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証人(中島忠之君) それは大変御尤もな御質問でございますが、
ちよつと申上げるとお分りになりますと思いますですが、実は渡邊君は初め裁判官になるはずではなか
つたのであります。あれは中学校を出ておらんので、農学校なんです。非常に秀才であ
つたために、熊本の高等学校に行
つて、後に法科に行
つたんですが、農林省の文官試驗を受けたんです。そのときに
重政は選考委員なんです。多分廣田内閣ではなか
つたかと思いますが、島田俊雄氏が農林大臣じやなか
つたかと
記憶しますが、私
運動したんです、入れてくれと
言つて‥‥。文官試驗の成績も非常によろしいし、人物も非常にいいけれども、採用になるはずのところをどういうわけか採用になりませんでした。どうして採用にならんだろうかということをいろいろ研究をして見たところが、
余りに家が貧困だからということであ
つたらしいのであります。それで彼は非常に憤激しておりまして、一時私の社にも寄り付かんようにしておりましたから私呼び付けて、それじや行政官を止めて司法官試驗を取るかねと言いましたところが、司法官試驗はやさしいから直ぐ通りますよというので、受けて見給えと言
つたら、直ぐ通りました。併し農林省に採用されないくらいの、乞食と
人間との間くらいの家庭なんでありますから、折角通
つてやつを採用されなければ困るので、先輩にもお願いして、見習に採
つて貰
つたような次第でありまして、渡邊君の心底には、農林省の官僚というものには何といいますか甚だ面白くない
氣持があ
つたんじやないかと思うのです。殊に
重政氏であるとか、今の農林大臣の周東君であるとかいう人は非常に優秀な官僚で、農林省を志す
人間はみんな知
つておる
人間で、非常に尊敬してお
つたから、分らんものですから、そういうことを言
つたのでなかろうかと思います。不思議なこともあるものだね。採用のときには君を拒絶して、今又おべつかを言うのはおかしいというようなことがあ
つたのです。こういう話を申上げればよく分ると思います。