○風早
委員 昨日、
主税局長にいろいろこまかい点について
質問をいたしたのでありますが、きようは池田
大藏大臣がお見えでありますので、少し基本的な点について御
質問をしてみたいと思います。大体新聞その他で承りますと、アメリカからシヨープ博士が來訪するのはもう間近であるという話であります。その際に
政府は根本的な税制改革の実行を讓
つておられる。今ぼつぼつその着手の運びにな
つておる。こういうふうなことであると
考えられるのであ
つて、今回の程制
改正というものは、全然そこまでは行
つておらないのでありまして、この際に、この
改正に即してしやくし定規に問題を持
つて行きますれば、まだ税制の基本的な問題についての
質問というところに至らぬかもしれぬと思います。しかしながら、もう時間的に申しましても、シヨープ博士の來訪が間近なのでありまして、
大藏委員会としても、その
準備をしなければならぬ。それでこのきわめて
部分的な
改正の議案が出ております際を借りまして、
政府にいろいろ警告的な
質問を発してみたいと思います。なお、この点につきましては、私としては
大藏委員会の中で小
委員会などを設けて、特に少くも
所得税の
改正につきましては、根本的に檢討をや
つていただきたいというようなことも
考えておるのでありまして、これは
委員会にもおはかりするつもりでありますが、とにかくこの問題は今日全國民がほとんど例外なく非常な関心を持
つておる重大問題でありまして、政党政派のいかんにかかわらない問題であると
考えるのであります。
私が第一に問題にしたいのは、この
所得税の基礎にな
つております
所得の観念であります。アメリカからシヨープ博士が参
つて、日本の税制
改正についていろいろなサゼスチョンなり、あるいは指導を與えるということでありますが、その際に、アメリカにおける
所得の観念と、日本における
所得の観念との
現実の根本的な相違を明らかにしておかなければ、とんでもないことになりはしないか。御
承知のようにアメリカ的生産水準というのは、わが國の
生活水準
一般と比べますと、比較にならないほど高いのであります。早い話が
労働者だけをと
つてみましても、大体アメリカの
労働者の
平均賃金というのは、少しこの
統計は古いのでありますが、二十二
年度におきましても、年二千五百ドルであります。わが國におきましては大体三千七百円時代についてみますと、三・二人の
平均で月
平均所得が四千百三十円であります。これは大体月にすれば二十五ドル、年にすれば三百ドルにすぎないのでありまして、すでにこの間に八倍以上の開きがある。しかしこれは絶対額でありますが、この
賃金では食べて行かれないという絶対的な低
賃金、
生活できない
賃金というものが、わが國の
賃金の大多数を占めておるのであります。これに対してアメリカにおきましては、確かに戰後に
おいて、
労働者も含めて
一般の
生活水準は下
つた。実質
賃金は相当大幅に低下いたしております。それにもかかわらず、とにもかくにも最低の
生活を保障するに足るだけの
賃金ということは、これはもう常識であり、これがすべての前提にな
つておる。そこで勤労
所得税というような問題も、またきわめて合理的に起
つて來るのであります。ところがわが國におけるこの食べられない低
賃金というものを前提といたしまして、同樣な形式をと
つて勤労
所得税を課するということ
自体が、非常な大問題なのでありまして、根本的にこれは間違
つておると
考えられるのであります。ことにこれに対する
所得税の割合を見ますと、アメリカにおきましては、二十二
年度は年に二千五百ドルの
賃金をもら
つておりながら、扶養者三人の場合におきまして、その
所得税は年額わずか九十五ドルであります。その比率は三・八%にすぎないのであります。これに対して、わが國におきましては、
所得税
負担の月額というものは、四千百三十円に対して八百二十八円にな
つておる。これは今度六千三百円ベースになりましてぐつと上るのでありますが、とにかく三千七百円ベース
自体をとりましても、その比率というものは二〇%に達しております。これは
