○
宮幡委員 この
機会におきまして、先般衆議院規則に基いて國政調査の一環といたしまして、國税徴收に関する過誤、怠慢または不正の調査のために、当大藏委員が浦和税務署に派遣せられたわけでありまして、去る二十日に一日参りました。予定の調査日数は二日間でありまして、いまだ調査の途中でございますけれ
ども、
ちようど本
委員会において
税法その他重要
法案の
審議が続けられておりまして、重ねて現地に参る余裕がございませんでした。その間相当の日数を経過いたしまして、何らの御
報告をいたしておかないということは、ある
意味におきましては不測の誤解を招くおそれもあるではなかろうか。かような考えで、いまだ結論に到達したわけではございませんが、中間
報告といたしまして、この際一應の御
報告を申し上げたいと存じます。
この
事件は、御承知のように、いわゆる浦和税務署の不正
事件というものでありまして、
ちようど昭和二十四年の四月二十日午前十一時十分に大藏委員の
宮幡、三宅、高松、風早、この四名で浦和税務署におもむきまして、ただちに本件の調査に着手いたしたわけでございます。なお公報によ
つて報告されております
通り、派遣委員のうち島村委員及び荒木委員は、所用のため御不参でありましたので、
便宜三宅委員、高松委員に補充的
意味で御参加を願いまして、数においては予定の
通り四名で参
つたわけでございます。
最初浦和税務署に参りまして、まず本件の納税者の心理に及ぼす
影響あるいはその他
諸般の
事情を考慮いたしまして、かような調査はいわゆる祕密に行うべきものであるか、あるいは公開で行うべきであるかということについて、派遣委員の間で一應の協議をいたしましたが、浦和市を中心といたしまして埼玉縣下一円では、納税者その他がこの問題について多大な関心を持
つております。もしわれわれ委員が祕密会において税務当局とひそひそ話をして帰るというようなことをいたしますと、かえ
つてそれが誤解の種となり、思わぬ方面に意外な波紋が投げられるのではないかというような
意見もありました。結局はさしつかえない
程度で、公開の形で調査をするということがよいではないか、かようなことで、祕密会の形式をとらずに、公開の形で調査をいたした次第であります。そこで私
どもはまず杉田浦和税務署長、各課長及び係長の出席を求めまして、一問一答の形で調査を進めたわけであります。杉田税務署長に対して、まず
事件発覚の経過を聽取いたしましたところ、本年の四月一日浦和地区警察署が同税務署の総務課徴收係の雇でありましたところの吉岡重行——年二十才——を引致して参りました。引続いて國税徴收事務に関しまする書類の提供を求められたそうでありますが、
ちようど三月三十一日の年度が終
つたばかりの翌日でありますので、徴收事務に支障を來すおそれがあると思
つて、警察の申出に対して一應はこれを拒絶したところ、明二日になりまして浦和簡易裁判所の判事高橋渉氏の捜査令状を持
つて参りまして、書類を押收した。かような答えでありました。その押收品の目録は別紙写しとして提供されて、ただいま私の
手元にございます。次に現在まで判明したところの吉岡重行に関する過失または不正の内容は、どういうものであるかということを杉田署長に
質問いたしましたところ、これも写しとして提供されましたが、浦和地方檢察廳檢察官檢事鈴木近治の起訴状の写しを提供いたしまして、その内容の
説明がありました。この際、その起訴状をここで朗読いたしてみます。
起訴状
左記被告
事件につき公訴を提起し公判を請求する
昭和二十四年四月十八日
浦和地方檢察廳
檢察官檢事 鈴木 近治
浦和地方裁判所御中
一、被告人
本籍 北足立郡土合村大字道場二百八十三番地
住居 右同
元税務署雇 吉岡 重行
当二十年
二、公訴事実
被告人は昭和二十三年八月二十五日、浦和簡易裁判所で窃盗罪に依り懲役一年但し三年間同刑の執行猶予の判決を受け翌九月其の事実を秘し浦和税務署に雇員として採用せられ同署総務課二係で徴收事務の補助の傍ら所得税等の滯納処理の為め轄内納税者宅へ補助員として出入するや一般納税者に於て被告人を
大藏事務官と誤認して遇するに至りたるを利用し金品を騙取せむことを企て
第一、
一、同年十一月下旬頃浦和市高砂町二丁目六十三番地家具販賣業辻村久三万に到り前掲の如く誤認し居る同人に対し確実なる返済資力なきに拘らずこれあるものの如く装い数日中に返すから一万円を貸與せられ度き旨申し向け同人をして其の旨誤信せしめ因て即時同人より貸借名下に現金一万円の交付を受け
二、父萬次郎より姉そめの持参する婚礼家具類を代金を借りて購入する樣に依頼を受け昭和二十四年一月上旬頃右辻村方に到り同人に対し代金借受けの意思を秘し婚礼家具一式九品目を前掲自宅へ
届けられ度し代金は其の際支拂う旨申し向け同人をして其の旨誤信せしめ因て其の頃右自宅へ総桐箪笥、鏡台等九品目十点代金合計一万六千八百三十円相当を搬入せしめ
第二、同僚雇秋谷芳雄と共謀の上
