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1949-02-08 第4回国会 参議院 厚生委員会 閉会後第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十四年二月八日(火曜日)   —————————————   本日の会議に付した事件社会保障制度に関する調査の件   —————————————    午前十時二十六分開会
  2. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) これより委員会を開会いたします。本日は各国の社会保障制度に関しまする話を、厚生調査員内野仙一郎さんからお願いすることにいたします。
  3. 内野仙一郎

    説明員内野仙一郎君) 昨年の十二月一日でございましたか、社会党の参衆両院の方々からやはり社会保障についての理念的なこと、少し具体的に申上げますと、社会保障の基本問題についてお話せよというお話がございました。私伺いまして、一時間半ばかり喋らして頂いたのでありますが、そのときには社会保障の基本問題と申しますと、皆樣方のお手許にも國会図書館の方から配つてございます資料の第一号でございましたか、第二号でございましたか、これの最初に書いてございますように、実に基本問題が多いのでございまして、詭弁を弄するようでありますが、基本問題を決めることが実に基本問題であるというようなことを申上げまして、私の見ました角度からする基本問題を、一時間半ばかりお話したのでございますが、本日はその席上私の拙いお話をお聽き下さつた方もお出で遊ばすように心得ますので、重複して申上げますのも甚だ何でございますが、又今日はお聽き下さらなかつた方もございますと心得ますので、簡單に理念的なことを先ず二十分前後ぐらいお話さして頂きまして、それから各國におきまする社会保障の実情、実際どんなふうにやつておるかということについてお話申上げたいと思つております。  理念的のことを申上げますと、社会保障と申上げますることは、一口に言えば、先ず貧乏というものを如何に処理するか、貧乏対策であるといえましよう。それで貧乏と申しますものが御存知のように五つの眷族を持つておるというようにいわれております。先ず第一が欠乏、艱苦と申しますか、結局がつがつするということでございますね。物を欲しがるということと、それから又病氣、疾病、それから又無知、知識、関係のことが欠けておるということでございます。例えば衞生知識が欠けておるとか何とかいう意味でございます。無智、それから不潔、つまり汚いということ、それから又怠惰ということ、怠けるということ、この五つの眷族と申しましようか、この五つの要素から貧乏というものが、成つておるというふうに傳えられておりまするから、この五つのものをいかに縛り上げて処理するかというのが社会保障であるとも申せましようし、少し角度を変えまして余り学問的でなく申上げることにいたしますれば、マタイ傳でございましたか、新約聖書の中にございます有名な言葉がありますが、「すべて労する者、重荷を負う者は我に來れ、汝らを休ません」という言葉がございます。それから又、佛法の方で申しますと、いわゆる生老病死といつたようなこと、この外に遣棄防浪、遣棄は捨てられること、遣棄された、或いは放浪するということ、或いは失業するということ、人生におけるレ・ミゼラブルな問題、更に又、これはかような席で申上げるのは甚で何でございまするが、有名な社会小説に出て参りますし、レ・ミゼラブルというフランスのユーゴーの作がございますが、この序文の中にかような文句が出ております。下層階級による男の失意、飢俄による女の堕落、暗黒による子供の萎縮、こういつた社会的窒息というものがなくなるまではこのレ・ミゼラブルという本も無意味な本ではないであろうというようなことが最初の序文に出ておりますが、この言葉の中に出て参ります社会的窒息、こういつた社会的窒息をこの世から、社会から追放する手立てが社会保障であるとも申されると思います。今申げました社会的窒息、或いは又社会的不安と申しましてもよろしいのでございますが、こういつたものは御存じの通り、人間の殆んど発生と共に出発しておりまして、人間とは切つても切れない仲になつているわけでございます。往時は、極く昔の頃はけものにより人間が脅されておつた時代、それから又、外人種の侵入から非常に脅されておつた時代、それから又天災地変によつて人間が脅されておつた時代、かようなことを経て参りまして、現代におきましては、人間自身が拵えあげておる経済組織、その経済組織から出発した人間の生活不安、かようなものは今申上げましたように、アダムとイヴから現代に至るまで附きまとわれており、又將來もなかなかこれらのものが追放されるとは考えられないのでございます。この社会的窒息と申しますか、社会的不安というものを如何にして取除くかということにつきましては、二つの途が昔から考えられておりました、その第一は、私保險、プライヴート・インシユアランス、生命保險とか或いは損害保險というようなものでございまして、他は救貧救貧制度と申しますのは、御存じのように、お金持の方々がお金を出しあつて貧乏人を救うといつたような、つまり一方的なものでございます。貰う方ではそれは権利ではなくて與えられた物をただ受取るといつた救貧、この二つの方法が相当古くから歴史の上に現われて來ております。保險の方は遠くボリヴィア時代からローマ時代を経て今日に至つておるとか傳えられております。又救貧の方も殆んど宗教或いは宗教の発祥と共に考えられ、又実行されて参つたものでございますが、この二つのものが各々発達をいたしまして、次のようなものになりました。第一には社会保險というものに発達して参りました。