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日高政府委員 ただいま
お話のございました
邦樂の問題につきましては、
学校長の
小宮豊隆氏から本
委員会の
委員の皆様に対して、
邦樂の問題についてという表題で、十月か十一月ごろの
雜誌「
世界」に
発表いたしました
論文を拔き
刷りにいたしまして、お目にかけてあるはずだと存じております。この問題は非常に微妙な問題でありまして、私
ども門外漢が勝手に
結論を下すということには、非常な
危險を伴いますので、私
どももいろいろな
陳情や
議論を聞きながら、愼重に事を処したいというふうに
考えてお
つたのでありますが、ただ私
どもは
日本音樂については、
ずぶの
しろうとでありましてよくわかりませんし、
西洋音樂についても聞きかじりでありまして、大した
理解もございませんので、いずれを正しいとか、いずれを正しくないとかということは、
簡單に言えないと思
つているのでありますが、私の見ましたところでは、
小宮氏は
日本音樂に対しては相当
理解もあり、また造詣もある方のように存じております。これは
うわさでありますから確実ではありませんけれ
ども、若い時分に
娘義太夫に凝
つたことがあるとか、それから御本人は相当自信を持
つた長唄のお師匠さん格の人であるというようなことも聞いたことがあります。これはむろん
しろうとですから、あるいは
專門家から見たらな
つていないのかもしれませんけれ
ども、しかし人の
うわさによりますと、こういうものをかなり長いことや
つておられるという話を聞いておりますし、また
旧劇の
批評等にも長いこと携わ
つておりますので、
從つて旧劇に含まれている
日本音樂等についても、十分な鑑賞も
理解も持
つておられるようであります。
日本音樂並びに一般日本の
藝術の
秘傳の
研究とか、あるいは勘の
研究とかというようなことについても、独自の
見解を持
つておられるのでありまして、そういう点では決して單なる
ずぶの
しろうとと見るわけに行かない点もあるかと、私
ども思つているのであります。六月に
藝術大学の
音樂部についての案を持
つて見えましたときに、
先ほど申しました
邦樂の問題というような論議の一端を、私
どもは聞かされたのでありまして、それについては、なるほどとうなずけるところもありましたので、
学校側の計画が特に不穏当でない限りは、
文部省としてはすなおに受ける
態度をと
つておりましたので、これも比較的すなおに
受取つておいたのであります。ただ私
どもとしては多少不案内の点もありますので、私の友人の
音樂理論家等につきましても、
小宮氏の
言つた趣旨を述べまして聞いてみたのでありますが、
宮小さんの言われることは
理論がないとは言えない。
根拠は十分にあると思うというような
意見も聞いておりましたので、私
どもも幾分安心して
受取つてお
つたわけであります。その後
邦樂科の
卒業生たちが
文部省へ参りまして、
邦樂が度外視されたことは遺憾にたえないということでいろいろ
議論がありました。私は
邦樂科の
学生及び
卒業生が、
邦樂の問題について熱意を持
つて來ることはもつともであるけれ
ども、しかしそのことについては
教授諸君がもつと
教授会でも
つて十分な
発言をして、
学校長の
参考に資するようにする必要があるのではないか、ということを申したのであります。一方
小宮校長にも会いまして、
学校側の
意見というものは、できるだけ
教授諸君の
意見を総合したものとして、さしつかえない限り
デモクラチツクに
結論を進められるように、お勧めいたしておいたわけであります。その後今年の秋に
小宮校長が不慮のけがをいたしまして、一月ほど
学校を休んでおりましたので、その後の樣子は聞いておりませんが、数日前に
音樂学校の
邦樂科の
先生方が來られまして、
小宮校長と
自分たちとは、
邦樂の問題について
意見が相いれないからして、
自分たちはやめて初志を貫徹するつもりである、という
お話があ
つたわけであります。私
どもとしてはどういういきさつがあ
つて、こういう事態に立ち至
つたかにつきましては、
学校側の報告をまだ聞いておりませんので、
決定的な
判断を申し上げることはできないのでありますけれ
ども、ともかく現在おります
生徒諸君をどういうふうに処置するかということについては、
学校側も
責任がございますし、
文部省も
責任を感じますので、なるべくならばこのことが穏当に運ぶようにいたしたいと
考えているわけであります。ただ
藝術大学の構想の中に
日本音樂が全然ないわけではないのでありまして、私
どもの知
つている限りにおきましては、
音樂研究所というものを設けて、
日本音樂の
調査や
研究をすると同時に、
校長の話によりますと、その中で
教育的なコースも設けていいのであるということを
言つてお
つたのであります。私はここに
両者の
意見の
一致点があるのではないかと思いまして、その点を
両者で十分檢討してもらうように実は頼んであるのでありますが、その結果をまだ聞くに至
つておりません。今後もこの点については十分考慮いたしまして、
一般の
人たちの十分な
支持を得たような
方向に進めたいと、
考えているわけであります。ただ
先ほどお話のありましたような、
日本音樂は自滅の
必然性を持
つているとか、あるいは
発展性がないとかいうことは、どういう所で
小宮校長が言
つたか存じませんけれ
ども、私が聞きましたところでは、このままの
やり方では
発展性がないのだ。それで一
應西洋音樂の
理論を学んで、新しい精神をも
つて日本音樂を立て直さなければならない。
民族音樂というような、
民族の血を現わすような
音樂が、
日本の
將來には期待されなければならないのだけれ
ども、それを生み出すためには、一應從來の傳統的な
方針を改めて、新しい
方針で出発し直さなければならないということを、
小宮校長が私に申していたことは
はつきり記憶しておりますし、
小宮校長もおそらくそういうふうに
考えているのではないかと
考えるのであります。私は
音樂のことはよくわかりませんので、
自分がいくらか
教育を受けました方面で思うのでありますが、たとえば
哲学をやるのに、ヨーロツパの
哲学を十分学んで、その
組織や
研究の方法を身につけて、
日本人としての新しい
哲学を立てることが、本格的の修業であるというようなことを、われわれの教わりました
西田博士などはよく
言つておられましたので、あるいは
小宮校長の
意図もそういうところにあるのではないかと思います。こういう点で
小宮校長は
日本の
音樂を愛惜する心がないとか、あるいは自滅すべきものであるから、もう
大学教育の内容にはならないのだというふうには、おそらく
言つていないのではないかと私は推察するのであります。
小宮校長は、
自分はこのことについては十分
考えて苦慮した上のことであるから、もし
機会があるならば
國会議員の前でも、
自分の
意見を述べさしてもらいたいということを、私には二、三度申したことがございますが、そういう
機会は
簡單には得られないから、あなたの主張を何か書きものにでもして、お目にかけたらどうかということを申したのが、この
邦樂問題という
論文が皆樣のお手に届いたかと思いますが、そのきつかけだと思うのであります。この問題は
局外者あるいは
專門でない者が、
專門のことにつきましてほかの観点から
簡單に
結論を下すことは、相当むずかしいのでありまして、
文部省としましてもいろいろ
見解を持
つている人もありまして、どういうふうに裁決いたすのが適当であるかには、苦慮いたしておるのでありますけれ
ども、常識的に申しまして、事の
決定が
デモクラチツクに運んで、すべてとは行かなくても多数の人の
支持を得るような
解決点に、到達いたしたいと
考えている次第であります。
なお今度の辞職の問題につきましては、
学校長の方から
はつきりした情報を得ておりませんので、それをよく聞きました上で善処いたしたいと存じております。