○殖田國務
大臣 お答え申し上げます。
まず第一の古物商の許可の條件が憲法に違反するではないかということでありますが、これはただいま
お話になりました憲法第十四條の問題と申しますよりも、私は二十二條の職業選択の自由の制限であると見る方が適当であろうと思います。職業選択の自由はもちろん尊重すべきでありますが、これは公共の福祉に反せざる限りにおいて自由を有するのであります。この古物商取締法は、つまり職業の自由は認めるが、しかし公共の福祉の上からして、古物商については特に
取締りを嚴重にしなければならぬという建前で参
つておるのであります。つまりこの際には、公共の福祉という價値と職業選択の自由という價値とを両々比較いたしまして、何れが大きいかということでこれを決定するほかないと思うのであります。從
つてこの許可が、公共の福祉という点から見まして正しいか、あるいは行き過ぎておらぬかというようなことは、そういう面からお
考えになるよりほかないと思うのであります。これをかようにこまかく書いておりますのは、職業選択の自由を制限するのでありますから、從
つて裁量の余地を狹めまして、許可を公正ならしめるために條件をきびしく定めたものと
考えるのであります。その條件をきびしく定めましたために、今のようないろいろな問題を
考えることになるのであります。先ほ
どもお話がありました刑罰を受けた者が、刑の執行を終つた後において、職業選択の自由がないではないかということでありますが、これも古物商というものの本質が、特にこれを制限しなければならぬという
考えから來たのでありまして、何も受刑者に対して差別待遇をするという趣意は毛頭ないと思います。かような例は、すでに新憲法後に発布されました藥事法の中に、藥剤師の資格の免許の場合において、さらに一層嚴重な
規定すらもあるのでございます。これは國会がどのようにお
考えになりますか。國会が行き過ぎであるとお
考えになれば、それは國会のお
考えの
通りにきまるわけでありますが、
政府といたしましては、古物商というものの性質上、かような條件はやむを得ないものと
考えて附したのであります。私
どもはそういう意味合いにおきまして、これは二十二條の職業選択の自由を不当に制限しているものとは
考えておらぬのでございます。この必要の程度、有無等につきましては、
樋貝國務大臣からも御
説明があることと
考えます。
それから第二問でございますが、取締法の第三十三條の立入調査と憲法第三十五條との関係、及び
地方税法第四十五條の六の
規定と憲法第三十五條との関係は、何れもほぼ同樣の原則と
考えてよろしいかと思うのであります。憲法第三十五條は、第三十三條以下の
條文の配列から見ましても、また第三十五條の中にある「第三十三條の場合を除いては、」という字句から申しましても、刑事事件に対する犯罪捜査の手続を定めたものと
考えておるのでありまして、憲法制定の際の議会におきまして、時の木村司法
大臣も明瞭にその趣旨の答弁をいたしておるそうであります。
まず古物営業取締法の場合について
考えますのに、立入る時間を営業時間中に限定し、かつまた当該職員には証票携帶の義務を課しておるというように、その濫用を愼んでおるのであります。これは犯罪捜査の場合に、特に人権を保障しますために令状の必要を
規定しておるという趣旨にならいまして、刑事事件の捜査ではありませんから令状は必要としないが、しかしながらこれにやや趣きを同じくする特別の注意を拂
つて、
規定をこの古物営業取締法に設けたのであります。たとえば
法律的に申しますれば、業者の側の承諾を強制するために、刑罰の制裁は設けておりまするけれ
ども、やはり
理由のある場合には承諾を與えなくてもよろしい。特にまた古物営業取締法におきましては、こういうふうに承諾を求めて立入るのでありますから、直接強制とは解しておりません。これは間接強制である。こういうふうに解しております。從
つてこの憲法第三十五條の
規定はありましても、直接これに関係しないのみならず、またその精神から申しましても、憲法の人権擁護の精神には違反しておらぬ、かように
考えておるのであります。そうしてかような
法律の
規定は、新憲法の制定以來も、実に多数現存をいたしておるのであります。新たに設けられました
法律の中にも、多数この種の
規定は設けられておるのでありまして、この点につきましては、もはや憲法の解釈上の議論はさしてないものと実は
考えてお
つたのであります。
地方税の場合もほぼ同樣であります。つまり滯納処分の手続というものは、やはり刑事事件ではない。これは一般行政上の手続きであります。從
つて憲法第三十五條の直接に関係するところではない、こう
考えておるのであります。しかしたとい行政の目的のためであるといたしましても、公務員がほしいままに他人の家屋に侵入し捜査をすることは、もとより國民の自由を保障する憲法の精神に添うゆえんではありませんから、そこで國税の場合の例をも考慮いたしまして、差押えのため立入り捜査にあたりましては、当該職員は一定の証票を持つ。かつ差押えのための捜査は、晝間においてのみなしうる。またその処分をするにあた
つては、本人その他の者を立合せなければならない。かつ立合人の署名した一定の差控え調書を作成することといたしまして、なお滯納処分に不服のある者は訴願もできる、こういう制度を幾つか設けまして、
お話のごとき憲法の基本的人権の保障の趣旨に反しないような措置を取
つておるのであります。かような次第でありまして、この
地方税の場合も、また古物営業取締法の場合も、憲法第三十五條には直接関係がない。從
つて憲法の解釈上、憲法違反と
考える点はないのである。しかしながら憲法の人権擁護の精神にかんがみて、それ相当の第三十五條の趣旨にならつた措置を講じておるつもりである、こう申し上げたいのであります。もつとも
お話のごとくこの点につきましてはいろいろ御異論もありまして、
政府といたしましては憲法に違反しないからとて、このままのんびり構えているつもりは毛頭ございません。いやが上にもその執行の公正を確保し、人権の擁護に遺憾なきを期するために、今後國会の力をもかりまして、あらゆる角度から研究を重ねまして、法制の改善には努力をいたしたいと
考えております。