即ち私保險社会保險というものに発達して参りました。一方又、救貧の方はどういうように発達して参りましたかといいますると、社会事業、更に又、社会扶助ソシアル・アッシスタンスというものに発達して参りました。これがどういうふうに始つたかというのは、どういうのを言うのかと申しますと、社会保險と申しますものは、御存じのように強制による保險という意味でございます。保險には任意保險強制保險の二種がございます。これを社会保險と俗には称しておりまするが、本來の姿はやはり強制保險なんでありまして、好むと好まざるとに拘わらず、一定の職業に就いておる者というものは、この保險に入らなければならない、掛金を月給から差引かれてしもうという仕組み、つまり被保險強制化されて社会化されたものとも言えましよう。一方又、救貧から発達して参りました社会扶助はどういう発達を遂げたかと申しますると、社会扶助と申しますものも、從前の救貧違つて、これは一つの受ける権利を與られたものである、例えば與えられた金額が少いならば、これは私の最低生活を維持するに足りませんから、もう少し余計頂きたいということも言えるわけでありまするし、又取扱い、その他について不服のことがあれば然るべき係の方へ訴えて出て、それを審査して貰うことができるというふうになつて参りました。現在アメリカにおきまする社会扶助の大部分は皆この審査を請求を求められるようになつております。かように次第に発達して参りましたこの被保險社会保險の途、又もう一つ救貧社会扶助の途、この二つの途は、現在及び將來において如何に発達して行くかと申しますと、不思議なことには、この二つの途は交叉しようとしておるのであります。もう少し具体的に申上げますると、社会扶助の方が社会保險的方向に向つて進んでおり、一方又、社会保險の方は社会扶助的な方向に向つて進んでおるというのが現在及び將來の世界的な動きであるのであります。ここのところはちよつと黒板でもございますと図表を書いて御覽に入れますとよく御了解ができると思うのでございまするが、図表のない関係上、一つの國の例を挙げて私お話いたしたいと思いまするが、ニユージーランドという國がございます。これはイギリスの自治領で、大きさは大体我が國と同じくらいでありますが、このニユージーランドにおきまする社会扶助はどういうふうになつたかと申しますと、一般の國民から掛金を取る、全國民からすべて掛金を取る、但し、その取り方は所得に比例して取る、例えば一ポンドの所得のあるものならば、それに対して何割を取る、でありまするから、お金持ちの方は相当多額に取られることになりまするが、これは又後に明日でも多分ニユージーランドのことを細かく申上げまする際にお話申上げます。つまり掛金を取るといつた方向に進んでおる、と申しまするのは、元來社会扶助は一般國民の税金によつて賄われるべきものであるに拘わらず、これは税金以外に設けられた掛金制度によつて運営されて行こうとする、社会扶助というものは社会保險という方向に進んでおるという証左になると思うのであります。一方社会保險制度は如何に社会扶助の方に近付いて行つてるかと申しますると、これも一つの例を挙げて申しますると、ソ連邦ソ連邦にも立派な社会保障制度がございます。これにつきましても、明日あたり各國の事情を申上げまするときにお話をいたそうと思いまするが、ソ連邦におきましては、被保險者……、社会保險の專門語が出て恐縮でございますが、保險に加入しておる者、これからは一文も掛金は取らんのであります。つまり事業主金額負担ということになるのでありまするが、御存じのように國家資本主義でありますところのソ連邦には事業主というものはないのであります、一九二七年前後までは事業主も多少あつたかのごとくに傳えられておりまするが、段々減つて参りまして國家自身事業主でありますから、國の財源によつて賄なう、これを角度を換えて見ますというと給付を受ける者はただである、國が結局支給するということが即ち言葉を替えて言いますと非常に給付から発達して來た社会扶助というのに似ておるというようなわけで、この社会保險社会扶助は各々交叉した方向に進んでおるのでありまして、この交叉しておる点を捉えて一つの組立てられたものが社会保障であるとも言えると思うのでございます。かようなわけで、社会保障の要素は結局社会保險社会扶助とこの二つから組立てられておるということが言えましよう。社会保障の定義と申しますのは、只今も私がお話いたしました中に織込んでおるわけでございますが、諸学者の学問的に言つておられますのをちよつと簡單に二、三申上げますとかようなことになります。社会の各員が曝されておるところの一定の危險に対して適当な組織機関、オルガンですが、機関を以て社会が設営するところの保障である。とこうまあ言えますし、又これは末高信教授の御説でありますが、國民に対して原因と如何を問わず救護策を……、これの生活を護ることであつて從つて國民に対して一定所得保障されておる、一定生活水準の維持よ擁護せんとするものである。学問的に申上げますればかような定義が下されるわけでございまするが、又社会保障と申しますものは、次のような背景がなければ意味がないとも言われております。即ちその背景の主なるものは次のような五つのものがあると言われております。雇傭、エンプロイメント、雇傭を促進して、その雇傭を高いレべルにおいて維持すること、それから次は國民所得のより均等なる分配及び増大えの考慮がなされなければならないこと、これから衣料及び住宅の改善方策が考えられなければならないこと、衣料というものは無料で支給され、而も衣料内容は高度に高いレべルを保たなければならないということ、一般的及び職業的教育の機会というものが、チヤンス、機会が拡げられなければならない、といつた五つの背景の上に組立られたものでなければならない、まあ一言にして言いますれば國が、國民がすべての機能を挙げて社会不安にぶつかつて行くということが社会保障であるとも言えましよう。