政府の資料であります。こういうふうにそこに非常に開きがある。二十三
年度のアメリカの場合をとりますと、これは四月の現
税法によりまして、税額は年わずか十七ドルにすぎないのであります。
所得の比率をと
つてみますと、〇・六八%という非常に低いものであります。最近
政府は、この日英米の
國民所得対租税
負担の比率というようなものを問題にいたしまして、わが國はまだその比率が低いようなことを
言つておられるようでありますが、これはたいへんな間違いであります。わが國の
國民所得の
計算なるものは、非常な水増しであり、非常に不正確なものであります。いずれにいたしましても、この
國民所得がどういうふうに全國民の間に階級的に配分せられておるかということが、一番大事な問題でありまして、これを考慮するならば、
現実にかりに今の
國民所得の額を認めても、その中のより少い
部分がますます多数の國民の手に残されるだけでありまして、ますます大きな
部分がますます少数の手に残されておる、こういう現状にな
つておるのでありますから、これを考慮いたしますならば、結局
國民所得対租税
負担というふうなものを、大まかにただ概括して比較するということはできない。その本質をかえ
つて誤ることになると思うのであります。いずれにしましても、具体的に
賃金とその租税額との比率をとりますれば、今申し上げた
通り、アメリカと比較してみましても、これは非常に高いものである。もともとその基準にな
つております
賃金そのものが、食べられない低
賃金である。こういうことを
考えてみた場合に、これはうつかりアメリカの
所得の観念をも
つてわが國に対処してもらうと、たいへんなことになるのでありまして、この点について
政府はシヨープ博士の協力を得て、税制改革をやるというのでありますから、その点については嚴重なる心構えを持
つていただきたい。わが國の國民の
所得というものが
現実にどういうものであるかということを、アメリカ側にもシヨープ博士にも十分に徹底させてもらいたい。これはもちろん全國民、あるいは全
國会議員、またこの
大藏委員会としての任務であろうと思いますけれ
ども、特に
政府におきましては、直接その交渉の場合に
おいて、この点を十分に
考えていただきたい。これについて
政府の所見を伺うものであります。
ついでながら今の
所得の問題につきましてアメリカにおきましては、たとえば学生などでも苦学生とい
つたような最もひどい
生活をしておる者でも、とにもかくにも一日に三時間も働けば、それで三度の飯は確実に食べられるとい
つたふうな状況である。一週間の終りにはタキシードくらい着込んで、そうして女優さんはだしの非常にしやれたかつこうをしたガール・フレンドなんかと映画に行くとか、あるいはダンスに行くとかい
つたようなことができる程度の水準でありまして、大分日本の
状態とは違うのです。
労働者については言うまでもありません。そういうふうなことであり、またイギリスなんかにつきましては、これは少し古い戰前の話になりますけれ
ども、私がロンドンに参りましたときなんか、あすこのハイド・パークで
労働者が演説しております。
ちようど小麦の
價格がほんのわずかばかり値上げになりまして、そのために実質
賃金が下るとたいへんに大きな声で演説をや
つてお
つた。そのために毎朝自分のかわいい子供に卵を二つや
つてお
つたのを、
一つに減らさなければならないということを非常に強調してお
つた。しかし日本で毎朝卵を二つはおろか
一つでもやれるだけの家庭は、よほど富裕な家庭でありまして、多数の
労働者の家庭、その他サラリーマンの家庭に
おいては、なかなか子供一
人々々に卵を
一つずつやるということはできる氣づかいはない。こういう実質を見ても、この点は十分わかるのであります。さらにわれわれが生計費の中で占める食費の割合は、
生活水準を端的に表わす
一つの表わし方に今までな
つてお
つたのでありますが、現に戰前におきましては、四五%以上を食費が占める場合に
おいては、これはカード階級である。救護法による救護の適用を受ける。こういうことを言われておる。ところが現在におきましては、ほとんど
