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中村寅太君 私は、
日本農民党を代表し、
吉田総理ほか所管大臣に対しまして、二、三の点について
質問をいたします。
昨年四月、極東
委員会において、
日本民族將來の繁栄と幸福に重大なる
関係を有し、
日本國將來のあり方を規定する重要問題が、決定されたのであります。すなわち、
日本の産業水準は一九三〇年より一九三四年の線を越えてはならぬという規定ができたのでありまして、当時全国民をして、暗い氣持と將來の不安に追い込んだのであります。
しかるに、今年三月、ジヨンストン米國
経済使節團とともに來朝したところのドレーパー陸軍次官は、もし
日本が軍需産業によらず、自力で一九三〇年から一九三四年、すなわち
昭和五年から
昭和九年の産業水準以上に達することができるならば、米國としては、
日本をこの水準にくぎづけにしておく意図はない、と言明しておるのであります。さらに、本年九月二十三日、極東
委員会において、パニユーシキン、ソ連代表は、その声明の中において、
日本將來の平和的産業水準について限界を設けるという要求は妥当ではないと
発表しておるのであります。すなわち、この限界を設けるということは、
日本国民にも諸
外國の利益にも合致しないということを、はつきり言
つております。
続いて翌二十五日、米國陸軍、國務両省は、
日本が
経済的、社会的、政治的により強固な基礎を確立できるように計画を考慮しておると言明しておるのであります。すなわち、
経済の面では貿易契約についての統制を緩和し、政治の面では対日管理を緩和して、
日本側に現在以上の
責任を持たせ、社会的の面におきましては
外國との文化
関係を促進させようとするものであります。
かくのごとく、米國並びにソ連において
日本復興援助の好意と熱意の高まりつつあるということは、
日本民族の將來に光を與えるものとして、われわれ歓喜にたえないのであります。武器を捨て、戦争を放棄し、ひたすら人類永遠の平和実現に奉仕せんと、たくましく出発いたしました
日本民族といたしましては、平和的産業の振興と翻民の文化
生活の向上を通じてのみ世界人類の繁栄と幸福に貢献することができるのであります。━━━━━これは單に
日本國州民の平和的繁栄のためのみならず、世界人類の福祉にも合致しないということは、米ソ代表の声明によ
つても明らかである。敗戰國たりといえども、世界人類永遠の中和を守り、これが実現への主張に際してはたとい戰勝國に対してといえども、断じて怯懦であ
つてはならぬと思うのであります。われわれは、この規定の撤回方を懇請すべきだと思うが、この点に対して首相の所見を承りたいのであります。
第二点は、
吉田総理は、首班指名選挙の際野党によ
つて投ぜられました二百数十票の白票は、それ自体が
内閣不信任を
意味するによ
つて、
政府はすみやかに衆議院を解散し、信を国民に問うと、しばしば言明せられたのであります。当時衆議院の解散は、憲法第六十九條による以外に解散の道なしという論と、憲法第七條により
政府に解散権ありという両論にわかれ、本議場においてはもちろん、新聞紙上等においても、しばしば論争せられたのでありますが、國民は、いずれに決するかと、重大関心をも
つて見守
つてお
つたのであります。しかるに、いかなる
理由なりしか、当初の言明を裏切り、
政府は早期解散を断行し得ず、今日に至
つておるのであります。憲法第七條による解散権は
政府になきもののように、國民の前には映
つているのでありますが、憲法の解釈は國民の前に明確でなければならぬ。
政府は、すみやかに憲法第七條による解散権の正当なる解釈を國民の前に明示すべきであると思います。さらに、憲法第七條による解散権が
政府になしといたしまするならば、今日衆議院の解散は、憲法第六十九條による以外に道がないということになる。
ここにおいて考えなければならない問題は、今日の議会の運営常態である。野党は、その多数によ
つて幾多の決議案を通過せしめ、これが実行を
政府に強要し続けて來た。しかるに
政府は、この重大なる院議を無規し、ほとんど決議案に対して何ら誠意を示さず、ただこれを見透
つている実情である。この際野党は、当然
不信任案をも
つて臨み、
政府をして総
辞職せしむるか、さもなくば衆議院の解散により國民の審判によ
つて黒白を決する以外には、健全なる議会運営はあり得ないのであります。しかるに、決議案は通過せしめ、
政府がこれを実行せずとも、野党に攻撃の迫力なく、解散を恐れ、
不信任案の
提出をなし得ず、荏苒日を送るがごとき、だらしない今日の
状態に接するとき、憲法第六十九條以外に解散の道なしとすれば、立法府の健全なる運用は期し得られるものではないと思うのであります。かくのごとき場合には、
政府は、国民投票によ
つて衆議院解散の可否を決するがごとき、新しき制度を確立する必要ありと考えるが、首相のこれに対する見解を明示せられたいのであります。
第三点は、最近における農村金融の行詰まりは実に重大なる段階に入
つたのであります。この春の作付ごろから急激なる資金難が農村を襲い、配給の肥料すら買えない農家が全國的に現われて來たのであります。
政府は、これを救済するために農業手形を案出したのでありますが、これは次の供出を目当としての代金の前渡しであ
つて、供出米の青田買いとも称すべき方法である。この方法では、供米を多くなし得るゆたかな
農民は恩典に浴するけれども、供出量の少き貧農層にあ
つては、この恩恵に浴することは、きわめて少いのである。
この農家の金詰まりはさらに
発展して、信用農業協同組合並びにその系統金融機関の資金難として現われて参
