○山田佐一君 私は総理の
施政方針演説及び安定本部長宮の経済
演説に対し、民主自由党を代表して
質問をいたすものであります。
先ず第一に、吉田総理は、現
内閣が少数党
内閣であるから、自己の信念と党本來の
政策とを実施
実現するためには、何を措いても
解散を断行し、総
選挙により絶対多数を獲得して
内閣を安定せしめたいというふうに承わりました。そこで、果して希望
通り過半数を獲得し得る確信がありまするかどうか、或いは
選挙のことでありまするから、不幸にして過半数を得られない場合には、他の
政党との連立方式を採るがごときお
考えを持
つておられるかどうか、先ずこの点をお聽きいたしたいのであります。私がかくのごときことをお尋ねいたしますのは、新憲法下第一回
國会以來の片山、芦田両
内閣の実情に徴して、総理がすでに予見せられたごとく、
政策協定による連立
内閣が如何に無力弱体にして無責任なるものとなる虞れのあることが明瞭だからであります。(
拍手)即ち片山
内閣は、施策の効果は属して
國民道義の高揚によると言い、後継
内閣芦田
首相又、
國民道義心の発揚を
國民に強要しながら、相次ぐ疑獄事件を作りつつあ
つた事実が今日明らかとな
つておるのであります。財界人の贈賄、官界人の汚職、政界人の腐敗、果ては前
総理大臣芦田氏に対し逮捕令状が発せられるがごとき前代未聞の不祥事を惹起し、
國民は唖然として言うところを知らず、茫然自失という態であります。
吉田首相は先ず第一声に、官界、財界の粛正という宣言をなされましたが、
吉田内閣の再現は私はやや遅過ぎた感があるのであります。なぜならば、
國民は、
政治家というものはこんなにも口と腹が違うのかという感銘を受けましたので、これは我が國今後の
政治運営のために誠に遺憾千万に存ずる次第であります。(
拍手)即ちこの
國民の
政治に対する惡印象を拂拭するためには、
政府におきましても並々ならぬ努力が必要と
考えられるのであります。
國民は今や清淨にして且つ強力なる
内閣を待望しておるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)どの閣僚を見てもどの政務官を取
つて見ても安心のできる
政府にして、初めて
國民の信頼を博し、官界、財界の粛正ができるのでありまして、先ず
國民に絶対安全感を與えることが緊要と思考いたしまするが、この点に関する総理の信念の程をお伺いいたしたいのであります。
次に世上一般の氣風に関してであります。敗戰後、賭博心が盛んにな
つているところへ、
政府みずからが百万円の宝くじとか、スピード三角くじなどを費出して、盛んに
宣傳して
國民の射倖心を煽
つておりまするが、このような氣風の横溢するところ、疑獄事件や各種の犯罪が跡を絶たないのも止むを得ざる次第と存ずるのであります。一攫千金の夢を煽り、闇肥りの成金風を吹くがままに放任して、尚且つ各界の粛正を唱えても、これ百年河清を待つにひとしいと思考するものであります。又一方この時こそ、官界には清貧に甘んずるの気概と無骨を有する人格者を登用して、腐敗官僚を一掃する必要があると
考えるのであります。現在のままに推移するならば、第二、第三の疑獄事件の発生も敢て絶無なりと断言することはできないと思うものでありまするが、これらの点に関する
首相の御
所見を承わりたいのであります。
次に経済問題についてお尋ねいたします。今日財界の一番重要な問題は爲替レートの一本という問題であろうと思います。内外の情勢より見ましても当然一本レートを設定しなければならないものであり、
國民も亦一日も早くその
実現を希望しておると思うのでありまするが、ただこれが実施の時期が問題であります。先般の商工
委員会における小林政務次官の
説明によりますと、一ドル三百円乃至四百円にて來年の秋頃に
実現するのであろうとのことでありましたが、それには今からこれが準備に着手いたさねばならんと思います。現在輸入品について一ドルに対し二百二十円より千百円ぐらい、輸出品においては二百九十円より八百円までという、その中に非常な大きな開きがあるものを早急に一本に設定するということは、決して簡單にできる問題でないと思います。即ち現在高率に取引されておる商品の
産業は、膨大な利潤を取得しつつあるにも拘わらず、レートの引下げには百方手を盡して
反対すると思われます。又低率な商品の
産業はレートの引上げを希望いたしまするが、大幅に引上げられれば、國内
物價体系に変動を來すと思うのであります。輸入品についても亦同一理由により、業種によ
つて非常な不公平を生じ、常に業者間の摩擦が絶えないと思うのであります。このでこぼこを調整して一本に引きならそうということは決して容易なことではないと思います。両端より圧縮して或る線に定着せしめるここ、このことが一歩誤まれば、実に敏感な経済界のことでありまするから、直ちに大波瀾を生じ、一大パニックの襲来も決してないと保証することはできないと思うのであります。(
拍手)よ
