○苫米地義三君 私は、民主党を代表いたしまして、
総理大臣の
施政方針演説に対する若干の質問をいたしたいと存じます。質問の中には、原君の質問とやや重複する点があるかもしれませんが、この点は、
國民全体が質問したいという意味のことだと思いますから、その点に対してもお答え願いたいと思います。
去る四日に行われました
首相の
施政方針演説を拝聴いたしますると、その多くは組閣以來の経過報告のような
感じがありまして、今日の重大な
政局を背負
つて立たれる
総理大臣の國政管理に対する高邁な抱負経論を聞くことができなか
つたことは、原君同様、
國民とともに深く失望せざるを得ないところであります。(
拍手)そこで私は、まず第一に、
首相の唱えられるところの健全なる
民主政治ということについて、その御
信念を伺いたいと思うのであります。
現
内閣は、成立以來すでに二箇月、その唱うるところの
民主政治なるものの
審議を見ますに、第三
國会におきましては、
國会の傳統的慣習でありまするところの
総理大臣の
施政方針演説を、院議をも
つて要求いたしましたにもかかわらず、これを行わなか
つたことは、まことに遺憾千万にたえません。それは、組閣当初において声明されました、いわゆる健全なる
民主政治の確立にも反し、また吉田
首相が言われました。正しき
憲法上の慣習をつくりたいということに対しましても、言行の不一致であるということを示すものであるといわねばなりません。また、
公務員法改正案の
審議につきましては、いわれなく期限を付して議院の
審議権を抑制せんとし、あるいは議員の質問に対する
答弁ぶりは、はなはだしく誠意を欠くのうらみがありまして、これをも
つて健全なる
民主政治の
あり方とは思われないのであります。(
拍手)
さらにまた
総理は、第三
國会は
芦田内閣の召集せるものであ
つて、
公務員法及びその
関係法規のみを
審議する
國会だと申されますが、民主自由党は、去る九月二十二日、百三十名の連署をも
つて、成規の手続により、臨時
國会を十月一日に召集すべき旨
政府に要求したではありませんか。しかして、その
審議法案としては、國家
公務員法の
改正案並びに取引高税廃止法案の二件を
國会開会と同時に
提出するという要求でありました。すなわち、第三
國会は
芦田内閣自身が召集しないでも、
民自党の要求によ
つて当然召集されてお
つたはずであります。しかるに、その要求した
國会に
提案を公約したところの取引高税廃止法案は、遂にその姿を見せず、
政府も
與党も恬然として顧みざるは、はたして
民主政治の
責任ある
態度というべきでありましようか。
今や、
日本の
民主化は世界監視のもとにあ
つて、その成長に対しては各國の関心事であることは、想像に難くないのであります。ことに、わが國はすでに戦争放棄を宣言し、國際信義に依頼して平和國家を建設することを立國の基本としたのでありまして、
民主政治の健全なる確立こそ、信を内外に傳して、復興再建を促進する唯一の道であると存じます。しかるに
政府は、口に健全なる
民主政治を唱えながら、その行うところ、はなはだしくこれに反するのうらみがあります。
吉田内閣の成立するや、國際的輿論は、
首相の弁解にもかかわらず、必ずしも好評ではなか
つた。(
拍手)むしろ、
日本の右翼化を警戒し、
民主化の前途に危惧の批判さえ行われたのでありますが、組閣以來の
政治運行が、ややともすれば、これを裏書きするごとき印章を與えることは、海外援助を仰ぐべき立場にあるわが國としては、まことに悲しむべきことであると存じます。私は
吉田総理に対しまして、切にその反省を求むるとともに、
民主政治実行に対する
首相の
信念を伺いたいと存じます。
第二に、
労働政策について
労働大臣に伺いたいと存じます。
政府は、
経済復興と
國民の奮起とを求められておりますが、これはまことに願わしい事柄であります。しかし
経済の復興は、敗戦後のわが國においては、し
かく容旨なものではありません。健全なる財政金融の方針を堅持しながら、あらゆる悪
條件を克服いたしまして、
生産復興を第一義とせねばならないのでありますが、これがためには、
労働者の
勤労意欲を高掲いたしまして、その能率化をはかり、資本、経営、技術とともに
