○大原博夫君 私は、
社会革新党を代表いたしまして、
冷靜にまた公平な
立場に立
つて若干の質問を行いたいと思います。
まず第一に解散問題についてでありますが、私はこの問題について、いささか研究をいたしまして結論を得たのであります。
法律的解釈も、また七條による解散を認めている学者に対する反駁も、実際から見た解散についても同意ができたのでありまして、第三回
國会において、これに関する緊急質問を申し出て、お許しを得ておつたのでありますが、遂にその
機会を得ませんでした。今度のこの
機会にと存じましたが、時間を長くとりますから、これを一切差控えたいと思います。しかし
憲法の解釈は、
憲法を制定した
國会みずからが論議を盡して決定すべきであります。しかるに本議場においては、いまだ論議が盡されておりません。今回の解散については、野党三派と
政府との間に、不信任案
提出によ
つて解散を行うとの協定が成立しておりますが、これは一時的の妥協であ
つて、
憲法の根本的解釈ではありません。この際私は、第七條によ
つて内閣に單独の解散権はないということを確信をいたしておるものであります。ついては、二、三の点だけを質問するにとどめたいと思います。
総理大臣は、
憲法第七條によ
つて内閣に解散権ありとの御解釈でありますか、これをまずお伺いいたしたいのであります。本議場において、原
議員の質問に対して吉田
総理は、
政府は第何條で解散するとも声明したことはないと答弁をしておられます。参議院においては、内村氏の質問に対して、第七條による解散ができることは学者の通説であると答弁しておられるのであります。私は、学者の意見でなく、
総理大臣の御意見として御
見解をただしたいのであります。今日に至りまして、はつきりした御
見解がないとは思わないのでありますから、どうぞ御答弁をお願いいたします。
内閣の
政治責任でいつでも解散ができるということになると、
國民の
選挙した代表者からな
つているところの國権の最高機関である
國会の機能をいつでも停止させ、衆議院
議員の権利をいつでも剥奪することができるのでありまして、一種のクーデタであります。しからば、
國会は國権の最高機関でも何でもなくな
つて、最高権力は実に
内閣にあることになるのであります。これは新
憲法の精神に反することであります。また、解散の権限が天皇にあり、かつ非民主的であるといわれておつた旧
憲法よりも、
首相を
國会が指名する民主
憲法といわれる新
憲法の
内閣の方が、比較にならない強い権力を持つことになるのであります。これもまた
憲法の精神でないと思います。私は、
内閣は
國会の下部機関であるとも認めませんが、今
内閣に廣い解散権を許し、
内閣がこれを惡用し、濫用するときには、
内閣総理大臣は実に独裁権を有する結果となると思うのであります。新
憲法の精神は、断じてかかることを許さないと思います。民主
國家建設の任務を負う
國会が第一に心がくべきことは、いかなる理由によ
つても、
一つの独裁権を許してはならないということであります。
吉田首相の御
演説や御答弁を靜かに聞いて考えますことは、
吉田首相の
憲法常道によ
つて、総
選挙後において第一党の総裁を指名するとなると、絶対過半数の場合は
関係はございませんが、比較多数の第一党であつた場合、他の
政党の氏名投票は形式的投票と見なければなりません。そのときに第一党の総裁が指名されても、やはり、ただいまの通り
少数党内閣であります。これでは
議会の
運営がうまく行かないというので、
首相の今までのお考えによれば、
少数党内閣であるがゆえに再度解散するおつもりでありますか。また多数党
内閣が倒れて、
首相の御持論の
ように在野第一党の総裁を指名するとすると、しかる場合には、また
少数党内閣であります。今度の
吉田内閣の
ように、しやにむに解散を断行することが憲政の常道であるとせられますか。かくのごときは、その煩にたえないであろうと私は思います。私は、
総理の指名を受けるべき
立場におかれておる人が、
総理指名の主導権を握るのはいい、そうしてこの
内閣の組織に着手し、この人は、政策を示して他党の協力を求め、多数をも
つて総理の指名を受ける、これが当然と思うのであります。万一、今回の場合の
ように少数で指名を受けた場合には、第一、
