○松井(豊)委員 ただいまより御報告を簡単に申し上げます。昭和二十四年四月十二日、衆議院規則第五十五條により、衆議院議長の
承認を得まして、天龍川流域総合開発計画並びに融雪期における茶臼山附近地すべり情況調査のため、今村忠助委員、
瀬戸山三男委員、
増田連也委員、
前田榮之助委員、池田峯雄委員、高倉定助委員並びに不肖松井豊吉は、西畑專門員外二名を帶同いたしまして、四月二十日より五日間にわたり、つぶさに現地の調査をいたして参りましたので、ここにその結果を簡単に御報告申し上げたいと思います。
今回の調査の目的は、前に申し上げた
通りでありますが、特に重点といたしましたのは左の六点で、すなわち第一に名古屋、飯田、長野、新潟を結ぶ
國道及び縣道の実情調査、第二に飯田市防火都市計画に基く復興状況の調査、第三に天龍川上流直轄
工事状況調査、第四に泰阜ダムの背面水による沿岸地被害状況の調査、第五に長野縣下
砂防工事の実状調査、第六に長野、新潟両縣下特有の地すべり地帯の調査であります。
派遣委員一行は、二十日夜行にて名古屋に向い、翌二十一日早朝名古屋に到着、
建設省側より
内海政務次官、伊藤中部地建局長、利水課伊藤技官、道路企画課及川技官並びに關田
事務官、愛知、長野両縣
関係官の出迎えを受け、ただちに名古屋、長野、新潟線の愛知懸側の補修改築情況、その他愛知縣下建設
関係事項を聽取いたし、名古屋より挙母足助伊勢神峠を越し、長野縣に入り、浪合、駒場、飯田へと、第日目において約百四十四キロを踏破し、沿線の資源、現在における本道路の利用現況、さらに道路の整備情況等を調査いたしますとともに、各地において直接
地方民の声を聽取いたしました。また飯田市においては、一昨年の大火災後の模範的防火都市としての復興建設情況を詳細に視察いたしました。
二十三日は、天龍峽下流にある泰阜ダムのため、洪水時に背面水が天龍峽をはるかにさかのぼり、上流川路、龍江、松尾各村に多大の被害を及ぼしている実情を調査するとともに、天龍峽狭窄部開鑿計画及び日発当局の背面水に対する
処置等を聽取いたしましたる後、飯田・松本・長野線を北上し、伊那町より省営バス運行路線を、高遠町、突峠を経て諏訪市に至りました。この間通過路線の情況及び資源開発、産業道路計画等を調査いたしますとともに、赤穂町付近、天龍川直轄
河川改修工事の実情を調査いたしました。また各通適地地元民より切々たる陳情もあわせ受けた次第であります。
二十三日
國道十四号線中難所と称せられます和田峠及び
國道八号線における塩尻峠の実情を調査するとともに、地元民の隧道掘鑿に関する熱心な陳情を受けたる次第であります。さらに諏訪、松本間道路の
改修状況、天龍川水源地たる諏訪湖の流量調節釜口水門の状況及び松本の南方牛伏川の明治以来実施して來た
砂防工事状況等を視察いたしました。
二十四日は犀川沿岸沿いに走る長野・松本線の
改修及び補修状況を詳細に調査するとともに、犀川沿岸の当
地方特有の地すべり状況及びこれが
対策、並びに茶臼山の特殊地すべりとその
対策、水内発電ダムによる洪水時の背面水の及ぼす被害等を調査いたしました。全行程三百五十キロ余相当むりな日程ではありましが、一同無事調査を終了いたしまして、二十五日帰任いたしました。
視察状況、次いでその調査の内容につき申し上げたいと思います。
道路
関係、まず第一番目に道路
関係につき申し上げますと、今回は名古屋・飯田・松木・長野・長岡・新潟を結ぶ本州横断道路の大半を視察したわけでありまして、この路線は愛知、長野、新潟三縣民が、この道路の
國道編入を熱望しているものであり、今回の調査はその熱望にこたえて、実地にその実情、