一、昭和二十三年十二月上旬頃同市常盤町九丁目二十四番地菓子商榎本善五郎方に到り前掲の如く誤認し居る同人より所得税の減額の話を聞くや其の意思なきに拘らずこれあるものの如く装い係の人に飲ませるから三千円位出して貰い度い旨申し向け同人をして其の旨誤信せしめ因
つて即時同人より現金三千円の交付を受け
同月中旬頃右榎本方に到り同人に対し上の人に話をしたら大体了解し呉れて税金がまか
つた、それに就いて少し金が要るから出して貰い度い旨申し向け同人をして其の旨誤信せしめ因てその頃同人より同市仲町三丁目浦和税務署で現金六千円の交付を受け
第三、昭和二十四年一月初旬頃同市針ケ谷一丁目七十一番地精米業町田耕平方に到り前掲の如く誤認し居る同人より所得税の仮更正が二十万円來て困
つて居る旨聞知するや同人に対し今此処で運動をしないと三十万円位來る、其の一割の三万円出せば何んとか見てやる旨申し向け同人をして其の旨誤信せしめ因て即時同人より現金三万円の交付を受け
第四、同月上旬頃同市仲町一丁目七十五番地電氣工事請負人星野秋太郎方に到り前掲の如く誤認し居る同人に対し確実なる返済資力なきに拘らずこれあるものの如く装い数日後には必ず返すから三、四万円貸與せられ度き旨申し向け同人をして其の旨誤信せしめ因て其の頃同所で同人より貸借名下に現金三万円の交付を受け
以
つて夫々騙取したるものである
三、罪名
詐欺 刑法第二百四十六條第一項
右は謄本である
昭和二十四年四月十八日
浦和地方檢察廳
檢察事務官 馬場 武雄
これが提供されました起訴状の写しであります。右起訴状に掲載されました吉岡の詐欺行為は、巷間に傳わる不正
事件のある
部分にしか過ぎないものでありまして、浦和税務署員に中に、かかる手段のもとに納税者を苦しめている者が多数あるとの風評も、あながち否定できない状況でありましたが、調査の段階としてまず杉田署長に対し、本
事件に関する感想はどうかとただしましたところ、大要次の
通りの心境を披瀝せられたのであります。
一、吉岡は埼玉縣廳在動の前歴があ
つたにかかわらず、履歴書に記載しなか
つたもので、在動中不正事実があ
つて起訴とな
つてお
つた者だが、採用のとき身元証明調査の不備によ
つて、これを知らずして採用したことはまことに申訳ないことだと思う。
二、税務署員のこの種の非行を誘発する最大の原因は、税が高過ぎることで、そこにむりがある。納税に苦すむ納税者の弱い心理
状態につけ入
つて、かかる不正が行われるものであると思う。
三、関東信越財務局の要員は、地理的
関係から多くこの地方の優秀税務官を引拔くので、当税務署には熟練した優秀な署員が少くて、一般に素質が低下しておると思う。ことに勤務地手当の
関係上優秀な志願者はまれであ
つて、多くは自活力がなく、親兄弟の援助を受けているありさまであ
つて、素質の不良が不正
事件を生み出したものと考える。
四、現在の申告納税、更生決定、徴税という行き方は、徴税係の
手数が非常なものであ
つて、事務官の
少い徴收係といたしましては、やむなく若年の雇いまでも動員して徴税に当らせる始末であ
つて、これもまた不正誘発の一原因であ
つたと思う。
五、現在署員が百九十九名ありまして、署長及び課長の監督は徹底しないきらいがありますから、ぜひとも大宮市あたりに税務署を増設してほしいと考えておる次第であります。かように答えております。
次に杉田署長に対しまして、徴收係、ことに雇いの身分で税の減免に参画できるような権限を持
つていることを印象づけておくのは、これは署長の日常の訓練に遺憾があると思うがどうかと
質問いたしましたところ、その点は常に嚴重に申し渡してあるが、納税者の誘惑の手の方が強くて、結局は御指摘のようなことに
なつたわけで、はなはだ遺憾に思うとの
意見がありました。さらに東京新聞が誇大に浦和税務署
事件と報道しているように思うが、何か税務署と東京新聞との間に感情の行き違いでもあるのではないかと
質問いたしましたところ、さような事実はないと思うのみならず、税の二重取立てが五百万円というような記事が出ておるが、これはま
つたく
根拠なきことであるから、新聞社に対しまして取消しもしくはその他適当な方法を講じてもらうように、ただいま要求しておるとの答えでありました。
この
程度で
ちようど十二時半ごろになりましたが、一應午前は終りまして、午後一時からさらに調査を続行しまして、税務署長の
説明の中で、不正事実についていろいろと調査いたしたわけであります。その中でも、税務署長の
説明のありました起訴状に掲げられておりますほかに、
金額では一番多いと報道されております浦和市仲町五の二百六十三青物商石井竹次郎、この方から吉岡等が七万八千円の金を受取
つたというようなことが傳わ
つておりましたので、われわれ
委員会が現地に派遣されて参りましても、ただちにこれらの人たちを
委員会の権限において招集することは、これは行き過ぎでできないことでありまするから、いろいろ勘案いたしましても、もしかような嫌疑を受けあるいはかような被害をこうむ