以上のようなことは、先日大体社会保險に関しまする理論と申しますか、要素と申しますか、こういつたことの解説の時に参議院の若干の方々にお聽き願つたことでございます。理念の方面のことはこの程度に止めて置きまして、御存じのような、我が國も社会保障というものを採上げなければならなくなつたわけでございます。この採上げなければならなくなつたわけには三つの原因があると考えられます。第一にはこの社会保障への途ということはもう世界的な動向である、好むと好まずとに拘わらず民主主義を標榜する國々がとらなければならない世界的動向であると言うことができるのであります。即ち今次の欧州大戰、太平洋戰爭におきまして勝つた側の國々は皆これ社会保障への途を推進或いは実行しておる國々ばかりでありまして、イギリスアメリカソ連邦、デンマーク、ニュージーランド、スエーデン、ベルギー、オランダ、チェッコスロバキヤ、キリシヤ、といつたような國、及び南方諸國、ペルーとか、アルゼンチン、その他殆んど社会保險から社会保障へ切換えて参つており、中には又切換えを完成したところもあるのでございます。かような次第でありまするので世界的な動向であると言えるのでありまして、日本だけがこれを顧みないでいるということはあり得ないことであります。これは参考までに申上げるのでございまするが、ドイツ御存じのごとくに世界におきまする社会保險というものの創始國でありまして、一八八三年でございましたか疾病保險日本で申せば健康保險というものを打樹てまして、その後社会保險というものを漸次改善推進して参りまして、部面も殖やしいろいろの改善が行われて完全な社会保險が行われたのであります。これはドイツが自分で誇示しているばかりでなく世界の学者実際家も認めておるところでありまして、社会保險に関する限りドイツは最高の発達を遂げておつたと言えるのでございますが、その末期におきましてはそろそろ社会保障への途というものが世界中に唱えられておつたに拘わらずドイツはこれに耳を藉そうとしなかつたのであります。社会保險というものは各部分が独立して各々その特色を活かしながら進んでおる社会保險の本來の姿があるのである、これを統一して社会保障社会扶助を一緒くたにして社会保障といつたようなものにまで推進することは好ましくないということをドイツの学者が言つておりました。さようなわけでドイツ法系社会保險は、御存じのように我が國もドイツ法系社会保險の影響を非常に受けておりまして、早い話が厚生年金のごときは私も多少タッチいたしましたが、ドイツ労働者年金保險法の飜訳の近いものであつたのじやないかと思いますが、さようなドイツ臭のあつたものが、この際復帰せられなければならない状態になつて來たのであります。なぜかと申しますると、ドイツ社会保險と申しまするものの底を流れておるものにはどうも富國強兵型と申しましようか、戰爭型というようなものがちらほらと見えるのでございます。ビスマルク社会保險を打樹てましたときはこれは瀬川博士の歴史の本、その他の歴史の本を御覽になつても分ると思いますが、世界的な重大事件でありまして、相相もう四、五百ページの本にでもなりますれば必ず相当大きな項目が載せてあるくらい社会保險の樹立というものは大きな問題であつたのでありますが、その当時のビスマルクの心境と申しましようか、ビスマルクというものを研究してみますると、フランスのために一敗血に塗れて何とかして復讐せねば、それには國民を打つて一丸とした富國強兵策を講じなければならん、同志が対立しておるようなことでは國が強くならない、戰爭には強くなれない、それには社会保險が最も適切であろう、かような低流理念加つてビスマルクは考慮したのではないかと、これは私の個人の考え方でございますが、考えております。又このことはヒットラーの最も盛んであつたナチス時代におきましても、社会保險というものを戰爭に調整するということアレンジするということに異常の努力を拂いましてナチスがあれ程に欧洲を席巻し得たのも社会保險という裏附けがあつたのだと考えられます。健康を保つこと、又最低生活を保つことにおいて社会保險が如何に強力に働いたかということは遺憾ながらこれを認めなければならないのであります。かようなわけでドイツの型の社会保險の中にはどうも富國強兵という考え方が流れておるような氣がしていけないのであります。今日丸で樣相の変つた民主主義になつた日本はこういつた富國強兵型のアイディアが多少でも織込まれておるものは採上げるべきではない、寧ろ英米型の社会保險考え方、すなわち貧乏というものを如何に処理し、除こうかという点から出発した社会保險從つて社会保障、これらのものを我が國は受け入れなければならないのではないかと思われるのであります。有名な著書に貧乏線というのがありますが、イギリスフロントリーという方が書かれた本でありますが、皆樣方もお読みになつたであろうと思うのでありますが、この本など開いて見ましても、余り理論面は書いてなくて、フロントリーが或る小さな町で各貧乏な家庭を訪問しまして、昨晩の食所はどんなものを食べておりましたか、そういうようなことをそこの主婦に尋ねて、そのお婆さんは昨晩はバタも切れておりましたので、ヘットを少し黒パンにぬつて食べました。それでお父さんの帰りは遅かつたですかというような、俗な言葉で申しますならば人情話で初まつておるというようなところから段々に入つて行つて而もその本全体は貧乏というものを如何に処理するかどうかというようなことについては統計、数字その他があつて非常に入念克明に書かれており、貧乏というものに対する眞面目な努力というものが非常に認められるのであります。かような貧乏線というような態度が英米型の今日の社会保障制度への考え方を齎らしたものだと思いまするとき、我々どうしても社会保障というものをドイツ型の社会保險から拔け出て、英米型の社会保障に進むことは民主主義日本の進まなければならん途だと思つておるのであります。