経済價値等を調査したものであります。名古屋・長野・新潟間の総延長五百三十三キロであり、愛知縣内八十四キロ、長野縣内三百五キロ、新潟縣内百四十四キロで、現在國有鉄道とな
つている部分二百十六キロ、縣道の部分三百十七キロであります。今この全線を一應
國道なみに
改修するものと
考えますと、要
改修延長は三百九十七キロ、全延長の七五%に相当し、地元での見積り総
工事費は約二十三億円余と相な
つております。名古屋市より挙母までは、幅員五・五メートルないし七・五メートルであ
つて、多少鋪装された箇所もあり、大体
改修されておりますが、挙母・伊勢神峠・浪合村・飯田市の間はところどころ
改修された程度で、幅員は三・五メートルないし五メートルで、特に縣境附近は屈曲はなはだしく、自動車のすれ違いにもこと欠く所があり、かつ道路未
改修のため、冬期間二、三箇月は交通不能の状況であります。足助以北長野縣浪合村附近までの林産物は、ほとんど足助に自動車輸送によ
つて運ばれているありさまでありますが、用材、薪炭林及び
地方特産の長竹等、生産の半分は輸送路不備のためなお滞荷している実情であります。また峠附近において、最盛期に自動車の運行延台数は一日百台を超えることもあり、さらに戰前は飯田・名古屋間にバスの運行があつたのであります。飯田市・伊那町・辰野町・塩尻町・松本市・水内村・長野市間は幅員三・五メートルより七・五メートルあり、峠は大した難所もなく、犀川沿岸に部分的に急勾配の箇所があるのみで、平均三%程度の緩勾配路線であります。松本・長野間の犀川に沿う箇所は、第三紀層の脆弱な地帶で、犀川渓流に沿
つて築造されたために、水
災害地すべり等の被害は多いが、目下長野縣下の幹線道路として長野・辰野間幅員六メートルないし七・五メートルに
改修中であり、
工事は着々と進捗しております。なお本路線は冬期問も交通可能であります。長野市・長岡市・新潟内市間の路線は国道十及び九号線でありますが、現地
説明によりますれば、ほとんど未
改修であり、幅員二・五メートル、屈曲・経六メートル程度の急カーブもあり、かつ冬期間は積雪多量のため交通不能のありさまであります。このほか伊那町・高遠・杖突峠・茅野町・諏訪市間の伊那盆地と諏訪盆地を結ぶ路線は、現在省営バスが採算を度外視して運行しておりますが、高遠・茅野間はなお相当の
改修を要する箇所を有しております。国道十四号線の和田峠及び国道八号線の塩尻峠に隧道掘鑿の要望が地元の声としてありましたが、隧道掘鑿によ
つて峠越えに三十五分を要しているものを、四分で通ることができるとのことであります。また飯田市東方喬本村小川より現在の林道を
改修し、矢筈峠を隧道五百メートルを開鑿し、縣道大鹿・和田線に通ずる産業道路を開設せば、一千二百万石にのぼる原始森林が開発されるとの
理由により、地元はその開設を強く要望しております。さらに松本・上高地の
改修工事に関する陳情もありました。
飯田復興状況、飯田市は昭和二十二年四月二十日大火災によりまして、飯田市街地の八割、三千五百七十七戸を焼失したのでありますが、当市は市民一致團結して次のような復興防火都市計画要綱をきめ、計画完遂を期したのであります。すなわち一、地形と同市火災史からして、火元地区となる風上地帶を緑地帶とすること。二、市街地は三箇の防火地帶によ
つて区画する。三、農業用水を防火用にも使用可能にするとともに、市内二十二箇所に貯水槽をつくる。四、公共用地面積は從來五%であつたのを三〇%とする。五、都市計画地区内の区画路線を連続形としてここに幅員ニメートルの道路を設ける。六、上下水道の
改修新設をはかる。七、寺院墓地の整理を合理的に行う、でありまして都市計画上最も困難とされている区劃整理については、全面積二十一万坪に対し、公共用地は六万八千坪となるので、