一体協力の成果を収むるのでなければならないのであります。それについては、どうして
労働者の
生活安定と
向上の機会と希望とを與えねばならないのであります。ところが、現在、
政府職員の新
給與はなお未解決のままとな
つており、また民間にあ
つては、電氣、炭鉱の二大事業を初め、所在に資金闘争をめぐ
つて生産の停頓を見つつあることは、御同様すこぶる憂慮すべき
状態にあると存じます。
前
内閣は、
経済十
原則の不可分性にかんがみまして、その重要項目たる資金安定策を策定し、食糧増配の時期をとらえてこれを実施せんと企図したのでありますが、現
内閣は、この好機を逸しまして、無為無策に経過することすでに二箇月、民間企業の賃金は野放しとな
つて漸増の一途をたどり、ひいては企業の不安定を招き、物價を高からしめ、インフレーションを促進する傾向が顕著とな
つておるのであります。
政府は、賃金安定策について、どういうような具体策を持
つておらるるか、伺いたいのであります。
また今日の
労働は、旧
資本主義時代のごとく、單なる商品的資金に満足するものではない。企業における
労働は、資本、経営、技術とともに平等の要素として取扱わるべきであり、資本に対し従属的立場に置かるべきではないのであります。從
つて企業利益は、もはや
資本家の独占に帰すべきでなく、また從來のごとき恩恵的賞與の形式でもなく、実に
労働の
権利として利潤分配にあずかるべき段階に進んでおると思うのであります。現に戦争以來、欧米各國においては、この傾向が非常に顕著でありまして、新
資本主義または修正
資本主義の名のもとに、近代世界
経済学界の一転機となりつつあることは、皆さん御承知の通りでありましよう。
政府は、この点に対しまして、
労働政策上また企業経営上いかなる見解をと
つておられますか、この点を伺いたいと思います。
さらにまた
首相は、
行政整理、企業の合理化を断行すると
言つておられますが、それによ
つて生ずる失業者群に対し、いかなる
措置をとらんとするのかであるか。その
施策に明確を欠くのみならず、今
提案中の
追加予算案にも何らこれに対應する
措置を講じておらないことは明らかであります。この点に対しましても、
政府の対策を伺いたいと存じます。
第三点は、物價改訂の必要を認むるやいなやの問題であります。
政府は、賃金安定策の策定を怠り、自然放任の
状態を続けておるが、その結果といたしまして、資金は漸増の傾向をたど
つております。企業の赤字と物價の高騰は、もはや免れざる
状態にあると存じます。
政府は、赤字金融を認むるか、物價改訂を余儀なくせしめらるるか、両者そのいずれかを選ばなければならない段階にあると存じます。もし、このまま無為にして推移するならば、企業は萎縮して
生産は減退し、産業界に思わざる混乱を招來して、
政府の企図する
生産第一
主義は崩壊する結果となるのでありましよう。(
拍手)
政府は、現在の産業
経済界の実情に照しまして、物價の再改訂に迫られておるのではありませんか。これを明確にお答え願いたい。
また、
政府今日の無策なる
態度よりいたしますれば、やがては財政面とからんで、運賃、通信料金の値上げをも余儀なくせらるると思われますが、
政府は、これらに対して、どういうふうにお
考えになりますか。因循姑息の
態度は、かえ
つて経済復興を妨げ、インフレーションを助長するにすぎません。
政府は、周囲の
事情に制約されておるように思いますが、この際敢行すべき
経済政策を誤ることのないように希望してやまないものであります。
第四点は、農業
政策に関しまして農業大臣の御意見を伺いたい。わが國の農業問題は、もとより多種多様でありまして、これに対する
施策の要すべきものがすこぶる多いのであります。しかして、今私は食糧自給度の増強に対する所見を述べ、
政府の所信をただしたいと存ずるのであります。終戦以來、われわれは、アメリカの好意と援助によ
つて、幸いにも
生活上わずかに事なきを得ておるのでありますが、深く國際
関係の前途及びわが國の輸出力を考察する時、食糧の國内自給度を高むるの必要はきわめて大切なることを痛感するのであります。
由來、わが國の農業
政策は、主として、農業行政の面に重きを置いて、