大分横道に外れましたが、結局世界的動向である。それから第二番目にはどうもこの社会保險局人間といたしまて、社会保險のことをとやかく申すのは心苦しいのでありますが、新聞、雜誌、書物で見るところから察しまするのに、社会保險というものは誠に不評判である、評判が惡かつた、昨年の改正で各社会保險部門も非常に改善せられたのではありましたが、その直前あたりにおける新聞の投書欄その他を見まするというと、健康保險はお医者さんが差別待遇をする、厚生年金は僅かな年金しか呉れないでこれでは最低生活はとても維持できない、その他喧々囂々たる非難の声の方が多かつたのであります。而も又社会保險における横の連絡がとれておらない、標準報酬等級のごときもどうもばらばらである、こういうことは面白くないというような世間の評判が大変惡くなつて、何とかしてここで社会保險を統合するなり、或いは又社会保障という別のより大きなものにまで伸展しなければならないという立場に追い込まれておつたということでございます。これが二番目の理由。最後にはこれは最も直接の原因でありますが、昨年の七月の十五日にマツクアーサー元帥から我が政府に当時の芦田総理大臣に対しまして、アメリカ社会保障調査團報告書が手交されたのであります。これは大体日本社会保障を如何に組立つべきかということについてのアメリカの專門家の意見を集めたものでありますが、この勧告書が手交され、この線に沿つて我が國は社会保障を樹立しなければならない、決して命令ではありませんが、命令と解されるようなものを受取つたであります。かような三つの原因から、どうしても社会保障というものを日本は眞面目に研究樹立しなければならないということになつたわけでございます。  この記会にちよつと今申上げました米國社会保障調査團勧告書と申しますものの内容及びその性格について簡單に御説明を申上げ、又昨年の十二月の上旬にやはりもう一つ勧告書が出たのでございます。それはアメリカ医師学会日本で申しましたら医師会と申しまするようなものが、やはり日本社会保險及び社会保障研究に参りまして、その結果一つの結論を出しましたものをマツクアーサーに提出したわけであります。それをマツクアーサー日本側に手交したわけでございまし、これもやはり一つ勧告書でありまするが、かようにして二つ勧告書日本側が受取ることになつたのであります。それで第一の勧告書と、第二の勧告書には、これは皆樣お読み下さいますと分りまするが、多少の矛盾撞着がないでもないのでありまして、これを我々が如何に受入れるかという点について、少しこの二つ勧告書内容をお話し申上げたいと思います。  最初のマツクアーサーから総理大臣宛に手交されましたものは、我々の解釈ではこれは極く正式なものでありまして、我が國の過去における社会保險の実績というものが細かに分析、解説されておりまして、恐らく我が國、或いはアメリカ以外の諸國を見ましても、成程日本社会保險というものはかようなものであつたかということが掴み得るように書いてあります。統計、数字、その他非常に研究して、正確なものが載つております。それからそれには勧告が附いておりまして、現在の社会保險を如何なる方向に向つて推進して、社会保障を組立つべきかということについて第二部に謳つてあるのでありますが、これによりまして大体現在ありまする日本の各種の社会保險強制社会保險ですが、健康保險厚生年金保險失業保險労働者災害保險船員保險、こういつた強制による社会保險は、その内容長期給付であらうと短期給付であらうと、これを一本の制度にコンソリデート、統合しなければならないということであります。一方又一般國民に対する、すべての國民をも加入せしめるという意味社会保險は、現在行われておりまする國民健康保險、これは御存じのように農山漁村の一般の人々、つまり自営者と申しまするから強制保險に入らない人たち、つまり雇われていない人たち、こういう者を対象として、任意に設立された組合で以て健康を保持して行こうという組合でありますが、こういつたすのを市町村運営の下に、從前より以上に適確に運営して行くというザゼスションを受けております。つまり日本の取敢えずの組立てらるべき社会保障と申しまするものは、今ありまする社会保險を統合して一本にした制度と、もう一つ國民健康保險を強化したものとこの二本の上に組立てらるべきであるということを勧告しておるのであります。これは制度の在り方についての勧告でありますが、その外はこういつた以外の社会保障に関する仕事は厚生省において取扱つた方が適当であるということが謳つてございますことと、昨年十二月か議会を通りました社会保障制度委員会でございましたか……、審議会でございますか、内閣同列の、強力なる政府に勧告することも可能であるところの、而も國会議員をも含めた強力な審議会を作らなければならんということ、それから又、我が國で今まで非常に欠けておつたところの被保險者の声というものを反映せしめた審査請求制度というものを確立しなければならんということあたりが、大体主な勧告であります。この勧告内容につきまして実際にすでに実施しておるものがあるのであります。最後に申しました人民の声を反映しなければならないという審査請求制度と申しまするものは、すでに一昨年末あたりからレフェリー制度と申しまするものが全國的に確立いたしまして、レフェリーと申しまするというと挙鬪の試合に出て來ますあのレフェリーと同じ言葉でありますが、アメリカではこのレフェリーという言葉を使つております。我々には余りぴんと來ませんが、又この審査請求制度の係官のことをイギリスではアムパイヤーと読んでおります。いずれにしましても簡易にお互いに言うことを聞合つててきぱきと処理して行こうというものが主眼であります。