区域内土地所有者はその所有地の三〇%を無償で提供せしめ、各町内ごとに自主的に提供地の決定と町内仮換地処分の処理を実行し、市は此の提供地によ
つて公共用地のためのつぶれ地と化したる、土地所肩者に、それぞれ権利地籍の仮換地処分を行つたのであり、これは二十二年六月下旬より僅々二箇月余をも
つて完了したのでありました。國庫
補助は昭和二十二年度四百十二万円、二十三年度千百二十万円でありまして、都市計画において四〇%完成、建築復興においては実に八五%の復興ぶりを示しております。
天龍川上流直轄
工事、天龍川は源を諏訪湖に発する山地
河川であります。山林及び支派川の荒廃は土石の流出となり、上流部分はほとんど未
改修のまま放置されており、一方発電ダム築造の結果、土砂事の堆積により河床の上昇を見、ために耕地の流失、堤防の欠壊等が頻発しております。特に昭和十三年及び二十年に大
災害を受けております。このため昭和二十一年より
政府はこの上流地域を直轄
区域に指定し、流域延長七十キロメートルの
改修を目途として、総
工事費十六億四千万円を計上、二十二年及び二十三年には、おのおの二百六十八万円及び千四百三十万円が支出されました。
本直轄
工事の重点は築堤、掘鑿、護岸等であり、今年度は天龍峽地内の処理及び昨年度築堤の延長を実施する予定であります。泰阜ダム(自発施行)は、当初その背面水は天龍峽下流までという計画であつたが、本支派川より流出する土砂の堆積著しく、ために天龍峡上流川路、龍江、松尾の三村は昭和十三年、二十年と背面水の影響により被害を増し、ついに浸水面積は二百五十町余に及んだのであります。このため二十三年八月縣、日発、
建設省三者談合の結果、川路村地先の築堤、水制
工事を実施するため、日発は千三百万円縣に納付し、縣は
建設省に
工事を依託し、目下約千メートル程度の築堤を完成しているのであります。天龍峽地内は洪水時の水位は十メートルの上昇を見、この峽内にある死人岩と称する岩石を撤去することにより流通を容易ならしむべく、計画しているが、地元は観光的見地より一部反対しております。現在ダム背面には八百四十二万立方メートルの土砂堆積があると推算され、目下日発においては、排砂路二百七十メートルを築造中で、ほぼその九十パーセントを完成しております。なお本ダムによる被害と同様なものとしては、犀川水内ダム及び姫川上流ダムがあげられま
砂防工事及び地すべり
対策、本縣の山地は急峻であり、加えて濫伐等によ
つて土砂の流出はなはだしく、天龍川支派川には多少の
砂防工事を行
つてはおりますが、いまだ山地崩壊著しく、特に天龍川中最も土砂流出の多い三峯川、小澁川の
砂防はいまだ完全でなく、その完成が強く要望されております。
犀川、千曲川流域等北信は特有地すべり地帯であ
つて、第三紀頁岩の風化による崩壊及び茶臼山のごとき地下水による廣さ三十町余、深さ三〇メートルに及ぶ大地すべりがあります。前者については各所に
砂防堰堤を構築しているがいまだ十分でない。後者については匍行性地すべりで粘土と流紋岩が地下水の呼吸によ
つて起るものでありますが、これまで行
つていた
砂防堰堤等は小規模にして用をなさず、また地下水の除去のため蛇籠を入れて排水を行わんとしたが、これが匐行の跛行性によ
つて、
効果をあげ得なかつたありさまで、現在一ケ月一〇メートル程度の速度をも
つて進行している
状態でありまして、これをいかに防ぐかについては、目下
建設省土木研究所に依頼し
根本的研究を行
つています。縣としては二十三年度
災害復旧として四百万円を投じて
砂防堰堤を構築中であるが、