議会に信任を問い、否決された場合には初めて辞職するかまたは解散すべきであると思うのであります。これが憲政の常道とすべきであると思うのでありますが、この
内閣の
ように、
吉田首相の
憲政常道論は、どうも私には理解ができません。かかる場合には、いかにいたすべきであるか、
吉田首相の御
見解をはつきりと承りたいと思うのであります。
今の
機会には
信用がない、解散をしてやり直すべしとの議論もある
ようでありまするが、何度解散をいたしましても、解散によ
つて議会粛正の目的を達し得るとは私は思いません。何となれば、
議会政治の腐敗の原因中最も大なるものは、実にひんぴんたる解散にあるのであります。
議会を権威あるものにするためには、
議員が年中解散を苦にすることなく、おちついて
審議のできる
ように、ある程度の地位の安定を與えなければなりません。しからざれば、
議員は年中
選挙運動に沒頭いたしまして、
議会政治の最大欠陥であるところの、いたずらに
國民の歓心を買う煽動
政治に陷るでありまし
よう。いよいよ
政治を困難にいたしまして、國のために、まことに悲しむべきことであります。そうして、正しい、りつぱな人物は漸次減少し、今後二、三回も毎年解散を行いますならば、おそらく
議会からその影をひそめるでありまし
よう。しかして、種々の意味の、あるいはボスか、あるいはやみ成金か、資本價の手先か、ないしは
時代思想をつかむ官僚をも
つて議会を埋めるであろうと思います。私は、解散はなるべく避けて行くべきであ
つて、むやみに解散権をを
内閣に與うべきにあらずと考えておるのでありまするが、
首相の御
見解をただします。
次に、
経済関係について質問をいたします。
首相の
演説におきましても、また
安本長官の
演説におきましても、
施政方針として何らの特色を示しておりません。
安本長官の
演説を檢討してみますと、
取引高税の撤廃は、廃止する根本方針にかわりはないといい、供出後の自由販賣については、その時期は考慮中といい、
生鮮食料品の
統制の廃止及び料飲店再開については、その時期方法を考慮中と述べておられるのであります。
演説だけ聞きましたのでは、何党の
安本長官の
演説であるか、区別が困難であります。
取引高税は、われわれは最初から反対したのでありますが、これに
賛成をせられた前
内閣の
與党三派の方といえども、今日では、これを廃止するという根本方針は、おそらく持たれてるのであろうと思います。
生鮮食料品の
統制の廃止や、大衆料飲店再開についても、その時期方法を考慮中であろうと思うのであります。
從つて、これらの問題は、何党といえども大した
異議のないところであ
つて、その時期方法について考究中であることが実情であろうと思うのであります。要は、これらの問題が問題となるのは、これらの問題の即時断行を迫
つて國会開会を
要求した
政党が
内閣をとつたのであるから、すでに今日において、ただちに断行し得るやいなやにあると思うのであります。大藏大臣の
演説の
ように、今日に至
つてもなお根本方針にかわりがなかつたり、その時期と方法を考慮中であつたりしたのでは、問題はほとんど價値を失
つておる。勝負はすでにあつたものと私は思うのであります。(
拍手)
また大藏大臣は、不必要と考える
統制は思い切
つて廃止する。他方
國民経済と
復興とに欠くことのできない基本的な
統制はむしろ強化する、と述べられておるのであります。一昨日、予算
委員会において、いかなるものの
統制を解き、いかなるものが
統制を強化されますか、再三押してお尋ねをしたところが、愼重考究中であるということを一歩も出ません。野菜の話も出ましたが、これも明白にな
つてはおりません。意地惡く聞いたのではないのであります。それでは何の
統制をはずすのであるか、まつたく確信のない御
演説であつたと申さなければならぬのであります。今年中にやるという名にとらわれまして、三月に廃止するとかしないとかいうのでありますが、むりやりに三月にやろうとされれば、どうしてもむりを犯すものであります。小さい面子にとらわれて、むりをしないで、來年度の予算で廃止すべきであると私は思います。私は、そうしたむりをしないで、まじめに國政に当
つてもらいたいと思うのであります。
また、
統制の解き得るものは
統制を解いて行くことには
