解雇が盛んに行われておる例があります。また秋田師範のようにやはり政治活動とか思想問題に関連する口実のもとに
免許状を與えないところもあります。このような第六項目がもしこの
法案に盛られることがあるならば、現にこのような不当ななされ方をしておるところのあらゆる現象を合法化することになるわけであります。こういう現象を合法化するならば、
教員に対して再び治安
維持法ができたのだということを、私たちは強調しなければならぬと思います。のみならず現在行われている思想上政治上に関するいろいろな動きに対しては、單に一地方においてそういう事実が起
つているだけではなくて、文部次官のいわゆる学生運動に関する通牒の精神にも現われておるが、この
法案はこの通牒の精神を合法化する結果になるのであ
つて、この点もわれわれは断固として
反対しなければならぬと思うのであります。
それから第十
一條でありますが、これは情状の認識に関して具体的な
基準というものが何ら
規定されていない。從
つて松本君も指摘したように
免許状を與える権利を持
つておる人が、か
つてな裁量によ
つて免許状を與えるかどうかを決定する結果になる。もちろん十
二條においてそういう処分を受けた人は何らかの弁明または保護を獲得するような
條項はあるが、実際問題としては、こういうことは少しも行われていない。現に非常に不当な形で解雇されておる多くの職員があるのであります。これはわれわれは現在無数にあげることができる。しかも正当な
理由を述べたとしても
学校当局がそれを取消して再び
教員にするということをしないし、
文部省に持
つて行つたところでもちろん
文部省はこういう問題を取上げない。そうだとするならば、第十
二條のごときは單なる空文にすぎないのであ
つて、少しも
教員の置かれている不安な地位に対して、何らの保障を與えるような性質のものではないのであります。
それから第十四條でありますが、この第十四條こそは今申し上げた精神を、さらにはなはだしくむてつぽうな形で表現したところの法文でありまして、これは教職員に
免許状を與えるかどうかういう問題に関連して、それに必要な行動を所轄官廳は
免許状を與える者に通知しなくてはならないとういう
規定であります。しかしこれはわれわれは非常に問題であると考える。なぜならばこれは
教員に対する監察制を設けることであり、文教の上に特高警察的な制度を設ける結果になることはきまりき
つておるからである。なぜかういうとそれでなくてさえ、現に茨城懸、鹿児島縣では、指導主事が
教員の功罪表をつく
つて思想調査をや
つておる。このようなやり方は
教員特例法に反するやり方である。明らかにこれは
法律を無視したやり方であるが、このように現に
法律を無視して
教員の思想調査を指導主事がや
つておるというような状況のもとでは、もしこの
條文が
法律と
なつた場合には、このことが公然行われるばかりではなくて、一般的に行われる。しかもそれが行政的にも行われるという結果になるのであ
つて、明らかにこれは
教員の上に監察制度を設け、特高的制度を設けるということになるのであります。その結果は
教員たちの憲法上のいろいろな自由を押えるだけでなく、
教員にと
つて最も必要であるところの、將來持たなければならぬところの
教員の
自主性をますます弱くして、帝國主義時代、戰争時代におけるように、
教員を卑屈な
教員にしてしまう。もし日本の將來を思うならば、
教員をこのような卑屈な状態に陥れることを避けなければならぬ。むしろ
教員に自主的な、解放された生き生きとした精神と性格とをつくり出して行くことこそが、日本の
教育の將來にと
つて、最も重大なる問題であるとわれわれに考えるのあります。
このように考えて來ますと、以上述べました
理由によ
つて、この
免許法案というものは
教員の質的な低下、学問
水準の低下を來さしむるものである。また
教員が日本人として保障されておるところの憲法上のいろいろな自由を、
教員なるがために制限し、
教員なるがために剥奪するものであるという点、さらにまた現在そのようなことが実際に行われておる、その上に立
つてこれを合法化することによ
つて教員に対する監察制度を設け、一切の
教員の
自主性を失わせ、卑屈なものにし、
教員を支配階級のための
教員にしてしまい、
教員を日本の
科学や文化に隷属させようとする国際的な傾向に対して從属させる結果になると思います。われわれとしてはおそらくここに集まられた文部
委員の方々はそれぞれみな学問をや
つておる方々である。それぞれ日本の学問の將來を背負
つておられる方方である。この
委員の
諸君に対して、單に現在の党派がどの党派に属するからどうということは、もちろん超越してもらわなければならぬ。さらにまたそういうことはもちろん超越して、ほんとうに日本の將來を考えて、日本の將來の
教育の基本問題としてこの
法案を考えてもらわなければならぬと思います。しかもこの
法案は非常に未熟である。
免許法案にしても、その
施行法案にしても、このように反動的であるばかりではなく、未熟であると思う。この点においてもわれわれは絶対にこういう
法案には
反対をし、かつ全面的にこれがほんとうに民主的につくりかえられなければならぬと信ずるのであります。從
つてわれわれはその
修正案として出された
水谷昇君の
提案についても、もちろん
反対しなければなりません。同時にこの
修正案なるものはさらに今まで出た
原案を改惡したものにな
つておるという点において、特にわれわれは
反対を強調しなければならぬ点があるわけであります。それは
本案の第九條第三項において「
臨時免許状は、その
免許状を授與したときから一年間、その
免許状を授興した授與権者の置かれる都道府懸においてのみ有効とする」というふうにな
つておりますが、この本文においては三箇年とな
つておる。こういう点で
教員にと
つて明らかに
修正案は不利にな
つておる。從
つてわれわれはこの
修正案にも絶対に
反対するものであります。