つて今日から細心の注意を拂い、万全の策を以てその準備に着手せられんことを望むものでありまするが、当局の御
所見を伺いたいと存じます。
次に統制の大幅撤廃もとより賛成するものでありまするが、同時に許可事項の相当程度の廃止と残余のものの手続の
簡素化を熱望するものであります。一例を建築に取
つて見ましよう。
國民挙げて住宅難に喘いでおる今日、住宅を建築せんとしてその許可を臨時建築取締規則によ
つて申請いたしましても、なかなか許可が得られないのであります。実に怪しからんと思いまするが、実際でありまするから、いたし方がありません。そこで止むを得ず不必要な古住宅を買受け、移轉建築として申請して、その許可を得ておるという
方法を随所で採
つておられるのであります。これは手続だけの問題でありまして、実際は闇市場から入手した資材によ
つて立派な新築家屋を建築しておるのであります。ただ申訳的に屋根廻りに古材を少量使用しているだけでありますが、これが又不思議にも古材使用の移轉家屋として落成檢査も無事パスするというのが今日我が國における実情なんであります。かくのごとくいたしますることによ
つて、そのままに置いておけば五年や十年は住宅として結構使える家屋をわざわざ取り壊し、而もその材料の大部分は燃料として消費されてしまうのであります。一方住むに家なく、未だに地下道
生活をしておる者が多数あるということを見受けられる現状において、爲政者たる者大いに
考えなければならない問題であると思うのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)私見を申しますれば、住宅建築には認可制を廃止して自由に新築ができるようにしたら如何かと思うのであります。勿論これは外部からの監督も必要でありましよう。又相当程度の新築税を課することも
考えられます。かくすることによ
つて國家財政の一助ともなり、又建築する建築費にしましても、今日のごとく認可を得るためにその道の人に相当の報酬を出したり、或いは不必要な古い家を買
つたりすることを思えば、新築税くらい喜んで納入することと
考えられます。この辺に関する所管大臣の
所見を承わりたいのであります。
次に
商工大臣にお尋ねいたしたいと思います。全國に跨がる繊維業者の経済違反事件と、資材割当に絡む係官の贈賄は、大は一流の紡績会社から、小は五台、十台の織布工場に至り、尚且つ全國の大小指定販賣業者等殆んど挙げてこれに関連なき者なしという状況を呈しておりまして、業界のため、否、
國家のため誠に遺憾千万の次第と存じまするが、かくのごとく業者盡くこれ違反者というがごときは、これはひとり業者の不徳行爲としてその責任に帰するものと軽々しく論断することができまするかどうか。その
原因は法の欠陷か、行政上の不備によるものとも
考えられまするが、この点に関して所管大臣は如何なる
見解を有せらるるや、お伺いいたしたいのであります。私の見まするところでは、そのよ
つて來る
原因の一つに、公定價格と闇價格との隔りが余りにも大きい。少量の闇流しによ
つて膨大な利益を得ることが経済人の心理を刺戟し、挙げて違反に向わしめるという事実も数えることができると思うのであります。又地方、税務署におきましても、当然業者全部が闇行爲をしているとの独断の下に所得更生決定をいたしまするので、たまたま正直な業者がありましても、勢い闇取引をせざるを得ないようなり、所得の申告もごまかさざるを得なくなるのであります。業者はこの重税に苦しみ、心ならずも再び違反を繰返す結果となり、
原因と結果との惡循環は底止する所を知らずというのが実情であろうと思うのであります。一例を挙げて見まするに、愛知縣の長坂俊太郎氏のごときは今回二千四十一万円という所得の更正決定を受けたのであります。これは全國第二位でありまするが、長坂氏は余りにも多額の決定に驚きまして、審査の請求をいたしましたところ、直ちに土地の税務署と、名古屋の財務局と、檢察廳と三者が一緒に乘込んで來て、大がかりでこの家宅捜索をいたしたということであります。かくのごとき威嚇的行爲に出るということは、民主
主義の徹底を主張する
政府の下において如何かと存じまするが、所管大臣の御
見解は如何でありましようか、この点を問い質したいのであります。(
拍手)実際に純益二千万円で、その
通りの更生決定を受けますると、所得税だけでも一千六百万円かかります。その他に事業税やその他の地方税を加算いたしますると、純益よりも遥かに多くなるのであります。かくのごときことが実際の常識で判断して黙視することができましようか。これで事業家の
生産意欲の向上を図ることができるでありましようか。大いに
考えなければならない現況であると思うのであります。
政府は
予算編成の際、多額の税收入の増加を見込んでおりまするが、これにも限度があります。課税率も限界を超えているのであります。儲けても儲けても税金を拂うだけで実收入皆無とあ
つては、業者は一定の
生産と利潤を挙げればそれ以上の努力を惜しむというのも、これ亦人情の然らしむるところ、肯定せざるを得ない次第ではありませんか。(