かようなものが日本社会保險の各部門にできておりまして、不服の者はどんどん愬える、誤つた決定を受けた者はこれを是正して貰うことができるようになつておるのであります。又御承知のように國民健保險は昨年の改正によつて市町村に運営させるという方向に切替えまして、從前は組合を設立してその組合がやつて行こうというのでありましたが、それでは弱いからというので、市町村國民健康保險というものに切替えましたから、この勧告書のある部分はすでに実行済であるとも言えるのでございます。それから先程申上げましたこの勧告書の性格でございまするが、この性格その他につきましては、アメリカの方でも余り言つておりませんし、我が國の方面では勿論余り説がないのでございまして、その性格如何というものを私共随分疑問に思つてつたのでありまするが、最近私九州の方へP・H・Wの國民健康保險の係をしておりまする人と一緒に旅行しましたが、その講演の中でかような言葉が出ておりましたので、まあこの性格を掴む一つの参考になると思うのであります。その講演の中で……、この勧告書の中で言つております言葉は次のようなものでありました。それはこの勧告書日本國民に対して指導と参考になるであろう、それからこの勧告書は法律でもなければ規則でもない、而もこれを押付けるものではない、これは日本がこれから社会保障を組立てて行くのに対して直面するであろういろいろな困難な諸問題を如何に解釈し、如何に解決して行くかということに対する米國における專門学者の意見を集めて編集しておるところのものである、かように言つておるのでありますから、意味の……精神に從つて御解釈願いたいと思います。それから先程もちよつと申上げました第二回目の勧告と申しますのは、この性格は甚だはつきりしておらんのでありますが、どうも私の推測いたしまするところ、或いはP・H・Wから片言隻語を聞いておりますところを総合いたしますると、この前に出した勧告書というものは社会保障の医療の組織をいわゆる政府側のお医者樣なり技官なりの方々が組立てた案である、それだけでは甚だワン・ザイド・ゲームに終る虞れがあるから一方的であるから、これは業者であるところのお医者樣の御意見も尊重しなければならないという趣旨からアメリカ勧告團を、調査團をアメリカのお医者側の調査團を、開業医側の調査團を日本に呼んでその人たちの意見を聞いて置こうという意味からではなかつたのであろうか、又その内容におきましても言いたいと思うことを一應言わせようと、從つてその今度出ました第二回の勧告書におきましては、第一回の勧告書に書いてありまする社会保障の医療組織については少しく反駁しておるところもあり、氣の入らないと明らかに言つておるところもありまして第一回に出ました勧告書は皆樣方のお手許に行つておりまする非常に厖大な裏附のあるものでページ数にいたしますと、日本の本にいたしますと、確か三百ページか四百ページになりましたが、字引然たる本でありますが、この二番目の開業医の出しました勧告書日本語に印刷いたしますと、十数ページぐらいパンフツト級のものでございまして、内容の裏附も数字等も一字も載つておりません。單に日本の全体主義的な傾向というものを非常に非難しておりますことと、医療の組織というものは民主主義方向に組立てられるという点についてのみ我々が賛成するんだといつたようなことが軽く書いてあります。さようなわけで而もこれはマツクアーサー元帥から総理大臣に手交されたものではなくてP・H・Wの局長であられるサムスさんからマツクアーサー元帥に差出しましてマツクアーサー元帥から日本の関係者側という言葉を使つてつたかどうか知りませんが、関係者側に配るものであるというところから勿論厚生省も頂きましたが、日本医師会等にもまあ貰つておりますわけで関係者に結局配つた勧告書と申しますま昼報告書なのでございますわけで関係者に結局配つた勧告書と申しまするか報告書なのでございます。從いまして、保健局といたしましてはどちらかと言えば参考になる勧告として受取つておるといつたような程度ではないかと思つております。さようなわけでありまするので、二番目の勧告書と申しまするものは、これは我が國の医療関係者並びにこれが組織しておる團体といつたようなものにとつては非常に参考となるのではないかと思つております。最後に申落しましたが、アメリカから受けましたる勧告書は、今申上げましたような性格及び内容を持つておるものでありまするが、私が世界各國の、各國と申しましても深く見たわけではございませんが、私も本の上で見ましたもので、或いは大使館とか渉外関係、日本にありますところのものを尋ねた知識に過ぎないのでありますが、そういつたものを見ますると社会保障として最も完成された姿のものを、日本勧告しておるものではなくて、大体において現在アメリカにおいて行われておる社会保障、これも明日当りアメリカ社会保障を御説明いたしますときにお話いたしまするが、比較的未発達の状態にある社会保障の第一段階と申しましようか、そういつた程度の社会保障日本で実施してはどうか、計画してはどうかというようなことを勧告しているものと解釈いたします。これはイギリスのような完成した制度を持つておりまする國から見ましたならば、非常に程度の低いものであるかも知れませんが、勧告書に明らかに書いてございまするが、日本のような敗戰、而も経済的に非常に困難になつておる國が組立てる社会保障制度としては遺憾ながら急にイギリスのような完成したものにピヨンと飛び上るということはでき得ない、從つて第一歩、第一段的な社会保障から段々に進んで行かなければならんという意味から、アメリカは大体我が國に対しても、自分の國の社会保障制度、いまだ完成しておらない社会保障制度の、この程度で行つたらどうかということを勧告したのではないかと思つております。