○
猪俣委員 私も
安田修正案には反対いたします。その
理由は、われわれは理想を追求しながら現実を省みて、新しい
刑事訴訟法を決定したのでありまするから、これは現行法よりもよりいいものであるといたしまして
賛成いたしたものでありまするから、その実行の一日も早からんことをこいねごうことは
安田氏に讓るものではないのであります。しかしながら、この現実を凝視せずして、ただ理想を追いますと、この現実が理想を反撃いたしまして、理想がくずれるということは、われわれの生活体驗から明らかなことであります。この
刑事訴訟法はいいものではありますけれ
ども、一月一日からの
実施につきましては、偽らざるところ、
裁判所においても
檢察当局においても、初めから御自信がなか
つたということは言い得ると思います。われわれもいわゆる当事者訴訟主義をと
つておりまして、名目のみ美しくして実が伴わないことになりましてはいけませんので、弁護士の実務についている人々の
意見を徴しましたが、やはり
実施につきましては一應の疑念を持
つているのであります。そこでかような現実の認識から出発いたしまして、この施行法につきましてはわれわれは論議をしたのでありまして、四月一日まで延ばしてもらいたいという意向があ
つたのでありまするが、その筋との折衝によりまして不可能であるということに相なり、ようやくにして
公訴の
提起という線でこれを食い止めたというのが現実でありまして、実はこの施行法につきましては、
公判期日をも
つてするか、訴訟の
提起をも
つてするかということが中心課題でありまして、熱心なる
討論がこの
委員会で継続せられ、なおその筋にも熱心に働きかけまして、いろいろな事情を勘考いたしまして、最後に
公訴の
提起をも
つてするということに結着したのであります。今これが改めて
安田委員によ
つて提出せられましたが、
安田委員は
委員会開会中かような御
意見はなか
つた。
民主党を代表されまして、中村俊夫君もわれわれの
意見に同調せられ、これを決定したのであります。今突如として
民主党に反対があるからということでこの
提案をされたということは、私
どもとしては時機遅しの感あるのみならず、実際問題としてもむりがある。これをむりに通しましても、ただ形のみ美しくして実がそれに伴わないということで、かえ
つて人権保護に欠くるところが起るのじやないかという、われわれの老婆心もあるのであります。こいねがわくば
安田委員もこの点を了とせられ、
社会党は進歩的政党であるからして、これに率先
賛成せられることを求められましたが、進歩的政党はまた決して現実を忘れる政党ではなく、大地に足を踏みしめて進むべき政党であるという
意味におきまして、実際その衝に当られる弁護士及び
裁判所、
檢察廳のざつくばらんなる実状をお聞きした上で、最後のわれわれの線としてここまでとどま
つたのであります。この
意味におきまして、私は
原案に
賛成いたしまして、
安田修正案には反対であります。