賛成でありますが、現在
日本には、
統制経済は必要であり、避けることはできないのであります。この
統制のわくの中にあ
つて、
自由経済の働く余地は十分にあると思います。
日本の全
企業の九五%は中小工業であります。これらの中小工業に
生産意欲をかり立てて働いてもらわなければならぬのであります。この
統制のわくにあ
つて、現
内閣は
自由経済の
立場から、いかなる施策によ
つてインフレを収束せしむるお考えでありますか。
生産第一主義であると連日拜聽いたしました。それ
一つによ
つて収束はできるものではございませんし、インフレ政策に対する一連の総合施策を伺いたいのであります。
生産第一主義は、まことにけつこうでございます。しかし、中小
企業の困
つておるのは、資材難と金融難と重税であります。資材と金があれば、
生産は十分上るのでありまして、ことさら
生産第一主義でなくても、その成績は上るのであります。
從つて、
生産第一主義は資材と金融とを十分にしてやるということでなければならぬのであります。また
現実として、資材はどうして多く與え得るつもりであるか。また、中小
企業の資材を獲得するために、金融は第三・四半期において六十七、八億円をどうしても必要とするのであるが、年末を含めて二十五億円を融通するというのであります。二十五億円では、年末の破産を辛うじて防ぐにとどまるというにすぎないのでありますが、これではたして
生産を期待し得るでありまし
ようか。それをもつと多く融通する意思がないか、この辺をお伺いいたしたいのであります。
企業整備をすると言われるのでありますが、これも時期的ずれが必ず來ると思うが、どうであるか。これをどう調整するつもりであるか。また
賃金三
原則の適用は
生産増強と逆行することになりはしないか。考えるまでもなく、
生産第一主義は各方面で突き当るという
状態であります。以上の観点に立
つて、
政府の施策に関し、できるだけ具体的の御答弁をお願いいたします。
また、ただいま三木氏の質問に対しまして大藏大臣は、價格補給金は今後出さない方針であるということであります。現に追加予算に出ておるのでありますが、少し理解に苦しむのであります。ついでに、この眞意をお伺いいたしたいと思います。(
拍手)
日本は、輸出の振興なくして、
経済の再建はもとより、維持もして行けません。
日本人が生きて行き、漸次
生活をゆたかにして行く道は、輸出振興のほかにございません。昨年の輸出実績は一億七千四百万円で、今年の前半期は昨年のそれに劣りまして、今年中の全体も、あるいは昨年のそれを多く出ないと予想せられるのでありますが、これは幾多の原因のあることはわか
つております。いかなる原因があるにいたしましても、他國の製品よりも、より安いよい品物を
生産しなくてはならないのであります。近く
外國の工業も
復興し、過剰
生産の
時代もまた來るのでありまし
よう。いよいよ
日本の輸出が困難となるのであります。
從つて、これに対應する準備がなければならないのであります。
経済安定本部の新政策として、標準爲替レートを創定して、國際的
経済の観点から、來年四月を期して全面的物價改訂を
実施し、同時に
賃金安定策を断行して、物價と
賃金の同時安定をはかると傳えられておるのでありますが、中小
企業家は、その成行きを心配しておりますので、その構想の大体でもよいから承
つておきたいと思うのであります。
これはなかなか困難な問題であると思います。三
原則や
企業整備、あるいは標準爲替レートを
基礎とする物價改訂、この一連の政策によ
つて、当分
生産も澁滯をして來ると思うのであります。少々澁滯いたしましても、これを断行すべきでありますが、
生産第一主義という甘い言葉とは、当分距離ができると思うのであります。輸出の異常なる高進の道は、机上の
計画ではできません。そろばんでは、はじき出せないのであります。
計画のからを破
つて膨張するためには、
企業家のはち切れる
ような創意くふうによらなければならないのであります。安價でいいものをつくることに期待する以外に道はないのであります。ここに
自由経済の生きる道がある。すなわち、大きな
計画経済のわくがある。
企業の面によ
つて創意くふうに大きな期待をかけなければならないのであります。それには、中小