或る意味において日本の経済状態というものを非常に考慮された親切な勧告であるとも言えるわけでありまするが、これはまあ私共社会保障に首を突込んでおる者から見ますと理論的には甚だ食い足らないと言いますか残念に感ずるところがあるのでありますが、これはイギリスの大使館でも言つておられますように、我が國の今日あるは結局今まで三十年という社会保險の歴史が除々に発達して、初めて今日の完成した姿があるのであつて、一朝一夕に決してできたものではないということを盛んに言つておりますから、そういう意味から申しますならば、日本では健康保險が僅か二十年の歴史がありますが、その他の失業保險とか、労災とか、或いは厚生年金のごときは、短い年月しかないのでありますから、少くともイギリスのごとき三十年の歴史を持つ完成して脱皮した社会保障というものを、急にこれをそのまま受入れるということはやはり不可能なことではないかと思われますので、やはりアメリカ勧告しておりまする程度のものが非常に適当なのではないかと考えられます。  以上大体社会保障の基本的な理念の若干と、今回我が國が受取りました勧告書についての説明をよつと申上げました。五分間ばかり休まして頂きまして、現在世界の注目の的になつておりますイギリス社会保障内容を、持つて参りました写眞、その他を御覧願いながら御説明したいと思います。
  4. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 五分間ほど休憩いたします。    午前十一時十三分休憩    —————・—————    午前十一時二十五分開会
  5. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) 休憩前に引續き開会いたします。
  6. 内野仙一郎

    説明員内野仙一郎君) 先程お話申上げましたように、社会保障と申しますものが、社会保險社会扶助と申す二つ要素から成つておるものでありまする関係上、諸外國におきまする実例を眺めますると、社会保險を主にして社会保障というものを組み立てておる場合と、社会扶助というものを主にして社会保障を組み立てておるものと、大体二つの場合が眺められるのでございまするが、今ここにお話いたしましようとするイギリスの例は、どちらかと申しますと、社会保險の方を主として社会保障を組み立てておるかのごとくに見えます。  先ず内容に入りまするに先立ちまして、イギリス社会保障と申しますものの特徴と申しますか、性格と申しまするか、かようなものをちよつと列挙してお話申上げますると、第一に、これは資本主義下における社会政策として採られた社会保障であるということ、これはまあ当然のことでございまして、ソ連邦におきまする共産主義下におきまして社会政策が行われる場合とはおのずから性格が違つておるわけであります。而も又最近私が見ました或る資料によりますると、これは戰後の一時的対策であるとも傳えられておりまして、これが社会的不安が一應解消する見通しがついたならば、或いはどういう姿に変つて解消するか分りませんけれども、この社会保障制度というものは社会不安が一應落着いたならば罷めになるのではないかというふうにも考えられます。それから又、今申上げました資本主義下におけるこういつた社会政策である関係上商的色彩が濃厚であるということでございます。これは私の著書の一番最初に、イギリスの大使館の参事官の、名前を申上げるのは何でございますが、R氏としておいて頂きますが、R氏から伺つたところでは、大体保守党のチヤーチル氏が、社会党嫌いの自由党のビヴアリツヂ卿に命じて拵え上げた案であるということは深く念頭に置いて貰いたい、ということは、言葉を換えて言えば、社会的目的を持つたものが何故商的色彩を持つてはいけないのであろうか、即ち社会的目的を持つていながら而も國が資本家になつて数多い私立の保險会社の上にどつかり坐つていて何が惡いか、而もチヤリテイーなしにこういうことをやつていて何が惡いと言うのだというふうな話がありましたが、この社会保險と申しますものを歴史的に見ますると、或る國では國の事業、而も商賣的事業、日本で言つたならば專賣事業とでも申しましようか、そういつたものに該当するものと考えられており、又実行せられておつたところがあるのでありまするから、そういつた意味の商的色彩がイギリスの場合には多分であるということを言つておられます。これも御参考までに申上げて置きます。それから第二番目には、このイギリス社会保障制度と申しまするものが、保守党のときに案出せられ、今申上げましたチヤーチルがグリンウッド卿及びビヴァリッヂ卿、即ち自由党の人々に起案を命じまして拵えさせたのでありまするが、ですから保守党と自由党との合作である、かような社会政策的なことは本來から言うならば労働党当りが考え付き実行すべきところのものなのでありまするが、今申上げましたように保守党が主になつて考え出され而も法制化されてということでありまして、而もこれの実施に当りましては労働党が現在実施しておるわけであります。ここに幸い写眞を持つておりまするが、これが初代の國民保險相、國民保險保險は、國民はまあナショナルでございますが、保險はインシユランスの保險であります。ヘルスの方ではありません。ジェームス・グリィフィスという元坑夫上りの労働党の領袖でありますが、それが初代の社会保障関係の中の國民保險を扱う國民保險省の大臣になつたわけであります。一つ御回覧願いたいと思います。ですから三つの政党がそれぞれこの問題に関連しタッチしておるわけであります。この点非常に意味深いものがあると思われます。それからその次にはこれは先程も申上げましたが、大体が社会保險中心の社会保障である、社会保障の方が從になつておる、どちらかというと社会保障の方が從になつておる。これは三十年の歴史を持つておる社会保險が徐々に発達してここに到つたものであるという意味であります。