労働者は言うまでもなく、多数の國民におきまして、その生計費の中で占める食費の割合というものは、六〇%から八〇%に達しておるのでありまして、この点から言いますならば、現在わが國民の大多数はカード階級である。もう
國家から少しおつりをもらわなければならない。國庫から救護を受けなければならない。こういう状況に立ち至
つておるのであります。アメリカにおきましても、もちろん戰前から比べると
——戰前には食費の割合は
労働者におきまして大体二五%以下でありましたが、現在は四〇%に達しておる。これははなはだその
生活水準の切り下げが行われておる。しかしそれでもまだいわゆるカード階級には達しておらない。こういうことを十分にやはり前提的に考慮して、当らなければならないと
考えるのであります。それにつきまして勤労
所得税と
事業所得税というものが、先ほどから
塚田委員によりましても問題にな
つておりますが、確かに今日ではある
意味におきまして、勤労
所得税と
事業所得税との本質上の違いはなくな
つて來ておる。これは決して勤労
所得税が当然のものであるということではないのでありまして、逆に
事業所得税というものは勤労
所得税と同樣に大衆課税である。その
生活費に食い込む課税であるということを
意味しておるにすぎない。私はこの点で今まで大衆課税の全廃という要求を、
労働階級の側からもまた
共産党の側からも常に提起しておりましたが、大衆課税の全廃という
意味は、今やただ單に勤労
所得税の全廃だけでなく、
事業所得税のうちの大
部分にまで及ぶのであるということを申し上げ、かつそれが日本に
おいては絶対に必要であり、また正当であるということを申し上げたい。この点につきましては
幾らも実際のなまなましい資料を提供することができますが、これは
政府でも十分にお持ちだと思います。
事業所得税におきまして一番問題であるのは、言うまでもなく必要
経費の算定の仕方であります。この点は
質問の
一つの要項になるのでありますが、今まで必要
経費というものに、
生活費は入
つておらない。
事業所得税の場合におきましては、とにかく必要な
経費の中には家賃があ
つたりあるいはいろいろな材料費、仕入費、その他電燈、光熱、こういうものはあるかもしれません。また雇い入れをした場合におきまして、その雇人の給料というものは、むろん必要
経費のうちに入るのでありますが、かんじんのその商店なら商店の主人なり、あるいは家族なりが一家全体こぞ
つて、先ほど
塚田委員の
お話のごとく、朝から夜おそくまでほとんど二十四時間は常に働いておる。この
労働はどこから出て來るかと言えば、結局三度の飯を食べて、家族をやはり養
つて行くところから出て來るのでありますが、家際必要
経費の中にはこれらの
生活費は完全に入
つておらない。ここの根本的な矛盾がある。これは都合のいいところ、つまり会社などにおきましては、資本と
労働との
関係でありまして、資本家は
労働省を雇
つて、自分
たちの私
生活はまた別にある。ところが中小
事業者の場合におきましては、そういう
関係がないのであります。事実自分の
生活と
労働とその
事業とは不可分の
関係にある。でありますから
ちようど資本家が雇人を雇
つて給料を拂う。それが必要
経費に算出計上せられるということと同じ
意味におきまして、自分自身の労力費、自分の家族の労力費、こういうものは当然に計上せられてしかるべきだと思う。この点がないために、当然赤字になり、
生活に食い込んでおるにかかわらず、帳面ずらは、ある場合には黒字になるということすら出て來るのであります。これはまことにおかしな話なんです。実際に
おいてはもうほとんど大
部分が赤字なんです。今日ではその
計算を拔きにいたしましても、なお赤字にな
つておる。これほどひどい
状態でありますから、まず第一に必要
経費の中に
生活費を入れるという税制改革を、ぜひともや
つていただきたいと思うのであります。この点については
政府はどう
考えておられるか。これを最後に伺
つておきたいと思います。一應お答えを得て、また
質問を続けたいと思います。