つたと思われる方々で、自分から進んで來てわれわれに訴えたいという希望者があるならば、來ていただいてもよろしい。かような方法で、決してむりを言
つたり、呼出したりする
意味ではない。かようにくれぐれも申しまして、われわれ
委員会に随行してくれました專門
委員会に所属しております田中君に、特に使者に行
つてもらいまして、この石井竹次郎という人と、もう一人常盤町一の九十自轉車業鈴木政吉、この二人の方にこのことを傳えましたところ、石井竹次郎さんは東京へおいでになりましてお留守だそうで來られない。結局鈴木政吉さんがや
つて参りまして、この場合には税務署長及び課長、とにかく税務署に
関係のある方はその部屋から御退散を願いまして、その際鈴木政吉さんに対しまして、ここであなたのお答えしていただきますことは、これがためにあなたに迷惑がかか
つたり、いわば税金が余分に
なつたり、あるいは税務署から恨まれたり、いろいろな心配せられる向きは毛頭ないと思うから、事実をお話願いたい。もつとももしお話することが自分の氣持としていやならば、絶対に默
つておいていただく権利も、もちろんお持ちのことであるから、その点はくれぐれも申し上げる。かように申し上げましてお答えを願いましたところが、状況を話されたのであります。その状況は、吉岡が参りまして、一万五千円の自轉車を一台賣
つてくれろということで、その一万五千円のうち五千円は、この吉岡のいとこに当る人間が持
つて來て置いて行
つた。一万円は貸しにな
つておる。そしてそのうちにそのいとこに当る者が來て、一万五千円の金を持
つて來るから、五千円は返してくれということで、持
つて行
つておる。結局一万五千円の金がそのままの
状態にな
つておりますのみならず、その後において、いろいろと心配するので金がいる。ことに今度は、役所の上役のお祝いをしなければならないので金がいるからと
言つて、その後に千円の金を持
つて行きました。税の
関係はどうな
つておるかと言うと、二十六万円の仮更正決定を受けたが、それが二十三万円に減りました。それでは、こういうことによ
つて頼んだから減
つたと思うかと聞きましたところが、そうではないと思う。われわれの組合の輪業組合におきまして團体交渉をいたしまして、それぞれ交渉の結果税が減
つたものだと思います。かようなことでありました。それからその方は大体終えまして、今度その席におりました一般の納税者で、もし希望
意見があ
つたならばお伺いをいたしたいとかように申しましたところ、二、三の発言者がありました。いろいろ御
意見もありましたが、その要点を申し上げますと、当浦和地区におきましては、各業者がいわゆる團体交渉ということに重きを置いて、各その組合員なり團体員から割当的に費用をと
つて、それをもちまして税務署あるいはその他の
関係の方面に贈
つたり、使
つたりしておるのであ
つて、その連中がうまいことをしておるのである。團体折衝というものは下に非常につらいものであ
つて、上には軽いもので、そして費用は同じようにとられる。ここに惡いことがあるのではないかというような、要約すれば答えでありました。團体交渉の問題は、
税法の上においても、いわゆる諮問機関として
事業者の組織する團体を利用することは、所得
税法六十四條かで許されておるわけでありますが、これが税の最終的決定の機関のように利用いたしますことは、嚴に戒められておることであ
つて、しかもこういう一般の参考に呼びました者の
意見が、さようなことを表明しておる場合においては、浦和税務署の全般の内容について一應の調査もしなければ、はつきりしたことも言えないではないか。またこれをある
程度認容してお
つたような形が、もし監督者の立場にありましたならば、これは大いに是正しなければならない問題である。かように考えましたが、
ちようど時間が午後四時となりまして、その後調査する時間もありません。こちらへももどらなければならぬという
関係で、ひとまずその
程度で打切
つて参
つたのが現在までの実情であります。
要するに、その後また今度は直税課員の、所得税を直接担当しておられます方々が二人、それからすでに堺税務署あたりに轉任しました方が一人、三人また檢挙せられまして調べられております。その罪状も、ほのかに聞きますと、ただいまの團体交渉をやりましたような裏づけをするような事実もあるのでありますが、これが犯罪になるかどうかという問題は、あげてこれは檢察廳、いわゆる司直の手におまかせいたしまして、われわれはあくまでも税務行政の面、また國の最高機関といたしましての
國会の任務に照し、行
政府を監督いたします権限のもとにおきまして、なお残されました日時を利用いたしまして調査いたし、いやしくもかような不正が再発しないような方法を、講じたいと考えておる次第であります。はなはだまとま
つておりませんが、以上が一日間参りまして取調べました概要でございます。その他足りないところは、また委員各位のお尋ねによりまして、補足してお答えすることにいたします。以上御
報告申し上げます。