企業家に手腕を振う余地を與えなければならぬ。資材もろくに與えず、金融もつけず、税は取上げて、どうして
生産増強ができるかと言いたいのであります。これに対しまして、現
内閣はいかなる構想を持
つておられるか。いかなる
対策を立てておられるか。これをお伺いしたいのであります。
日本では、農業といい、漁業といい、工業といい、ことごとく小
企業であります。われわれの
協同社会主義は、こうした小
企業や勤労者の
基盤の上に立
つておるのであります。すなわち、
統制経済の大きなわくの中にあ
つて、小
企業家の
生産意欲を高め、その文化や
生活をゆたかにすることであります。そうして
國家再建に
努力し
ようとするのであります。しかし、何と申しましても小
企業家は弱い。インフレの波にも弱いが、デフレの波にも弱いのである。農業、漁業、一般
企業それぞれ
協同組合をつく
つて、お互いに相助け合うのでありますが、いまだ弱いのであります。この
協同組合をもり立ててやらなければならないのであります。発足したばかりのこの
協同組合は、國庫の助成をまたなければならないと思います。これに対する
政府の御所見をただしたいのであります。
大藏大臣は、去る四日の
施政方針の
演説において、赤字融資とか價格差補給金の交付による
企業赤字の負担など
企業の
経済性、自主性と相矛盾する
ような処置はこれをとらないと言明をされました。また金融政策は健全金融を建前として、いわゆる赤字金融は一切これを行わない方針で進むと述べられておるのであります。当然のことであります。しかるに、同じ
演説の後段におきましては、しかし現在各方面で悩んでいる金詰りの実情は十分に認識し、金融に一層の彈力性を與えたいものとくふうしている、とあるのであります。これは前後矛盾しておるのでありまして、解釈に苦しんでおりますから、その眞意を確かめておきたいと思うのであります。
別のところにおきまして、特に中小
企業及び農漁村金融の円滑化には格別の措置を講じたいと述べておられます。本日の議場においても、そういう答弁があつたのでありますが、これは当然の処置と思うのであるが、一昨日予算
委員会で、大藏大臣は、米價を
引上げたから、現在農村に対する金融措置は考えていないと答弁されているのであります、これはどうしたことでありますか。
施政方針演説とまつたく相反しておるのである。一体いかなるお考えであるか、またいかなる御処置を講ずるお考えであるか、これを具体的にお答えを願いたいのである。
また、新
給與について一口お尋ねしてみますが、新
給與は、公務員法の性格によ
つて、われわれは公務員の
生活を保障しなければならない
立場にあると思うのでありますが、この点に関しましても、予算
委員会において増田
労働大臣は、他の地域においては
政府提案の
給與で
生活できるのであるが、特地においては多少の赤字が出るかもしれないと答弁しておられた。また大藏大臣も、赤字なしに
生活できるとは、どうも保証ができないとしておられるのでありますが、初めから赤字の出ると予想される
ような
給與は公務員法と抵触しないか。この点もお尋ねしてみたいと思います。
現在、
日本のインフレを助長するものは何かといいますと、莫大な予算である。
國民をして重税に苦悩せしめるものは何か、莫大な予算である。インフレの進行を食いとめる手近な道は何か、予算の緊縮である。
國民負担軽減の道は何か、予算の緊縮であります。今日インフレーションを収束し、
國民負担の軽減をはかり、
國民生活を安定するものは、予算の緊縮であります。わが党は、去る七月、二十三年度予算の
審議に際しまして、予算の二割天引きを
主張いたしたのも、この理由であります。いま
一つ並行して行うべき道は、物價や
賃金の凹凸を一旦是正いたしまして、次で一律に五分あるいは一割と引下げることである。これはフランスの行つた道であります。明年四月から
実施されるという、國際的
経済観点から物價改訂や
賃金統制で合理的に低物價に改訂せられるならばよろしいのでございますが、しからざる限り、これを行うべきであると思うのであります。これに対する
政府の御意見を伺いたいと思います。
政府は、三
原則に基き
企業の合理化を強調し、赤字融資をしないと言
つているが、歴代の
政府は、追加予算また追加予算で、予算上で、赤字の融資を
國民の負担においてや