生産の科学的経営を促進するの
施策に貧しか
つたのは確かであります。食糧の不足は、國内
生産を二割増加することによ
つて完全に解決されるのであります。すなわち、わが國の食糧問題は、この二割の増産が可能であるか不可能であるかの問題であります。しかるに、実際農業の
現実を精査すれば、旧態依然たる慣行農業が多いのでありまして、普通農家と篤農家とは、耕地を隣接して二、三割の
生産を異にする事実は、見のがすことが出來ないのであります。耕地の開拓拡張はもとよりつひようでありますが、既耕地の土地改良と耕土の利用度を高め、水利と水温調整、種子の厳選、肥料の施用法、耕作技術の浸透等科学的経営の全面的実施によ
つて、食糧増産をきわめて容易に、きわめて迅速に達成し得ることは、十分見込みがあると私は存ずるのであります。(
拍手)
政府はよろしく、農業技術の滲透と科学的経営の普及に対して官民の技術者を動員し、全國的一大運動を起すとともに、必要なる
施策を敢行すべきであると思うのであります。これに対し、農林大臣の所見を伺いたい。
なお、わが國農業は天災地異によ
つて年々思わざる被害をこうむり、農家の営々たる努力も一朝にして壊滅し去るの運命的
現実を見るのであります。
かくのごとき不可抗力な天災は、実に國家の災害であ
つて、農家個人の負担となすべきではない。先年農業保険
制度を設けて、これが救済を講じておるけれども、これは共済組合の範囲を出てないのであ
つて、不徹底きわまるものであります。
政府は、農業保険に対し、さらにその範囲を廣め、その負担を公正ならしむべきであります。さらにまた、災害地の復旧工事の促進は実に刻下の急務であります。
政府は、補正予算において、一般災害対策費として六十億円を計上しておりますが、
かくのごとき、少額をも
つてしては、どうてい復旧の
目的を達せざるのみらず、姑息なる復旧対策は再び災害を繰返すに過ぎません。
政府はよろしく財源を求めて、災害対策費を増額すべきであると思います。この点に対して農林大臣の意見を伺いたいと思います。
第五は、統制と自由との限界に関する問題であります。
政府は、在
野党時代に主張する
経済政策は、すなわち自由
経済を基準として、あくまでも戦前の
経済状態に復帰せしめんとするにあると思われます。その意味においてか、
民自党は、現在なお統制撤廃を叫び、自由放任を要求しているように思います。われわれもまた、
資本主義を基調とし、新自由
主義を主張する立場においては、おおむねこれに同調することができるのでありますが、しかしながら、戦後における世界
経済の進路は、もはや十九世紀的
資本主義時代の姿に帰るものではありません。社会
主義理論でさへ修正せざるを得ない趨勢にあることは、欧米並びにソ連の
経済学説の推移を見ても明らかであります。
この点において、わが
日本國憲法は、ひとり
政治上の民主革命のみを意味するばかりでなく、基本的人権の確立とともに、
経済体系のの
あり方をもその中に明示されておることは確かであります。すなわちわれわれは、自由と
権利との保障によ
つて利益幸福の追求と財産権の保護とを受くるのでありますが、これは、いずれも公共の福祉という社会的公益性に拘束されるのであ
つて、從來のごとき無制限の
目的や
権利は認められないのであります。すなわち、
資本主義といい自由
主義というは、ことごとくこの社会性に拘束されるきでありまするから、わが國の
経済形態は、もはや戦前の
状態に復帰することができないのであります。ここに修正
資本主義の本質があり、社会化自由
主義の論拠があるのであります。
首相は、この厳然たる時代の変化を認められるやいなや、この点を
首相に伺いたい。
しかるに、固随なる自由
主義者
たちは、あくまでもこれも新
憲法前の自由
経済時代に復帰するものと思い込み、わが國現在の環境と諸条件とを
認識することなく、単に即時統制撤廃を叫び、自由放任を強調することは、いたずらに一部
國民を迷わすのみであ
つて、
経済復帰を阻害するものであると思うのであります。戦争によ
つて産業
経済力を極度に破壊され、今なお過小
生産の苦悩時代におきまして、みだりに統制を撤廃し自由放任にまかすことは、
たちまち
経済秩序を乱し、消費の正常を失いまして、ひいて