拍手)よ
つて合理的、科学的に課税率を改訂して業者が正直に喜んで納税し得るようにし、且つ一定の合理的な利潤が業者の手許に残るようにいたさねばならないと思いまするが、大藏大臣の
所見は如何でありましようか、この点に対してお伺いをいたします。
次に治山治水の問題でありまするが、周東農林大臣は就任早々、治山治水に力を入れるとの言明があり、甚だその意を強うしているのであります。その具体的方策を承わりたいのでありますが、先ず私の
見解を二三申述べて見たいと存じます。先ず第一に、山林の所有権が確保されなければならないと思います。なぜならば、將來も私有権が確保される
見通しがあればこそ誰も一生懸命にな
つて働くのでありまするが、その私有権が確保される見込がなければ、一生懸命に植林しようとする者がないのが人情の赴くところであると
考えるのであります。なぜなら、今日植林いたしましても、その成果を見るのは五十年、百年先でありまして即ち眞に百年の大計であります。五年や十年では決してその効果は現れないのであります。或いは一部の人の唱えるがごとく、財産より生をる利潤はすべて不労所得と称して罪悪のごとく嫉視する世相の下においては、かような遠大な事業に熱を入れる者は少いでありましまう。(「その
通り」と呼ぶ者あり)六十、七十の老人が喜んで植林するのは
自分の生存中にその成果を見るがためではないのでありまして、これは又絶対不可能なことであります。これ、ひとえに孫や曾孫への遺産になることを樂しみといたしまして、或いは励みともいたしまして努力をするのであります。この心理を把握しなければ決して植林事業は成功いたしません。(
拍手)山はただ伐採するのみで後に植林する者がなければ荒廃に帰するのであります。勿論これだけで十分であるとは
考えておりません。治山治水は
國家的事業として、
國家の力によ
つて大規模に且つ急速になされなければなりません。併しながらこれには膨大な費用を必要といたします。一方
國家の
財源は御承知のごとく枯渇いたしております。
國民の担税力も亦限界点に達したと思われます。だからとい
つて放置すべき問題ではありません。
災害亡國と言われている実情に鑑み、この際、治山治水事業のために救國的な特殊の公債の発行を特にその筋に懇請して許しを受け、相当額の
財源を得るように計画し且つその
実現に努力する意思を持
つておられるかどうか。この点に対し農林大臣及び大藏大臣にお伺いいたしたいのであります。
凡そ
政治の要諦は、
國民に希望と光明を與え常に人心をして倦まざらしむることにあると思います。業者は
幾ら工夫努力をしても利潤は挙らず、
勤労者赤働けども働けどもその日の
生活に追い廻されるという状態では、前述の希望と光明に危惧の念を抱くようになりはせぬかと憂慮するものであります。かくのごとく推移するならば、経済の復興も文化
國家の建設も覚束ない限りであります。これは要するに食
生活が未だ安定していないためであると思います。二合七勺への増配によ
つて多少
國民生活の前途に光明を見出したのでありまするが、二合七勺だけでは足りない、どうしても闇食糧に依存しなければならないのであります。そこで
勤労者の
生活は苦しくなる、そうして賃上げの要求をする、賃上げをすれば
企業は赤字となる、そこで
物價の改訂が必要となるというふうに、
物價と
賃金の悪循環が進行するのであります。でありますから
賃金経済の三原則を飽くまで固執するならば、
勤労者は働けなくなり、延いては
基礎産業はその
企業の維持が或いはできなくなると思うのでありまするが、少くとも
勤労者が必要とする食糧を公定價格で確保できなければ、必ず無理を生ずると思うのでありますが、この点に関する安本長官の御
所見は如何でありましようか。この点をお伺いしたいのであります。例えば今度提出されました追加
予算を取
つて見ましよう。
政府は鉄道その他の料金の値上げをせず、ただその大部分は自然増收を以て收支の均衡を維持しまして、その苦心に我々は敬意を拂うものでありまするが、これによ
つて完全に
國家公務員の
生活が保証されるかどうか。他方これによ
つて農民や
中小商工業者に対する徴税の強行が憂慮される次第であります。これによ
つて農民、
中小商工業者の
生活が極めて重大な脅威にさらされることも予想されるのであります。又この問題とも関連いたしまして、苦境に喘ぐ
中小商工業者救済の道は、実に一にかか
つて融資問題の
解決であります。即ち中小
企業に対する融資は有効適切に実行し得る
見通しがあるかどうか。この点も併せて大藏大臣の御
所見を承わりたいのであります。
今や戰時中のあらゆる束縛から解放され新たなる
思想の下に、新たな
金融制度の
改革と民主
主義による
経済機構により、溌剌たる経済活動が許されることを熱望いたしまして、私の
質問演説を終る次第であります。(
拍手)
〔
國務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