つているのであります。
政府は、
國民の要望なりとして、あちらに少し、こちらに少し歳出を増加しては、予算の膨張をさせているのである。今日までのやり方は、予算を水ぶくれさしてはインフレーションを高進させ、予算額を上げても、その効率は下
つておるのである。行政整理は、まことにけつこうである。しかし、緊縮は行政整理だけでは小さいです。
政府の経費を削減し、一般の事業費も削減すべきであります。
政府全体にわた
つて合理化しなければなりません。この
國会は、來年度の予算を
審議する
國会である。來年度の予算において、少なくとも本年の予算の二割ないし三割を削減し、そして減税を断行して
國民負担を軽減し、再
生産を高めなければならないと思うのであります。緊縮いたしますならば、事業もかえ
つて効率をあげることができる。同じ
賃金でも、インフレを圧縮してやれば、
生活を樂にすることができる。
取引高税を廃止するのも、緊縮によ
つて廃止することができるのであります。
取引高税を廃止するかわりに、さらに惡税を新設することは、何らの意識もなく、ただ名目にこだわるだけであります。
政府は思い切
つて予算の緊縮をせられんことを要望いたします。
七日の本
会議において、岩本國務相は、五十七、八万の、相当思い切つた人員整理を自信をも
つて発表せられ、また同日参議院で、内村氏の質問に対して増田
労働大臣は、なるべく血の出ない行政整理をすると言
つておられるのであります。配置轉換によ
つて、出血なしに多量の人員整理ができますならば、この上ないことでありますが、なかなか困難な事情であると思うのであります。こうした大きな公約は、断然断行せられんことを大いに期待するものであります。
政府は、この行政整理は断行するところの決意は十分であります。また、行政整理のほかに予算の大削減の意思がありますか、これをお伺いをいたします。
最後に、農村問題について質問を試みてみたいと思います。農村は、今や轉落の一途をたど
つているということができるのであります。
経済安定本部の統計を見ましても、一昨年、
昭和二十一年六月の新円は、農村は五一・八%を占め、昨年の六月には二八・五%になり、今年六月は二〇・一%に現じているのでありまして、十二月現在では、おそらくその半分以下にな
つておりまし
よう。さらに、同じく農業
経済調査によりますれば、農家の総収入から総支出を差引いた剩余金は、一昨年すなわち二十一年は四千九百二十八円であつたものが、二十二年には、一挙にして七千二百六十七円の赤字とな
つているのであります。さらに今年は、肥料購入の代金もなくして、農業手形になつたことも、明らかなことであります。かかる現象は何がゆえに起つたかということは、言うまでもなく農家
必需物資のはなはだ高いこと、農産物價格の安いこと、課税の過重であることであります。大体この三つが原因でありまして、小農業では、インフレーションの波が乗り切れないのであります。
政府の調査によりますと、今年は、農家一戸当り平均所得は六万四千円、税金は一万四百円、残り五万三千六百円でありますが、
政府の調査の中には、都市近郊の農家も入
つておりまし
よう。柑橘その他の特殊農家も入
つておりまし
よう。一般農村には、
政府調査の一戸当り平均六万四千円は、見積りが不当であります。百歩譲
つて、
政府の調査が正しいとしても、税を引いて五万三千六百円は、公務員の家庭のごとく、これがそのまま
生活費に充てられるのではないのであります。これをも
つて、次の
生産のために
物資購入の元手とするのであります。これで、農家の
生活がどうして支えられるでありまし
よう。今日までは、預金を引出して赤字
生活をや
つて参りました。過重な税金も、ごむりごもつともと拂うて來たのでありますが。もういけないのであります。淳朴な農民が、滯納をめぐ
つて、農村において紛争を巻き起しているのも、このためであります。
そもそも農業所得税が不当である。
政府当局は、農業所得の見積りがいかに不当であるかということを、御存じでありまし
ようか。公務員の
生活と、税をしぼり取られている農民の
生活と、どちらが樂をし、ぜいたくをしておるか。彼らは、ぜいたくをしないで、きわめて切り詰めておるのであります。それでも、農家は何
といつても金がかからない
といつているのでありますが、