つたのであります。
政府は、これが打開策として、復金より四十億の融資を中金を通じて出すことにな
つて、そのうちの二十億が第三四半期分として農山漁村に貸し出されることに
なつた。しかしながら、今日の農漁村の金詰まりは、かくのごとき少額の金では燒け石に水で、何ら用をなさない程度のものである。しかるにもかかわらず、この二十数億が今にすら消化し切れずにおるという不可解な現象が起
つているのであります。
それはなぜかと申しますと貸出規定の繁雑さと、
関係官廳が多過ぎて、決定権はどこにあるのか判別し得ないような複雑な情勢にあるからであります。まず、金を借りるべく復金に行こうといたしますと、農林省に行
つて、わくをもら
つて來いということになる。農林省へ行
つて、局長や課長やあるいは係官をたずね、あるいは農林省の地方出張所をたずねるとか、復金の地方支所へも出向くというようなことで、幾たびも陳情を続けなければならぬ。その手続の繁雑なることには、実に驚かざるを得ないのであります。こうして順調に運んでも、手続開始後三、四箇月を要しなければ金は入手できないという実情である。この間に
物價は容赦なく
騰貴し、やがては資金計画に違算を生じ、計画がえのやむなきに至るという実情である。
政府は、すみやかにこの繁雑なる貸出機構と貸出規定を簡易化し、農業協同組合の保証ぐらいで百万や二百万の金は簡單に貸し出せるような制度をつくるべきである。さらに、この際融資力三百億ぐらいを有する農山漁村
復興金融機関を設置して、すみやかに農漁村金融の行詰まりを打開し、農漁民をして増産に専念せしむべきであると思う。
第四点といたしまして、今日三千万
農民共通の悲願は、粒々辛苦による農産物の
價格決定に際して
農民の正当なる主張を貫徹し得るように、生産者を主体とする
價格決定機関をすみやかに設置してもらいたいということであります。今までは、主張の貫徹どころか、発言権すら與えられてはいない。一方官公
労働者は、人事
委員会という強力なる國家機関によ
つて保護せられ、
給與審議会においても、
賃金決定にあた
つては発言の機会も與えられておる。一方農の場合は、米價を初め重要な農産物
價格の
審議決定が、一部官僚の秘密決定にゆだねられて、何ら生産者の意向すら取上げられないという実情、これを比べてみるとき、いかに
農民が不公平な立場に置かれているかということがわかる。
政府はすみやかに、生産者を主体として農産物
價格の決定機関をつくり、
農民の正当なる要求を受け入るべきであると思う。
第五点としまして、最近行われた農業調査によりますと、農家戸数は五百七十万戸から五百九十万戸へと増加いたしておるのであります。農家人口は三千四百万人から三千六百万人にと激増し、今後農村がこの厖大な人口を抱いてどう生きて行くべきかということは、
日本の重大な課題であると思う。この事実の反映として、
昭和五年には耕地一跡歩未満の農家戸数が六八%であ
つたものが、
昭和二十二年には七二%に増加し、急激に農業は零細化されたのであります。この零細化された
日本農業に対して、金融
資本や商工
資本よりの強力なる圧力が加えられたのであります。それは、公定
價格における農産物の供出
價格と、
農民に対する配給物資との
價格差の問題であります。やみ
價格の領域において
價格差が拡大しておるということは、もちろんでありますが、公定
價格の面においても、ひどく不利な
状態に置かれているのであります。
一例として、農産物の米と、農家購入物資の中の代表的なものとして肥料、すき、動力脱穀機の公定
價格指数をみますと、
昭和十四年をおのおの一〇〇といたしますときに、今年二月現在における米價四八九〇に対して、肥料が六三四入、すきに至りましては八二四〇となり、動力腕穀磯また七三五〇とな
つておる。かノのごとき
價格差による金融
資本、商工
資本の功妙なる攻撃と
農民よりの収奪は縫えず行われて、遂に
日本農業は貧困に追い込まれたのであります。この零細化され、貧困化された
日本農業は、現在のごとき原料生産農業にとまることなく、一刻も早く農業の多角化をはかり、経営形態を根本的にかえなければならなく
なつた。すなわち、原料生産農業より農産物の最終過程までの加工農業への飛躍と轉換こそが、唯一の
日本農業の生きる道であります。しかるに現状においは、農業は單なる原料生産に止まり、つくり出されたところの農産物は、ことごと(
資本家の搾取の対象となり、彼等の工場において加工されておる。今後は、農産物はことごとく
農民の手によ
つて加工せしめるごとく改めなければなりません。(
拍手)
しかるに、わが國機械工業の現賦におきましては、早急に工場設備を整えることは困難であります。そこで、各種公園が持
つておるところの加工場はもちろん、
一般資本家の手にあるところの」切、農産物加工場を、すみやかにこの際
農民に開放することが、私は第一であると思う。(
拍手)これを各級農業協同組合に譲渡されることが早急解決の道であり、これによ
つてのみ零細化され、貧困化されたるところの
日本農業の再建と
復興とがあり得ると思うのであります。(
拍手)これを実行せんといたしまするときには、猛烈な財閥
資本の反撃を受けることは覚悟しなければなりません。
資本主義政党を基盤とする現
政府においては、幾多困難が横たわると思いますが、断固これを実行して
日本農業を救済するの熱意と誠意を有するやいなや、周東農政の抱負を大胆率直に披瀝せられんことを、ここに要求いたす者であります。
これをもちまして私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
國務大臣林讓治君
登壇〕