○佐瀬昌三君 ただいま言われたのは
生命ということを中心に
考えられたようですが、これは
医学的適應症を合法の上で認める場合には、三十七條も明確に文字に表わしておりますように、
生命及び身体ということにな
つております。身体というのは要するに健康の問題であります。そういう御懸念は別に抱く必要はないのでありますが、私はさきに申し上げました
理由によ
つて、
せつかく設けるならば、これはいわば
医学的適應症と
優生学的
適應症は世界各国異論のないところでありますから、それはなるべく廣くここで認めてやるという立法形式をおとりにな
つてや
つた方がよろしい、こういうように
考えます。それはその
程度にしておきまして、問題は第三号の経済的
適應症の問題であります。この経済的
適應症を認めることについての大きな難点は、
法律というものはひとり貧乏人のためのみではない、すべて法の前には平等であるという
考え方から見まして、富者と貧者によ
つて適用の違いができるという
法律はそもそも法の
一般性、普遍性に反するものであるということから、実はそういうような特に
貧困を
理由とするような経済的
理由によるような法というものは、本来これは歓迎されない建前にな
つておるのであります。
從つて貧乏とかあるいは
生活苦ということを特に
理由として、特別な
法律をつくるという場合には、よくこれを愼重にしてやらなければならぬ。法の性格からしてさように
考えて行かなければならぬというのが
一般の建前にな
つております。これは立法の理想という面から見て、そういうことがこれはもうきまり切
つた文句にな
つておるのであります。そこで堕胎を、貧乏あるいは
生活苦を
理由として特に認める
法律をつくろうというのは、今申しました原則に反するということから、これはなかなかつくろうとしても
國会や学会で今まで世界各國とも認められなか
つたことにな
つておる。それから次にそういう難関を突落して、特に現在は経済問題あるいは失業問題等これから起る
社会、経済不安の上に立
つてかような
法律が必要であるということに一歩譲
つてみましても、はたしてかような経済的事由によ
つて例外法を認めるということが、その結果において立法の
目的を達することができるかどうか。いわば実益論に立
つてみて、やはり疑わしいものがあるのではないかというのが、従来
一般に問題とされて來た、かかる立法が簡単に許されなか
つた大きな
理由とな
つておるのであります。言いかえるならば、経済的
理由で、貧乏とか、
生活苦とか、失業ということによ
つて生ずる問題を解決するのは、かような堕胎を公認するとか、人工的に
妊娠を中絶する方法を講ずるとかいうような末節的なことではこれは不可能である。
もつと根本的な
生活保護法、あるいは母子
保護法とかいろいろ
社会的立法とその実行によ
つて初めてそれはまかない切れるものであるということが大きな
理由にな
つておるのであります。私
どもは現在堕胎なり人工中絶をする事例について、いわば実証的にその
理由が何に基づいてお
つたかということを実は明らかにしたいのでありますが、これはおそらく当局においてもさようなものを統計的にお調べにな
つておるとは私も思いませんので、ここでただちにその資料を出していただきたいというむりな注文はいたしませんが、少くとも私
どもの研究調査しておりまする結果から言うと、実はそういう経済的
理由で堕胎をしたいというのは、これはパーセンテージから言うと少い。むしろその次の四号にありますいわば
社会的事由による堕胎という
理由の方がむしろ多いというふうに確信を持
つておるのでありますが、要するに経済的
理由によるものが少いのにかかわらず、
法律をも
つてそれを堂々と認めるということは、実益的に見てもこれはあまり意味のないことではないか。むしろそれを認めることによ
つて生ずる弊害の方がきわめて多いのだ。もちろん私
どもは生めよふやせよというような古い観念的なもので臨むことが許されずして、現在の経済
生活の実態を把握して、それに基いて家庭あるいは親子というような問題も処理して行かなければならぬ必要性は十分認めるのでありまするけれ
ども、しかし今言
つたような
理由から、これを刑法の堕胎罪をも制限するような、経済的な
理由に基いてかような堕胎を公認するという例外法をここに特に設けるだけの積極的
理由がどこにあるかということ、実は今までのかかる立法に対する根拠、それに対する私
どもの見解から、ここにあらためてその点をお伺いしておきたいと、かように思うのであります。