○田中(織)委員 私は厚生
大臣に一点だけお伺いいたします。それは憲法の第十四條によりまして、「すべて國民は、法の下に平等であ
つて、人種、信條、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的
関係において、差別されない。」ということが明記されておるのでございまするが、今日全國におきましてなお三百万に上ると言われるいわゆる部落民が存在するのであります。私がなぜに新憲法下において、この部落民の問題について厚生
大臣の所信を伺いたいかと申しますると、この民主主義革命の途上においてまことに遺憾なことでございまするが、最近全國にひんぴんとしていわゆる差別事件が起
つておるのであります。ことに九月における廣島縣の高須村におきまする差別事件のごときは、何らのいわれもなきにかかわらず、二十数名の暴力團が差別的言辞を弄しながら、部落民に対しまして殺戮を加えておる事件があるのであります。また十月十五日には愛媛縣の宇和島市におきまして、同市の八幡神社の祭礼にからみまして、町の横山組という不良が、部落の
関係の——向うの
言葉でよいさと言いまするが、それはみこしにおともをする、いろいろな樂器を持つた一種のだしのようなものであります。この部落の人たちが率いるよいさを破壞いたしましたのみならず、このよいさ組に対しまして、これまた聞くにたえない差別的な言辞を弄して、部落民の憤激を挑発いたしました。部落民が自重して相手にならないと、これにからだをすりつけて來るというようなことから、たまりかねた青年と組打ちになりました。そのときに、組み敷かれた差別をした側の横山組の不良の一人が、道路の石で頭にかすり傷を負うたということが発端になりまして、二十数名の町の暴力團が、手にあるいは棍棒、拳銃、あるいはドス、まさかり等の凶器を持
つて、このよいさ組の部落民に対し襲撃を加えまして、そのために部落側から二名の死者と一名のけが人を出した。当時宇和島における事件は二つの問題が含まれておるのでありまして、第一回のいざこざが起つたときに、宇和島の警察から署長以下十数名の警察官が参りまして、一應不良を追つ拂つたわけであります。引続き一定の場所に集合いたしまして、再度の襲撃を企てておることを察知いたしましたので、警察署長に対して保護を要求したのでございますが、警察署長は責任をも
つて保護するということを確約しながら、旅所で休憩をして晝飯を食
つておる部落民に対しまして、再度凶器を持
つて二十数名の者が襲撃した場合には、その附近にあ
つて警戒しておつた警察官は、暴力團の襲撃とともにいち早く遁走いたしまして、そのために今申しました二名の死者と一名のけが人を出したのであります。保護を
約束しておつた警察側が逃げてしまつた。仲間の二名が即死する状態を見かねまして、附近にあつた棒くいを引拔きまして、やむを得ず部落民側が正当防衞に立ち向つたのでありますが、そのために暴力團側に二名の死者を出したという事件なのであります。これだけの問題を
考えてみまするならば、発端になりました差別的な言動だけが問題でありまするが、その後の警察並びに檢察廳の
取扱いにおきましても、私らの観点からいたしますならば、明らかに差別的な
取扱いがなされておるのであります。そのために五十数名にわたりますところの部落民を十日間以上も警察側が勾留をいたしまして、現在部落側からは十名の者が共同正犯による殺人並びに数人傷害として起訴、拘禁をせられておるのであります。一方暴力團側からも十名が同じく共同正犯によるところの殺人並びに殺人傷害として起訴せられておるのでございますが、正当防衞——たとい多少の過剰防衞であつたといたしましても、この事態を
考えてみまする場合には、当然部落民側、被害者側におきましては、いわゆる共同謀議による殺人の正犯というような
関係が成立しないことは、われわれのごとく
法律についての專門的な知識のない者でも明らかなところでありますが、警察並びに檢察廳におきましては、この暴力團に対する取締りを放任したのみならず、そのために被害を受けた部落民をそういうように彈圧しておる事実があるのであります。この事件のために、私の所属しておりまする部落解放全國委員会から人を派遣して実情を調査しておる間に、同じ愛媛縣下におきまして警察官の差別問題が起
つておるような始末でありまして、こうした暴力事件は、前申しましたように九月における廣島の高須村の事件といい、たび重な
つておるわけでございます。そのほか全國の各府縣におきまして、なおこの封建的な誤れる身分観念から來るところの差別事件がひんぴんとして起
つておるのでありますが、私は、われわれが敗戰によるとは言え、民主化の一途に向
つて驀進しておる折柄、こうした問題が起るということはきわめて遺憾であります。この問題は同時に憲法第十四條において保障せられました人権を侵害する問題であると
考えるのでありますが、厚生
大臣としてこれらのいわゆる部落民の差別問題あるいは部落民の経済的あるいは社会的
地位の向上等の諸問題につきまして、いかなる所信を持
つておられるか、またこれらの問題につきまして、厚生省として特にどういう対策をも
つて臨まれようとするか、その点について厚生
大臣の御所見を伺
つておきたいと思うのであります。