それから最後に、四番目は金銭給付と現物給付が明らかに区別されたこと、それの所管は異つた省によつて取扱われておるということであります。即ち金銭給付とは今廻覧してございまする國民保險省、ナシヨナル・インシユーランス・ミニストリー、それから現物給付と申しまするものは主として医療関係でございまするが、医療藥剤関係でございまするが、これは同じ保健なんでございますが、字が違うのである、健康を保つという字でございますが、保健省が所管しております。保健省大臣は御存じのエー・ベヴァン氏であります。大体こういう特色のありまするがイギリスの保健省であります。こり説明に入りまする前に一つ外誌に出ておりまして漫画を二つばかり御覧に入れたり、お話したりしたいと思つておりますが、最初の漫画はお医者樣が数十人列を作つて並んでおつて施物のスープのようなものを飲まして貰つておる図が出ておりましたが、この飲ましておる老婆が即ちベヴアン保健相であります。ベヴアン保健相がお医者樣方に施しのスープを飲ましておるのであります。その施しのスープを飲まされたお医者さんはベッと唾を吐きまして、相変らずこれはまずいやと言つている図があるのでありまするが、これは從來の社会保障ができまする以前にありました從來のイギリス國民健康保險法によりまする医療の診療報酬が低かつたので非常に不満であつたのであります。ところが今回切替えられるところの社会保障によりまする診療報酬も又從前と余り変らないのであり、而も社会保障による公的性格を有する医療を優先的に実施しなければならないという義務を負わされたことに対する不満の現われを意味しておるのでありまして、相変らずまずいやというのはそういう意味であります。それからもう一つの漫画は幸いここに持つて來ておりますので、漫画などと申しますものは口で言つて意味ないので御覧下されば有難いと思いますが、これも御廻覧願いたいと思います。この画によりますと、子供が歯医者さんの椅子に腰を掛けておるわけで、その子供の前に歯医者さんが今抜いたばかりの歯をじつと見詰めております。そのお医者さんに向つて子供が曰く「おぢさんその歯は僕に返して貰えるの、もうそれは政府のものになつちやつたの。」ときいておるわけですが、これはどういう意味かと申しますと、申上げるまでもなく、全國民を無料医療でありますので、全部只でやつてもらうということになつております。而かも歯科診療は從前制度では原則は支給しておらなかつたのです。それを今度の社会保障制度によつて支給することになつたものですから國民にとつては異常なことであつたのでありまして、子供も勿論老人もすべて一切の者が無料の医療になるわけでありますから、歯の痛い子供が早速お医者さんのところに行つたとかで歯医者さんはなかなか大繁昌を來し歯医者さんが足らないということが今問題になつておるようですが、つまり全國民に対して非常に子供にまで強い印象を與えたという一つの漫画ではないかと思います。さてこの医療制度及び金銭給付イギリス社会保障は英國民が如何にこれを批判しておるかどう感じておるかと申しますると、大体國民はこれを非常に歓迎しておるかのように傳えられておりまして、一方お医者樣の方は非常にこれを好んでおらないということがいろいろの外誌に傳えられております。その中の二三を拾つてお話申しますると、先ず社会保障の現物給付におきまして鬘を無料で支給するということになつたのだそうであります。私共のように頭の毛の薄い者に取りまして甚だぴんと來る話でありまするが、一人の人に、禿で困つているような方には二つずつ支給するとかいうことで、これの、年に要します費用が八十万ドルでございますか、はつきり記憶しておりませんが、それくらいなので数十人の鬘師が非常に忙がしい思いをして拵えておるということが出ております。まあ鬘を貰つた人達は大変に喜んでおることでございましよう。実は法律を読んでみておりましたところでは鬘を支給するというようなことは私共には理解できなかつたのでありまして、実際には支給しておるということが最近のニュースか外説に載つておりますが、それから今申上げましたように從前なかつた歯科診療をやることになつたので、歯医者さんが非常に繁昌して國民は歯の惡いのが直して貰うというので大変に喜んでおる、それから今まで眼境がなかつたために新聞を読めなかつたという老婆が、今回の社会保障の現物給付で以て無料で眼鏡を配給して貰つたというので、初めて私はこの頃新聞が読めるようになつて嬉しくてしようがないということを言つておりますが、これなんかも面白い問題だと思います。それから又お産をします時に行届いた手当をして貰うことができて、大変喜んでいるということも國民の声として出ております。そこから又ここで供覽に入れまするが、耳の聞えない人のために、メデレスコという助聽器を無料で配付しております。この写眞などで見ましても、なかなかよくできているらしくて、恐らく今の日本の関に直しましたら一万円幸くもするのじやないかと思つております。こういうようなものも無坂で配給しますし、又耳の聽覚の工合では、年に数回調節を無料でやつて上げるということになつております。それからここに写眞がございまするが、これはやはり車の附いた病院だそうでありまして、非常に大きなトラックのようなものでございまするが、この中には看護婦さん、お医者さんがおりまして、医療関係、藥剤関係など、みんなやつて呉れるように聞いております。これもどうぞ……、というようなわけで、國民の方からは非常に好評を以て迎えられているように傳えられておりまするが、一方お医者さん方は非常に御不満でありまして、先ず三つの自由が冒涜されたというようなことを言つております。三つの自由と申しまするのは、自由と申します言葉は、御存じのように、英語で申上げますればフリーということでありますが、フリーという字は、又意味を換えますと、ただである。