予算が下足のため堤頂一・五メートルが未完成のありさまであります。縣及び地元ともにこの堰堤の完成によ
つて匐行を一時的にも停滞せしめ、その間に
根本的研究と結論を見出さんとしております。
以上調査の概略をごく簡単に申し上げた次第でありますが、これに対し次の様な所見を持つた次第であります。すなわち第一に名古屋—長野—新潟間路線に関しては本線路の
経済價値を
根本的に究明し、これが
改修計画は
建設省をして、一層検討せしめる必要があると思います。また地元における
國道編入の要望は
日本本州中央部の唯一の横断道路として最も熱烈でありますが、これも本路線の
経済價値をも勘案して決定されるべきものでありますが、近く改正を期待せられる道路法の検討と相ま
つて本
委員会において十分審議していただきたいと存じます。
第三に飯田市都市復興計画は官民の協力によ
つて異常の進捗を示しており、もう一息というところまで参
つており、また区画整
理事業もほとんど完成に近い
状態でありますので、時たまたま全國的に区画整
理事業再検討の時期に直面しているときにあたり、本計画事業のごとく、最も成績優秀なものは重点的に取上げて、向う二年ないし三年間の中に完成せしむべきものと
考えます。
第三に天龍川上流直轄
工事につきましては、できる限り縮少
予算のもとに有効適切なる施工をなすほかないと思います。また
砂防工事予算について、は、仄聞する所著しく削減せられるようでありますが、天龍川の治水はまず
砂防にあるというべく、本年度より本格的
砂防工事に着手すべきであると
考えます。
第四に、泰阜ダムの背面水による沿岸耕地の被害
防除については、自発、縣、商工省、
建設省において、さらに検討してすみやかなる
処置を講ずべきものと信ずるとともに、今後の電源開発に関する建設業の一元化に関しては、本
委員会においても重大なる関心を拂い、かつ一元化に努力すべきものと
考えます。
第五、長野縣下
砂防工事に関しては、山地
河川の特殊性と山林過伐の状況より、
河川改修より一層優先せしめる必要があると思います。縣下諸
河川の
砂防工事の成果が下流数縣の被害を軽減することを思えば、本縣における
砂防工事の重要性も一層明瞭となることと思います。
第六、地すべり
対策については、特に茶臼山のごとくいまだ
根本的
対策が究明されておらぬ今日においては、いたずらに結論を急ぐことなく、ます匐行速度を減退せしめ、その間に
根本対策を究明すべきものと
考えます。それがためにも現在未完成のまま放置されている
砂防堰堤の完成をすみやかに完成すべく、特に
政府に要望すべきであると思います。この六百万立方メートルに及ぶ大地すべりが、山麓全村民の生活安定に及ぼす影響重大なることを
考えるとき、全村移住せしむべきか、あるいは二千万円の
予算を投じて一應村民の納得する應急
工事を完成するか、
政府においても
根本的
対策を考慮されたいと強く要望するものであります。また犀川、土尻川沿岸の崩壊も下流新潟縣下に及ぼす被害を
考えるとき、一層徹底する必要があると思います。ここにおいても山林
砂防と渓流
砂防の一元化によ
つて僅少
予算内においても一層
効果をあげることが必要であろうと存じ、本
委員会はこの点に関しても重大なる関心を拂うべきものと固く信ずるものであります。
以上六点につき所見を申し上げましたが、長野縣に関しては
砂防工事の本格的着手が、
河川、
改修、ダムの背面水問題等あらゆる問題を解決するかぎであります。この点に関し
政府側においても一層の認識と努力を要望するものであります。
以上今回の調査にあたりまして
派遣委員を代表いたしまして御報告申し上げる次第であります。