國民生活に重大な悪影響を招來することは、明々白々であると思います。(
拍手)さればこそ
政府は、一たび
責任の地位に立つや、
在野時代に主張せる料飲店即時再開、生鮮食料品の統制即時撤廃、取引高税廃止法案の即時
提案、米麦出後の自由販賣等が実行不可能なるに陥り、また統制の大幅緩和のごときも、組閣以來二箇月に至るも何一つ実行できないではありませんか。(
拍手)むしろ前
内閣の時代に、この冬にはいりまして栗炭、薪類の統制をはずしたるに反しまして、現
内閣は、かえ
つてたどん、ガラ炭を統制するの皮肉なる現象を見るに至
つたのであります。
これ等の痛烈なる
政治体験によ
つて、
在野時代の
主義主張が
現実に即應せざることが明らかと
なつた以上、
政府はよろしく、そのあやまちを正しこれを
國民の前に勇敢に反省し、一大轉換をなすべきであると思います。しかるに
政府は、しいてその非を歪曲し、これを隠蔽せんとするがごとき卑劣なる
態度は、まことに惜しむべきであると私は思います。いわんや
國会解散を利用してこれが暴露を逃避せんとするがごときは、これこそ吉田
首相の言う党利党略の策にあらずして何であるかと言わざるを得ない。(
拍手)
最後に私は、
政治形態の問題について重ねて
首相に伺いたいと存じます。吉田
首相は、平素二大
政党論を説いておられます。われわれもまた、今後時至れば、穏健なる二大
政党が互いに相練ましながら國政運用の衝に当ることを望みます。しかしながら、われわれの言う二大
政党とは、右翼保守党と左翼急進党の二者ではない。極端なる左右両翼の
主義者を排除し、
日本國憲法の眞髄を把握したる
現実政治に忠実なるものでなければなりません。すなわち、そこには社会
政策を多分に主張する
政党と、自由
主義を多分に主張する
政党とが、
憲法のわく内において、おのおのその具体的
政策を練りながら、國家の進運と
國民の幸福のために
責任ある
政治を行うところに、二大
政党の妙味があると思うのであります。(
拍手)
世間ややもすれば、戰前の自由
主義時代をあこがれまして、再び帰らざる夢を追わんとする者、また未來永遠に実現不可能なる夢を描いて、いたずらに
現状を打破せんとする者、いずれもこれは戰後の思想混乱時代に醸成せらるる現象でありますが、
かくのごとき両極端の二大
政党であ
つてはならない。われわれは、新
憲法の抱く崇高なる
理想を目標とし、
民主化、社会化精神を把握しつつ、個人の尊重と自由の廣汎なる
権利を活用して、公共の福祉と個人の幸福とのために適切なる
政治を行わねばならぬと思います。われわれの唱うる中道
政治とは、すなわちこれを指すものでありまして、これは新しい世界に共通する
政治の
あり方であり、この道こそ眞に救國の大道であると確信するものであります。(
拍手)
なお私は、
憲法上のよき慣習をつけるという
首相の言明に関連いたしましてお尋ねしたい。この点は、原君が先に触れた点でありすまが、重ねて私からお伺いしたいので、御
答弁を願いたいと思います。すなわち
首相は、総
選挙の結果第一党たる地位を占むる場合においては、当然
内閣を組織すべきであると言われておるのであります。ところが、第一党となり、首班
選挙に当選いたしましても、
國会に
與党が多数を占むることができない場合には、むしろ組閣を断念すべきであ
つて、強行すべきでないと思うのであります。そうでなければ、現
内閣のごとく、いたずらに
解散を繰返すことにすぎないこととなり、
政局は不安定を続けて、國政は澁滞するのみであると思うのであります。すなわち
内閣は、常に
國会に多数の支持を得て
政局担当の任に当ることを常道とすべきだと思います。(
拍手)特に今日の
日本は、振古未曽有の難関に遭遇し、いたずらに政争を事として祖國の再建を妨げてはならない。われわれは、あくまでも挙國的協力をも
つてこの難関を突破し、輝かしき平和國家の基礎を築かなければなりません。このことは、実にわれわれが祖先に対し、また子孫に対する重大なる責務であると信ずるものであります。この点に対しましても、
首相の御意見を承りたいと思います。
私の質問は、これをも
つて終りといたします。(
拍手)
〔
國務大臣吉田茂君
登場〕