無料であるという意味にもなるのでありまするが、三つの自由の第一は、医療のフリー、つまり医療というものは無料で受けられる、全國民が無料で受けられている、これは当然社会保障になつてから無料で受けられるのでありまするから、問題になりませんが、後の二つのフリーは、お医者さんのフリーでありまして、お医者樣がこの社会保障事業に参與しようとしまいと、お医者さんの自由である、無理にこの社会保障医療を引受けなければならないという義務はない、それから最後のフリーは、投藥及び医療内容のフリーでありまして、お医者樣は、自分の患者に対しては、他人から如何なる制肘も受けないで、自由に治療できるという、このフリーでありますが、この二つのフリーが甚だ脅されたという点を強調しまして、反対しております。又或るお医者さんは、こういうふうにも言つております、一分間に六人の患者を見なければならないというようなことでは、高度の医療は保持できない、つまり医療内容が低下すると意味でありますが、これは今回の國民健康事業法という法律によりますると、一人のお医者樣は、最高四千人までの患者を自分の帳簿に書き入れる、その人たちの家庭医になるのである、從つて平均して、大体一人のお医者樣が二千人の患者について責任を負うことになつたわけであります。かようなわけで、お医者樣は、最後にかように言つております。我々は結局無理強いで、無理に強いられて、この社会保障医療を実行して、泣き寢入りになるか、或いは國外に移住するより外に手はないというようなことを極言しておる人もあります。從つて現在從事している保險医の九〇%は辞職するようなことになるのではあるまいかというような言葉を吐いております。  さてイギリス社会保障が大体どんなものであるかということについて、段々時間もございませんので、極く簡單に申上げますると、御存じの戰時、欧洲大戰時の末期でありました一九四二年の十一月に、有名なビヴァリッヂ計画というものが発表されました。このビヴァリッヂ卿と申しまするのは、社会保險の專門家でありまして、労働次官になられたこともありました。現在は官途には就いておられないで、政府の顧問役をしておられるということでありますが、このビヴァリッヂ計画と申しますものは、今回のイギリス社会保障の基礎になつているのでありますが、このビヴァリッヂ計画によりますると、全國民の六つの層に、種類に分類をしたのでございます。かようなことは、皆樣方、只今までいろいろな資料で御覽になつておられましようし、余りくどく申上げるのは避けますが、第一分類は、雇われて働く者、第二分類は、雇う者、或いは独立労働者、商人というような者がこれに入ります。第三分類は、主婦、妻であります。第四分類は、勧めていないが、労働年齢にある者、家庭における娘とか、或いは学生とかいう者はこれに入ります。第五分類は、小兒、子供、つまり労働年齢に達しない者、第六分類が老人という、六つの主な分類をいたしまして、これらの人々に金銭給付と現物給付を相当廣範囲に亘つて支給するものであります。勿論この分類が六つありまするが、給付は、全部が全部同じように支給されるのではなくて、少しむづかしい言葉を使いますると、類別性を保持しながら支給するというふうになつております。保險料は、右の分類の中第一分類、即ち雇われて働く者、それから第二分類の雇う者及び自営者、それから第四分類の労働年齢にあるが働いていない者、つまり娘とか学生というものの三分類だけから保險料を徴收しまして、第三分類の主婦と子供と老人からも掛金は取らないのであります。掛金は取らないけれども給付は受ける権利がある、保險料その他につきましては、時間もございませんので、参考資料を御覽願いたいと思います。現物給付の方はどういうものがありまするかと申しますると、今申上げましたように鬘をも支給するという程度でありますから、あとは推して知るべしというふうな行届いた医療給付が支給されております。即ち一般診療、專門医の治療、病院治療、サナトリューム收容、精神病院治療、家庭看護、母子保健サービス、藥剤、歯科、眼科、恢復期療養、免疫処置、眼鏡、治療材料というようなものが全部無料で支給されることになつております。但し今申上げましたように、お医者樣との関係が甚だ対立的であり、又イギリス医師会というものが甚だ強力な團体であるということは政府もよく知つておりますので、適当なアレンジメント、調整を行いまして、若しも病院で空いておる部屋があるならば、社会保障医療以外の治療、即ち個人的に要求する私の治療と申しますか、私治療といつたようなものに対しては取扱つてもよろしいということになつております。実はイギリス社会保障は最も発達し完成したものであるだけに、その内容を細かに申上げることになりますと、先ず二時間ぐらい頂戴しないと申上げかねまするので、甚だ摘み上げたような話のみ申上げることしかできなくて残念でありまするが、明日或いは時間がありますれば、イギリスのことを軽くお話し、あとイギリス社会保障の原案になつたところのニュージーランド、或いはソ連及びアメリカあたりお話の際に、イギリスのことももう少し細かにお話できれば幸いだと思つております。御清聽を煩わしまして有難うございました。
  7. 塚本重藏

    委員長塚本重藏君) それでは本日はこれを以て散会いたします。明日は十時から開くことにいたしたいと思います。    午前十一時五十五分散会  出席者は左の通り。    委員長     塚本 重藏君    理事            今泉 政喜君            谷口弥三郎君    委員            中平常太郎君            草葉 隆圓君            紅露 みつ君            井上なつゑ君            小杉 イ子君            穗積眞六郎君   説明員    厚生省保險局調    査員      内野仙一郎