○聽濤委員 私は
日本共産党を代表しまして、本
法案に絶対反対を表明いたします。
根本的に申しまして本
法案は、鉱山における災害、労働者の身体、生命の保護ということを
趣旨として、立案せられたものではないのでありまして、すでに今日まで
政府の増産運動のために、労働の強化と、一方では鉱山経営者の側における保安並びに衛生のサボタージユが、はつきりと現われておるのであります。この二つの問題を真に檢討し追究せずして、單なる
法律をも
つてこの保安の問題が解決されるなどということは、絶対にあり得ないのであります。われわれが昨日來この問題に関連して、麻生鉱業の問題を
提出いたしましたのも、本旨はそこにあ
つたのであります。しかしながら
政府はこれに対して、ただ知らぬ存ぜぬの一点張りで、
委員長は重ねて横暴な議事の運営によ
つて、われわれの発言を封殺して参りました。これこそは、本
法案の
一つの特徴をなしておる。つまり
法律の陰に隠れた真の意図が、那辺にあるかを物語
つておるのであります。すなわちこの
法案は、結局のところは四千二百万トン増産を、労働者の一方的な犠牲において強行し、またすでに現実に現われておる鉱山経営者の保安衛生のサボタージユを放任して、そうしてこれをやろうとしておるところの、こういう反動的な意図をも
つてつくられたのであります。これが根本的な反対の理由であります。以下項目をわけて反対の理由を開陣いたします。
まず第一に、本
法案が
商工省所管としたことでございます。
本案が
商工省の所管にな
つておるのはいかなる意味を持
つておるか。炭鉱労働者は從來再三にわたりまして労働省所管を要求して参りました。もちろん
商工省、労働省と言いましても、官僚的本質にはかわりはないのでありますが、大事な点は石炭の増産の
行政面を中心に
考えておることであります。
商工省では鉱山の保安問題を常に増産のために必要な手段としか
考えない。
從つて保安の問題が人権の擁護であり、労働者の生命を守らねばならぬという点はま
つたく無視されて來たし、またこれは無視しようとする
法案である。そのために災害の生ずるような設備や労働
條件も、増産のためにはやむを得ないという一言で、黙過されておりましたが、このことが炭鉱や鉱山の災害を激増させておるところの大きな理由にな
つておる。
政府が
商工省の所管としたことは、この
法案が労働者のためにつくられたものではなくして、すなわち資本家的な増産を行うための裏づけとしてつく
つたものであることを、はつきり現わしておるのであります。
第二には資源の保護ということに名をかりまして、労働運動を弾圧しようとする意図がくみとられるのであります。この
法案では資源保護に必要な措置を講ずるということを目的の
一つに掲げておりますが、このことを労働者の基本的権利であるところのストライキを含む種々の争議権に対しまして、鉱山の保安を理由に、あるいは資源のむだになるということに籍口して、事実上争議権の否定となることが
考えられるのでございます。もちろん労働者は自主的に山をつぶすようなことは、決してするはずのものではないのであります。彼らは職場を失うことになれば、まさに自分一身にかかわる問題でありますから、こういうことが行われるはずはないのであります。現に
日本の全國各地の鉱山におきまして、この保安の問題に籍口し、鉱山資源の確保に籍口し、あるいは増産に籍口して、あの炭鉱特別調査團なるものは各地において鉱山労働者のかかる罷業権や、自主的なあらゆる運動を弾圧しつつあるのであります。これは明らかに反動的
政府によ
つて運用されるならば、非常に危檢な、フアシズム的方向に通する
法案であることを示しております。
第三には保安に関する義務を無制限に労働者に負わすという点であります。すなわち
法案の中に、拡張解釈が幾らでもできるような簡單な義務
規定を労働者に課しております。今日鉱山の実状を見ると、工業警察規則や石炭坑爆発取締規則等を確実に守
つているかというと、おそらく
一つの鉱山もこれを嚴密に守
つているのはないはずであります。増産々々としりをたたかれ、
中小企業におきましては、
資材購入の資金が不足しておる鉱山が、能率給で労働者をかり立てて増産をや
つておる。これでは保安が守られようがないのであります。しかるに労働者は鉱山保安規則を全面的に守る義務を押しつけられておりまして、從いまして
政府や会社側は結局は
組合運動や政党運動に熱心な從業員に対して、ささいな規則違反をも
つて解雇、懲罰の理由とする可能性すら十分にあるのであります。資本家に対しましてはま
つたくルーズにこれを運用し、労働者に対してのみこれが全面的に適用されようとしておる。こういうやり方で参りましたならば、ま
つたくこれは氣違いに刃物を持たせるような結果になることは明らかであります。
第四に官僚機構が強化される点であります。この
法律によりますると、
政府は新しい機構をつくり、三百人近い人を集めて監督すると
言つておる。しかしながらあらゆる場面において今まで非常にはつきりして参りましたことは、役人を増して取締りができたというためしはないのである。
行政整理が問題にな
つておる今日、何を好んで役人を増したり新機構をつくる必要がありましよう。各炭鉱でどのような保安のサボがやられているかは、官僚はわからないか、わか
つても知らぬ顔をしておる。いかに人員を増しても無数の鉱山を年に何回もまわれるものでもなく、行
つても現場が何日どのように作業しておるかつかめるはずがない。
從つてこういう役人の増強によりまして決して保安が守られるというような問題ではないのであります。この保安の問題は、現場に明るい從業員こそが、日常危險にさらされている彼らこそが、真劍に保安の問題を
考えておる。それゆえ鉱山の從業員の中から
ほんとうに民主的に選ばれた者が、この保安の問題に対して監督する全権をにぎらない限り、今日絶対に保安問題を解決することは望めない事柄であります。
第五には保安
委員会、中央
地方の保安
協議会というものはま
つたく無
権限な諮問機関にすぎないことであります。本
法案では一應民主的に見える保安
委員会も
協議会を設けております。しかしながらこれらの機関はま
つたく無
権限でありまして、官僚に從属するところの諮問機関にすぎないのであります。これは、特に保安
委員会は鉱業権者が選任するようにな
つております。これは、特に保安
委員会は鉱業権者が選任するようにな
つております。しかもその半数は従業員の推薦が必要だとしてありますけれども、しかしながらこの点裏を返して申しますれば、
あとの半数は從業員の信頼できぬ者が占めてよいという
規定にな
つておるのであります。しかも議長は鉱業権者の代理人的性格をも
つた保安管理者がなることにな
つておる。今日会社側が保安をサボ
つておる場合、当のサボ
つておる本人の代理人が保安
委員会の多数を占めておるということは、さる芝居にひとしいものであります。こういうことがこの保安法全体をして官僚的な運営と、これによる解釈と、これによる労働者に対する重圧を加えようとする
法案にすぎないのであります。
第六には保安
技術職員の國家試験の制度が設けられておりますが、しかしながらこれはすでに医者の場合と同じように、その運用いかんによ
つてはただちに思想的弾圧の具に使われることは明らかであります。今日のような
状態の中で保安
技術職員の國家試験制度が採用されるならば、その内容はフアシヨ的な教育を押しつけ、また資格問題をさえにして
組合運動の分裂に圧力をかけて來る危險があることは、十分に察知されるのであります。
大体以上のような諸点をも
つて、本
法案は結局のところ四千二百万トン増産を、労働者の一方的犠牲において強行しようとするところのものであり、このために災害は本年度においてさらに一層はげしく増加することを予知しておるところの、しかもその責任を労働者に轉嫁しようとするところの、きわめて反動的な意図をも
つてつくられたものである。
日本共産党は以上のような理由をも
つて断固これに反対するものであります。