生活に金がかからないどころではない。今日では、全國至るところ、物價は同じであります。
税務署の所得算定の方法は、柿の木一本あれば千円、自家用蔬菜畑が一畝あれば千円、鶏が二羽おれば、毎日卵一箇を生むものと見て月に三百円、一年三千六百円、小やぎを買
つて來れば、半年を経れば一日五合と見て、半年四千五百円、一年九千円という見方をしているのであります。いずれも自家用であ
つて、純農村では、賣るにも賣れないのであります。当局では、これは所得税として当然の見方である
といつている
ようでありますが、しからば、都会
生活者の柿の木から税をと
つておるか。また鶏を飼育する者が多いのでありますが、税をと
つておるか、はなはだ多い内職から税をと
つておるか。これらは捕捉しがたいと言うでありまし
ようあ、そこであります。
今日は捕捉しやすいものから税はとられておる。収入の捕捉しやすい農家は坪刈りをしたり、脱穀に立会つたりまでして供出させられ、税がとられておる。これが、重税に泣く農民の姿であります。今年は、申告納税による更正決定、さらに追加予算による追加更正決定の負担であります。これは、いわゆる公務員の年末調整であります。この調整に泣くでありまし
よう。公務員は、年末調整の手段も講ぜられるでありまし
ようが、農民には、年末調整もなく、越年
資金もないのであります。この農民を長く苦境に置くことはできないと思うのであります。
政府は、こういう農民の窮状を知
つておられるでありまし
ようか。農業所得の算定にあた
つて、その所得の中から、再
生産に必要な額だけは、少くとも税の対象から除外すべきであります。果樹あるいは蔬菜、僅少の鶏などは、実際において自家用のものであるから、金は生れて來ないのであります。こうした金の生れて來ないものから徴税することは、ひどすぎると思うのでありますが、農林大臣の御所見を伺いたいのであります。
また農林大臣は、農村の
課税軽減について大藏大臣と交渉中であると答弁しておられる
ようでありますが、そのお考えはいかなるものでありますか。その経過はどうであるか、お知らせをお願いいたします。
また農村は、來るべき農村恐慌におびえております。今日の農村は、來るべき危機に耐え得ないことは、言うまでもございません。
政府は、農村恐慌に対していかなる観察をしておられるのか、その
対策をいかに立てておられるのか、お伺いいたしたいのであります。
私は、農村恐慌の第一の
対策は、農産物の供出制度を改善して、これを維持することであります。その價格は、一般物價とにらみ合せて、公正なる價格にきめることであります。農民は供出制度をきら
つておるが、これは供出制度のうちの
機構や規則が惡いのでありまして、これを改善すれば、供出制度そのものが惡いのではない。これを
自由経済の組織に移しますときには、きわめて近い
將來において、農村は徹底的にたたきつけられるでありまし
よう。
將來は、供出制度を單に食糧政策から生まれて來るところの一政策と考えてはならないと思うのであります。この点につきまして農林大臣の御所見を伺うのであります。
第二の
対策といたしましては、農業
協同組合をしてそれぞれ適当なる農村工業を起させることであります。工業のない農業
協同組合は、農村恐慌を乗り切る力はございません、農村恐慌の救済策として、
將來多額の費用を要することを思えば、單に融資するということでなくして、これを奬励し、大いに助成すべきであると思うのである。
政府は、來年度の予算から相当額を計上して農村工業を助成するお考えはございませんか。
私は、現
内閣必ずしも
保守反動とも言わないのでありますが、思想の大きな川の流れを、堰堤を築いて防ごうとしておられるのではないかと思うて、不安であるのであります。小さい川の流れでも、堰堤で防ぎ止めることはできないのであります。川が大きければ大きいだけ、一箇所に激流を起こさせない
ように、あちらに曲げ、こちらに曲げて、これを海に流さなくてはならないのであります。私は、この解散によ
つて、勤労
階級とまつたく対立すると思うのであります。こうした眞正面の激突を誘発することは、
日本の悲劇であると思うので、大いに考慮せられまして、
國家を安全に導かれたいことを要請いたしまして、私の質問を終ります。(
拍手)
〔
國務大臣吉田茂君
登壇〕